大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・30『潜入・3・鏡』

2022-12-12 16:01:26 | 小説3

くノ一その一今のうち

30『潜入・3・鏡』 

 

 

 一分近くたっただろう、屋根裏の闇に慣れてきて、柱や梁の木目まで分かるようになってきた。

 南北の破風に風通しの桟があって、そこからホンノリと外の光が入って来る。

 月夜でもなかったので、篝火や常夜灯の類の照り返しだろう。二つ三つの壁や屋根に反射したあとの、ごく弱い光だから、常人では暗視スコープでも無ければ見えないだろう。

 あ…………鏡だ。

 駆け出しの忍者なら、そこに人が居たと思うだろう。

 薄明かりの中に、自分と同じく蹲踞の姿勢で気配を消している人影が見えたのだ。

 駆け出しなら、狼狽えて呼吸を乱す。甚だしい場合は、物音をたててしまって気取られてしまうだろう。

 いちど崩れてしまうと、忍者も人の子、簡単に追い詰められて虫けらのように殺されてしまう。

 そういう忍者対策の簡単な道具が鏡なのだ。古い鏡台などの鏡を置いておくだけでいい。

 念のために周囲を見渡すと、斜め後ろにも鏡。斜め後姿のわたしのお尻が映っている。

―― 闇の中なら、わたしも少しは可愛いか ――

 女子の可愛さ、美しさは、造作の問題だけではない。第一にフォルムだ、普通に言えばプロポーション。

 その点、わたしは悪くない。まあやの代役が務まっているいるんだからな、悪いはずはない。

 中三の夏、電車で痴漢に遭った。尻をもむ手が前にまわってきたので、勢いよく顔を向けてやった。

 至近距離で顔を向けられ、痴漢は「ヒッ!」と、猿のような悲鳴をあげてのけぞって、後ろの手すりに思い切り頭をぶつけて悶絶した。

 目いっぱい白目をむいて、口には吸血鬼の八重歯のブス顔、それも死後三時間ぐらいの真っ青だったからゾンビに見えたかもしれない。

「そりゃあ、大人しく被害者になっときゃ、慰謝料が取れたのに」

 お祖母ちゃんは残念がって、アハハと笑ってごまかしたけど、被害者を演ずるんだったら、もう少し可愛い子でなくっちゃと尻込みする自分が居たのかもしれない。

 まあやに出会った後なら、多分被害者を演じていたと思う。

 フフフ フフフフ

 

 え?

 

 鏡の中のわたしが笑った。

 しまった!

 思った時には、左右を二人のわたしに挟まれた!

「ソノッチの妄想はすごいなあ」

 わたしに化けた社長が好色そうな目をして言う。

「こんな顔だったのかなあ」

「も、もう!」

 嫁持ちさんは、白目むいて吸血鬼の八重歯付けてるし。

「てっきり鏡だと思ってましたよ(`_´)」

 鏡だと思ってしまったのは、呼吸や気配までわたしに化けていたからだ。一本やられてしまった。

「じゃあ、かかるぞ。王子がパニクルようなら、当身を食らわせ静かにさせたところで運び出す」

「社長、これを使いましょう」

 嫁持ちさんが懐から出したのはお線香だ。

「それなら、儂も持ってる。寺だから、あちこちに線香があるからな」

 なるほど、これでニオイからも誤魔化されたわけか。

「じゃあ、屋根伝いに忍び込みますか?」

「西側の破風から行け」

「社長は?」

「表の見張りを対策してから入る」

「表から、堂々とですか?」

「ああ、バッチリだ」

 

 パパン パン パパン

 

 銃声!? 

 

 方角は、この寺院の食堂(じきどう)の方角だ。

 これが開始の合図なのは、社長の目の色で分かる。

 

 わたし達は次の行動に移った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・51『 了 』

2022-12-12 07:12:23 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

51『 了 』  

 

 

 

 案の定、明くる日には電話があった。

 バーコードではなく、校長直々の電話だった。

『先生の責任感と硬い御決意には感服いたしました……』

 以下、延々十分にわたり言語明瞭意味不明の、とても言い訳とは思えない「喜び」のこもった『送る言葉』を聞かされた。送別会は丁重に断り、退職に関わる書類などの遣り取りも郵送で済ませてもらえるように、電話を代わった事務長と話しをつけた。

 峰岸クンに電話をした。

 クラブの後始末を頼み、ちょびっと、わたしの裏事情に関わることを聞いたが、とぼけられた。

 代わりに一呼吸おいて、バーコードとの会話を録音していたことを告げられた。

『これを公表させてください。全てが解決します』

「罠だってことは分かっていたの。こうでもしなきゃ、責任もとらせてもらえないもの」

『先生の責任じゃ……』

「小田先輩とのことは濡れ衣。でもね、潤香とまどかを命の危険に晒したことはわたしの落ち度。火事のこともね」

 その後、峰崎クンは一言二言ねばったけれど、わたしの決心が硬いことを知ると、飲み込んでくれた。

 ただ、わたしの退職が決まったその日のうちに、替わりの講師がやってきたことをトドメに言われた時は、一瞬血圧が上がった。

 さすが峰崎クン、ツボは心得ている。

 しかし、わたしの心の凝りは、それで解れるほど生やさしいものではなかった。

 これでも、まだ、どうしてわたしが易々と罠にかかりにいったか。不思議に思う人がいるかもしれない。

 それには、こう答えておくわ。

―― こうでもしないと、わたしは責任を取ることさえさせてもらえなかった ――

 ……なぜ、そうなのか。それは言えません。

 結果的には、命の次に……いいえ、命以上に大切な乃木高演劇部を捨てたか分からないという人がいるかもしれない。

 好きだからこそ捨てた。乃木高演劇部は私の所有物じゃない。気障な言い方だけど、乃木高演劇部は神の居ます神殿のようなもの。わたしは、それを預かる神官に過ぎない。六年前わたしは山阪先生という神官から、それを預かった。

 もし、乃木高演劇部という神殿に神が居ますなら、たとえ神官が代わろうとも、いつか必ず復活する。貴崎マリという神官がいる間は、前任の山阪先生の時とは全く異なる色に染め上げた。しかし、どんな色に染まろうと、神が居ます限り、それは乃木高演劇部であるはず。


 その神官は、わたしの予想を遙かに超えて早く現れた。神殿を閉じたその時に。


 その後継者を峰岸クンから知らされ、正直わたしは……ズッコケた。

 なんと、その神官……という自覚も無い後継者は、一年生の仲まどかと二人の部員。

 唖然、呆然、わたしが密かに名付け、本人たちもそう自覚してはばからない憚らないタヨリナ三人組……。

 しかし、ズッコケながらも感じていた。

 仲まどかという神官は案外ホンモノかもしれない。

 だから、この新生乃木高演劇部に手を貸すべきかという峰岸クンの当然すぎる申し出に、こう答えておいた。

「否(いな)」

 ただ、わたしの中には、まだ迷いがあった。

 本当の神官は芹沢潤香かもしれない。しかし潤香は意識不明の闇を彷徨っている。とりあえずは見守っているしかない。わたしはすでに神官ではない……それだけははっきりしていたから。

 昨日、理事長からスマホに写真が送られてきた。

―― この子たちは、こんなに大きな『幸せの黄色いハンカチ』を掲げて待っております ――

 泣かせるコメントが付いていた。

―― この子たちが待っているのは「神」です。この子たちは神官です。そして、わたしは神殿を出てしまった元神官にすぎません ――

 わたしは、そう返事しておいた。

 折り返しご返事が返ってきた。

―― 了 ――

 電信文には、この一文字だけが書かれていた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母

 

 

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