大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 97『今日の胡旋舞には角が無い』

2022-12-11 16:09:50 | ノベル2

ら 信長転生記

97『今日の胡旋舞には角が無い』織部 

 

 

 ルンルルル ルンルルル ルルルル  ルンルルル ルンルルル ルルルル……

 

 今日の胡旋舞には角が無い。

 皆虎の広場で踊っている時は、せわしく激しいステップで、リュドミラ自身がスティックになってドラムを叩くような感じになる。

 じっさい、演奏の太鼓は、そういう音をさせているので、タンタタタ タンタタタ タタタタと、いっそう激しい感じになる。

 それが、今日のリュドミラは、赤十字募金の赤い羽根が風に舞っているように軽やかで、優しい。

 

「今日はお年寄りのお客様が多いせいかもしれませんねえ……」

 

 客足が一段落して、広場に出てきた大橋(だいきょう)が静かに感心する。

「そうですね……不思議ですね、演奏はいつもの南楽坊なのに……いや、演奏も優しくなっている」

「南楽坊は宮廷楽士の子弟の子たちです。宮廷楽士は、その場の空気に合わせて音を変えますから、劉度(リュドミラ)さんの変化にも巧みについていくのでしょう」

 パサージュの広場だから、人は自由に行き来していて、全ての客が足を止めて聴いているわけではない。

 立ち見を入れて二百ほどの客は買い物するのも忘れて、胡旋舞に見入っている。

 

 パシャパシャ パシャパシャパシャ……あちこちでスマホやカメラのシャッターを切る音がする。

 

 最初は、シャッターチャンスを心得た客が多いと思ったが……ちょっと違う。

「越後屋さんも気づいたみたいね」

「ええ、シャッターが切られるのを予感して、視線を変えている」

 リュドミラは本来スナイパーだ。標的の動きや息遣いに合わせて最適なタイミングで引き金を引く。最適なタイミング……おそらくは、数秒先の標的の動きを読んで、そこに照準を定めている。引き金を引いて、弾が飛び出し、標的に命中するまでには微妙なタイムラグがある。そのスナイパーとしての感性が役に立っているんだ。

「天性の踊子ね劉度さんは……見込んだだけのことはあります……あら、あの子は?」

 年配の客が多い中に混じって写真を撮っている少年がいる。

 お客たちの合間を縫って、犬ころのように走り回って、せわしくシャッターを切っている。

 

 やがて、イベントタイムが終わると、犬ころは流れ始めた買い物客を躱しながら、こちらにやってきた。

 

「コウちゃん、すごい踊り子さんを見つけてきたね!」

「ああ、やっぱり孫権だ!」

 え、孫権!?

「踊り子さん撮るのはいいけど、オッサンたちに混じって、あやしいアングルとかで撮っちゃダメだからね」

「そんなことはしないよ」

「どうだかぁ、こないだは長江の畔で隠し撮りをしていでしょうが?」

「え、近衛の誰かがしゃべった!?」

「ううん、わたしの侍女が小耳にはさんできたのよ」

「アハハ、コウちゃんも地獄耳だね(^_^;)。ま、それは置いておいて、僕にも紹介してよ。こちら、踊り子さんのマネージャーさんなんでしょ?」

「また、半端な情報仕入れてきてぇ。こちらは、扶桑の商人で越後屋さん」

「初めまして、コウちゃん……いえ、大橋姉さんの義弟の孫権です。よろしく(^▽^)/」

「ということは……呉王孫策さまの?」

「はい、でも、お気楽にチュウボウと呼んでください、じっさい中学生ですしね。越後屋さんは……スキモノですよね(ー_ー)」

「孫権、失礼ですよ!」

「もう、コウちゃんもしらばっくれてぇ、こちらは数寄者で有名な、扶桑は転生学院高校の古田織部さま」

「あ、ちょ!?」

 とっさに孫権を庇って、アーケードのガラス天井を見上げる。

 案の定、リュドミラがガラス天井に腹ばいになってモーゼルミリタリー・カービンを構えていた……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・50『 罠 』

2022-12-11 07:18:38 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

50『 罠 』  

 

 

 罠だとは分かっていた。


 理事長に会った明くる日、バーコードに呼び出された放課後の校長室。

 普通教室まる一つ分のスペースには、校長用の大きな机と、指導要録なんかの重要書類の入った金庫。それに、応接セットを置いても半分のスペースが残る。そこには大きなテーブルが十数個の肘掛け付き椅子を従えて鎮座している。運営委員会など、学校の重要な小会議が開けるようになっている。

 校長や教頭が保護者や教師に「折り入っての話し」をする時にも使われる。

 バーコードは、その折り入ってのカタチでわたしを呼び出した。

「失礼します」

 ノックと同時に声をかける。ややマナー違反だが構わないだろう。

「どうぞ」

 返事と同時にドアを開けた。

 バーコードは、わざとらしく観葉植物のゴムの木に水なんかやっていた。観葉植物の鉢の受け皿には、五分目ほども水が溜まっている。 

 罠にかける緊張から、水をやりすぎていることにも気づかない。分かりやすい小心者だ。

「いやあ、お忙しいところすみませんなあ」

 バーコードは鷹揚に応接のソファーを示した。

 バーコードが座ったのは、いつも校長が座る東側のソファー。背後の壁には歴代校長のとりすました肖像画や写真が並んでいる。バーコードが、初代校長と同じポーズで座っているのがおかしかった。

「実は、この度の件、早く決着させておこうと思いましてね。いや、今回の度重なる事故は、先生の責任ではないことは重々承知しております。校長さんも気の毒に思っておいでです。今日は校長会で直接お話できないので、くれぐれも宜しくとのことでした」

「緊急の校長会なんですね。定例は奇数月の最終土曜……来週三十日が定例ですよね」

「え……あ、いや。なんか都合があったんでしょうな」

―― そちらの都合でしょうが ――

「申し上げにくいことですが、今回の件につきましては、残念ながら、くちさがない噂をする者もおりまして……」

―― だれかしら、その先頭に立っているのは ――

「で、理不尽とお感じになるかもしれませんが、そういう者たちの気持ちもなだめにゃならんと……なんせ、職員だけでも百人近い大所帯ですからなあ……」

「みなまでおっしゃらないでください。間に入って苦労されている教頭先生のお気持ちも分かっているつもりです」

「貴崎先生……」

「わたしに非がないと思って庇ってくださる先生のお言葉は、身にしみてありがたいと思っています。しかし噂が立つこと自体わたしに甘えや、日頃の行いに問題があるからだと思います。生徒二人を命の危険に晒したことは、やはり教師としての資質の問題であると感じています」

「貴崎先生、そんなに思い詰められなくても……」

「いいえ、やはりこれはケジメをつけなければならないことだと思います。一義的には、生徒を命の危険に晒したこと。二義的には、学校の名誉を傷つけてしまったこと。そして、もう一つ。わたし自身のためにも……ここで、教頭先生のお言葉に甘えて自分を許してしまっては、ろくな教師……人間になりません。どうか、これをお受け取りください」

 わたしは懐から封筒を出して、そっとバーコードの前に差し出した……校長の机の上に不自然に置かれた万年筆形の隠しカメラのフレームに封筒の表が自然に見えるように気を配りながら。

 封筒の表には「辞表」の二文字が書かれている。

 バーコードは、一呼吸おいて静かに、しかし熱意をこめてこう言った。

「いや、これは。あ、あくまでもくちさがない者どもの気を静める為だけの方便でありますから、理事会のみなさんにお見せして、そのあと直ぐに却下という運びになろうかと、どうかご安心して、ご自宅で待機なさっていてください」

「ご高配、ありがとうございます……」

 と言って、わたしも一呼吸置く……バーコードが演技過剰で、カメラに被ってしまう。

 わたしは、腰半分窓ぎわに寄り、臭いアドリブをカマした。

「こうやって、わたしの心は、やっとあの青空のように晴れやかになれるんです……」

「貴崎先生……貴女のお気持ちはけして忘れはしませんぞ!」

 感極まったバーコードはわたしの手を取った(気持ち悪いんだってば、オッサン)

「では、これで失礼します」

 カメラ目線にならないように気をつけながら、わたしは程よく頭を下げた。

 カメラのアングルの中に入っているので、部屋を出るまで気が抜けない。

 ドアのところで振り返り、トドメの一礼をしようとしたら、バーコードが、またゴムの木に水をやっているのが目に入った。

「教頭先生……水が溢れます」

「ワ、アワワワ……」

 と、バーコードが泡を食ったところでドアを閉めた。

 あれだけ、台詞の間を開けてやれば動画の編集もやりやすいだろう。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母

 

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