大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 100『指南街 窯変』

2022-12-30 10:18:57 | ノベル2

ら 信長転生記

100『指南街 窯変』織部 

 

 

 焼き物が窯の中の火の具合や灰の被り方で、思わぬ景色に変わることを窯変(ようへん)という。

 

 備前焼や信楽焼など、釉薬を用いない酸化焔焼成が有名だが、信長の窯変天目茶碗のように釉薬を用いたものでも窯変を起こす。

 万に一つほどは、茶碗の中に宇宙を見る如き深さを感じさせるものがあって、信長のコレクションの中にも震えが出るほどの名品があった。数ある信長のコレクションのどれであったかは言わない。言ってしまえば、この織部の目にかなった器として名が出てしまう。名が出てしまえば、次に転生した時に人の手に渡るか、知ってしまった信長が手放さなくなるだろうからな。

 その窯変に似ている。劉度(リュドミラ)の胡旋舞がだ。

 元々は、故郷のウクライナで、流浪の楽団や村人に教わった見様見真似の自己流であったらしい。容姿にコンプレックスのある劉度は、村の祭りで人並みに踊れれば人が振り向いてくれるかと、なかば自己流。

 劉度に人の半分も愛嬌があれば、名うての踊り子として幸せな人生が送れたかもしれない。

 じっさい、指南街の古屋敷の庭や跡地で踊らせてみると、窯変と言っていいほどのパフォーマンスを見せてくれる。

 プロポーションもルックスも悪くない、ただただ愛想が無いという一点で、この隠れ美少女は損をしてきたのだ。

 それに、劉度には、度外れたスナイパーの才能もあった。人も国も、そのスナイパーの才能しか見てこなかった。

 惜しい、こんなことなら、ガードなど宮本武蔵にやらせるんだった。

 いや、こうやって三国志に連れてきたからこその窯変。

 

 そのジレンマに爪を噛みながら撮影を見ていると、ひとりの女が塀の破れから飛び込んできた。

 

「陳麗、撮影中よ!」

 明花がたしなめると、手をワイパーのように振りながらまくし立てた。

「曹素の部隊が酉盃までやってきた! そのうち、この指南街にもやってくるよ!」

 根は明るい性格のようだが、迫った危機に頬が引きつって神経質の三文字を擬人化したような様子だ。

「くそ、みんな、ここまでだ!」

 手慣れた手つきでカメラを仕舞うと、孫権は助手の女をわたしの前に突き出した。

「越後屋さん、この人を扶桑に避難させて!」

「え、この助手を?」

「帽子とメガネをとって」

 

 え、ええ!?

 

 目を剥いて驚いたのは大橋だ。

 たしかに、帽子とメガネをとった助手は、キリリとした美人だけども……いや、この迫力は?

「曹茶姫さんです、曹素は茶姫さんを捕まえにやってきているんだ。一刻を争う、この場から扶桑に連れて行ってあげて!」

「茶姫さん、無事だったのね!」

「ああ、孫権が骨を折ってくれてね。事情を説明してからのつもりだったけど、そうもいかなくなってきた。お願いできないだろうか越後屋……いや、古田織部殿」

「わ、分かりました!」

 美しいものにしか関心のないわたしだが、いや、美しさが分かるからこそ、孫権が智謀と力技で組み立てた茶姫脱出劇の最後の一筆を美しく捌いてやらなければと思った。

「ならば、わたしも行くぞ!」

「いや、リュドミラは孫権と大橋さんに預ける。どうか舞姫としての芽を育ててやってくれ。孫堅が写真を撮りたいと思った心も本音だろうからね」

「分かってるなあ、越後屋さん、いや織部さんもぉ(^▽^)」

「劉度さんのことは任せてください!」

 大橋も胸を叩いてくれる。

「しかし、わたしは織部のガードだ!」

「大丈夫、いつかリュドミラのすごい胡旋舞が見られるかと思ったら、それだけで、この身が惜しい。無事に茶姫さんを送り届けたら、戻って来るよ」

「じゃ、紙飛行機を飛ばしておくよ」

「ありがとう! じゃあ、行きましょう、茶姫さん!」

「ああ、すまない!」

 キリリと礼を言うと、茶姫は三人の娘に体を向けた。

「明花、静花、陳麗、世話になった!」

「いいえ、わたしたちこそ。いま、こうして命のあるのは茶姫さまのお蔭です」

「茶姫さまに助けていただかなければ、明花姉さんともども、あの森の中で骨になっているところでした」

「陳麗、そなたにも世話になった。陳麗が着替えを持ってきてくたからこそ抜け出すことができた」

「そんな、曹素の兵隊でさえ手を出さなかった陳麗に、もったいないお言葉です」

「では、天下が落ち着いたら、また会おう!」

「「「茶姫さま!」」」

 

 茶姫さんを伴って指南街の路地を拾って走る。追手が迫っている時は人の脚がいい。

 茶姫さんと二人、旧知の友のように足並みが揃う。

 言わずとも思いが揃ったのは、茶姫さんも、この織部も戦国を生きる武人という属性が強いからだろう。

 

 指南街を北に抜けたところで、頭の上を航空迷彩柄の紙飛行機が追い越していった。

 紙飛行機は白しかないはず……どうやら、紙飛行機まで窯変してしまったらしい。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・69『胡蝶蘭と黄色いハンカチ』

2022-12-30 06:43:01 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

69『胡蝶蘭と黄色いハンカチ』 

 

 

「遅いなあ……もう三分も遅れてる」

 里沙がぼやいた。

「仕方ないよ、お誕生日祝いかさばるんだもん……」

 夏鈴を弁護した。

 誕生日の良き日は日曜だったので、わたしたちは病院のロビーで待ち合わせしている。

 三年前に建て替えられた病院はピカピカで、吹き抜けのロビーの南側は一面のガラス張りになっていて、一月も半ば過ぎだとは思えない暖かさ。これでシートが劇場みたいでなければ、ちょっとしたリゾートホテルみたい……。

「寝るな、まどか」

「あ、ごめん、ついウトウトして(^_^;)」

「まどかは病院慣れしてるんだ」

「あ、その言い方は、ちょっと傷つくかも……」

「あ、ごめんごめん」

 里沙は病院が嫌いなわけじゃない、物事が計画通りに進まないことに、ちょびっとだけイラついている。夏鈴はのんびり屋さんだし、わたしは、その中間ぐらいだし。いい組み合わせなんだ。


「あ、君たち乃木坂の……」


 潤香先輩のお父さんとお母さんが並んでエレベーターから出てきた。今まで看病されていたんだろうね。

「よく来てくれているのね。紀香が言ってた。本当にありがとう」

「いいえ、潤香先輩はわたしたちの希望の星ですから!」

 待っていた分、思いが募って宣言するみたいに立ち上がる里沙。あ、わたしも挨拶しなきゃ!

「今日は先輩のお誕生日なんですよね。おめでとうございます!」

 少し後悔した。今年の誕生日はそんなにめでたくもないことなのに。やっぱ、わたしは口先女だ。

「覚えていてくれたのね、ありがとう!」

「いま、親子四人で、ささやかにお祝いしたとこなんだよ!」

 ご両親で喜んでくださって一安心。

「さ、どうぞ上がってちょうだい。紀香も一人だから喜ぶわ」

「もう一人来ますんで、揃ってから伺います」

「そう、じゃ、わたしたち、これで失礼するけど。ゆっくりしてってちょうだいね」


 夏鈴が入れ違いにやってきて、やっと潤夏先輩の病室へ。


「えー! こんなのもらっていいのぉ? 高かったでしょう?」

 一抱えもある胡蝶蘭……の造花に、お姉さんは驚きの声をあげた。

「いいえ、造花ですし、お父さんの仕事関係だから安くしてもらったんです」

 夏鈴が正直に答える。

「知ってるわ、ネットで検索したことがある。考えたわね、病人のお見舞いに鉢植えは禁物なんだけど、造花ならいけるもんね。おまけに抗菌作用まであるんだもん。だれが考えたの?」

「はい、わたしです!」

「まあ、夏鈴ちゃんが」

「それに、潤香先輩が良くなったら、これを小道具にしてお芝居できたら……いいなって」

「ありがとう、里沙ちゃんも」

 おいしいとこを、二人にもっていかれて、わたしは言葉が出ない。

 自然に潤香先輩に目がいく。

「先輩の髪の毛、また伸びましたね」

「そうよ、宝塚の男役ぐらい。もう、クソボウズなんて言えなくなっちゃった」

「先輩って、どんな髪にしても似合うんですよね。わたしなんか、頭のカタチ悪いから伸ばしてなきゃ、みっともなくって」

 里沙と夏鈴が同時にうなずく。あんたたちねえ……!

「ハハ、そんなことないわよ。あなたたちの年頃って、欠点ばかり目につくものよ。どうってないことでも、そう思えちゃう。わたしも、そうだった……潤香もね」

「色の白いの気にしてたんですよね……こんなに美白美人なのに」

「なんだか……眠れるジャンヌダルクですね!」

 わたしってば、ナーバスになっちゃって、自分がいま思いついてクチバシッタ言葉にウルっときちゃった。

「ジャンヌダルク……なんだか、おいしそうなスゥイーツみたい」

「人の名前だわよ。グリム童話に出てくるでしょうが!」

 二人がうしろで漫才を始めた……と、そのとき、潤香先輩の左手の小指がピクリと動いた!

「……いま、指が動きましたよ!」

「え……うそ……潤香!……潤香あ!」

 そのあと、お医者さんがきて脳波検査をやった。

 微かだけど反応が続いた。

「実はね、昨日貴崎先生がいらっしゃったの……」

 脳波計を見つめながら、紀香さんが口を開いた。

「誕生日だと、両親も来るし、あなたたちも来るかも知れないって……前日にね」

「先生……どんな様子でした?」

「先生は……普通よ、元気で明るくって……そうだ!?」

 紀香さんは、ベッドの脇から一枚の黄色いハンカチを取り出した。

 それは、紛れもなく、神々しいまでの貴崎イエロー!

「そう、貴崎先生がね。お祖母様のために巣鴨のとげ抜き地蔵に行ってね、洗い観音さまを洗ったハンカチ。お祖母様は腰だけど、潤香のことを思い出されてね、潤香のためにね、このハンカチで観音さまの頭を洗ってくださって……ほんの、おまじないですって置いていかれたの。で、あなたたちが来る直前に潤香、汗かいてたから、これでオデコ拭いて……でも、あなたたちも胡蝶蘭の造花持ってきてくれたわよね!」

「これは、今日の誕生花が胡蝶蘭だったから……」

「そんなに誇張して考えなくても」

 また、うしろで絶好調な漫才が始まりかけた。

 そこに、知らせを聞いたお父さんとお母さんが戻ってこられて、病室は嬉しい大混乱になりました。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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