大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・369『留美ちゃんが立ち止まるわけ』

2022-12-20 12:05:09 | ノベル

・369

『留美ちゃんが立ち止まるわけ』さくら    

 

 

 あ

 

 駅前の横断歩道で、留美ちゃんが一瞬立ち止まる。

 品行方正な留美ちゃんが、横断途中に立ち止まるなんて、初めての事。

 でも、時間にしてコンマ5秒ほど。すぐに渡り終えて改札へ向かうエレベーターに飛び乗る。

 なんせ、朝の通学途中やさかいに、足は緩められません。

 せやさかい、事情を聞いたのは電車がホームにやって来るのを待ってる間ぁになる。

「なんやったん?」

「うん、あとでね」

 このご時世、人ごみの中では、むやみには喋られへんのを忘れてた。

 で、もっかい聞いたのは、学校最寄り駅に着いて改札を出たとこ。

「で、なんやったん?」

「え、なに?」

「なにて、横断歩道の真ん中で立ち止まったやんか!」

「あ、ああ……アハハハ」

「ちょ、なにが可笑しいん?」

「いや、さくらの好奇心て、大したものよね」

「え、そう?」

「だって、わたし、忘れてたから」

「え、せやさかいに、なんやったん?」

「あ、うん。いつも信号のとこに立ってる婦警さんいるでしょ」

「あ、ああ……小柄な?」

「うん、あの婦警さんがね、オシャレな私服ですれ違ったの。たぶん非番のお出かけだよ」

「せやったん?」

 うちの感動は、ちょっと薄い。

 せやかて、婦警さんは信号機と同じで、いわば風景の中のオブジェ。制服の中身まで考えたことあれへんので、顔までは憶えてへん。

 留美ちゃんいう子は、相手の興味が薄かったら、それ以上に話題を広げる子やないねんけど、うちには突っ込んでくれる。

「わたしたちより、ちょっとだけ年上の女性が、婦人警官になろうって決心するのはスゴイと思うのよ。それが、通学途中の高校生に顔を憶えられるほど信号のとこに立っていて、非番のお出かけ。ちょっとおしゃれしてね。感動するし、想像しちゃうわよ」

「そ、そうやね! デートやろか!?」

 留美ちゃんの解説で、うちの頭の中で婦警さんは人格を持ち始め、とたんにテンションが上がる。

「違うね」

「ちゃうのん?」

「所轄管内でデートなんかしないよ。それに、デートするには朝すぎる。横断歩道渡ったらロータリー、たぶん友だちの車とかが待ってて、いっしょに出かけるんだと思う。たぶん、ちょっと早めのクリスマスとかだよ。お巡りさんは、年末は歳末特別警戒で忙しいからね。きっと、年内最後の休みなんだ」

「でも、お友だち同士のクリスマスでオシャレする?」

「ちっ、ちっ、ちぃ」

 あたしの鼻先で人差し指を振る留美ちゃん。

「休みの日に衝動買いしたオシャレグッズ、そうそう着ていく時間も場所も無いのよ」

「しょ、衝動買いかあ……」

 うちの衝動買いは、せいぜいコンビニのスナック。

「そうかあ……」

 口では言わへんけど、ここ一年ほどは作家志望的な感じの留美ちゃん。目の付け所がちゃう。

 いっしょに暮して二年以上、同じような生活サイクルやのに、着実に進歩してる感じ(^_^;)。

 うちも、がんばらならあかんなあ。

 

 あ

 

 校門入ったとこで、また留美ちゃんが立ち止まった。

「あ」

 さすがに、うちも気ぃついた。

 正門入って左側の木ぃが、クリスマス仕様になってる!

 綿の雪と電飾が付けられて、天辺には大きなお星さまが付いてる。

 

 せや、うちはミッションスクールやったんや!

 

「この木って、もみの木だったんだ」

「四月には校内探検したのに気ぃつけへんかった」

 

 終業式まで、あと三日。

 もうちょっと、楽しんでみたいと思うさくらと留美でありました。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・59『ビデオチャットの開局式!』

2022-12-20 07:07:26 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

59『ビデオチャットの開局式!』 

 

 

 ジャジャジャーン!

 て、感じで、はるかちゃんのドアップが、モニターに大写しになった!

「ウフフ……」

『アハハ……』

 て、感じで、なかなか言葉 にならない。

 今日は、パソコンを使ったビデオチャットの開局式!

 ビデオチャットは、クリスマスイブの夜に、はるかちゃんと約束した。

 だけど、これって、カメラ買ってきて付けたらすぐにできるというものではなかった。

 わたしには、訳分かんないダウンロードとかいろいろあって、結局昨日でバイトが終わった兄貴に二時間あまりかけてやってもらった。
 
 で、ウフフとアハハになったわけ。

「あー、あー、こちらJO MADOKA聞こえますかどうぞ」

『こちら、JO HARUKA感度良好です。どうぞ』

「なんだか、そっち賑やかそうじゃないのよ」

 はるかちゃんの周りに人の気配……まわりのロケーションも、なんだか違う。

『こっちはね……』

 ガサガサと音がして、カメラがロングになった。

 なんだか、こぢんまりしたレストランみたい。右側のカウンター席で手を振っているのは、はるかちゃんのお母さんだ。

 で、カウンターの中には、チョンマゲにオヒゲの怪しきオッサンがシェフのナリしてニヤついている。

『こっちがね、お母さん!』

『おひさぁ。元気してるまどかちゃん!?』

「はあい、絶好調でーす!」

「ばか、そんなデカイ声出さなくても聞こえてるって」

 兄貴が割り込んできた。

『あ、健一君?』

「あ、どうもご無沙汰してます。今ボリュ-ム落としますんで」

『いいわよ、このままで。賑やかなほうがいいわよ』

「そっすか、じゃあ、このまんまで……」

『ちょっと見ないうちにイケメンに磨きがかかったわね』

「どもっす」

 兄貴は、ボリュ-ムの出力をこっそり落とした。確かに、はるかちゃんのお母さんの声はデカイ。

『で、奥のオジサンが、このお店のオーナーシェフの滝川さん』

 チョンマゲが少しズームアップした。

『タキさんて呼んでくれてええからな。まどかちゃん……ちょっと横顔見せてくれる?』

「え、あ、はい……」

 わたしってば、素直に横を向いた。横顔にはあんまし自信が無い。

『……ううん……ライザミネリよりも、ジュディーガーランドやな』

――やっぱ、そうでしょ――はるかちゃんの声がした。

「だれですか、そのジュディーなんとかってのは?」

『ちょっともめてたの。まどかちゃんの写メ見せたら、タキさんがジュディーガーランドに似てるって。ああ、昔のアメリカの女優さん『オズの魔法使い』なんかに出てるって』

 映画……滝川……一瞬で、この二つの言葉が一つになった。

「滝川さんて、門土社のネットマガジンで『押しつけ映画評』……やってません?」

『よう知ってんなあ、マイナーなマガジンやのに』

 わたしは、はるかちゃんに――映画を観なさいよ――と、言われてから、ネットでいろいろ検索してて、この滝川さんの『押しつけ映画評』に出くわした。

 いまロードショーに掛かって大評判のアメリカ映画を、『冷めたハンバーガーをチンして、ベッピンさんのオケツでペッタンコにしたような』と小気味よくこき下ろしていたので、印象に残っていた。ちなみにネットで予告編を観ると、いや、予告編を観ただけでその通りだった。


「本業はレストランなんですか?」

『そや、映画評論なんか、ハイリスクローリターンやさかいなあ。いちおうパスタ屋やけど、和洋中なんでもありや』

「あ、あの、すみません。ぼく、まどかの兄で健一と言います!」

 兄貴が割り込んできた。

「あの、あのですね。お見かけしたところ、かなりのベテランのように……」

 お見うけして、兄貴は、恋人同士がヨリを戻すには、どのような店で、どんなシュチュェーションがいいか真剣に聞き出した。もっとも――友だちが悩んでるんで――と見栄を張っていたけど、タキさんどころか、はるかちゃんにも、お母さんにもお見通しのようだった。

 延々十五分、兄貴に占領されて、順番が回ってきた。

 はるかちゃんのパソコンには携帯型のルーターってのが付いていて、どこにでも持ち運んで使えるらしい。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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