大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・368『歳末特別警戒本部やぞ!』

2022-12-14 20:08:03 | ノベル

・368

『歳末特別警戒本部やぞ!』さくら    

 

 

 おお…………!

 

 うちの山門を眺めて、四年ぶりに感動した。

 一回目は……感動ちごて、動揺かな。

 ほら、四年前の三月三十一日、お母さんに連れられて、この山門の前に立った。

 あの時は、この門のことを山門て呼ぶことも知らんかった。

 ジッカの門と呼んでた。

 ジッカとは実家で、実家て書くのは四年生まで知らんかった。お母さんがジッカ、ジッカて呼んでた。

 ジッカはお寺で、お寺の門を山門て呼ぶのを、それまでは知らんかった。

 それまで、夏休みとかに来るだけやったから――今日から、ここがさくらの家や――言われて、めっちゃ意識した。

 なんや、いかつうて、テレビで見た『忠臣蔵』の討ち入りいう感じ。

 大石内蔵助が、四十七士を引き連れて吉良上野介の屋敷の門の前に立った、あの感じ。

 いや、うちは扶養家族やさかい、息子の大石力っちゅうとこやなあ。

 忠臣蔵言うと、今日は、播州の赤穂城で三年ぶりの赤穂義士のパレードをやってた。

「ああ、やっぱり中村雅俊の大石内蔵助いいわねえ(^▽^)」

 おばちゃんが感動してた。

「ああ、太陽にほえろやなあ」「われら青春も良かったなあ」

 お祖父ちゃんとおっちゃんも感動。

 うちらは、なんかオジンのコスプレいう感じやねんけど、せっかくの感動に水を差すようなことは言いません(^_^;)

 そこへ、檀家周りから帰ってきたテイ兄ちゃんが、町会長さんから言づかってきよった。

「集会所、雨漏りして使えへんから、歳末特別警戒の詰所にお寺貸してくれへんかて」

「ああ、それは難儀やなあ」

「そら、使てもらい」

「ほな、電話するで」

 テイ兄ちゃんが衣のまま電話して、急きょ、うちは歳末特別警戒の本部(ほんまは詰所やけど、本部の方がかっこええ)になった。

 

 で、すぐに町会長さんが軽トラで本部の道具一式を持ってきはった。

 

 その道具で、いちばんかっこええのが提灯。

 白地の胴に二本の赤線が引いたって、黒々と『歳末特別警戒』の文字が入ってる。

「納戸に、古い提灯立てがあるで」

 お祖父ちゃんが思い出して、時代劇に出てきそうな木製のスタンドが出される。

「これは対にせんとあかんなあ」

 おっちゃんの発案で、例年やったら一個で済ます提灯を二つにした。

 ほんで、セッティングを終わったら、気の早いお日さんが西の空に傾いてきたんで、提灯に灯りを入れる。

 それで「おお…………!」と女子三人で感動したわけ。

 三人いうのは、うちと留美ちゃんと詩(ことは)ちゃん。

「なんか、堺奉行所って感じね!」

「殿馬場のあたりにあったっていいますね!」

 二人の感動はレベルが高い。

「せや、写真に撮って送ったろ!」

 イチビリのうちは、提灯の灯りで雰囲気の写真を撮って、散策部のみんなに送る。

 

 一分で頼子さんから返事が返ってきた。

 

―― 今から観に行く! ――

 

 で、四十分後には、散策部全員で山門の前で記念写真(^_^;)

「おお」

 メグリンは、うちらと同じ反応。

「新選組の屯所って感じ!」

 想像力の翼を広げたんはソニー。

「歳末特別警戒って、夜回りするんだよね!?」

 ソフィーにも火が付いた。

「よし、わたしたちも参加しよう!」

 頼子さんが手を挙げて、急きょ歳末の部活が決まってしもた!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・53『なり損ないの雪だるま』

2022-12-14 07:35:09 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

53『なり損ないの雪だるま』  

 

 

「演劇部の三人が来てくれたところなんですよ。ほら、このクリスマスロ-ズ。あの子たちが持ってきてくれたんです」

 お見舞いに持ってきたオルゴール(潤香とわたしが共に好きなポップスが入ってる)のネジを巻きながら姉の紀香さんが花瓶の花を紹介。大振りな花が陽気におしくらまんじゅうをしている。

「あ……!」

「え?」

「わたし、ここにタクシーで来たんですけど。地下鉄の入り口のところでキャーキャー言ってる雪だるま三人組……を見かけた」

「それですよ。まどかちゃん! 里沙ちゃん! 夏鈴ちゃん!」

 モグラ叩きを思わせるテンションで紀香さんが言った。無性に、あの三バカが愛おしくなってきた。

 気がついたら、紀香さんと二人オルゴールに合わせて唄っていた。

「フフフ……」

 どちらともなく、笑いがこみ上げてきた。

「わたしも、いつの間にか覚えちゃって……いい曲ですね、これ」

「ええ、ゆったりした曲なんですけど、元気が出てくるんです」

「ですね……」


 自然に目が窓に向いた。


 音もなく降りしきる雪。窓辺に立てば、向かいのビルはおろか、道行く人の姿もおぼろにしか見えないだろう。
 上から下に向かって雪が降るものだから、フと、この病室がエレベーターのように静かに昇っていくような錯覚におちいる。


「先生、コーヒー飲みません?」

「え、ええ」

「買ってきます。病院のすぐ横にテイクアウトのコーヒーショップがありますから、微糖でいいですね?」

「あ、すみません」

「いいえ、わたしも、ちょっと外の空気吸いたいですから。その間潤香のことお願いします」

「はい、ごゆっくり」

「じゃあ(⌒▽⌒)」

 少女のような笑顔になって、紀香さんはドアを閉めた……遠ざかる足音は小鳥のように軽やかだ。

 あらためて潤香の顔を見る……色白になっちゃって……でも、こんな意識不明になっても、どこか引き締まった女優の顔になっている。
 

  去年の春、初めて演劇部にやってきたとき……覚えてる、潤香?


 小生意気で、挑戦的で、向こう見ず。心の底じゃビビってるけど、もう一人の自分が尻を叩いてる……その、もう一人の潤香がこの顔なんだよね。いや、成長した「この顔」なんだよね。

 最初はコテンパンにやっつけてやった。でも、潤香はそれに応えてくれた。そして学園祭では主役に抜擢。華のある女優になった……ミス乃木坂になって、中央発表会じゃ主演女優賞……潤香との三年近い思い出が、まき散らした写真のように頭の中でキラキラしている。

「お待たせしました」

 紀香さんがコーヒーのカップを持って戻ってきた。一瞬表情を取り繕うのに戸惑った。

「先生も、いろいろ思い出していたんでしょ?」

「え、ええ、まあ」

「入院してからの潤香って不思議なんです。気持ちをホッコリさせて、昔のことを思い出させてくれるんです……どんなに辛い思い出でもホッコリと……」

 二人いっしょに、コーヒーカップのプラスチックの蓋を開けたものだから、病室いっぱいにコーヒーの香りが満ちた。空気がコーヒーに染まって琥珀色になったような錯覚……きっと、外が雪の白一色だから。


「あの日も……雪が降りしきっていました」

「え……?」

「去年のいまごろ……」

「ああ、終業式の明くる日でしたね。電車とか遅れて出勤するのが大変でしたね」

「あの日も、こんな風に窓から降ってくる雪を見ていたんです……なんだか、自分の部屋が、エレベーターみたく穏やかに遙かな高みへ連れて行ってくれそうな気になって……」

「フフ、わたしも、さっきそんな気がしたとこ」

「その高みにあるのは……天国です」

「え……?」

「これを見てください……」

 紀香さんは、左の袖をたくし上げた……危うくむせかえるところだった。

 リストカット……

「その日が初めて。深く切りすぎて……でも、これで楽になれるって開放感の方が大きくて」

「紀香さん……」

「でも、潤香が……この子が腕を縛り上げて、救急車を呼んじゃって……病院じゃ、ずっとこの子に見張られてました。そのころ、この曲が耳について覚えちゃったんです」

「そうだったんですか……」

「それからは、潤香、いろんなとこへ連れて行ってくれて。春休みのスキーがトドメでした」

「あ、あの足を折ったの!?」

「わたしの気を引き立てようとして、雪が庇みたくなってるとこで、大ジャンプ」

「それで……潤香ったら、わたしには何も言わないもんで」

「約束しましたから、誰にも言わないって……でも、その約束、自分から破っちゃいました!」

 ひとしきり二人で笑った。

「潤香の手首も見てやってください」

「え……!?」


 即物的なわたしは、雪だるまになることもなく、病院の車寄せに見舞客を乗せてきたタクシーにそのまま乗って家路についた。


 紀香さんには驚いた。しかし考えてみると、クリスマスイブに二十歳の(わたしが見ても)美人が、どこにも行かず、一人で妹の看病をしているのは少し頭を働かせれば分かることではあった。

 そして、いい意味で驚いたのは、潤香の左手首。

 ゴールドのラメ入りのミサンガ。

 夏鈴が、部員全員のを編んだそうだ。潤香を入れて四人分を……そして、枕許の写真。

 演劇部一同の集合写真の横に、それはあった。

 タヨリナ三人組の……その上に掛けられた三枚の『幸せの黄色いハンカチ』

 ちょうど赤信号でタクシーは停まっていた。

「ここでいい。降ろしてちょうだい」

「すみませんね、この雪でノロノロしか走れないもんで」

「ううん、そうじゃないの。はい料金」

 恐縮しきりの運ちゃんを尻目に、わたしはドアが開くのももどかしく飛び出した。

 わたしだって、雪だるまになりたい時があるんだ!

 誰かさんが言ってたわよね。

「まだまだ使い分けのできる歳だ」

 今日ぐらい使い分けたっていいじゃんね!

 その直後、お祖父ちゃんから、ひどく即物的な電話がかかってくるとは夢にも思わない、なり損ないの雪だるまでありました。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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