大橋むつおのブログ

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巷説志忠屋繁盛記・13『写真集・3 玉手山遊園の観覧車』

2020-01-21 06:27:11 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・13
『写真・3 玉手山遊園の観覧車』    
 
 
 
 
 あ 玉手山遊園や……
 
 写真集の巻末近くで思い出の遊園地を発見したタキさんだ。
 なぜ巻末近くかといううと、大和川からこっち、どのページを見ても黒歴史そのもの、あるいは、それに繋がる写真ばかり。
 懐かしくはあるが、いかんせん黒歴史、アイドルタイムに見ていて思わず呟いた言葉がKチーフやランチタイムから居続けの常連さんなどに聞かれてはまずいので、巻末に飛んだというしだい。
 
 玉手山遊園は、平成十年に閉じられたが、日本で二番目に古い遊園地なのだ。  
 
 八尾から近いこともあって、タキさんにはディズニーランドやUSJよりも、ある意味思い入れが深い。
 写真集に載っているのはゴンドラがわずか9個しか付いていない観覧車だ。
――吊り橋をいっしょに渡ると、いっしょに渡った異性を好きになる――
 社会の時間にN先生が脱線して『吊り橋論』の話をした。
 要は、吊り橋などを一緒に渡ってドキドキすると、脳みそが勘違いして、その異性を好きだと思ってしまうという話。
 中学生にもなると色気づいてくるので、N先生は、うまく牽制球を投げたのだ。
 タキさんは、こういう話され方をすると――なるほどなあ――と思ってしまう。
 道徳的に、かくあるべし! などと言われると反発してしまうが、N先生のように科学的かつウィットに富んだ言い方をされると「なるほど」と思ってしまう。
 
 で、その週の日曜日は子供会の遠足の日だった。
 
 もとより子供会というのは小学生のものなのだが、生まれついてのガキ大将。
 それに家の宗旨がキリスト教ということもあり、何かにつけて境界や町内の用事は進んで参加する。
 ガキ大将でもあるので、自然とその場を仕切ってしまうことが多くなる。
「玉手山遊園は目えが届かへんねん、コウちゃんなんかが来てくれると助かるねんけどなあ」
 世話係のオッチャンに言われては行かざるを得ない。
 実際のところは、子どもたちに人気のあるタキさんなので、なまじ大人が仕切るよりも楽しくなることを、みんなが知っている。
 同様に声を掛けられた中一三人といっしょに楽しく玉手山遊園に出かけたのであった。
 三つのグループに分けた子どもたちを、タキさんたち中学生はうまく遊ばせた。
 お昼はいっしょにお弁当を食べながらのビンゴ大会。人間いっしょに飯を食ってビンゴをやれば身も心も温まってくるのだ。
「これで、こいつらの絆の『き』の字くらいはできたよ、オッチャン」
「ありがとう、ありがとう、午後は好きにしてくれてええよ」
 
 三人の中学生、タキさんの他は酒屋のせがれと、もう一人は、あの百合子だ。
 
「コウちゃん、いっしょに回ろか」
 酒屋のせがれをソデにして百合子が寄って来た。
「秀(酒屋のせがれ)は?」
「子どもらと盛り上がってるから……」
 大人びた言い方で馬跳びをしている秀を一瞥した。
 なにか吹っ切ろうとしている風を感じたので、タキさんは並んで歩いた。
「秀と付き合うてんのかと思てた」
「友だちとしては……あ、すみません、シャッター押してもらえます?」
 最後まで言わずに、持っていたカメラを通りがかりのアベックに声を掛ける百合子。
「撮りますよー引っ付いてー」
「はーーい」
 アベックの照り返しだろうか、百合子はちょっぴり大胆に腕を組んできた。不覚にも胸キュンのタキさんだ。
「ありがとうございます、よかったらお二人のも撮りますけど」
「そう、じゃ、お願いしよかな」
「観覧車背景に撮ってもらえます?」
「ちょうど乗ってきたとこやねん(o^―^o)ニコ」
「ハイ、いきまーす……」
 
「わたしらも乗ろっか!」
 
 アベックにカメラを返すと、素敵な笑顔でタキさんにねだる百合子。
 ついさっきまで秀の彼女だと思っていたので、気持ちがポワポワと浮き上がってしまう。
 浮き上がったまま二人は観覧車のゴンドラに乗った。
 ジェットコースターはあちこち制覇しているタキさんだが、観覧車は生まれて初めてだ。
 狭いゴンドラの中では互いの膝が触れ合ってしまう。ゆっくりと上昇するゴンドラ、互いの息遣いさえ聞こえてきそう。
 秀とのことで封印してきた気持ちがあることをゴンドラの上昇とともに感じてくる……ドキドキと自分の心臓がうるさい……しかし、これは……きっと吊り橋効果や……せやけども……ああ、なんちゅうカイラシイ目すんねん!
 外の景色を見るふりをして、時々目線を避けるが、かちあった時の百合子の目は凶器だった。
 
 9個のゴンドラしかない観覧車は三分足らずで地上に戻ってしまった。
 
「ほんなら、あたし子どもらの相手してくるわね」
 地上に降りると、百合子はそそくさと行ってしまった。
 なじられたような気がしたが、N先生の影響だろうか――とりあえずは、これでええねん――自分に言い聞かせるタキさんだった。
 で、結局はS高校の偵察に行く百合子を玉櫛川のほとりで見かけるまで、ろくに口もきかなかった二人であった。
 
「マスター、ディナータイムでっせ!」
 
 タキさんは日常に引き戻されてしまった。
 
 
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