通学道中膝栗毛・26
角を曲がって夏鈴の家が見えてくる。
見慣れない車が停まっている。それも二台。
セダンって言うんだっけ、タクシーみたく四つドアがあって、若干モッサリした左ハンドルの外車。
ナンバープレートが青色なのと相まって、ちょっと違和感。思わず倉庫の前、電柱の陰に入って立ち止まってしまった。
夏鈴…………?
玄関のドアが開いて夏鈴が出てくる、前と後ろに外人の男女が付いている。後ろの車から運転手が出てきてドアを開ける。
丁重に扱われているようだけど、夏鈴の表情に精彩がない。
お母さんが遠慮するようにドアから姿を現す。ハンカチを握ったままの手を胸の前に組んで……なにかを堪えているような。
お母さんが、なにか言いかけて夏鈴が振り返る。男が穏やかに、でもキッパリと遮って乗車を促す。
夏鈴、嫌がってる!?
このまま車に乗せちゃダメだ!
フルリと首をめぐらすと倉庫のシャッターが半分開いている。そうだ、入ったところに!
シャッターを潜ると、思いついたソレを押した!
ジリリリリリリリリ!!
猛然と非常ベルが鳴って、倉庫の非常灯がオレンジ色に光る、倉庫の前の非常灯も点滅しているはずだ。
倉庫の奥と前に人が集まる気配、わたしは横のドアから出て、隣の家の裏を周って夏鈴の家の前に出る。
みんな倉庫の方を向いている。チャンスだ!
そっと車に近寄ってドアに手をかける。中の夏鈴が目を剥いている。
「早く、こっち!」
同時にドアを開けて親友の手を掴むと、道を反対側に駆ける!
英語ではない外国語の叫びがして数人が追いかけてくる、真っ直ぐ走っていてはたちまち追いつかれる!
横っ飛びに路地に入る、犬が出入りできる生け垣の隙間、庭を横切って物置の陰と塀の隙間を通って……それからは子どもの頃の勘。あちこちの路地や猫道まで通って商店街の裏手に出てくる。
ハーハーハーハー……
さすがに息が切れ、二人そろってしゃがみ込む。
商店街の裏手だけど、日本の夜は身を隠せるほどには暗くはならない。
「あ、あの人たちプロだから……」
「追いつかれる?」
「うん、時間の問題かも……」
背中の戸が開く音がする。どこかのお店が裏戸を開けたんだ、万事休す!
「おや、あんたたちは?」
月夜に輝く禿げ頭は……芋清のおいちゃんだった!