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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・26『夏鈴の危機一髪』

2018-03-22 15:46:01 | 小説3

通学道中膝栗毛・26

『夏鈴の危機一髪        

 

 

 角を曲がって夏鈴の家が見えてくる。

 

 見慣れない車が停まっている。それも二台。

 セダンって言うんだっけ、タクシーみたく四つドアがあって、若干モッサリした左ハンドルの外車。

 ナンバープレートが青色なのと相まって、ちょっと違和感。思わず倉庫の前、電柱の陰に入って立ち止まってしまった。

 

 夏鈴…………?

 

 玄関のドアが開いて夏鈴が出てくる、前と後ろに外人の男女が付いている。後ろの車から運転手が出てきてドアを開ける。

 丁重に扱われているようだけど、夏鈴の表情に精彩がない。

 お母さんが遠慮するようにドアから姿を現す。ハンカチを握ったままの手を胸の前に組んで……なにかを堪えているような。

 お母さんが、なにか言いかけて夏鈴が振り返る。男が穏やかに、でもキッパリと遮って乗車を促す。

 夏鈴、嫌がってる!?

 

 このまま車に乗せちゃダメだ!

 

 フルリと首をめぐらすと倉庫のシャッターが半分開いている。そうだ、入ったところに!

 シャッターを潜ると、思いついたソレを押した!

 

 ジリリリリリリリリ!!

 

 猛然と非常ベルが鳴って、倉庫の非常灯がオレンジ色に光る、倉庫の前の非常灯も点滅しているはずだ。

 倉庫の奥と前に人が集まる気配、わたしは横のドアから出て、隣の家の裏を周って夏鈴の家の前に出る。

 みんな倉庫の方を向いている。チャンスだ!

 そっと車に近寄ってドアに手をかける。中の夏鈴が目を剥いている。

「早く、こっち!」

 同時にドアを開けて親友の手を掴むと、道を反対側に駆ける!

 英語ではない外国語の叫びがして数人が追いかけてくる、真っ直ぐ走っていてはたちまち追いつかれる!

 横っ飛びに路地に入る、犬が出入りできる生け垣の隙間、庭を横切って物置の陰と塀の隙間を通って……それからは子どもの頃の勘。あちこちの路地や猫道まで通って商店街の裏手に出てくる。

 ハーハーハーハー……

 さすがに息が切れ、二人そろってしゃがみ込む。

 商店街の裏手だけど、日本の夜は身を隠せるほどには暗くはならない。

「あ、あの人たちプロだから……」

「追いつかれる?」

「うん、時間の問題かも……」

 背中の戸が開く音がする。どこかのお店が裏戸を開けたんだ、万事休す!

「おや、あんたたちは?」

 月夜に輝く禿げ頭は……芋清のおいちゃんだった! 

 

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高校ライトノベル・アーケード・19・こざね編《県民子どもの日》

2018-03-21 15:21:56 | 小説

・19・こざね編
《県民子どもの日》

 

※ 順番が跳んだので、18回のあとに来る分です。




「この6ヵ月に、不特定の異性との性的接触はありませんでしたか?」

 この質問でぶっ飛んでしまった。
 松永さんへの輸血をする前にいろいろ聞かれるとは思っていた。最近献血をしましたか?とか、特定の薬を呑んでいませんか?とか。
 だからナースのおねえさんにシラっと性的接触なんて言われるとアセアセで頭に血が上ってしまう。
 顔を真っ赤にしていると「無いんですね」と決められて「では!」で、ブットイ注射をされてしまった。

 乙女の血は鮮やかで清純なピュアレッドだと思っていた。

 献血用のパックに溜まっていく血液は、ちょっと驚くほど赤黒かった。
――あたしっておかしいのかも?――と思っていると、隣のベッドのめいちゃんのも同様に赤黒かった。
「静脈から抜いた血液は赤黒いのよ。これが真っ赤だったら、それは動脈からの血液だから医療事故になっちゃうわ」
 心を読んだようにナースのおねえさん。若く見えるけどベテランなんだろうなあ。
「フフ、こざねちゃんは分かりやすい顔してるから」
 隣のベッドで嬉しそうにめいちゃんがウインクした。

 採血し終わって、ベッドから立ち上がると、視界が暗くなってクラっときた。

「フワ~~~~」
「おっとっと!」
 めいちゃんが抱き止めてくれる。自分だって血を抜いたところなのにしっかりしている。これって高校生と中学生の違いだろうか?
「フフ、うちのコーヒーって造血作用があるのよ」
 子どもみたくはにかむめいちゃん。コーヒーに造血作用?って思ったけど、なんちゅうか、女子としての有り方が違うと思った。
 お父さんもお母さんも亡くなっているけど、毎日お店の手伝いをして、勉強もうちの兄貴よりも出来る。絵本作家になる努力も怠らないし来週に行われる生徒会の役員選挙にも立候補している。もちアーケーズのメンバーとしてのスキルも言うことなし。

「由利もお礼を言いたがっていましたが、手術の時間があるので、ごめんなさいね」

 西慶寺に戻るためにロビーに集まっていると、松永さんのお母さんがやってきてお礼とお詫びを言われた。一瞬お姉さんかと思うくらい若くてきれいなお母さんだった。
「またお見舞いに来ます。これ、アーケーズの新しいコスチュームです。いっしょに着てステージを踏めるのを待っています……」
 はなちゃんに促されて、三好さんがコスを渡した。
「……ありがとうございます、きっと良くなって、みなさんといっしょに……夏には……」
 あとは言葉にならなかった。後ろで控えていたお父さんが、そっと肩に手を置いて、何度も頭を下げて手術室に向かって行った。

 昨日の『県民子どもの日』は大盛況だった。

 あたしたちアーケーズは前座だったけど、子どもたちは喜んでくれた。市役所の担当さんからは「子供向きにアレンジを」とか言われていたみたいだけど、「大丈夫です。商店街で実証済みですよ」はなちゃんはニコニコ笑顔で押し切った。
 で、あたしたちはいつものように演った。ちゃんと子どもたちは喜んでくれてスタンディングオベーションになった。
 そして新曲の『わたしは前へ!』はサプライズにしていたので、さらに客席は盛り上がった。

「ね、中央前から5列目見て!」

 袖に引っ込んでから三好さんが嬉しそうに言った。
「……松永さんのお父さんとお母さんだ!」
 観客席を向いたモニターに映っていた。
「うまくいったんだ……手術!」
 はなちゃんが声を押し殺してガッツポーズをした。
 みんなも音を立てずにエアー拍手をした。

 今年の子どもの日は最高だった!

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・25『夏鈴の遅刻』

2018-03-21 15:14:23 | 小説3

通学道中膝栗毛・25

『夏鈴の遅刻        

 

 

 夏鈴はめったに遅刻しない、わたしもしない。

 

 っていうか、毎朝いっしょに登校するんだから遅刻するんだったら二人そろってということになる。

 ……その夏鈴が昨日は大幅遅刻した。

 だから「ちょっと、なんで、そんなに機嫌悪いのよぉー?」などとのんびり聞いてくる。

「んでもない!」とそっぽを向いたのは、三月には似合わぬ寒さと運の悪さと先生たちの心無い仕打ちにあったから。あ、仕打ちと言い切ると申し訳ないかな……うちの担任が日直の指示を忘れるなんてポカは日常的だし、授業中にトイレに行きたいと言って「大きい方か小さい方か?」と言うのも不器用な親愛の情の発露だと思えるくらいの寛容さは持ち合わせているつもりだ。

 でも、ああも立て続けに嫌なことが起こってしまうと、ついツッケンドンにソッポを向いてしまったりする。

 だれにだって、こんなダメダメな日はあるでしょ?

 でも、夏鈴にツッケンドンにしたことは悔やまれて仕方がない……。

 

 午後からは終業式でもあった昨日、お昼には機嫌も戻って「帰ろうよ」と夏鈴の横に……でも、いつものように鞄を持って付いてくる気配がない。

「どうしたの?」

 夏鈴は、心なし思い詰めた顔で席に座ったまま。

「あ……ちょっと先生に用事あるから先に帰って」

「え、あ、うん……」

「あとでメールするから」

「う、うん、待ってる」

 なんとも気まずく学校を出た。

 寒いうえに風が強く、寒さをしのいでたなびくスカートに気を付けているうちに電車に乗って家に着いた。

 熱いお茶淹れてコタツに足を突っ込んだところでスマホのシグナル。

――7時にうちに来て――

 そっけない八文字。せめて😊マークくらい付けろよな……そう思うけど、なんだか、胸がサワサワして落ち着かない。

 七時まで時間ありまくり、晩御飯とお風呂に入る時間を差っ引いても三時間は手持無沙汰。

 パソコンを起動させてネットサーフィンする。

 Yahoo!ニュースもYouTubeもモリカケばっか、高校生はバカじゃない、どう追及したって安倍首相に責任があるなんて思えない。追及する野党は、まるでいじめっ子だ。安倍さんの支持率は10%ちかく落ちたけど、野党の支持率は毛ほども上がらない。未来のない人たちだと思う。十代二十代の七割は安倍さん支持。去年の選挙の最終日、アキバで安倍さんが演説していて、若者たちは熱いエールを送って――NHKは帰れ!――のシュプレヒコール。もう安倍さん支持は鉄板だ。気づかない気づこうとしない野党もマスコミも未来はないね。

 お勧めの動画をクリックすると春休みの格安穴場旅行……東京近郊でも諭吉さん一枚で遊べるところが結構ある。ピュアのバイトは土日限定だから、都合をつければいけるところがけっこうある。東京の近場なんてと言う人も居るかもしれないけど、外国人は、わざわざ飛行機に乗ってやってきたりしている。ディスカバージャパンなんてノスタルジーな言葉が浮かんでくる。

 よーし、夏鈴と二人近場に行こう!

 レスリングと相撲で不祥事……多いよね、不倫したり暴力だったりパワハラだったりセクハラだったり……でもさ、書いてる週刊誌とか新聞とかテレビとかの人たちはどうなんだろ、時分の事は棚に上がったまま?

 どこかの国の王様が急死……逝去? なんて読むんだろセツキョ? コピーしてググってみる……セイキョと読むんだ。一つ賢くなったところでお風呂に入って晩御飯。

 その間もアニソンのメドレーをかけとく。

 良さげな新曲が流れてきたので、風呂上りにチェック。久石譲さんが音楽担当している新発売のゲームだ。二ノ国2か……前作は小学校の時にやったなあ……夏鈴といっしょにやってみよっかなあ……。

 ご飯食べながらゲームの発売日をチェック。

 バイト、小旅行、ゲーム、 三つも春休みのお楽しみが見つかった。

 気が付くと七時が迫っている。晩ご飯は帰ってから、いや、夏鈴と一緒に食べようか?

 

 自転車と思ったけど、いっしょに晩御飯とかになったらかえって邪魔。

 

 パーカー羽織って夏鈴の家を目指した。 

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・6[もうこのへんで……]

2018-03-21 06:44:44 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト・エタニティー症候群・6
[もうこのへんで……]



 秋分の日を前に、今年は10月下旬の涼しさになっている。

 それを承知で、神野は特盛のアイスクリームを2つ持ち、一つを麗に渡した。

「立花さんの脳みそと心は原子炉並だ。少し冷やした方がいい」
「そうかもね……」
 二人は、並の人ならアイスクリーム頭痛をおこしながら10分はかかるであろう、新宿GURAMのジャンボアイスを1分余りで食べつくした。
「神野さんも、相当熱い」
「いや、冷たいことに慣れすぎているのかもしれない……」
 東京の都心まで出てきたデートの最後の会話がこれだった。

 麗の人気は、ちょっとしたアイドル並になってしまった。それほど文化祭の成功は大きかった。野外ステージの反響も大きくYouTubeでのアクセスも、スポンサーが付くほどの数になった。また、校長先生と回ったご近所へのお詫びも大変好評で、これはSNSで、みんなが取り上げ、礼節、貞淑などとカビの生えたような賞賛まで飛び交った。麗は世代を超えて地域的な有名人になってしまった。
 で、神野とのデートも、わざわざ県外の東京にまで出てきたのだが、新宿GURAMの前で、テレビ局に掴まってしまった。

 麗自身はブログなどやっていなかったが、学校の生徒が、自分のブログに麗のことを載せ、そのアクセスがはねあがるという状態であったのだ。

 そんな中、演劇部の『すみれの花さくころ』は予選を無事に最優秀で飾ったが、連盟が熱心に情宣をやらないので、会場は、なんとか満席程度で済ませることができた。
 問題は、県の中央大会(本選)であった。会場の県民文化ホールは、キャパが1200あまりしかない。そこに1万人を超える麗のファンが押し寄せた。連盟の実行委員の先生たちは頭を悩ませたが、地元の新聞社が救いの手を差し伸べた。
「本選終了後、私どものホールを提供いたします。2日にわたる無料公演を行いますので、整理券を……」
 そうネットで流した10分後には、ネットでの入場整理券は配布終了となり、その5分後に整理券は法外なプレミアが付いて、最高で1万円の値がついた。

 本番は、麗の学校の一つ前の御手毬高校の上演中から、観客席は麗目当ての一般観客が押し寄せ、御手毬高校は手前の審査員席でさえ台詞が聞こえない状態になった。
「ほんとうにごめんなさい」
 麗は心から御手毬高校に誤ったが、女子高生のツンツンは一度へそが曲がると容易には戻らない。そこには嫉妬の二文字がくっきり浮かんでいた。「感じわる~!」部長の宮里はむくれたが、麗はただ頭を下げるのみであった。

 演奏やダンスは、文化祭後仲良くなった茶道部・ダンス部・軽音楽部が参加してくれて、本編は、ほとんど宮里と麗の二人だった芝居が歌とダンスのシーンになると、まるでAKBの武道館のコンサートのようになり、緩急と迫力のある舞台になった。

 だが、審査結果は意外にも選外であった……。

 一見すごくて安心して観ていられるが、作品に血が通っていない。思考回路、行動原理が高校生のそれではない。それに数と技巧に頼りすぎている。

 観客席は一般客の大ブーイングになった。

 宮里も山崎も、美奈穂も悔し泣きに泣いたが、麗は氷のように冷静。マイクを借りて、こう言った。
「言語明瞭意味不明な審査ですが、甘んじてお受けいたします。もうS会館で、あたしたちの芝居を待ってくれている人たちが1万人待ってくださっています。それでは会場のみなさん、S会館の前でお待ちのみなさん、40分後に再演いたします。どうぞ、そちらにお移りください」
 そう言って、麗たちが、席を立つと一般客も雪崩を打ったように会場を出てしまい、後の講評と審査はお通夜のようなってしまった。

 麗たちは、都合二日にわたり、4ステージをこなした。ネットでもライブで流された。麗は期せずして、どこのプロダクションにも所属しない日本一のアイドルになってしまった。

「ちょっと、風にあたってきます」

 麗は、そう言って楽屋を出でバルコニーに出た。常夜灯がほんのり点いたバルコニーに人影……予想はしていたが神野が立っていた。
「ちょっと、やりすぎてしまったね」
 神野は優しく寂しそうに言った。
「そうね、この一か月で十年分……いえ、それ以上に走っちゃった。楽しかったわ」
「じゃ、少し早いけど、次に行こうか……」
 麗としては全てが理解できたわけではなかったが、麗の中のべつのものが納得していた。
「じゃ、いくよ」
「ええ、いつでも」

 神野が指を鳴らすと、麗の姿はゆっくりと夕闇の中で、その実体を失っていった。宮里が探しに来た時は気の早い木枯らしが吹いているだけだった。


※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。

 エタニティー症候群 完

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高校ライトノベル・アーケード・23・芽衣編《中略》

2018-03-20 14:19:26 | 小説

・23・芽衣編
《中略》



 対立候補がいないので、ほとんど信任投票だった。

 でも、信任投票であっても、自分なりの考えと学校への想いを知ってもらって投票してもらおうと思っていた。
 だから一週間かけて、あーでもないこーでもないと推敲に推敲を重ねて演説原稿を考えて書き上げた。

 でも、本番ではぶっ飛んで、真っ白になった頭で思いついた言葉を喋ってしまった。

 原稿では、江戸時代の藩校から続いている相賀高校のすばらしさを語り、伝統を今の時代に合わせて発展させようということになっていた「古き良きお酒を新し器に!」がキャッチフレーズだった。

 でも全部とんでしまった。「古き良きお酒」か「良き古きお酒」だったかで混乱。生徒会選挙に「お酒」というフレーズが相応しいだろうか? などとウジウジしていたら、勝負服の違和感と相まって、なにも出てこなくなってしまった。
 気づいたら選挙管理委員長の『制限時間いっぱい』というカンペに驚いて、唐突に終わってしまった。

 当選の知らせを聞いたのは保健室のベッドの上。

「めいちゃん、圧倒的多数の票で信任当選だったわよ」
 はなちゃんが耳元で囁いてくれた。
「ほんと……?」
 そう言ったきり再び意識が無くなった。
 
「では、めいちゃんの生徒会書記当選を祝して、かんぱーい!」

 2日寝込んで危うく流れそうだったけど、あたしの当選を祝してくれて、うちのお店でお祝いのパーティーになった。なにか祝い事があると、みんなで集まって飲み食いするのが商店街の慣わしだ。つい先月、こうちゃんが具足駆けをやってお祝いをやったところだけど、こういうももは何べんやってもいいもんだ。今日は商店街の幼なじみのほかにもアーケーズの三好さん畑中さん大久保さん高階さんも来てくれている。
「まず、めいちゃん。当選の弁からお願いします!」
 こうちゃんが張りきって言う。こういうお祝いの席は、前回お祝いしてもらった者が司会を務めることになっている。
「やだあ、本人の言葉は一番最後にやるもんじゃないよ!」
「今日は途中で抜ける人もいるから、最初にやってよ」
「仕方ないなあ……えと、応援どうもありがとうございました。本番はぶっ飛んで、原稿に書いていないことばかり喋りました。正直なところ体育祭の馬合戦復活は唐突過ぎて賛成してもらえないかなと心配でしたが、意外にたくさんの人にご賛同いただいたようで、ほんとうに嬉しいです!」
「あ、あれは唐突だったぜ」
 りょうちゃんが実も蓋もないことを言う。
「そうじゃないわよ」
「だって」
「りょうちゃんは黙ってて」
「みんなの心にしみたのはね、馬合戦の前説で言ってたことよ」
「「「「「「「「「「そうそう」」」」」」」」」」」
 みんなの声が揃った。
「え…………?」
「あたしらの相賀高校ってか相賀の街って、新旧の住人に、ちょっと溝があるって話」
 ふーちゃんがしみじみと言った。
「あたしらのバレー部がパッとしないのは、そういうとこにも問題ありなんだと思い知らされた」
「わたしバレー部のことなんか言った?」
「直接じゃないけど、運動部の試合にも影を落としていることがあるって。凡ミスの原因の一つなんじゃないかって、バレー部でも話題になった」
「うん、めいちゃんの話って、半分以上は新旧の生徒の意識のずれのことだった」
「それが一々的確でさ。めいちゃんが、あんなに詳しく気が付いていたのは意外だったってか、尊敬したわよ」
「わたし全然覚えてないわよ」
「ハハハ、そうかもね。めいちゃんの記憶の中じゃ中略になってるもんな」

 わたしは、この小説の前号を読み直してみた。確かに、わたしの演説は、その部分で『中略』になっていた。


※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

 三好さん、畑中さん、大久保さん、高階さん   商店街じゃないけどアーケーズの仲間

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・24『寒いのだ!』

2018-03-20 13:58:34 | 小説3

通学道中膝栗毛・24

『寒いのだ!        

 

 昨日とは打って変わって寒いのだ!

 

 花冷えと言う言葉があるけども、やっと靖国の標本木がチラホラ咲きだしたばかりで「花冷え」というのも気が早いような気がするし、「花冷え」という「ま、春にしては冷えるね」というような冷え方ではないのでこだわっている。

 言うまでもなく、三月の半ばともなれば学校に暖房なんぞはない。

 学校が作ったのか教育委員会の指示なのか、教室の室温が十八度を下回らなければストーブを点けてもらえない。

 

「教室二十度もあるからね……」

 

 朝のSH(ショ-トホームルーム)で、わが担任が残念そうに言う。たしかに黒板横の寒暖計は摂氏二十度を指している。

 気弱な先生を困らせたくないから言わないけど、この寒暖計はどうかと思うのよ。

 だって、わたしの席は窓側の後ろ。晴れてさえいれば昼食のあとなど上目蓋と下目蓋が講和条約結びそうになるほど暖かいけど、あいにくの曇り空。

 ジョーダンじゃねーぜ、窓際は十六度っきゃねーんだぜ……

 前の席の男子がヒッソリと呟く。同感なんだけど、呟いているだけじゃ改善はされない。余計イラつくから、止めてよね、地震と勘違いしそうな貧乏ゆすり!

「えと、小山内さん、日直だから学級日誌とりにきてね」

 担任が去り際に言う。

 え、あの、黒板にはAさんが日直だって……書いてあるんですけど。

「あ、二日ほど書き忘れてた」

 そういうと、なんのこだわりもなく日直の下に小山内と書き入れる。文句の一つも言っていいシュチエーションなんだけど、気弱なわたしは戸惑った顔するしかない。

 もう一時間目のチャイムが鳴りそう……わたしは職員室までダッシュする。

「こら、廊下走っちゃダメだろ!」

 SH終えて出てきた隣の担任が無情の叱責。後ろにうちの担任いるんだから一言言って欲しいわよ。

 

 職員室のドア開けてムカついた!

 

 なんと、職員室は三つもストーブがあって、いずれも赤々と稼働中。

 いちおう決まり通り、クラスと名前を名乗り学級日誌を取りに来ましたと告げる。

 すると、学級日誌たての近くの(名前も憶えていない)先生が――声でけーんだよ――という顔をする。

 口ごたえすると数倍にして返されそうなので、サッサと日誌をとって失礼する。

 急ぎ足で教室に戻ろうとして、日誌の表紙を見る……なんと隣のクラスの日誌。

 

 クソ!

 

 急いで取り換えに戻る……ゲ、うちの日誌が無い!

 伊達に二年生をやっていないのよ。一年生の同じクラスのところに学級日誌、取り出してみるとまごう方なき我がクラス。

 先生が入れ間違えた……こみ上げるものをグッと堪えて教室に向かう。

 トイレに行きたかったけど、チャイムが鳴る前のスピーカーの密やかな唸り声がする……数秒逡巡。

 むこうの渡り廊下を一時間目の先生が行くのが目について「クソッ」とこぼして教室へ。

 

「日直の仕事はテキパキやろうなあ」

 

 一瞬遅れて入ったわたしに先生のイヤミが飛んでくる。

「あ、延長コード忘れた。すまん日直、職員室までとってきてくれ」

 ムッとしたけど、仰せのままに職員室へ。

 コードを持って戻ってみると、なんと先生の足元に電気ストーブ、これのためのコードなのかよ!

 おもわず睨んでしまったんだろう、先生の目が不機嫌そうに細まる。

 おっと、わたしは平和主義なんだ、メイドのバイトだってしてるんだ、メイドは笑顔が第一!

 十五度しかない自分の席へ……冷た!

 ほんの数分離れていた席は、スカートの生地を突き抜けてくる。

 

 授業開始九分後、わたしは窮した。めちゃくちゃトイレに行きたくなってきた……。

 

「先生、トイレに行かせてください」

 

 勇をふるって言ったわよ。笑顔なんて余裕ないから、きっと怖い顔になってたと思う。

 だけど、こういう言い方は無いと思うわよヽ(`Д´)ノプンプン!

「なんだ、大きい方か小さい方か?」

「し、知りません!!」

 泣きたい気持ちで教室飛び出したわたし。

 

「ちょっと、なんで、そんなに機嫌悪いのよぉー?」

 

 家の用事で遅刻してきた夏鈴がノドカに聞いてくるが「なんでもない!」とそっぽ向くしかないわたしだった。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・5[われ奇襲に成功せり!]

2018-03-20 06:10:12 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト・エタニティー症候群・5
[われ奇襲に成功せり!]



 文化祭は大成功だった。

 麗の学校は、地域との連携を取るために、文化祭の参観は、ほぼ自由だった。
 なんと、たった一日の文化祭に一万人を超える参観者が来た。その半分近くが演劇部茶道部合同のパフォーマンス目当てだった。
 
 YouTubeで流した毎日のメイキング映像が、予想以上に人を集めたのだ。

 本番までのアクセスは二万件に達した。麗は裏方のことにも詳しく、特に照明と音響が命であることを承知していたので、衣装を貸してくれた大学に掛け合い、オペレーターの人員付きで機材を貸してもらった。学生たちは演劇科の舞台技術の学生たちで、いい練習になるということで、セッティングの企画からオペまで任せることを条件にロハでやってもらった。

 前日のリハで、手伝いにきていた演技コースの学生が「面白そうだからMCやらせて!」ということで急きょ、ほとんど専門家と言っていい学生たちが、ディレクターとMCを引き受けてくれることに。
 そして、勢いとは恐ろしいもので、軽音とダンス部が羨ましがり、三つの出し物が一つのイベントのようになった。そのリハの日のメイキング映像は、これも面白がって付いてきた放送学科の学生たちが、本格的なカメラで撮り、本格的に編集してその場でYouTubeにアップロードされ、一晩だけでアクセスが二千件ほどになり、通算一万件のアクセスになり、その半分近くが動員人数になった。
 他の生徒たちは、自分たちの準備に忙しく、YouTubeなど見ている間が無く、これだけ盛況になるとは思ってもみなかった。なんせ、麗は以外は、当の演劇部自身も予想していなかった。

 戦争なら、敵は一番弱いところを全力で叩きにくる。イベントなら新鮮な面白さが感じられるところの人は集まる。麗は戦争と同じだと思っていた。

「あたしたち朝一の出番でいいわよ」
「ええ、麗ちゃん、朝一なんてお客ほとんどいないわよ」
 麗の申し入れにスケジュールの調整に苦労していた生徒会は喜び、宮里部長は不服そうだった。
「大丈夫だって、その代りお客が多くて、アンコールとかかかったら、空いた時間にやらせてくれる?」
「ああ、いいよ」
 生徒会長は、あり得ない話だろうとタカをくくってOKを出した。

 で、結果的には、その麗の予想をさえ超える観客が、朝から集まった。

「申し訳ありません、昼休み前に、もう一度やりますので、それまで他の企画をお楽しみください」
 と、生徒会長は答えざるを得なかった。
「じゃ、それまで模擬店でも回るか」
 と、大半のお客はたこ焼きやら、ウインナーなどの模擬店回りをやった。そのために食材が無くなり、模擬店はどこも昼前には店じまいの状態。喜んだのは学校周辺のお店だった。コンビニやファミレス、蕎麦屋などにお客が流れ始め、地域経済の振興にも一役買った。
 そして、噂は噂を呼び、昼前の第二回公演では、立ち見も含めて900人、それでもあぶれる人たちが出た。

 餅屋は餅屋という言葉がある。

「いっそ、野外でやろう!」

 大学生が張りきった。昼休みのうちに、校舎とグラウンドの間の段差をステージにしてしまい、あっという間に照明とPAの機材のセッティングを終えた。お客は、そのセッティングさえ珍しく、かつ面白いので、20分押した準備も気にはならなかった。
 観客はグラウンドの半分を占め、軽音・ダンス部・演劇部茶道部の合同チームは、MCの進行も良く。
「どう、いっそみんな一緒にやっちゃわない!」
 その提案に観客も大喜び。『会いたかった』『ヘビロテ』『フォーチュンクッキー』そして『お別れだけどさよならじゃない』は、最後は観客も交わり、大盛況のライブイベントになってしまった。

「奇襲大成功ってとこかな」

 麗は、そう呟いたが誰も気づかなかった。ただ急きょグラウンドでやったので、その騒音は近隣に鳴り響いた。終了後、すぐにご近所にお詫びの戸別訪問をしなくちゃ。そう思った麗は道連れになる校長先生のバーコードが憐れに思えてくるのだった……。


※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・23『芋清ふっかつ!』

2018-03-19 13:40:23 | 小説3

通学道中膝栗毛・23

『芋清ふっかつ!        

 

 

 改札を出て一瞬迷ってタタラを踏んだ、夏鈴もわたしも。

 

 アハハハ

 

 そろって迷ったのがおかしくて笑い出す。

 わたしたちの年頃って、すぐに笑っちゃう。いわゆる箸が転んでもおかしい年ごろ。

「で、どっち通って帰る?」

「う~んと、商店街にしよっか」

 風光る季節、たんなる下校中でも、ついあれこれ寄り道したくなる。

 おりしも気象庁から東京の桜の開花宣言が出された。電車の吊革につかまっていても、窓外の春霞の中、わずかに咲きだした桜が目についた。

 だから、改札出たら神社と公園に寄ってほころび始めた桜を愛でてみようかという気持ちになったんだ。

 でも、エスカレーター下りて改札に向かっていると、商店街の方角から焼き芋の匂い。それで、どっちにしようかという迷いがタタラを踏ませたんだ。

「とりあえず焼き芋だね!」

 そう決めると、ふたりでスキップしながら商店街を目指した。

 焼き芋屋さんは商店街入って五軒目くらいのところにある間口一間ほどの小さなお店。屋号は『芋清』冬場は焼き芋、春からはたこ焼き、夏になると冷やし飴と冷やしコーヒーが加わる。お爺さんとお婆さんでやっていて繁盛というほどではないけど、そこそこにお客さんは付いている。

 その焼き芋屋さんが正月の松が取れたころから閉まっていた。

――暫らく休みます――の張り紙がずっとしてあって、ひょっとしたら、もうお店を畳むのかなあと心配していた。

 その焼き芋の匂いがしたものだから、スキップにもなるわけよ。

「おいちゃん、ひとつください」

 お爺さんだけど「おいちゃん」と呼ぶのは常連客のしきたりだ。

「今日はお祝いだから、サービスしとくよ」

「わあ、ありがとう。駅で匂いがしだしたらたまらなくなっちゃった」

「へへ、じゃ、食べやすいように分けてあげるね、おい、婆さん」

「はいよ」

 お婆ちゃんが手際よく大きいのを二つに切ってくれて、別々に持たせてくれる。

 二人でハフハフ頬張りながら商店街を帰り道。

「お客さんの相手してる時の笑顔がいいよね、焼き芋屋さん」

「うん、いちど病院の待合で見かけたんだけど、ちょっと暗かったもんね」

「そりゃ、病院でニコニコしてる人ってあんまりいないと思うよ」

 それには応えないで、鈴夏はつづけた。

「ああいう笑顔がピュアでもできなきゃね」

「ピュア?」

 名詞を副詞と取り違えて鈴夏が?顔になる。

「やだ、新しいバイト先でしょ」

「あ、ああ。わたしも栞もメイドさんだもんね!」

「うん、そのピュアのマニュアル。とりあえず笑顔と元気な挨拶って書いてたよね」

「よし、がんばるか!」

 

 プルルルル プルルルル

 

 唇をアヒルみたくして息を吐きだしながら震わせる。マニュアルに示されていた滑舌訓練法なんだ。

 他にも舌を上あごに触れるようにして震わせるトゥルルルル~ってのもある。一人でやってるとバカみたいなんだけど、芋清で元気が出てきたんで期せずしてやってしまう。

「ちょっと、焼き芋吹き出してるよ!」

「あ、あはは、いっけなーい!」

 そういう鈴夏のホッペにも焼き芋の皮がくっついていて、笑ってしまうわたしでした。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・4[麗の前哨戦]

2018-03-19 06:31:40 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト・エタニティー症候群・4
[麗の前哨戦]



※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。


『すみれの花さくころ』の稽古は楽しかった。

 正確には演技することが楽しかった。麗は、自分でもこの頃、自分自身が変わってきたように感じていた。人ともよく喋るし、部活もするようになった。流行のアイドルの歌などにも関心を持つようになった。
 でも、麗は思った。本当の自分は別のところにある。あるんだけど思い出せない……で、思い出さない方が幸せなのかもしれないと。

「文化祭で、この芝居は無理よ」

 麗は、三人の部員にズカッと言った。部長の宮里が不服そうに言う。
「だって、演劇部が文化祭で芝居やらなきゃ、存在意味がないじゃん」
「固定概念に囚われちゃいけないと思うの。芝居って、せんじ詰めれば自分以外の何者かにメタモルフォーゼ……あ、変身て意味。変身してエモーション……情念とか感動を観客と共有することだと思うの」
「……かな」
「だったら、歌っても踊っても同じことだと思う。文化祭って、いくつも模擬店とか出し物とかのイベントがあるじゃない。そんな中で50分も観客縛りつけておくのは無理だし、演劇部が、ますますオタクの部活だと思われてしまうんじゃない?」
「うん、立花さんの言うことにも一理あるよな」
 副部長(と言ってもたった二人の正規部員だけど)の山崎が応じる。
「それにさ、美奈穂さんがギター上手いのに、挿入曲の伴奏だけじゃもったいないわよ」
「あ、あたしは単なる助っ人だから」
「使えるものは先輩でも猫の手でも使います!」

 で、麗の勢いで決まってしまった。AKBのメドレーをやって、ラストに『すみれの花さくころ』のテーマ曲『お別れだけどさよならじゃない』で締めくくって、コンクールの観客動員にも結び付ける。

「でも、人数しょぼくない?」「衣装とかは?」宮里の疑問ももっともだ。でも、麗の答えは「任せてちょうだい」だった。

 人数は、もう一つの部活の茶道部に頼んだ。
「お茶には、わびさびの他にハレの感覚も必要だと思うの。お茶の家元さんなんか意外に若いころはロックとかやってたりするのよ。例えば……」
 これで、茶道部16人をその気にさせた。
 衣装はネットで当たってみた。過去にAKBのレパをやった大学のサークルやグループを探しては問い合わせてみた。三件目でヒットした。
3年前の学園祭でAKBのヘビロテをやった大学のサークルが衣装をそのまま残していたのだ。ちょっと一昔っぽいけど、一番AKBっぽい。

 レパは4つ。『会いたかった』『ヘビロテ』『フォーチュンクッキー』そして『お別れだけどさよならじゃない』

 麗は、一晩でAKBの三曲のカンコピをやった。あたまに「率先垂範」というむつかしい4文字が浮かんだ。

 練習場は近所のダンス教室のスタジオを格安で借りた。借り賃は顧問を拝み倒し、また稽古風景をメイキングにしてYouTubeで流し、ダンス教室のPRもすることで折り合いがついた。
「やっぱ、ナリからだね!」
 みんなAKBもどきのコスを着てダンス教室の鏡の前に立つと、俄然テンションが上がってきた。その様子を山崎クンに撮らせてYouTubeに流した。AKB、女子高生、文化祭、本番までのメイキングというタグ付けで、初日のアクセスが300件を超えた。

 麗の前哨戦が始まった……。

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高校ライトノベル・アーケード・22・芽衣編《ボコッ!!》

2018-03-18 13:02:57 | 小説

・22・芽衣編
《ボコッ!!》



 演壇に立つと全部とんでしまった。

 立会演説のスピーチは何日もかけて書き上げた。こうちゃんからもらったお母さんの原稿も取り入れて、一昨日やっとできあがった。
 で、本番はアンチョコ無しでやろうとスピーチ原稿を全部暗記した。今朝、商店街の仲間に立ち会ってもらって「めいちゃん、完璧だよ!」とお墨付きまでもらった。
「念のためにもう一回やっとこう」
 お昼休みに、こうちゃんが言ってくれたけど「静かにイメージトレーニングしたいから」と断った。

 断ったのが悔やまれる。暗記したはずのスピーチが全部とんでしまった。

 立会演説に気合いを入れるために、制服はクリーニングのしたて。ブラウスも下着も新品にした。人には分からないが勝負服だ。
 でも、ここに至って、勝負服の違和感がわたしの感覚を支配していた。
 言葉がちっとも出てこないで、おニューのブラウス、その襟や袖口が肌に当たるウブな感触。クリーニングしたてのスカートの生地が太ももに当たる、清潔ゆえに感じるよそよそしさ。ニーハイのわずかにキツイ締め付け感。ブラのストラップがいつもより5ミリほど内側に当たる違和感。ゆうべ代えたおニューのシャンプーの香りさえよそよそしい。

「あの……えと……」

 意味もなく後れ毛をかきあげる。かきあげた手に700人余りの全校生徒の注目が集まる。
――めいちゃん、がんばれ!――
 お寺のはなちゃんが、口の動きだけで応援してくれる。それにあわせて商店街の仲間の視線が集まるのが分かる。
――こんなに大勢いても目力って感じるんだ。りょうちゃんも真面目に黙っていれば、けっこういけるんだなあ――
 関係ないことばかり浮かんでくる。あせって視線が泳ぐ。
 またオーラを感じる。三好さんと畑中さんだ。商店街組じゃないけどアーケーズの仲間だ、いつもは一歩引いたところにいるけれど、今は全身全霊で応援してくれている。

 すると言葉が出てきた。

「……わたしには仲間がいます。同じ商店街で兄妹のように育った仲間。幼なじみです。それこそオムツをしていたころからの仲間で、もう16年の付き合いです。他にも仲間がいます、小学校からいっしょだった人たち、中学校からいっしょだった人たち、そして高校に入っていっしょになった人たち。付き合いの長さはまちまちですが、みんな仲間です。
 でも、仲間だから、なんでもかんでも力を合わせて頑張れるわけはありません。
 この相賀高校には、大きく分けて二つの仲間があります。一つはずっと昔から相賀の町に……というか、相賀の御城下に住んでいた人たち。もう一つは親の代、ひょっとしたら、ほんの何年か前に相賀の町に越してきた人たち。むろんもちろん同じ相賀高校の仲間です。
 でも、そう大きく括ってしまっては零れるものがあります。たとえば文化祭で模擬店をやった場合、焼きそばの作り方が微妙に違います。相賀は焼き上げる寸前に出汁を加えます。だから最初に麺をほぐすときにはあまり水を加えません。たがいに違うと思っているので、遠慮してしまって、どっちでもない関西風にやってしまったりします。玉子焼きも相賀は関東では例外的に甘くない玉子焼きです…………

(中略)

 ………このように互いに遠慮したり気配りしすぎたりして、ほんとうなら100+100で200の力になれるところが、100ほどの力にもなっていなくはないでしょうか?
 僭越ですが、わたしたちは商店街の女の子たちでアーケーズというユニットを組んでいます。メンバーは昔から組とお引越し組とが居ます。がんばってはいますが、まだ完璧には……そう100+100=200にはなれています。でも人間て違うと思うんです。100×100は10000です! 人間は化学変化を起こして掛け算になることもあるんです! 
 具体的な提案です(いま思いついた)。体育祭では危険ということで数年前から馬合戦、普通に言えば騎馬戦ですね。これが中止されています。この馬合戦は相賀の伝統行事『馬揃え』の『旗絡め』から来ています。伝統の行事と新しいアイデアで復活しませんか? これは単に体育祭の種目の問題ではないのです。みんなが知恵と力を出し合ってやり遂げる、その第一歩になればと思います! あ、え、あ、時間ですか? ではみなさん、書記候補の百地芽衣でした、よろしくお願いします!」

 次の瞬間、体育館中にボコッ!!という音が響いた。お辞儀をしすぎてオデコがマイクに激突したのでした。
 

※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

 三好さん、畑中さん、大久保さん、高階さん   商店街じゃないけどアーケーズの仲間

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・3[麗の部活探し]

2018-03-18 06:41:09 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト・エタニティー症候群・3
[麗の部活探し]


※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。


 あの日から麗は人が変わった。


 クラスメートとも気軽に話すようになったし、冗談も言うようになった。
 授業中も以前なら先生が間違えたりごまかしたりすると、容赦なく責め立てた。特に社会科の授業で日本の批判をするような教師には「根拠を示してください」とか「現代の道徳観で過去の歴史を見れば、全ての時代が暗黒の時代になります。同時代の他国との比較の上に論じなければ意味がありません」などとやり、誤魔化そうとしようものなら高校生とは思えない知識と論理で徹底的に論破された。

 それが、このごろは、そういうことをしなくなった。今日の二時間目などはAKBの『心のプラカード』を口ずさんで叱られ、赤い顔をして俯いたりした。

 麗は入学以来クラブに入ったことは無かったが、なんと二年の二学期になって、クラブの見学に行くようになった。
「すみません、見学させてください」
 二年の見学などめったにいないのだが、学年でも飛び切りの美人(けして可愛いという範疇ではない)が来るのだから男子部員はホクホクと鼻の下を延ばした。
「あたしもやっていいですか?」
 と、剣道部で言った。
「じゃ、防具つけて。美奈穂手伝ってやれ」
 と、部長が言い終わったころには、身支度を済ませて竹刀を構え蹲踞していた。
「早いな……じゃ、美奈穂。素振りから胴と面うちを……」
「試合させてください」
「え……じゃ、美奈穂、怪我させないように」
 と、四人いる女子部員で、引退前の三年生の美奈穂に指示した。
「じゃ、立花さん、正眼に構え……」
 麗は、すでに隙のない正眼に構えていた。

 一発で胴を決めた。むろん麗の勝ちである。

 しつこく勧誘されたが、剣道部で自分より強い者はいないと見きって、断った。柔道部もチラリと覗いたが、剣道部以上に下手なので、見学もしないで、スルーした。
 一応茶道部に入ってみた。ただ月に数回の部活なので、まだまだ余裕である。
「あなたの手って、表千家ね」
 と、お茶の先生に言われたのが動機だ。自分がお茶の作法を知っていたのも驚きだったが、なんだか心が落ち着くので、月に何度かお茶をたしなむのもいいかと思ったのだ。

 そんなある日、グランドと校舎の間の段差に座って意気消沈している二人の女生徒と一人の男子生徒に気づいた。そのうちの一人は剣道部の美奈穂であった。

「どうかしたんですか、美奈穂さん?」
「あ、あなた立花さん!?」

 意気消沈しているのは、演劇部だった。正規の部員はたったの二人で、美奈穂はギターの腕を見込まれて、この秋にやる芝居の生演奏で協力していたのである。
「へえ、美奈穂さんて多才なんだ!」
 麗は素直に感心した。
「ありがとう、でもね……主役の子が入院しちゃって、本番間に合わないのよ。で、どうしようかって考えてるとこ」
「コンクールの申し込み24日、もう一週間しかない……」
 部長らしい女生徒が盛大なため息をついた。
「どんな台本?」
「これ……」
 渡された台本は『すみれの花さくころ』とあった。戯曲集から直接コピーされたもので余白が少なく書き込みに不便そうだが、活字そのままなので読みやすかった。
「どの役が入院したのかしら?」
「あ、その咲花かおるって役」

 斜め読みだが、麗は五分で読んだ。そして信じられないことを口走った。

「あたしで良けりゃ、やらせてもらってもいいわよ」

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・22『栞はひまり 鈴夏はひめの』

2018-03-17 15:27:42 | 小説3

通学道中膝栗毛・22

『栞はひまり 鈴夏はひめの        

 

 

 ビラまきを終えると、お店に戻ってリボンさんからレクチャー。

 

「時間まで実地教育ね。お迎えとお見送り、ポジションはレジ横。カレンさんがやるようにやってればいいから」

 ピュアは他店に比べると床面積が広く、レジカウンターの横に余裕で並べた。

「わたしがやるようにやればいいけど、時々正面の鏡みて自分でチェックしてね。ポイントはね……あ、おかえりなさいませご主人様~行ってらっさやいませ~お嬢様~」

 カレンさんもたいしたもので、わたしたちにレクチャーしながらも、きちんと仕事をこなしている。

 カレンさんにワンテンポ遅れながらもお迎えとお見送りはなんとかやれそう。

「でも、笑顔が硬いよ」

 ビラまきではガチガチだった夏鈴が冷やかす。夏鈴は学校とかお店とか、一定のテリトリーが決まっているところでは平気なのだ。ま、いっしゅの内弁慶。

 フロアーはリボンさんを入れて四人で回している。満席近くになると、ちょっと大変みたいだけど、さすがにメイドに徹した人たちばかりなので、焦ったりすることはない。実に手際よく、まるでお花畑を飛び回る妖精さんのように明るく無駄なく動いている。

 まだフロアーの事はレクチャーされていないので、お客さんから声をかけられるのではとヒヤヒヤしたけど、あいにくというか幸いというか、突然テーブルに呼ばれるようなことは無かった。

「じゃ、今度はフロアーの子たちに付いてみて。ニコニコ笑顔で立ってりゃいいから」

 リボンさんのアバウトな指示にも戸惑わなくなった、リボンさんはお客さんに対してはツインテールの妹系で、わたしが見ても可愛いんだけど、わたしたちには少々ツッケンドンで口数が少ない。

 レジ横で見ていたので、だいたいの動きは分かった。

 レジのカレンさんが「お席は、あちらになりま~す」と言うと、スタンバっているヒナさん、レモンさん、ココアさんうちの一人が、ごく自然にオーダーをとりに行く。わたしと鈴夏は、どちらかがくっ付いて行って、いかにも見習いという感じで控えている。

 オーダーの取り方やお辞儀の仕方なんかは見て覚えられるんだけど、以下のことがやりにくい。

 

「呼び方のオーダーはいかがいたしましょう? ちなみに『ご主人様』の他に『旦那様』『~くん』『~ちゃん』『お兄ちゃん』『お兄様』など各種ございま~す♪」

「それでは、ご注文の品が美味しくなるお呪いをしたいとおもいま~す🎵 おいしくな~れ おいしくな~れ ラブ注入🎶」

「お兄ちゃんてばバースディなんだ! それじゃ、バースデイソング歌わせていただきま~す♡」

 ほかにも何種類かあるんだけど、これは、ちょっと無理っぽい。

「そういうのはヘッドドレス替わってからでいいから」

「え、ヘッドドレス?」

 リボンさんは黙って鏡の中の自分とわたしの頭を指した。

「あ、あーーー」

 かたちはいっしょなんだけど、リボンさんのそれには淡いピンクのハートが付いている、わたしたちのも付いているんだけど、輪郭だけしかない。

「輪郭だけのは見習い」

 なるほど、このハートマークでスタッフもお客さんも区別をつけていたんだ。どうりで難しい仕事が回ってこないわけだ。

「来週からはやってもらうから、これ読んで覚えてきて」

 A4のプリントとDVDを渡される。パッケージには『ピュア スタッフマニュアル2018』とプリントされていた。

「きょうは、ここまで。まかない出るから食べてって」

 控室で着替え終わると、リボンさんがトレーに載ったオムライスを持ってきた。

「おー、これ頂けるんですか!?」

「うん、はんぶん研修だけど。はい、ケチャップ持って」

「え?」

「ケチャップで文字書くのは必須だから」

 なるほど、これはやってみなければコツとかは分からない。

「で、なにを書けば?」

「小山内はひまり、足立はひめの、名前のお尻にハートを書く。やってみ」

 ……やってみると、案外むつかしい。オムライスの上をケチャップまみれにして初日が終わった!

 

 

 

 

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・2[もう少し楽になろうよ]

2018-03-17 06:34:45 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト・エタニティー症候群・2
[もう少し楽になろうよ]



 苛烈などというものではなかった。

 東鶏冠山北堡塁は旅順要塞の東に位置し、旅順攻撃の初期のから終結時まで激戦地になった。

 堡塁はM字型の断面をしており、Mの左肩から突撃した日本軍はMの底に落ちる。するとMの両側の肩の堡塁の銃眼から機関銃や小銃、手榴弾などでされた。
 この甲子園球場ほどの堡塁を抜くために、日本軍は8000人の戦死者を出した。乃木軍隷下の第11師団の大隊長である立花中佐が戦死したのは11月の第二回総攻撃のときであった。
 吶喊と悲鳴が交錯する堡塁の壕を目の前にして立花は身を挺さざるべからずの心境であった。8月の第一次攻撃の時は、罠にはまったと瞬時に理解し部下に撤退を命じ、大隊の損害は百余名の損害で済んだ。
 だが、今回は重砲隊による念入りな砲撃。工兵隊により掘られた坑道からの爆砕をやった上での突撃である。先に飛び込んだ部下のためにも立花は突っ込まなければ、軍人として、人間として自分が許せなかった。
 M字の底から右肩の堡塁にとりついたところ、立花は6インチ砲の発射音を間近に聞いた。死ぬと感じた。感じたとおり、その0・2秒後に彼の肉体は四散した。その0・2秒の間、彼の頭を支配したのは、内地で結核療養している一人娘の麗子のことである。

「よくもって、この秋まででしょう」

 どの医者の見立ても同じであった。そして麗子は立花の戦死の二日前に十七年の短い生涯を終えていた。
 そして、麗子は父の戦死の時間に荼毘に付されていた。三時間後、叔父を筆頭に親類縁者が骨拾いに火葬場に行ったとき。釜の前に麗子が立っていた……。

 立花は弟が腰を抜かすのを見て戸惑った。

「浩二郎!」
 そう言って駆け寄ったときの自分の声と指先を見て愕然とした。そして、弟の嫁が震える手で差し出した鏡を見て、言葉を失った。

 自分は、娘の麗子そのものになってしまっていた……。

 それ以来、立花は麗子として十年を過ごした。三年目ぐらいから自分の体に変化がおこらないことに不審に思った。友達は次々に嫁ぎ、子を成し、相応に歳を重ねていたが、自分一人がそのままなのだ。人に相談することもできず、自分で文献を調べ、五年目に異変の正体に行きあたった。それは、アメリカのオーソン・カニンガムという学者の説であった。

※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。

 立花は、その五年後に出奔した。もう年相応では通じないほどに若いままだったからである。

 それから、七人に入れ替わった……というより、実体化した。いずれも、ほとんど麗子のままで、そのたびに戸籍や家族が用意されていた。そして、並の人間では持てない力が備わっていることも分かってきた。だが、心はいつまでも立花浩太郎中佐のままであった。
 で、昨日も学校の平和学習の語り部としてやってきた92歳のハナタレ小僧をへこませてしまった。

「とらわれすぎるんだよ立花さんは。昔のままの自分をひきずってちゃ仕方がないよ」

 いつの間にか、中庭のベンチの横に神野が腰かけていた。
「もう少し楽になろうよ」
 そう言って、神野は指を鳴らした。
「あ、神野君……!」
「つまらないこと聞くけど、君の名前は?」
「もう、ふざけないでよ」
「いいから、言ってごらんよ」
「立花麗……アハハ、照れるじゃん。幼稚園からいっしょだったのにさ。あ、生年月日とか言ったら、なにかプレゼントとか良さげなことあったりして?」
「考えとくよ。とりあえず、今日は、これで良し」

「へんなの……」

 お気楽にAKBの新曲を口ずさんで校舎に消えていく幼馴染に「イーダ!」をした麗であった。

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高校ライトノベル・アーケード・21・芽衣編《おいで、めいちゃん》

2018-03-16 16:40:24 | 小説

・21・芽衣編
《おいで、めいちゃん》



 ヘタレ眉がそっくりだった。

 笑っていても、ちょっと困ったような顔になるのがチャームポイント。男ってこういう顔に弱いんだよね……。
 由利ちゃんのお母さんから送られてきた写メを見て最初に思ったこと。

 由利ちゃんは術後の経過もよく、二日目には一般の病室に戻った。その時にお母さんお父さんに挟まれ、ベッドの上でピースしている写メ。
 あたしは、こざねちゃんといっしょに輸血用の血をあげた。もちろん二人の血だけじゃ足りなかったけど、由利ちゃんのご両親はとても喜んでくださった。
「血をもらっただけじゃないわ、生きる力を友情といっしょにもらったのよ」
 由利ちゃんのお母さんは、とっても嬉しそうな顔でお礼を言ってくださった。そして、由利ちゃんの意識が戻ったら写メ送りますということでメアドの交換をしたんだ。

 で、送られた写メを見て、似てるって思ったわけ。

 単に顔の造作が似てるだけじゃない。幸せのオーラがいっしょなんだ。
 娘の手術が成功した喜びと、喜んでくれているご両親を嬉しく思う由利ちゃんの喜び幸せが、同じ色で同じ周波数なんだ。
 だからヘタレ眉だけじゃなくて、雰囲気全体がいっしょに見えるんだ。

 親子っていいなあ……。

 あたしのお母さんは、あたしを生んで間もなく亡くなった。お父さんは馬揃えのクライマックス『旗絡め』の競技中、事故で亡くなった。あたしにはお祖父ちゃんお婆ちゃんが親代わり。

 親代わりというのは代わりであって親じゃない。もちろん孤児になったあたしを育ててくれたお祖父ちゃんお祖母ちゃんには感謝している。

 こないだ制服のままお店の手伝いをしていて制服を汚してしまい、お婆ちゃんの機転でお母さんの昔の制服を着て学校に行った。
 で「結衣(お母さんの名前)にそっくりだ!」と先生たちに言われ、その気になって生徒会の役員に立候補することになった。

――お母さん、これでいいのかなあ……――

 こうちゃんがくれたお母さんの演説原稿、それを参考にして書き上げたんだけど、読み直してみると迷いが出てくる。
 由利ちゃんのお母さんから写メを送ってもらった夜なんか迷いと一緒に寂しさがこみ上げてきて、涙でボロボロになってしまった。
「ウ、ウ、ウ、グーーー」
 もう泣き声がもれそうで歯を食いしばった。お祖父ちゃんお婆ちゃんに知られるわけにはいかないから。

 涙をこらえていると、バサっと音がした。

「え……?」

 振り返ると、長押(なげし)に掛けていたはずの制服が落ちていた、お母さんの制服が。
 もうパジャマに着替えていたけど、あたしは制服を身につけてみた。

 姿見には制服姿のお母さんが映っていた。見間違いじゃなくて本当にお母さんだったんだよ。

――おいで、めいちゃん――

 そう言って鏡の中のお母さんは手を差し伸べてくれた。
「お母さん……」

――わたしはそっちに行けないから、めいちゃんがこっちに来て――

「う、うん、そっち行くよ」
 お母さんの手を取ると、鏡の向こうに行けた。

 そこは25年前の商店街だった。いまとほとんど変わりはないんだけど、カラー舗装や街灯なんかが違った。
 途中で出会う商店街の人たちはみんな若かった。薬局の梅子婆ちゃんは、まだおばちゃん。お寺の諦観にいちゃん老けてるなあ……と思ったら、お父さんの泰淳さんだった。
「信号機暗いね」
 交差点の信号機は西日を受けて赤も青も黄色も点いているように見える。要は暗いのだ。
――ああ、まだLEDじゃないからね――――
「そうなんだ」
――あ、青になった――
「あの、どこにいくの?」
――制服着て行くのは学校って決まってるじゃない――
「あ、そか」

 で、納得したら学校に着いていた。

 学校は、生徒会選挙の立会演説の真っ最中。あたしは生徒の列に入ってお母さんの演説を聞いた。
 中身は覚えていないけど、原稿とはだいぶ違った。
――ハハハ、要は心意気よ!――
 楽しそうにお母さんが言う。お母さんといるととても楽しい。ずっと居たい気持ちになった。
――あまり長くいると戻れなくなっちゃうわ――

 目が覚めると、机に突っ伏して眠っていた。

 振り返ると、制服姿のお母さんが姿見の中に戻っていくところだった。
 あくる日、あーちゃんのお店で赤いカーネーションを買ってお墓参りに行った。
「え、赤いカーネーション?」

 あーちゃんに聞かれて『お客さんに頼まれたの』と言ってしまった……。

 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・21『週二回のアキバ編』

2018-03-16 15:06:15 | 小説3

通学道中膝栗毛・21

『週二回のアキバ編        

 

 

 巻き爪が治っていなければ、こんな格好はしていない。

 

 どんな格好かというと、完全無欠のメイドさんのコスであったりするのだ!

 それも天下のコウドウ! コウドウってのは誰でも通れる普通の道ってことで、コスプレ写真をとるために学校の講堂にいるわけじゃない。漢字で書くと公道なのよ!

 それもそれも、ありきたりの、そこらへんにある公道じゃなくて、神田明神通りが中央通に交差する手前。駅前ほどの賑わいじゃないけども、アキバのあちこちに人が流れる中間点になっていたりする。

 そこで、チラシの束を胸に抱え道行く人たちに配ろうとしている。

「え、あ、ここで?」

 わたしのすぐ横でくっ付くようにしている鈴夏は、心なしか震えている。二人はお揃いの黒のメイド服。

 お人形さんのようなパフスリーブに膝上ニ十センチのスカートの中にはフワフワのパニエ、ヒラヒラいっぱいのエプロンドレス。ヘッドドレスはカチューシャの簡易型だけど、スカートとストッキングの間、いわゆる絶対領域にはガーターベルト。

「今日は、とりあえずチラシ撒くだけでいいわ。赤くなってもいいから、とにかく笑顔でね。きちんとレクチャーしてあげたいけど、お店もあるしね。まわりは他店のメイドがいっぱいいるから、様子見ながら慣れるといいわ。ま、無理しなくていいからね」

 お世話係の先輩メイドのリボンさんは行ってしまった。

 

 アキバでメイドする羽目になったのは、食堂での西田さん。

 

 心ここにあらずって様子で私の後ろでつまづいて、ラーメンの汁をかぶってしまったのは前回のこと。

 西田さんは、一生分のゴメンナサイで謝ってくれたんだけど、落ち込みようが普通じゃないので事情を聴いたわけ。

 西田さんはアキバでメイドのバイトをやってたんだけど、成績が落ち込んで、親からも先生からもバイトを禁止されてしまった。もう一年もやっている西田さんはお店でも主力メンバーで、抜ける西田さんも、抜けられるお店も痛手なんだ。

 場所を食堂から更衣室、そして中庭に移すうちに西田さんは閃いた。

「よかったら、小山内さんやってみない!?」

「え、わたしが!?」

「うん、人あたりいいし、聞き上手だし、それにプロポーションもいいし、メイドにバッチリ向いてるわよ!」

 巻き爪を患っていたころなら悪魔祓いみたいに「ムリムリムリ!」って両手をワイパーみたく振っていた。でも、心の中で――やれるかも!――という声が高鳴った。鈴夏とセットならやってもいいか……!

 いきなり接客とかだったら敷居が高いと心配していたんだけど、初日はビラまき。まあ、アキバ激戦区の雰囲気に慣れろということらしい。

 やっぱ、遊びにくるのとは違う。

 なんといっても視線を感じる。

 視線と言っても、ジロジロというようなものじゃなくて、チラ見の視線。なんというか線香花火がお終いの方でチリチリするような視線。中には向かいのビルのガラスに反射しての視線もある。

「鈴夏、背中が……」

「え、あ、う……」

 スイッチが入ったみたいに背筋を伸ばす鈴夏。わたしもガラスに映して姿勢を正す。

「栞、イケてる感じだよ」

「そ、そう(^_^;)」

「うん、みんな栞のこと見ていく」

「え、そっかな💦……メイド喫茶ピュアです、ありがとうございます~ 鈴夏手が停まってる」

「アウ、ピュ、ピュアです~」

 わたしの通学路、週二回のアキバ編が加わりました(^▽^)/

コメント
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