大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・1[92歳のハナタレ小僧]

2018-03-16 06:44:24 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト・エタニティー症候群・1
[92歳のハナタレ小僧]



 92歳のハナタレ小僧は、共を引き連れ矍鑠(かくしゃく)と歩いてきた。

 車寄せに繋がる廊下の角に女生徒が一人佇んでいた。ハナタレ小僧の蟹田平蔵が近づくと、折り目正しく三十度の礼をした。
 蟹田は、こういう平和学習で時おりいる子だと思った。蟹田の戦争体験に感激。その余熱のあまり見送りにきてくれた純粋で血の熱い女生徒とだと思ってしまったのだ。

「蟹田兵曹、話がある」

 女生徒は、可愛い声でキッパリと言った。わずか17ぐらいの女生徒とは思えない重い威厳のある響きに蟹田は不覚にもたじろいでしまった。
 気づくと周囲のものが全て止まっていた。お供のNGOの世話役も、学校長も、新聞記者も、玄関のガラスの向こうを飛ぶ二羽の鳩も、そのはるか向こうの雲の流れも。

「貴様の面目をおもんばかって時間を止めた。着いて来い」

 女生徒は、蟹田の気持ちなど斟酌せずに歩き出した。蟹田は二年兵のとき大隊長の従卒に戻ったように後に続いた。
「ここでいいだろう。遠慮せんでいい、貴様も掛けろ」
 車寄せとは逆の中庭のベンチに並んで腰かけた。
「い、いったいどうなっているんだ? 君はいったい何者なんだ……?」
「こんなナリをしているが、東鶏冠山北堡塁を奪取した某中隊長だ」
「東鶏冠山北堡塁……そりゃ日露戦争の二百三高地の……?」
「部下をたくさん死なせた。官姓名は勘弁してもらう」
「お嬢ちゃん、あなたね……」
「信じろ。私は明治5年生まれの146歳、この女生徒の姿は仮のものだ。そう思って話を聞け」
 蟹田は、落ち着きなく、あたりを見まわした。
「しかし、これは……」
「時間を止めただけでは信用できんか。これを見ろ」

 目の前に、胸に弾を受け、今まさに倒れようとする兵士の姿が浮かんだ。

「浜本伍長!」
「そうだ、貴様の読み違いで弾除けになって死んでいった浜本伍長だ」
「この後、自分は村人の虐殺をやったんだ……!」
 蟹田はベンチに座ったまま頭を抱えた。時間が止まっているので、太陽は動くこともなく蟹田を咎めるように、同じ角度で禿げ頭を照らしている。
「あのとき中隊は、ほぼ壊滅状態になり、貴様は残存者の最上級者になってしまい緊張の極みにあった。これをよく見ろ」

 女生徒が指差した方向に、あの時の村人たちの怯えた姿が浮かんだ。さっきの浜本伍長とは違って、ごく微速で動いていた。銃の発射光が、村人たちの背後のブッシュの中からいくつもした。

「……これは」
「貴様は、記憶からこれを消し去ったんだ。敵は村人たちを楯にして、ブッシュから、貴様らの掃射をやった」
 現地の言葉で叫ぶ声がした。
「あれは高野兵長が、村人たちに『伏せろ!』と叫んでいるんだ。そのために三名の村人は助かった。貴様の残存部隊は良く戦った。五名の犠牲者を出しながらも敵を撃破したんだ。貴様は村に入る時に偵察を十分にやっていなかった。浜本伍長は捜索を進言した。しかし蟹田、貴様はそれを聞き入れず村に入った。宣撫が行き届いていると安心してな。村人たちも恭順の意を示すため、一か所に集まっていた」
「……そんなことは、どうでもいいんだ。儂が村人を虐殺したんだ、その事実からは逃げられん。だから戦争はやっちゃいけない。我々戦争体験者は、その恐ろしさと、狂気を伝えなきゃいけないんだ!」
「自分の過失を日本全体に広げるな。貴様が知っている日本は、高々昭和の五年くらいからの十五年ほどだ。あの狂気の時代をもって、明治からの日本全体を貶めることは慎め。今日の貴様の話は、あまりに聞き苦しいんで、こうやって……」

「そのくらいにしてやんなよ。立花さん」

 止まっているはずの時間の中から声がした。中庭の対角線方向に人がいた。
「神野君……!?」
 気づくと蟹田は、涙したまま止まっていた。
「ボクも君と同じエタニティー症候群。ただし年季が違う。もう二千年は超えたかな……立花さんは同類かなって、今日尻尾を掴んだ。邪魔をしたかもしれない。どうするかは立花さん次第」
 そう言って、神野君が指を鳴らすと再び時間が動き出した。蟹田は泣き疲れたハナタレ小僧のようにしおたれて車に乗って行ってしまった。

 蟹田を見送って振り返ると神野君の姿はなかった。

※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。

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高校ライトノベル・アーケード・18・こざね編《……松永さんね?》

2018-03-15 18:20:08 | 小説

・18・こざね編
《……松永さんね?》



 商店街の子どもは、基本的に部活はしない。

 ざっくり言って、家の商売の手伝いがあるからなんだけど、その由来は明治維新とかに遡る。
 白虎通り商店街は、あたしんちの鎧屋、はなちゃんちの西慶寺、けんさんとこの薮井医院を除いては明治以降の出来なんだ。
 廃藩置県で相賀五万石が相賀県になり、四民平等で相賀の武士たちは失業者になったのね。
 武士たちは秩禄処分とかいう退職金をもらって、集団で商売を始めたの。

 こういうのを士族の商法とか言う。

 たいていは慣れない商売で失敗するってのが日本史の常識なんだけど、この相賀の士族だけは違ったの。
 藩の西のはずれは白虎口。そこに鉄道が来ることを予測して、街道沿いで商売を始めた。それが白虎通り商店街の始まり。
 相賀の武士たちは、絹織物とかの専売品のために幕末ごろにはとても商売に慣れていたんで、日本中で相賀だけが士族の商法の例外になって成功したんだよ。

 ほとんど商売人と変わらないんだけど、1つだけ違うのは、子どもたちも一所懸命家の商売をしたこと。

 もう手伝いなんてレベルじゃなくて、13歳を過ぎたら大人並に商売に打ち込んだんだ。ま、そうしなきゃ相賀の昔からの商売人には太刀打ちできないから。
 で、その習慣が残っていて、商店街の子どもは部活には入らない。
 今のご時勢だから強制なんてことはなくて、実際、履物近江屋のふーちゃんなんかは、バレー部のアタッカーだったりする。

 で、その商店街の女の子たちで作った商店街アイドルグループが、あたしたち『アーケーズ』ってわけなのさ。

 メンバーは9人で、商店街以外のメンバーが4人入っている。三好さん、畑中さん、大久保さん、高階さん。
 三好さんと畑中さんは同じ相賀高校。去年商店街のオータムフェスタでのアーケーズの演技を見て入って来た。畑中さんと高階さんは国府女学院でダンス部に入っていたんだけど、ダンス部に収まり切れずにアーケーズに入って来た。

 で、一昨日から西慶寺に泊まり込み、5日市民会館で行われる『県民子どもの日』のレッスンの真っ最中。

「『365日のお買い物』はカンペキよ。『わたしは前へ!』は新曲だからノリがイマイチ。考えなくてもフリが出てくるまで練習します。10分休憩して、もう一本やりますね!」

 リーダーのはなちゃんが檄を飛ばす。

 おとつい、新曲の『わたしは前へ!』のコスが出来てきた。白と黒を基調とした夏仕様で、トップとアンダーがセパレートになっていて、お腹のとこが20センチほども空いている。
 涼しいっちゃ涼しいんだけど、ヘソ出しは恥ずかしい。サビの入り口んとこでスピンがあるんだけど、スピンした一瞬、めいちゃんの背中ってか、お尻の割れ目の上んとこが見えてしまった。めいちゃんより貧相ボディーのあたしは気が気じゃない。ラストの決めポーズでバンザイするんだけど、トップがずり上がっちゃうんじゃないかと集中できない。

 あと1分ほどで休憩が終わりそうなとき、畑中さんが小さく悲鳴を上げた。

「どうかした?」
 はなちゃんが優しく、でも目は真剣に聞いた。
「あ、あの……」
 畑中さんはスマホを手に俯いてしまい、高階さんが抱きかかえるように畑中さんの背中に手を回していた。
「……松永さんね?」
「え……どうして?」
 二人は驚いていた。あたしは松永って苗字にピンとこないで、置いてけぼり。
「やっぱり緊急手術になったのね」
「は、はい……」
「お兄ちゃんに車出してもらう。めいちゃんこざねちゃんも来て、O型の血液が要るの」
 ここまで来て、思い出した。国府女学院組には、もう一人松永さんという子がいた。でも、松永さんは病気でアーケーズには参加できなかったんだ。はなちゃんはちゃんと覚えていただけじゃなくて、病気の経過や手術になった時に要るO型の血液のことまで分かっていたんだ。

 あたしたちは、諦観ニイチャンの車に乗って市民病院を目指した。

「アーケーズ、夏には10人編成で再出発よ!」

 はなちゃんの言葉に、畑中さんも高階さんもしっかりと頷いた。
 


※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

 三好さん、畑中さん、大久保さん、高階さん   商店街じゃないけどアーケーズの仲間

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・20『体操服のまま食堂へ』

2018-03-15 13:40:45 | 小説3

通学道中膝栗毛・20

『体操服のまま食堂へ』        

 

 

 下駄ばき矯正法の甲斐あって巻き爪が治ったのは、例の青木ナントカさんの更地にドラッグストアが出来たころだ。

 

 巻いてしてしまった爪がまともになるわけじゃなくて、生え変わるのを待っただけで、その間鈴木皮膚科に通って食い込んでる部分を切除してもらい消毒してもらうだけ。ローファーを買い替え、下駄ばき矯正法をやったとはいえ、患者自身が治そうという気持ちが無ければ治らないものなのだ。

 巻き爪の完治は、ちょっとした自信をもたらした。

 四限の体育のあとは着替えていては食いッパグレる。お弁当だとノープロブレムなんだけど、前日に時間割変更を言われたものだから、帰り道に鈴夏と新しいドラッグストアの話をしているうちに忘れてしまった。

「しかたない、体操服のまんま食堂行くか!」

 巻き爪以前のわたしだったら、決まりどおりに(体操服での食堂利用は厳密には禁止されてる)着替えて、売れ残りのコッペパンとパック牛乳で辛抱しているところだ。

「へー、栞にしては珍しい!」

「え、鈴夏もでしょ?」

「あたし、ちゃんとお弁当だもん」

 クソ、鈴夏はきちんと授業変更を覚えていたのだ。

「デザートは付き合ったげるから」

 爽やかな笑顔で去り行く鈴夏を尻目に、着替えのズタブクロを肩にかけて食堂を目指した。

 着替えてからじゃ遅いけど、体操服のままだと楽勝でA定食をゲット。A定食は人気で、いつもハイエナみたいな男子たちにかっさらわれるんだ。

 体操服のままA定食を食べているだけで、ずいぶん自分が奔放になったような気がする。

 年上のキミは~自由奔放で~(^^♪ 小学校のころ流行った『上からマリコ』の一節が口からこぼれたりする。

 定食の列に並ぶ顔見知りの男子が――栞がA定食食ってやがる――という目で見ているのも楽しかったりする。

 

 わたしの二つ横で西田さんがいるのには気づいていた。

 

 あまり口をきいたことが無いことと、なんだかマイナスオーラが漂っているので、さすがに声をかけたりはしなかった。

 その西田さんが立つ気配、後ろに差し掛かったところで悲劇の音がした。

 グァッシャーン!

 なんと、西田さんがつまづいて、彼女のトレイが落ちてきた!

 とっさに避けたものの、載っていたドンブリ鉢のスープが体操服にビッチャリかかってしまった!

「ご、ごめんなさい!」

 お詫びの言葉とハンカチをいっしょに差し出す西田さん。差し出すだけじゃなくて、甲斐甲斐しく拭いてくれる。

「だいじょうぶよ、体操服だし、どうせ帰ったら洗うんだし、いいわよいいわよ」

 わたしもタオルを出して拭いたので、シミにはなったけど大したことにはならなかった。でも、西田さんの表情があまりに暗いので、つい聞いてしまった。

「なにか心配事あったり……?」

 

 この一言がわたしの運命を変えてしまうのだった……。

 

 

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高校ライトノベル・アーケード・17・こざね編《親指姫~!》

2018-03-14 18:46:15 | 小説

・17・こざね編
《親指姫~!》



 商店街の子どもたちは、愛称の呼び方に法則性がある。

 名前の最初の一字または音を伸ばして、~ちゃんをつけて呼ぶ。

 アニキの岩見甲は(こうちゃん)、近江屋履物店の娘沓脱文香は(ふーちゃん)、室井精肉店の息子室井遼太郎は(りょうちゃん)、喫茶ロンドンの孫娘百地芽衣は(めいちゃん)、上野家具店の娘上野みなみは(みーちゃん)、フラワーショップ花のあやめは(あーちゃん)、西慶寺の藤谷花子は(はなちゃん)という感じ。

 あたし1人だけが、こざねちゃん。ちゃんの上に、まんまの名前が載る。

 こざねというのは、本来は漢字で小札と書くんだよね。
 でも漢字だと「こふだ」と読まれてしまうので平仮名で書いてある。
 小札というのは、鎧の最小パーツ。7センチ×2センチくらいの皮や鉄でできていて、これを数千枚繋げることで鎧ができあがっている。いくら見場の良い鎧でも、この小札がチャッチイと防御力が低くなる。小札が良いと刀はおろか弓矢や槍も通さない。ある程度の距離なら鉄砲だってへーきなんだ。

 つまりぃ、小さいけれど世の中の大切なワンノブゼムになって欲しいという親の願いが籠められている。

 いかにも甲冑師の娘って感じ……なんだけどぉ。
 ま、いいや「それを言っちゃあおしまいよ」的なことを言いそうなのでやめとく。

 商店街の法則性でいけば「こーちゃん」なんだろうけど、アニキが「こうちゃん」なんで区別がつかないんで「こざねちゃん」。

 でもね……思っちゃうんだよねぇ。
 あたし一人がハミ~ゴ。ま、名前はいいんだよ。でもね、アニキたち7人の結束をねぇ。
 ま、みんな同い年で、それこそオムツのころからの幼なじみ。商店街には、あたしと同い年の子どもはいない。履物屋のすーちゃん、家具屋のまーちゃんは1年生。ハミーゴの同志というのには歳離れすぎ。
「ね、幼なじみとかの友だち少ないけど、気にならないかなあ?」
 一度聞いたことがあるけど「なんで~?」という健康的な答えが返ってきた。
「商店街の外に友だちいっぱいいるよ」だって。
 商店街というくくり方は気にならないようだ。

 なんで、あたしが商店街というくくりを気にするか?

 仲のよさ……もう、なんちゅうか、子どもたちみんなが兄弟姉妹ってとこ。むろんあたしも、その一員なんだけどぉ。
 ちょっちハミ~ゴ。

 でさ、男はともかく女の子ね。みんなイカシテてカッコいいってか、クールなんだよね。
 たとえば西慶寺のはなちゃん。きのうお父さんの代わりに月参りに来てくれた。
 お坊さんの格好も板についてる。お経もうまいし、そのあとの話だって、お父さんお母さんと対等に話してるし、お弟子のきららさんより大人に見える。
 で、普段は相賀高校の制服とかで、すっごく清楚な女子高生。他のオネーサンたちもそうなんだけど、とってもイケてる。

 今だって、西慶寺の本堂で商店街のアイドルグループ『アーケーズ』の衣装合わせをやってるんだけどね。
 はなちゃんはガチすごい。制服や衣姿では分かんないけど、衣装を着ると違い歴然。ボンキュッボン!のスタイル抜群。お肌は雪みたく白いし、ミニスカとニーソから覗く太ももなんて、あたしでも鼻血が出そー。
 ルックスも一重の瓜実顔でさ。それでも美人美人してなくて、とってもフレンドリー。

 あたしはさぁ、写メを撮ってもね、スズメの子かタヌキの子。

 ま、衣装着てみんなに混じってしまえば一山いくらの商店街アイドル。その他大勢のモブ子さん。
 なんて思っていると落ち込み~!

 今から、子どもの日のイベントのためのリハやります。

 あ、そ-そー、あたしの数少ない特技。どんなとこでもスマホとかで文章打てること。右手にスマホ持って、親指でパパッとね!

 親指姫のこざねちゃんとお呼びくださいませ~!(o^―^o)!

※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・19『下駄を履いてみた』

2018-03-14 11:44:51 | 小説3

通学道中膝栗毛・19

『下駄を履いてみた』        

 

 

 意を決して下駄で出かける!

 

 いろいろ考えたんだけど、Gパンにパーカー。

 放課後の帰宅後なんで、セーラーの上だけ脱いでとも考えたんだけど、それだとじゃりン子チエのイメージと重なる。

 見てる分にはチエちゃんは活発でかわいい下町少女。ギトギトの大阪弁だけど、あのまま東京弁で喋っていても違和感はない。

 でも、わたしには可愛い属性も活発属性もない。

 

 学校からの帰り道、その決心を鈴夏に伝えると話半ばで「帰ったら夕飯つくらなくっちゃ」と逃げを打たれる。

 

 チエにはひらめちゃんという親友がいる。いつも二人で下駄ばきで遊んでいる。

 ネットの画像で鈴夏を誘おうと閃いたんだけど、敵はすでに読んでいたようなのだ。

「チ、読まれたか」

 伝法に呟いた時は、一人で実行することを覚悟した。

 

 カラ~ンコロ~ン………。

 アスファルトの道に響く下駄の音、ちょっと響きすぎ!

 道行く御通行中の老若男女のみなさんの視線が痛い。

 そりゃ見るよね、こんな騒音をまき散らして公道を歩くのは、ちょっと期せずして暴走族になった心境だ。

 けして高級住宅街という風情ではないご近所だけど。我が下駄の音だけが響いて、こんなに静かだったっけと思い知る。

 能のないことに通学路を歩いている。それも遠回りコースに踏み込みかけている。第三回にも書いたけど遠回りコースはお屋敷街。うちの近所よりも静謐で、目立つこと間違いなし。

 お屋敷街に踏み込む寸前で道をそらして近道ルート。公園とコンビニの駐車場と神社の境内を斜めに抜ける。

 神社でホッとする。下駄の音が響かないのだ。

 鳥居をくぐると真ん中が石畳で、その両側は土なのだ。下駄を履いて初めて分かる土に感触は「これなら恥ずかしくないや」である。なんとなく親しい視線を感じると、神主さんが下駄で歩いている。

 見ると、わたしの下駄よりも異形で、高さが三倍くらいある。

 同類っぽく見られるのが、なんだか気恥ずかしくペコリと一礼して、そそくさと拝殿の脇を抜けて道路に向かう。

 でも、なんで神主さんは、あんな異形な下駄を履いていたんだろ、いつもは白い鼻緒の雪駄だったのに?

 思う間もなくカラ~ンコローン、アスファルトの道に出てしまった。

 なんだか恥ずかしさマックスになって、神社の外周をグルーッと回って家路につく。

 

 玄関のかまちに腰かけて、下駄を脱いだ足をチェック。

 親指と人差し指の間が赤くなっている。鼻緒が擦れて、もうちょっと歩いていたら皮がむけていただろう。

 ほんの数百メートルだったけど、歩いたという実感がヒシヒシと湧いてくる。

 ヨイショッと!

 掛け声上げてかまちを上がると、足の親指に緩い痛みが走る。

 わずかな距離だったけど、しっかりつま先まで使って歩いていたことを実感する。下駄にどれほどの効用があるのかと思っていたけど、さすがは鈴木先生!

 でも、指の股の皮が剥けそうなので、明日は休もうとズルケルわたしであった。

 

 

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高校ライトノベル・アーケード・16・花子編《月参りの代理》

2018-03-13 18:32:37 | 小説

・16・花子編
《月参りの代理》



 国府寺の住職が亡くなった。

 国府寺は奈良時代から続く華願宗で、この宗派は自分では葬儀はしない。葬儀は昔から浄土真宗のお寺が請け負う。
 慣例に従って、西慶寺の住職と副住職が昨夜の通夜から出向いている。

 住職の泰淳はわたし(花子)の父であり、副住職の諦観は兄である。

 国府寺の葬儀のため、この日の月参りはわたしが務める。
 今日のお参りは商店街の鎧屋と室井精肉店だ。
「ハナちゃん、お世話になるね」
 玄関から入ると、くだけた言葉だけれど、小父さんが慇懃にご挨拶される。
 ちなみに玄関から入るのは、今日のわたしは西慶寺の僧侶だから。いつもはお店の入り口から気楽に入る。緩やかだけれど、商店街では、昔からのけじめがキチンとしている。

 仏間兼リビングの12畳には小父さんと小母さん、こうちゃん、こざねちゃん、お弟子のきららさんが神妙に並んでいる。

 幼なじみのこうちゃんとこざねちゃんが神妙にしているのには未だに慣れない。
 初めて月参りに来た時は、わたしの衣姿がおかしくって、こざねちゃんが吹き出して小父さんに叱られてしまった。なかなか使い分けは難しい。

 でも、仏壇の前に座ってお蝋燭とお線香を点けるあたりから様になってくる。

 他の宗派は、香炉にお蝋燭を真っ直ぐ立てるけど、浄土真宗では高炉の大きさに合わせて、2つか3つに折って寝かせる。
 特に教義上の意味は無い。単に火の用心のため。中学に入ってお参りの作法をあれこれ教えられたけど、この火の用心のためというのには笑ってしまった。
 お務めそのものはカタチなので慣れればノープロブレム。
 困るのというか緊張するのは、そのあとのお話し。お参りなので基本的には法話なんだけど、わたしみたいな女子高生坊主が法話だなんてとんでもない。
 世間話というか、檀家さんの生活や関心に合わせた話をする。

「来年は大祖父さまの37回忌ですね」

「きちんと、お寺でやるつもりだよ」
 この返事には、すこし狼狽えた。別に催促したつもりはない。法事も37回忌になると月参りのついでにやるのが普通で、寺の本堂で本格的に営まれることは珍しい。
「祖父さんは、旗絡めの事故で亡くなったからね、旗絡めのためにもきちんとやっておきたんだよ」
 わたしは息をのんだ。
 旗絡めとは、秋に行われる馬揃えで、かつて行われていた勇壮な行事だ。勇壮なために事故が起こることが多く、怪我人が出るのは当たり前で、何年かに一度は死者まで出る。鎧屋の先々代は37年前の事故で亡くなっている。
 旗絡め自身も12年前に廃止になっている。小中学校では旗絡めを模した騎馬戦が行われているが、東京などから転居してきた新住民の人たちからは「組体操同様に危険だ」と言われ、このジュニア版もいつまで行われるか分からない。
 そう言う状況の中での小父さんの言葉に、静かだけどクッキリした想いを感じた。

 次の室井精肉店では、もっと気楽にできた。

「ハナちゃん、噂になってないかい?」
 小父さんの一言でピンときた。りょうちゃんが分かりやすくビクッとしたから。
「あ、国府女学院の……?」
 居並んだご家族が、いっせいにため息をつき、その視線がりょうちゃんに集まった。
「いや、もう終わっちゃった話だからね!」
 りょうちゃんが焦る。
「だいじょうぶですよ。その……りょうちゃんは商店街のマスコットですから」
「マ、マスコット?」
「ハハハ、遼太郎はマスコットか!?」
 兄の潮五郎さんが笑う。
「いっそ、商店街のイメージキャラクターにして着ぐるみにでもなっちまえばいいのに」
 小母さんが煽る。
「でもさ、商店街のイメージって言えば、ハナちゃんたちのアーケーズだろ?」
「おちゃらけキャラがあってもいいんじゃないかなあ」
「そうよ、着ぐるみにすれば可愛くなっちゃうわよ」
「じゃ、こんどの理事会にかけてみるか?」
「そうだ、原案用に写メを撮っておこう!」
「ちょ、ちょっと勘弁してよ!」

 商店街の連休は賑やかになりそうだ……。
 

※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・18『下駄は履いてる?』

2018-03-13 11:08:22 | 小説3

通学道中膝栗毛・18

『下駄は履いてる?』        

 

 

 そう言えば朝に買ったんだ。

 

 合格発表があって三度目の登校日、新入生の物販と制服の引き渡し。

 二度目の登校で採寸した制服は、ちょっと大きかった。三年間着るものだから少し大きめなんだろうけど、中学の時とは違うんだ、ジャストフィットしたのが着たいと思うのが乙女心。

 だいたい、うちの学校は厳密には私服だ。1970年ごろの学園紛争で制服を廃止したんだ。

 でも旧制女学校からのセーラー服には人気があって、廃止後も女子の大半は制服を注文している。

 その制服が中学一年生のようにダボダボでは凹んでしまう。

「大丈夫よ、ヒロちゃん(お母さんの妹)に補整してもらうから」

 お母さんが胸を叩いた。ヒロ叔母さんはブティックに勤めていて洋服の手直しなんてお手の物なのだ。

「ま、それならいいや」

 制服の次が教科書と副読本なんだけど行列がすごいので、ベンチに腰かけて一息つく。

 ベンチの後ろは植え込みになっていて、梅を中心に季節の花が満開になっている。意識しなかったけど、ベンチに掛けると花の香りはむせ返るほどで、新入生のわたしをワクワクさせる。

 花というのは、あけすけに言うと植物の生殖器で、その香りというのはフェロモンだ。

 このフェロモンにあてられたのか、お母さんが「靴も買おう!」と言い出した。

「いいよ、ただのローファーなんだから、靴屋さんで買った方が……」

 安いよ……と言おうとした時にはベンチを立ち上がったお母さん。

「はい、市販のものとは微妙に色が違います。ほとんど黒なんですが、ブラウンが入っていまして、ほら、日にかざしますと……」

 上品なこげ茶になって、とてもシックで制服によくマッチしている。

 そして市販品の倍ちかい価格のローファーを買って、こいつが、わたしの足を巻き爪にしたんだ。

 そういうことを帰ってから思い出した。

 

 新しいローファーは市販品。

 

 駅一つ向こうの量販店で下駄と一緒に買った。デザインは微妙に違うんだけど色合いは元のローファーにソックリだ。

 ラッキーと思ったんだけど、ブラックだけでも四種類あり「デフォルトで、大きなお店なら、たいてい置いてますよ」と店員さん。やっぱ、花のフェロモンと靴屋さんの商魂に載せられたと思い知る。

 靴を新しくしても万歩計の数字は、あまり変わらない。

「うん、歩き方に問題があるからすぐにはね……下駄は履いてる?」

 鈴木先生はカルテを書きながら横顔で聞く。

「あ、いちおう買ったんですけど」

 買ってはみたけど、夏祭りでもなければ履く機会がないのでブツは下駄箱の中で眠っている。それを見透かしたように鈴木先生は回転いすを回して向き合った。

「浴衣でなくてもいいのよ、普段着で下駄履いてもちっともおかしくないよ。そーだ……」

 先生がパソコンをチャカチャカすると、濃紺のスカートに白のブラウスの元気そうな女の子が現れた。

「ほら、イカシテルでしょ!」

 

 その少女の名前は……じゃりン子チエとあった。

 

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高校ライトノベル・アーケード・15・遼太郎編《りょうちゃんの失恋》

2018-03-12 17:00:57 | 小説

・15・遼太郎編
《りょうちゃんの失恋》



 7時の時報だけでソワソワしてしまう。

 国府女学院のあの子が通りかかるのには30分もあるのに何も手につかない……ということはない。
 毎日判で押したように、顔を洗って朝ごはんを食べてトイレに行って学校の用意をする。
 商店街の人間は店のサイクルで生活している。
 店のサイクルというのは独特な勢いがある。普通の家なら、家族は職場とか学校とか別々の朝があって、それがたまたま同じ家にいてドタバタやっているという感じ? だからボンヤリしていると他の家族に追い越され、自分一人が遅刻したりする。場合に寄っちゃそのまま家に居てズル休みだってできてしまう。ズル休みしたって数日なら気づかれることが無いときだってあるだろう。
 商売をやっていると、そうはいいかない。なんせ親は一日中家に居る。ズル休みなんてすぐにばれてしまうから、出来る相談じゃない。
 商売には勢いがいる。勢いってか元気が無ければお客が減る。特にうちなんか精肉店だから、元気が無ければ肉の鮮度が落ちたように感じられる。
 でもって、うちの朝の勢いは魚河岸みたいな勢いがある。
 長年培ってきた勢いなんで、型になっている。型だから脳みそを使わなくてもできてしまう。

 で、朝のあれこれをキチンとやりながら、頭の中でソワソワしている。

 7時25分、箒を持って店の前を掃除する。小学校の5年生からの日課というか仕事というか。アーケードと交差している原道からお隣りの総菜屋さんのところまでを掃く。
 原道を挟んだ隣の喫茶ロンドンはモーニングの真っ最中。メイちゃんが制服の上からエプロンを付けてウエイトレスをやっているのがガラス窓から見える。筋向いの履物の近江屋では、ふーちゃんがハタキをかけている。日によっては3人揃って店の前を掃いていたりする。

 7時29分、100メートル東の順慶道を曲がってアーケードに入ってくる国府女学院のあの子が見える。

 曲がる角にあーちゃんのフラワーショップ花があるので、なんだかお花畑の中から出てきた妖精のように見える。
 ジャンスカの上にボレロ、大きめの白い襟が可愛いツインテールの丸顔を引き立てている。
 見つめるわけにはいかないので、ロンドンの前まで掃除するふりをして、カーブミラーに映る姿や、ロンドンの向かいの店に映る姿を見る。そして彼女が通り過ぎる瞬間、大きくゆっくりと息を吸い込む。スミレみたいないい匂いがする。
 彼女が3メートルほど進んだところで、店の方に戻る。距離にして10メートルほど彼女の後ろを歩く。ほんの数秒だけど、1日で一番幸せな時間だ。

 ちょっと前までは誘惑に勝てずに駅前まで付いて行っていた。

 あの時はふーちゃんに見とがめられ、白虎地蔵の裏でひどい目に遭った。175センチの壁ドンは、はっきり言って凶器だぞ。
 このまま見るだけで終わるのかと思ったら、急展開があった。

「あの、これ君のじゃないかなあ?」

 いつものようにロンドンから、彼女の後ろ3メートルのところをごく自然な形で歩いていた。すると後ろから声がしたんだ。
 直前にロンドン入り口のカウベルが鳴ったんで、ロンドンから出てきたんだろう。声の主は国府にある誠志学院の制服を着ていた。
 で、手には鶯色のブックカバーが付いた文庫本が載っている。
「あ、それ……」
「国府駅で拾ったんだ。君のだね?」
「あ、こないだ急いで降りた時に……!」
「うん、すぐ前を女学院の2人連れが走っていったから。その、後姿で分からなかったけど、ブックカバーのイニシャルとかで。斉藤さん」
「でも……その、よく分かりましたね?」
「うん、電車の中で文庫本読んでる子って、その……あんまり居ないから」
「あ、そ、そうですよね」
「で、妹が女学院で同学年だから」
「そうなんだ……わざわざ?」
「朝は、いつもここのモーニングだから。レジに居たら通りかかったのが見えて」
「そ、そうなんだ」
「もう時間だ、歩きながら行こうか」
「う、うん」

 そして国府女学院と誠志学院の二人連れは、朝のアーケードを駅に向かっていった。

 断じて違う。あの誠志学院は初めてロンドンに入ったんだ。今まで見たことも無いもんな!

「作戦勝ちだよ! アハハハ」

 様子を見ていたふーちゃんに笑われてしまった。
 で、立会演説の原稿を考えてるメイちゃんに「しっかり考えろよ」なんて言ってせかしてしまった。
 ただ、間抜けな自分にイラついていただけなんだけど。メイちゃんはまともに受け止めてしまったようだ。
 でも、花屋のあーちゃんが「ゆっくりで」と言ったんで、元のペースに戻った。
 アーケードの幼なじみは、どこかで帳尻があっている。
 

※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

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高校ライトノベル・アーケード・14・芽衣編《ノートを閉じるまで》

2018-03-11 17:20:31 | 小説

・13・芽衣編
《ノートを閉じるまで》



 りょうちゃんは毎日、あーちゃんは週一回うちのお店にやってくる。

 むろん他の幼なじみもしょっちゅうやってくるけど、この2人は定期便だ。
 うちは喫茶ロンドン。商店街で唯一の喫茶店。飲食店の少ない商店街なので、並の喫茶店に比べると食事のメニューも充実している。
 当然仕入れる食材も多いので、野菜や玉子やお肉、乳製品などを毎日届けてもらっている。種類も量も並の喫茶店より多いと思う。思うって言うのは、他の喫茶店のことは知らないから。何度も言うけど、うちは商店街唯一の喫茶店。

 りょうちゃんが毎日やってくるのは、りょうちゃんの家がお肉屋さんだから。

 毎朝発泡スチロールの箱にお肉を入れて配達してくれる。
「ちわー、お肉の室井でーす!」
 今日も元気に配達してくれた。配達と言っても、室井精肉店は道を挟んだお向かいなので、大抵は30秒ほどで用事はすんでしまう。これで月に5000円のバイト代をもらっているのだから羨ましいやつだ。あたしなんか1日平均3時間くらい手伝って月に1万円。

 え、1万円の方が多いって?

 考えてもみてよね、1日3時間ということは月25日として75時間。時給にして133円なんだよ。そいで家からもらうお金は基本的にこの1万円だけ。
 りょうちゃんは、30秒の25日だから月に13分ほど。むろんイレギュラーで他の配達も入るけど、これで月5000円はどうなんだろう。むろんお小遣いは別にもらっているらしい。らしいというのは、このバイト代のことを話した時、みんなからブーイングだったため、りょうちゃんは口をつぐんでしまったから。

 で、今日のりょうちゃんは15分もうちの店に居た。

「なんだ、もう試験勉強か?」
「ちがうわよ。って、こらー、見ないでよ!」
 あたしはテーブルの上のものを隠したけど、りょうちゃんに一息速くノートをふんだくられた。
「あー、これって立会演説会の……」
「もう見ないでよ!」
「ああ、わりい」
 りょうちゃんは、あっさりと返してくれた。なんだか拍子抜け。
「メイちゃん偉いよ」
「え、ええ?」
 素直に誉めるので、抜けた拍子が戻らなくなってしまった。
「うちの親父も商店会とか郷土史会の役員やってるじゃん。ああいう仕事って大変だもんな。偉いと思うよ」
「なんだか、いつものりょうちゃんじゃないよ……」
「そっか?」
「あ、うん。なんかあった?」
「なんもねーよ。おれだって、いつもバカやってるわけじゃないんだからな」
「う、うん」
「マジ、ちょっと読ませてもらっていいか?」
 あまりに真面目なりょうちゃんだったので、思わず頷いてしまった。

「……て、感じかな」

 しっかり読んで感想を言ってくれた。ベースにしたのがお母さんの原稿だったので基本的には異議なしだった。ただ言い回しが古いので今風に変えてみたらというアドバイス。
「じゃ、今風ってどんなの?」
「そりゃ自分で考えろよ。おれバカだから分かんねえよ」
「さっき、バカじゃないって言った」
「あ、もうバカに戻っちまったから」
「なに、それ!?」
「しっかり考えろよ、連休明けなんてすぐなんだからよ」
「う、うん」
「じゃ、失礼します。毎度アリー!」
 で、帰ってしまった。
「なによ、あいつ……」
 カウンターの中でお祖父ちゃんが笑っていた。

 それから、あーちゃんがやってきた。

「フラワーショップ花です。デリバリーです!」
 そう、週に一回あーちゃんのお店から、お店に飾る花を配達してもらってもらっている。
 ちなみに、あーちゃんはバイト代はもらっていない。ま、いろいろあるってっことです。
「おや、もうバラの季節かい?」
「へへ、花屋は季節の一歩先を行きます」
「そうだね、商売人の要諦だな」
「はいです!」
 そう言って、あーちゃんはお店の3つの花瓶に花を活けてくれる。あーちゃんは美華流師範の腕なので見事に活けてくれる。
「あー、メイちゃん、立会演説の原稿?」
「あ、うん。連休明けたらすぐだからね」
「う~ん、決めてしまうのには、ちょっと早いんじゃないかな」
「え、そう?」
「だって、立会演説って連休明けの木曜日」
「うん、だからもうすぐ」
「花に例えたらなんだけどさ、蕾の時期がなきゃ花って咲かないから」
「ん?」
「養分貯めなきゃさ。バラだって、この時期にはなんとかなるけど、2月に咲かせろってないから」
「それもお説だなあ」
 お祖父ちゃんが賛同した。
「泰介だって、結衣さんにモーションかけるのに2年かけたからなあ」
「いま書くより、いろんな人から意見とか要望聞いてスクランブルにして、直前にまとめたら? いま大事と思っても直前になったら案外つまらないってこともあるよ」
「そうね……」
「それに、せっかくの連休なんだから、そっちも大事にしなきゃ」
「それは、あーちゃんの言う通りだよ」

 お祖父ちゃんが、そう言って、あたしはノートを閉じた。 

 

※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

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高校ライトノベル・アーケード・13・芽衣編《え……なに?》

2018-03-10 17:08:13 | 小説

・13・芽衣編
《え……なに?》



「佐伯が連絡してきたよ」

 どこの佐伯さんだと思った。
「ほら、生徒会顧問の佐伯先生だよ」
 こうちゃんがトイレから出てきて、おせんべいに手を出しながら言った。
「ちょっと、手洗わなきゃ!」
「あ、掃除してただけだから」
「そう言う問題じゃ……え、佐伯先生が写ってたの?」
「そうだよ、佐伯先生は、うちの卒業生」
「で、僕や結衣ちゃんとも同期。いっしょに生徒会やってたんだよ。甲、ちゃんと手洗ってきなさい」
「はいはい」
 こうちゃんは、食べかけのおせんべいを咥えて洗面に戻った。
「メイちゃん、あの写真見て気が付かなかったのかい?」
「お母さんのことは、すぐに分かりました。なんだか、あたしそっくりなんで、ビックリして……」
「その右隣が佐伯なんだよ」
「えー、そうだったんですか!?」
「ハハハ、影の薄い生徒だったからな。で、左隣は誰だと思う?」
「え……えと、男の子だってことしか」
「それは残念……」
 おじさんは、バリッとおせんべいを噛み砕いた。
「あれ、うちの親父だよ」
 洗面から戻ってきて、こうちゃんが答えた。
「えー、おじさんが!?」
「そうだよ、真面目な文化部長さ。あ、そうだ……」
 おじさんは、リビングの棚をゴソゴソしはじめた。
「え、その棚って、そんな仕掛けになってるんですか?」
 棚の3段目がズリっと動くと、奥に引き出しが現れた。
「あ、この棚の仕掛けはナイショだからね。特にうちのカミさんには……あった、これだ」
 
 おじさんが取りだしたもの。その一番上には佐伯先生が見せてくれたのと同じ写真が額に入っていた。

「……ほんとだ、おじさんも佐伯先生も面影がありますね」
 おじさんはニヤニヤしている。気づくと、あたしの後ろで、こうちゃんもニヤニヤしていた。
「フフフ……もう一人いるんだけど、気づかないか、メイちゃん?」
「えー、もう一人って……」
「真ん中の……坊主頭」
「え……?」

 30秒ほど見つめて、ビビッときた!

「こ、これって、お父さん!?」
「ピンポーン!!」
「いや、いや、アハハハハ!」
 なぜかおじさんが照れ笑いしだした。
「これさ、芽衣のお母さん口説いてさ、ムクツケキ男子生徒たちが計画的に集団立候補したんだって!」
「そう、だから女子は結衣ちゃん一人だけなんだ」
「そ、そうなんだ」
 あたしは自分のことのようにドキドキしてきた。
「もう昔の話だけど、みんな結衣ちゃんを狙っていたんだ。一番熱心だったのは佐伯だ」
「え、佐伯先生が!?」
「みんなで立候補しようって言いだしたのも佐伯だったしね」
「ど、どうしよう……」
「どうしたんだ、芽衣?」
「佐伯先生の授業、まともに受けられないよ」
「あ、それはあるな。芽衣、お母さんとよく似てるからな」
「ハハハ、もう昔の話さ。割り切ってなきゃ、佐伯も写真見せたりしないさ」
「そ、そうですね。やだ、あたしったら自意識過剰だ」
「いちばん醒めてたのが泰介、メイちゃんのお父さんだったけど、けっきょく泰介が射止めちゃうんだからな。世の中分からんなあ」
「そうだったんだ……」
 
 それから、おじさんたちとお母さんの青春時代の話になって、立会演説の原稿の話はできなかった。

 家までのアーケードをこうちゃんが送ってくれた。
「実は、親父も芽衣のお母さん狙ってたんだぞ」
「え、うそ!?」
「けっきょく振られたんだけどな。それでよかったんだよな」
「え、あ、うん」
 おじさんの気持ちを思うと、ひどくあいまいな返事になってしまった。
「分かってんのか芽衣? もし、親父とお母さんがくっついていたら、オレも芽衣も存在しないことになっちゃうんだぞ」
「え、あ、そそそ、そだね!」

 世の中って、きわどい偶然の上に成り立っているのだと思った。

「そうだ、これ」
「え……なに?」
 こうちゃんは封筒を差し出した。
「え、え、え、これって……」
「バカ、なに赤くなってるんだよ。これ、芽衣のお母さんが立会演説で喋った元原稿、コピーだけどな。記念に親父もらったんだって。貸してやるから参考にしなよ」
「あ、ありがとう」

 あたしは、20何年前のお母さんに助けられることになった……。
 

※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・17『巻き爪・2』

2018-03-10 16:54:25 | 小説3

通学道中膝栗毛・17

『巻き爪・2』        

 

 

 巻き爪になるのは自然の摂理……なんだそうだ。

 

 この身もふたもない答えは皮膚科のお医者さん。

 三度目の正直、鈴夏に付き添ってもらった学校帰り、通学路の二つ向こうにある鈴木医院。

 診察室まで付き合うという鈴夏に「子どもじゃないんだから」と言ったけど、看護師さんに呼ばれたわたしは、インフルエンザの注射をされる小学生の心境だった。

「じゃ、靴下脱いで足を見せて」

 そう言われた時は――しまった、足洗ってくるんだった!――足上げたらスカートヤバイ!――とか閃いてしまってプチパニック。鈴木先生は中年の女医さんだけど、やっぱ恥ずかしい。

 緊張しまくってると看護師さんが膝に毛布を掛けてくれる。ちょっと安心。

「歩き方が悪いのね、普通に歩いてると足の裏全体に力がかかるのよ。むろん指にもね。指が地面を押すことで丸まってしまおうとする爪に下からの圧力がかかって、爪は平たくなるの」

「え、あ、そうですか?」

「今日はいつもの通学靴?」

「は、はい」

「ちょっと見せてもらうわね」

 そういうと、先生は看護師さんに靴を取りに行かせた。

「ドタ靴ですみません」

 学校帰りでもあるし、まさか靴を見られるとは思ってなかったので入学以来のくたびれローファーだ。

「ああ、やっぱりね」

 靴底というのは一種の恥部なんだということを実感してドキドキする。きっと顔が赤くなってるよおおおお。

 そんな患者の気持ちには忖度しないで、先生は淡々と言う。

「ほら、先の方は減ってないでしょ。指に力が入ってない証拠……踵の縁方は正常ね、X脚でもO脚でもない……でも、ちょっときついんじゃない?」

「あ、えと、買ってしばらくは。いまは馴染んでますけど」

「それは無意識に足の方が慣らしちゃったのね、でもって、指先が堪えちゃって地面を踏まなくなったのね」

「あ、じゃ買い直します。もう二年近く履いてますし」

「それがいいわね、買う時は夕方にしなさいね」

「え、なんでですか?」

 次の休みに朝から買い物に行くスケジュールが浮かびかけていたので、ちょっと面食らう。

「朝と夕方じゃ足のサイズが違うのよ、夕方は足がむくんじゃうから。それから、できたら下駄も買って」

「下駄ですか!?」

 声が裏返ってしまう。外まで聞こえたんだろう鈴夏がクスクス笑う声がする。

「お友だち?」

「あ、はい、帰り道いっしょなもんで」

「いいお友だちね」

「で、下駄ですか?」

「昔の人には巻き爪ってないのよ、下駄とか草履とかでしょ。あれって鼻緒を指で挟むでしょ、すると自然に爪先に力が入って地面を噛むように歩くの」

「へーそうなんですか!」

 また鈴夏のクスクス笑い。

 

 治療というよりはアドバイスうけてお終い。

 わたしが最後だったみたいで、先生は待合まで出てきた。でもってクスクス笑いが顔に貼りついている鈴夏に言った。

 

「あなたも足見せてくれる?」

「え、え、わたしもですか!?」

 あっという間に診察というか観察を終えて、先生は提案した。

「あなたは異常なし……身長も同じくらいだし、田中さーーーん」

 看護師さんを呼ぶと何やら指示、やがて看護師さんは何やら二つ持ってきた。

「これあげるから、二人で歩数の比べっこしてごらんなさい。分かれるところまで測ったら電話して」

「「あ、はあ」」

 

 でもって、スカートの胴回りの縁に万歩計を装着。鈴木医院からいつもの分かれ道まで計測した。

 鈴夏が2551歩、わたしが3021歩……なんで? 同じ距離を歩いたのに!?

「栞って短足なんじゃない?」

「んなことないわよ!」

 ムキになって足に長さを比べる。同じ長さだ、あたりまえだけど。同じような背丈だもんね。

 結果を電話で報告すると、先生の答えはこうだった。

――小山内さん、脚を庇って歩くから歩幅が狭くなるのよ。靴買い替えて、しばらく計測続けてごらんなさい――

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高校ライトノベル・アーケード・12《30センチほども》

2018-03-09 18:14:42 | 小説

・12
《30センチほども》



 芽衣は後悔していた。

 おとつい生徒会室の前で佐伯先生に古い写真を見せられた。
 写真には6人の男子に混ざって、自分と同じ17歳の母が緊張して写っていた。これから生徒会の役員としてやっていくんだと言う初々しい決意が見えた。
 芽衣は前日の失敗で制服を汚してしまったので母の制服を着ていた。それは偶然だけど運命のように感じた。

「あたし、生徒会の役員選挙に立候補するの!」

 家に帰って報告すると、祖父母も喜んでくれた。
「それはいい! 芽衣も、たまには積極的にならなくっちゃな」
「思い出すわ、結衣さんも、初めて来たときは、こんなだったわね」
「そうだったな。泰介といっしょに帰ってきて、最初は言葉が無かったんだよな……」
「モジモジ俯いてばかりで、やっと『小池結衣です、お邪魔します』って言って、また俯いちゃって」
「そう、で、泰介が宣言したのよ『俺の彼女なんだよ』って……すると結衣さん、真っ赤な顔を上げてね」
「『あたし、生徒会の役員選挙に立候補するんです! 百地くんとは立候補仲間なんです!』。なんだかムキになってねえ」
「結衣さんは恥ずかしかったんだよね……でも、手をつないだままだったから、バレバレだったけど」

――そうなんだ。お母さんにはお父さんが付いていたんだ……あたしは、一人ぼっち――

 お客は西慶寺の諦観(花子の兄)さんと診療所のケンニイだけなので、芽衣は奥のテーブルで立会演説の原稿を書いている。
 でも、ちっとも言葉が浮かんでこない。浮かんでくるのは体育館の演壇で立ち往生している自分の姿とため息ばかりだ。
――雰囲気にのまれただけなんじゃないのかな……こんなの引き受けて、芽衣のバカ!――
 そう思うと、プスー! と、ビーチボールから空気が抜けるような盛大なため息が出た。
「なんだ、芽衣ちゃん、スランプかい?」
「え、あ、いや、これは……」
 諦観に言われて、芽衣はアワアワしてしまう。
「芽衣の童話読んでみたいなあ」
 ケンニイが勘違いして腰を浮かす。
「だ、だめー! これはちがうんだからあ!」
「んー、このたび書記に立候補……芽衣、生徒会に立候補するのか?」
「わ、わわわわ、ちがうんだから、だから、だから……」

 芽衣は、道具一式を抱えると店を飛び出してしまった。

 アーケードを西に歩いた。

 途中、遼太郎と文香が声を掛けたようだけど、芽衣は気づかなかった。
 で、鎧屋の前で立ち止まってしまった。鎧屋を過ぎてしまえば商店街を抜けてしまう。抜けてしまえば、なんの解決にもならない。
――作品読んでって言えばいいか。こーちゃんには、いつも読んでもらってるから――
 そう思うと、芽衣は鎧屋のガラス戸に手を掛けていた。
「あのう、こーちゃん居ますか?」
「ああ、メイちゃん。甲、メイちゃんが来てるぞ!」
――う~ん……いま行く――
「あの声はトイレだな。上がって待っててよ」
「あ、はい……」
 勝手知ったる鎧屋なので、芽衣はリビングに向かった。途中トイレの前を通る。幼なじみの気安さで声を掛けてしまう。
「がんばってね~」
 声の代わりに唸り声が聞こえてきて吹き出してしまう。
 リビングに収まると、主人の甲太郎がジュースを持って現れた。
「あ、おじさん、すみません」
「いや、仕事も一段落したんでね」
 いつになくおじさんがニコニコしているので、芽衣はとまどった。
「メイちゃん、生徒会に立候補するんだってね」
「え、えええ……!?」

 あっさり言われてしまったので、芽衣はソファーの上で30センチほども飛び上がってしまった。


※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

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 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・16『巻き爪』

2018-03-09 18:06:09 | 小説3

通学道中膝栗毛・16

『巻き爪』        

 

 あいた!

 

 野菜炒めの仕上げに塩コショウ、テーブルの向こう側にあるのをフライパン持ったまま手を伸ばしたら、右足の親指に痛みが走った。

 フライパンを放ってはおけないので……って分かるわよね。放っておくと水分が出てビチャビチャになる。

 痛みを堪えて野菜炒めを完成させ、お皿に盛ってからソファーに腰掛け靴下を脱いでみる。

 

「え、なにーーこれ!?」

 

 おもわず叫んでしまった。

 右足首は、われながら可愛いんだけど、親指の先、形のいい爪がカチューシャみたく丸まって肉に食い込んでいる。

 生え際はいたって普通なんだけど、先に行くほど丸みがきつくなって先っぽはほとんど半円形……どころか、内側の端っこなんて垂直みたくなって、まるでホチキスの先っぽだ。

「あーー巻き爪だよ!」

 いつの間にか帰って来たお母さんが、梅干を食べたような顔して宣言した。

「そんなになるまで気が付かなかったのお?」

「ちょっと爪が切りづらいとは……でも、痛いとかは感じなかったからさ」

「どれどれ……」

 ムンズと足を掴むと目の高さまで持っていくお母さん。

「ちょ、股関節いたいよー!」

「体硬すぎ……あ、端っこの方切れてないよ、肉に食い込んでる」

「う、うそ?」

 たしかに右親指の爪は切りにくいんだけど、それでもちゃんと切って……いなかった。お母さんがムギュっと広げた指先には一ミリ幅くらいの爪が残っている。

「よし、お母さんがオペしてあげよう!」

「あ、いいって。料理できたところだから、食べてからでいい。野菜炒め水が出ちゃうよ」

「よし、じゃ食べてから」

 

 メインディッシュの炒め物は薄味だった。塩コショウは掴んだものの、足の痛みでかけるのを忘れてしまっていたのだ。

 でも、お母さんは巻き爪のオペは忘れなかった。

 

「い、いたたたた、痛いよ!」

 

 わたしの右足はお母さんの腕(かいな)でロックされ、爪きりで穿り出されるようにして食い込み爪が除去された。

「で、でもまだ痛いよーーーー」

「ちょっと化膿しかけてるねえ……こりゃお医者さんだな」

 

 というわけで、学校の帰り道、皮膚科のお医者さんに行くことになった。

 でもね、不思議と靴履いて歩いてると痛みが無いんだよね。痛みが無いと、お医者さん嫌いのわたしは――ま、いっか――という気持ちになってしまう。

「あ、そうだ、ファンシーショップ新装開店!」

 わざとらしく思い出して、お医者さんへの道の直前、鈴夏の肩を叩いて駅の向こう側へ。

 よし、今日こそは! 決心しなおしのあくる日。

 お医者さんに行くために、いつもとは違う道に入ったので鈴夏が不思議な顔をする。

「え、あ、いや、なんとなくだよ、なんとなく」

 わたしは皮膚科の看板を素通りしてしまっていた……。

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・15『再会』

2018-03-08 16:01:02 | 小説3

通学道中膝栗毛・15

『再会』        

 

 

 人骨が出てきたんだって。

 

 剣呑な噂を聞いたのは昼休みの中庭。

 中庭の真ん中には創立以来のケヤキがあってベンチが巡らせてある。そのベンチに腰掛けようとしていると、ケヤキの向こう側のベンチから聞こえてきた。

 え!?

 身体を伸ばして振り返ると、例の一年生たち。

 目が合ってしまい、一年生たちはバツ悪そうに顔を見合わせる。

「えと、あの更地にいましたよね?」

 ショートカットの子がオズオズ聞く。

「あ、うん。駅とかで、よくいっしょになるよね」

「あの更地から人骨が出てきたって、今朝は警察とか来てましたよ」

「え、そうだった?」

「家の用事で二時間目から来たんですけど、更地の前にパトカー停まって、工事の人と話ししてましたよ」

「家にメールしたら、近所でも評判になってて、なんか子どもの骨だったって」

「もう、なんだか怖いなあって」

 一年生たちは眉を顰めるが、目がキラキラしている。

 

 子どもの人骨……ユイちゃんじゃないかという思いが胸に広がった。

 

 午後の授業は頭に入ってこない。終礼が終わると、わたしは更地に急いだ。

 警察の規制線が張られ、見張りのお巡りさんが立って、マスコミが押しかけて……と思ったんだけど、拍子抜けがするほど何もなかった。

 え、ええ?

 戸惑いながら更地に近づくと、陰になっているところからサングラス掛けた女の人が現れた。

 軽快な服装だけど、しっとり落ち着いていて奥様風。

 ふと振り返って目が合うと、逸らす間もなくこっちに寄ってくる。

「シーちゃんじゃない?」

「え!?」

「ほら、わたしよ!」

 サングラスをとった顔は予想よりも若やいでいた。

「あ、えと、どちらさまでしょう?」

「わたしよ、ほら!」

「キャ!」

 女の人は、わたしを後ろから抱くようにして手を重ねて、重ねた手をハンドルの位置に持ってきた……!

「え、え、ええ!?」

  そうだ、これは木の葉のキックボードの感じ!

「思い出した?」

「ユ、ユイちゃん!?」

 

 ユイちゃんは記憶していたよりも年上で、二十歳を超えているけど、見かけ通り奥さんになっていた。それも青木ナントカさんの奥さんだった。迷子事件をきっかけに仲良くなって、紆余曲折があって、去年の暮れに結婚したらしい。

「今日は人骨騒ぎで大変だった」

「え、そうだったの?」

 昼からとっても気になっていたんだけど、なんだかみっともない気持ちになって、わたしはすっとぼけた。

「青木は俳優でしょ、雰囲気を大事にするからガラクタが多くて。一昨年ミステリーに出た時に家に人骨が埋まっているって役をやったのよ。その雰囲気を身に着けたいって言うんで、庭に埋めたのよ。あ、もちろん小道具用の作り物よ。で、撮影が終わると海外ロケで、すっかり忘れてしまったのね。それが今朝出てきたもんだから、ちょっと騒ぎになっちゃって。でも、なんか懐かしくて、キョロキョロしてたらシーちゃんが来たってわけ」

「え、あ、そうだったんだ」

 懐かしくも拍子抜けがして、二人でアハハと笑ってしまう。

「じゃ、ごめんなさい、主人が迎えに来るから」

 通りの向こうに停まっている車に手を振ってユイちゃんは行ってしまった。

 

「なんで、先に帰るかなあー」

 

 鈴夏が怖い顔してやってきた。思い詰めていたわたしは鈴夏に話す余裕も無くしていた。

「ごめん、いや、あ、実はね……」

 説明しようとすると、駅向こうに出来たファンシーショップにご執心の鈴夏に遮られる。

「んなこといいから、開店記念のグッズ、ゲットしに行く!」

「あー腕抜けるーーーー!」

 賑やかに駅向こうに向かう二人でありました。

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高校ライトノベル・アーケード・11《バッジの穴》

2018-03-07 16:39:37 | 小説

・11
《バッジの穴》



「ノワーーーー!!」

 まるでアニメのような声を上げてしまった。
 学校から帰ると、団体のお客さんが帰った後で、店のテーブルには片付けなければならない食器が一杯だった。
 で、芽衣はカバンを置いただけの制服姿で手際よく片付けにかかった。
 そして最後のテーブルを片付けたところで、半分残っていたオレンジジュースのグラスをひっくり返してしまった。
「あらあ~……!」
 お祖母ちゃんが飛んできて、お手拭きで叩くように拭いてくれたが後の祭りだった。上着は紺だから目立たないけどベトベトが取れない。スカートはチェックの明るい色のところが明らかなシミになってしまった。
「クリーニングに出しても明日には間に合わないね……」
 もう半月あとなら合い服期間なので夏服を着ることができるが、まだ今の時期は冬服だ。
「担任の先生に言って、異装許可もらわなきゃならないかなあ」
 お祖父ちゃん、そう言ったが、芽衣は「う、う……」唸るような声しか上げられなかった。

「そうだ、結衣さんのが残っているかもしれない」

 お祖母ちゃんが手を叩いて、クローゼットの奥をひっくり返してくれた。

 で、今朝は亡くなった母の制服を着て登校することになった。
「メイちゃん、どうかした?」
 あまりに服を気にしているので、アーケードを出たところで花屋のあやめに聞かれてしまった。
「じつはね……」
 昨日のことを説明すると、みんなが驚いた。
「メイちゃんのお母さん大事に着てたのね!?」
 みなみが驚き、他のメンバーも感心したように頷いた。西慶寺の花子などは手を合わせて「南無阿弥陀仏」と唱えていた。
「この時代って、ウールの混紡だから生地がいいのよ」
 履物屋の文香がガラに似合わず女らしいことを言うと、女の子たちが集まって「ドレドレ……」ということになってしまった。
「ほんとだ、手触りが違う!」
「今のよりもフワッとしてる!」
 芽衣はモルモットになってしまった。
「メイ、パンツ見えてるぞ」
「え、え、もう、みんなあ~!」
 遼太郎に言われてアワアワしてしまう芽衣。
「ハハ、りょうちゃんのハッタリだよ」
 甲が言うと、遼太郎は女の子たちにボコボコにされてしまった。

 芽衣自身は、母のお古という以外に、ほとんど自分の制服のように違和感が無かったが、1つだけ気になった。

 ブレザーの襟のバッジを付ける穴が一つ多いのだ。
――校章と学年章……もう一つはなんだろう?――
「虫食いかもな」
 遼太郎が余計なことを言うので、ふたたびアワアワしながら校門を潜ってしまった。

「あら、懐かしい制服着てるわねえ!」

 廊下で家庭科の杉本先生が声を掛けてきた。
「え、分かるんですか!?」
 朝からのことがあるので、芽衣は泣きそうな顔になってしまった。
「生地が違うし、ダーツの取り方なんかが微妙に違うのよ」
 さすが家庭科である。と思っていたら、生徒会顧問の佐伯先生までやってきた。
「……そうか、これ小池が着てた制服なのか」
 母の名前を旧姓で言うと、ちょうど目の前の生徒会室に入り、取り巻きの先生が5人に増えたところで戻って来た。
「ほら、これ見てみろ」
 差し出された写真は、昔の生徒会執行部の写真で、端の方に芽衣にそっくりな17歳の母が写っていた。
「……あ、そうなのか!」

 バッジの穴が一つ多い理由が分かった。

 母の襟もとには、学年章の下に生徒会役員を示すバッジが光っていた。

 そうして紆余曲折の1週間があって、芽衣は母と同じ生徒会の書記に立候補することになってしまった。

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