大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・14『庭の井戸が目についた』

2018-03-07 15:11:07 | 小説3

通学道中膝栗毛・14

『庭の井戸が目についた』        

 

 

 家の電話番号が思い出せなかった。

 

 幼稚園に上がる時、なにかの時の為に憶えておきなさいと言われて、いったんは覚えたんだけど忘れてしまった。

 迷子になったショックからなのか、もうひとつ覚えさせられたお母さんのスマホの番号とごっちゃになったせいかもしれない。

「じゃ、お名前は?」

「しおり……おさないの」

 ユイちゃんとの会話で変になっちゃったので、苗字を形容詞のように言ってしまった。

「そう、まあ、ゆっくり思い出すといいわ」

 オバサンはニッコリ微笑んで、同じような質問をユイちゃんにもした。ユイちゃんのことを妖精さんだと思っていたので、耳をダンボにしてユイちゃんの答えに耳を傾けたけど、ヒソヒソ声で聞こえなかった。

「ま、せっかく来たんだから遊んで行きなさいな」

 オバサンは出て行って、拗ねた感じの男の子が相手をしてくれた。見かけは拗ねものだったけど、たのしく遊んでくれた。男の子の部屋は離れにあって、ドキドキした。だって、部屋っていうのは同じ建物の中にあるものしか知らなかったから、なんだか秘密基地みたいなんだもん。靴を履いて庭に出て、踏み石をピョンピョン飛んで別棟の離れへ、でもって、もう一度靴を脱いでお部屋に上がる。もうワクワクだ。

 男の子は器用な子で、絵本を紙芝居みたく音読してくれたり、トランプを出して手品をしてくれたりした。

 それからお昼寝したら、庭の井戸が目についた。

「あれ見たい」と言った。

「あ、あれは危ないからダメだよ!」

 男の子は、そう言うと、カッコよく腕組みしてポンと手を打ってこう言った。

「そうだ、写真を撮ってやろう!」

 そう言ってごっついカメラを出してきて門の前で写真を撮ってもらった。それが鈴夏が見せてくれた写真の一枚だ。

 でも……写真にはわたしと男の子が写っている。

 ということは、だれかが撮ったんだ。うん、セルフタイマーなんかじゃなくて誰かが撮ってくれたような記憶がある。

 オバサンは……たぶん、わたしたちの家を探しに行ってくれていたんだと思う。たぶん駅前の交番へ。

 ユイちゃんは……記憶がない。

 離れで手品見てケラケラ笑っていたところまでは覚えている。昼寝から目が覚めると……ユイちゃんの姿は……はっきり覚えてはいない。ユイちゃんは妖精さんだから魔法で先に帰ったか、妖精の世界のタブーかなんかでみんなの記憶を消してしまったか。

 そのあと、オバサンがお巡りさんを連れて戻って来た。いちど交番に行ってしばらくするとお母さんが心配そうな顔で迎えに来たんだ。

 そして家に帰ったんだけど、ユイちゃんは居なかった。

 なんだかユイちゃんのことは触れてはいけないような気がして、そして年月が経ってしまって……忘れてしまったんだ。

 忘れてしまったんだということを思い出してしまった。

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・143『リベンジサンタ』

2018-03-07 06:32:34 | ライトノベルセレクト

ライトノベルセレクト・143
『リベンジサンタ』
        
初出:2013-12-24 10:33:45

 
――今夜オレの部屋に来い。もとに戻らなきゃ、このシャメを拡散させる!――

 メールをスクロールして、わたしは凍り付いた。やつにせがまれて、その場の雰囲気だけで撮ったシャメ。M字開脚でピースサインした、あたしのヌードのシャメ。

 世界が真っ暗になったようなショック! 吸い込む空気が全てトゲになったような痛みが胸を走った!

 伸吾は、最初は優しかった。バレンタインデーのチョコを渡したら、手を震わせて喜んでくれた。ホワイトデーの週にはディズニーリゾートに連れて行ってくれて、チョコの二十倍ぐらいの値段のする指輪をくれた。多分二ヶ月分のバイト代を全てつぎ込んだくらいの……で、その夜泊まったホテルで、このシャメを撮らせてしまった。明くる朝には「これは、やりすぎだな」そう言って、あたしの目の前で消去したはずのシャメ。それで、あたしは安心してしまった。

 夏頃から、ベタベタの度合いがひどくなってきた。人に「オレの満里奈」から始まり、秋の始まり頃には「オレの女」と言い始め。人中でもキスを求めるようになってきた。
 そんな伸吾が疎ましくなるのに時間はかからなかった。
「今夜は……」
 と、伸吾が言い終わらないうちに、あたしは拒絶していた。
「今夜は帰る」
 お返しに平手が飛んできた。
 それから、伸吾の電話に出なくなった。メールも返さなくなった。先月はアドレスを変えた。

 そして、一カ月。新しいアドレスを調べた伸吾が、このメールを送りつけてきた。シャメは消去する前に自分のパソコンにでも転送していたんだろう。
――警察に言う――
 そう返した。
――警察が踏み込む前に送信ボタンを押してやる――
 無慈悲な返事が返ってきて、あたしは炬燵の上に頭を落とした。

「困っているようじゃのう」
 頭の先で声がした。
「ん……?」
 炬燵の上に、身長二十センチほどのサンタが立っていた……。


 ドアのノックがして、オレはギクリとした。

「だれ!?」
「……あたし」
 喉から心臓が飛び出しそうになった。まさか、満里奈が来るとは思っていなかった。
 クリスマスイブの今夜。十二時調度にシャメを投稿することにしていた。
 ドアスコープで覗くと、思い詰めた顔をした満里奈が立っていた。多分死角になったところに、私服の警官が四人はいるんだろう。
 覚悟はしている。その時はこのスマホの「投稿」にタッチするだけだ。あのシャメは、我ながらいけてる。削除される前にコピーされ、拡散するのに、そんなに時間はかからないだろう。それでリベンジは済む。
「入れよ」
 スマホを後ろ手にしてドアを開けると、そこには満里奈しか居なかった。
「キョロキョロしなくても、あたししか居ないから。寒いから早く中に入れて」
「ごめん、てっきり嫌われてると思った」
「メールで、伸吾の気持ちがよく分かった。そうでなきゃ来ないわよ」
「そうか……」
「カーテン閉めて。お願い……」
「う、うん」

 カーテンを閉める後ろで、マフラーとダッフルコートを脱ぐ衣ずれの音がした。振り返ると……裸の満里奈が震えていた。
 オレは、スマホで満里奈を連写した。浅ましいとは思ったが、止められなかった。
「お願い、早く暖めて……」
 オレの満里奈! オレの女!

 めくるめくクリスマスの一晩が過ぎた。

 満里奈の温もりで目が覚めた。まだ目は閉じたまま。ベッドの中で背中を預けた満里奈の胸に手を伸ばす……え、胸がない!?
 ゆっくりと振り返った満里奈は……潤んだ目をしたオレそのものだった!


「どうだい、こんなところでいいだろう」
 二十センチのサンタが言った。
「このシャメが拡散するわけ……ちょっとかわいそう」
「優しいのう、満里奈は」
「だって、これ別の意味で警察がくるわよ。素っ裸の伸吾のシャメなんて」
「心配せんでいい、見えているのは伸吾と満里奈のスマホだけじゃ。伸吾のスマホから満里奈のアドレスも消えて居る。もっとも、あいつも、これで満里奈にちょっかいは出さんじゃろうが……さあて……」
「もう行くの?」
「ああ、サンタが来るのも来年が最後じゃ。いい子でいて、最後にふさわしい願い事を考えておきなさい」

 サンタは、サッシのガラスをトナカイのソリに乗って素通しで抜けて消えていった……。


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高校ライトノベル・アーケード・10《郷中》

2018-03-06 16:42:01 | 小説

・10
《郷中》



 まるで幼稚園の先生だ……神田校長が喋りだすと、花も甲も思った。

「小学校のクラスには定員があるんです。1クラス40人以下、一年生は35人以下。つまり36人を超えるクラスが出てくると、クラスを分割して35人以下にします。で、今年は4月の8日に転入生があって1クラスが36人になってしまいました。で、一年生全体をシャッフルし、それまでの3クラスを4クラスにしたんです。これは『公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律』に基づいています。ここまではいいかしら?」

 神田校長はニッコリと花と甲の目を見た。

「先があるのなら続けてください」
「どうぞ」
「シャッフルして4クラスにすると、26人のクラス2つと、27人のクラス2つができます。でしょう? 36人のクラスよりもよっぽど目が行き届く……でしょう? つまり子どもたちの為になるということで~す! 法律どおりだし子どもたちの為にもなる! とってもいいことじゃありませんか~!?」

 満面の笑みで神田校長は締めくくった。

「新しいクラスは、4つのクラスに均等配分されたんですよね?」
「ええ、若干の配慮や入れ替えはあるけれど、基本的にはそうですよ」
「じゃ、これを見てください」
 甲は、元の3クラスと新しい4クラスの編成表をテーブルの上に置いた。
「元のクラスが分かるように色分けしました」
「あ……………………」校長は目が点になってしまった。
「お分かりになりましたか? 1~3組は元の先生が元の自分のクラスの生徒を18人もとっています。4組はその残りの子どもたちを集めた……いわば寄せ集めです。均等配分とは言えませんね」
「この寄せ集めのクラスの担任は、今年新採でこられた女の先生です」
「8日に転入の児童が居たので、10日付で加配の先生がこられてますよね?」
「つまり……このクラス替えは、子どもの為というよりは、先生たちの都合じゃないですか?」
「……………………………………」

 校長室を重い沈黙が支配した。

「元のクラスに戻してください……校長先生」
「それは……もう決まったことだから」
 あとの言葉を濁して、校長は頭を下げた。
「相賀の町は『組』とか『会』を大事にするんです。町内会とか商店会とか子供組とか、そういう結合が重なったところに相賀の街があるんです。これは学校のクラスもいっしょです」
「小学校は、東京や他府県から来た先生が増えてきてますが、相賀の……あり方というものも気にかけて……いただけると嬉しいです」
「えと…………………」
「「よろしくお願いします」」
 一礼すると、甲と花は校長室をあとにした。

 プッ、プップー。 

 校門を出るとクラクションが鳴った。

「ご苦労、乗んなさい」
 相賀中学の水野教頭は、セダンの後部ドアを開けた。
「どうもありがとうございました」
 お礼を言いながら花が乗り込むが、甲は一礼しただけで言葉が継げなかった。
「岩見君は一言ありそうだな」
「あ……」
「本来は郷中でやりたいところだったんだろうがな、よその人には分かってもらえないからな……気にするな」
「いいんですよ、こうちゃん頭硬いから。明日になったら納得してますよ」
「さすが藤谷さんは西慶寺のおひーさまだ。鷹揚だね」
「フフ、こういう性格なんです」
「岩見君は具足駆をやったんだってな、そろそろ大人だな」
「あ、ショッピングモールの客寄せレプリカでしたから」
「それでも、相賀の甲冑師岩見甲太郎の作だ。立派なもんじゃないか。殿さまからお墨付きはもらったのかい?」
「そんな大げさなことは」
「わたしからお話ししておこう」
「それはいいわ。わたしたちも具足祝いしてあげたんですよ」
「そりゃよかった!」
「御家老さまも、なにかしてやってもらえませんか?」
 楽し気に花子が焚きつける。
「あ、相賀カボチャとかはけっこうですから!」
「ワハハ、先を越されたなあ!」

 商店街に着くまでの間、セダンの中は二昔ほど前の相賀の空気に満ちていた。


 ※:郷中……旧藩時代から続く相賀の自治的な教育組織、10歳から20歳くらいまでの若者が所属、地域のことには大人と同等な発言力がある。緩やかに、今の相賀の町にも生きている。

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・13『妖精のユイちゃん』

2018-03-06 16:27:50 | 小説3

通学道中膝栗毛・13

『妖精のユイちゃん』        

 

 

 幼児の生活空間は狭い。

 わたしの場合、家の前の道路、あっちと向こうの電柱の間ぶんくらいしかなかった。

 

 その電柱一本分が自由にあそべる空間で、それを超えた向こう側に世界が広がっているのは分かっていたけど、臆病な子だったので、ひとりで踏み出すことは無かった。

「向こうに行くのにはシーちゃん経験値足りないからね」

 お母さんは、わたしの好きなゲームに例えて注意してくれていた。

 ファインファンタジーというゲームでは、経験値不足のままエリアを出てしまうと、お気に入りの魔女っ娘ロッドでは倒せないモンスターなんかがいて、あっという間にやられてしまう。やられてしまうと最後のセーブポイントまでもどされて、アイテムとかみんな没収されてしまう。

 例外は妖精のユイちゃん(デフォルトでは別の名前なんだけど、お母さんが付けた)が誘ってくれた時だけ。

「見るだけだったら連れてってあげるよ☆彡」

 魔法の葉っぱに乗って、五分の時間制限で見せてくれる。そうやって、次のエリアに慣れて、経験値を貯めてから本格的に進出できるわけ。ま、イージーモードのチュートリアルって感じ。

 ゲームに例えて注意するというのは、お母さんも考えたもんだと思う。ゲームオーバーになると大泣きしていたわたしだから、この注意の仕方は効果抜群で、お母さんがちょっとの間家の中で用事していても電柱一本分を踏み出すことは無かった。

 

 ある日、電柱一本向こうの十字路を妖精さんが横切った。

 

 今から思うとキックスケーターなんだけど、わたしには春風に乗ってやってきた魔法の葉っぱに見えた。

 若草色で、ハンドルの所には小っちゃい羽が付いていて、いかにも妖精さんの乗り物。その子の背中にも天使の羽が付いていて、もう、まるっきりの妖精さん。

 わたしの視線に気づいたのか、妖精さんは魔法の葉っぱにブレーキかけて、わたしと目が合った。

「あなた、だれ?」

「え、え、えと、おさないしおり」

 わたしは行儀よくフルネームで応えた。妖精さんにはきちんと応えなきゃいけないと思ったから。

「そーか……おさないんだ。おさない子はめんどうみなくちゃね」

 おさない意味を勘違いしているようにも思えたけど、妖精さんの目はキラキラしている。

 そうか、安心させようと思ってギャグを飛ばしたんだ。わたしは嬉しくなってニッコリした。

 妖精さんは慈愛に満ちた目になって手を差し伸べてきた。妖精さんの羽がフルフル羽ばたいたような気がした。

「乗ってく?」

 妖精さんがニパっと笑った。わたしはコクコクと頷いた。

「おいでよ!」

「え、えと、お名前は?」

 ほとんど妖精さんだと思っていたけど、最後の確認をした。

「ユイちゃんだよ」

 わたしの思いは確信に変わった。

 葉っぱの前の方を開けて、わたしを載せると地面を蹴ってユイちゃんは出発した!

 ユイちゃんは、わたしより少しおっきくて、ハンドルを持つわたしの後から被さるようにしてくれるのが嬉しかった。もうゲームの中のユイちゃんといっしょだ。いや、ゲームの中から抜け出して迎えん来てくれたんだと感激していた。

 

 そして道に迷った。

 

 くたびれ果ててしゃがみ込んだのが、あの家の前だった。

 キーっと門が開いたので、ユイちゃんもわたしも驚いた。

 やさしいオバサンが出てきて「ま、かわいい妖精さん」と笑った、オバサンの後ろには、ちょっと拗ねた感じの男の子。

 いま思うと、あれが今を時めく若手俳優の青木ナントカさんだった……。

 

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高校ライトノベル・センセがこんなカッケーわけがない!02・カッコわりーじゃねえか

2018-03-06 06:09:50 | 小説7

センセがこんなカッケーわけがない!02

  カッコわりーじゃねえか

 うちの担任は出欠を取るのが早い。

 早いと言うのは、よそのクラスより早くとるというわけじゃない。
 取り始めてから取り終るまで30秒ほど。そういう意味で早い。
 30秒には説明がいる、人によっては早いとは思わないかもしれないから。

 朝のショートホームルームで出席を取るんだけど、このショート開始のときに教室には10人ほどしかいない。

 10人ならあっと言う間だろうって? そうはいかない。
 出席者だけ確認していると、そのあと大量に遅刻してきた奴が「センセ、オレ居たぜ!」と言いだす。むろん嘘。
 センセも人の子だから、年に何度かは間違える。それを楯にとって「オレ居たぜ!」をやらかす。
 センセが気が弱いと「オレも」「あたしも」てなことになって、遅刻は実際の半分以下になることもある。ひどい場合には20人近くチャラになることさえあった。秩序もなにもあったもんじゃない。

 うちの担任はチャイムが鳴る3分前には教室の前の廊下に立っている。

「あと2分で本鈴! 昇降口の者は急げ!」から始めて「あと30秒、まだ間に合う!」てな具合に生徒に注意喚起する。
 イスラムの坊さんが寺院のミュナレット(尖塔)からコーランを読むのに似ていると冷やかすセンセもいる。
 でもって、遅刻の群れの切れ目を見て、教室に入り、こう叫ぶ。
「さっさと座れ! 席に着いていないものは欠席だぞ!」
 これを2度ほど叫び、大量にコピーしてある座席表で一気に確認する。目視だけではなく呼名点呼。それも必ず生徒の顔を見る。
 で、これを2回繰り返す。点呼途中に入ってきた者は「ギリギリだな」とセーフにする。

 まったく丹念な出欠点呼で、うちのクラスは朝の出欠でのトラブルは無い。

 遅刻が15回を超えると生指部長注意になる。生指部長はゴリラみたいな元ラガーマンで、めっぽう怖い。
 怖いから、みんな嫌がる。今朝〇〇が15回になった。
「〇〇、生指部長注意だからな」
 担任が宣告した。

 そのとき〇〇は仏頂面ながらも納得していた様子だったが、3時間目の休み時間に担任に食いついた。

「いっしょに来てる、隣の△△は15回とられてないのに、なんでオレは15回なんだよ!」
「本当は本鈴でアウトだ。混乱するからクラスの状況で多少のタイムラグがあるんだ。うちのクラスでは遅刻だ」
「それでも隣のクラスじゃ遅刻になってねー!」
「オレは10回超えた時から、毎回注意してるじゃねーか。なんで今さらプーたれる」
「だって、隣は遅刻になってねー!」
「話にならねー」
 担任は、ばっさり切り捨てた。

 これでケリがついたたかと思ったら、放課後になって△△の母親が文句を言いに来た。

 ハズイことに、△△と母親は教育委員会にまで電話したらしい。
 こんな△△を英雄みたく言う奴がいるから気が知れない。

 で、いま学校はもめまくっている。じつに不毛ってか、カッコわりーじゃねえか。

 で、2つ思う。

 どうしてビシーって言わねーんだろ?
 どうして朝の遅刻指導、担任一人でやってんだろ?
 

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高校ライトノベル・アーケード・9《西慶寺本堂にて》

2018-03-05 15:52:52 | 小説

・9
《西慶寺本堂にて》



 商店街の幼なじみ達は西慶寺の本堂に集まった。

「……というワケなのよ!」
 文香はバレー部のポイントゲッターで、ガタイも大きいが声も大きい。その文香が興奮して喋りまくるのだから、御本尊の阿弥陀様もびっくりだ。
「要するに~、けしから~んということね」
 お寺の花子がノンビリとまとめようとしたた。
「え、え、そうよ。学級崩壊してるわけでもないのに、学年の途中でクラス替えなんて絶対やってはいけないことよ! それも小学校の1年生の4月だよ、そう思うでしょ、みんな!?」
 文香は腕をブンブン振り回しながら続ける。
「こんなの許したら、あたしたちの相賀小学校は死んでしまうわよ!」
「ふーちゃんの想いは伝わったから、ね、お確かめしよう。りょうちゃんお願い」
「え、なんでオレ?」
 幼なじみたちには不文律がある。大事なことを決める時は、発案者ではないものが中身を確認して、きちんと共通理解が得られていることを確認する。

 お確かめと言って、相賀五万石の昔からの慣わしである。

 殿様の御前で評定をするとき、声の大きい者に流されないよう、また、冷静に共通理解が得られるようにするために一番口数が少なかった者が評定の中身を確認することになっている。
 このとき花子が遼太郎を指名したのは口数の少なさではなく、脱線する発言が多く、ほとんど聞いていないからだろうと思われたからである。
「お確かめ!」
 文香が催促し、幼なじみたちの視線が遼太郎に集まる。
「え、えと……相賀小学校があ、4月のこんな時期に1年生のクラス替えをやるのは、おかしい……って、えー、ことだよな?」
「たよりないなあ、りょうちゃんよー!」
「まあ、基本は外してないから。ありがとうりょうちゃん。みーちゃんも、これでいいかな?」
 花子はみなみにも振った。みなみの弟の正親も相賀小学校の1年生だからだ。
「うん、まーちゃんも変な顔してたしね」
「よし、じゃ、あたしとこうちゃんが事情を聞きに行く~ってことでいいわね?」
 みんなが頷いた。
「ついでに運動会のことも聞いてくるわね~」
 それだけでみんなには分かった。去年休止になった『相賀騎馬戦』のことなんだと。

 花子は、穏やかに話しをしに行くために運動会のことを付け加えたのだ。クラス替えのことだけでは角が立つと思った。

 だが、お寺さんらしい花子の気配りは相賀小学校の校長の一言でワヤクチャにされてしまった。

――卒業生のご意見は嬉しいけど、未成年であるあなたたちとはお話しできません――

 穏やかだけれども、明らかすぎる拒絶だった。
「こまったなあ」
 花子から話を聞いた甲は自分の顎を撫でた。言葉の割には深刻そうには見えない。
「どうも、郷中のことを分かってもらえてないようね……」
 花子も腰かけた本堂の階(きざはし)に後ろ手着いてこぼした。昼ごはんを食べ損ねた程度の穏やかさだ。

 この穏やかさは、相賀の地生えの者にしか分からなかった……。
 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・12『青木ナントカ』

2018-03-05 14:10:54 | 小説3

通学道中膝栗毛・12

『青木ナントカ』        

 

 

 更地の主は青木ナントカという若い俳優さんらしい。

 今年の大河ドラマにも梅雨ごろには出るらしく、鈴夏の熱い語り口では流行りのスマホのCMにも出ているらしい。

 

 ちょっと説明が要るよね。

 

 鈴夏は親友だけど趣味が合う訳じゃないんだ。鈴夏は羨ましいほどのお調子者で、流行りの映画やテレビやらに詳しい。

 わたしの部屋のテレビは、もっぱらパソコンのモニターになり果てていて、本来のテレビの機能はオリンピックのここ一番という時くらいしか発揮しない。だから流行りのテレビなんかは観ないんだ。

 鈴夏も知ってるから、わたしに、そういう話題を振ることはめったにしない。

 しないんだけども、とくに配慮してくれてのことなんかじゃない。お互いがビビっとくるような話題を自然に振ってくれる。

 配慮してのことじゃないんで気が楽だ。配慮とか気を使ってのことなら、ほとんど毎日登下校を一緒にするようなことはないと思う。

 

「え、青木ナントカ(鈴夏は正確に言ったんだけど、わたしが憶えていない)知らないの!?」

 改札を出たところで鈴夏が目を剥いた。

 まるで総理大臣の名前を知らないおバカみたいに言う。で、大河ドラマやスマホのCMのことを言ったわけ。

「わたしも知らなかったんだけど、青木ナントカさんのお父さんが亡くなって相続したらしいんだけど、サッサと売っぱらちゃったんだって」

 それは分かる。

 家というのは人が住まないと朽ち果てるのが早い。建坪だけで五十坪、庭と離れを入れれば二百坪になろうかという家らしい、固定資産税もうちなんかとはケタ違いだろうし、売っぱらう気持ちはよくわかる。

「でも、あの家が青木ナントカの実家だとは知らなかったなあ……」

「知ってたら、どうすんの?」

「そりゃあ、帰ってくる日を狙ってサインくらいもらうわよ!」

「おおーーー」

 鈴夏にも、こういうミーハーなところがあるんだと感動した。

「月に一二度は戻ってきてたらしいからね、ラッキーにも通学路でしょ、待ち構えるわよ!」

「不審者だと思われない~?」

「女子高生をスゲナクしたら七代祟るんだよ~」

「あんたはお岩さんか(^_^;)」

「ほらほら、昔の写真だけど見てみー(。・_・。)ポッ」

 立ち止まってスマホを見せる鈴夏。こういう点お行儀がいいから歩きスマホなどはいたしません。

 それにしても、こういうことの情報収集能力は大したもんだと思う。更地になる前の青木ナントカさんの家とご本人の写真がズラリと出てきた。写真で見せられても――ああ、そうなんだ――にならないのは、やっぱ周囲が似たようなお屋敷ばっかだろう。

 そのうちの何枚かは青木ナントカさんの姿が映っている。最近のは爽やかなタレントさんという感じだけども、俳優になる前のパンピー男子のころは、ちょっと不良っぽい。

 あ!?

 一枚の写真に衝撃を受けた。

 青木ナントカさんが小学校高学年くらいで、家の前で小さな女の子と映っている。

 そして、その小さな女の子は……まちがいない、幼稚園に入ったばかりくらいのわたし自身だった!

 

 

 

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高校ライトノベル・センセがこんなカッケーわけがない!01・いま二時間目、チョーつまらん

2018-03-05 06:43:52 | 小説7

 センセがこんなカッケーわけがない!01

 いま二時間目、チョーつまらん

☆ 間違えるか~!?

 いま二時間目、チョーつまんない。で、出来心でブログを始めることにした。

 世界史の授業かと思ったら、日本史だった。気づいたのは授業が始まってから8分経ったころ。
 あ、オレのことバカだと思っただろ!?

 間違えたのは、オレじゃなくて、目の前でつまらん授業やってるセンセのほう。

 板書やりはじめて、みんな、なんだかソワソワしはじめてさ。全部書き終ったあたりで委員ちょが「それ日本史じゃ……?」と呟いたわけよ。
「え、あ、あ、このクラスは日本史だったっけ? 先生、世界史も持ってるから、勘違いした」
 で、黒板消して……え、黒板は消えない? そそ、黒板の字ぃ消して。ここで突っ込む君もどーかと思うんだけど。
 みんなから盛大なため息の抗議。

 まあ、まちがえるセンセも悪いんだけど、委員ちょが言うまで黙々とノートにとってる生徒もどーかと思う。
 オレは、ハナからとっちゃいないけど。

 で、日本史が始まるのかと思ったら、きたる参議院選挙の話になる。
 
 中立の立場でって言ってるけど、あきらかにヒダリに寄った話。

「いま、日本の平和というか安全保障が問われている。積極的安全保障という言葉も言われてる。ベテラン女優のYさんが言ってた『本当の意味で積極的安全保障は、すすんで武器を持たないこと』ってさ……」

 このセンセ、四月にYさんの大ファンだと言ってた。

 みんなが静かにしってから、正義の先生って感じになってる。
 みんな、ただ、つまらん授業が無くなっててよかったと思ってるだけなのにな。

 99%の確率で、このセンセは授業の準備忘れたんだぜ。正直に言えば、まだ可愛げがあんのにさ。

 だから、スマホで、こんなブログを始めてしまったじゃねーか。
 

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高校ライトノベル・アーケード・8《ゼブラのパンツにかけて》

2018-03-04 14:42:26 | 小説

・8
《ゼブラのパンツにかけて》



 履物店近江屋の末香(すえか)は小学一年生でスケバンになってしまった。

 今日4月15日は入学以来初めての体育の授業で、末香は他の女子たちといっしょに体操服に着替えていた。
 末香は姉の文香の影響で勝気な女の子だ。ただ姉と違って勝気さを表に出さないようにしている。
「ふーちゃんはやり過ぎだ」と思っている。
 昨日も朝から肉屋の遼太郎を追い掛け回し「こらあ!!!」の雄たけびをアーケード中にこだませた。

「ああいうふうにはなりたくない」

 だから先週の入学式から末香は大人しくしている。授業中に手を上げるのも微妙に遅らせているし、廊下だってけっして走らない。
 で、末香の1年2組では体と地声の大きい森田綾香が女のボスになりつつあった。

 それが、体育の着替えでひっくり返ってしまった。

 他の女の子たちは、小学1年であるけれども、肌を見せないように着替えている。森田綾香でさえ、スカートを穿いたままハーフパンツを穿き、それからスカートを脱ぐ。上は体操服を被ってからブラウスを脱ぐ。
 末香は違っていた。
 さっさとパンツ一丁になり、ストレッチをやりながらユルユルと体操服を着る。姉の文香と暮らすうちに自然に身に着いた大らかさだ。
「「「「「「おー、末香ちゃん!」」」」」」
 みんなが感嘆した。
 潔い裸だけではない、末香のパンツは文香とお揃えのゼブラのパンツであった!
「え……あ……アハハハハハ!」
 こういうときに頬を染めるような感性はしていない。両手を腰に当てて豪快に笑い飛ばす。これも文香とそっくりだ。
「そ、そんな裸になるなんてヘンタイよ! お、オトコオンナだわよ!」
 綾香はなじったが、位負けしていて、勝負はついてしまった。

 で、4時間目に、そのスケバンぶりは相賀の町中に響き渡ることになった。

「来週の月曜日からクラスが変わりますよー」
 授業を半ばで終わって、担任の岩永先生がプリントを配った。プリントにはクラスが4っつ書かれていた。
 相賀第一小学校は1年から6年まで3クラスずつの編成なのだが、1年は4クラスになるのだ。
「今のクラスは36人のお友だちがいますが、来週からは26人のクラス2つと、27人のクラス2つになりまーす。新しいクラスはプリントに書いてありまーす。みんな自分のクラスをさがしましょ~!」
 岩永先生の明るい声で、クラスの子どもたちは自分の新しいクラスを探し始めた。

「先生、これはダメです!」

 末香が手を上げてはっきり言った。
「え、どうしてですか沓脱さん? 新しいクラスになったら26人だし、先生の目も行き届いて、もっとしっかりした楽しいクラスになるんですよ」
「先週撮ったクラス写真はどうなるんですか?」
「それは新しく撮り直すのよ。だから心配はいりませ~ん」
「は~~~~?」
 末香は停まらなくなってしまった。
「仲間って、そんなんじゃないです! クラス写真に写っていたのは仲間です! そんなんじゃないです!」
 
 末香の頭には、姉のバレー部のことや商店街の仲間のことが浮かんでいた。仲間を大切にしなくちゃという気持ちが輝いていた。

 ゼブラのパンツにかけて、そんなんじゃない! そう思った末香であった。

 

※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・11『思い出した』

2018-03-04 12:48:10 | 小説3

通学道中膝栗毛・11

『思い出した』        

 

 

 更地にさしかかると、あの一年生たちも混じって、ちょっとした人だかり。

 

 ちょっと恥ずかしいけど、人だかりの後ろの方に付いてみる。

 更地にはなっているけど、瓦やタイルやコンクリやらの欠片が見えて、和風の家があったんだと偲ばれる。

 家は土台ごと撤去されてしまって、和風と言う以外に偲ぶよすがはない。面積は学校のプールくらいだろうか、隅の方に四角い石積み。道路との境目には大きな石を撤去したらしい窪みが並んで、生け垣だったんだろか針葉樹の枝先みたいな緑がこぼれている。

 ちょっとしたお屋敷だったようだけど、やっぱ見覚えが無い。

 急だったもんね あれ産湯の井戸だよ 奥の離れ 相続したんだよね 帰って来るかなあ 知らなかったよ

 人だかりからは断片的な情報が聞こえるけど、わたしの頭の中でイメージを結ぶことは無かった。

 

 もういいや。

 

 わたしの好奇心は長続きしない。

 もともと鈴夏が気づいて、一年の子たちが立ち止まって、そういう人の好奇心に載っちゃったもので、更地そのものに興味があるわけじゃない。ただ、更地に何が建っていたのか分からないのが癪なんだけど、ま、夕飯のころには忘れるだろう。

「あの辺は和風のお屋敷ばかりだからね」

 夕飯の手伝いをしながら話しているとお母さんが言った。

 あ、それでか。

 更地にばっかり目が行っていて、周囲の家は意識の外だったけど、そう言えば更地の周囲は和風ばっかだ。戦前に私鉄の百坪分譲で始まった街で、大半が和風の家だ。その中の一軒だから気づかなくても仕方がないよね。

 でも、お風呂に入って思い至った。

 当たり前のお屋敷なら、なんで、あんなに人だかり?

 急だったもんね あれ産湯の井戸だよ 奥の離れ 相続したんだよね 帰って来るかなあ 知らなかったよ……

 話の断片が蘇る。ただの更地に、あんな感想は出てこないよね。あの断片には意味があり過ぎるよね……。

 しかし、それも風呂上り、冷蔵庫を開けると桜餅を発見――ああ、ひな祭りだったんだ――久々にひな人形飾りたくなったけど、たった一晩の為に押し入れの奥から出すのも躊躇われ、テレビの特番見ながらパクついてるうちに忘れてしまった。

 

 

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高校ライトノベル・アーケード・7《履物屋のふ-ちゃん》

2018-03-03 15:57:20 | 小説

・7
《履物屋のふーちゃん》



「りょうちゃんのやつ、また……」

 店の前を国府女学院と、その後ろを遼太郎が通るのを見て『履物近江屋』の文香はハタキを持ったまま飛び出した。
 遼太郎の後ろの回ると、ハタキを逆さまにして、ポコンとやった。

「って! なにすんだよ!?」
「こっち来な!」

 有無を言わさずお地蔵さん横の路地に引っ張り込む。壁に遼太郎を押し付けると「ドスン!」と音を立てて壁ドンをやる。

「ヒッ……」

 175センチの壁ドンは迫力で、遼太郎はかすれたような悲鳴を上げる。文香は7人の幼なじみの中でも一番背が高く、その見かけだけではなく迫力がある。アタッカーとして相賀高校バレー部の次期キャプテンとの噂が高い。遼太郎は、いつも押されっぱなしである。単に10センチの身長差からではなく、人間としての迫力が違うのである。

「めいちゃんからも注意されただろうが、ストーカーするんじゃねえって!」
「し、してねえよ、ストーカーなんて」
「国府女学院の子付けてるじゃねえか!」
「いや、たまたま後ろ歩いてただけだし」
「毎日やってりゃストーカーだろうが!」
「いや、だって、あの子は気づいてないし」
「バカか、気づかれてからじゃ、こんな壁ドンじゃ済まねえだろうが!」
 文香は右足を上げて、遼太郎の顔の横に壁ドンをやる。文香はガタイの割に体が柔らかい。
「あ……あ……」
「精子ボールで迷惑かけたの覚えてるだろ、あたしらにはシャレで通るけど、東京から来た子にはただのセクハラなんだ。こっぴどく叱られたの、ついこないだだろうが!?」
「わ、分かってるよ」
「あたしたちは『商店街の子』って冠が付くんだ、なにかあったら、店とか商店街が非難される。肝に銘じとけよな」
「う……うん」
「こんど7人が同じクラスになったのは、みんなでりょうちゃんのこと視とけって学校の意向なの分かってるだろが」
「え、そうなのか?」
「鈍感だな、おまえもこうちゃんも……」
 なんで鎧屋の甲が出てくるのか不思議だったが、これ以上文香の機嫌を損ねたくなかったので言葉を飲み込んだ。
「分かったよ……」
「よし、もう学校に行く時間だし『御挨拶』だけやっとくか」
 そう言うと、文香は遼太郎を連れてお地蔵さんの前に出た。
 パンパンと拍手の音がアーケードに響く。

 商店街の地蔵さんは『白虎地蔵』と呼ばれ、商店街ができるずっと前から相賀藩白虎口の守りとして祀られている。旅立つ者は旅の安全を、訪れた者は城下での安寧を祈念する。商店街の子どもたちは、悪さをしたり、誓いを立てるときに、この白虎地蔵に祈る。祈り方は、地蔵であるのにも関わらず、神道式の仁礼二拍手一礼である。

 たっぷり1分を掛けて、2人は頭を下げた。

「よし、じゃ、学校行こうか!」
 制服の襟を正して文香が言う。
「ふーちゃん」
「ん、なんだ?」
「制服の足で壁ドンは止めた方がいいよ」
「なんで?」
 5メートルほど行って遼太郎は叫んだ。
「ゼブラのパンツまっるっ見え!」
「こ、こらあ!!!」

「ゼブラのパンツ!!!」と「こらあ!!!」が朝のアーケードを駆け抜けた……。


※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・10『思い出せない』

2018-03-03 13:27:43 | 小説3

通学道中膝栗毛・10

『思い出せない』        

 

 アレ?

 羽生選手の国民栄誉賞の話で盛り上がっていると、鈴夏が不思議そうな顔をした。

 え?

 鈴夏の視線の先は更地になったばかりの空き地だ。うっかり立ち止まると準急に乗り損ねるので、すこし首を巡らせただけで駅への道を急ぐ。羽生選手の話題で盛り上がってしまったので、脚が遅くなって準急に間に合うにはカツカツだということが知れている。次の各停でも間に合うんだけども、ギリギリっていうのは、わたしも鈴夏も性分じゃない。こういう生活のリズム的なことで気が合うのは友だち関係が長続きする大事な要素だと思うんだよね。

 あそこ、なにがあったんだっけ?

 鈴夏が口に出したのはホームへのエスカレーターに足を掛けたところだった。

 エスカレーターは立ったままなので、二十秒ほどのシンキングタイム。とにかく歩いている時に熱中するのは禁物だ。

 さあ……?

 一段上なので振り返って言うと、わたし達と同じ制服たちが立ち止まって更地の方を指さしているのが見えた。よほど興味があるのか肩を叩いたり、コクコク頷きあったりしている。眼鏡をかけてみると、ときどき見かける一年生だと分かった。

 大丈夫かな、あの子たち?

 ホームに上がると、ちょうど準急が入って来たところだ。

 アナウンスの後に、プシューって音がしてドアが閉まる。一年生たちは間に合わなかったよう。

 一時間目は美術の移動だったので、ピロティーを横切って芸術棟へ向かう。校門のところで遅刻者が指導されている。縮こまっている中に駅で見かけた一年生たちがいる。上級生の分別で遅刻しなかったことを密かに喜ぶ。

「栞、分かったわよ!」

 昼休みの食堂、鈴夏は鼻を膨らませてスマホを見せる。スマホの画面はグーグルマップになっている。わたしは感心した。グーグルなら、一二年前の状況が分かるんだ。

「これよ、これ」

 スマホの画面には戦前からあったんじゃないかと思うような二階建ての民家が映っている。鈴夏は、思い出した思い出したと興奮している。広瀬すずだったかが出ていたドラマにこんなのがあったということらしい。

「毎日通ってる道だけど、覚えてないもんだねー。ま、見れば、あーそうだったなんだけどね」

「あたりまえでしょ、頭の中にグーグルマップがあるわけじゃないんだから」

「そだね、地味な家だしね」

 そういうと、安心してランチにパクつく鈴夏。

 アハハと笑っておいたけど、スマホの画面を見ても、この家には覚えがない。通学路に何百何千とある建築物の一つだから覚えがなくっても不思議じゃないんだけど、鈴夏みたく「あーそうだった」が湧いてこないので気持ちが悪い。

 わたしと鈴夏は似た者同士だけど、こういう些細な違いは気になる。

 放課後、鈴夏は委員会があるので「じゃ、お先」と久々に一人で下校。電車の吊革に掴まりながら――よし、確かめてみよう――足を速めるわたしであった。

 

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高校ライトノベル・新 時かける少女・13〈柏木薫〉

2018-03-03 06:39:56 | 時かける少女

新 時かける少女・12
〈柏木薫〉



 わたしは、助けてはいけない女の子を溺死寸前に助け、代わりに命を失った。そのために記憶を失い、時空を彷徨って、いろんな人生を生きなければならなくなってしまった。

 自分は大正十三年四月四日の生まれである。

 柏木という華族の三男として生を受けた。名を薫という。日本古典文学の半可通であった父が、源氏物語にこと寄せて付けた名である。母が三宮の出身であることに引っかけたようであるが、源氏に出てくる薫は父の源氏とは縁が薄い。そこまでは知らなかった……あるいは、後妻である母への複雑な思いや、配慮があったのかもしれない。
 しかし、昭和の御代にあっては、この男とも女ともつかない名前に、自分自身は苦労した。学習院の初等科に入学したとき、あてがわれた席は笠松潤子の後ろ。すなわち担任が、名前を見ただけでの誤解であった。あとは推して知るべしの混乱が、この二十二年の生涯に幾たびかあった。

 一度だけ、自己確認のために記す。

 自分は、身体は男子なれど、心は女であった。もとより、それは隠しおおせてきたが、苦しいものであった。

 意識的に銃剣道に打ち込み、毛ほどにも女の心を持っていることは、悟られなかった。また、男仲間の中にいることは、自分の密かな喜びでもあった。海軍航空隊の士官となったのも、その延長線の上にあるのかもしれない。しかし、この乖離を解消するために、明日、自分は人生を終わる。むろん、この悪化する戦況において、日本人が日本人であることを後世に残し、再建される日本の心。そのささやかな柱石になれればという心があることも事実である。
 この世に完全などは存在しない。自分の心も、かくのごとくの混乱である。しかし、無理な心の整理などはしない。混乱、不純のまま自分は自裁する。

 一気に書き上げ、一読。納得した。エンカンに入れ燃やしてしまうと迷いも未練も無くなった。混乱、矛盾こそが、自分のありようなのだ。そう確認できただけでいい。

「下瀬さん。あなたの炸薬を試してみますよ」
 そう言うと、下瀬少佐は驚いた顔をした。
「柏木さん……しかし、終戦の詔勅から、もう十日にもなりますよ」
「だからこそ、米軍にも隙がある。今夜にも決行します。明日になれば、残存機のペラはみんな外されて飛べなくなってしまいますからね。整備は、間島整備長に頼んでおきました」

 下瀬少佐が作った炸薬はピカほどの力はないが、並の炸薬の十数倍の威力がある。二十五番(二百五十キロ爆弾)に詰めれば、大和の主砲弾並の力がある。当たり所によれば、一発で戦艦を沈めることもできる。

 機体はグラマンに外形が似ている雷電を使う。

「では、行ってきます」
「あくまで、柏木少佐が機体を強奪したということにしますので」
 整備長が、ニッコリ笑った。自分は、こういう男らしい笑みに弱い。思わず抱きしめたが、整備長は、男の感が極まった行為と受け止め、ハッシと抱きかえしてきた。
「では、行ってらっしゃい。残った者は殴り方用意……始め」

 男達が殴り合って居る間に、自分は発進した。これで、自分が機体を強奪した言い訳にはなるだろう。

 いったん箱根の山の間を抜けて、相模湾に出て、米軍機の巡航速度で高度をとった。そしてあらかじめ調べておいた米軍機のコードで無線連絡し、遭難機を装った。子どもの頃アメリカで暮らしていた英語が役に立った。ヨークタウンから着艦許可が出た。

 近づいて、シメタと思った。三百メートルほどのところに、ミズーリとおぼしき戦艦が停泊している。
「ラダー故障、着艦をやり直す」
 そう電信を打つと、左にコースをそらせ、そのままミズーリのど真ん中に突っこんだ。

 一瞬目の前が真っ赤になって、意識が途絶えた。

 刹那、兄のひ孫の想念が飛び込んできた。

――ミズーリ爆沈、乗員全員死亡。ヨークタウン中破、死者、負傷者多数――

 ミズーリにはマッカーサーが乗っており、ヨークタウンでは、ジョージ・ブッシュという若いパイロットが巻き添えをくって死んでいた。

 自分の、いや、わたしの時空を超えた漂流は、まだまだ続きそうだった……。

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高校ライトノベル・アーケード・6《肉屋のりょうちゃんは『ドヘンタイ!』》

2018-03-02 19:39:10 | 小説

・6
《肉屋のりょうちゃんは『ドヘンタイ!』》



 室井精肉店は、原道を挟んで喫茶ロンドンの向かいにある。

 商店街では古参の部類で、西慶寺、鎧屋の次で喫茶ロンドンとほぼ同じ明治の中頃にから存在する。
 四代目店主の室井清十郎は、看板を載せている唐破風と同じくらい風格のある人物で相賀郷土史会の副会長を務めている。
 当然歴史への造詣が深く、生まれた息子たちには重々しい名前を付けた。

 長男は潮五郎という。作家で史家の海音寺潮五郎からとっている。

 潮五郎は父に似て思慮深い胆力の人物で、少年のころから「潮五郎さん」と名前で呼ばれていた。大学を出てからは五代目の風格で精肉店の切り盛りをし、郷土史会では若手のホープである。

 歳の離れた次男が遼太郎。名前は司馬遼太郎からきている。

 次男は「遼太郎さん」とは呼ばれない。商店街の他の子たち同様に「りょうちゃん」と愛称で呼ばれる。
 にぎやかで軽々しく、ムードメーカーではあるが、調子に乗りやすく、イタズラやワルサがあると真っ先に疑われる。で、その疑いは80%の確率で当たっている。
 去年はゴムボールに靴ひもを付け、休み時間の教室で投げることを流行らせた。投げている分には問題は無いのだが、口上が問題だった。
「精子発射!」
 そう叫んで女子に当たると「お、~子妊娠!」と叫んで喜んでいた。
 大抵の女子は「ドヘンタイ!」と非難しボールを力いっぱい投げ返す。この力いっぱいには容赦がなく、直撃を受けた男子にはアザが出来た。
 少々セクハラじみて乱暴な感じはするが、明々としていて、相賀の村々で行われる豊作祈願の神事を思わせた。
 相賀の豊作神事は稲わらで大きな男女の性器のシンボルを吊るし、男のそれを鐘木のように振りかぶって女のシンボルに潜らせる。
 100キロ近くある男のシンボルは一本の縄で吊るされているだけで、振りかぶってもフラフラとして容易には女のシンボルを潜らない。これを囃し立てながら村々で競い合う。

 相賀の人間には、この神事が刷り込まれているので、遼太郎のいたずらを、とことん非難する者はいなかった。

 だが、東京から転居して相賀高校に入って来た女子に当たって問題になった。
 その子は、ひどいセクハラのイジメと感じて親と担任に訴えた。果てはネットで流れてマスコミにも取り上げられ、相賀高校は凹まされてしまった。
 遼太郎にはイケナイコトという実感が無く、この事件の後も、往々にしてやりすぎてしまう。

 商店街の幼馴染み組が一まとめに同じクラスになったのは「りょうちゃんの暴走を封じるため?」なのではと、喫茶ロンドンの芽衣などは思っている。

「あ、りょうちゃん、また……」

 芽衣は、店の飾り窓越しに不審な遼太郎を発見した。

 朝の商店街は白虎駅への通勤通学路になる。商店街の子たちはたいてい地元の相賀高校なので、この通学時間には起きだして、朝食を取ったり店の準備を手伝ったりしている。
 芽衣はモーニングサービスの時間なので、店を手伝っている。で、前の道をウロウロしている遼太郎を発見してしまうのだ。
 遼太郎はスマホを弄る真似をした。数秒後、遼太郎の前を国府女学院の制服姿が通り過ぎる。国府女学院は、駅3つ向こうの女子高だ。
「りょうちゃん、分かりやすすぎ……そんなに見つめちゃバレバレだよ」
 芽衣はテーブルを拭きながらため息をついた。
「あの国府女学院は東京の子だよ……」
 祖父の泰三が呟いた。
「そうだよね……」
 芽衣は思い出した、二三度親子連れで店に来たことがある、たぶん越してきたばかりのころと……あの時の様子や話し方は東京のそれであった。

「りょうちゃんは東京の女の子には理解されないよ」

 去年のボール事件を思い出して溜息をつく芽衣であった……。

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・9『駅の改札の前まで来た』

2018-03-02 06:55:37 | 小説3

通学道中膝栗毛・9

『駅の改札の前まで来た』        

 呪われてると思ったんだから!

 あたしが息巻いたのは、駅の手前の交差点。
 信号待ちをしていたら、右手の方から自転車がやってきて、交差点の真ん中で停まってしまい、小父さんは転んで、あちこち痛そう。
 でも、乗っていた小父さんは痛いよりも、なんだか恐れおののいている。
 急に、後ろの荷台に幽霊か化け物が現れて自転車を停めたように感じたんだ。
 小父さんは、目をまん丸にして――ノワーー!――という感じで顔を引きつらせていた。
 信号が赤になって、小父さんは交差点に取り残される。交通整理をしていた女性警官が駆けてきて、安全を確保しながら歩道へ誘導した。そして自転車を調べると「突然」「勝手に」「初期不良」「悪霊かなんか」「整備不良」とかの断片が聞こえてくる。
 どうやら、ブレーキだか車軸だかが急におかしくなって立ち往生してしまったようだ。

「じつは、昨日ね……」

 あたしは語り始める。
「アハハハ、それってマンガじゃん!」
 遠慮なく笑う鈴夏。
 
 昨日の夕方、自転車で近所のコンビニに行った。
 コンビニの誘惑に負けて、無駄なお菓子などをいっぱい買いこんで帰路に就くと、急にペダルが重くなって自転車が停まってしまった。
 さっきの小父さんのように、幽霊か化け物に停められたような気がしてパニックになりかけた。

 え、え、え、なんで? なんで!?

 サドルに乗ったまま愛車をうかがうが。異常なところは、パッと見わからない。
 怖くなって、お尻がムズムズしてきたころにゾッとした。
 縞模様の蛇が後のタイヤと、そのスポークに絡みついて自転車を停めていたのだ。

 キャーーー!       

 叫んで、自転車を放り出すようにして逃げ出した。
 道行く人たちが、何事かと振り返る。

 で、気が付いた。

 荷台に括りつけていたゴムロープが解けてスポークに絡みついていたのだ。
「笑わないでよ、逢魔が時だったし、本当に怖かったんだから」
 スマホの写メを見せながら「こんな感じだったら、そう思っちゃうでしょ!」と力説する。
 なるほど、ロケーションは十分怖い。人通りのない二車線の道に信号だけが明らかだ。
「朝に三毛猫見たから、いいことが起こるはずだったのに」
「それ、運が良かったんだよ」
「どうしてよ!」
「お茶屋のお婆さん、言ってたじゃないの」
「だって」
「猫に会っていなかったら、あの小父さんみたいに、いや、もっとひどい怪我とかしていたんだよ」
「え、え、そうかなあ」
「きっとそうだよ。でもさ、さっきの小父さんと言い、こないだの自転車泥棒と言い、あ、栞のもね、自転車に欠陥があるのかもしれないわよ」
「そっかなー」
「ネットで出てたけど、そういうのって自爆自転車とか言って、いま問題になってるらしいよ」

 ちょうどそこで、駅の改札の前まで来た。

 改札を通るといい匂い。
「あ、駅中にホットドッグのお店ができたんだ!」
 ぼんやり女子高生の二人は、昨日まで気が付いていなかった。
「おーし、帰りに寄ってみるか!」

 自転車のことはどこかに行ってしまって、ファストフードの話ばかりになってしまった。

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