大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アンドロイド アン・5『自治会大運動会』

2018-08-10 08:33:38 | ノベル

アンドロイド アン・5
『自治会大運動会』

 

 

 ちょっと違和感。

 

 小学校の運動会用のコートは一周200メートルが標準だ。

 アンのデータベースでは、そうなっている。

 ところが。自治会の運動会は一周150メートルとコンパクト。

 それに、参加者・観客の過半数が65歳以上。若者は数えるほどしかいない。

 

「なんで、こうなの?」

 ジャージ姿の新一に聞いてみる。

「それはな……」

 新一は、名探偵のように腕を組んで、賢そうに答える。

 

「年寄りに200メートルトラックでは広すぎる。そして、それほど多くない参加者と観客がスカスカに見えないようにコンパクトにしているんだ」

「なーるほど、新一、えらい!」

 二人は綱引きと百メートル走にエントリーしている。

 綱引きは偶数丁目と奇数丁目の対向だ。

 三丁目の二人は奇数組。

「三年連続で偶数に負けていますので、みなさん奮闘してください!」

 自治会長でもある町田のおじいさんが声を掛ける。放送局の町田夫人はおじいさんの嫁だ。

「がんばるぞーーー! ヒミゴ!」

 町田夫人がこぶしを突き上げ、町内のみんなが、オーーー! と、応える。

 ヒミゴってなにかと思ったら、奇数丁目の1・2・3をくっつけた語呂だと理解。アンも本気モードになってきた。

 

 瞬間で勝負がついた。

 

 開始のピストルが鳴って、オーエス! の掛け声のオーで、奇数組がロープを三メートルも引き寄せたのだ。

「アン……力出し過ぎ」

「テヘ」

 しかし、町田夫人もおじいちゃんも町内結束の賜物だと感激しているので、二人はポーカーフェイスで通した。

 

 オーーーーーーー   「露出の多いラン...」の画像検索結果

 

 どよめきがおこった。

 あいつぅ……新一は渋い顔になる。

 百メートル走のスタートラインに着いたアンがジャージを脱ぐと、露出の多いランニングウェアーなのだ。

 アンは自制して人間らしい速度で一位になったが、突き刺さる視線に、ちょっと驚いた。

 ご町内の爺さんたちの視線のベクトルを可視化処理すると、たちまちハリネズミのようになるアンだった。

 おもしろいので、映像化して新一に送ってやると、その日一日渋い顔の新一であった。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『リセウォッチング奇譚・1』

2018-08-10 06:14:53 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
『リセウォッチング奇譚・1』  
         


 天六を過ぎたとこで省吾が急に立ち上がりよった。

 二三秒立ち上がっていたかと思うと座る気配がした。オレはスマホでゲームをやってたんで別人やないことだけを確認して、またゲームに没頭した。
「セーヤン、いま通った子見たか……?」
「オレは省吾みたいなリセウォッチャーと違うからな……」

 ここから後は、後に一時戻って来た省吾から聞いた話。

 リセウォッチング言うのは、間違うたら変態扱いされかねん趣味。
 女子高生の制服を電車やら駅のホームで見かけたら観察して、記憶に留め、その記憶の蓄積をもとにスケッチを描きメモを付けてファイルにする。関東に少数生息するウォッチャーが居てて、ベテランは『東京女子高制服図鑑』というベストセラーを出して、前世期の終わりごろに、このウォッチングを変態のカテゴリーから、立派な趣味に昇華した。
 この趣味が、半ば公認されるようなると、逆に学校が利用し始め、制服改訂の資料なんかにして、一時高校の制服モデルチェンジブームを作り、私立高校の合同説明会なんかには、マネキンに制服を着せて並べて分かりやすくしてある。この四五年は公立高校でも似たようなことをやってるらしい。

 省吾曰く、このリセウォッチングには厳しい掟がある。

 スマホなんかで写真を撮ってはいけない。盗撮などもってのほか。
 観察している相手に気づかれてはならない。
 友人関係などを利用して実物や資料の提供を受けてはならない。
 観察対象に話しかけたり、ナンパまがいのことをしてはならない。
 同行の士と語らいあうのは構わないが、やたらに自分がウォッチャーであることを吹聴してはいけない。
 あくまでスケッチと資料の収集であり、実物の制服の収集をやってはいけない。
 それから……あとは聞いたけど忘れた。

 オレはゲームに夢中で気いつけへんかったけど、天満橋の駅から乗ってきた子が、信じられん制服を着ていた。

 なんと十年前に廃校になった北浜高校の制服。
 最近は、有名女子高校の制服のレプリカなんか売ってるらしく、ごく少数やけど、これをコスプレにして楽しんでる人も居てるとか。
「コスプレは雰囲気で大概わかる。あの子は現役の高校生の空気があった」
 省吾は、リセウォッチャーらしく絵が上手い。サラサラっと……珍しく顔から描き始めよった。
「メッチャ可愛い子やんけ!」
 省吾は、この道の使徒らしく頬を染めて、直ぐ制服のスケッチにうつりよった。

 オレが見ると、普通のセーラー服やけど、省吾に言わせると胸当ての刺繍、白線の間隔、ポケットの位置、持ってる鞄なんかが大違いで、旧制女学校から続いた雰囲気を色濃く残しているらしい。
 オレは可愛いということを除くと、今時珍しいお下げやいうことぐらいやった。

 省吾はセオリー通り、距離をあけて付いていき、隣の車両へ。
 横長のシートを五人分開けて座り、他の乗客の隙間から向かいの窓ガラスに写る彼女の姿を観察し始めた。
 天満橋で横の席が空くと、なんと、その子が座ってきた。

「あんた、ずっとウチのこと観察してるでしょ」

 省吾は、心臓が止まりかけた……。


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高校ライトノベル・秋物語り・22『目黒のサンマン・1』

2018-08-10 05:46:21 | 小説4

秋物語り・22
『目黒のサンマン・1』
        

 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名



 秋は春と並んで新刊本のシーズンだ。ワッサカ出る新刊本のチョイスが問題になる。

 わたしの店は、床面積百坪ちょっとという中型店。大型店も多い渋谷で生き残るのは、並大抵ではない。新刊本を何でもかんでもというわけにはいかない。
 で、正社員、バイトを含めて、みんなで顧客のニーズに合った本を選んで並べる。場合によっては、書評や、ちょっとした感想を肉筆で書いて、ポップにすることもあり、バイトでも、なんだか経営参加してるような気になれて、学校なんかでは味わえない充実感がある。この春にも、わたしがポップを書いたラノベが、二百冊ほど出て、鼻が高かった。

「なんてったかね、亜紀ちゃんが二百売ったって……」
 
 文芸書担当の西山さんが、制服を着て、売り場に出たところで聞いてきた。
「ああ『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』ですね」
「あれ、姉妹版があるんだろ?」
「ええ『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』です」
「あれ、出ないかな。二三問い合わせも来てるんだけどなあ」
「ネットじゃ、けっこう読者掴んでるらしいようですけど、ちょっと問い合わせてみますね」

 青雲書房という小さな出版社。電話したら、社長さんが直々に出たので恐縮した。

「……そうですか。また出るようなら、扱わせていただきますので」
「どうだい?」
「資金難で、見送っているようです。今度出すとしたら、文庫で600円くらいにしたいらしいんですけど、どうも五千は売れないと苦しいようで、二の足ってとこらしいです」
「『乃木坂』は、四六判で1260円か……うち以外じゃ売れてないだろうなあ」
 売り上げの記録を見て、西山さんがため息をついた。
「でも、ラブコメでありながら、演劇部のマネジメントが身に付くって、スグレモノでしたから」
「ま、注意して見といてよ……」
 
 西山さんとの話が終わりかけたのを見計らって、秋元君が、間に入ってきた。

「これ、置いてもらえませんか!?」

 秋元君が手に持っていたのは、DVD付きの落語の週刊本だった。
「いや、パンフ付きのDVDなんです」
「え……?」
「一応書籍なんですけど、本体は見開き四ページだけのペラペラで、完全にDVDに軸足置いて、価格は類似商品の2/3なんです」
「でも、落語じゃなあ……」
「ちゃんと、マーケティングリサーチもしてあります。うちの店の前は、一日の通行人が三万ほどあるんですが……」
 秋元君は、タブレットを出して説明しはじめた。

 うちは、一日に二千人ほどのお客が入るけど、その大半が学生やOLなどの若者。中年以上の人は、表の週刊誌の立ち読みだけというのが多い。ところが通行人の半分は中高年。それを、この店は取り込めていない。
 中高年は、本を見る目がシビアで、読書幅も広く、うちのような中型店ではこなしきれず、ハナから大型店に取られるものと決めてかかっているところがある。それを取り込もうというのが、彼の理屈。でも、これだけのデータ、どうやって集めたんだろう……と思うと、店の前で気配。

 なんとT大オチケンのみなさんが、カウンターを手に並んでいた。むろん雫さんも。どうやら、部員総出で調べたようだ。

 かくして『はるか わけあり転校生の7か月』の発売はできなかったけど、DVD本の『AKG48』の店頭販売が決まった。AKGってのはRAKUGOから、AKBに紛らわしくなるアルファベットをあつめて並べたもの。
 第一巻は三遊亭音楽の『目黒のさんま』だった。

「あたし、目黒のお店に出向なんだけどお、これって左遷かな?」

 麗から相談を受けたのは、明くる日の食堂。麗は珍しく、カレ-うどんを一杯しか食べなかった。
 

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高校ライトノベル・アンドロイド アン・4『ご町内の放送局』

2018-08-09 06:29:38 | ノベル

アンドロイド アン・4
『ご町内の放送局』



「新ちゃんといっしょに住むことになりました、従妹のアンです。よろしくお願いします」

 アンは、回覧板を持ってきた隣の町田夫人に、くったくのない笑顔で応えた。

「あら、従妹さんだったの。ゴミ出しでお見かけして、すてきなお嬢さんだと思ってたの、ほんとよ」
「照れます、言われつけてないですから」
「ホホ、ほんとうよ。ご近所の奥さんたちも言ってるわ。ここらへん若い人が少ないから、大歓迎」
「わたしも分からないことだらけなんで、助けていただくと思います」
「あの……まだ学生さん?」
「はい、高校生です。今度の学校は、まだ編入手続き中なんですけど」
「じゃ、ここに腰を落ち着けるのね」
「ええ、父が海外赴任してしまって、母は四年前に亡くなりましたので、同じ境遇の新ちゃんと……」
「そうなの……いえね、あたしたちも心配してたの。高校生の一人暮らしでしょ、なにかと大変じゃないかって」
「そうなんです……新ちゃんて、手がかかるんです、大掃除に三日もかかりましたから。それにお風呂ギライで……」
「ホホ、なにか困ったことがあったら遠慮せずに、オバサンたちに相談してね」
「そんなこと言われたら、ほんとうに頼ってしまいますう!」
「どうぞ頼って! 真っ当にやっていこうって若い人は、あたしたちにとっても希望の星だから、じゃあね!」

 町田夫人は、固い握手をして帰って行った。

「あそこまで話す必要あんのか?」
 パジャマ姿でソファーにひっくり返って、新一がプータれる。
「町田さん偵察にきたんだよ」
「だったら余計にさ、あの奥さん放送局だぜ……それも嘘ばっか。俺たち従兄妹じゃないし、学校の編入とか言っちゃうし」
「するよ。もう学校のCPとリンクしてるし、連休が終わったら連絡来る。ご近所の様子や新ちゃんのこと考えたら、それが一番。さ、さっさと着替えて朝ごはん」
「パジャマのままじゃダメ?」
「ダ~メ! せっかく早起きと着替えの習慣がつきかけてるんだから!」
「せっかくのシルバーウィークなんだからさ」
「ちゃっちゃとやって。町田夫人が望遠鏡で見てる……」
「え、覗かれてんの!?」
「気づかないふり……あのオバサンに信じ込ませたら、ご町内全部の信用が得られるから」
「なるほど……お、自治会の運動会があったんだな、明後日……気づかないで良かったな」
 回覧板を投げ出して、新一は自分の部屋のドアノブに手を掛けた。
「これ出ようよ! まだ出場者足りないみたい!」
「うざいよ、自治会の運動会なんて」
「チャンスだよ、あたしのことも新ちゃんのことも変に興味持たれる前に解消できる。ほら、町田夫人の心拍数が上がった、喜んでるふうにして。ヤッター、新ちゃん、ご町内の運動会、今からでも間に合うかな!?」

 新一は無理矢理喜んだ芝居をやらされた。三十分後、アンが運動会の申し込みをした。すると町田夫人を始めとするご町内の二人への関心は、かなり好意的なものに変わっていった。
 

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高校ライトノベル・秋物語り・21『……禁じ手』

2018-08-09 06:05:44 | 小説4

秋物語り・21
『……禁じ手』
        

 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名


 家族に知れたら、もう一度家出の覚悟だった。


 学校の写真は消えているが、わたしと、わたしの首と麗の体を合成した写真は、あいかわらずネットに載っていた。むろんアダルトサイトだが、今日日小学生だってフィルターを外して見ている。うちはお父さんがしっかり管理しているので、弟は知らない。多分お父さんも……でも、時間の問題だろう。コンビニで、時々いっしょになるオッサンが、レジに並んだとき変な目つきで、わたしの体の上から下までねめまわした。

「なんか、付いてますか?」

 穏やかだが、厳しい目つきでオッサンを睨んでやった。大阪時代にメグさんから習った「メンチの切り方」である。わたしは、麗とは違って、一見おとなしそうな高校生に見えるので、この豹変ぶりは意外に効果がある。
 でも、こんなオッサンが何人も出てくるようじゃ、間に合わなくなるだろう。

 コンビニからの帰り道、スマホがメール着信を知らせてきた。わたしは歩きスマホはしない主義なので、家に帰るまで辛抱した。

――天気予報、東京地方は、しだいに回復の見込み。銀座方面から快晴の兆し。S・Y――

 吉岡さんだ!

 わたしは、自身禁じ手にしていたけど、藁にもすがる思いで、吉岡さんにメールを打っていた。アドレスは保存していたけど。こちらから、ううん、吉岡さんからメールが来ることもなかった。大阪のことは断ち切った気持ちでいたからだ。

 さっそく、スマホで、例のサイトを開いてみた。無くなっていた……だけじゃなかった。

――掲載していた写真は合成したものでした。写っていた女性の方に深くお詫びいたします。管理人――

 と、5ポイントの青い文字で書かれていた。よく見ると左下にY・Kのイニシャル。木村雄貴に間違いないだろう。銀座方面からの回復。これは、銀座で働いているめぐさんも協力してくれたという意味に違いない。
 しかし、削除されるまで、十日近くたっている。何十、何百とコピーされているのに違いない。安心はできない。

 明くる日、バイトに行くと、秋元君の顔が明るかった。

 さては雫さんといいことあったのかな……そう思ってカマを掛けると、意外なものが飛び出した。
「オレも、あのサイトのことは心配してたんだ」
「え~ 秋元君も、あれ見てたの!?」
「い、いや、あくまで心配してのことだから!」
 二人の顔は信号のように、忙しく変化した。

 下校するとき、机の中は空にして帰る。

 学校の言いつけを守ってのことではない。なにを入れられ、なにを取られるか分からないからだ。
 その日、いつものように早めに登校し、机の中に、その日必要な教科書やなんかを入れると、奥の方でクシャっと、紙が押しつぶれるような手応えがあった。
 入れようとしたものをいったん出して、ひしゃげたプリントが入っているのに気づき、出して見たら頭に血が上った。例の首すげ替えの写真がA4のサイズで入っていた。

 わたしが、教室に入る前にHという男子が、後ろの扉から出てきた。あいつは前の方の席だから、出てくるんなら前の方だ。わたしの姿には気づいていない様子だったが、男子特有のイタズラをしましたオーラが出ていた。
 わたしは、わざと、シオらしく俯いてスマホを構えて待っていた。やがてチラホラと入ってきたクラスメートに混じってHが入ってきた。明らかに、わたしの方を見てほくそ笑んだ。あとで、入ってきたIという男子に、なにか耳打ちして、二人でなにか忍び笑いをし、わたしの方をチラ見した。

 Iも共犯か……。

 江角が入ってきて、起立礼をしたあと、わたし一人、立ったままでいた。
「なにしてんの、もう座んなさい」
「三十秒だけ、時間ください」
 江角が、なにか言う前に、Hの前に立った。
「こんな、スケベなイタズラして、スカしてんじゃねえよ!」
 例のA4をHの机に叩きつけた。一瞬で周りの生徒の反応を見た。驚き方が違ったのは、Iだけだった。江角は、どう対応していいか分からず、手を前に泳がせるだけだった。わたしはHの耳を掴んで立ち上がらせた。これはタキさんに教わった対処法。女の力で襟首を掴んでも立たせることはできないが、耳を掴んだり、鼻の穴に指を入れてやると、一瞬で立ち上がらせられる。
「てめえは、イニシャル通りのHだよ!」
 耳を放したその手で平手打ちをかました。ストロークは短く、渾身の力をこめて。これもタキさん伝授。ストロークを大きくすると狙いが外れて、ケガをさせることが多いからである。

「ちょっと、二人とも生指にきなさい!」
「それなら、Iもです。二人でケッタクしてますから」

 スマホで、わたしが撮った動画を見せると、あっさり二人は認めた。こうやって、取りあえずは、終わった。

 秋は、確実に、その色合いを濃くしていった……。

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高校ライトノベル・アンドロイド アン・3『その気……?』

2018-08-08 07:11:47 | ノベル

アンドロイド アン・3
『その気……?』



 パカ……床下収納の蓋がひとりでに開いた。

 しばらくすると、形のいい両手が現れ、ハタハタと手がかりをまさぐった。何も無いと分かると、手は収納庫の縁に張りついた。
「えい」と可愛い掛け声が上がり、若い女性が収納庫から出てきて、月明かりの台所に立ち上がった。

「おお、まだいたのか……もう、とっくに帰ったかと思った」

 振り向くと新之助がパジャマ姿で立っている。
「すっかりお爺さんになってしまったのね」
「ああ、三十年たっちまったからな……すまん、水を飲むんだ」
「あたしが……はい、どうぞ」
 新之助はコップの水を受け取ると、コクンコクンと薬を呑んだ。
「心臓の薬ね」
「効きやしないんだけどね、医者がうるさくてな」
「……その気になった?」
「相変わらずだなあ、アンは」
「だって、そのために、あたしは来たんだもん」
「二百年先の未来からな……ま、落ち着かないから掛けようじゃないか」
 新之助は椅子に掛けると、テーブルを隔てた向かいの椅子をアンに勧めた。
「……ここで、毎朝お味噌汁作ったのよね」
「ありがとう、お蔭で健康だったし、物覚えも良かった」
「また、こさえようか?」
「ハハ、ありがとう。でも、もういいよ」
「いいよ、直ぐにできるから!」
 アンが身を乗り出すと、新之助は眩しそうに照れた。
「もう味噌汁を飲んでも遅い。この高階新之助の命は十日ほどしかもたない」
「……なんで?」
「アンのお蔭さ……頭が良くなったから、自分の寿命も分かるさ」
「治してあげる!」
「アンでも治せないよ、寿命だからな……その気にもならずに逝ってしまう。すまんな、アン」
「新之助……」
「ところで、その気って、なんの気か覚えているかい?」
「それは……つまり……えと……」
「……忘れてしまった……それとも、アンの中で変わってしまったかな?」
 アンは懸命に思い出そうとした。CPUがフル稼働し、ラジエーターを兼ねた髪の毛に陽炎がたった。
「思い出さなくていい……こうやって現れてくれただけで、わたしは十分だよ」
 新之助は、アンの手に優しく自分の手を重ねた。
「わたしが死んだら、孫の新一のところに行ってやってくれないか」
「新一……」
「この春から一人暮らしをしている。あの子にはアンのような存在が必要だ」
「その気にさせられるかしら?」
「わたしは、その気になってるよ……」
 声のトーンが違うので、アンは少し戸惑った。
「だって、だろう。奥に布団は敷いたまま……どこまでアンの期待に沿えるか分からんが、その気持ちをむげにはできないよ」
 そう言いながら、新之助はパジャマを脱ぎだした。
「ちょ、ちょっと新之助!」
「え、だって、そのためにスッポンポンで出てきてくれたんだろ?」
「え…………キャー!!」
 アンは、自分が裸であることに気づき、慌てて床下収納に飛び込んだ。

 結局ははぐらかされたんだ……新一の味噌汁を作りながら、新之助との最後の会話を思い出すアンであった。


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高校ライトノベル・秋物語り2018・20『拡散……!』

2018-08-08 06:37:36 | 小説4

秋物語り2018・20
『拡散……!』
        

 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名


 モニターを見つめたまま三人とも声が出なかった。


 わたしは、例の件は親にも言わなかった。学校も、わたしが何も言わないので、気を遣いながら静観している。
 そこに、麗から電話があった。渋谷のネットカフェMで待ってる。Mの前、電話でブースを確認してから、ネットカフェに入った。美花がブースから顔を出して、わたしを待ってくれていた。

「亜紀、ごめん!」

 麗の言葉から始まった。
 そいで、無言で開いたサイトに、なんと例の写真がアップロードされていた。そして数が増えていた。
「これ、雄貴の仕業だ!」
「分かってる。学校でも同じの見せられたから」

 わたしは、生指の部屋で起こったことを、二人にも話していなかった。でも、ネットでアップロードしているのには驚いた。
「リュウの写真は別として、こっちの写真は合成だ……体は、あたしだもん」
「麗、こんなシャメ撮られてて気づかなかったの?」
「うん、これ、多分隠しカメラ。アングルから見て、観葉植物とか、飾り棚のとこ」
「じゃ、これは。このアングルは、スマホかカメラをまともに構えないと撮れないよ……」
「目つぶってたから、分からなかったんだと思う。ほんとにゴメン……」

――東京現役女子高生激写、都立○○高校か!?――

 キャプションは、それだけで、看板をぼかしたうちの学校の正面の写真がついていた。わたしの顔には割り箸程度の黒い目隠しが付けられていたけど、両方とも見る人が見ればすぐに分かるシロモノだ。
「もう、消そうか」
 あまり見つめているわたしに、美花が気を遣って言った。
「いい、もうちょっと。なにか手がかりになりそうなものを……」
 男の顔は完全に写っていなかったが、体が部分的に写っている。それに脱ぎ散らかされた服が映っていた。
 そのか細い手がかりをメモして、自分でシャットダウンした。
「麗……」
「なに……?」
「……何でもない」
 言いたいことはあったけど、言えば、友だちとして取り返しの付かないことを言いそうで、わたしは無言のままネットカフェを出てバイトに行った。

 二日たって、今度は保健室に呼び出された。

 ドアをノックするときに管理責任者のシールで、そこの主が内木優奈先生だと分かった。

「例の件ですね」
 見当がついていたので、こちらから切り出した。可愛そうに、先生のほうが取り乱していた。
「いや、その、あの、女同士で、年も近いから、わたしが、その……」
「学校が、先生に押しつけたんですね。で、学校の要求はなんなんですか。特別推薦の取り消しですか。まさか、辞めろって言うんじゃないでしょうね」
「え、辞めるって?」
「自主退学。事実上の退学処分」
「いや、そんなんじゃないわ。しばらく学校を休んだらどうかって……」
「梅沢が、そう言ってるんですか」
「いえ、これは、わたし個人の意見。もう他の生徒の間でも評判になりかけてるから」
「……知ってます。こういうのは拡散するのが早いですから」
「学校が抗議したら、学校の写真は削除されたらしいんだけど」
「もう、遅いです。コピーされて、また、他のバカが流します」
「そういうものなの?」
「ハハハ、先生って、アマちゃんなんですね」
「いや、ごめんなさい。こういうことにはウトイもんで」
「いいえ、先生には感謝してます。あのとき、キッパリとわたしじゃないって、証言してくださって」
「女なら、誰でも分かることよ。それに水沢さん見てると、そんなことする子じゃないって、分かるもの」
 わたしは、この学校で、初めていい先生に会った。あの写真、ガールズバーに関しては本当だもの。
「わたし、学校は休みません。休んだら認めたようなもんです。指定校推薦取り消すようなら、訴えます。そう言っといてください」
「水沢さん……」
「こんなことで、負けたくないんです……」

 内木先生が、そっとハンカチを出した。

 わたしは、自分が泣いていることに、初めて気が付いた。
 

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高校ライトノベル・アンドロイド アン・2『味噌汁アンドロイド』

2018-08-07 06:51:15 | ノベル

アンドロイド アン・2
『味噌汁アンドロイド』



 味噌汁の香りで目が覚めた。

 一瞬、子どものころの記憶が蘇りかけるが、意識の水面に浮かび上がる前に沈んでしまった。

「え、朝ごはん作ったの?」
「そう、朝は、きちんと食べなきゃね」
 エプロン姿のアンがニコニコして言う……昨日押しかけてきたばかりなのにしっくり馴染んでいる。
「でも、食べてたら学校に遅刻しちゃうよ。顔洗ったら出るから……」
 そう言って、洗面に向かった。
「フフ、そう言うだろうと思って、時計を四十分進めておいた~♪」
 
 で、何カ月ぶりかで朝ごはんを食べるはめになった。

「……………」
「どう、おいしい?」

 アンドロイドが作った飯なんて……と思ったが、おいしかった、特に味噌汁が。

「アジの一夜干し、玉子焼き、梅干しとおしんこ。お味噌汁の具は、豆腐と油揚げ……もひとつ、な~んだ?」
「えと……これ?」
 ボクは見たことも食べたことも無いものを、お椀の中からつまみ上げた。
「さあ、なんでしょ?」
「キノコの一種なんだろうけど……なめ茸はもっと太いよな」
「エノキだよ」
「エノキって、こんなに味がしないよな?」
「特製乾燥エノキ『アンスペシャル』 味は生のエノキの十倍、キノコキトサンとかグアニル酸とか入ってて、体にいいの。頭にもね。新一の場合、弱点の記憶力によく効く。ほんとだよ♪」

 たしかにボクは記憶が苦手。いや、逆の言い方をすると……忘れることが上手い。

 いつもは、朝ごはんも食べずにギリギリに家を出るけど、今日は十五分も早く出て、二本早い電車に乗った。当然だけど乗客の顔ぶれは全然違う。二本早い電車の車内は、こころなし空いていて、遅刻ギリギリの殺伐、あるいは厭世的なダルさがない。
 学校に着くと、みんなに驚かれた。担任は目をパチクリするし、遅刻仲間の赤沢には裏切者のような目で見られた。

 二時間目には重大なことを思い出した。

 クラスに小金沢灯里という才色兼備の美人がいる。そう、その時までは、ただの美人のクラスメートだった。

 思い出してしまった。彼女が好きだと、大好きだという自分の気持ちを……味噌汁の効き目はテキメンだった。


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高校ライトノベル・秋物語り2018・19『いったいだれが……』

2018-08-07 06:27:22 | 小説4

秋物語り2018・19
『いったいだれが……』
        

 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名


 十数枚の写真が目の前にバサリと置かれた。大阪時代の写真だ。


 お店で、お客さんの相手をしている写真……ロングや、アップが、どうやら隠し撮りされたように写っていた。
「これ、わたしじゃりません」
 メイクをしているので、違うと言い張れば、通りそうなものばかりだった。
「わたしは、渋谷の本屋さんでバイトしてるんです」
「今はな。これは去年の夏の写真だ」
 生指の梅沢が、淡々と言う。
「去年は、家出して、一夏北海道の花屋さんにいました」
「それがなあ、送り主は『サトコやトコと呼ばれて、水沢亜紀さんはガールズバーで働いていました』と書いてきてるんだ」
「いったいだれが……?」
「こんなのもある」
 わたしの独り言のような質問には答えずに、梅沢は、別の写真をばらまいた。
 その、十何枚かの写真は、私服で、ほとんどスッピンの写真ばかり。それに、例のサカスタワーホテルに吉岡さんと入る写真、フロントで二人で立っている写真、エレベーターに乗り込む写真が混じっていた。幸い吉岡さんの顔にはボカシがかけられていた。

「これも、わたしじゃありません」

「こんなに、はっきり写っているのにか!?」
 わたしは、雨宮さんが、北海道の友だちに頼んで作ってくれた写真が頭にあった。あそこまで合成ができるんだ。これらの写真を合成と言い張れると思った。
「これは、良くできた合成写真です」
「そこまで白を切るのかよ……」
「事実だからです」
「じゃ、これはどうなんだ!」

 そこに投げ出された、写真は、はっきり合成だと言い切れるものだけど、とんでもないものだった。

「これが一番問題なんだよ!」
 それは、わたしの首に差し替えられた、H本番中の写真だった。
 さすがに、顔が赤くなった。
「動揺したな」
「当たり前でしょ、合成とは言え、こんな写真を見せられて!」
「オレだって、こいつばかりは見せたくなかったよ。でも、お前が白を切り通すから、見せざるを得なかった。さっさと白状しろ。たとえ一年前でも、こればかりは見逃しできねえよ!」
 気づくと、三年の生指主任の大久保まで混じって、シゲシゲと写真を見ている。合成とは言え、屈辱感でいっぱいになった。
「そんなに見ないでよ!」
「水沢、お前、何度もこういうことやってるんだな」
「どういう事よ!?」
「この三枚は表情が硬い。まだ慣れていないころの写真だ……ところが、この一枚は表情が違う。どうだ、この恍惚とした表情は」

 その顔は、自分でも分かる。クシャミをする寸前のわたしの顔だ。タキさんなんかがいっていた。トコのクシャミ顔は、ちょっとエロい。とかなんとか。
「これは、クシャミをする寸前の顔よ!」
「水沢、オレは写真部の顧問で、写真のテクニックには詳しいんだ。着衣の写真と違って、こういう写真は合成がむつかしいんだ。継ぎ目も見あたらんし、光の具合も自然なものだ」
「これって、もうセクハラよ!」
「そんな言葉で、オレたちが怯むとでもおもってんのか!?」

 訴えてやる……その言葉が喉まで出かかった。でも、そんなことをしたら、反対証明もしなければならず、そんなことをすれば、北海道のウソもバレてしまう。
 わたしは、屈辱の一枚を見て、あることに気づいた。

――この体は……麗だ――

 写真の送り人の見当がついた。麗がシホとして、こういう関係になっていたのは雄貴しかいない。

「わたし、胸のこんなところにホクロなんかない、体の線も違う……なんだったら見せようか」
「そんなことまでせんでいい。ただ、お前が事実を認めればいいんだ」
「やってもいないことを……そんなこと認めたら、停学だけじゃ済まない。指定校推薦だって取り消しでしょ」
「当たり前だ、だからお前も必死で言い逃れようとしてるんだろう!」
「脱ぐ。担任の江角と、保健室の先生呼んで!」

 迷惑と困惑が、二人やってきた。

「水沢さん、そこまでやらなくったって……」
 保健室の、今年きたばかりの名前も忘れた女先生が言った。
「学校に縛られんのゴメンなんです。だから、さっさとケリをつけたいの……」
 わたしは上着とチョッキを脱ぐと、ブラウスのボタンに手を掛けた……。

「あの体は、水沢じゃ、ありませんね」

「ホクロもないし……」
 迷惑と困惑の答えだった。
「そ、そんな。ホクロなんていくらでも合成できる!」
「女同士だから、分かるの。亜紀の言うとおり体の線がまるで違うの」
「養護教諭の目で見ても、はっきり言えます。あの体は別人です」
「あんたたち、大変なことさせてくれたわね。保護者に訴えられたら、ただじゃ済まないわよ」

 そう、ただじゃ済まなかった……。

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高校ライトノベル・アンドロイド アン・1『アンとの遭遇』

2018-08-06 07:12:50 | ノベル

アンドロイド アン・1
『アンとの遭遇』



 十七年の人生で、こんなに驚いたことはない。

――よう新一、約束の品物、明日の午後には着くから……え? それは着いてのお楽しみじゃ……ワハハハ!――

 お祖父ちゃんからの電話。

 なぜ驚くかというと、お祖父ちゃんは七日前に亡くなっていたから。
 電話を切ってから気づいた。これは、お祖父ちゃんが亡くなる前にコンピューターにプログラムしていたものだ。
 二言ほど言葉を交わしたけれど、今日日のコンピューターは、それぐらいのことはやってのける。

 だから、それほどの驚きじゃない。

 ほんとうに驚いたのは、これの続き。

 あくる日に届いた品物……品物と言っていいかは、皆さんで判断してください。お祖父ちゃんが品物と言ったので、そう表現しておきます。

「高階新一さん、お届け物です」
「はい……」
 インタホンの画面をチラ見して、ハンコを持ってドアを開けた……で、驚いた、ドアの外にはサロペットスカートの女の子が、柔らかな日差しの中で立っていたのだ!
「よろしく、今日から、あたしが新一クンの面倒を見ます。ちょ、じゃま……う~ん、これは、まずお掃除だなあ」
 そう言うと、そいつは勝手に上がり込んで、高校生の一人暮らしには広い家の中を掃除し始めた。
「あ、そ、それは……!」
「掃除は、まず捨てることからよ。ほい、ほい……えと、これもね、あれもね」
「ちょ、ちょっと……」
 そいつは、このひと月余りで、ボクなりに使いやすくした家の中をひっかきまわし、たちまち五つのゴミ袋を一杯にした。
「ゴミの回収は月曜日ね、それまでベランダに置いておきましょ。あたし三つ持つから、あなた二つね」
 そいつは、優し気な言い回しと声だけど、抗じかたい力があって、掃除が終わるまで、ボクは口を挟めなかった。

「あの……きみは?」

 やっと、そう聞けたのは、そいつがキッチンでお茶を入れているときだった。
「あたし、高階新之助さん、新一クンのお祖父さまからの贈り物よ。アンと言います……はい、お茶が入りました」
「アン?」
 言葉を続けようとしたら、お茶の香りが素晴らしく、一口飲まずにはいられなかった。
「どう、美味しいでしょ?」
「う、うん……我が家のお茶だとは思えない……」
 三口で飲み干すと、アンがじっと見つめる視線と合ってしまった。
「新一君、二日ほどお風呂入ってないでしょ」
「え、あ、いろいろあって……」
「九月と言っても、まだ夏のお釣りみたいなもの。お風呂には毎日入らなきゃ……」
 アンは、ボクの目を見たままサロペットを脱ぎ、自分も風呂に入れる体制になると、ボクの腕をムンズと掴んだ。
「お、おい、なにすんだよ!?」
「言ったでしょ、新一クンの面倒は、あたしがみるって……」

 見かけによらない力で引っ張られ、アブラムシの次に嫌いな風呂に連行された……!
   

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高校ライトノベル・秋物語り・18『タレコミ……』

2018-08-06 06:17:08 | 小説4

秋物語り・18
『タレコミ……』
        

 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名


 
 いきなりドアが開いて警備員のオジサンが二人入ってきた。


「女子高生は、どこにいる?」
 オチケンの部室のみんなが固まった。運悪く、わたしの他は、秋元君をはじめ、男子学生ばかり。
「なんですか、いきなり」
「いや、オチケンの部室で女子高生を連れ込んで、いかがわしいことをやってるって、通報があったんだ」
「ここにいるのは、みんなうちの学生かね?」

 一瞬動揺が、みんなの顔に走った。すかさず年かさの警備員さんが、わたしに目を付けた。

「わたし、東都短大の学生で、オチケンの交流に来てます」
 思わず去年のウソ八百が口をついて出た。
「うーん、高校生には見えないが……」
 多分警察のOBあたりの警備員さんなのだろう。目つきが険しい。
「これ、学生証です」
 言われもしないのに、わたしは去年のままに持っていた学生証を出した。
「じゃ、ガセですね」
 若い方の警備員さんが納得して、帰ろうとした。 
「氷川聡子さんね……東都短大は、どこの駅で降りるんだね?」
「C線、S駅の4番出口です」
「生年月日は?」
「平成12年5月15日です」
 これは、自分の生年月日に一年を足しただけのもの。去年東京を麗と美花の三人でフケルときに何度も練習した。
「干支は?」
「戌年です。警察じゃないんだから、これ以上は答えません!」
 正体を知っているオチケンの男子学生の方が動揺しているのだから、しつこいんだ。年かさの方が携帯をとりだした。
「もしもし……」
 なんと、東都短大に問い合わせし始めた。
「まだ、疑います?」
「いや、こいつは本物だ」
「こいつ呼ばわりはないでしょ!」
 秋元君が、つっかかった。案外……ってか、ほんとに怒ってる。
「いや、すまん。こいつってのは学生証のことだよ」
「じゃ、わたしも正直に言います」
 年かさの目が、また光った。
「わたし、この秋元君のレコ。で、わたしたちが本番までいかないように、あとの二人が監視役。ってか、あわよくば合コンにしたいの見え見えなんですけど。個人的にHの手前ぐらいやってもいいと思いません? もう高校生じゃないんだから、学内でやっていい線は心得てますから」
「分かった、分かった、君たちには学内自治の権利があるからね。じゃ、行こう」
「その前に、そんな虚偽のタレコミやった奴教えてもらえませんか?」
「文学部の学生と言っていたが、どうもそれも怪しいな。顔は覚えてるから、見たら注意しとくよ」

 で、ケリになった。
 
「亜紀ちゃん、なかなかやる~!」
 雫さんが、ドリンクとスナックの山とお腹を抱えて、笑いながら入ってきた。

 わたしは、そのタレコミが気になって、明くる日の昼休み、麗と美花の三人でカレーうどんを食べながら話し合った。
「その場は、笑い話で終わったけどさ、わたし、なんかヤな予感がするんだ」
「ひょっとして、大阪の頃のこと?」
 麗が滝を逆さにしたようにうどんを吸い込みながら(これが、この子の見た目に合わない芸)言った。
「もう、とっくに終わったつもりでいたのにね」
 美花は、出汁を残したまま、箸を置いた。それを当たり前のように、麗がすする。真剣なのか楽しんでんのか、こっちの身にもなれよな。その時校内放送が流れた。

――三年A組、水沢亜紀、すぐに生徒指導室まで来なさい。くり返します……――

「なんだろ?」

 美花が、ヘタレ八の字眉になって、本気で心配な顔をした。麗も、ドンブリを置いて、マジな目で、わたしを見た。

 大波乱の予感……。

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高校ライトノベル・臨時増刊・SF&青春ラノベ『レイカの花・6』

2018-08-05 06:27:42 | ライトノベルベスト

臨時増刊・SF&青春ラノベ
『レイカの花・6』
       

 お調子者のハナは中学からの友だち優香とともに神楽坂高校の演劇部に入った。部長が「村長」以下、サン、カンゴ、ミサイル、モグ、ユウと変なニックネームと個性の仲間の中でも「ハナ」と呼ばれた。今年の作品は『すみれの花さくころ』に決まる。そんな中、ハナは右の膝が、重度の骨肉腫であると分かる。村長は、なぜか夜中に、尖閣諸島でドンパチ。そんな中ハナの手術。サゲサゲのハナを村長は、なんとか励ました。そして、いよいよ手術。ハナの運命やいかに! そしてさらに、運命は意外な結末を用意していた。


 手術は、ピーカンの雲一つ無い朝から行われた! 

「どうだ、あたしのオマジナイはよく効くだろう!?」
「はい。こんな大事な日に晴れたの初めてです。先輩のてるてる坊主、手術室に吊してもらうんです!」

 手術は、特に防衛医科大から、村長担当の医師が来て行われ、延べ6時間かけて行われた。
 ハルが目覚めると、目の前にお母さん、そして村長の顔があった。そして村長の体からは、酸素マスクを通しても分かる鉄の焼ける臭いがした。
「先輩……」
「ああ、手術が長いもんで、家でオヤジの仕事手伝ってきた」
「鉄工所なんですよね?」
 とんだ鉄工所だ……そう思いながら、村長はにっこり頷いた。

「ええ、なんで元気な左足からやるんですか!?」

 ハナは、リハビリの初日からうるさかった。で、三日目に移植した右足の義足を見てびっくりした。皮膚の接合部分はまだ縫い目がはっきりしていたが、足そのものは自然のそれにそっくりだった。ただ自分の意思通りに動かないことを別にして。

「右の親指を動かしてくれる」
 理学療法士は優しく言った。それにハルは真剣に応えた。
「はい!」
「ウッ……!?」
 理学療法士は、股間を押さえて悶絶した。

 夏休みに入ったころには、不自由ながらなんとか歩けるようになり、なんと皮膚感覚が戻ってきて、爪も伸び始めた。
「お母さん、爪が伸びてきた、切ってくれる!?」
「う、うん」
 母は、娘の爪を切った。娘は爪を切ってもらった。母子は、十数年ぶりに皮膚感覚で、親子を感じあった。

 文化祭のころには、ハナの足は、ほとんど元に戻っていた。でも走ったり、微妙な姿勢をとったりしてバランスを崩すことがあったので、音響をやりながら裏方として参加した。三年生の村長、カンゴ、サンの演技は秀逸だった。台本通りやれば45分かかる芝居を20分に縮めた。文化祭はお祭なので、長い出し物はもたないと判断したのだ。そのかわりフィナーレはダンス部とコラボして、ショーアップしていた。さすがは三年生だと感心した。

「感心してて、ドーすんだよ!?」

 反省会で、素直に誉めたら叱られた。ミサイルやモグは縮あがった。
「コンクールで演るのは、あんた達なんだからね。その気でかかってこいよ」
「あの……すみれが、かおるにビックリして振り返るとこ、いったん左で振り返って右で振り返るのは、なんかオーバーなような気が……」
 ユウがオズオズと言った。
「リアルと、劇的はちがうんだよ。左から、正面向いて貯めてから右を向く。そこに観客は劇的な感動を感じるんだ!」
 村長の答は厳しい、自分たちの持っているモノを、確実に後輩に伝えようという迫力を感じた。

「え、うそでしょ!?」

 コンクールを一カ月前に控えた定期検診で、肉腫の転移が発見された。それは腰骨のガンになって、成長し始めていた。
「しばらく、入院だね」
 ドクターは冷静に、そう言い、ナースは即入院の準備に係った。

「ちょっと待ってください」

 村長が入ってきて、ドクターとナースを静止した。
「なんだ、君は?」
「ちょっと、記憶を消させてもらいます」
 村長は、ドクターとナースの頭に手をかざした。二人は一瞬でフリーズした。
「今のうちに、開いてる処置室に行こう!」
 村長は、ハナを抱きかかえるようにして、空きの処置室に向かった。

「ええ、やですう!」

 嫌がるハルの下半身を、村長はむき出しにした。
「オラ、ケツ、こっちに向けて。正確な患部が分かんねえだろ!」
 左の腰骨に一円玉ぐらいに成長した、ガン細胞が見えた。

「動くんじゃないよ。10分でガン細胞死滅させてやるんだから……」
 村長は、目をMRIモードにし、指先から放射線を高い出力であててガン細胞を一気に死滅させようと言うのだ。
 ただ見かけは、村長がシゲシゲとハルのお尻を見つめ、左上とは言え、お尻に指を突き立てている姿は異様ではあった。
「ようし、これでガン細胞は死んだ。次は……いつまでスッポンポンでいるんだ、早くパンツ穿け!」
「は、はい」
 次ぎに村長は、自分の腕に太い注射器を刺すと、自分の血を抜き始めた。
「何をしてるんですか、村長さん?」
「ハナAB型だろ。あたしO型だから輸血が出来る」
「あ、あたし、血の気は十分多いですけど」
「あたしの血にはナノリペアってのが入っていて、少々の傷やらガン細胞なら治したり殺したりしてくれる。ナノリペアだけ移すことはできないから、血液ごとだ」
「村長……顔真っ青ですよ」
「あたしの血は、表面組織しかご用じゃないから、人間の1/10ほどしかないんだ。なあに、機能には影響ないさ」

 コンクールを明後日に控えた日、村長は大きなマスクをして稽古場に現れた。一度村長の顔色は元にもどったけど、近頃また顔色が悪い。機能そのものに影響がないので、気が付く人間は少なかったが、さすがにハナには分かった。

「村長、どうかしたんですか?」
 稽古が終わって、ハナはそっと聞いてみた。
「……ハナにだけは、言っておこうか」
「言ってください……」
「ナノリペアが少なくなりすぎて、皮膚が壊死し始めてる」
 マスクをとった村長の頬は赤黒くなっていた。
「村長……」
「顔は、まだましだ。体はもっとひどい。それに、無理に放射線つかったもんで、ジェネレーターが具合悪いんだ。手に触ってごらん」
「熱い……!」
「41度ある。来年の春には義体の交換予定だったけど、もう明後日には交換しなくちゃならない」
「じゃ……」
「悪い、本番全部見られないかも……」
「先輩!」
 思わず抱きしめた村長は、全身使い捨てカイロのようだった……。

 本番のクライマックスになった。

 幽霊役のかおるは、自分が消えるときを知り、川の中に入っていく。
「かおるちゃん!」
 ユウが演ずるすみれが、それを感じ、渾身の叫びでかおるの名を呼ぶ。ラスト『お別れだけど さよならじゃない』が入ってくる。
「あなたと、出会えた、つかの間だけれど……♪」
 そのとき、村長が会場を後にするのを感じた。村長との永遠の別れを。涙が溢れて止まらなかった。

『優勝おめでとう。ラストは途中までしか見られなかったけど、とても素敵でした。成長したね、ハナ。あたしが鍛えただけのことはあります。ちょっと早いサヨナラになったけど、ハナのせいじゃありません。あたしが考えて、あたしがやったことだから。ハナは……ハナは自分の道を進んでください。それから、時々は本名の麗花も使ってみて。もうじき三年生に、大人になるんだから。今度のあたしは、もう少し小柄になるそうです。裏稼業の記憶は残るけど、この学校で過ごした記憶は消えてしまいます。じゃ、ほんとうにさようなら。なお、このメールは自動的に消去されます』

 それから。五か月後、ハル、いや麗花は三年生になった始業式の帰り、昼から入学式に行くフェリペ女学院の新入生の一団とすれ違った。ひょっとしたら……と感じ、思わず振り返ってしまう麗花であった。

  レイカの花  完

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高校ライトノベル・秋物語り2018・17『このシアワセ者めが~!』

2018-08-05 06:03:27 | 小説4

秋物語り2018・17
『このシアワセ者めが~!』
     

主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名


「このシアワセ者が~!」

 思わず大きな声が出た。

 175センチの体を小さくして、秋元君は「まあまあ……」と、手で制した。

 女の子のことで話があるというので、閉店後スタバで話を聞いてるとこ。
 要約すると、すごく簡単。その気のない女の子に言い寄られ、断るのに苦労してるってこと。
 ただそれだけ。
「テキトーに付き合っとけば」
 わたしは、もう立ちかけていた。
「そんなことでけへんよ」
「どんな子か知らないけど、秋元君が本気になってくれないからって、リスカするような子は、まずいないわよ。多分むこうだって、何人かいるうちの一人にしようってぐらいよ」

 このへんの男女の機微は、大阪で、だいぶスレてきた。シホとか店のバイトの子とか見てきたから。
 で、たまたま明くる日が、二人ともシフトから外れているので、放課後T大学まで行くことになった。
 駅のトイレで私服に着替え、地下鉄でT大前を目指す。

 ターゲットの子は、東京は多摩の子で、学部は文学部。シャメで人相姿は確認済み。秋元君のお友だちに居場所を確認。とりあえず、その居所であるキャフェテリアを目指す。

「よっこいしょ」

 お婆さんのような声を出して、ターゲットの横に名物のT大ドーナツとコーヒーを持って腰掛ける。
 で、ドーナツを囓りながら、スマホを出していじる。
 買ったばかりで、扱いがよく分からないようにして……って、実際、買いかえたばかりで慣れていない。
「あら、アイホン5じゃないの!?」
「あ、ええ、買ったばかりでよく分かんなくて……」

 ターゲットが親切で、スマホに詳しいことは了解済み。

「……なーんだ、そうか。パケットとか良く分からなかったものだから。これ、シャメもスグレモノなんですよね」
 と、サリゲにシャメのスライドショー。
「あ、秋元君じゃん」
「知ってんですか」
「うん、クラブがいっしょなの」
「カレですか、もしかして?」

 すかさず直球勝負に出る。

「う~ん、申込み中」

 その顔で分かった。秋元君はワンノブゼムの扱いだ。

「いい人でしょ?」
「うん、まっすぐでね、強いくせして、自分でそれに気づかない。それに大阪の人だし」
「大阪好きなんですか」
「好きよ、あたしたちオチケンだし」
「オチケン?」
「あ、落語研究部……そっか、マイナーだもんね。同学のあなたが知らなくっても当然よね」
「わたし、ここの学生じゃないんです」

 それから、わたしが高校生だって分かると、彼女はびっくりし、オチケンのことをオチコボレ研究会と聞いたら、コロコロと笑われた。

「マイナーなのは分かってたけど、オチコボレ研究会って言われたのは初めてよ」
「どうも、まだ高校生なもんで……」
「でも、あなたって不思議ね。話してる感覚は、完全な大人なのにね。そうか、高校生……」
「はい、本業」
「なにか、並の高校生じゃないわね……」
 とても興味深そうに、わたしを見た。
「ああ、秋元君といっしょにバイトしてるから」
「でも、秋元君は、まだお子ちゃまの匂いがする。あなたのは別の要素だな……ね、友だちになってくれる。秋元君付きで」
「はい、喜んで!」
「あ、わたし鈴木雫。文学部の一年生」
「わたし、水沢亜紀です。学校は……S文化大学」
「え……」
「指定校推薦で決まってます。ここと比べると、かなり見劣りしますけど」
「そんなことないわよ。アニメから文学まで、文化に特化したいい大学よ。日本文学の三好教授なんて憧れよ。去年ウチの大学退官して、そっちに行った先生」
「へえ、そうなんだ!」

 そのとき、わたしが高校の名前を言わなかったことは、ごく自然だった……なんせ、アリバイ高校生なんだから。でも、偏差値40代に引け目もあったことも確か。

 そして、その高校生であることが、このあと祟ってくることになるとは予想もしなかった……。

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高校ライトノベル・臨時増刊・SF&青春ラノベ『レイカの花・5』

2018-08-04 06:27:14 | ライトノベルベスト

臨時増刊・SF&青春ラノベ
『レイカの花・5』
       

 お調子者のハナは中学からの友だち優香とともに神楽坂高校の演劇部に入った。部長が「村長」以下、サン、カンゴ、ミサイル、モグ、ユウと変なニックネームと個性の仲間の中でも「ハナ」と呼ばれた。今年の作品は『すみれの花さくころ』に決まる。そんな中、ハナは右の膝が、重度の骨肉腫であると分かる。村長は、なぜか夜中に、尖閣諸島でドンパチ。そんな中ハナの手術。サゲサゲのハナを村長は、どう励ますか!?


 村長は、アメリカ軍と自衛隊、そしてC国の政府に無理矢理条件を呑ませた!

 三国とも、女子高生の手を借りた。あるいは女子高生にヤラレタとは言えないので、しぶしぶ要求を呑んだ。
「裏稼業がやっと、役にたったかな……」
 村長は、そう呟いて、ハナの病室に足を運んだ。

「オス、いよいよ明日だな。まだビビッてんのか?」
「そりゃあ、ビビリますよ。足が片方無くなっちゃうんですよ。でもって、かなりの確率で転移して、あたしは来年の正月も迎えられなくなっちゃうんですよ!」
「ドーしようもないわね……。もうサゲサゲの最低ブスだよ」
「ブスでもいいから、生きていたいんです……明日の降水確率も10%、ウ、ウウウウ」
 しばらく村長は、ハナが泣きたいだけ泣かした。そして、おもむろに言った。
「じゃ、取りあえず、本番は雨降らないようにしよう」
「……え?」
「みんな入っといで」
 その一言で、サン、カンゴ、ユウ、ミサイル、モグの五人が入ってきた。
「では、明日降るかもしれない雨を、今から降らせるから。みんな神経を集中……かかれ!」
 みんなは、サッと印を結ぶと、呪文を唱え始めた……。

「臨兵闘者 皆陣列在前! マジホンダラソワカ、マブナンダラソワカ……」

 みんなが、呪文を唱えて5分もすると、くすんでいた空が、にわかに曇り、しとしとと雨が降り。10分後には、車軸を流す大雨になってきた。
「これだけ降れば明日は大丈夫でしょ」

 村長の呟きは、電波に乗って、はるか上空を飛んでいる米軍の大型輸送機に届いた。
――ちょうど、よかった。C国からもらったヨウカ銀も、今切れたとこだ――
 カーネルの声が、村長の頭に直接届いた。気づくと、村長以外の仲間も居なくなっていた。
「あたしの、話、ちょっと聞いてくれる?」
「え、話……?」
「あたし、人間じゃないの」

「は……?」

「元人間と言ったほうがいいかな……25年前に大きな交通事故があったと思って。4人乗っていた人間の3人が即死、1人の17歳の女子高生が瀕死の重傷を負った。で、その子も多臓器不全になったあと、脳死寸前になった。そこで、病院は厚生省と防衛庁に連絡したの。適合者が現れたって……」
「テキゴウシャ?」
「ある実験の適合者……それから、その子は防衛庁の施設に運ばれて、処置されたの」
「処置?」
「義体って分かるかな……義手、義足の義に体って書くの」
「それって、体全体の、ナニですか?」
「そう、脳みそ以外は、みんな機械と、バイオの表面組織で出来ていて、いわばサイボーグ。元々はアメリカが開発していた技術だけど、行き詰まってアイデアは『ターミネーター』って映画のモチーフにされた」
「あ……シュワちゃん!?」
「日本は、将来の高齢化対策。体が利かなくなったお年寄りの体を廃棄して、元気な義体に替えることを主目的に始めたの。理論的には、脳みその寿命の125歳まで、元気に仕事も生活もできる。でも、研究者の性ね。もっとすごいことを考えた。脳みそそのものをCPUにインストールして、メンテナンスさえしたら、半永久的に使えるものを作りたくなった。その適合者が、その子。当時は別の名前だったけど、今は鈴木友子。通称村長……ってわけ」

「ア、アハ、アハハハ」
「………………」
 村長は、芝居の稽古中のように無言で真剣な顔になった。
「せ、先輩、そんな、あたしを励まそうとしてSFじみた話を……」
「見ててね」

 村長は、窓からジャンプすると、向かいのビルに飛び、また、戻ってきた。そして、ハルのベッドを片手で、水平に持ち上げた。

「こんなこと、並の人間に出来ると思う?」
「う、ううん」
「こんな、お化けみたいなのを20体作ったの。でも、拒絶反応やら、脳みその原因不明の壊死で18人が死んだ。脳みそをCPUに置き換えた2体は、去年まで生きていた。でも、軍事的なスキルを上げるために無理をして、去年残りの1体が、暴走してCPUがだめになった。で、残っているのが、このあたし1人……分かった?」
「じゃ、先輩は……村長さんは、もう42歳なんですか?」
「ううん、17歳。CPUにインストールしたら、精神年齢も歳をとらないの。これ、三代目の義体なんだよ。最初のは、とてもでっかくてねマツコデラックスほどあった。三代目でやっとこの大きさ。まあ、ちょっと大きめの女の子で通るでしょ」
「どこから、見ても、完全無欠な女子高生です」
「そりゃ、25年も女子高生やってるからね。でも、完全無欠じゃないよ。しょせん人間が作ったものだからね、いつバグるかもしれない。危ないプロジェクトだから、今は、あたしのメンテナンスだけ残して、研究は中止になったけどね」
「村長さん……」
「雨止んだね。あれだけ降ったら、明日は大丈夫だよ……ほら、明日の降水確率ゼロになっちゃった」
 村長は、スマホをハルに見せた。
「ほんとだ。ありがとう村長さん」
「ま、せっかく作ってきたから、てるてる坊主下げとくね」

 村長は、窓辺にてるてる坊主をぶら下げて、帰っていった。それを見ていると、窓の下から「がんばれよ!」と、村長トドメの励ましの声がした……。

 

 つづく

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高校ライトノベル・秋物語り2018・16『ねえ、ちょっと』

2018-08-04 06:06:57 | 小説4

秋物語り2018・16
『ねえ、ちょっと』


 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名


 明日から暑さが戻ってくるらしいけど、取りあえず今日は秋らしい陽気。


 大阪から戻って、あのボンヤリした不安は無くなった。人生の将来に対する漠然とした不安。
 取りあえず、その日の天気がよくって、楽しくバイトの半日が終われば、それでよし。

 学校?

 そんなの関係有馬線(ハハ、関係ごと変換したら、こんなになっちゃった)ただ卒業証書もらうためだけに行ってます。

 バイトも、それなりに大変なとこがあるんだけど、ガールズバーに比べればしれている。ただ万引き見つけた時には緊張する。
 一番あぶないのは、レジでお客さんの相手をしているとき。どうしても手許の商品やレジに目が行ってしまう。先輩の本職から、そういうときは、二度ほど顔を上げろと教えてもらった。不審な動きをしている人は、その時に、たいてい分かる。わたしは慣れてきたので、本のカバー掛けなどは、ほとんど見ないでもやれる。
 万引きは週に一二度見かける。

「田中さん、○番コーナー在庫点検ねがいま~す」

 これが符丁。直ぐに私服の警備員さんが行って処理してくれる。ガールズバーで、滝川さんがやっていたような仕事だ。
 学校の授業中に、新聞の書評や新刊本を気を付けてチェック。新刊本の並べ方などの参考にする。気に入った本……といっても、わたしはラノベや児童書だけど、日頃読んでおき、ポップを書いたりする。これが結構楽しい。元来アニメーター志望なんで、ちょっとした絵には自信がある。
 要は、本屋さんの店員としては自信がついたので、将来、軽いオミズ系や本屋の店員さんとしては、やっていけそう。

「ねえ、ちょっと」

 休憩時間がいっしょになったので、秋元君に声を掛ける。

 秋元君がバイトに入ってきたのは、この春だ。T大学の一年。関西方面からやって来たのは、言葉で直ぐに分かった。でも連休のころに、彼が、あのひっかけ橋マンモス交番の秋元警部補の息子さんだと分かった時にはタマゲタ。だって、ぜんぜん似ていない。秋元警部補は、ずんぐりむっくりの四角い顔のオッサンで、いつも笑顔だったけど、目だけはヤラシ~デカ目。念のためデカ目ってのは、大きい目じゃなくて、デカ(刑事)の、ヤラシ~目という意味。
 息子の方は、身長175センチのイケメン。多分お母さん似か、突然変異。女で苦労しそうだと店長が言っていた。

 ひょっとして、わたしたちのこと知ってるのかと心配したけど、大丈夫だった。秋元警部補は、その点は職務に忠実で、仕事のことは一切身内には漏らしていないようだった。
 大学生なんで、いっこ年上なんだけど。バイトとしては、わたしが先輩なんで、秋元君で通している。

 その秋元君に元気がない。で、「ねえ、ちょっと」になったわけ。

「ちょっち、変だよ、このごろの秋元君」
「あ……やっぱ分かりますか」
「丸わかり。そのままじゃ、仕事でヘマしちゃうよ。わたしで良かったら、話してみそ」

 秋元君は、ツルリと顔を撫で、ため息一つして言った。

「実は、女の子のことで……」

 その唐突な切り出し方に、少し驚いた……。

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