カメラは?
わたしも留美ちゃんも、そればっかり気にしてた。
というのは、空港に着いてから一晩がたった、この、たった今までドッキリやと思てたから!
リムジンで宮殿まで送られても、エーデルワイスの間で女王陛下に謁見しても、王室の紋章入りの食器でディナーをいただいても、天蓋付きのフカフカベッドで寝ても、翌朝のテレビニュースを見ても、どこかで手の込んだドッキリカメラやという気がしてた。
宮殿までの沿道には国民の皆さんが日本とヤマセンブルグの旗を振って歓迎してくれたけど、その歓迎ぶりが嘘くさい。
どこかの全体主義の国みたいな熱烈歓迎やねんけど、人数が少ない。数えたわけやないけど、せいぜい八百人くらい。設定どおりのプリンセスやったら、この十倍くらいは並んでんとおかしい。
女王陛下は……どこの大部屋役者か言うたら申し訳ないねんけど、気さくすぎて威厳が無い。留美ちゃんが「女王様にしては手が節くれだって荒れすぎてる。役者だけじゃ食べられないから、ファミレスの皿洗いのバイトでもやってそうな感じ」と、鋭く観察してた!
ディナーは食器こそ立派やったけど、肉は固いし、魚は脂っこいし、番組の制作費が食材までは回らんかったいう感じ。
テレビのニュースはリポーターが演技過剰! プリンセスが手ぇ振ったぐらいで、体振わせて泣かんでもええでしょ!?
留美ちゃんの話では、かつて列車を一編成まるまる使って列車強盗のドッキリや、本物の国会の議会場を使ってクーデターのドッキリをやったりということがあったらしい。首相のそっくりさんまで仕込んでてマシンガンでブチ殺す演出まであったそうな。
せやさかい、どこかにドッキリ用のカメラがあるんちゃうかと思て、キョロキョロしてるわけ。
二日目の朝、わたしらは国立墓地に来てる。
空港到着の時と違って、わたしら以外の参列者は十人ほど。軍服着たえらいさんと、兵隊さんが三人、軍楽隊のラッパの人が二人。それに、神父さん。
製作費が足らんようになってきたか?
「千羽鶴持ってくれる?」
頼子さんが小さな声で頼んでくる。
千羽鶴は二つあるので、留美ちゃんと一つずつ持つ。
「二か所あるから、一人ずつお願い」
エライサンの合図でラッパの吹奏。聞いたことのない曲やけど、葬送用の荘重でしんみりした調べ。
たくさんの墓石が並んでる、その真ん中の墓石に花輪を捧げる頼子さん。たぶん、戦争で死んだ兵隊さんらのお墓やと思う。
留美ちゃんが、花輪と並べて千羽鶴を置いた。ラッパの調べが、いっそう荘重になる。イザベラさんに合図されて、奥のお墓には、わたしが付き添う。
これは……見ただけで分かる、ヤマセンブルグの紋章と王冠が彫り込まれてる。歴代国王と王族のお墓や。
緊張してたんで、お墓の縁石で転びそうになる。痛かった。発泡スチロールの作り物と違う、ほんまもんや!
そんで、頼子さんが花輪、わたしが千羽鶴をお供えする。
「おじいちゃん……ごめんね」
頼子さんは、呟くように言うと、両方の目ぇからホロホロと涙を流した……。
これは……ドッキリとちゃう。