大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・057『ヤマセンブルグ・3』

2019-08-28 15:33:15 | ノベル
せやさかい・057
『ヤマセンブルグ・3』 

 

 

 カメラは?

 

 わたしも留美ちゃんも、そればっかり気にしてた。

 というのは、空港に着いてから一晩がたった、この、たった今までドッキリやと思てたから!

 リムジンで宮殿まで送られても、エーデルワイスの間で女王陛下に謁見しても、王室の紋章入りの食器でディナーをいただいても、天蓋付きのフカフカベッドで寝ても、翌朝のテレビニュースを見ても、どこかで手の込んだドッキリカメラやという気がしてた。

 宮殿までの沿道には国民の皆さんが日本とヤマセンブルグの旗を振って歓迎してくれたけど、その歓迎ぶりが嘘くさい。

 どこかの全体主義の国みたいな熱烈歓迎やねんけど、人数が少ない。数えたわけやないけど、せいぜい八百人くらい。設定どおりのプリンセスやったら、この十倍くらいは並んでんとおかしい。

 女王陛下は……どこの大部屋役者か言うたら申し訳ないねんけど、気さくすぎて威厳が無い。留美ちゃんが「女王様にしては手が節くれだって荒れすぎてる。役者だけじゃ食べられないから、ファミレスの皿洗いのバイトでもやってそうな感じ」と、鋭く観察してた!

 ディナーは食器こそ立派やったけど、肉は固いし、魚は脂っこいし、番組の制作費が食材までは回らんかったいう感じ。

 テレビのニュースはリポーターが演技過剰! プリンセスが手ぇ振ったぐらいで、体振わせて泣かんでもええでしょ!?

 留美ちゃんの話では、かつて列車を一編成まるまる使って列車強盗のドッキリや、本物の国会の議会場を使ってクーデターのドッキリをやったりということがあったらしい。首相のそっくりさんまで仕込んでてマシンガンでブチ殺す演出まであったそうな。

 せやさかい、どこかにドッキリ用のカメラがあるんちゃうかと思て、キョロキョロしてるわけ。

 

 二日目の朝、わたしらは国立墓地に来てる。

 

 空港到着の時と違って、わたしら以外の参列者は十人ほど。軍服着たえらいさんと、兵隊さんが三人、軍楽隊のラッパの人が二人。それに、神父さん。

 製作費が足らんようになってきたか?

「千羽鶴持ってくれる?」

 頼子さんが小さな声で頼んでくる。

 千羽鶴は二つあるので、留美ちゃんと一つずつ持つ。

「二か所あるから、一人ずつお願い」

 エライサンの合図でラッパの吹奏。聞いたことのない曲やけど、葬送用の荘重でしんみりした調べ。

 たくさんの墓石が並んでる、その真ん中の墓石に花輪を捧げる頼子さん。たぶん、戦争で死んだ兵隊さんらのお墓やと思う。

 留美ちゃんが、花輪と並べて千羽鶴を置いた。ラッパの調べが、いっそう荘重になる。イザベラさんに合図されて、奥のお墓には、わたしが付き添う。

 これは……見ただけで分かる、ヤマセンブルグの紋章と王冠が彫り込まれてる。歴代国王と王族のお墓や。

 緊張してたんで、お墓の縁石で転びそうになる。痛かった。発泡スチロールの作り物と違う、ほんまもんや!

 そんで、頼子さんが花輪、わたしが千羽鶴をお供えする。

おじいちゃん……ごめんね

 頼子さんは、呟くように言うと、両方の目ぇからホロホロと涙を流した……。

 

 これは……ドッキリとちゃう。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・70『妄想の触媒アイテム』

2019-08-28 06:19:04 | ノベル2
高安女子高生物語・70
『妄想の触媒アイテム』
       


 キャー、可憐な女子高生二人が裸にされてる!

 そない言うと「アホか」という声が返ってきた。声の主は、お父さん。
 朝、洗面所に行くと、お父さんがガルパン二人の制服を脱がせてた。

 分からん人に説明。
 
 お父さんは売れへん作家で、ほとんど一日部屋に籠もってパソコン叩いてる。で、作家にはありがちやねんけど、身の回りは「なんで、こんなもんが置いたある!?」というもんがゴロゴロしてて、まるでハウルの部屋みたい。
 そのガラクタの中で、ひときは目立ってるのが、作りかけの1/6の戦車。で、戦車だけやったら子供じみてるけど、納得はいく。どうもキショイのは、その作りかけの戦車に1/6の制服着た女子高生二人が乗ってること。こないだ来た美枝とゆかりは「かいらしい」言うて喜んでたけど、うちは社交辞令のお愛想……。
「お愛想やと思てるやろ。伊東さんと中尾さんはちゃんと分かってる。お母さんが部屋片づけて人形触ってワヤにしたとき、お父さんがポーズと表情直したとき感動してたやろ。お愛想であの感動はでけへん」
「あの、一つ聞いてええ?」
 うちは歯ブラシに歯磨き付けながら聞いた。
「せやけど、なんでガルパンなん?」
「発想や。戦車と萌キャラいう、まったく別ジャンルのもんひっつけて肩身の狭い戦車オタクと、萌オタクに市民権を与えた。そればっかりやない。大震災で落ち込んだ茨城県の街を活性化させた。『ウエイクアップガールズ』と並ぶ震災関係の作品としてはピカイチやと思う」
「けどガルパンには震災の『し』の字も出てけえへんけど」
「そこが、押しつけがましいない、ええとこや。舞台を大洗にしただけで、年間何十万人いう観光客を増やした。六月には、いばらきイメージアップ大賞も受賞や。物書きとしては、大いに刺激を受ける」
「せやけど、そんなんバンダイの戦略とちゃうのん」

 お父さんは、正面を向いて改まった。

「娘よ、よくお聞き……世の中に100%の善意なんか存在せえへん。企業の思惑と計算があって、それで地方の街が活性化する。それでええんとちゃうか? 明日香かて、来年は大学受けるんやろ。それて純粋に勉強しよ思てのことか?」
「それは……」

 どうも、元高校教師と作家という理屈こね回すのが上手い職業のせいか、丸め込まれそうになる。

「せやけど、お父さん」
「なんや?」
「その前はだけただけのお人形さん、なんとかしてくれへん。人形でもセクハラやで」
「明日香が歯ぁ磨いてるよって、しぶきが飛んだらかなんさかいな。はよ、顔洗え」
「もう……」
 うちは、ガシガシと歯ぁ磨いて顔を洗うた。するとお父さんは、待ってたとばかりに人形を裸にした。
 制服を脱いだ人形は、下着代わりに白い水着を着てた。
「シリコン素材は色移りがしやすいんでな、保護のためや……」
 うちは、人形に軽いショックを受けた。脚の長さは人形のデフォルメやねんやろけど、ボディーは成熟した女そのものやった。お父さんは、その水着も脱がしてスッポンポンにすると、お湯で、さっと洗うて、ドライヤーで乾かすと、ファンデーションを粉にしたようなもんを、小さなザルに入れて振りかけた。
「こないすると、元の元気な姿に戻る」
「お父さん、やっぱ、変態や……」
「ハハ、物書きは、みんな変態。誉め言葉やなあ」

 こたえんオッサンや。

 部屋に戻って考えた。制服いうのは女を隠すようにできてる。なんでもないような子が、水泳の授業なんかで水着になると、同性でもドキってすることがある。友だち同士でも、あんまり、そういう話はせえへん……ただ美枝みたいな子ぉもおる。で、ゆかりといっしょになって心配なんかしてる。
 けど、心配してること自体が、自分自身の問題から逃げる口実……ああ、あかん、落ち込む。

 こういうときは母親譲りのお片づけを発作的にやる。
 
 中学のときのガラクタを整理。あらかたほかそ思てたら、中三のときに上げたバレンタインのお返しの紙袋が出てきた。きれいなポストカードと小さなパンツが入ってた。
「あ、人形にぴったりや」
 そない思て、一階へ。
「お父さん、よかったら、これ……」

 お父さんは生首の模型バラして脳みそをシゲシゲと眺めてた。やっぱりただの変態オヤジ……。
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高校ライトノベル・須之内写真館・42『語らぬ旧友』

2019-08-28 06:09:39 | 小説・2
須之内写真館・42
『語らぬ旧友』 


 拘置所の栄美はダンマリだった。

 かがのデッキで捕まえたときは、恐怖心と共に一瞬の懐かしさを見せた栄美はカラにこもってしまっていた。
「かもめ女子高校、二年で退学したのね」
 この言葉を言ったとき、指先がピクリとしたような気がしたが、錯覚かもしれないと直美は思った。

 直美は、規定の三十分、ただ栄美の顔を見ていただけだ。直美から一言発して、栄美はなにも答えなかった。栄美の目は直美に向けられてはいたが、何も見てはいなかった。多分取り調べの刑事や弁護士に対しても同じなんだろう。

「新左翼なら、なにも喋らないと思うよ」

 ジイチャンが行ったとおりの反応だった。

 栄美は、父と四十歳以上離れていた。父は、○○派の新左翼で、若い頃は武闘派で名前が通っていた。栄美の母と結婚し、いわゆる市民活動家になっていった人物で、かもめ女子高校時代、うるさい保護者で通っていた。そのトバッチリを受けた栄美は、みんなから敬遠され、虐められるようになった。

「栄美のお父さん、新左翼だったんだってね」

 クラスの勝ち気な子がサラリと言った。
 
 他のことは何を言われても聞き流していた栄美は、この時は、その子に掴みかかった。そして、かもめ女子には珍しい野良犬同士のようなケンカになった。
 直美一人が間に入った。

「お父さんが、なんであろうと、栄美には関係ないでしょ!」
「直美こそ、関係ないじゃん。横から口出しすんなよ!」
 その子が払いのけようとした手を掴んだら、ねじり上げるようなカタチになり、その子は右腕を脱臼してしまった。

 直美は、暴力行為だと自分から認めて学校を辞めた。誰かが辞めなければ収まりがつかない事態だった。

 退学届けを出しに行った日、栄美は泣きながら直美に謝った。
「気にしないで。高校は、ここだけじゃないから」
「あたし、これから変わるから……」
「あたしも、それで辞め甲斐がある」

 それから、父親が面会に来た。

「栄美、やらかしたな。いまどき武装闘争なんてアナクロだぞ」
「……父さん」
「なんだ?」
「市民運動なんてママゴトで日和ってんじゃねえよ! てめえが投げ出した武装革命真剣にやってんだよ! くされ新左翼は消えて無くなれ!」
 そう言って栄美は椅子をけ飛ばし、面会は一分足らずで終わった。

『娘を新左翼の亡霊にして』という記事を父親は週刊誌に書いた。半分以上は自己批判というカタチを借りた市民運動のプロパガンダだった。
「こいつが、栄美をダメにしたんだ……!」

 直美は、週刊誌ごと、真っ二つに引き裂いた。

「直美……」

 玄蔵祖父ちゃんは、思わず手にしたカメラを落とすところだった……。
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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・16『知井子の悩み・6』

2019-08-28 06:00:46 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・16
『知井子の悩み・6』 

 
 
 オーディションは、HIKARIシアターで行われる。

 HIKARIプロ所属のアイドルユニットの常設の劇場。午後には、そのアイドルユニットの公演がおこなわれるので、午前八時開始という異例の早い時間帯。
 歌うにしろ踊るにしろ、きちんと体調、声の調子を合わせにくい時間帯だ。
 マユは思った。わざと、そういう時間帯を選び、オーディションを受ける子たちの、本当の適性とやる気を見定めるつもりなんだ。黒羽ディレクターの意地悪にも見える本気度がよくわかった。
 
 知井子と駅で待ち合わせして会場へ。そこで、また驚くことがあった。
 会場には三十分前に着いたが、もう、ほとんどの子が来ていた。
――あと、一人だな……。
 会場整理のおじさんが、そう思ったことでわかった。
 そして、このおじさんが、ただの会場整理のおじさんでないことも……。

 二三分して最後の子がやってきて、全員がそろったが、時間までは会場には入れないようだ。そうやって外で待たせている間にも、おじさんやスタッフ、そして監視カメラなどが、みんなの様子を観察している。
 もう、すでにオーディションは、始まっていることをマユは理解した。

「さあ、時間です。受付を済ました人は、指示された控え室に入ってくださいね」

 一見偉そうに見えるスタッフが、ハンドマイクで穏やかに誘導した。
 受付もなにも、ここに着いた時に胸に付けるように配られたバッジにチップが組み込まれていて、カメラや、スタッフの特殊なメガネを通して個人は特定できるようにしてある。

 受付をすませて、マユは驚いた。

「これって、最終選考なんだ……新ユニットの」
「マユ、気がついていなかったの?」
 知井子が不思議そうな顔をした。
 マユは、やっぱり自分をオチコボレの小悪魔だと思い知った。人間が目につかないことばかり見て、会場の正面に貼り出されていた看板を見落としていた。

――HIKARI新ユニット最終選考会――

 看板には、そう書かれていた。
 受付から先は本人しか入れない。お母さんといっしょに来ている子も半分近くいて、まるで、海外長期留学の見送りに空港まで来たようなお母さんまでいた。
 試しに心を読んでみると、その親子は、はるばる北海道から来ていた。他にも、九州や四国から来ている子もいた……!
 そして、すごいことを読み取った。
「ねえ、知井子。このオーディション二千四百人も受けてたんだよ!」
「そうだよ、一次で四百、二次で、四十六人まで絞られてたんだよ」
 平然という知井子に、マユは驚いた。そして、そんなオーディションの最終選考に二人を横滑りのように入れた黒羽にも……。

 準備室に入って、さらに驚いた。みんな真剣に、そして静かに着替え、控えめに声を整えたり、ストレッチをやっている。しかし、胸の中は、みんな燃えるような闘志。
「ねえ、知井子……」
 横を向くと、知井子は、他のみんなと同じような闘志をみなぎらせ、得意な歌をハミングしながら、振りの確認に余念がなかった。

――人間って、すごいんだ……。
 
 悪魔の補習のため、人間界によこされた意味を、改めて思い知るユであった。
 しかし、人間の、それも一見キャピキャピでヒトククリにして、どこかで小馬鹿にしていた、ティーンの女の子たちのすごいエモーション。
 それが、その時感じたより、もっとすごいことを間もなく知る……とは思いもよらないマユであった。
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高校ライトノベル:連載戯曲:ユキとねねことルブランと…… 5

2019-08-28 05:49:53 | エッセー
 ユキとねねことルブランと…… 5
栄町犬猫騒動記
 
 大橋むつお
 
 ※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します

時  ある春の日のある時

所  栄町の公園

人物

ユキ    犬(犬塚まどかの姿)
ねねこ    猫(三田村麻衣と二役)
ルブラン   猫(貴井幸子と二役)
 
 
携帯電話を奪って、もどってくるユキ。その後を血相を変えたルブランが追ってくる。
 
ルブラン: この泥棒犬! 今度邪魔をしたら、許さないって言ったでしょ!
ユキ: 血相変えて追いかけてきたわね。
ルブラン: 誰でも、大事なものをかっぱらわれたら、頭に血がのぼるわよ。さあ、返しなさい、わたしの携帯電話!
ユキ: よほど大事な携帯ね。でも、いまどき携帯をわざわざケースにしまってる人なんているかしら……
ルブラン: 出すな、ケースから!
麻衣: スンゲー! 見たこともない高級品!
ルブラン: いじくるんじゃない!
ユキ: ルブラン……あなた、幸子さんを携帯に変えたわね?
麻衣: え、その携帯が幸子!?
ユキ: そしてこのケースは、携帯にされた幸子さんが逃げ出さないためのイマシメ。
麻衣: そうか、万一ポロリと落っことして、人が拾っちゃったら……幸子って、携帯になっても、お嬢様なんだ……
ユキ: 考えたものよね、携帯に変えれば、肌身離さず持っていても怪しまれないし。そして、思う存分ネチネチ、ビシバシ言葉のパンチをあびせても自然だものね……ケースにもどしては……かわいそう、必要以上にしめあげたのね、皮ひものあとがこんなに……
ルブラン: なにをデタラメを……
 
麻衣、なにかひらめいたらしく、力いっぱい携帯電話に水をかける。携帯といっしょに、ビショビショになるユキ。
 
ユキ: 麻衣ちゃん……そういうことはヒトコト言ってからしてくれる。
麻衣: ごめん、携帯に薬かけたら、幸子にもどるかなって……だって化代にかけたらもどるって……
ユキ: わたしも、そう思ったんだけど……ハックション!
ルブラン: ハハハ……まるで水に落ちた犬だね。さあ返しな。それは高級品だけど、ただの携帯電話。化代なんかじゃないんだよ!
麻衣: くそ!
ルブラン: 知っているかい、こんな言葉……水に落ちた犬はたたけってね!
 
しばし、みつどもえの立回り。おされ気味のユキと麻衣(戦いを表す歌と、ダンスになってもいい)
 
麻衣: ユキ、もうだめだ。こいつにはかなわないよ。
ユキ: あきらめないで。ルブランのこの真剣さ、この携帯、化代に違いない!
麻衣: だって、いくらやっても効き目がないよ……(片隅に追い詰められる二人)
ルブラン: フフフ、バカの知恵もそこまでさ。覚悟をおし……
ユキ: この携帯、高級品……ひょっとして……(携帯の裏側をさわる)
ルブラン: やめろ、さわるな!
ユキ: この携帯は……高級品のウォータープルーフ。つまり防水仕様になっている。
麻衣: さすが、ゼネコン社長のお嬢様!
ユキ: でも、防水仕様は外側だけ、電池ボックスを開けて、内側に、その水鉄砲を……どうやら図星ね……麻衣ちゃん、もう一度この携帯を撃って!
麻衣: よっしゃ!
ルブラン: させるか!
 
ユキが素早く電池ボックスを開けた携帯に、あやまたず麻衣の水鉄砲が命中!
 
ルブラン: ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!
麻衣: やった!
ユキ: どうやら、正解だったようね。わたしの手の中で、幸子さんが、自分の鼓動をうちはじめている。
ルブラン: ……なんてこと……せっかく、せっかく、ルブランの夢がかなうところだったのに……(断末魔のBG、ルブラン倒れる)
 
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高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・064『M資金・1 防衛大臣の蕎麦』

2019-08-27 13:50:58 | 小説

魔法少女マヂカ・064  

 
『M資金・1 防衛大臣の蕎麦』語り手:来栖司令  

 

 

 核武装すべきです。

 

 新防衛大臣を前に、かましてやった。

 先々代の女性防衛大臣は、自分の政治的ポテンシャルにプラスになるかどうかだけの興味しかないオバハンだった。

 だから「ここだけの話ですが」と前置きをしたのにもかかわらず、三日後にはマスコミに漏れてしまって、一カ月間マスコミに叩かれたあげく、防衛省資料部に左遷された。

 制服組の暴走を阻止した防衛大臣として、マスコミは彼女をもてはやした。しかし、お蔭で『ふそう計画』が実施できることになったのだから結果オーライ。この経緯について話し出すとキリが無いので、そういうことだった理解してくれればいい。

 先代はギャンブル産業の利益代表みたいなオッサンだった。

 先々代同様に『核武装すべきです』とかましただけで頭にも心にもシャッターを下ろしてしまいやがった。

 半島に核武装した統一国家が生まれそうで、日本は中国・ロシアと合わせて三つの核武装国家に囲まれてしまうのだ。ロケット技術、核技術、プルトニュウムの三つが揃っているのだから、その気になれば数か月で世界有数の核保有国になれる。しかし、日本には(核兵器を持つ)意思がない。

 わたしも、なにがなんでも核武装と言っているわけではない。核武装するとなれば、いまのGDP1%以内の防衛費ではいかんともしがたい。

 ふそう計画の充実を図りたいのだ。

 この日本に魔法少女部隊は一つしかない。特務師団と名前だけは立派だが、二人の魔法少女に頼り切っている。二人を出撃させる高機動車『北斗』は予算不足で、二回出撃に使っただけで大塚台公園の格納庫に仕舞ったままだ。二人の魔法少女には「北斗を使うまでもない」と言ってあるが、いつまでも、これでは済まないだろう。

「M資金捜索に手を付けてもらえないだろうか」

 防衛大学の先輩である新大臣は核武装論のブラフには見向きもしないで斜め上から迫ってきた。

「防衛省はミステリー映画でも作るつもりですか?」

 M資金とは、終戦直後から噂になり、様々なミステリーじみた事件や詐欺を巻き起こした、旧日本軍の隠匿財宝のことである。一時GHQが本気で捜索したが――そんなものは存在しない――ということが前世紀には確定していて、今ではテレビドラマの種にされることもなくなった。二十一世紀の今日に、それを持ち出すのは質の悪い冗談でしかなく、言い出したのが先輩でなければ張り倒しているところだ。こちらは、真剣に『ふそう計画』の進展を提起しているのだ。

「大臣、蕎麦があがりましたよ」

 いつの間にか、食堂のおばちゃんが大臣室のドアを開け、岡持ちを持って立っている。

「おお、できたか! 来栖、俺が初めて打った蕎麦だ、まあ、食ってから話をしよう」

 おばちゃんは、テーブルの上にモリそばを並べていく。なんだか煙に巻かれそうな気配だが、大人しくいただく。

 ズルズルズル~~~~~

「こ、これは……!?」

 驚いた。生まれてこのかた、こんなに美味い蕎麦を喰ったのは初めてだ!

「驚いたかい? 俺には三百年前の蕎麦聖の血が流れているんだそうだ」

 蕎麦聖!? それは湯島の聖堂近くで蕎麦屋を始めたという蕎麦名人のことである。歌舞伎や講談の話で、半ば江戸前蕎麦の伝説と言われている人物だ。

「な、こんなことがあるんだから、M資金だって存在するのさ。来栖君」

 大臣の後ろで、おばちゃんが大きく頷いた。

 このおばちゃんは何者だ……?

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・69『バラが咲いた』

2019-08-27 06:33:29 | ノベル2
高安女子高生物語・69
『バラが咲いた』       


 
――明日香とこにも届いた?――

 朝起きたら、こんなメールがゆかりから届いてた。それだけで分かった。
 一つ前のメールを見る。夕べ来た美枝からのメール。
――バラが咲いたよ!――
 その一言に、真っ赤なバラがベランダの手すりと青い空を背景に咲いてるシャメ。
 美枝のマンションは南向きのベランダ。何を植えても育ちがええ。
 せやけど、このアッケラカンと赤くて大きなバラは、丹念に手入れした様子が窺える。
 バラは、ほっとくと一杯芽を付けて、小さな花を、時期的にも大きさ的にも、バラバラに咲かせる(期せずしてシャレになった)。せやけど、美枝のバラは、プランターに一茎のバラ。そこに大きく真っ赤なバラが三人姉妹みたいに揃て写ってる。きちんと手入れして剪定(間引き)してきた証拠。

「アカラサマやなあ……」

 思わず独り言。
「いやあ、ほんまにアカアカときれいに咲かさはったんやね」
 意味分かってへんお母さんが覗き込む。
 うちは三階建ての戸建てやけど、北向きやさかい、何を育てても満足には育てへん。うちは小さい頃は別やったけど、あんまり花には興味ない。お父さんもそうで、三年前に亡くなったお祖父ちゃんから引き継いだ仏壇のお花も、今は造花。お母さんはため息やったけど、うちは、それでええと思てる。

 そんな花無精なうちでも、美枝のバラの意味は分かる。
 赤いバラは愛情、情熱、それから……あなたを愛します。
 スクロールすると、シャメの下に、もう一言。

――LET IT GO――

 同じ言葉をゆかりに送った……うちのは美枝とちゃう意味やけど。
 スクランブルエッグを生の食パンに乗せて、コーヒー牛乳(うちは牛乳飲まれへんさかい)500CCを一気飲み。
「そんな早よ飲んだら、お腹こわすよ」
「分かってる」
 この言葉には切実な事情がある。
 テスト期間中は、学校9時からやったから、ゆっくり起きていく。あかんのん分かってて、この癖はなおらへん。なおらんとどないなるか。
 こんな、ささいな20分ほどのズレが、生活のリズムを崩す。

 正直言うて、テスト終わってから便秘気味。

 顔洗うて、歯ぁ磨いてるうちに体が反応してくる。
 生みの苦しみってこんなんやろなあ……一分ほど両親の苦労に共感したあとはスッキリ爽やか。
 うちの薬に頼らん便秘解消法。
「いってきまーす!」に続いて「お早うございます!」

 玄関の階段降りたら、向かいのオバチャンと目が合うた。

「やあ、あんたとこもバラ咲いたやんか!」
 かろうじ午前中だけ日の当たる階段の下の方。ベージュの植木鉢に貧相なバラが咲いていた。
「おかげさんで!」
 オバチャンは喜んでいるので、その喜びのお返しに明るく返事する。
 そやけど、貧相は貧相や。お母さんも剪定はやってるから、大きさはそこそこ。せやけど色が悪い。赤黒くくすんだ感じ。美枝の真っ赤にはほど遠い。
 向かいのオバチャンは、ほんの半年前に旦那さん亡くさはったばっかり。
「明日香ちゃんの家に電気点いただけでホッとすんねん、おばちゃん」
 気ぃのしっかりしたオバチャンやったけど、やっぱり一人暮らしは堪えんねんやろな……せやから、うちの貧相なバラでも、あないに喜んでくれはる。うちは、それに相応しいだけの反応ができたやろか……美枝のことには無力やったさかい、ちょっとナーバスになってる。

 高安駅までの八分ほどは、ぴかぴかの上天気、五月晴れというよりは、もうかすかに夏の気配。高安山の目玉親父も、なんか日向ぼっこしてるみたい。  
 マンションと畑の間のショートカットを通る。うちの植木鉢とは比較にならんぐらいの青い匂いが畑からしてくる。植物は確実に季節の移ろいと、手間掛けた人の心を写してる。この畑の持ち主は、きっと地に足の着いた河内のオッサンやねんやろなあ、と思う。

 運良く高安仕立ての準急に座れたんで、スマホ出して検索。

 赤黒いバラの花言葉は……永遠の愛やった!

 うっとこも、向かいのオバチャンにも、ええことが起きたらええのになあ……。
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高校ライトノベル・須之内写真館・41『擬装テロリスト』

2019-08-27 06:24:34 | 小説・2
須之内写真館・41
『擬装テロリスト』       


 そのクルーたちに、直美は微妙な違和感を感じた……。

 同じ映像関係者だから分かった。そのクルーたちには、被写体である「かが」への興味が感じられなかった。
 A放送と言えば、反保守で通ったA新聞の系列なので、反自衛隊の立場でではあろうが、反対なりの関心の持ち方でカメラを回すはずだ。それが、とてもおざなりなのだ。
 カメラをパンして撮るときは、あらかじめ最終目標物に体を向け、捻って別のものを撮り、その捻りをもどしながら目標物を撮る。それが、カメラマンは体ごと向きを変えている。あれでは映像がブレてしまう。

 怪しい……そう思った直美は、レンズの倍率を上げてA放送のクルーたちを観察した。

「あ、栄美がいる!」

 マイクを持ったリポーターは、直美の古い記憶を呼び戻した。栄美は一年だけ在籍したたかもめ女子高校の同級であった。
 かれらは、ほぼ真っ直ぐにブリッジを目指した。同乗している他のテレビ局と動線が違う。

 しばらくすると、栄美がブリッジからウィングに出て、とっさに身をかがめるのが分かった。
 同時にブリッジが一瞬光ったかと思うと大爆発をおこし、ブリッジの窓から炎が吹きだした。遅れて爆発の振動と衝撃が伝わり、続いて血まみれの乗組員や、見学者たちがブリッジから飛び出してきた。

 ブオー! ブオー! ブオー!

 すぐに警報が鳴り、甲板にいた乗組員たちが、消火と救出作業にあたった。
――緊急事態です。艦内見学の方々は、乗組員の指示に従って、ただちに退艦してください。乗員は警戒態勢Aとなし、警戒を厳となせ――
 直美は反射的にブリッジ方向に走った。それは、出口である艦尾のラッタルに向かう動線と重なっていたので、誰も怪しみはしなかった。

「ちょっと待ちなさいよ!」

 直美は、一般客に混じって逃げようとしていた栄美の腕を掴んだ。栄美の目に一瞬の懐かしさが浮かび、直ぐに恐怖心に変わった。
「犯人は、A放送のクルーたちです、逃がさないで!」
 いつのまにか、近くに来ていた鈴木が、A放送のカメラマンに足払いをかけていた。
「プロのカメラマンが、カメラ置いて逃げるわけないだろ、このテロリスト野郎!」
 この一言で、A放送のクルーたちは、全員身柄が確保された。

 この『かが爆破事件』で、死者三名、重傷十三名、軽傷二十五名が出た。あかぎは沈むようなことは無かったが、CICに次いで重要なブリッジの内部が破壊されたので、数ヶ月の修理が必要になった。
 そして、マスコミは日本的な異常反応を示した。
 テロリストへの非難よりも、テロの目標になった自衛隊への非難が大きく報じられたのだ。
「必要なのか、過剰な装備!?」
「テロの火種、海自の最新鋭艦。問われる日本の防衛政策!」
「自分の身さえ守れない自衛隊!」
 そして、痛々しく流される被害者の映像やコメント。

 テロを許した日本の法律の不備と、対テロ対策の甘さを指摘する声は、ほとんど聞こえてこなかった。

 そんな中、直美は、拘置所の栄美に面会に行った……。
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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・15『知井子の悩み・5』

2019-08-27 06:14:40 | 小説5

小悪魔マユの魔法日記・15
 『知井子の悩み・5』 



「いつまで、親を待たせるつもりなんだ!」
 
 黒羽ディレクターは三十分遅れて、応接室に入ってきた。
「おじいさん、怒鳴っちゃいけません。また心臓が……」
 知井子が、心配そうに言った。
「なんだよ、この子たちは?」
「おまえからも、礼を言え。俺が地下鉄の駅で発作をおこして、死にかけているところを助けてくれたんだ」
「え、大丈夫かよ、オヤジ」
「礼を言うのが先だ」
「そうだな、どうもありがとう。ボクも地下鉄の入り口で、オヤジのこと待っていたんだけどね、急用で呼び戻されて。ほんとうに迷惑をかけたね、ありがとう」
「呼び戻されたなんて、白々しいことを。下手な言い訳をするんじゃない」
「ほんとうだよ、オヤジ……」
 黒羽は、言い淀んでしまった。ウソをついているからではない。父の発作に間に合わなかったことが後ろめたいのだ。マユは、黒羽が、おじいさんが思いこんでいるほど悪い人ではないと感じた。
「おじいさん、ほんとうです。おじいさんが来る、ちょっと前まで、地下鉄の入り口で、黒羽さん待ってらっしゃいました」
「ほんとうかね……」
「……あ、思い出した。角の店の前で、シャメ撮ってたよね。そっちのゴスロリの子に見覚えがある」
「この子たちはな、駅の階段で苦しんでいる俺を……そっちの子は、階段の下まで行って、腹這いになって、転んだ薬瓶を探してくれて、こっちの子は、薬を口移しで飲ませてくれたんだぞ」
「その服は、買ったばかりだろう」
「あ……いえ」
「ロ-ザンヌって店が、今朝、店先に出していたのを知っているよ。すまん、汚しちまったね」
「なんとか、してやれ」
 おじいさんが、息子を睨んだ。
 黒羽は、すぐに部屋の電話をとった。
「あ、マダム。HIKARIの黒羽です。今朝店先に出してたブリティッシュのゴスロリ、まだある……そう、よかった。ええと……七号サイズ。だよね?」
「え、ええ」
 知井子がうつむきながら言った。そんな黒羽父子のやりとりも爽やかで、マユは微笑んでしまった。

「ははは……というぐあいに、オヤジには叱られっぱなしだったよ」
 あれから、ローザンヌのマダムがきて、知井子は新品に着替えた。そして、近所の肩の張らない洋食屋さんで、お昼をごちそうになった。
「もう五年も、お家に帰ってらっしゃらないんですか?」
「ボクも、オヤジに言われて、初めて気がついたんだけどね。つい仕事が忙しくて……」
「楽しくて……なんじゃないですか?」
「し、失礼だよマユ」
「はは、マユちゃんの言うとおりだよ。キザに言うと夢を創る仕事だからね、楽しい夢からは、なかなか覚めない」
「で、お父さんが持ってこられたお見合いは……するんですか」
「それは、この業界の秘密。うちの所属の子たちも、恋愛禁止にしてるしね」
「そう、なんですか」
「で、お父さんは?」
「病院、念のためにね。ローザンヌのマダムが口説いてくれた。どうだい、よかったらカラオケでも」
「よろこんで!」
 知井子がのってしまったので、カラオケになってしまった……場所も最高級。HIKARIプロのスタジオ。

 まるで、普段のおとなしさを取り返すかのように知井子ははじけた。

 しまいには、研究生の子たちまで、いっしょになって、歌って踊り始めた。マユは、あぶない展開だと思ったが、こんなに楽しげな知井子は初めてなので、魔法で邪魔することもはばかられ、ヤケクソで知井子といっしょにはじけてしまった。
 ミキサーのブースで、黒羽がスタッフとなにやら話していることも気づいていたが、なんだか、このままの自然の流れがいいような気になった。
 これは、悪魔も、神さまも、むろんコニクッタラシイおちこぼれ天使の雅部利恵も関わってはいない。これが運命。自然な流れなんだと思った。

 案の定、二日後には、知井子のところに、HIKARIプロからオーディションのお誘いがきた。これはマユには想定内。
 ただし、家に帰ってみると、自分にも学校で見せられたのと同じお誘いが来ていたのは、想定外だった。

 そして、気づいた。この物語が始まって、一度も魔法を使わなかったことに……。

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高校ライトノベル:連載戯曲:ユキとねねことルブランと…… 4

2019-08-27 06:01:25 | 戯曲
ユキとねねことルブランと…… 4

栄町犬猫騒動記
 
大橋むつお
 
 
 
時  ある春の日のある時
所  栄町の公園
人物
ユキ    犬(犬塚まどかの姿)
ねねこ    猫(三田村麻衣と二役)
ルブラン   猫(貴井幸子と二役)
 
上手から、ユキを呼ばわる声がして、麻衣があらわれる。
 
麻衣: ユキ……ユキ……!
ユキ: ねねこ!?
麻衣: ちがう、ねねこじゃないよ。麻衣だよ麻衣!
ユキ: ……庭の木の下で骨になってるんじゃあ……
麻衣: それは、ねねこのハッタリよ。わたし、ねねこにブタの人形に変えられていたの。ほら、ねねこが首からぶら下げていた。
ユキ: あのブタの人形?
麻衣: ねこばけは、生きた人間を物に変えてそれを肌身離さず持っていることで、その人間になりかわれるの。化代(ばけしろ)っていうんだって。
ユキ: そうだったんだ……でも、よかった、生きていてよかった! 生きていてほんとうによかった!(抱きつく)犬の姿だったら、ちぎれるほど尻尾をふってるとこ!
麻衣: ハハハ、顔をペロペロなめたりすんのもカンベンね。
ユキ: うん、ほんとはペロペロしたいんだけどね。(今にもペロペロしそう)
麻衣: アハハ、あたしもちょっとハメをはずして、いいかげんな生活していたから……ねねこ、それを見て、うらやましくなったんだろうね。ねねこが、ねねこだけが悪いんじゃないんだ。
ユキ: でも、相当性格悪いよ、あの猫。
麻衣: うん、でも、子猫の時からいっしょだったからね。
ユキ: じゃ、一人と一匹で、いっしょに反省だ!
麻衣: はーい……で、そっちの方、まどかはまだ見つからないんだよね?
ユキ: うん……犬の国へ行っちゃったかな……
麻衣: あたしもいっしょに探すよ。まどか、方向オンチだから、きっとまだそのへんをウロウロしてるよ。
ユキ: ありがとう。
麻衣: あ、ルブラン!?(遠くに着替え終わったルブランを発見する)
ユキ: もう着替えたんだ……あいつ、全部知ってたよ。わたしたちがここにいることも、水鉄砲で撃っていたことも……あいつには、この水鉄砲の薬、効かないんだ……
麻衣: 当たってなかったんじゃないの?
ユキ: 当たってた。ここへ来て、自分でもそう言ってた。だから、服も着がえに行ったんだ。
麻衣: けたちがいの化け物なんだ……
ユキ: 遊んでるように見えてるけど、ああやって、猫たちの訓練してるんだ。
麻衣: 猫好きの女の子が遊んでいるようにしか見えないもんね……
ユキ: ねこばけを増やして、何かとんでもないことを企んでいるんだ……
麻衣: 革命とか、世界征服とかね……
ユキ: うん。 
麻衣: アハハ、あたし冗談で……
ユキ: ルブランならありえる。
麻衣: ……幸子はどこだろう……化代にして身につけてるはずだけど。その薬、ルブランには効かなくても、化代には効くって。男爵がそう言ってた。化代を幸子にもどせば、ルブランも化けていられなくなる。
ユキ: 持ち物もみんな薬でびしょぬれ、もう何も身につけていないよ。
麻衣: でも、なんかあるでしょ、ポケットの中とか……
ユキ: それはないよ。全身ビチョビチョだったから、隠して持っていても水びたしだよ。
麻衣: 携帯で、誰かとしゃべってる……
ユキ: 誰としゃべってるだろう?
麻衣: 意地悪な顔して笑ってる。あれは人をいたぶって喜んでる顔だよ。何をしゃべってるんだろう?……ねえユキ……ユキ……
ユキ: (目を開けたまま固まってる)
麻衣: ユキ、ちょっと……どうしちゃったのよ、ユキ! やだ、固まっちゃた……
ユキ: (麻衣が叩くと、金属音がする)
麻衣: ちょっと、ユキ! ユキ!
ユキ: ……大丈夫、ちょっと手ごろな奴に魂とばして、話を聞いてたの。
麻衣: そういうことは、ヒトコト言ってからやってくれる。びっくりするでしょ。で、誰とどんなことしゃべってたの?
ユキ: 幸子さんと話してたみたい……「あんたのふりしてんのも飽きてきた。そろそろ消えてもらおうか」とか言ってた。
麻衣: あいつは並のねこばけじゃない。RPGで言えば、ラストの大ボス! 特別に魔力が強いんだ……薬も効かないし、化代も身につけなくていいくらいに……幸子は、きっと、どこかに閉じ込められているんだ。
ユキ: 閉じ込めるって、どこへ?
麻衣: とりあえず、幸子の家。行ってみよう。
ユキ: 待って、何かがひっかかるの……
麻衣: ひっかかるって、何が?
ユキ: 何かが……
麻衣: 何かじゃしょうがないでしょ。早くしないと、幸子は消されちゃうよ!
ユキ: ……ねねこが言ってた、猫は携帯電話なんか持たないって……そうだよね?
麻衣: だから、あいつは並のねこばけじゃないって! 携帯使って世界の支配をたくらんでるんだ!
ユキ: ちょっと待ってて(水鉄砲を麻衣に渡し、下手に去る)
麻衣: ユキ……! ったく、何を考えてんだ……あ、携帯とった!
 
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高校ライトノベル・せやさかい・056『ヤマセンブルグ・2』

2019-08-26 13:42:39 | ノベル
せやさかい・056
『ヤマセンブルグ・2』 

 

 

 ヤマセンブルグの空港には驚いた!

 

 いや、空港そのものはエディンバラほどもないねんけど、その……お出迎えがね。

 レッドカーペットがタラップの下から敷かれててね、お迎えの人が二十人ほども並んでる。他にも一クラス分くらいの儀仗兵と軍楽隊みたいなの。

 それから、頼子さんのコスプレ。

 わたしの乏しいファッション知識ではワンピースとしか表現でけへんねんけど、堺東とか難波とかで見かけるワンピやない!

 ごく淡いピンクのワンピはノースリーブで、胸元には真珠のネックレス、かわいいティアラには本物やったら数千万円はするんちゃうかという宝石が付いてて、スカートの下にはごっついパニエが入っててフワフワ。そんで、飛行機から降りる寸前に、イザベラさんによって深紅の幅広タスキ。宴会とかで『本日の主役』とか、選挙の候補者が肩から掛けてる。あれぐらいの幅があるんやけど、グレードが違う。金の刺繍でデコラティブな文字……うちには読めません。右下の結び目には金色の房がユラユラ。でもって、胸元には赤と金色のバッジ? 勲章? 

 イザベラさんもロッテンマイヤーさんを偲ばせる黒のワンピで、胸元には缶バッジ……いや、なんか小さな勲章めいたもの。ソフィアさんは、同じデザインやけどエンジ系で、ヒルウッドの女性スタッフも同じ衣装。

 ジョン・スミス?

 ビックリした! パリ祭のパレードかいうようなコスで、ピカピカの胸だけのヨロイに、房の付いたヘルメット。手には肘まである純白の皮手袋に、同じ材質のブーツ。で、ゲームで見かけるようなレイピア(細身の剣)をぶら下げてる。

「すまん、国のエライサンが大のコスプレファンなんでな」

 ジョン・スミスの申し訳なさそうな目線の先に、わたしと留美ちゃん……ソフィアさんのに似たワンピを着せられてます。

『襟の色がちがいますでしょ?』

「あ、ああ」

 うちらのは襟が水色で、形も微妙に違う。

『お二人のは……』

 そのとき始まった軍楽隊の演奏で後ろ半分は聞こえへんかった。

 

 タラップを静々と降りると、ミリタリータトゥーの時みたいに儀仗兵の隊長さんが掛け声。ミリタリータトゥーで慣れてなかったら、ぶっとんでタラップから落ちてたよ!

 掛け声とともに儀仗兵さんたちがガシャっと捧げ筒! 軍楽隊の演奏でレッドカーペットの上を頼子さんに続いて歩く。

 出迎えの人らは、頼子さんと握手するねんけど、頭を下げたり小さく跪く姿勢をとったり、タキシードみたいなのに勲章ぶら下げたオッサンは、なんと、頼子さんの手の甲にキスしよった!

「あれ……」

 留美ちゃんが、小さな声で空港ビルを示した。空港ビルの屋上の手すりには大きな横断幕に『安倍政治を許さない!』ではなくて『お帰りなさいプリンセス! ようこそ日本のご学友!』と現地の言葉と日本語で書いたって、地元の小学生やらオッチャンオバチャンやらがヤマセンブルグと日本の国旗を打ち振ってる!

 頼子さん……プリンセス?

 あたしら……ご学友?

 

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・68〔Let it go? Let it be?〕

2019-08-26 06:48:07 | ノベル2
高安女子高生物語・68
〔Let it go? Let it be?〕
      


 試験の最終日は嬉しい!

 って、前にも言うたよね……学年末テストのときにも?
 で、二年になって最初のテストが終わった日も、やっぱり嬉しかった。

 出来はともかく。

 AMY(エイミー)三人娘は、試験の後エーベックス八尾まで『アナと雪の女王』を観にいくことにした。お父さんが友だちの映画評論家のオッチャンから招待券二枚もろてたから、一枚買うだけで三人が観られる!
 ビエラ玉造……ほら、前に紹介したでしょ。玉造駅にできた電車そっくりのモール。  
 そこでラーメン食べて(ここのクーポン券はゆかりが持ってた) ニンニク入れたかったけど、映画館に行くんやから辛抱。ラーメン屋を出るとビエラに入ってる保育所から保母さんらに連れられた子供らが、お手々繋いで散歩に行くとこにでくわした。

 うちらよりカイラシイ? それはカイラシさの次元がちゃいます。

 美枝が、熱い眼差しで見てたんが気になったけど、うちもゆかりも何にも言わへん。言うだけのことは言うた。あとは美枝が決めること……できたら思いとどまってほしいけど……。

 映画館は思うたほど混んでなかったけど、三人並んで座れる余裕はなかった。インジャンして、ゆかりとうちが隣り同士、美枝は一人になった。

 さすがジブリが負けるだけのアニメではある。キレイなだけと違て、ちゃんとメッセージがある。

 LET IT GO!

 受け止め方は人それぞれやと思うけど、うちには「自信を持て!」いうように響いた。似たような言葉に RET IT BE!がある。うちには同じ意味に聞こえた。リピーターの人もいてるようで、歌のとこになったら口ずさんでる人もいてた。けど、邪魔にはなれへんかった。きっと同じ感動を共有してるからやと思う。

 エンドロールが流れて客席が明るなった。超えた席同士で顔をみあわせたらAMY三人娘は、それぞれの思いで目ぇ赤うしてた。

 ロビーに出たら、ショックなもん見てしもた。
 
 ちょうどうちらと入れ替わりに、関根先輩と美保先輩が入ってくるとこ。うちのLET IT GOは、たちまち萎んでしもた。
「明日香、メール入ってるんちゃうん」
 無意識にマナーモードを解除したスマホを見て美枝が言うた。お父さんからやった。

――焼き芋買うたとこや。よかったら三人で食べにおいで。タクシー代はもったる――

「三人とも、なかなかええ映画の見方してきたみたいやな」
 お父さんが、二つ目の焼き芋をまるかぶりしながら粉振ってきた。
「LET IT GOに感動しました」
 美枝が真っ先に言うた。
「ほう、どんな風に?」
「このままの自分でいいんだ……そんなふうに励まされました」
「このままでええいうのは、奥の深い言葉やね。そう、LET IT BEとどない意味がちゃうと思う?」
「え、いっしょちゃうのん?」
 うちは思うた通り返事した。
「僕は、ちゃうと思う」
「どんなふうにですか?」
「『LET IT BE』は、ただ優しいに『そのままでいい』やけど、『LET IT GO』やるだけのことはやって、言うだけのことは言うて、その後に出てくる『そのままでいい』 河内弁で言うたら『ほっとけや!』になる」
 美枝とゆかりが、コロコロと笑った。
「この部屋、一昨日と微妙に違いますね……」
 美枝が、部屋を見渡した。
「ああ、うちのオバハンがちょっと片づけよった」
「この人形……」
 ゆかりがガルパンの人形をシゲシゲと見た。
「一昨日までの表情が無い……」
「一昨日までは、なんだかムッとしてました。今は携帯を手に、ただ無表情に顔背けてるだけ」
「ほんまは、こないなるねん……」
 お父さんが、ちょっと顔の向きを変えた。

「あ、変わった!」

「どんなふうに?」
「なんだか携帯にイヤなメールが来て、ムッとして『ほっといて!』になりました」
「そう、これが『LET IT GO!』や」

「なるほど!」二人の声が揃った。

 うちには、その違いがよう分からへん。
「お母さんに、そない言うとうたるわ。勝手に片づけるなて」
「そら、言わんでええ。あいつには分からへん」

――だってさ――

 人形が、そう言ったような気がした……。
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高校ライトノベル・須之内写真館・40『護衛艦 かが』

2019-08-26 06:35:57 | 小説・2
須之内写真館・40
『護衛艦 かが』        


 今度の仕事は乗り気がしない。

 理由は二つ。
 
 第一に護衛艦の一般公開の取材であること。直美は自衛隊に偏見はない。知り合いの退官した新島さんなんかは、自衛官としても人間としても尊敬している。だけど、メカとしての自衛隊の装備には興味はなかった。
「メカを撮れるオタクはいくらでもいる。ナオちゃんには人間的な側面から撮ってきて欲しいんだ。キュ-ポラのある街角とか、福島の路上ミュージシャンとか良かったよ。ナオちゃん自身キュ-ポラや音楽に興味があったわけじゃないだろう。人間的な目線こそが、ナオちゃんの得意分野だろ」
 こう言われては断れない。また、仕事をえり好みできる立場でもない。

 相棒が付いた。鈴木健之助という軍事オタクのカメラマン。

「専門的な絵は、オレが撮るから、ナオちゃんはスナップとるような気楽さで撮ればいいよ」
 ハンドルを握りながら、この一言から、少年とオッサンを足して二で割ったような(けしてオニイサンではない)オタクの講義が始まった。

 『かが』は『あかぎ型護衛艦』の二番艦。全長270M、26000トンの巨体にオスプレー13機、対潜ヘリ8機搭載のデカ物。ここまでは分かった。アスロックがどうたら、ハープーンのシースキミングがどうたらは、もうお手上げである。

「うわー、大きい!」

 直美の第一声である。子どものように単純。
「こりゃ、『あかぎ』とは別物だな……」
 鈴木のオタク的感想は、直ぐに観察にかかった。
「フェイズドアレーが、微妙に小さい……スペック向上か? スパローの数が多い……まずは甲板の……」
 鈴木は、飛行甲板を手でコツコツ叩いた。
「なに、ノックしてんですか?」
「音がね、『あかぎ』と微妙に違うんよ。ねえ砲雷科の一曹さん」
 鈴木は、近くにいた乗組員に訊ねた。
「そうですか、自分は砲雷科なんで、よく分かりませんが」
 直美は、この一曹さんがとぼけていることは直ぐに分かった。
「カタチは『あかぎ』といっしょだけど、あちこち違いますね。第一の違いは甲板の材質。F35の搭載に耐えられる仕様じゃないんですか?」
「ハハ、そんな高度な装備計画は、わたしみたいなペーペーには分かりませんよ」
 と、ソフトに一曹はごまかした。
「あのオスプレイには、ニックネームとかないんですか?」
 これは、直美の質問。
「ああ、まんまだと『みさご』になるんですけど、我々は『アホウドリ』と呼んでます。上の方からはイメージ悪いって言われてます。みなさんで、なにかいい名前考えていただければいいんですけどね」
「ですよね、今までのヘリよりもうんと安全なんだから、でも、いまだに、ああやって反対する人たちっているんですね」
 鈴木が、波止場に目を向けた。百人ほどのデモ隊が、オスプレイ反対の横断幕を張っていた。反対デモと見学会が同時にできるのは、日本の自由と平和の現れなのかもしれない。A新聞と放送局が、できるだけデモ隊が多く見えるようにカメラワークを工夫しているのが可笑しかった。

 直美は、ここから一人で撮影することにした。鈴木といっしょでは、互いに迷惑になりそうだから。

 甲板の端に目立たない黒いダイビングスーツを着た乗組員がいることに気づいた。素人目でも分かる。万一転落者などが出たら、すぐに対応できるようにしているんだろう。カメラを向けると白い歯を見せて笑ってくれた。
「気が付いてくれたんですね」
「そうやって、一日中ですか?」
「いいえ、二直制で交代してます。右舷のブリッジの陰と艦首と艦尾にもいますんで撮ってやってください」
「ええ、そうさせてもらいます」
 直美は、お勧めのフロッグマンを三人撮影。途中広い甲板で駆けっこする子どもたちや、大の字に寝っ転がっているオジサン。端っこの方で、護衛艦をデートスポットにしているアベックなどを抜け目なく撮った。直美は、あくまでも人間観察の目線での撮影である。
 艦載機用のエレベーターにも乗ってみた。思いの外速い。全艦載機を発艦させるのに15分で出来ると聞いて納得。
「今の説明よく聞いた『15分以内』って、言ったんだぜ。実際はもっと早いんだろうなあ」
 気づくと、鈴木がいっしょになっていた。鈴木は、そのまま艦内に入っていったが、直美は、そのまま甲板に上がった。
「あ、A放送だ」
 さっきまで、デモ隊を撮っていたA放送が、取材のために乗艦してきた。

 そのクルーたちに、直美は微妙な違和感を感じた……。




 これは実在の護衛艦『かが』が竣工・命名される前に書いたもので、実在の『かが』とは関係ありません。

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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・14『知井子の悩み・4』

2019-08-26 06:28:15 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・14
『知井子の悩み・4』 


 
「マユ、あったわ!」

 知井子が群衆の中から、這うようにして薬の小瓶を探してきた。
「あ、ありがとう」
 おきて破りの蘇生魔法を、あじいさんに施していたマユは、戒めのカチューシャに頭を締め上げられ、気絶寸前だった。
「おじいさん、このスポーツドリンクで……」
 しかし、発作が3分近く続いているおじいさんは、自分で薬を飲む力もない。
「それ、寄こして!」
 マユは、知井子からスポーツドリンクを取り上げ、口に錠剤を含み、口移しでスポーツドリンクごと飲ませた。

 おじいさんは、しばらくすると、息も整い、元気になった。
「だいじょうぶですか、なんなら救急車よびますけど」
 今頃になって、駅員さんがやってきた。
「それには及ばん、この子達のお陰で助かった」
「でも……」
「いいと言ったら、いい!」
 おじいさんが睨みつけると、駅員さんはスゴスゴと行ってしまった。
「すまんな、こんなジジイに、口移しで飲ませてくれたんだね、キミもせっかくの洋服を汚させてしまったなあ」
「あ、いいんです……こ、これ、オバアチャンのお古ですから」
「お古に、タグが付いているのかなあ」
 知井子のゴスロリにタグが付いたままだということに、マユは初めて気が付いた。

「じゃ、わたしたち、ここで……」

 マユと知井子は、息子さんが勤めているというビルの前まで、やってきていた。おじいさんもピンシャンしているので、もういいだろうと思ったのだ。
「それじゃわたしの気が済まん。息子にも君たちに礼を言わせたい」
 というわけで、マユと知井子は、そのビルの三階まで付いていくことになった。

 エレベーターのドアが開いて、二人は驚いた。
 目の前が、HIKARIプロの受付になっていた。
 HIKARIプロと言えば、東京、大阪、名古屋などにアイドルユニットを持って、急成長のプロダクションだった。
「黒羽を呼んでくださらんか」
 タバコでも買うような気楽さで、受付のおねえさんに言った。
「黒羽と申しますと……」
「チーフプロデューサーとかをやっとる黒羽だ」
「あの、失礼ですが。アポは……」
「わしは、黒羽の父親だ!」

 黒羽英二……マユも知井子も驚いた。黒羽英二と言えば、HIKARIプロの大黒柱、今売り出し中のアイドルユニット生みの親。そして、マユには分かった。さっきまで、地下鉄の入り口で人待ち顔で立っていた、プロデユーサーであることに……。
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高校ライトノベル:連載戯曲:ユキとねねことルブランと…… 3

2019-08-26 06:11:51 | 戯曲
ユキとねねことルブランと…… 3

栄町犬猫騒動記
 
大橋むつお
 
 
 
時  ある春の日のある時
所  栄町の公園
人物
ユキ    犬(犬塚まどかの姿)
ねねこ    猫(三田村麻衣と二役)
ルブラン   猫(貴井幸子と二役)
 
 
ユキ: ……子供が寄ってきた。
ねねこ: ちっ……子供は猫好きだからな。急いだ方がいいか……
ユキ: 子供たちがあぶないの?
ねねこ: いいや、子供に危害を加えることはないと思う……ただ、仕事がしにくくなる……
ユキ: 仕事?
ねねこ: お願いというのは(背中の水鉄砲をはずす)こいつで、あのルブランを撃ってほしいんだ。
ユキ: え……?
ねねこ: 見てのとおりの水鉄砲。ただし、中に薬が入ってる。
ユキ: 薬?
ねねこ: 猫の事務所からもらってきた「化猫を猫にもどす薬」
ユキ: え?
ねねこ: 天誅さ、天にかわって幸子の仇をうつ。同じ猫仲間として許せない。あたしは正義の味方猫ねねこ!(決めポーズ)
ユキ: ほんと?
ねねこ: ほんと。ね、お願いお願い、お願―い!
ユキ: でもでも、ルブランがもとの猫にもどって急に幸子さんがいなくなったら、幸子さんのお父さんやお母さん、きっと悲しむわよ。
ねねこ: 心配ない。今度は、あたしが幸子に化けるんだから。
ユキ: え、え……じゃあ、麻衣ちゃんの方は?
ねねこ: あたしの体は一つっきゃないのよ。
ユキ: じゃあ……
ねねこ: 二ヶ月もやったんだから、もうたくさんでしょ。
ユキ: でも、麻衣ちゃんのパパやママが……
ねねこ: まどかの魂は、探せばもどってくる。でも死んだ麻衣の魂がもどってくることはありえない、あたしが化け続けるのは、人の道にも、猫の道にもそむくことになる……むろん神様にも……(胸に十字を切る)家出したってことにする。ね、見かけもケバイねえちゃんになったから、家出くらいしたって、ちーっとも不思議じゃないでしょ。
ユキ: それって……
ねねこ: 死体を掘りおこして見せるよりましじゃん、でしょ……家出なら生きてるかもって……希望も持てるし……あたしの体は一つっきり! いろんな人をたすけようと思ったら、わりきらなきゃしょうがないでしょうが!
ユキ: あなたって人は……(ねねこの本心を見抜いている)
ねねこ: フフフ……思ったほどバカじゃないみたいね……そうよ。あたしは、なにも人だすけのためだけに化けてるんじゃない。楽がしたいの。おもしろおかしく生きていきたいの。それには、不自由な猫の体でいるよりも猫よりずっと気ままに生きてける人間の女の子になった方が……でしょ? そして、中産階級の三田村麻衣よりも、ブルジヨアの貴井幸子になった方が、何万倍もぜいたくできるじゃん! でしょ? だから鞍替えすんのよ鞍替え……待ちな……! どこへ行こうってのさ。ここまで聞いたら逃げらんないよ。もう、あんたはあたしの奴隷。妙な真似したら、あんたが犬だってバラすよ。体はまどかでも、頭はワンコ。さっき、電柱の横で思わず足が上がりかけたでしょ? 悲しむでしょうねえ……まどかのお父さんお母さん、娘が犬畜生だって知ったら……さ、早くこの水鉄砲を持って!
ユキ: 自分でやればいいでしょ!
ねねこ: できるくらいなら頼みはしないわよ。この薬は、猫が打ったんじゃ効き目がないの。さ、早く!(水鉄砲を渡す)
ユキ: だめよ、距離があるし、子供たちや他の猫たちもいるし……あ、鬼ごっこ。
ねねこ: ち……鬼ごっこなんかすんなよ、こんなところで……
ユキ: 無理だよ。
ねねこ: 悲しませる気か……自分を拾ってくれたお父さんやお母さんをををををを……よーくねらえ……今だ! どこをねらってる、左! いや、右!
ユキ: えい! はずれた……
ねねこ: 伏せろ! こっちを見てる……チャンス、今度はルブランが鬼だ!
ユキ: えい!
ねねこ: バカ、距離を見こんで撃たないか。銃口を上げて……上げすぎ!……右、左、遠すぎ! ちがう、そっちそっち、前だ! 前!(興奮しすぎたねねこが、ついユキの前に出てしまう)動いた、右、左、今だ! 
ユキ: えい!(あやまって、前に出すぎたねねこを撃ってしまう)
ねねこ: う……どこをねらってる……!?
ユキ: わざとじゃないよ、ねねこが前に出ちゃうから……
ねねこ: う……く、苦しい……猫の姿にもどってしまう……ユ、ユキのバカヤロー!(もがきつつ上手に去る)
ユキ: ごめん、だってねねこが……ねねこ……あ、猫にもどっちゃった……動かない……死んじゃったのかなあ……
 
いつの間にかルブランがラクロスのスティックを手にあらわれている。
 
ルブラン: 気絶しているだけよ。ほっとけばいい、あんな未熟者。そのうち目が覚めてどこかへ行くでしょう。
ユキ: ……
ルブラン: ルブランでいいわよ。知ってるんでしょ、わたしのこと? あなたの射撃、ねねこが言うほどには下手じゃなかったわよ。犬にしておくにはもったいないくらい。おかげで服も持ち物もびっしょびしょ。
ユキ: ……!?
ルブラン: 効かないのよ、わたしには。
ユキ: だって、ねねこは……
ルブラン: あんな下等な化猫といっしょにしないで。あいつは、ただ人に化けて、いい思いがしたいだけ……わたしは違うのよ。猫のエリートを育て、その子たちを人間に化けさせて……そこから先は、ヒ、ミ、ツ……ホホホ……じゃ、また町内の猫たちの訓練をしようっと。あなたたちには、ただの鬼ごっこにしか見えないでしょうけどね……おっと、その前に、濡れた服を着替えなくっちゃね。バキューン(ラクロスのスティックでライフルを撃つ真似をする)今度邪魔したら、許さないからね(去る)
ユキ: ……あいつ、全部知ってんだ……
 
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