大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・063『舞鶴沖』

2019-08-25 14:40:30 | 小説

魔法少女マヂカ・063  

 
『舞鶴沖』語り手:マヂカ  

 

 

 空港からバスと電車を乗り継いで、舞鶴まで二駅と言うところで気配が濃厚になってきた。

 手負いの魔法少女、石見礼子だ。

 

 罠かもしれない。

 

 思ったが口にはしなかった。ブリンダも同様で、むっつり黙ったまま港を目指して歩いている。

 横須賀では亜世界とでも言うべき時空の狭間で戦った。戦場になったS女学院は亜世界に顕現した幻影だったが、この舞鶴においても亜世界で行われるとは限らない。現に、リアル世界の護衛艦と空母は被害を受けているのだ。

――リアルで戦いになったら、海に誘い出そう――

 舞鶴は北に向かって海が広がっている、左右から追い立てるようにすれば海に逃げざるを得ない。問題は眷属どもだが、今のところ礼子以外の気配は無い。

 角を曲がると交差点、それを渡れば赤レンガ倉庫街……。

 居た。

 礼子は、横断歩道の向こう側で、まるで――待っていたわよ――というような微笑みさえ浮かべて立っていた。

「クソ」

 逸ったブリンダが歩みを進めようとすると――赤信号よ――口の形で言って、頭上の信号を指さした。

 横須賀の時と違って、ロシア娘という姿だ。

 ナリこそは、ジーパンに白のカットソーというありきたりなのだが、露出している肌は抜けるように白く、サラサラのプラチナブロンドに見え隠れする瞳は青みを帯びた灰色、それが濃密にロシアのオーラを放ってるのだ。

 舞鶴はロシア人も珍しくない、擬態としてもおかしくは無い。

 いや、擬態ではあるのだろう、奴の両腕はブリンダといっしょに切り落としてやったものな。

 

 信号が青に変わった。

 

 え?

 青信号が、礼子の瞳と重なった。いや、はっきりと礼子の瞳だ。

 呑み込まれる……横断歩道に足を踏み入れた途端に、礼子の世界に引きずり込まれそうになる。

 足元にパルス地雷でも仕込まれていたら無事では済まない!

 

 ズドドドドーーーン! ズガガガン! ズドドドン! ズッキューーーン!

 

 両翼から弾が飛んできた! 

 山ほどの水柱が巨大なキノコのように何十本も立ち上がり、数万本の光るアイスキャンディーが交錯する。

 くそ、フェイクだったか!!

 互いを蹴飛ばすようにして散開、並んで立っていては格好の的になるだけだ。

 魔法少女達は、手に手に得物を持って追随してくる。速度的にわたしたちを凌駕する者はいないが、数が多い上に先手を取られている。一人から逃れると三人が待ち受けているという具合で、めちゃくちゃ不利だ!

 死中に活を求める! 肉を切らせて骨を切る! 陳腐な慣用句が浮かんでくる。司令が言ったのなら鼻で笑ってやるが、この状況では笑えない。

 トゥリャーーーーーーーー!!

 差し違える覚悟で目前の魔法少女に突っ込む。

 敵の放ったパルス弾が数百の単位で身を掠める、数十発は身を削っていくだろう。

 怪我は仕方ないかも、しかし、先週買ったばかりのワンピがダメになるのが悔しい。手負いの礼子を見届けるだけ、罠かもしれないという思いはあったが、どこかでタカをくくっていた。

 セイ!

 眷属の魔法少女を蹴飛ばして、その勢いで礼子にアタック!

 ビュン!

 礼子は、両手で構えたパルスブレイドを振りかぶった。からくも直撃はかわしたが、その風圧で数十メートル波の上を吹き飛ばされた! しまった、機雷原に誘導されたあああああああああ!

 ドガドガドガドガガガガガガガーーーーーーーーン!

 立て続けの弾着と炸裂! 一歩踏み出して避けるが、無事では済まない……。

 

 しかし、踏み出した足は横断歩道の白いゼブラを踏むことも、機雷を炸裂させることもなかった。

 

 そこは、穏やかな海の上だ。

 

 後ろに見えるのは舞鶴の山並みだぞ。ブリンダが状況を把握する。

「せめて幻でも勝てたらとね……」

 優しいまなざしで礼子が手を広げる。お互いに、波の上三十センチくらいの高さに居るようだ。

 まるでVRの世界のようだが、波のうねりに合わせて体が上下している。亜世界か? 異世界か? 次元の狭間か?

「リアルの舞鶴沖よ。でも、もうリアルに戦う力は、わたしには無い」

「……なにをしようと言うの?」

「114年前、オリヨールが、ここまで来た時にユーンク艦長は事切れて水葬にされたの」

「そうか、海戦の後、拿捕されて舞鶴に回航されたのよね」

「戦艦石見は横須賀でおしまい、オリヨールとして、ここでおしまいにする。幻影でもあなたたちにトドメをさせなかったしね……ロシア艦隊の船霊(ふなだま)は安息を求めているの……むろん、魔法少女に変化(へんげ)して、最後まで戦いを挑む者も多いと思うけど、それを忘れずにいて欲しいから……立ち会ってもらったの……わざわざ、ありがとう」

 礼子……いや、オリヨールが微笑むと、彼女の背後に白い夏の軍服を着た艦長が現れ、やさしくオリヨールの肩に手を添えたかと思うと、二人そろって海に沈んでいった。

 気が付くと、横断歩道を渡り切ったところに立っていた。

 

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・67〔今日はうちで、お勉強会〕

2019-08-25 06:39:02 | ノベル2
高安女子高生物語・67
〔今日はうちで、お勉強会〕
       


 テストも残すところあと二日。

 で、今日は、うちの家でお勉強会。みんなも経験あると思うねんけど、こういう勉強会は、勉学的には、あんまり意味がない。けっきょくワイワイ喋って、それでお終い。

 せやけど、うちは、この「ワイワイ喋ってお終い」が必要やと思う。
 美枝のためにも、ゆかりを入れたうちら三人のためにも。たしかに一昨日はカラオケ行って、プリクラ撮って、友だちらしいにはできた。
 現状維持としては……互いに仲良そうにしてる仮面友だちとしては。
 せやけど、いざという時に一歩踏み出せる友だちであるためには、今、オチャラケではない三人の時間が必要やと思た。

「アホな明日香のために、頼むわ!」

 そない電話して、明日香のためならしゃあないなあ……そない思て電話したら、二人とも、あっさりOK。
「それ、ぜったいええわ。やろ、やろ!」これはゆかりの弁。
 ゆかりは美枝に言うだけのことは言うてる。けど、そのために付き合いが表面的になってしもてるのを気にしてる。カラオケやってても分かった。二人の仲の良さは不自然なくらいやった。あれは友だち慣れした見せかけの友だち。二人ともそれ誤魔化してるのんがもどかしい。
 そこを、新参者のうちがアホ役買って出て勉強会いうのは、我ながらええアイデア。

 正直いうと、例の正成のオッサンの入れ知恵やけどね。

「うわー、ええ部屋やんか!?」
 ゆかりが声をあげた。
「こんなオモチャ箱みたいな部屋好き!」
 美枝も賛同。

 今日は、一階のお父さんの部屋を借りた。

 三階のうちの部屋は両親の寝室と襖一枚で隣り合わせ。当然襖締めならあかんけど、この季節、三階は冷房が必要。それに、なにより部屋の片づけせんとあかん。で、お父さんに頼んだら二つ返事でOK。お父さんは久々に八尾まで出て映画でも観るらしい。

 とりあえず、二人が持ってきたお土産の回転焼きを食べた。

「ここ、お父さんの部屋?」
「うん。それぞれの部屋で住み分けてんねん」
「ふうん……まあ、勉強には適してるね。窓ないし、玄関ホール挟んでるから外の音も聞こえてけえへんし」
「ここは、元ガレージやってん。うちが赤ちゃんのころにジジババ引き取ること考えて二世帯住宅にしてん。お父さんは、ずっと二階のリビングで仕事してたけど、ジジババ亡くなってからは、お父さんの仕事場」
 今日は、真ん中の座卓の上のもん、みんな部屋の隅に片づけてもろてた。

「あ、ええもん置いたあるやんか!」
 ゆかりが置き床に置いたある『こち亀』の亀有公園前派出所のプラモに気ぃついた。
「これ、お父さんが作らはったん?」
「あ、うち、子どもの頃『こち亀』好きやったから、せやけど、うち中学いくころには興味なくなったさかい、未完成のまま置いたあるねん」
「うわ、入り口動く。パトチャリまで置いたある。きれいに色塗ったあるねえ」
「あ、これヘンロンのラジコン戦車。お兄ちゃんも一個もってるわ」
 うちは、当たり前すぎて気ぃつかへんかった。おとうさんのガラクタ収集癖は昔から、隣の部屋はお父さんの物置。その部屋通らんと二階へは上がられへんから、二人は、まだ見てへん。それを言うと美枝が目ぇ輝かせて「見せて!」言うた。

「うわー、まるでハウルの部屋みたい!」
「ハウル?」
「ジブリの『ハウルの動く城』やんか。あのハウルの部屋みたい」

 うちは、いっつも、この部屋はスルーしてるから、改めて見るとゴミの中にもいろいろある。百ほどあるプラモの中には、実物大の標本の人間の首。それもスケルトン。これが何でか南北戦争の南軍の帽子被ってる。
 美枝が発見した棚の上には、1/16の戦車がずらり、あと航空母艦やら戦艦大和やらニッサンの自動車、飛行機、その他エトセトラ。で、周りの本箱には1000冊ほどの本がズラリ。うちが小学校のとき借りて読んでた『ブラックジャック』と『サザエさん』は全巻並んでた。
「すごい、これ、ホンマモンの鉄砲ちゃうのん!?」
「うん、本物らしいよ。無可動実銃いうらしいねんけど、キショクワルイよって、隅のほうに置たある……それは宮本武蔵の刀のレプリカ……その黒い箱はヨロイが入ってる。あ、足許気ぃつけてね。工具とかホッタラカシやから怪我するよ」
「「スゴイスゴイ!」」
 二人で、同じ言葉を連発してた。
「まあ、ちょっとは勉強しよ」
 きりないんで、うちは切り上げを宣告。元の部屋に戻ると、また発見された。

「いやあ、なに、このリアルに可愛らしいのんわ?」

 それは仏壇の横で小さく体育座りしていて、うちは気ぃつかへんかった。
「あたし、知ってる。1/6のコレクタードールや。これ、ボディがシームレスで、33カ所も間接あって人間みたいにポーズとれるんよ」
 物知りのゆかりが、目を輝かせて言った。

 その子は制服らしき物を着て、知的で、心なし寂しげだけど。見ようによっては和ませてくれる……せやけど、うちは恥ずかしかった。仮にも妻子持ちのオッサンがこんなもんを!?

「アハハ、ガールズ&パンツアーや!」

 美枝が玄関ホールで声をあげた。
「この段ボール、1/6の戦車模型のキットや。お父さん、これに、その子乗せるつもりなんちゃう?」
 ああ、もう顔から火が出そう……。
「いや、うちのお父さんは本書きで、その……ラノベとか書いてるよってに、その資料いうか、雰囲気作りに……」

「明日香……お父さんの作品て読んだことあるのん?」
「え?」
 美枝の指摘は、スナイパーの狙撃にあった間抜けな女性情報諜報員のようやった。
 あたしは、生まれてこの方、お父さんの本を読んだことがない。たまに、作品を書くために、うちらの世代の生活のことなんか聞いてくる。分かってる範囲で答えるけど、たいがい「分からへん」「そんなん人によってちゃう」とか顔も見んと邪魔くさそうに返事するだけ。

「ここは、ハウルの部屋やで……」
「隣の部屋は、もっと……」

 もう、たいがい死んでるのに、まだ撃ってこられるのはまいった。

「よかったら、これ読んだってくれる。お父さんの本」
 あたしは、クローゼットから、お父さんの本を取り出した。
「うわー、こんなにあるん!」
「あ、印税代わりに出版社から送ってきた本。お父さん印税とれるほど売れてないし。まあオッサンの生き甲斐。あんたらみたいな現役の高校生に読んでもろたら、お父さんも喜ぶ」

「ありがとう」と、ゆかり。

「せやけど、まずは娘のあんたが読んだげなら……」

 で、午前中は、お父さんの本の読書会になった。
「お父さんて、三つ下の妹さんがいてはってんね……」
 短編集を読んでいたゆかりが言った。
「この子三カ月で堕ろされてんねんね……」
 美枝がトドメを刺す。

 うちは初耳やった……いや、言うてたのかもしれへんけど、うちはええかげんに聞いてただけかもしれへん。

 痛かったけど、有意義な勉強会やった……。
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高校ライトノベル・須之内写真館・39『風ひかる』

2019-08-25 06:25:30 | 小説・2
須之内写真館・39
『風ひかる』
        


 子犬のファンタは見違えるくらい大きくなっていた。

 今日の直美は、ヒカリプロの会長の家にやってきている。
 住み込みのアイドル候補生の杏奈と美花が、甲斐甲斐しくパーティーの用意の手伝いをしている。
「あんたたち、怪我は治ったの?」
「はい、捻挫と……」
「肋骨のヒビだけでしたから」
 二人は、レコード大賞のとき、受賞者の大石クララと服部八重が、ステージの階段を踏み外し、あわや大惨事になるところを二人で体ごとクッションになって名誉の負傷を負ったのである。しかし、それも癒えたようで、じゃれつくファンタをいなしながら、要領よくデビュー記念パーティーの用意をしている。

 デビュー記念パーティーと言っても、杏奈と美花ではない。主役は壁にかかっていた。

「もう三十年になるんですなあ……」
 いっしょに呼ばれた父の玄一が呟いた。壁の写真の主は、三十年前にデビュー直後に亡くなった宮田弘子であった。
「事故だったんですよね」
 直美が、気を遣って、先回りをした。
「いいや、わたしが死なせたんだ」
 ヒカリ会長が、穏やかに、でもキッパリと言った。

 玄一は、思い出していた。

 三十年前、ヒカリプロ期待の新人宮田弘子が亡くなった。事務所前で、迎えの車を待っているときに、急に車道に飛び出し、車に跳ねられて亡くなった。事故説と自殺説の両方が流れたが、結論は出ていない。
 ただ、ヒカリ社長は「自分が死なせた」と思っている。
 三十年前の今日デビューして、桜の花が満開になった四月の八日に亡くなっている。
「早くデビューさせすぎたんでしょうなあ……ここで杏奈や美花と同じように同居させて、全てを分かったつもりでデビューさせたんですが……」
「伝説の新人でしたね。デビュー二か月でオリコン一位『風ひかる』は、発表と同時にレコード大賞の下馬評でしたなあ」
「十七歳で、あの変化と人気……ついていけなかったんだと思ってます。わたしも弘子のデビュー後は構ってやれませんでした。マンションで一人住まい。心のバランスがとれなくなってしまったんでしょう……弘子のことは一生忘れません。でも、ケジメはつけようと思いましてね」

 暗くて痛い話は、玄一にしかしなかった。

 用意ができると、ヒカリ会長と奥さん、杏奈と美花、玄一と直美、そしてファンタの六人と一匹でパーティーになった。会長中心にオッサンとオバハンの馬鹿話と思い出話。理解できないところで、若い三人の間の抜けた質問。

――こういうことを、弘子にはしてやらなくっちゃいけなかったんだ――

 会長は、やりきれない想いでいたが、おくびにも出さず、ただただ明るかった。
「一つ発表がある」
 いきなり会長が立ち上がった。
「だいじょうぶですか、あなた?」
 奥さんが気に掛けるが、本人は入っているアルコールの割には正気である。
「杏奈と美花を四月にデビューさせる。デビュー曲は『風ひかる』だ」
「え、宮田先輩の……!?」
 美花が素っ頓狂な声をあげる。杏奈は驚きで声も出ない。
「アレンジはするけどな。二人とも弘子に誓え。必ずヒットさせるって! そして、二人はデビュー後も、一年間はここで暮らす。いいな!」
「は、はい!」
 二人の声が揃う。

 ここまでに、直美は百枚以上の写真を撮っていた。そして、パーティーの終わりに、テーブルを片づけ、弘子の写真を真ん中にして記念写真。これは、デビュー後の最初のアルバムとプロモに使う。

「四月八日には、正式な弘子の三十回忌を事務所でやる。でも、それは外向き。本当の記念会は今日だ!」
 会長が、そう言って、最後の乾杯をした。
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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・13『知井子の悩み・3』

2019-08-25 06:19:08 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・13
『知井子の悩み・3』


 マユは、ホッとした。

 このイケメンニイチャンのナンパを、しつこいと思っているオーラを感じていたのだ。

 地下鉄の入り口あたりで、人待ちをしているオジサンだ。小悪魔のマユには、そのオジサンがHIKARIプロのプロディユーサーであることも分かっていた。

 マユの魔法が、もう三十秒も遅ければ……。

「きみ、ちょっとしつこいよ」と、オジサンが声をかけてくる。で、知井子の可愛さと才能を一発で見抜き、プロダクションの名刺を渡す。
「よかったら、一度電話ください」ということになる。知井子はHIKARIプロのプロディユーサーであることと、その人の人柄の良さで、電話し、あっと言う間に、アイドルへの階段を上り始めることになる。
 
 その人は、ひとまずイケメンニイチャンの口がチャックをかけたように静かになったので、安心して、わたしたちから興味を失った。
――やった!
 マユは、オチコボレ天使の利恵が開いた運命の道を閉ざせたと思えた。気楽になったマユは、知井子の注文通り、写真をバシバシ撮ってやった。
「これくらいで、いいんじゃない?」
「うん、でも、この街角ステキだから、あと、もうちょっと」
「はいはい」
――おっと、またプロディユーサーさんがこちらを見ている。ちょっちヤバイ。
 
 そのときHIKARIプロのプロディユーサーさんは、コールがあったらしくスマホに出た。
「……分かった、すぐに戻る」
 どうやら、プロダクションからの電話のようで、プロディユーサーさんは、地下鉄の入り口をちょっと覗いて、数十メートル先、プロダクションの入っているビルに、足早に戻っていった。
――やりー! これで運命の扉は完全に閉じられた。
「よし、じゃ次は原宿、竹下通りに繰り出すか」
 知井子の開放感は、見ているだけで嬉しかった。

 地下鉄の入り口を下って、階段の踊り場で、ちょっと人だかりがしていた。たいていの人は、ちょいと見るだけで通り過ぎていく。
「なんだろ?」
 踊り場の内側なので、すぐ側に降りてみるまで分からなかった。
「……あ!」
 知井子とマユは、同時に声を上げた。

 踊り場の壁を背にして、おじいさんが荒い息をしてうずくまっていた。
 階段を上り下りする人たちは、一瞬気には留めるが、群集心理「誰かが助けるだろう」と思って通り過ぎていく。
「おじいさん、どうしたの大丈夫!?」
 知井子が駆け寄った。
 心臓発作だ。マユには、すぐに分かった。
「……す、すまん。鞄に薬が……」
「わ、分かった、これね」
 知井子は、素早くカバンを開けて薬の小瓶をとりだした。
「そ、それ、二錠……」
 知井子は、素早く小瓶を開けようとしたが、パニくっているのだろう、蓋を右に回している。
「うーん、開かないよ……!」
「ばか、こっちに寄こして!」
 マユが手を伸ばして、小瓶を受け取ろうとしたとき、ちょうど階段を駆け下りてきた女の子の足が当たった。
「あ、ごめん」
 女の子は、言葉だけ残して、駆け下りていった。
「だれか、その薬を!」
「お願い!」
 マユと知井子は同時に叫んだ。
 小瓶はプラスチックなので、割れることはなかったけど、コロンコロンと階段を落ちていき、たちまち、人混みの中に見えなくなってしまった。
「あ、ああ……」
 おじいさんが、絶望の声をあげる。マユは、通り過ぎる人たちが、できそこないの悪魔のように思えた。
「わたし、探してくる!」
 知井子が、階段を駆け下りた。
 おじいさんの唇から血の気が失せていく。
 マユは、静かに呪文を唱えた。
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……」
 マユは、小悪魔には許されていない、蘇生魔法(レイズ)の呪文を唱えているのだ。
 むろん、マユは初めて。おまけに修行中であるために、戒めのカチューシャがキリキリと頭を締め付けてくる……。

 つづく
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高校ライトノベル:連載戯曲:ユキとねねことルブランと…… 2

2019-08-25 06:07:48 | 戯曲
ユキとねねことルブランと…… 2

栄町犬猫騒動記
 
大橋むつお
 
 
 
時  ある春の日のある時
所  栄町の公園
人物
ユキ    犬(犬塚まどかの姿)
ねねこ    猫(三田村麻衣と二役)
ルブラン   猫(貴井幸子と二役)
 
 
ねねこ: それにしても、うまく化け……(ぐるっと、ユキのまわりを一まわりして、おぞけをふるう)……その体はまどかそのもの……ユキ、おまえ、まどかに憑いたね……!?
ユキ: ちがう、それはちがう!
ねねこ: なにがちがう。人間の目はごまかせても、あたしの目はごまかせないよ。
ユキ: ……だれ、あなた……そういうあなたこそ、三田村麻衣じゃないわね?
ねねこ: フフフ……にぶい犬だ、まだ気がつかないのかい?
ユキ: ……!?
ねねこ: ねねこよ、あたし。
ユキ: ねねこ……!
ねねこ: そんなバイ菌を見るような目で見ないでくれる。あたしは、コソドロみたいに人の体をのっとったりはしないわ。これは、わたしの磨き上げたテクニックで変化(へんげ)した、芸術品ののような三田村麻衣の姿よ。
ユキ: ねこばけ……
ねねこ: ありがとう。名誉ある称号をおぼえていてくれて。犬は間抜面して尻尾ふるしか能がないけど、あたしたち猫は、たとえ飼主であろうと媚をうらず、独立自尊の風を失わず。その化学(ばけがく)は、時に、狸や狐をもしのぎ、その変化(へんげ)の術は、人で申さば人間国宝、匠のきわみ。なかんずく、このねねこは遠く鍋島猫騒動のねこばけの嫡流。エスタブリッシュの頂点……なんて、むつかしい言葉を並べても、犬の頭じゃ理解できないわね。
ユキ: どうして、麻衣ちゃんに化けているのよ?
ねねこ: 言ったでしょ、バイ菌見るような目で見ないでって。ねこばけの値打のわからない下等動物とは口もききたくない……と他の犬なら、そう言って後足で砂をかけておしまいだけど。ほかならぬ、今は亡き主の親友の飼犬ちゃん……
ユキ: 今なんて言った……今は亡き……?
ねねこ: そう、今は亡き……麻衣ちゃん、死んじゃったのよ。
ユキ: うそ……
ねねこ: ふた月ほど前の夕暮れ時、コンビニに行こうと、急に家の前にとび出した麻衣ちゃんを、トラックが……即死だった……おり悪しく、ちょうどたばこ屋の角を曲がって、お母さんが帰ってくるのと同時……とっさに、あたしは麻衣ちゃんの亡骸を隠し、大あわてで麻衣ちゃんに化けたの……それからふた月、お父さんやお母さんの悲しみを思うと、もとのねねこの姿にもどることもできず、悲しい変化(へんげ)を続けているの……
ユキ: 麻衣ちゃんは……?
ねねこ: 庭の桜の木の下。猫の魔法で瞬間移動させて……今、静かに土に還りはじめている……
ユキ: そんな……麻衣ちゃんが……
ねねこ: 麻衣ちゃんが死んだって知ったら、麻衣ちゃんのパパとママは、どんなに悲しむことか……それを思うと夜も眠れず、変化のストレスも重なって……あたし、近ごろナーバスなの……
ユキ: なんてこと……ふた月も前から……だから、まどか、あんたのこと敬遠してたんだ……一番の親友だったのに……どうせ化けるんだったら、もう少し……性格とか、もっと麻衣ちゃんらしく……
ねねこ: 姿形はともかく性格まではね……ところで、ユキはどうして、まどかの体にとりついたりしてんのさ?
ユキ: ……
ねねこ: 言っちゃいなよ。あたしは全部ゲロしちゃったんだから、今度はユキの番だよ。
ユキ: 今朝……目が覚めたら、入れ替わっていたんだ……
ねねこ: 今朝?
ユキ: まどかって、時々、心ここにあらずって顔してる時があるでしょ。
ねねこ: うん、よくボーっとしてるよね。
ユキ: あれって、ほんとに心がないんだよ。
ねねこ: え?
ユキ: 体から、魂が抜けて、フワフワしてんの。そういう時、わたしも時々、まどかの体の中に入ったりしていたの。
ねねこ: え、ユキって、そんなことができるんだ!?
ユキ: うん、子犬のころから、「あ、この人って何考えてるんだろう……」そう思うと、ふうっと相手の中に入れたりしたんだ。
ねねこ: そうなんだ。
ユキ: もっとも、ほかの犬や人には嫌がられることが多くて……それで、犬の国を出てきちゃったんだけど……
ねねこ: え……ユキって、犬の国出身なんだ。
ユキ: うん、そうだよ。この妙な癖がなかったら、とっても住みやすいところ……でも他の犬には内緒だよ。この町の犬は、犬の国の出身てだけで白い目で見るんだから……
ねねこ: うん、わかった……そいで、どう。まどかの体に入って、どんな具合?
ユキ: うん、表面はいい子ぶってるけど、実際は不安と不満だらけの子なんだ。そのひずみが、体のあちこちに出ていて……今も、肩と腰にエレキバンはってんの……
ねねこ: ハハハ……
ユキ: 入試のことも気になってるみたいで……胃にもきてんの……ゲップ……ごめん。
ねねこ: で、まどかは、犬のユキの姿で町をうろついてるんだ……
ユキ: ひょっとして、犬の国へ行ってしまったのかも……昨日、携帯で犬の国の友だちとしゃべっていて……とてもなつかしくって……それを聞いて、行っちゃったのかも……まどかって、すぐに人のことうらやましく思っちゃうから……
ねねこ: 犬が携帯もってんのか!?
ユキ: もってるよ。犬は淋しがり屋で仲間意識が強いから。人間にはわからないように、骨の形とかしてるんだ(見せる)
ねねこ: ふーん……ほんとに骨にしか見えないね……
ユキ: 猫は携帯とか持たないの?
ねねこ: もたない。趣味じゃないのよ、そういう携帯とかでベタベタした関係……
ユキ: 猫って……
ねねこ: 性にあわないんだ。嫌いって言ってもいいよ。べつに好かれようなんて思ってないから。でも、ユキのことは友だちって思っているよ。だから、こんなにいろいろ話をするんだ。
ユキ: 友だち? わたしは思ってないけど。
ねねこ: でも、あたしは思ってんの!
ユキ: 猫って、勝手……きっと(下心が)……
ねねこ: で、友だちとして、一つお願いがあるんだけど……
ユキ: ほらきた。
ねねこ: ほら、あそこ。茂みのむこうのベンチに、幸子がいるでしょ、貴井幸子。
ユキ: え……うん。
ねねこ: 二年B組のタカビーちゃん。制服姿は、わたし達平民といっしょだけども、彼女、貴井建設の社長のお嬢さん。
ユキ: え、貴井建設って、テレビでコマーシャルとかやってるゼネコンの!?
ねねこ: そう、高速道路とか、空港とか、バンバンつくって儲けてる。
ユキ: でも、幸子さんの家って、普通の家だよ。失礼だけど、社長さんて感じじゃあ……
ねねこ: 本宅は、田園調布にあるんだよ。去年、親子げんかして、とび出してきたんだ。ほら、一年の秋ごろ転校してきたでしょ。
ユキ: ……でも、そんな高ビーのお嬢さんがこんな公園で日向ぼっこする?
ねねこ: 庶民をヘイゲイしてんのよヘイゲイ。わかる? 人を見下して喜んでんのよ。
ユキ: まさか……おだやかに半分目をつむって……まるで猫のお昼寝という感じだよ。
ねねこ: そう、猫のお昼寝なんだよ、猫の……
ユキ: ……!?
ねねこ: わかった?
ユキ: まさか……
ねねこ: そう、あいつも猫。幸子が飼ってたルブランて猫。卒業まぎわに、また転校するって噂。それでピンときて調べてみたら……ルブランに入れ替わっていたってわけ。あいつ、田園調布にもどって、あらんかぎりのぜいたくをしようって腹よ。
ユキ: ……悪い猫……で、本物の幸子さんは?
ねねこ: 殺されたか、食われたか……
ユキ: ええ!?
ねねこ: ……猫が寄ってきた……二匹……五匹……どんどん増える。
ユキ: みんな町内の飼猫だ……
ねねこ: 手なずけてんのよ。きっと田園調布まで連れてって、手下にするつもりでしょ……
 
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高校ライトノベル・せやさかい・055『ヤマセンブルグ・1』

2019-08-24 15:38:32 | ノベル
せやさかい・055
『ヤマセンブルグ・1』 

 

 

 エディンバラを離れる飛行機の中に居てる。

 と言っても、夏休みが終わって日本へ帰るわけではない。第二の訪問地ヤマセンブルグに向かっているところ。

 

 じつは、こっちが本命なんや。

 

 おとついの晩御飯で頼子さんが口を開いたのは、イザベラさんがデザートを運んできた時。

 いつもは通訳見習いにしてエクソシストにしてお世話係のソフィアさんがやってくれてる。それがイザベラさんなんで、あたしらもアレ?って感じはした。

 イザベラさんが英語でも日本語でもない言葉で頼子さんに言うと、頼子さんも同じ言葉で返事した。

「あさって、エディンバラを離れてヤマセンブルグに移動します。ちょっと窮屈な旅になるかもしれないけど、新鮮な旅になることは確かだから、期待してちょうだい」

「「は、はあ……」」

 留美ちゃんと二人でたよんない返事になる。

「ヤマセンブルグというのは、どんな国なんですか?」

 留美ちゃんが素朴な質問をする。

「ヨーロッパには公国と言って、王国に準ずる国がいくつかあるの。モナコ公国とか知ってるでしょ? その一つよ。わたしにはね三つの国籍があるの、日本とイギリスと、ヤマセンブルグ。お父さんがイギリスとヤマセンブルグの国籍を持ってる関係でね。で、夏休みに間にどうしても立ち寄らなくちゃならなくて、ごめんなさい、ちょっと付き合ってくださいね(o^―^o)」

 頼子さんの笑顔(o^―^o)には有無を言わせない力がある。阿弥陀さんがお迎えに来たら、きっとこんな笑顔やろなあと思う。

 空港で待ってた飛行機はプライベートジェットとは違ごた。ふたまわりは大きいクリーム色のジェット機で、胴体にはドラクエに出てきそうな紋章が貼り付いてて、パイロットもジョン・スミスとは違う人。

「この機体の操縦免許は持ってないんでね」

 そう言いながら、ソフィアさんやイザベラさんといっしょに飛行機に乗り込んだ。他にもヒルウッドのお屋敷のスタッフも何人か乗り込んで賑やかになるかなあ……と思ったら、機内はいくつかのキャビンに分かれていて、わたしと留美ちゃんは頼子さんといっしょに○○○○キャビンに。○○○○と伏字になってるのは「キャビンの位置が分かる書き方はしてはいけません」と言われたから。

「なんでですか?」

「ミサイルは、このジョン・スミスにも防げないからね」

 これはただ事やないなあ……。

 そう思てると、イザベラさんの耳打ちで頼子さんが目を剥いた。

「え、ドレスコードがあるの!?」

 ドレスコード? どんなコードや?

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・66〔初公開 うちのプリクラ!〕

2019-08-24 06:48:53 | ノベル2
高安女子高生物語・66
〔初公開 うちのプリクラ!〕
    


 
 妊娠はせんとき……それが精一杯やった。

 カレができたいうくらいで、キャーキャー騒ぐ女子高生の世界で、美枝の話は飛躍しすぎてた。
 恋愛、体の関係……ここまでやったら、なんとか話のしようもある。

 せやけど、その相手が義理とは言え兄妹。それも手早く子どもつくって、既成事実を作ろとしてる。
 そんな美枝を、どう受け止めて、なに言うたらええのんか、ぜんぜん分からへん。

 うちの頭の中では「お兄ちゃんは、男の欲望を、お手軽な義理の妹ですませよとしてる」そんな平凡で薄汚い感想しか湧いてけえへん。
 そう思たら、美枝は、そっくりそのままの、うちの気持ちを言い当てよった。
「好きな相手がいてたらHしたなるのは普通や。単なる欲望からかどうか言うのは、いっしょに居てたらよう分かる。お兄ちゃんは、先のことまでしっかり考えてる。自分にあたしを養える甲斐性。始まったばっかりのあたしの青春。親に言うタイミング。せやけど、あたしは別のこと感じる。今しっかりしとかんと、お兄ちゃんとは一生兄妹のまんまや。それに、子どもが欲しいいうのは、あたし自身の切実な気持ちやねん。明日香やゆかりには分からへんやろな……あたしはお父さんとしか血のつながりがない。お兄ちゃんはお母さんとだけ。で、お父さんとお母さんは、もともと再婚同士の他人。あたしは確かな家族が欲しい。あたしに子どもができたら、子どもを通して、みんながほんまの家族になれる」
「美枝は、家族のために子どもが欲しいのん?」
「ちゃう。ほんまのほんまは、好きな人の子どもが欲しい。当たり前の女の気持ちや。その上で、うちの家族が仮面とちゃう、ほんまの顔で向き合えるようになったら、最高やん。ううん、生まれてくる子どものためにも、あたしらはほんまの家族になっとかならあかんねん、あかんねん!」

 もう言う言葉あらへん。ただ美枝の一途さが、哀れで、羨ましかった。

「ああ、胸の中吐き出したらすっきりした。おおきに明日香。明日のヤマはバッチリやさかいね!」
 便秘のCMに出られそうなくらいスッキリした顔で、美枝は行ってしもた。

 ほんで、今日のテストはバッチリやった。美枝のヤマハリは偉いもんや。これで自分の気持ちの確かさを間接的に示そとしてるのは……うちの当たりやとおもう。
 明日はテストの中休みなんで、ゆかりと美枝と三人でミナミに出てはしゃいだ。カラオケで二時間。うちは可愛らしい『フォーチュンクッキー』四回ぐらいかけて、三人で歌って踊った。AKBのナンバーやら、モモくろなんか。やっぱりこのへんは、普通の高校生。
 ただ、ラストで、美枝が『前しか向かねえ』で閉めたんは意味深やった。

 それからプリクラを撮りに行った。

 うちは一年のときは、親しい友だち居てなかったよって、みんなでプリクラなんかは中学以来。
 プリクラもたった一年ちょっとで大進歩。一回の撮影で、アップ・ななめ・全身・コラージュの四種類を体験できる。一回400円やけど、三回も撮ってしもた。

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高校ライトノベル・須之内写真館・38『キューポラのある街・2』

2019-08-24 06:39:59 | 小説・2
須之内写真館・38
『キューポラのある街・2』         


「あんた、雑誌社の人?」

 作業着のお爺さんが近づいてきた。深く刻まれた皺、節くれ立った手。いかにも昔ながらの職工の感じ。
「A出版の嘱託です。お爺さんは、古いんですか、この工場?」
「いや、今日が初めて」
「え……?」
「なんか勘違いしてんね。ボクは役者だよ。この工場取り壊すんで、関東テレビで、特集。そのドキュメンタリーだよ」
「え、あ、じゃ、それじゃ……」
 直美には、話が見えてこない。
「ボク『キューポラのある街』で、職工のちょい役で出てたの。予算少ないから小百合ちゃんに来てもらうわけにもいかないから、動員がかかったってわけ」
「あ、そうなんだ」

 ようやく分かった。

「撮影は、もう終わったんですか?」
「撮影どころじゃないんだよ」
「え……」
「取り壊し反対の市民運動の人たちが来ちゃってさ。今、そこの公民館で、市とうちのロケ隊と、市民運動の人たちと話し合いの真っ最中。ボクは苦手だから、ここで待ってるんだ」
「そうなんだ。いろいろややこしいんですね……しかし、どう見ても本物に見えますねえ」
「そりゃ、もう撮影から四十七年だよ。ボクみたいな大部屋、いつまでも役者じゃ食えないからね。普段は大道具やってんの」
 道理で、節くれ立った手をしているはずだ。
「役者は廃業ですか?」
「やってるよ。気持ちの上では、そっちが本業だからね。もっとも、ほとんどエキストラだけどね」

 直美は惜しいと思った。黙って、そこにいるだけで人生を感じさせる役者は、そういるもんじゃない。

「今でも映画専門なんですか?」
「ハハ、映画専門の役者なんて、大物でもいないよ。市川 右太衛門の息子だって犬の声でCMに出る時代だぜ」
「ハハ、そういやそうですね」
「今度は、久々に台詞のある役だったんだけどね……」
「え、すごいじゃないですか!」
「ナリが東野英二郎に似てるもんでね。再現ドラマにはおあつらえ向き……あ、失礼。つい喫ちゃった」
 お爺ちゃんは、火を付けたタバコを持て余した。
「いいですよ、そのまま」

 直美は、十数枚写真を撮った。

「撮ってくれるのは嬉しいけど、一応仕事で来てるからさ、事務所のOKとらなきゃ使えないよ」
「採用になったら、編集から電話させてもらいます」

 そのとき、四十七年前の吉永小百合がセーラー服で駆けてきた。反射的に写真を撮ってしまう。

「あ、お早うございます」
 吉永小百合が、アイドルのような声で挨拶した。

「孫の小夏です。役者のタマゴ、今回は吉永小百合役」
「そうなんだ、そっくりね!」
「メイクさんの腕です」
「この子は、もう三十年早く生まれてりゃ、スターになれたんですけどね。かわいい孫だけど今風じゃない」
「フフ、どこで、どんなキャラが流行りになるなんか分からないわよ」
「そうね。あたしも、そう思って売れない写真撮ってんの」
「ハハ、売れない者同士か」
「お祖父ちゃん、撮影は中止だって」
「ほんとかよ?」
「工場の取り壊しを前提にした撮影はしないって、さっき決まったとこ」
「そうかい……」

 すると、そこに別のロケ隊がやってきた。花かごをぶちまけたようにアイドルグループの女の子たちがロケバスから降りてくる。

 新曲のプロモの撮影に、この工場を狙っていたようで、あらかじめキャンセルを狙って待機していたようだ。直美は、改めて、この業界のスサマジサを感じた。

 老優のお爺ちゃんは、その後二度とカメラの前に立つこともなく、一カ月後に脳溢血で帰らぬ人になった。
 孫の小夏は、あのアイドルグループのオーディションに合格。見事研究生になった。

 ブログで見た小夏の顔には、あの時の吉永小百合の片鱗も無かった。

 まあ、時代なんだ……そう思う直美であった。
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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・12『知井子の悩み・2』

2019-08-24 06:30:34 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・12
『知井子の悩み・2』


 知井子が決心をした。

 たいそうな決心ではない。この半年近くで、身長が五センチも伸びたので、新しい服を買いに行く決心をしたのだ。
 縦には成長したが、横には、それほどに成長していなかったので、服はずっとそのままでいた。しかし、さすがに持っているミニスカートがマイクロミニになりかけて、階段の上り下りに気を遣うようになった。で、思い切って服を買い換えることにしたのだ。

 まずは制服だった。毎日着る物なので、これが最初になった。
「入学の時、少し大きめのを買ったのにね」
 知井子のお母さんは、そう言いながらも制服を買い直してくれた。不足そうな言い方だったけど、娘の成長は嬉しい。単に身長が伸びたことだけじゃなくて、何事にも自信を持ち始めたことが嬉しいのだ。
「他の服も買い直さなくっちゃなあ」
 お父さんが、嬉しそうにお小遣いをくれた。

 マユは知っていた。落第天使の利恵がかけた白魔法が効いてきたのだ。片岡先生の事件の前に、利恵が知井子のコンプレックスを知って、お気楽にかけた白魔法。
 オチコボレ小悪魔のマユは、知井子が魔法で身長を伸ばして得る自信はにせものだと思った。知井子の身長が伸びると、知井子は自分でも思いもかけない苦労をしょいこむことを知っている。だから対抗して、知井子の身長が伸びない黒魔法をかけたが、結果は、半年で五センチも背が伸びるという、育ち盛りの小学生並の成長になった。
 利恵は、思ったほどに知井子の背が伸びないことに、やや不満。マユは自分の黒魔法が利恵に勝てなかったことが不満。
 実際のところは、オチコボレ天使と小悪魔の魔法は相殺されて、知井子の背が伸びたのは、あくまでも自然な成長であった。影響があったとすれば、英語の片岡先生が、メリッサ先生と恋人同士になるドラマチックな展開を目の当たりにしたことであろうか。

 マユには見えていた。街に服を買いに行ったら、どういう展開になるか(小悪魔マユの魔法日記・3『知井子の悩み』に書いてある)
「ねえ。知井子、明日いっしょに街に出ない?」
 マユの方から声をかけた。知井子は沙耶や里依紗もいっしょ行きたかったが、あいにく二人は検定試験で出かけられない。むろんマユはそれを見越して、声をかけている。未熟な小悪魔であるマユは、人数が多いと、これから起こる問題をさばききれないからである。

「ねえ、キミお茶しない?」

 イケメンくずれのお笑いタレントのようなオニイサンが声をかけてきた。
 多少くずれていてもイケメンである。知井子は人生で初めて、男の人に声をかけられた。中学生のとき、ディズニーランドでスタッフのオニイサンが「迷子になったの?」と声をかけてくれたのを例外として。

――予想通りだ。

 ゴスロリの店で、知井子は思い切って服を買った。あたりを歩いているヒラヒラのゴスロリではなく、シックな二十世紀初頭のイギリスのお嬢さんのように見えた。

「いいえ、けっこうです」……とは言えなかった。
 なんせ、人生で初めてオトコから声をかけられたのである。で、ディズニーランドのスタッフのオニイサンではない。
「え……あの、あの……」
 知井子は、後の言葉が続かない。このままではイケメンの軽いナンパに引っかかってしまう。
 マユは、知井子自身に断って欲しかった。でも、予想通り、知井子は声も出せない。
「だからさ、気楽に、そっちの子もいっしょにさ」
 あきらかに、ついでに言われていることにむかついて、マユは、ヒョイと指を横に振った。

 とたんに、イケメンの口は閉じたチャックになってしまった……。

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高校ライトノベル:連載戯曲:ユキとねねことルブランと…… 1

2019-08-24 06:06:30 | 戯曲
ユキとねねことルブランと……
栄町犬猫騒動記
 
大橋むつお
 
 
時  ある春の日のある時
所  栄町の公園
 
人物
ユキ    犬(犬塚まどかの姿)
ねねこ    猫(三田村麻衣と二役)
ルブラン   猫(貴井幸子と二役)
 
闇の中、猫たちの無秩序で無統制な声々しばらく続く。「おだまり!」とルブランの凛とした一声で、水を打ったように静かになる。同時に、舞台明るくなる。舞台は栄町の公園。中央に、この町の高校二年生、貴井幸子の姿をしたルブランが、舞い散る桜吹雪の中、猫達(姿は見えない)を睥睨している。
 
 
 
ルブラン: おまえたち、いいかげんにしないと三味線の皮にしちゃうよ!(猫達のしょげた声)
 
ルブランの携帯が鳴る。手にしたラクロスのスティックを持ちかえ、腰につけた大そう立派なケースから、美しい携帯を出す。同時に猫達に「あっちにおいき」とあごでしゃくる。猫達の気配ほとんどなくなる。
 
ルブラン: ……いいこと、あなたはわがままだったのよ。どうしようもなくね。因果応報、むくいよ……だめ! 今ごろ泣きごと言ったって。恨むんだったら、自分を恨みな。人のことをちっとも考えない。自分の気持ち、欲望だけ。最低だったわよ!! そんなあなたに、終止符を打ってあげたの。エンドマークを出してあげたの。反省……? しても遅いわよ。もう人間として生きていく資格なんかなし! 世界のためにも、これしかないの! これからは、わたしがやるわ。あなたに代わって……そう、泣けばいい、わめけばいい。もう誰にも聞こえやしない。そうやって、自分の愚かさとみじめさを思い知るがいい! ホホホ……じゃ、またお話しましょ。これからは何度でもいたぶってあげる。もう少しあなたの心をえぐってやりたいけど(人の気配を感じて)じゃ、またね……。
 
携帯のスイッチを切り、上手方向に目線を残しながら下手に去る。二三匹居残った猫が「ニャー」と後を追う。いれかわりに、同じ高校二年生の犬塚まどかの姿をしたユキが、声をひそめ、まどかを探しながらあらわれる。
 
ユキ: まどか……まどか…………まどかったら……どこ行っちゃったのよ。まどか……たまんないよ、ほんとに……まどか! たのむよまどか……どうすんのよ、こんなになっちゃって……まどか! 冗談じゃないわよ……お願いまどか。出てきてまどか……出てきてちょうだい、まどかあ……
 
同様に、同じ高校二年生の三田村麻衣の姿をしたねねこがあらわれる。背中に大きな水鉄砲を背負い、腰にチャラチャラとひかりもの、鞄を手に、首にブタの人形を下げている。
 
ユキ: まどか……まどか……(ねねこに気づき)ユキ、ユキ……どこにいるの、犬塚さんちのユキ……
ねねこ: なにやってんの?
ユキ: あ、麻衣……いつからそこに?
ねねこ: ついさっき。公園の前を通ったら、まどかの姿が見えて……何か探してんの? ひょっとして……
ユキ: ユキ、ユキ探してるの。目が覚めたらいないの。庭の柵が開いていたから、一人で散歩に出かけちゃったんじゃないかと思うの。
ねねこ: それは心配ね。まだ子犬なんでしょ?
ユキ: うん、一才ちょっと……人間でいえば、わたしたちくらいかな。
ねねこ: へえ、もう一才過ぎたんだ。
ユキ: 小柄な子だから……でも、雑種のノラ犬、賢い子だからそう心配はないと思うんだけど……。
ねねこ: へえ、ユキってノラだったんだ。
ユキ: お母さん、動物嫌いのくせに見栄っ張りだから、紀州犬だって言ってるけど。ほんとは、お父さんが酔った勢いで、この公園で拾ってきたの。
ねねこ: そうなんだ。
ユキ: で、けっきょく、わたしがユキの世話係ちゅうわけよ……おーい、ユキいいいい……
ねねこ: まどか、今日は、ちょっと久しぶりだよね?
ユキ: そう……?
ねねこ: このふた月ほどは、ろくに顔もあわせてないよ。
ユキ: そう? だったらごめん。
ねねこ: ひょっとして、麻衣のこと敬遠とかしてる?
ユキ: ううん……たまたま。
ねねこ: たまたま?……はっきり言いなさいよ。そういうずるい言い方嫌いだし、あたし。ほら、また目線が逃げる。何か思ってる証拠。かまわないから、はっきり言って。
ユキ: えと……じゃ、このごろ麻衣、変わっちゃったりしてない?
ねねこ: あたしが?
ユキ: うん……派手になったつうか、お化粧とかもしてるし、ジャラジャラひかりもんとかぶら下げてるし……それはいいんだけど、学校でも、よく居眠りとか、ちょっと気むつかしくなった感じ……?
ねねこ: ふーん……
ユキ: はっきり言えっていうから……気ィ悪くしたらごめんね。
ねねこ: ううんいいよ、気にしてないから。あたしもいっしょに探してあげようか?
ユキ: いいよ、そんな……
ねねこ: いいよ、探してあげるよ、行方不明のまどかのこと……
ユキ: え……!?
ねねこ: 実は、ずっとさっきから、あんたのことはわかっていたのさ。あんたの探しているのは、犬のユキなんかじゃない。人間のまどかだ! どうだい、違うかい? 犬塚まどかさんちの飼犬のユキさんよう……
ユキ: キャイーン……!
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高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・062『秘密基地』

2019-08-23 15:36:44 | 小説

魔法少女マヂカ・062  

 
『秘密基地』語り手:マヂカ  

 

 

 一度通り過ぎてから周囲をうかがう。

 光学迷彩をかけてあるので、秘密基地に入るところを気づかれることは無い。周囲の防犯カメラには十秒のブラフをかましてあるので、たとえ映像を撮られていても、ポリ高の女生徒が公園外周の角を曲がったとしか認識されない。

 しかし、昔の探偵アニメのようにカッコよく警戒してから迷彩ゲートを潜ることにしている。

 こういう遊びが無くては魔法少女はやっていられない。

「そうでしょ、だったらぼく達にも慣れてくださいよ」

 そう言って、テディ―一号が湯呑を置いてくれる。

「テディ―に偏見はないけど、こういうことは人型アンドロイドにならないかなあ。なんだか遊園地のパーラーみたいで、何を飲んでも甘く感じてしまう」

「テディ―は汎用アンドロイドなんだから、機能的にはなんの問題もない」

 テディ―は二頭身半の縫いぐるみの姿で、基地のスタッフなのだが、同じ姿かたちなので、背番号の数字で区別している。テディ―達が使う椅子や道具も、それに合わせてあり、保育所かなんかの遊戯室のようなのだ。もし、テディ―達に合わせるとしたら、こちらはキティーちゃんにならなければバランスが取れない。

「これだけの秘密基地つくる予算があるんだったら、アンドロイドくらいなんとかなるでしょ」

「防衛費はGDP1%の枠がはめられているので余裕がない。なんなら、わたしがメイドの格好でもして給仕してやろうか」

「いえ、司令は司令の仕事だけしていて欲しい……」

 

 横須賀で石見礼子を撃破して以来、この二週間あまり緊急出動が無い。毎日下校の途中で基地に寄るようにしているが、少々ダレてきてはいる。

 

「そういえば、石見礼子は、我々のことを『ふそう魔法少女隊』とか言っていたが、ふそうとはどういう意味なのだ?」

 ちょうど入ってきたブリンダが、通学カバンをテディ―三号に預けながら言う。

「ふそうとは、こう書く」

 司令がボードに『扶桑』と書いた。

「日本の美称でな、ここ一番という時に使う。例えば、わが国初の超ド級戦艦を『扶桑』と名付けたようにな」

「国は、ここを『扶桑基地』とは呼ばないなあ」

「最上級の美称を付けるのはためらわれたんだろう」

「なら、将来は『扶桑』という基地ができるということなのか?」

 それには答えずに、司令は別の事を言った。

「石見礼子は、まだ生きている」

「え? オレとマヂカで両腕を切り落としたんだぞ」

「知っているだろ、奴には『石見』としての姿と『オリヨール』としての姿がある。生きていても不思議ではない」

「司令、舞鶴司令部から通信です」

 テディ―二号が通信文を持ってやってきた。

「……舞鶴で、石見礼子が目撃された」

「出動かな?」

「ああ、今回も二人で行ってくれ」

「了解、ところで二号」

「なんですか、マヂカ?」

「おまえがメイド服を着てもしかたないんだからな」

「ちぇ、気に入っていただけると思ったのにい」

 

 ブリンダとともにオブジェに跨ろうとしたら「飛行機で言ってくれ」と注文がついた……。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・65〔女子高生甘う見たらあかんよ〕

2019-08-23 06:47:21 | ノベル2
高安女子高生物語・65
〔女子高生甘う見たらあかんよ〕



 
 遠くから見たら女子の他愛ない会話に見えたやろと思う。

 実際うちの話は他愛もなかった。総合理科のテストがガタガタやったいう話、自業自得。
 けど、美枝の話は違た。

 学校を辞めるかもしれへんいう話。これだけでもすごいのに、本題は、もっとすごい。
 義理のお兄ちゃんと結婚したいという、とんでもない話。

 美枝のお父さんとお母さんは再婚同士。で、互いの連れ子がお兄ちゃんと美枝。美枝が小学校の六年生、お兄ちゃんが中学の三年生。お互い異性を意識する年頃。それが親同士の再婚で兄妹いうことになってしもた。家族仲良うなれるために、お誕生会やったり家族旅行も気に掛けて両親はしてくれたらしい。で、二人ともええ子やさかい、仲のええ兄妹を演じてきた。

 それが、いつの間にか男と女として意識するようになった。

「あたしが、16に成ったときにね、お兄ちゃんが言うてん。ミナミでうちのお誕生会やったあと『美枝にプレゼント買うたるから、ちょっと遅れて帰る』お父さんとお母さんは、安心してあたしらを二人にしてくれた。店二三件見て、大学生としては、ほどほどのアクセ買うてくれた……」

「美枝、ちょっとお茶でも飲んでかえろか」
「うん」
 あたしは気軽に返事した。心斎橋の雰囲気のええ紅茶の専門店。そこの半分個室になったような席。うちらが行ったら、店員さんがリザーブの札どけてくれた。お兄ちゃんは、最初から、その店を予約してたんや。あたし嬉しかった……けど、あんな話が出てくるとは思えへんかった」
「16言うたら、親の承諾があったら結婚できる歳やねんで」
「ほんま? あたしは、せいぜいゲンチャの免許取ることぐらいしか考えてなかった」
 それから、しばらくは、お互い大学と高校の他愛ない話しててん。ほんなら、急に二人黙ってしもて、お兄ちゃんは、アイスティーの残りの氷かみ砕いて、その顔がおもしろうて、目ぇ見て笑うてしもた。あたしは妹の顔に戻って話しよ思たら、お兄ちゃんが言うねん『美枝。オレは美枝のことが好きや』」
 その言葉の響きで分かった。妹としてやないことが。
「……それは、ちょっとまずいんちゃう。あたしら兄妹やし」
 なまじ良すぎる勘が、あたしの言葉を飛躍させた。お兄ちゃんはその飛躍をバネにして、一気に本音を言うてしもた。
「義理の兄妹は結婚できる」
 あたしは、頭がカッとして、なんにも言われへんかった。それからお兄ちゃんとの関係は、あっという間に進んでしもた。
 連休の終わりに、明日香とラブホの探訪に行ったやんか。あれ、下見。明くる日、お兄ちゃんと、もういっぺん行った。ズルズルしてたら、ぜったい反対される。あたしは、お兄ちゃんとの関係を動かしようのないもんにしたかった」

「そんなんして、高校はどないするつもりやったん?」
「どないでもなる。出産前の三カ月は学校休む」
「せやけど……」
「よその学校の例を調べてん。在学中の妊娠出産はけっこうあるねん。私学は退学させることが多いけど、公立は、当事者が了解してたら、どないでもなる。そのことを理由に退学はさせへん」
「そんな、うまいこといく?」
「あかんかったら、学校辞めて大検うける。そこまで、あたしは腹くくってる」
「ゆかりは、知ってんのん?」
 美枝の固い決心に、言葉がのうて、うちはゆかりのことを持ち出した。
「ゆかりは、反対や。でも自信がないよって、明日香に相談できるようなとこまでもってきてん」
「え、そのために……!?」

 うちは、ショックやった。頼りにはされてんねんやろけど、混乱の方が大きかった。
――手ぇ握ったれ――
 正成のオッサンが、急に呟きよった。
「うちは、美枝の味方やで」
「ありがとう!」
 美枝は、つっかえが取れたように泣きながらうちに抱きついてきた。

 うちは、美枝のことを全部引き受ける気になってきた。

 美枝のお兄ちゃんに、最初に言う言葉は決まってた。
「女子高生甘う見たらあかんよ……」

 そのとき頭がクラクラしたんは、中庭いっぱいに満開になったバラのせいばかりやない。

 しかし、どこかで力抜かなら、うまいこといかへん。うちは、美枝から明日の試験の山を教えてもらうことで、なんとか心のバランスをとった……。
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高校ライトノベル・須之内写真館・37『キューポラのある街・1』

2019-08-23 06:35:58 | 小説・2
須之内写真館・37
『キューポラのある街・1』         


 どっちにする、と聞かれた。

 編集のシゲさんが、山下公園の写真を見ながら言った。
「この氷川丸描いてる爺ちゃんいいね……」
 直美が悩んでいる間にも、シゲさんは、掲載する写真を選んでいる。選びながら、次の仕事を振ってくる。プロとは言え器用なもんだ。
「編集の器用さに感心してても、仕事は進まないぜ……」
 見透かされたように言うシゲさん。ま、実際その通りだけど。

 仕上がった写真を持ってくると、二つから一つの仕事を選ばされた。

 一つは、成城にあるお屋敷の取り壊し。もう一つは川口にある古い工場の取り壊し。
「消えゆく昭和」というようなことがコンセプトのようだ。

「昭和ってのは、一筋縄じゃいかない時代だからな……」
「川口にします」
「じゃ、いい絵を頼むよ」
 それで川口と決まった。理由は、シゲさんの姿に職人を感じたから。けして良い意味じゃない。
 直美の写真なんて、記事の挿絵みたいなもんで、巻頭グラビアなんかになるもんじゃない。印刷も悪く、こうやって実物の写真を持ち込む必要なんかない。メールの添付で十分なんだけど、シゲさんは、自分で焼いた写真を持ってくるとを仕事の条件にしている。
 最初は無駄なことだと思ったけど、こうやってコミニケーションしながら仕事を進めていくのはいいことだ。今だって、シゲさんの後ろ姿を見ていなければ、成城を選んだだろう。

 川口の街は、どこにでもある地方都市だった。

 変わったところと言えば駅前にある「働く喜び」という、鋳物工場の男の人が、溶けた鉄を鋳型に流し込む銅像ぐらいのもの……で、直美は思い出した。ここは『キューポラのある街』のロケ地だったことを。
 駅前のコーヒー店で荒っぽく予備知識を獲得する。『キューポラのある街』は知っているが、肝心のキューポラが分からない。
――コークスの燃焼熱を利用して鉄を溶かし鋳物の溶湯(ようとう:溶解され液体状になった鉄)を得るためのシャフト型に分類される溶解炉である――
 今は電気炉が主流だから、こんなもの無いだろう。今から行くところを除いて……と思ったが、キューポラのカタチそのものが分からない。画像で検索するといろんなカタチがあることが分かった。要は煙突なんだけど、迅速に熱や炎を逃がすため、真ん中や、上部が太くなっているものが多かった。

 川口の陸橋を見て、記憶が蘇った。

――ここ、映画に出てきた。吉永小百合がだれかと話をしながら歩いていたっけ――

 映画の記憶もうすぼんやりしたものだったけど、確か、周りは小さな鋳物工場がいっぱいあった。
 でも、陸橋から見る分には、その痕跡は無い。典型的な東京のベッドタウン。大きな高層住宅がひしめいていた。
 スマホに登録しておいたナビを頼りに現場に向かう

 それは、高層住宅街の中に忽然と現れた。キューポラのある街角。

 古色蒼然とした町工場。でも、生きてはいなかった。音がまるでしない。工場というのは生き物と同じで何かしらの騒音が、たとえファン一つが回る音でもしているものである。それが、一つもしない。
 廃業し解体を待つだけなんだから、仕方ない。

 すると、工場の引き戸がガタゴト鳴って、中から白髪交じり、作業服のお爺さんが現れた。思わず連写で、昭和の昔から現れたような姿を写した。
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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・11『ダークサイドストーリー・7』

2019-08-23 06:28:53 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・11
『ダークサイドストーリー・7』


 こめかみから流れ落ちた汗が、頬をつたって制服の襟に達するまで、マユは何もできなかった。

 片岡先生の心は閉じている。
 いや、心を閉ざした自分の側にマユが座ったことに、不快感さえ感じている。
 こんな人に、下手に声をかければ逆効果である。
 一時的に魔法をかけて、先生の自殺を止めることは簡単だ。たとえば、先生をベンチから立てなくするとか、電車を停めてしまうとか……。
 しかし、それは一時しのぎにしかならず、不思議な出来事で先生を余計に混乱させるだけである。
 シンディーさんの記憶を消してしまえば、先生の心は楽にはなる。でも、有ったことを無かったことにするのは、悪魔の良心が許さない。有ったことを無かったことにしたり、悪いことを良いことと思いこませることは神さまや、天使のオハコである。恋のキューピットなどもっての他である。天使の中には、これをゲーム感覚でやっているものもいる。天使のイタズラ(天使は、適切なカップリングと言うが)による恋は冷めるのも早く、結果は、離婚率と非婚率の増加というカタチで現れている……人間は、結婚に対して臆病になってしまった。そんな中で、片岡先生のシンディーさんへの気持ちは本物である。馴れ初めと、シンディーさんの死による別れまでを小説にしたら、海の底に沈んだ宝石のように美しく、悲しい物語になる。

「一番線、急行が通過いたします……」

 駅のアナウンスが、急行の間もない通過を告げた。
 レールがカタコト鳴って、列車の通過が間近に迫っていることを感じさせた……。
 先生の心は揺れていた。この特急に飛び込んでしまおうか……でも、横の女生徒は何かを察している。下手に止められたら、この子まで巻き添えにしてしまいかねない。
 片岡先生は、優しく、気配りのできる人なんだ。先生の思念が伝わってくる……。
 急行の気配は、もうすぐそこまで来ている……でも、マユはどうしていいか、まるで考えが浮かんでこない。急行の先頭車両がホームにさしかかった。

 マユは、自分でも思わない行動に出た。

 マユ自身が、急行に飛び込んだのだ。

 悪魔の勘というか、あとで思い出しても、その時は、ただの衝動だった。

「危ない!」
「NO!」

 二つの声が同時にした。
 日本語の主は片岡先生。瞬間身体を抱きかかえられ、ホームの端を二人で転がった。
 急行は警笛とブレーキ音をさせながら、転がった二人の横五ミリほどのところをかすめ、ホームを二百メートルほど通り過ぎて、停止した。
 英語の主は、駆け寄ってきて、マユの頭を抱え、英語でいっぱい罵声を浴びせかけてきた。そのほとんどが日本語なら放送禁止になるようなスラングで、とても声の主とは思えなかった……声の主はメリッサ先生だった。
 マユは小悪魔なので、英語でまくし立てられても、しっかり意味は解る。
 「dud! hell! idiot! jerk! knucklehead! nerd! punk! shit! sissy! sly! spaz! turd! wimp! wuss!」と盛りだくさん。
「u potface……poor girl……」
 そう結んだあとで、メリッサ先生は泣きながらハグしてくれた。

 急行は、この影響で五分停車して、その日K電鉄のダイヤは一時間乱れた。かつらをやめた校長と、副担任のトンボコウロギが、電鉄会社に謝りにいった。むろん、わたしの父親(になっている人間。この人の事情は、この話の後で出てくる)も。
 マユは、身体が痛いふりをし、救急車で病院に連れていかれ、いろいろ検査をされた。片岡先生とメリッサ先生は、ずっと付き添ってくれた。

 そして、マユは、電車に飛び込むほど心に傷をおった生徒として、スクールカウンセリングを受けることになった。マユは、しばらく傷心の女子高生を演ずるハメになった。意外に、担当の悪魔からのおとがめは無かった。
 片岡先生とメリッサ先生は仲の良い……とりあえず、友だちになっていた。学校は、一時この話しで持ちきりになった。知井子などは、大感動して、日記帳に、このことを短いエッセーにして書き残した。

 で、片岡先生の授業は……

「……というわけで、接続詞の用法はわかったな」
 一瞬、みんなは先生の方を向くが、すぐにそれぞれ勝手な事を始める。
マンガやラノベを読む奴。ヒソヒソ声で話している奴。中には、携帯を教科書で隠してメ-ルを打っている奴。むろん率先してやっているのはルリ子たちだけど、マユの友だち、沙耶、里依紗、知井子さえも、この授業の間は内職をやっている。

 片岡先生の授業下手は、どうやら天然のようだ。

 ただ、心は閉ざされてはいなかった。日ごとメリッサ先生の姿が大きくなってくる。
――どんな手を使ったのさ!?
 利恵が、心で聞いてきた。
――なにも、ちょっとした事故よ、事故!
――事故って?
――わたしよ。電車に飛び込んだでしょ。
――あれ、小悪魔のヘタクソないたずらなんじゃないの?
――そう思ってりゃいいでしょ。あたしカウンセリングまで受けてんだから。
――まさか……あんなアナログな、魔法も使わないやりかたで!?
――あたしたちが思っているより、人間て複雑なのよ。
――でもさ……。
――授業中だから、もう話しかけないで。お互いオチコボレってことよ!

 節電のため冷房を切った窓から、初夏の青空が見えた。
 青空の中を一羽のカラスがよぎり、瞬間カラスと目があった。

 アホー……と、カラスは一声残して飛んでいった。それは、どこに打っていいか分からずに、さまよっている片岡先生の板書のピリオドに似ていた。
 
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高校ライトノベル・連載戯曲:サクラ・ウメ大戦・3

2019-08-23 06:16:51 | 戯曲
連載戯曲:サクラ・ウメ大戦・3
 
  大橋むつお
 
 
※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  下段に連絡先を記します
 
 
 
 
時 ある日ある時
所 桜梅公園
人物 
(やさぐれ白梅隊)   (はみだし八重桜隊)
 ゆき(園城寺ゆき)    さくら(長船さくら)  (ITVスタッフ)
 咲江           百江           リポーター
 ルミ           純子           カメラ
 春奈           ねね           音声
 千恵           やや
 その他いっぱいいれば なお良し 
 
 
 
 
 
 カメラ、ゆきとさくらの鍔のアップからひいて、舞台を上手から下手へ、ゆっくりなめる。(平行移動しながら撮る)、舞台が狭い時は、カメラ、音声共に舞台下に降りて撮っても良い。しかし、ここ一番撮ってますっていうカメラマンの気迫は示してほしい。カメラ下手までまわりきったところで、リポーターのOKサイン。
 
リポーター: オッケー!
カメラ: よかった、バッテリーちょうどいっぱいでした。
やや: 一分無かったよ……
カメラ: アップとロングくりかえすと、早くあがっちゃうのよバッテリー。
やや: そうなんだ。
さくら: みんなありがとう。
ゆき: ギャラは出ないけど……
リポーター: テレホンカードあげるわ、人数分、カメラさん、くばってあげて、
一同: ワーイ!
 
   テレホンカードが配られている間、レポーター、爪をかんで考えていたが……
 
 
リポーター: 音声さんはまだバッテリーいけたわよね。
音声: はい、まだ大丈夫です。
リポーター: みんなね、絵は撮れないけど、音声が生きてるの、あの婆ちゃん(なるべく古く、でも観客のみんながのりそうな歌、例「青い山脈」「上を向いて歩こう」等々)の歌が好きだから、どうだろ、大先輩のために、アカペラだけど歌ってもらえるかな番組のBGMに使いたいの、お婆ちゃん、きっとよろこぶよ。
 
   「わたし知ってる!」「賛成賛成!」「やろうやろう!」「全部は知らない」「知ってるところだけでいいよ」「アアアアアー(発声練習)」などなどあって……
 
レポーター: じゃいきます……オオ?!(カラオケが鳴り出す、文化祭などなら、カラオケという設定でピアノなどの生演奏の方がいい)
音声: ちょうどカラオケテープがあったんで……
リポーター: さすがITV(田舎テレビの略)の音声さん! さあ、観客のみなさんもごいっしょに! せえの!……
 
 
   舞台全員、そして観客席もまきこんだ大合唱になり、のり方により曲の途中でワンコーラスで、ツーコーラスで、幕。
 
 
【作者情報】《作者名》大橋むつお《住所》〒581-0866大阪府八尾市東山本新町6-5-2
 
 上演される時はご連絡ください。上演料は入場料を取らない無料公演(文化祭・コンクールなど)の場合必要ありません。入場料を取る公演では一回上演につき5000円の上演料をいただきます。 
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