大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・214『仏蘭西波止場・4・激突!』

2021-05-26 09:11:09 | 小説

魔法少女マヂカ・214

『仏蘭西波止場・4・激突!』語り手:マヂカ     

 

 

 上野大仏!?

 それは、震災で大破して首だけになった上野大仏だった!

 

 座った姿勢だけで6メートルの大仏は、首だけになっても人の背丈ほどもある。

 その大仏が、くわッと特大の中華鍋ほどに口を開いて、竜巻を横にしたような烈風を放って妖たちを吹き飛ばしているのだ!

「避けろ! 傍にいると吹き飛ばされるぞ!」

 突然の大仏出現にほとんどゲシュタルト崩壊していたわたしをブリンダが突き飛ばす。

 その勢いで仏蘭西波止場の上空を百メートルあまりぶっ飛んでしまい、魔法少女コスの半分を千切られてしまった。

「大仏の口から出ているのは、本物のカンザストルネードだ!」

「ブリンダのはニセモノだったの!?」

「オズの魔法使いからライセンスを買い取ったものだ、オレのジェネレーターでは50%の力しか出ない……くるぞ!」

 大仏の首を大きく回り込むようにして回避する。

 回避しながらも、運よく逃げおおせた妖どもをぶちのめす!

 セイ! トー! オリャー!

 詠唱している余裕もないので威力は半分に落ちているが、敵の妖どももトルネードにもみくちゃにされているので、大半を撃破できる。

 ズボボボボボ!! ズボボボボボ!! ズボボボボボ!!

 

 江戸時代生まれの大仏は、首だけになっても律儀で、ほとんど首を振動させるようにしてトルネードを吐き出しているので、目鼻も髪もブレまくって、ほとんど球体のようになっている。

 それでも、遠く離れた妖どもは躱す者が居て見逃すわけにはいかない。

——これから船を攻撃する、あなたたちは取りこぼしをやっつけて——

 意外に幼い声で大仏の思念が飛び込んでくる。

 高速旋回している影響で声が高くなっているんだろう。

 大仏だけに負担はかけられない『いくよ!』『いくぞ!』と思念を交わし合って、マッハのスピードで妖たちを追い回す。

 ザバッ!

 大波が砕けるような音がしたかと思うと、大仏の首が三倍ほどに膨れ上がる。膨れ上がった球体はグラデーションになって、まるで小さな太陽が熱戦を放射しているように見える。

『爆発するのか!?』

『いや、違うみたい』

 大仏は、桟橋を目指している敵の艦船に突入する姿勢をとったので、様子がハッキリする。

『螺髪(らほつ)が解けたんだ』

『ラホツ?』

『パンチパーマみたいな髪だ、勢いがすごいので伸びてしまったんだ』

 解した螺髪は、けっこう長く、もし胴体が付いていたら腰の上に届きそうなくらいだ。

 この姿……どこかで見た事がある。

 考えている余裕は無かった。足の速い残敵は三浦半島を超えて外海の上空に差し掛かろうとしているのだ。

 セイ! セイセイ! トー!

 なんとか湘南の沖に逃げた一匹を撃墜し、横浜の上空を目指して旋回する。

 ドン ドン ドン

 腹の下から突き上げるような衝撃!

 しまった、伏兵か!?

 反射的に高度を取って縦旋回、身構えたまま眼下を窺う。

 

 あれは!?

 

 それは、半ば傾いた戦艦三笠だった。

 三笠は、横須賀の岸壁に係留されていたが、震災の衝撃で岸壁に激突して浸水して、ほとんど死にかけていたはずだ。

——ごめん、やっと立ち直って、少しは役に立ちたくてね——

 三笠の船霊の声だ。

——日露戦争以来、二回も爆沈したり座礁したり、この震災でも傾いてしまって世話のかけっぱなしだったから、少しはね……——

 ドン ドン ドン

 三笠は、その傾斜を利用して主砲の仰角を上げて、横須賀の山間に隠れた妖を潰していく。

 まだ残敵がいたんだ。

 負けていられない、夏島を飛び越えて横浜に戻る。

 ウオーーーーーーー!

 雄たけびを上げながら、髪を振り乱して敵の主力艦にトルネード攻撃を加える大仏。

 この姿は……将門の首だ!?

 ドッコーーーーン!

 主力艦はド級とか超ド級の語源になったドレッドノートで、装甲も厚く、大仏は体当たりするのではないかと心配するくらいの近距離で、やっと仕留めることができた。

 ドーン ゴロンゴロン ゴロゴロ……

 ドレッドノート爆沈の衝撃で吹き飛ばされた大仏の首は、海岸通りまで吹き飛んできて、舗装道路の上をゴロゴロと百メートルほど転がって、やっと停まった。

「大丈夫か、大仏!?」

「大仏!」

 山手の方から戻ってきたブリンダと共に地上に降りる。

 やっと停止した大仏の首からは、二本の華奢な脚が覗いていた……。 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  •  

 

 

 

 

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ライトノベルベスト『その他の空港・1』

2021-05-26 06:15:56 | ライトノベルベスト

 

イトノベルベスト 

 

『その他の空港・1』

 


 荒れ模様の雷雨も収まって、ようやく、空港法第二条で『その他の空港』と雑に分類されるY空港は、その一日の役割を終えようとしていた。

「いやあ、マスコミもねばるもんでんなあ」

 次長が、その性癖であるマメさから、広報室のあちこちに散らばっている湯飲みを片づけ始めた。

「選挙も終わって、もうオスプレイでもないやろにな。あ、すんまへん片倉はん」

「なんの、こないして体いのかしてるほうが、むつかしいこと考えんでええんですわ」

「そのサラリとしたとこは、勉強になりますわ。悪い癖で、ついムキにになってしまう」

「……なんや、あの放送局スマホ忘れていきよった」

「電話したろか、困っとおるやろ」

 空港長の飯山は生真面目にスマホを手に取った。

「触らんほうが、ええですよ。スマホは個人情報の固まりですよって」

 広報の出水結衣が、実年齢より十歳は若く見える顔でたしなめる。

 

 プルルルル プルルルル

 そのとき、管制塔から、広報室に電話が入った……。

『管制塔です、こちらに向かってくる編隊があるのですが、無線連絡に応えません』

「なんで無線にも応えへんのや……向こうからも何にも言うてけえへんか?」

『はい、互いに無線連絡をとってる様子もありません。真っ直ぐうちに向かってきます』

「なんで、うちの空港やねんな?」

 やっと、マスコミとの我慢会が終わってホッとしたところだったので、空港長の眉間にしわが寄る。

 空港長が尖がって、次長が湯呑を片付け終わったころに、それはレーダーに映ってきた。

 九機の小型機が、三機ずつの編隊を三つ組んで、空港法によって「その他の空港」と雑に類別されるY空港を目指して飛んでくるのである。関空でも、神戸空港でもなく。全国でも数少ない交差滑走路を有する他は、先日のオスプレイで問題になるまで、日本中から忘れ去られ、しかも嵐の夜、営業時間も終わった午後八時過ぎにである。

「間もなく視認できます」

 管制塔のみんなは双眼鏡を構えた。赤青の翼端灯の感覚はセスナほどしかなく、それが三機ずつ、三つの編隊になって向かってくる。

「単発の低翼機やなあ、きれいな編隊飛行や……発光信号『本日営業終了』」

「……あきません。ギア降ろして、降りる気満々でっせ!」

 図体に似合わない爆音を響かせながら、九機の小型機はA滑走路に着陸した。ガラに似合わず飛行機にくわしい広報の出水結衣が呟いた。

「うそ、みんな鍾馗や……」

「正気やないで、着陸許可も出してへんのに……」

「飛行第246戦隊・第246飛行場大隊・蟹江中隊九機帰投……だれもおらんのか!!」

「やっぱり、正気やない……」

「鍾馗三編隊の帰投だ、だれも出迎えんのか!」
 
 隊長とおぼしき一番機の搭乗員が叫んでいる。駆けつけた整備員や、警備員と言い合いになり始めた……。

「なんだと、昭和三年だと。違う? 令和三年? なんだそれは? 貴様ら寝ぼけておるのか。今日は昭和二十年五月十七日だ……なんだ灯火管制もせずに、貴様らでは話にならん。大隊長か飛行長殿のところに案内しろ」

「せやから、わたしがこの空港長で……」

「クーコーチョー? なにを寝ぼけたことを、ここは陸軍飛行第246戦隊・第246飛行場大隊の基地だ、見ろ周りを」

 空港長たちは、びっくりした。あたりは真っ暗で、ついさっきまで煌々と輝いてた大阪の街はおろかY市の灯りも見えない。

「ただちに灯火管制、今夜半の敵の襲撃に備え、機体を整備し燃料弾薬の補給をせよ」

「隊長殿、周りの風景が……」

 今度は、周囲の景色が、夕闇の中の二十一世紀のそれに変わった……。

「なんだ、これは……!?」

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コッペリア・4『そもそも人形が届いた理由・2』

2021-05-26 05:30:29 | 小説6

・4
『そもそも人形が届いた理由・2』




 

「実は、その枕は立風さんが作ってくれたものなんだ」

 家主のジイサンの言葉に不動産屋のジイサンも驚いた。

「いや、この座布団もそうなんだ『若いお客や、外人のお客さんには、こういう方が喜ばれますよ』って」

 あらためて座布団を見るとキティーちゃんの市松模様だった。

 細かい格子縞の中に小さなキティーちゃんが散らばっている。けして押しつけがましくなく、気づかない人の方が多いだろう。で、その分気づいた時は何倍も嬉しいに違いない。

「オイラの枕は、中村屋が亡くなった時に立花さん歌舞伎座まで行ってさ、中村屋の手拭い二枚買って、帰り道オイラが中村屋の贔屓だってことに気づいて、そいで枕にしてくれたんだ。かっちけねえんで、ずっとお飾りみたいにしてたんだけどね、あんたが同姓同名なんで持ってきたんだ」

「器用な人だったんですね……」

「これを見てくんねえ」

 家主がスマホを見せてくれた。

 そこにはセーラー服を着た1/3程の人形……ドールっていうんだろうか、知っていた子がドールが趣味で、少しは知っている。素体やヘッドを買ってきて自分でカスタマイズするんだ。メイクは自分でやって、同じヘッドや素体を使っても、メイクの仕方やポーズの付け方で、一つ一つ違って、それぞれ世界に一つだけのドールができる。僅かだけども男の人にもファンがいるらしい。

「こいつもね、立風さんが作ったんだ……オイラ、こういうものには疎いんだけどね、六十を超えたオッサンが作ったとは思えねえほど無垢でさ。可愛く微笑んでいるようで、どこか儚げでさ。ありがたくいただいたんだ。あとで娘にネットで調べさせたら衣装とかも含めたら、ここの家賃の半月分もするじゃねえか。そいで、ドール屋のファンクラブみてえのがあって、みんなが写真を撮っては投稿するんだよ。そこにこのドールが載ってたのには驚いた。それも銀賞だぜ、銀賞。きっと売ったら原価の十倍くらいの値はつこうってしろもんだ」

「家主さんは、いただいたままなのかい?」

 不動産屋が突っ込んだ。

「いや、一度は返しに行ったよ。こんなもの頂戴できませんてね……そうすると『これは習作です。まだまだ、その子らしさが出てませんから』ときた」

 三人揃ってスマホの小さな画面を見つめた。見れば見るほどよくできている。

 あの子が作っていたのは可愛くてきれいだったけど、こういう情感は無かったと、颯太は思った。

「で、このでかい素体は?」

 不動産屋が、箱に入った等身大を顎でしゃくった。

「うちの娘が、ネットで見つけたんだ。ホベツ製作所ってドール屋が等身大のドールの素体を発売したって。で、立風さんに見せたんだけど……注文してたんだね。なんせ受注生産だから、届くのに一か月ぐらいかかる」

「そいつが、今日来たってわけだ……」

 不動産屋は、ごく自然に手を合わせた。

「これ、どうしたらいいんでしょう……?」

 颯太は途方にくれた。

「同姓同名のおまえさんに来たのは、偶然じゃねえと思うんだ……立花さんには、まだ話があるんだ。聞いてくれっかい」

 家主は颯太と不動産屋に、ぐっと顔を寄せた……。 

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銀河太平記・047『モンスターハント・1・チーチェ』

2021-05-25 08:53:22 | 小説4

・047

『モンスターハント・1・チーチェ』マーク船長   

 

 

 火星に野生動物は居ない。

 野生でなくても、人間以外の動物は、まだまだ希少だ。

 地球では、家畜が脱走して野生化することがある。オーストラリアの野生の馬とか牛とか羊とか、日本で有名なアライグマも二十世紀の末に輸入されたものが野生化したものだ。日本の場合はアニメでアライグマが流行って、ペットとして輸入されたものが脱走したり、大きくなって持て余した飼い主が捨てたりしたのが野生化してしまったんだ。二百年の間にガラパゴス的に進化して『ラスカル』という固有種になって、ニ十三世紀の今日ではアライグマというよりは『ラスカル』の方が通りがいい。子どもの中には『ラスカル』と『アライグマ』は別の動物だと思っている者もいる。

 考えてみれば、地球の自然環境が、それだけ豊だということだ。

 火星に持ち込まれた動物は、人間の保護が無ければ半月も生きられない。餌も無ければ水さえ自然には存在しない。居留地が集中している中緯度以外では酸素濃度も月よりはマシという程度しかない。

 その火星にも、野生動物めいたものが、今世紀になって繁殖し始めている。

 

「見た目には可愛いので、躊躇なさらないでください」

 コスモスが注意する。

 コスモスの背後で匍匐前進しているのは、俺と宮さまだ。

 ベースを出た時には元帥と副官のヨイチも一緒だったんだが、さすがに五人も居ては獲物に気付かれるというので、集合地点を決めて別行動をとっている。

「ロボットなんですよね?」

 宮さまが念を押す。

「ええ、元々はマース条約のもとで作られたペットロボットですから」

 中国の植民地であったマス漢が、開拓民の無聊を慰めるために作ったペットロボットが、ユーザーによって違法改造されたものが野生化したのがチーチェだ。

 日本の『ラスカル』がモデルだというチーチェは、とにもかくにも可愛らしい。

 ネコミミとウサミミの二種類があるのだが、たれ目と丸まっちいボディーはマス漢製であるとは言え、三百年の伝統を誇る日本の萌文化が土壌になっている。

 歴戦の兵士でも、こいつを正面から見るとトリガーを引くのをためらってしまう者がいるくらいだ。

「居た! 一時方向、砂丘の陰」

 コスモスが指差した先、砂丘の陰から数匹分のネコミミとウサミミが覗いている。

「もう30メートルは近くないと当らねえぞ」

「大丈夫です、昨日餌を撒いておきましたから、様子を見ながら寄って来るはずです」

 コスモスの言う通り、四五分待っていると、五匹のチーチェが砂丘を超えてきた。

「か、可愛い……」

「目を見てはダメです、耳かボディーを見てください」

「わ、分かりました(^_^;)」

 宮さまは、努力して、微妙に視線を変えられる。

 見かけは草食系の優男だが、なかなか克己心と自制心のお強い方だ。まあ、そうでなければ、こんな火星くんだりまで避難の足を延ばされることも無かっただろう。

「俺が、左の二匹、コスモスが右の二匹、殿下が中央の一匹を狙います」

「船長、ダメです」

「なんでだ?」

「わたしが三匹、お二人で一匹ずつです。船長、チーチェは三カ月ぶりくらいでしょ?」

「三か月で、なまるような腕じゃねえぞ」

「この三か月で二回バージョンアップしていますから」

「二回もか?」

「ええ、では、呼吸をシンクロさせます」

 お互いに気息を計って呼吸を同期させてから、腹ばいのまま、銃口をチーチェに指向させる。

 視野の端でコスモスの横顔を捉える。射撃のタイミングを合わせるためだ。

—— いま ——

 コスモスの唇が動いて、殿下と二人トリガーを引く。

 プシ

 パルスライフルの幽けき(かそけき)発射音がして、ネコミミ三つとウサミミ二つの首が宙に待った。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

 

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ライトノベルベスト・『サヨナラの意味』

2021-05-25 06:04:43 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 

『サヨナラの意味』



 

 電車が去りゆく余韻が好きなんだ。

 カタンカタン、カタンカタン、とレールが鳴って、しだいに小さくなっていく。

 なんだか痛みが遠のいていくのに似ているとは思わないかしら?

 大げさに言うと浄化されるみたいな、ちょっとおセンチだけど、大団円を迎えたドラマの最終回みたいな。

 わたしは、そう思うの。

 All my troubels seemed so far away

 と言う感じ。

「じゃ、ユッコ……さよなら」
 あいつに、そう言わせたんだから。
「うん、さよなら……さよなら」
 やっと言わせたさよならだから、二回もさよならを言ってあげた。
 あいつは、電車のガラスに貼りつくようにして、わたしを見ていた。
 わたし、ずっと見ていてあげたよ。
 レールのカタンカタンが小さくなって聞こえなくなるまで。
 お母さんの時代だったら、別れのフォークソングが一つ書けそうなくらいの雰囲気だったよ。

 あいつも、今日は言葉を選んでた。

「時計を見てるユッコは、とてもゆかしいね」
 
 ゆかしい……なんて普通は言わないよ。なんだか昭和の小説みたいでさ。
 でも、今日の二人には「ゆかしい」が似つかわしく思えたよ。
 わたしだって、腕時計なんかしないけどさ。女の人が腕時計見る仕草っていいよね。
 あいつもそう言うからさ、スマホで時間を見るよりは雰囲気だと思って、ドンキで買っていったんだよ。
 なんだか『三丁目の夕日』の人みたくなれて、とっても雰囲気だった。

「俺、言葉は大切にしたいから」

 こないだのデートで「言葉って、どうして軽いんだろう……」って呟いたせいかもしれない。
 大した意味は無かった。
 終電までの時間、間が持たなくて、無口でいる言い訳を、ちょっとアンニュイに雰囲気出しただけなんだけどね。
 あいつは真正面から受け止めて、神田で古本買って勉強したんだって。
 そういうマニュアル的なとこってゲロが出そうなんだけど、鼻にしわ寄せて可愛く笑ってあげたよ。

 だって、今日はサヨナラの日なんだから。

 やっと言わせたさよなら。
 明日からは、気兼ねしないでM君に会えるよ。

 家に帰ったら、気配を察したんだろうか、お母さんが鼻歌を歌っていた。

 別れたら~ つぎの人~(^^♪

 普段は 別れても~ 好きな人~ と唄っている。

 昭和人間のお母さんらしい応援歌だ。

 
 
 いつもあいつと待ち合わせした、あの場所で、今日はM君と会う。

 とてもカジュアルな待ち合わせ場所だけど、あまり雰囲気を作ってもはしたない。
 だいいち待ち合わせの時間が、あいつの時よりも三十分も早い。
 時間を大切にしたいから、そう言ったらM君も「ボクも」そう言ってくれた。
 発展してもいいように、下着もちゃんと替えてきた。おくびにも出さないけどね。
 準備に手間取ったけど、五分前には着いちゃった。M君、先に着いてるかな~?

 いつもの自販機の角を曲がって目が合った……!

「やあ、早かったね!」

 あいつがニコニコ笑顔で立っていた。
「え、ええーーーーー!」
 母音の「え」を伸ばすことしかできなかった。だって、さよならしたんだもん!
 さよならは、これでもうお別れの最後の挨拶だもん!

 昭和の昔は、ごく普通のカジュアルなお別れでも「さよなら」と言っていたらしい。
 あいつは、得々としてマニュアル本を振りかざした。

 横断歩道の向こう側で、M君が白けた顔して突っ立っている。
 声には出さずに口の形だけで「サ・ヨ・ナ・ラ」を言うと、回れ右して行ってしまった。

 ああ、サヨナラの意味ぃーーーーーー!!!!
 

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コッペリア・3『そもそも人形が届いた理由・1』

2021-05-25 05:41:48 | 小説6

・3
『そもそも人形が届いた理由・1』  


           


 開けて驚いた!

 等身大の人形が入っているではないか……。
 
 等身大の人形といっても、ラブドールの類では無く、どちらかというと、デパートなんかによくある目も口もないマネキンに似ている。顔は、申し訳程度に鼻の部分が隆起しているのと、耳が付いているのと、全体のフォルムから、それと分かる程度のもの。

 ただ、関節がやたらに多い。取説を見ると五十か所以上動くらしい。

 それに、マネキンというほどスタイルは良くなく、むき出しの球体関節は色気とは程遠い。
 開けた時のショックで大きい等身大と思ったが、等身大というのには、やや小さい。
 身長150、B67、W56、H76、洋服のサイズで言うとXS。大人になるちょっと手前の女の子のフォルムをしている。それに女の子としての部分はほとんど表現が無い。乳首は触ってやっと存在が分かる程度、股の付け根には谷間の表現もなかった。

 そして、なによりいぶかしいのは、宛名は颯太になっていたが、颯太自身にこんなものを注文した覚えがないことだ。

「ああ、やっぱ着ちまったか」

 家主のジイサンが、不動産屋のジイサンとコンビで入り口に立っている。

「なんなんですか、これは? オレ注文どころか、ここの住所も人に教えてないのに」
「ま、とりあえず忘れた枕だ」
「わたしは、サービスで座布団を。この寒さじゃ痔になっちまう」
 不動産屋は、そういうと座布団を三枚しいて、気づけば奥の和室で三人車座になった。
「おっと……」
 颯太は、備え付けのエアコンのスイッチを入れた。

 エアコンが暖気を吐き出したころで家主と不動産屋が口を開いた。

「じつは、おまえさん、前の店子と同姓同名なんだよ」
「そうなんだよ。そんな気はしてたんだけど、店に帰ってデータを見たら同じなんで、気になって座布団口実に様子を見に来たんだ」
「ええ……!?」

 立花颯太というのは、そうゴロゴロ転がっている名前では無い、颯太自身が一番驚いた。

「立ち入ったことを聞くけど、おまえさん大阪に親類はないのかい?」
「いいえ、御一新以来の江戸っ子だって、いつもひい爺ちゃんがいってました。本籍地も東京です」
「やっぱり前の立花さんは大阪なんですか?」
「さすが不動産屋だ、気が付いていたかね」
「化けるほどやってますからね、今は必要以上の個人情報は聞けませんがね。五分も喋ってりゃ、おおよその境遇とか気性は分かるもんなんですよ」
「前の立花さんは、大阪の高校で先生をやってらした。天涯孤独の身の上で、退職を機に東京に越してらっしゃった。歳も近いんでよく話したけど、おいらは、なかなかいい先生だったと思うよ。生徒の……特に退学していくような生徒の面倒見がよかったみたいだ。おいら、何度か感心して誉めたんだけどね、本人は学校と自分の職業的なアリバイでやったことで、教師の良心なんてもんじゃないって謙遜してらしたけどね」
「だけどね、家主さん。オレは案外本心だったと思うんだ。いや、悪い人だってことじゃないよ。あの立花さんは真面目すぎるんだ。仕事ってのは、どんな仕事でも100%職業的な良心でやれるもんじゃない。不動産屋にしてもそうだ。ときどき仕事の枠を超えて、お客の身の上相談みたいなことをやるけど、江戸っ子の心意気半分、店の評判半分てとこさね」
「もともと、あんたは人間のいざこざが好きなところがあるからね」
「まぜっかえさないでくださいよ。あの立花先生は、そういう半端な自分に嫌気がさしていたんだろうね。そうでなきゃ、心機一転どころか二転三転して東京まで出てきやしねえよ」

 気づくと、目の前に湯気の立ったお茶が置かれていた。不動産屋のジイサンが喋りながら淹れたものだ。でも、それに気づかいさせないところがプロだと思った。

「で、あの人形は?」
「うん、オイラのせいかもしれねえ……」

 家主のジイサンは、渋茶を口に運びながら話を続けた……。 

 

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やくもあやかし物語・80『例の親子さん』

2021-05-24 09:43:31 | ライトノベルセレクト

やく物語・80

『例の親子さん』    

 

 

 

 お雛さまが人の左手首に変わって、そのあとは気配だけになってしまった。

 

 例の親子さん。

 

 こういうのが、自分の部屋に居たらビビりまくると思う。きっと、夜も寝られずに、食も細くなって、心配した家族に付き添われて心療内科とか受けに行くんだろうね。

 でも、わたしの周囲はあやかしたちで一杯なので、これくらいではビビらないし、驚きもしない。

 気配は、わたしと同年配の女の子。

「親子さんて、お雛様のあやかしなの?」

 机に頬杖ついて聞いてみる。

 親子さんの気配は、黒電話の横にいる。立っているのは気の毒なので、フィギュアに付いている椅子を置いてあげたら座ってくれた。

 わたしと、わたしの部屋にあるあれこれに興味があるようなんだけど、育ちがいいんだろう、キョロキョロすることもなく、ニコニコとわたしに顔を向けている感じ。

『まあ……そんなとこよ』

「そうなんだ……」

『あら?』

「え?」

『納得?』

「まあね、わたしの周りってあやかしだらけでしょ、詮索してたらキリがないからね。とりあえず、見えてるとか感じられてる雰囲気で付き合うの。中には元々の自分の姿を忘れてるってあやかしもいるしね。取りあえず、チカコ……でいいかな? 雰囲気は同年配って感じだし」

『うん、それがいい(^▽^)』

「じゃ、この部屋の住人から紹介しておくわね」

『うん』

「チカコの右隣に並んでるのが『俺妹』のキャラたち」

『オレイモ……お芋さん?』

「あ、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』ってタイトルのラノベの登場人物のフィギュア……お人形さんたち」

『そうなんだ……なんか、こわそう』

「アハハ、ツンデレの代表格だからね、知りたかったら、そこの本箱に全巻揃ってるから、自由に読んでくれていいわよ。ただね、見かけは『俺妹』のキャラだけど、中に入ってるのは別の魂かもしれない」

『フフ、わたしといっしょかも』

 そうなの? 

 聞きたくなったけど、本人が言わない限りは聞かない。

「元々は、そのアノマロカリスのお腹の中に入っていたの」

『この、海老のお化けみたいなの?』

「うん、大昔の海に住んでた海老の仲間……かな?」

『食べたら美味しいのかなあ?』

「あ、食べるって発想は無かったなア(^_^;)」

『アハハハ』

「左横が黒電話。中に交換手さんがいるんだよ、あやかしとかからの電話を取り次いでくれる。たまに本人が出てくるけどね」

『それは楽しみ』

 

 プルルルル

 わ!

 

 急に黒電話が鳴って、チカコと二人そろってビックリ。お揃いになったことが可笑しくて、ちょっとだけ二人で笑ってから受話器を取る。

『お地蔵さんからお電話がありました』

「あ、出るわ」

『親子さんとお話し中だと申し上げると、伝言でいいとおっしゃいまして。よろしいですか?』

「うん」

『明日の放課後、よかったら寄って欲しいということでした。あ、親子さんもご一緒にということです』

「ちょっと待って……お地蔵さんからお誘いなんだけど?」

『お地蔵?』

「あ、断層の坂道上がった横丁の」

『ああ、あの延命地蔵……うん、やくもがいいなら、いしょに行こう』

「うん、じゃ、明日の放課後伺いますってお伝えしておいて」

『承知しました』

 

 朝日の楽しみが増えた。チカコが『懐かしい』って呟いたんだけど、詮索はしなかった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ)

 

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ライトノベルベスト・〔ピンク色の防寒ジャケット〕

2021-05-24 06:48:44 | ライトノベルベスト

 

イトノベルベスト  

 

〔ピンク色の防寒ジャケット〕




 コンビニを出て自転車に跨ったところであった。

「おかあさ~ん!!」

 悲惨な声で呼ばわりながら、複々線の踏切をピンク色の防寒ジャケットが、ピョコタンピョコタンと駆けながら渡ってきた。
 場所はT町の駅前で、名ばかりの対面通行路。大阪市内なら完全に一方通行になるような道であり、踏切である。

 幼児というのは、ただでさえ自分の前しか見ていない。

 踏切を渡る車の運転手や通行人は、危なかしそうに、その女の子を見ながら踏切を渡っていく。
 踏切を過ぎると三叉路になっており、付近に「あかあさん」らしき人が見えないので、その子の進路の可能性は二つしかない。
 駅前で左折するか、そんまま直進し名ばかり体面交通のこの道にやってくるか。直進されれば、わたしの自転車ともろに行き違う。
 歩道を含めてやっと道幅五メートルほどのところをピョコタンピョコタン泣きながらやってこられては、交通量が多い踏切ではとても面倒だ。

 ピンク色の防寒ジャケットは、運よく左折した。わたしも左折して家に帰る。

 ピンク色の防寒ジャケットは、その子にはいささか大きく、フードをしていなくても頭の上半分しか見えず、折り返しが解けてしまった袖口からは手の先も出ていない。泣き叫んでいるのと着丈が大きいので、その子の視界は、ひどく狭い正面だけである。
 左折の道も狭いので、下手に追い越すわけにもいかず、ノロノロと女の子のあとを付いていく。その子の前には母親らしき人の影が見えない。
 踏切からこっち、その子は、わたしが気づいてからだけでも二百メートルは走っている。でも、ペースがちっとも落ちない。ノロノロとはいえ自転車は八キロぐらいの速度が出ている。距離が縮まらないので、その子は八キロ以上の早さで走り続けていることになる。
 子供の体力と言うのは大したものだ。

 ちなみに大阪では、こういう光景は珍しくない。

 子どもがぐずり倒すと、親、とくに母親は無慈悲にも子どもをほっぽらかして、さっさと前を行く。しかし、このピンクの防寒ジャケットの母親の姿は、なかなか見えない。
 線路沿いに緩く「へ」の字に曲がった先に子供用シートを後ろに付けた自転車が見えた。どうやら、それが母親のようである。
 子どもの叫び声が「おかあさ~ん!」から「のりたい~!」に変わった。
 なにか、踏切の向こうでいざこざになり、ピンク色の防寒ジャケットは自転車のシートに乗せてもらえなかったようだ。

「もう、仕方のない子ね!」

 他の地方なら、母親は、ここらへんで音を上げて、子どもを自転車に乗せてやる。河内のオカンは腹が据わっている。「のりたい~!」を無視し、そのままの速度で自転車を転がしていく。
――きついオカンやなあ――
 生まれながらの河内原人であるわたしでも、そう感じ始めた。

 オカンの自転車は、道に面した別のコンビニの駐車場に乗り上げたところで、やっと止まった。
「さっさと、乗りーいな!」
 そう言うと、ピンク色の防寒ジャケットは器用に自分の背丈ほどのシートに収まった。
 オカンは、なんだかんだ言いながら、安全な場所まで子どもを誘導していた。さすがは、アッパレ河内のオカンである。

 オカンは、ピンク色の防寒ジャケットを乗せると、暴走女子高生並のスピードで、はるか先までいってしまった。

 さらに三百メートルほど行った先で右折。そこでくだんの母子を発見。
「乗りたい~!」の雄たけびはまだ続いていた。
 母子の前にはマンション風。どうやらお住まいのようである。
 しかし、念願の自転車に乗って、さらに続く「乗りたい~!」
 どうやら、ピンクの防寒ジャケットは自転車ではなく、別なものに乗りたかったようだ。
 憧れの近鉄特急か、たまたま見上げた空を飛んでいた飛行機か……。

「もう、この子は!」

 オカンが思わず手を上げた。ピンク色の防寒ジャケットはビクともしない。オカンの手は空中で止まった。母子の呼吸で「これは本気でどつけへんな」と読んでいたのかもしれない。
 すれ違いざま、ピンク色と目が合った。

「見てたなあ!」

 そんな顔をして、また泣きわめき始めた。オカンはピンク色の防寒ジャケットを横抱きにして、マンション風の中に消えた。

 ピンクの雄たけびと、オカンのイマイマシサが、しばしの北風を忘れさせてくれた。
 

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コッペリア・2『家主と布団と宅配便』

2021-05-24 06:26:01 | 小説6

・2
『家主と布団と宅配便』 




 

 颯太の引っ越しは簡単だった。

 赤帽の軽トラ一台に積んで、まだ荷台には余裕があった。
「一人住まいにしても、少ないね」
 気のいい赤帽さんは、引っ越し荷物の配置まで手伝ってくれた。
 冷蔵庫は当たり前として、それ以外に生活を感じさせるものは、座卓にボックスの本棚、あとはほんの少しの着替えに食器、赤帽さんにはガラクタとしか思えない段ボールが一つっきり。
「布団はどうするんだね、これじゃ、寝ることもできないよ」
「あ、ハハハハ、急なことで、忘れた……まあ、この後で買いに行きますわ(^▽^)」
 颯太は、自分の粗忽さを笑い飛ばした。

 急がなきゃならない理由が……と思い出し、その思いは胸にしまい込んだ。

「あんたかね、新しい店子は?」
 布団を買いに行こうとして、玄関の鍵を締めたところに、思いもかけず家主と思しきジイサンが、二階の廊下に上がってきた。
「……まあ、儂の家に来なよ。ここじゃろくに話もできない」
 家主は部屋の中をざっと見て、呆れたように言った。赤帽さんと同じ心境だったのだろう。

「不動産屋から聞いてくれたと思うんだけど、あの部屋は事故物件だ。あんたに入ってもらって助かったよ。なんせ、あれ以来5室も空いてしまったからね。なあに、前の住人は仏さんみたいな人だったからね、亡くなったのは気の毒だったけど、化けて出てくるようなことはないから」
 そこからよもやま話になり、気持ちがほぐれたところで、颯太は本題に入ろうとた。
「あのう……」
「そうそう、布団も無かったんだよな。引っ越し祝いの代わりだ、うちのを一人前持っていくといい。来客用の新品同様だ」
 家主は、せかすように圧縮袋に入った布団一式を颯太に渡した。急に飛び出してきた颯太にはありがたかった。美大生だった颯太の所持金は、せいぜい三か月分の生活費ていどしかなかったのだ。

 颯太にも、事故物件でも入らなければならない事情があったのだ。

 アパートに戻る途中、宅配便のトラックがゆるゆると颯太を追い越して行った。
 部屋に戻ると、その宅配さんが棺桶ほどの大きさの荷物を二階に運んでいるところだ。二階は、颯太と、もう一人キャバクラに勤めている年齢不詳の女がいる。颯太は荷物は、その女宛てだと思った。

「立風颯太さん?」
「はい、そうですけど」
「いや、よかった。大きな荷物なんで持ち帰りも大変なんで、助かりました。サインお願いします」
 宅配のニイチャンは、書きかけの持ち帰り伝票を丸めると、ボールペンと伝票を渡した。

 ここに越してきたことは、誰も知らないはずなんだけど……。

 そう思いながら、颯太は大きな荷物を部屋に入れた。荷物には取扱注意と壊れ物の札の他は、送り状の伝票が貼ってあるだけである。
 送り主はホベツ製作所、中身は「玩具」と印字されていた。

「……いったいなんだろう?」

 開けて驚いた。

 中身は等身大の人形が入っていた……。
 

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誤訳怪訳日本の神話・41『オシホミミ、母はあそこが欲しい……』

2021-05-23 09:21:14 | 評論

訳日本の神話・41
『オシホミミ、母はあそこが欲しい……』  

 

 

 スクナヒコナと、それに続いたオオモノヌシのお蔭で、豊芦原中国(トヨアシハラノナカツクニ)は安定した豊かな国になりました。

 その繁栄ぶりを雲の上の高天原から見ていたアマテラスは思います。

「あそこが欲しい……」

 アマテラスは、続けて考えます。

——トヨアシハラノナカツクニを治めるオオクニヌシも、その妻であるスセリヒメも、わが弟であるスサノオの子孫。スサノオは高天原で好き放題に暴れまわって、ずいぶん迷惑をかけたわよね……損害賠償とかもしてもらってないし……わたしの子どもや子孫が治めてもおかしくない……というか、わたしの子孫こそが治めるべきよね——

 思い立ったアマテラスは息子であるアメノオシホミミ(正勝吾勝々速日天之忍穂耳命・まさかつあかつかちはたひアメノオシホミミノモコト)に命じます。

「わたしの名代として、あそこを治めなさい。名前も豊芦原中国から豊芦原之千秋長五百秋之瑞穂国(とよあしはらのちあきのながいおあきのみずほのくに)と改めなさい」

「ちょっと長すぎるんじゃないかな……お母さん」

「そう?」

「うん、瑞穂銀行だって、平仮名のみずほ銀行にしてるくらいだし」

「ああ、それって、なんだか子ども銀行みたいで、きらいなのよ」

「でもさ、豊芦原之千秋長五百秋之瑞穂国(とよあしはらのちあきのながいおあきのみずほのくに)銀行なんてありえないでしょ」

「ま、名前は考えるとして、とにかくオシホミミ、あなたが行きなさい!」

「いや、でも、スサノオ叔父さんの子孫の国だよ。ぼくなんか、とても(^_^;)」

「なに言ってんのよ、オシホミミ。生まれた時の事思い出してごらんなさいよ!」

「えと……」

 

 オシホミミは思い出します。

 

 はるか昔、スサノオが母のイザナミ恋しさに母親似のアマテラスを訪ねた時の事です。

 かねて乱暴者の評判が高く信用のならない弟に「真心を示しなさい」と注文。

 スサノオが差し出した剣をバキバキに折ってしまいました。

「な、なにすんだよ、姉ちゃん!?」

 頭に来たスサノオは、アマテラスが差し出した勾玉をバキバキに噛み砕いて吐き出します。

 その勾玉のカケラから生まれた男神の一人がオシホミミだったのです。

 アマテラスとスサノオ二人の因縁が込められているので、アマテラスは最適だと思ったのかもしれません。

 

「で、でもさ、あれってお母さんが、屁理屈で叔父さんやりこめて、ちょっと険悪な雰囲気になったじゃん」

「え、そう?」

「そうだよ。お母さんが叔父さんの剣を折って三人の女神にしたでしょ?」

「そうよ、あの子たちは今でも高天原キャンディーズって呼ばれてるわ」

「キャンディーズ……いつの時代だよ(;'∀')。ま、いい。叔父さんが噛み砕いた勾玉からは、ぼくを含めて五人が生まれてきてさ、高天原のスマップか嵐かって言われたもんだよ」

「あんたも古い」

「キャ、キャンディーズよりは新しい!」

「で、叔父さんは『姉さんは三人、オレは五人だから、オレの勝ちだろ!』って言ったら、『それって、わたしの勾玉から生まれたんだから、わたしの勝ちよ』って、言い負かしたんだよね」

「オシホミミ、ちょっと深呼吸してごらんなさい」

「深呼吸?」

「いいから、やってみる!」

「う、うん」

 スーーーーー

「そこで、息を止める!」

「う、うん…………………………………………………………………………」

「よし、吐け!」

 ハーーーーー

 いきなり言われたオシホミミは、盛大に息を吐きだして、全身の緊張が抜けてしまいます。

 ポコ

「ほらね」

「え?」

「力が抜けるとね、あんた、ポッコリお腹が出るのよ」

「い、いや、これは……」

「国を治めるのは、それくらいに緩んでる方がいいのよ」

「で、でも、ぼくは嫌だよお!」

「オシホミミ!」

「いやだったら、いやだあああああああああ!」

「あ、ああ……逃げちゃった(^_^;)」

 オシホミミはなりふり構わずに嫌がるので沙汰闇になってしまいました。

 

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ライトノベルベスト『SO LONG』

2021-05-23 06:35:18 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

 『SO LONG』 




「SO LONG!」 

 ユキリンが流行の言葉で「バイバイ」と言った。

「SO LONG!」
 軽い気持ちで、同じ言葉を、レジで料金の支払いをしているユキリンにかけた。
 鏡に写ったユキリンが手を振っていたようだけど、優香は、もうほとんど夢の中だった。

 おとつい、バレンタインで、手作りチョコ……つまり本命チョコを誠司に渡した。

「あさってか、しあさって、空いてる?」
 思いがけず、誠司がストレートで聞いてきた。
「あ、あ……」
「空いてるんだね?」
「うん、空いてる!」
「よかった、ホワイトデーまで待つなんて、まどろっこしいだろ。オレも優香がこんなのくれるって思いもしなかったから、優香の気持ちが変わらないうちに予約とらなきゃって思ってさ」
「わたしもよかった。ホワイトデーの次の土日は、お婆ちゃんの一周忌で抜けられなかったから」
「そうか、善は急げで、正解だったな!」
「ほんとだね!」

 もう一カ月半もしたら、学年末テスト、短い春休みを挟んで、新学年。三年生になったら、誠司とはコースが違うので、別々のクラスになる。このバレンタインがキッカケと、なけなしの度胸からいって、告白の最後のチャンスだった。それが、こんな両思いで、話がトントン拍子に発展するなんて思わなかった。

「優香、ショートもいいんじゃないかな。なんだか、優香の積極性は、そっちがあっているような気がする」

 優香は、物心付いたころからロングヘアーで、時にポニーテールやツインテールやオダンゴにしていた。

――そうか、誠司はショートが好きなんだ!――

 そう思って、優香は生まれて初めてショートヘアーにしようと思って美容院ハナミズキに来たのだ。そこで、同じ部活のユキリンに出くわした。

「いいよね、優香は髪質がいいから、ロングが栄えるよ。いろいろヘアースタイルも変化つけられるしさ」

 羨ましそうにするユキリンには生返事をしておいた。どうせ部活でバレるんだけど。いま気づかせることもない。どうでもいいけど……優香は、そんなこんなで、明日の誠司との初デートのことで頭がいっぱいだった。

「はい、できあがり!」

 美容師の立石さんに言われてハッとした。以前にも増して、お嬢様風にアレンジされたロングヘアーだ!?

「内向きにアイロンかけて、可愛さアップだよ!」

――あ、あの時!――

「SO LONG!」
 ユキリンが声を掛けたときに、立石さんはなにか聞いていた……。
「ロングだよね、優香ちゃんは」
 で……。
「そー、ロング!」
 と……聞こえてしまたんだろうなあ。
 立石さんの満足そうな顔、お店の混み具合で、とてもやり直してくれとは言えない優香だった。

 仕方なく、優香は三つ編みの先をトップにもってきてショ-トっぽく見えるようにして、誠司との初デートに臨んだ。
 映画を観て、イタメシでランチ。そして、少し散歩して、お茶にした。

「……ごめん、ショートにしなくて」

 自分をチラ見する誠司の視線に耐えられなくなって、優香は謝った。
「いや、優香は、断然ショ-トだよ!」
 意外なほど強い誠司の物言いに、優香は泣きそうになって、ことの次第を説明した。
「ハハハ……」
「そんなに笑うことないでしょ……」
「ごめん、優香は、断然ロングだよ」
「は……?」
 優香は混乱した。
「オレが言ったのはポジションだよ。優香ぐらい機敏で、積極性があるんなら、守備はセカンドなんかじゃなくて、ショ-トがいいって言ったんだぜ」

 そう、優香の部活はソフトボールで、ポジションはセカンドであった。オッチョコチョイな自分とはSO LONGしたくなる優香であった。

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コッペリア・1『事故物件』

2021-05-23 06:16:56 | 小説6

・1
『事故物件』
            


 

「え、ここですか!?」

 思わず声に出してしまった。

「うん、ここだよ」

 不動産屋は、こともなげに応えた。

「あのう…………オレ、月3万……て言ったんだけど」
「そう、駅から8分、築8年、環境良好、日当たり良好、ご近所良好、内装は全部新装。で、月3万ポッキリ」

 颯太は、改めて部屋を見まわした。

 1LDKとは言え、安出来のワンルームマンションではない。ちゃんとしたアパートだ。安く見積もっても月8万はする物件である。

「え……なんで、こんなに安いんですか?」

 半分隠居仕事のような不動産屋のジイサンが、外の景色を見ながら話を続けた。

「仕事柄、うちは学生さんのお客が多いんだけどね、今日日はみんな親子連れで物件を探しにくるんだ。そこが、あんたは一人でやってきた。それに、見たところ新卒の入学じゃない。時期的に少し早いし、なにより雰囲気が初心(うぶ)じゃない。わけあって学校かわりましたって感じだ。なあに、こんな仕事長くやってると、分かるもんなんだよ。どんな理由で引っ越そうとしてるか。お前さんは、そう差し迫った理由なんかない。親子喧嘩かなにか、勢いで家を飛び出してきた……だろ。悪いことは言わない、もう一度うちの人と、とっくり話すこった」

 不動産屋に飛び込んでいったときに、最初は若いニイチャンが対応してくれたが、途中からこのジイサンが割って入ってきた。どうやら事情を察してのことらしい。どんな仕事も化けるほどやっていると、奥の奥まで分かってしまうところがある。
 どうも、このジイサンは、商売を離れて颯太に説教をするつもりらしい。気のいい颯太は、そんな不動屋のジイサンの気持ちを嬉しく思ったが、基本のところで外している。それに、そんな颯太に、こんないい物件を紹介するのが分からなかった。

「まあ、わしの話から聞きな。お前さんがいぶかるように、ここの家賃は相場の半分以下だ…………事故物件だからね」

 事故物件の意味ぐらい颯太にも分かった。泥棒が入ったとか、人殺しがあったとかいうイワクつきの物件で、その部屋を含めて入居者が減って、家主が家賃を下げている物件のことだ。

「殺しでもあったんですか?」
「そんな剣呑なことじゃないけど、人が死んでる。60をいくつも出ていない人だけど、発見されたのは死後三日目だ。ほら、お前さんが立ってるフローリングの上でこと切れていたんだ。嫌がって隣は引っ越しちまうし、下の空き部屋にも客がつかない。家主もいい歳だし、いつポックリ逝くかわかんねえ。そうなりゃ遺産相続で、このアパートは売りに出される。まあ、まっとうに入っても、いつ追い立て食うかわかんねえってもんだ。どうだ、少しは考え直す気になっただろう」
「オジイサンの言うことは分かるし、半分当たってもいるけど、オレ、そういうの気にしないんです」
「無理すんなよ」
「無理は言ってません。オレんち浄土真宗の寺なんです。真宗じゃ幽霊なんかは存在しませんから」
「ほう、坊主の息子かい」

 ジイサンの目が少し和んだ。奥の和室に座り込んで、颯太は自分のワケ有を話した。

「……なるほどね。今時の若い者んにしちゃあ、殊勝な心がけだ。分かった、話しを進めておくよ。ま、なにかあったらオイラのとこに電話くれよ。ま、さっきも言ったけど事故物件だ、多少のことには目をつむっておくれや、じゃ、ここにハンコ。鍵はこれだ、よろしくな」

 颯太はリビングにペットボトルのお茶を置き、仏説阿阿弥陀経をひとくさり唱えておいた……。

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かの世界この世界:187『大毛島 義経軍の幻と共に』

2021-05-22 09:31:24 | 小説5

かの世界この世界:187

『大毛島 義経軍の幻と共に』語り手:テル   

 

 

 二キロ足らずの鳴門海峡を全力疾走で渡った。

 

 対岸の大毛島の砂浜に立って振り返ると、狭い海峡にはいくつも渦が巻いている。

 あの有名鳴門の渦だ。

 渡るどころか現物を見るのも初めてだった。

 ナルトと言えばコミックだし、学食の中華そばに入っている白地にピンクの渦が巻いている鳴門巻だし、鳴門巻が鳴門の渦にあやかっていたのは懐かしい思い出と共に記憶している。

「なんで、鳴門巻って云うんだろうね?」

 冴子がしみじみと言って笑ったのは、去年の四月。高校に入って初めて学食を使った時の事だ。

 定食はA・B共にニ三年生の勢いに列に並ぶこともできずに、麺類の列に並んで買ったのが中華そば。

 業務用粉末スープを溶いた中に、黄色い中華そば、ネギとモヤシの他には、それだけが彩の鳴門巻。

 冴子は鳴門巻の由来を知らなくって、解説してやると目をへの字にして面白がってくれた。

 なんだか、とても昔の事のように思い出す。

 解説したわたしも、本物のなるとの渦は、渡るどころか見るのも初めてだ。

「ここを走ってきたんですね……」

 歴戦の下士官であるタングニョーストも背嚢を揺すりあげて感心した。

 カサリ

「背嚢のタングリスも感心してるよ」

 骨と皮だけになったタングリスと、それを背負っているタングニョーストを気味悪がったケイトだけども、共に海峡を走破するという偉業をなし終えて、骨のこすれる音にも懐かしさを感じているんだ。

「タングリスがもうちょっと復活して肉が付いていたら渡れないところでした」

「タングニョースト」

「なんだい、テル?」

「わたしにも、戦友の温もりを感じさせてはくれないか」

「テルが?」

「うん、四号に乗ってムヘンの血を乗り切れたのは、いつも隣にタングリスが居たからなんだ。最初は、タングリスが操縦手で、砲手のわたしは、いつもタングリスの背中を見て戦った。ノルデン鉄橋でタングニョ-ストが転属してからは、車長席で、それこそわたしの背中に居た。それを少し偲べればと思ってね」

「そうか、それなら戦友も喜んでくれるだろう……じゃあ、少しの間頼もうか」

「テルの後は、ボクに!」

「ああ、じゃあ、高松からはケイトということで」

「おい、あれは!?」

 ヒルデが岩を挟んだ隣の砂浜を指した。

 イザナギが軽々と岩に登って様子を窺う。

「あれは、義経の軍勢だ。浜に乗り上げて、馬と兵を下ろしている」

「時空が錯綜している、義経がここに来るのは千年先のことだよ」

 歴史オンチのわたしでも、それくらいの事は知っている。

「話題にしていたのは我々だ、呼び寄せてしまったかな」

 目の前の浜で隊列を整えているのは幻だ。

 幻だけれど、まんまと平家の裏をかいた義経は一の谷に次いで奇襲に成功し、平家を壇ノ浦に追い詰める。

 これから、黄泉の国を目指してイザナミを取り返そうとする我々の心を大いに鼓舞してくれる。

 

 いざ、進め!

 

 紫裾濃(むらさきすそご)という、紫系のグラディエーションがオシャレな鎧の袖を翻して進撃の檄を飛ばす義経。

 ピカッ ゴロゴロッ!!

 折から起こった雷光が、兜の鍬形を煌めかせる。

 

 オオ!!

 

 雷鳴に和して、総勢百あまりの軍勢が北西に進路を取って駆け出した。

「威勢はいいが、100ほどの中隊規模でしかないぞ。テル、平家の軍勢は何人ほどだ?」

「ええと……」

 さすがに、高校生の知識では、そこまでは分からない。

「二万近くがいるはずだ」

「分かるんですか、イザナギさん?」

「ああ、源氏も平家も、わたしの裔の者たちだからね、ああやって幻でも現れると分かるようだね」

 そうだ、源氏は桓武天皇の、平家は清和天皇の子孫だ。

「さあ、我々も出発しようか」

 ヒルデが拳を上げて、我々五人の黄泉遠征軍も腰を上げる。

「タングニョ-スト、高松までの前方を敬開してくれ」

「承知しました!」

 身軽になったタングニョ-ストに、歴戦の下士官に相応しい役割を与える。

 殿のわたしに寄り添ってきて、そっと呟くように言った。

「よく、言ってくれた。ただ、交代しようと言うだけでは背嚢を渡さんかったよ、タングニョーストは」

「あ、いや……(^_^;)」

 さすがはヴァルキリアの姫騎士、全て読まれている。

 

 我々は、義経軍の後を追うようにして高松を目指した。

 

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

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ライトノベルベスト・〔俺の妹がこんなにモテるわけがない〕

2021-05-22 06:25:00 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

〔俺の妹がこんなにモテるわけがない〕  




「受けるったら、受ける!」

 妹の小百合は、それで通してしまった。
 俺を含め家族は、もう説得するのにも疲れた。
「まあ、本人の人生だ。やりたいようにやらせてみようか……」
 親父のこの言葉が家族の総意ということになった。

 小百合は、来春に打ち上げられる人類初の超光速宇宙船の乗り組員に応募しようというのだ。
 なんせ、人類初の超光速である。なにがおこるか分からない。

 妹の小百合は兄の俺がいうのもなんだが、取り柄が無い。

 高校は平成に創立され、今年創立二百周年を迎えた古いことだけが取り柄の『青春高等学校』これが『聖駿高校』でもあれば、音はおなじでも21世紀初頭に流行ったテレビ番組と同じでカッコいいんだけど、なんにもなしの『青春』。この200年間偏差値48を奇跡的に維持。学校関係者は、いっそ『SSK48高校』にしようと真面目に考えたほどである。
 その青春高校でも特に成績がいいわけでもなく、かわいいわけでもない。
 名前が示すように、イメージ古すぎ。平成の時代だったら小野さんが生まれてきた娘に「小町」と名付けるようなもの。この23世紀はカタカナの名前が一般的だ。ちなみに小百合は、この夏に大失恋している。フッた男が玉置コージ、横からかっさらっていったのが親友と思っていた名取ヨウ。二人とも並の上ってとこだけど、フラれた小百合にはフラれたという傷しか残らない。
 存在感の薄さも災いしている。遠足で点呼して、どうしても一人足りない。三回目にやっと小百合を飛ばしていたことを担任が気づくぐらいに存在感が無い。

 そこへ、宇宙船の乗組員の募集があった。

 昔の宇宙船と違って、居住性は客船並。人工重力もあり、21世紀のように宇宙酔いなどはしない。まるで超人を養成するような特殊訓練もない。ただ超光速は人類初で、なにが起こるか分からない。一か月でマゼラン星雲まで行って帰ってくる予定だが、学者によっては、古臭い相対性理論を持ち出して危険と叫ぶ人もいたが、その昔、超音速に人類は耐えられないと言われた以上に少数派で、完全に無視された。

 ……それから40年がたった。

 小百合を乗せた宇宙船は、まだ帰ってこない。専門家は超光速のあまり、異次元に入り込み、二度と、この世界には現れないだろうということで意見が一致していた。

 発射場には記念碑が建てられ、犠牲者の碑が横に並んでいる。全部漢字の小百合の名前は目立っていた。石碑になってやっと目立てたか……老眼の進んだ目に眼鏡という古典的な視力矯正器をかけて、俺は石碑を撫でた。
 23世紀も半ばを過ぎると、ほどほどの科学というのが流行り、日常生活は古典といっていい風俗に変わり始めていた。細胞操作をやれば125歳ぐらいまでは生きられるのだけど、人は、あえて自然な人生を選ぶようになり、親父もお袋も人工関節には入れ替えているが、人並みの年寄りになっていた。

 この墓参りのような妹への追憶も、これを最後にしようと決めた。

 俺たちには、世話をしたり関心を持たなければならない家族や妻や子や孫たちがいる。この23世紀では、まだまだ仕事もしなければならない。
「じゃ、小百合。これでお別れするよ……」
 親父とお袋は、さすがに涙ぐんだ。息子夫婦は神妙にしているが、孫たちは帰って遊びたくて仕方がないようだった。顔も見たことが無い40年前の大叔母などに興味の持ちようはない。

 ……それは、十年に一度あるかどうかと言われるぐらいの、まるで、空がコバルトブルーの海に恋をして染まってしまったような秋晴れの日だった。

 月の交通管制局が、突如地球と月の間に現れた、見たこともない宇宙船の出現に気づいた。

『いきなりコスモレーダーに現れたんです。いやあ、交信した時には驚きました!』

 管制官が、モニターの中で興奮した顔で言っている。

 そう、小百合を乗せた超光速宇宙船が帰って来たのだ!

 宇宙船の搭乗口が開くのを固唾をのんで見守った。

 信じられなかった。乗組員たちは40年前に出発したときそのままの姿だった。
 相対性理論は生きていた。光速以上で移動する乗り物の時間は、その速度に従って短くなる。

「え……おにいちゃん!?」

 そう言って驚いた小百合は、高校三年生のままだった。

 そして、この時代は、新古典主義の時代と言われ、400年以上前の昭和や、平成、令和の文化がもてはやされていた。

 40年前では、なんの取り柄もない小百合だったが、23世紀末では得難い『生きた平成』ともてはやされた。コンタクトレンズ以外何も人工的なものをほどこしていない小百合は、それだけでも賞賛の的だったが、そのルックスと物腰は、トップスターが真似ようとしてもできないもので、小百合は世界のアイドルになってしまった。

 ああ、俺の妹が、こんなにモテるわけはない……のに!

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真凡プレジデント・90《おしゅらさま》

2021-05-22 06:07:03 | 小説3

レジデント・90

《おしゅらさま》    

 

 

 お寺の復旧が真っ先だったそうだ。

 

 大勢集まれる施設が、この集落ではお寺。

 被災直後は、じっさいお寺の本堂に避難した人が多かった。お寺は集落の中でも高台にあって、中でも本堂は床の高さが1.5メートルあって床上浸水を免れていた。だから防災上の問題から復旧が早くなったのかと思ったけど、集落の常識では、何を置いてもお寺からなんだそうだ。

「ここらでは、お寺と言うのが共同体の中心なんだよ」

 藤田先生の説明に「そうなんですか」と答えたけど、ピンときていたわけではない。

 最初にやったのは流木の始末だ。

 被災直後に自衛隊が粗々には片づけてくれてはいたんだけど、生活が落ち着くにしたがって、もう少しやっておきたいところが出てくる。通学や畑仕事の邪魔になっていたものや、あちこちの隙間的なところに挟まっていたり隠れていたりするものがけっこうある。

 そういうものにロープを引っかけて動かすのにはハンビーなどの軍用車両は四駆や六駆で馬力もあるのでうってつけなんだ。

 半壊した納屋や農機具小屋などの取り壊しにも役に立った。

「子守を頼んでいいかいね?」

 お祖母さんに声を掛けられた。

「子守に手をとられて、こまごましたところに気が回らないとことがあるのさ。そういうところに年寄りも出張りたいんで、子守してもらえるとありがたいんだけども」

「はい、わたしたちでよければ」

 生徒会執行部で七人の子守をすることになった。

 お寺の境内や本堂で鬼ごっこをやったり石けりをやったり、本を読んであげたりした。

 夕方になると、年長の子たちがトウモロコシを持って加わった。「どうぞ食べて」と焼きトウモロコシを勧めてくれるんだけど、被災地のものを食べるわけにはいかない。

「もう、食べ物に困ってる段階じゃないから」

 そう言ってくれるし、住職さんも「どうぞどうぞ」と勧めるし、いっしょにお話したりで夕食までを過ごした。

 夕食後、手のすいた人たちも集まって、本堂はけっこうな賑わいになってきた。

「すみません、なんだか遊びに来たみたいで……」

 恐縮して頭を掻く。

「そだ、あたしたちボランティアなんだよ!」

 なつきが寝ぼけたことを言う。

「なんのなんの、こうして楽し気になるのが一番よ」

「そうなんですか?」

「暗くなってては、おしゅらさまも退屈するけんね」

「おしゅらさま?」

「ああ、座敷童みたいなもんで、あんまり暗くしてると居なくなってしまう。おしゅらさまが居なくなると、村は寂れるでね」

 和尚さんが頭を掻く。

「ちょっと、数えてみるか」

 子守のお婆ちゃんが言うと、若い人数人で本堂に集まった人たちの人数を数え、もう一人が名簿を作り始めた。

「じゃ、名前を呼びますんで、お返事ください」

 名簿に従って呼名点呼。むろん、わたしたちも数の内。

「……最後にご住職」

「はい!」

 呼びあげた名前は三十三人。

「で、何人いる?」

「はい、三十四人です!」

 頭数を数えた青年団の女性が答える。

「よしよし、ちゃんとおしゅらさまはご座らっしゃる」

「「「「「え?」」」」」

「知った顔ばかりでも、数えると一人多い。なんなら、やってみますか?」

 和尚さんが、いたずらっぽく勧める。

「わたし、やる!」

 なつきが立候補して呼名点呼。紛らわしくならないように、みずき先輩が人数分だけ紙を用意して、綾乃が呼ばれた人に渡していく。

「紙無くなったわよ」

 和尚さんに渡して三十三枚が無くなった。

 すぐにみずき先輩と琢磨先輩が、紙を掲げてもらったうえで人数を数える。

「「三十四人……」」

 

 拍手が起こって、村のみなさんが口々に「めでたいめでたい」と唱和する。

 

 ちょっと不思議なボランティアの夜が更けていった……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女
  •  コウブン     スクープされて使われなかった大正と平成の間の年号

 

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