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「突然だが、君は4月2日生まれだそうだな?」
武藤進一は、突然自分の前で急停車した61式戦車から出てきた筋骨たくましいジイサンに聞かれた。
ラノベ風に言うとこうなる。事実は以下の通り。
啓子伯母さんのお店ヒトマルで会議の結果、61式(1961年生まれ)のお父さんに見合いをさせるために、お父さんが断る言い訳にしている条件を潰すことになった。照れくさいとか、亡くなったお母さんへの義理立てなどは、簡単にお祖父ちゃんが論破する。
しかし、一人娘であるあたしが結婚するまでは……というのは説得力がある。
そこで啓子伯母ちゃんと、勲(いさお)祖父ちゃんは、あたしを心身共に締め上げて好きな男の子を白状させてしまった。心身ともにというのは「お父さんを幸せにしてあげよう!」の繰り返しと、あたしがもっとも苦手とするクスグリの拷問で自白させられてしまったという意味。
「あ、あ、アハハ、キャハハ、死ぬう……武藤進一先輩!」
泣き笑いの末に虚脱したようなあたしをホッタラカシにして、お祖父ちゃんと伯母ちゃんは、あたしの監視にバイトのチイちゃんを残し、61式戦車のレプリカに乗って、部活に登校中の武藤先輩を掴まえたわけ。
なんで、戦車のレプリカが公道を堂々と走れるかと言うと、この戦車は特殊車両の登録がされていて、これまでも、地震や台風被害の復旧やら、不法駐車の自動車のレッカー移動に警察に協力してきた。で、隣が警察署なんで、一声掛けるだけで出動ができてしまう。
武藤先輩は、砲手のシート(このレプリカ戦車には、実弾は出ないけど90ミリ砲がちゃんと付いている)に縛られて、喫茶ヒトマルに拉致られてきた。
「に、西住。これは、どういうことだよ!?」
戦車から放り出されるようにして出てきた武藤先輩は、笑い死にしかけて、虚脱状態のあたしに聞いてきた。
「そ、その、二人に聞いれくらさい……」
危うい呂律で、そう答えるのが精一杯だった。
「武藤君、わが孫の栞は、君のことが好きだ。君は栞のことをどう思っとる?」
なんちゅう正面攻撃!
「は、はあ……」
「しっかりせんかい。日本男子だろうが!」
「四択にしましょう。大好き、好き、嫌い、大嫌い、以上4っつからえらんで!」
伯母ちゃんもムチャを言う。
「嫌いなわけはないだろう。栞は、わが孫ながら、70年の人生で見ても、若い頃のうちの婆さんよりもかわいい。親思いで性格も良い」
「は、はあ、それは……」
あいまいそうだが、こういう状況では先輩の答が真っ当だろう。そう思って言いかけると、チイちゃんが耳の後ろをくすぐってくる。あたしの最大の弱点を、この学生アルバイトのチイちゃんは、祖父ちゃんたちから聞かされて、よく知っている。
「その上、バージンだ。わしが保証する!」
祖父ちゃんの、その一言で武藤先輩は鼻血を流してしまった。
「ハハ、その鼻血が答えじゃのう。啓子、書類を!」
「はい、これ!」
なんと、啓子伯母ちゃんが出したのは婚姻届だった!
「あの、それは……キャハハ」
チイちゃんがまたしても耳の後ろ攻撃。
で、むりやり署名させられてしまった。
「だ、大丈夫、先輩。未成年の婚姻は親権者の同意が必要だから。こ、これはね……というわけで、お父さんを見合いさせるためのウソッコがから。キャハハ……」
そう言うと、先輩は事情が分かったのか、サラリと署名した。
こういうノリの良いイケメン半なところが、あたしは好き。
「で、承諾書は、どちらかの親権者でいいから、あたしとお祖父ちゃんで書いといた」
「あ、でも、これって公文書偽造になりませんか?」
こういう土壇場で冷静なところも、あたしは好きだ。
「役所に届ければね。ただ、栞のお父さんに見せるだけだから」
着々と、61式の見合い作戦は遂行されていった……。