大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・324『初めてのお寺』

2022-07-26 14:35:47 | ノベル

・324

『初めてのお寺』古閑巡里   

 

 

 お寺に足を踏み入れるのははじめて。

 

 遠足で、いくつかのお寺には行ったけど、感覚的には観光地。

 はっきり覚えているのは、鎌倉と奈良の大仏。

 そう、大仏なんだ。

 ちょっとイケメンと思ったのが鎌倉の大仏。デッカイと思ったのが奈良の大仏。

 両方とも大仏には感心したけど、お寺の名前は憶えてない。

 他のお寺とか神社は、ほとんど憶えていない。

 うん、普通の高校生なら、お寺って、そういうものだと思う。

「え、畳敷きなの?」

 さくらの説明を聞いて、ちょっとビックリ。

 奈良の大仏も鎌倉の大仏も、忘れた他のお寺も床は石葺きだったり板張りだったり。

 本堂が畳敷き、ちょっと新鮮。

 

――食材として生まれてきた命は無い――

 門の横の掲示板に格言が貼ってある。

 な、なるほど……ちょっとたじろいでしまう。

 自分の家に門があるだけで――すごい!――とたじろいでしまうのに、この教訓。

 お父さんの職場にも立派な門というかゲートがあってポスターとか貼ってあるけど『隊員募集』とかで、教訓めいたことが書かれてあることは無い。建物とか施設の前に立って、こんなに緊張したことは無い。

 門の横には車の出入り口があって、見覚えのある青色ナンバーの車がお尻を向けている。

 先輩は、もう来てるんだ。

 門に踏み込んで、視界の端にインタホンが目に留まる。

 二歩戻って、インタホンを押す……………………手ごたえがない。

 普通の家は、屋内のインタホンが『ピンポ~~ン』とか鳴るのが聞こえたり『はい』とか返事が返って来る。

 ひょっとして電源入ってない?

 もう一回押してみようか、それとも、ここから呼びかけようか?

 呼びかけるとしたら……母屋っていうんだろうか、お寺の人が住んでる住居部分までは、プールの端から端までくらいある。かなり大きな声を出さないと、声届かないよ。

 そうだ、スマホで!

 スマホを出そうと、リュックを外したところでインタホンから声がする。

『そのまま本堂から上がって! 迎えに行くから!』

 元気のいいさくらの声。

「うん、分かった!」

 思わず大きな声出してしまって、境内に足を踏み入れる。

 本堂の前には階段。

 え、どこで靴脱ぐんだろ?

 奈良の大仏は、中まで土足だったし……本堂は畳敷きって言ってたから、靴は脱がなくちゃならないんだろうけど、階段の下? 上がったところ?

 フニャァァァァァ

 迷っていると、足もとで鳴き声がしてビックリ!!

 ウワアアアアアアアア!

 これは化け物かというくらいの猫が足もとにいる!

「ちょ、どないしたん!?」

 本堂の入り口が開いて、さくらが顔を出す。

「え、あ、アハハハ、猫にビックリしちゃってぇ」

「ダミア、こっちおいで!」

 フニャ

 化け猫は、スタスタと階段を上がって本堂の中に入ってしまう。

 続いて上がろうとしたら「靴は脱いでぇ」とさくらに注意される。

「上がったとこに下駄箱あるさかい、ここに入れといて」

 よく見ると、階段の横に注意書き『お履き物は、お脱ぎになって、階段上の下足箱に入れてください』とある。

 

 今日は、ヤマセンブルグ行を一週間後に控えて、メンバーで打合せ。

 打合せの中身よりも、お寺初体験の方がおもしろかったメグリでした(^_^;)

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
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やくもあやかし物語・150『チカコを捜す・大奥』

2022-07-26 11:21:50 | ライトノベルセレクト

やく物語・150

『チカコを捜す・大奥

 

 

 大玄関を上がると和風のラビリンス。

 

 板敷や畳敷きの廊下が稲妻のように巡っていて、ゲームの迷宮ダンジョンに差し掛かると投げ出してしまうわたしは、早くも顎が出てしまう。

「大丈夫です」

 アカミコさんは、いくつもある分岐は完全に無視して黙々とわたしを先導していく。

「……人が居ないねえ」

「チカコさんを探すための捜索モードですから、捜索対象以外は見えない仕様にしています。見えるようにします?」

「あ、ちょっとだけ」

 昔のわたしなら、必要のない人には、なるべく会わないようにする。でも、あやかしとの関りが増えたせいか、ちょっとぐらいなら、この目で見てみたいって思ったりするんだよ。

「承知しました」

 アカミコさんが応えると、廊下の向こうから、袴姿のお侍さん……なんでか、お坊さんまで歩いてくる。後ろからも似たようなのがやってきて、前からやってきた方が廊下の端に寄って頭を下げる。

「こちらの方の方が格下なんです。礼儀作法が厳しいんですよ」

「そうなんだ、いちいち立ち止まって、下っ端はなかなか目的の場所に着けないねえ(^_^;)」

「あっちをご覧ください」

「え?」

 そっちを見ると、下っ端らしい人たちが部屋の中に居て、出番を待っている歌舞伎役者みたいに控えている。

「やり過ごしているんです。だいたい、役職によって通る時間決まってますからね。ああやった方が早いんです」

「なるほど……お坊さんみたいな人は?」

「茶坊主です。役割はメッセンジャーボーイでしょうか、人を案内したり取次をしたりします。身分的にはお坊さんです。お坊さんは法外という建前ですので、身分にかかわらずお城のどこへでも行けましたし、口をきくこともできました」

「なるほど……でも、男の人ばっかしね」

「男女の区別は厳しかったですからね、女性が居るのは大奥に限られています」

 ちょうど、その大奥が見えてきた。

 廊下の突き当りが黒い漆塗りの観音開きになっていて、観音開きの前には裃姿の若いお侍さんが二人で番をしている。

「お鈴口って言うんです。紫の房が下がっているでしょ。将軍が来られると、あの房紐を引くんです。すると、鈴が鳴って、向こう側で番をしている奥女中さんが開けてくれることになっています」

「そうなんだ……」

 小学校の正門を思い出した。正門には、朝なら先生、それ以外はお爺さんが居て出入りをチェックしていたよ。

「えと、わたしたちは……」

「これは、ただのイメージですから、わたしたちはすり抜けていきます」

 スーーーー

「なんだか幽霊になったみたい(^_^;)」

「ですね。死ぬというのは別の次元に行くのと同じですから、こんな感じかもしれませんね」

「フフ、そうなんだ。ちょっと面白いかもね」

 お鈴口を通ると、みごとに女の人ばかり。

 チカコを捜しに来たというのに、なんだかウキウキしてしまう。

「さっきの所よりも人が多いね」

「御台所のチカコさんにお仕えしている者だけで500人ほど居ますからね」

「500人!?」

 500人なんて、学校一つ分くらいだよ、さぞかし賑やかだろうなあ。

 

 シーーーーン

 

「あれ……静か……」

 あちこちに奥女中さんや、その世話をするお女中さんが見えてきたんだけど、話声が聞こえない。

 人が動く衣擦れの音やら、襖とかを開け閉めする音が微かにするんだけど、それ以外は、庭にやってきた小鳥のさえずりが聞こえるくらいのもの。

 キョロキョロしていると、たまに用事を伝えたり話をしたりを見かける。だけど、ぜんぜん声が聞こえない。

 思わずインタフェイスを開いて、音声ボリュームの設定を変えたくなる……というのはゲームのやり過ぎなんだろうね。

「これが、当時の作法なんです……ほら、あそこに御台所のチカコさん」

「え……あれ……が?」

 広い部屋の床の間の前にリアルサイズのお雛さん……と思ったら、雛人形みたいなコスの……ようく見たら眉毛が無い。

 でも、目鼻立ちにはチカコの面影?

「昔は、嫁いだ女性は眉を剃ったんですよ。まだ起きて間がないから点眉も引いてはいませんし」

「点眉?」

「あ、こんな感じです」

 アカミコさんが示すと、生え際の下あたりに、いかにも描きましたって感じの丸い眉が現れた。

「ああ、こんなコスとかメイクしてたら鬱になるわぁ」

「いいえ、これはチカコさんにとっては普通なんです。お嫁入の時に『すべて御所風でやっていく』って約束をとりつけていますから」

「そ、そうなんだ」

 あ、アクビした。

 さすがにお姫様の御台所なので、扇子で口を隠すんだけど、なぜか扇子が半透明になって見えてしまう。

「え、口の中真っ黒!?」

 なんか、悪い霊にでも憑りつかれてる?

「鉄漿(おはぐろ)です」

「オハグロ?」

「昔は、嫁いだ女は眉を剃って歯を黒く染めたんです。既婚者だって、いっぱつで分かるでしょ?」

「なるほど……」

「外国から不評だったので明治になって止めたんです。わたしだって……」

「え?」

 こっちを向いたアカミコさんは御息所のチカコと同じく、点眉の鉄漿!

「昔は、こうだったんですよ。でも、神田明神の神さまたちは『なにごとも当世風がいい』ということで、その時代時代に合ったナリをしています」

 つるりと顔を撫でると、いつものアカミコさんに戻った。

「早回しにします」

 スススススススススス

 小さな音をさせながら、チカコと、その部屋の様子が早回しになる。

 目がチカチカしてくる。数秒で昼夜が入れ替わっていくからだ。

 何カ月、何年もが動画の早回しのようにカクカクと過ぎていく。

 僅かなぐらつきはあるんだけど、チカコは、ずっと床の間の前に座ったまま。

「ほんとに、お人形さんみたい……」

「もちろん、夜は寝るし、食事もとるし、たまには出かけたりもありますけど、早回しにするとこうなるんです。少しだけ遅くします」

 たしかに、ほんの一瞬床の間の前をコマ落ちしたみたいに居なくなる。そのわずかの間に他の事をやってるんだ。

 再び早くなると、今度は目が慣れて、瞬間消えたところも分かってきて、チカコの後ろの床の間も重なって、幽霊じみて見える。

 なるほど、チカコが「お城は嫌い」と言っていた意味が分かった。

「あ、でも、ここに見えているチカコは昔の記録なんだよね。いまのチカコがいるかどうか探らなくっちゃ!」

「そうですね、もう一度探ってみましょう」

 アカミコさんがつまみを回すような仕草をすると、チカコの姿は逆廻しになった。

「……ありました、この瞬間です!」

 静止画になった。

 その瞬間、部屋は無人になったけど、アカミコさんは屋根の間に垣間見えている天守台を指さした……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
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漆黒のブリュンヒルデQ・067『牙をむくショコラモナカ!』

2022-07-26 06:48:06 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

067『牙をむくショコラモナカ!』 

 

 

 
 バグっちょるみたいじゃ!

 
 玉代が立ち止まる。

 恐れているというのではなく、下手に立ち入ってバグをひどくさせるのを警戒しているのだ。

 我が家は処理おち寸前のようにカクカクして、家を取り囲む空間はヂヂっとノイズが走っている。

「ここで待っていて、わたし一人で入る」

「でじょうぶ? 加勢ならどしこでもすっじゃ」

「外がバグッているぶん、中は意外に平穏なような気がする……とんでもない悪意を感じるんだけど、こちらから仕掛けるのは得策じゃないような気がする」

 幾たびも戦場を駆け巡った漆黒の姫騎士の勘だ。敵が策略を巡らしている時は、乾坤一擲の打開面が見えるまでは気づかぬふりがいいのだ。

「じゃっどん、危なかて思うたや声あげて」

 そう言って玉代が肩を押してくれたのをきっかけに、門扉を開ける。

「ただいまあ、あ、なんかいい匂いするねえ(^^♪」

 煎餅を焼くような匂いがするので、高二の娘らしく反応しておく。

「おう、いいところに帰ったな。たった今ショコラモナカを焼き始めたところだぞ」

 啓介が子どものころみたいに玄関まで迎えに来てくれる。

「え、アイスを焼いてるの?」

 これはフェイクだ。

 ショコラモナカを三十秒焼いたら美味しくなることは知っている。

 祖父母が聞きとがめたら本物だし、知らずに自慢するようなら、なにかが祖父母に憑りついた偽物だ。

 リビングに入ると、お祖母ちゃんがニコニコとオーブントースターの前で手を挙げ、お祖父ちゃんはイソイソとコーヒー豆をひいている。

「おかえり、ひるで。いま、すっごいのができるからね!」

「コーヒーもとっておきのブルマン挽いてるところだからな(⌒∇⌒)」

 二人とも機嫌がいい。リビングは、とってもフレンドリーな時の我が家の空気だ。

 だが、この様子はおかしい。

「ショコラモナカを焼くとね、とっても美味しくなるのよー(^▽^)/」

「えーーほんと、知らなかった!」

 かましてみるが、わたしがすでに『ショコラモナカの美味しい食べ方』を知っていることが分かっていない。夕べ、この話題で盛り上がったはずなのに。

 チーーン

「さあ、焼けたわよ(^^♪」

 オーブントースターの蓋が開けられようとする。

「あ、熱い!」

「お婆ちゃん、わたしがやる」

 成り行きに身をゆだねて進み出る。

「あ、おねがい」

 身を滑らせて祖母と入れ替わり、蓋の取っ手に手をかける……。

 
 グワーーーッ!!

 
 香ばしい匂いをさせてショコラモナカが飛び出し、牙をむいて飛びかかってきたぞ!

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・15『俺とツインテールのメイドは同時に驚いた』

2022-07-26 06:21:45 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

15『俺とツインテールのメイドは同時に驚いた』

 


 グラスに半分になった酒をどう表現するだろうか?

 ノンアルコールでも構わない、質問を受けたキミの好みでいい。

 A:もう半分しかない B:まだ半分ある この二つに分かれるだろう。

 Aは、半分しかないからヤバイと思うネガティブ人間。

 Bは、まだ半分残っていると思うポジティブ人間。

 俺はω口のお気楽な奴で、Bと思われがちだがどちらかというとAだ。基本はBのお気楽人間のはずなんだけど、こと定期考査などには、残ってる半分、気を抜いちゃだめだ。と、ひねって思う方なんだ。前半は失敗せずにやれたけど、後半はヤバイんじゃねえかと心配する。まあ、バクチとか賭け事にはのめり込まない性質だ。

 ちょっと屈折しているのかもしれない。

 でも、ガチガチの思い込み人間じゃないので、人から誘われれば「ま、いっか」と息抜きすることにやぶさかではない。

 で、今日は俺以上にお気楽人間のノリスケにラチられてアキバに来ている。

 一人で来るときは、たいてい昭和通り口から下りて、アキバを大回りするんだけど、今日は電気街口からだ。

「やっぱ、アキバは、この広場だなあ」

 俺は、改札を出て直ぐの広場で大きくノビをする。

「う~~~ん!」

 ノビをしてズボンを揺すりあげるとこなど、もう立派なオッサンだ。

「ノビをした後って涙目になるんだよな」

 右手の甲で目をこする。

「両手でやるとオコチャマみたいだぞ」

 ノリスケがたしなめる。

「るせー、おまえと違って、おれは基本テストモードなんだ」

「オメガさ、ノビした直後の涙目、なかなかだぞ。お気楽が半分になって、そのぶん憂いの表情になって女心をくすぐるかもな」

「くすぐりたかねーよ。とりあえず飯にしようぜ」

 テスト期間中は学食が休みなので、まだ昼飯を食っていないのだ。

「「とりあえず」」

 

 声が揃って牛丼屋を目指す。

 らっしゃいませーーーー!

 元気な声に迎えられてカウンターに着く。

 ドン

 すかさず牛丼屋特有のデッカイ湯呑が置かれる。

「ご注文は!」

 オレンジ色のユニホームが伝票を構えている。

「「大盛り、つゆだく」」

 声の揃うところは腐れ縁だ。

「あ、雄ちゃんとノリスケ君じゃんか!?」

 オーダーを通した直後にオレンジ色が驚いた。

「「あ?」」

 それは学食の南のオバチャンだった。

「学食辞めたんですか?」

「新学期が始まるまでね、春休み中は学食休みだからね」

 事情は分かったけど、俺が昼飯を食うところでは、いつも南さんがいるようで可笑しくなる(^▽^)。

「日本のオバチャンはたくましいなあ」

 ノリスケも素直に感心している。

「へい、お待ち、大盛りつゆだく二丁ね」

 ドン

「「どもお」」

「学食仲間の女子はいっしょじゃないのね?」

 南さんの言葉に、不器用に微笑むシグマの顔がシャンプーだかの香りとともに蘇る。

「あ、あーーー」

 我ながら間の抜けたため息が出る。

「自衛隊の音楽隊が来た時はいっしょだったよね」

「あ、はーー」

「おまえ、あいつと付き合ってんのか?」

「んなんじゃねーよ」

「ちょっと、唐辛子かけすぎじゃね」

「わ、あわわわ(;'∀')」
 

 奇遇な牛丼を食って、再び広場に戻る。

「あーーーー!」

「なんだよ、急に!?」

「私服で来るんだったーーーー!!」

「なんでだよ」

「だって、制服じゃ18禁のコーナーには行けねえじゃねーか!」

「それしかねーのか!?」

 ノリスケの雄たけびが恥ずかしい。

「あーーーエロゲエロゲエロゲーーーー!!」

「エロゲエロゲって言うんじゃねーよ!」

 

 その時、俺たちの前にポケティッシュがスラリと差し出された。

 

「「メイド喫茶@ホームでーす」」

 二人のメイドさんが微妙な時間差でアピール。

 ツインテールの子は、向こう側の通行人にティッシュを渡していたので時間差になったのだ。

「ども」

 俺は、こういうポケティッシュ配りにも、タイミングによっては返事をしてしまう。

「「え!?」」

 俺とツインテールのメイドは同時に驚いた。

「ゆうくん!」

「松ネエ!」

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)    高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)    高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
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鳴かぬなら 信長転生記 83『曹素の汚い計略』

2022-07-25 10:20:25 | ノベル2

ら 信長転生記

83『曹素の汚い計略』信長 

 

 

 なんで輜重隊が来るんだ(ꐦ°᷄д°᷅)!!?

 

 茶姫は激おこぷんぷん丸だ。

 無理もない、茶姫は銃装した近衛騎兵師団を引き連れ、卯盃(ぼうはい)を出発し、扶桑(転生国)の南辺をかすめて、その後の二日間で魏・呉の国境まで疾駆してきた。

 それは、銃装した騎兵の機動力・突破力を内外に示すと同時に軍事的に無欲であることを示すためである。

 万余の騎兵が集まろうと、騎兵だけでは大した脅威にはならない。

 騎兵一人一人が持っている銃弾は、縛帯に備えたカートリッジに四つ、弾数にして20発余りに過ぎない。銃に籠められているものを含めても25発。射撃すれば1分も持たない。

 扶桑の南辺をかすめた時に信玄と謙信が物見にきていたが、輜重を同伴しない編成を確認すると、さっさと帰ってしまった。茶姫の意図を理解したからだ。

 蜀の孔明も、すばやく理解すると、強硬派の関羽と張飛を退けてしまった。

 それが、恐らく最後の訪問地であろう、魏・呉の国境線に至って、本国の魏に帰したはずの輜重部隊が現れたのだ。

「すまん、茶姫。予定よりも半刻遅れてしまった。直ちに補給を行う!」

 曹素が手を挙げると、向こう岸から輜重の本隊がジャブジャブと川を押し渡って来る。

 曹素も本業の輜重に関してはバカではないようで、荷駄の上では輜重兵たちが、弾薬箱や糧秣箱を開けて直ちに騎兵一人一人に補給できる体制をとっている。

 茶姫が、その気なら、五分もあれば突撃体制がとれるだろう。

「ニイ、チュウボウが居ない!」

 シイが色めき立つ。

 無理もない、チュウボウ孫権は呉王孫策の弟だ、グズグズしていたら殺されるか人質に取られてしまう。

 おそらくは、身を隠していた警護の者が身を引かせたのだ。今ごろは警護の者ともども都の建業に向かって馬を走らせている。それに、チュウボウは写真を撮りまくっていた。ほとんどが茶姫の水着姿だが、その後ろには茶姫の部隊が映っている。孫策と、その重臣たちが見れば魏軍の奇襲部隊と見るに違いない。

 ジャラリ!

「我らが兄君にして、魏王、曹操の命令書である! 謹んで聞け!」

 音をさせて竹簡を広げると、茶姫が声を発する前に宣言する曹素。

 宣言されては、茶姫といえど慎まねばならない。騎馬の部下たちが反射的に下馬するのに習って蹲踞する茶姫。

「この度の奇計、誠に見事である。朕は我が妹であり近衛都督である曹茶姫の意を嘉し、呉王孫策と王弟孫権の誅殺と呉の討滅を命ずるものである。よく我が意を帯し、曹素を副将とし、もって天下の太平の基を開け。三国志嘉吉三年、魏王曹操!」

 ジャラ!

 大仰に勅命の竹簡を示すと、卑しい微笑みを浮かべる曹素。

 ギリギリギリ……

 ここまで茶姫の歯ぎしりが聞こえてくる。

 このくそ曹素……!!

 シイも負けずに憤怒に呼吸を乱している。

 茶姫が、常に冷静で忍耐強い選択と決意ができることは、この三国志にきてからの付き合いでよく分かっている。

 さあ、茶姫、この危機に、どのような決断をするのか!?

 

 中天に差し掛かろうとする日輪が悪逆の曹素を後ろから際立たせる。まるで、魔王のシルエットだ!

 

 一瞬の殺気!

 刹那の逡巡を憶えたが、戦国の争乱で鍛えた体が反応した。

 茶姫の肩が震えた瞬間に悟った、茶姫は自刃する!

 次の瞬間、茶姫は太刀を抜いて己が首に擬した。

 キエーーー!

 フロイスをもって『時に信長は怪鳥のごとき奇声を発して電撃の如くに行動する』と言わしめた声を発して茶姫に飛びかかると、太刀を叩き落とし、そのまま抱えて馬に飛び乗る!

 瞬時に鞭を当てると、馬は瞬発した!

「なにをする、ニイ少佐!!」

 茶姫が俺をなじったのは、その直後であるが、すでに二人を乗せた馬は風を切って南への街道を疾駆し始めている。

「ニイちゃーーーーん!」

 シイだけが、幼い日に清州の街に遊びに行き、興に載って駆け出した俺に置いてけぼりを喰らった時、その時と同じ怒りと不安の叫びをあげながら付いてきた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  •  

 

 

 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・066『大出井老人と出会う』

2022-07-25 06:26:02 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

066『大出井老人と出会う』 

 

 

 

  正直言って手が回らない。

 
 何がって? 

 ウィルスよ、琥珀浄瓶の奴が日本に残した置き土産。

 自分の家に関わるものはアスクレピオスのお札で封じたけど、お祖母ちゃんのマイバッグ。そう、日本中の婆さんたちがエコだと信じて懐に忍ばせている怪しげなやつ。市販のもあるけど、年寄りは変に器用だったりして手製のマイバッグというのが流行ってる。

 お祖母ちゃんはレザークラフトとかが得意で、マイバッグなんてササッと作れてしまって「武笠さん、すてき!」なんて言われるものだから、しこたま作ってあちこちに配ってしまった。それに琥珀浄瓶の置き土産たちが憑りついて東京中に広まってしまった。

 今日も新宿まで出張って、お祖母ちゃんがまき散らしたウィルス共を退治しての帰り道。

「見て、家ん方角に怪しげな気が満ちちょっ」

 改札を出たところで玉代が立ち止まった。

「え?」

 玉代の視線を追うと、切れ切れに怪しげな気が立ち上っている。マーブル模様というかパッチワークというか、複数の気が混じり合って正体が分からなくなっている。

「ちょっと急ごう」

「うん」

 角を曲がったら家が見えるというところでねね子に出会った。

「ねね子」

「あ、紹介するニャ」

 ねね子は遅れて付いてきた老人を示した。

「大出井のお爺ちゃんニャ、武笠のお爺ちゃんお婆ちゃんのお知り合いで、ちょっとお散歩に出たいとおっしゃるのでお供してるニャ」

「は、はあ。武笠の孫です、こちらは親類の玉代……」

 不得要領に挨拶、老人は尋常でないオーラをまとっている。玉代も、それが分かっているのだろう、ペコリと頭を下げてただけで、ボーっとしている。

 どうも人間ではない感じなんだけれど、悪意や害意は感じない。

 いったい何者?

「大出井です、いやあ、元気でやっているようで、取りあえずは安心」

「えと、わたしのことご存知なんですか?」

「そりゃあ、わしは……いや、それよりも家が大変なことになりそうで。わしは、こちらの世界では力が振えんので、散歩と言って出てきたんじゃ」

「お爺ちゃん、何ものニャ?」

 ねね子の質問には応えずに老人は続けた。

「それは後じゃ、とりあえず平気な顔で家に帰りなさい。アイスを食べることになるだろが、わたしが持っていったほうのがクーラーボックスに入っている。そっちにしなさい。クーラーボックス以外のアイスを食べてはならない」

「あ、ああ」

「時間をかけては怪しまれる、自然な感じで帰りなさい。わしは、怪しまれぬよう一回りしてから戻るから。さ、ねね子ちゃん」

「う、うんニャ!」

 
 豪徳寺の方へ行くねね子と老人を見送って、玉代と二人家に向かった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・14『今日は数学のテストだ』

2022-07-25 06:04:13 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

14『今日は数学のテストだ

 

 

 返事をしてから後悔した。

 メールだったら即断ってただろう。

 大勢で受ける教室の授業でも苦痛なのに、マンツーマンの個人授業なんてあり得ないから。

 マンツーマンなんて、地上100メートルの綱渡りみたい、とても踏み出せるもんじゃない。

 でも。

 先輩の電話は声までωなんだ。先輩の従姉さんという女性に教わることが、なんだか渋谷のスクランブル渡るくらいに気軽に感じる。

 先輩の家も幸いした。

 普通にリビングとか先輩の部屋だったらどーしようと、先輩の家に着くまでドキドキだった。

 この角曲がったら到着という時は、もう手の平がシャレじゃなくてアセビチャだ。

 渋谷のスクランブルは再び地上100メートルの綱渡りになった。

 でも、通されたのは喫茶店というかスナックというか、お店だった。

「むかしパブとかやってたから、店のまんまなんだ」

 パブの意味が分からなかったけど、地上100メートルは体育館の舞台ほどに低くなった。体育館の舞台ならスカートに気を付けてさえいれば飛び降りられる。

「いらっしゃい美子(よしこ)ちゃん。ゆう君の従姉の小松よ、ま、とりあえず座って」

 小松さんの口もωだ。体育館の舞台は、さらに机程に低くなった。

――美子ちゃんの数学苦手は先生が嫌いだからじゃないかな――

 小松さんの指摘は当たっていた。堂本先生は、今まで習ってきたどの先生よりも苦手だ。

 小松さんに教わってみて気が付いた。

「数学は暗記じゃないんだよ、公式や定理が成り立つ理屈を理解しなきゃ、とってもつまらないんだよ」

 最初の一時間は二つの公式と定理の説明に費やされた。

「ね、理屈が分かれば親しみやすいでしょ(^ω^)」

 堂本先生は逆だ。基礎は理屈抜きで丸暗記して問題の数をこなせとしか言わない。

 お昼に美味しいサンドイッチが出た。

 サンドイッチが人の名前だということを知ってビックリ!

 イギリスのサンドイッチ侯爵が、チェスをしながら食べられるものとして発明したそうだ。

 あたしたちも、サンドイッチつまみながらマンガ見たり、思いついて数学の続きやったりになる。

「あたしって、基本的にながら族だから」

 アハハと笑いながら小松さん。とても親近感。
 
 サンドイッチが切れたころで、お祖父さんがフライドポテトを作り始めた。

 フライドポテトを作るところを始めて見た。
 
 ジュッバーー!

 油に投入した瞬間、ジャガイモらしからぬ陽気な音がする。正直びっくり。

 ジャガイモが、こんなに饒舌だとは思わなかった。

 小松さんも、髪をポニテにし、腕まくりして調理に参加した。

 大きなザルにクッキングペーパー布き、ドバっとフライドポテトをぶちまける。

「こんなに大きなお皿使うんですか!?」

 60センチほどの大皿にビックリ。

「冷ましてから二度揚げにするんだよ」

 みんなで団扇持ってお祭りみたいに扇ぐ、盛り上がって来た。

 とうとう高さなんて無くなってしまった。

 二度揚げしたのをホチクリ食べながら午後の部。

 あんなに嫌だった練習問題が三十分ほどで完了。

 勉強だけじゃないだろうけど、人間がやることは環境とか雰囲気がとても大事なんだと実感した。

 気が付くとカウンターの中で女の子がフライドポテトをつまんでいる。

「あ、妹の小菊」

 先輩の声にペコリとした顔は、あたしと同類の印象だ。

 家に帰ってから思った。

 先輩は妹の小菊ちゃんを紹介する以外、ほとんど喋らなかった。

 あたしが、寛ぎながら勉強できる空気を作ってくれたのは先輩だったんだ。

 今朝、学校の昇降口でいっしょになって、そのことを言ってみた。

「基本的に苦手なんだよ女の子ってのは」

「え、あたしもなんですか?」

「あ、いや、それは……」

 深く追求しないでお互いの教室に向かった。

「シグマ、なにかあった?」

 前の席のアツコが手鏡向けながら言う。

 手鏡に映る自分に少し狼狽えた。あたしは笑顔の似合わない女だ。

 一時間目は堂本先生の数学のテストだ。

 ウソみたいにスラスラと解ける。小松さんのお蔭だ。

 二十五分たったところで堂本先生が巡回に来る。

 あたしの横に来ると、出来上がって伏せて置いた解答用紙をふんだくられる。

 一瞥した後、ピクリと眉を動かし「フン」と鼻息。

「しっかり見直しとけよ」

 捨て台詞とともに、ビシャリと解答用紙を置く。

 数学が嫌いなのは、堂本先生のこいうところなんだと再認識。

 家に帰って『君の名を』を思いっきりやった。

 少し気持ちが浄化された。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)    高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)    高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
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せやさかい・323『鏡の中の留美ちゃん』

2022-07-24 14:45:29 | ノベル

・323

『鏡の中の留美ちゃん』さくら   

 

 

 人生で一番楽しいこと。

 

 それはね、ウフフフフフ……思い出しただけでも幸せの笑みがこぼれてしまう。

 朝、目が覚めて、いっしゅんハッとする!

 窓から差し込む陽の高さで、いっしゅん――寝過ごした!――とビビるわけですよ。

 それが……せや、夏休みやってんわ! そう思い出して、体中に幸せな元気が湧いてくる。

 おまけに、夏休みは、まだまだ始まったばっかりで、一月後も、まだ夏休みとか思うと、うれしさ百倍!

 なんせ、ここ二年は流行り病のために、ちょー短い夏休みやったからね。うれしさ千倍ですよ!

 

「もう、いつまで寝てんのよ。朝ごはん食べて、さっさと宿題やっつけるわよ!」

 留美ちゃんが、呆れた顔で、けど、歯磨きの爽やかな匂いさせながら文句を言う。

「せやかて……しみじみとうれしいねんもん」

「だいたい、夏休みに入って三日も経ってるのよ、しみじみでもないでしょ」

「ええやんかぁ、留美ちゃんのケチぃ」

「はいはい、ケチでけっこう。言うだけ言ったからね、あとはヤマセンブルグから帰ってから泣くといいわよ……」

 留美ちゃんは、背中を見せて一階に下りていく。

 この三日、ずっと幸せを寝床で噛み締めるさくらです。

 ニャーー(=^血^=)

 ダミアが――怒られよったぁ――いう顔をして留美ちゃんの後を追って行きやがる。

 

 さ、三週間!?

 

 朝ごはん食べてると、留美ちゃんが「夏休みは、実質三週間なんだからね」と念を押す。

「まだ、始まったばっかりやん!?」

「ヤマセンブルグで一週間。準備とか時差ボケとかで、その前後二日は宿題どころじゃないと思うよ」

「ヤマセンブルグでも、やったらええやんか!」

「なにを?」

「宿題やんか!」

「「「アハハハハハ」」」

「ちょ、みんな笑うことないでしょ!」

 食卓を囲んでる家族が笑う。

「最初が肝心だからね、今朝の本堂はわたしがやっとくから、食べたらすぐに宿題やるといいよ」

 詩(ことは)ちゃんが、男気のあるとこを見せる。

 せや、大学生には宿題なんかないもんね。

「ダメですよ、詩さん。仏さまのお世話は別です!」

「どっちがお寺の娘かわからへんなあ」

「や、やらへんて言うてないやんか」

 テイ兄ちゃんのお返しに墓穴を掘ってしまう。

 

 まずは数学から!

 

 これは意見が一致した。

 中間テストで欠点とって、期末で挽回したばっかりのうちとしては、やっぱり、数学と英語からですよ。

「よし、じゃあ、一日一ページね」

「二日で一ページでええやんか」

「早く終わった方がいいじゃない。一日一ページだったら、ヤマセンブルグ行く前に終われるわよ」

「あんまり高望みしたら、早死にするよ……」

「さくらぁ……」

「え、なに?」

「そこの鏡で背中見てごらん」

「え、またTシャツ後ろ前!?」

「ううん、たぶん甲羅が生え掛けてるよ」

「え、ええ?」

 正直者のうちは、言われた通り首をひねって、鏡の背中を見る。

「え、どこに甲羅?」

 鏡の中の留美ちゃんに聞くと、なんと、留美ちゃんの頭にウサ耳が生えてるやおまへんか!

 あ、兎と亀!?

 鈍感なうちでも悟りました。

 で、もっかい振り返った留美ちゃんの頭には、もうウサ耳はありませんでした。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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銀河太平記・120『那覇空港』

2022-07-24 10:48:42 | 小説4

・120

『那覇空港』心子内親王    

 

 

「辺野古から行くんじゃないの?」

 

 民宿を出た車は南西に向かっている。てっきり米軍との共同使用の辺野古に行くんだと思った。辺野古は民宿からは北西の方角だから、完全に真逆。

「軍の施設を使うと秘密が保てぬでござる」

「え、これって秘密なの?」

「いい女は秘密のベールに包まれているものでござる」

「え?」

 サンパチさんは誤魔化したけど、意味は分かっている。

 個人としてのわたしは、並みのハイティーンよりも好奇心が強いというだけのオチャッピーだけど、母から受け継いだ血は、自分自身の未来も運命を自分で決めることを許してはくれない。

 ホーーーー

 不覚にもため息が出てしまう。

 子どもの頃から、人前でため息をついてはいけないという躾を受けてきた。それが出てしまうのは、西之島に来てから、とても自由で充実した日々が過ごせたからだ。

 島の人たちは、血脈的なことを承知の上で、わたしを自由にしてくれた。

 島に居れば、わたしは心子内親王ではなくて、ただのココちゃんで居られた。

 ずっとメグミさんの助手をやって、カンパニーやナバホ村、フートンの人たちと、あれこれ生活の工夫をやって、お互いがお互いの役に立っている暮らしをしていたかった。

「サンパチにも、いろいろ秘密がござるよ」

「え、サンパチさんが?」

「左様、出自は作業機械でござるが、メグミ殿の手にかかって、今ではロボットと変わらぬように……いや、ロボット以上のものに成りおおせております。法的には危ない改造もされておりましてな、フフフ……ちょっとヤバイのでござるよ」

「え、そうなんだ(^_^;)」

「那覇空港からまいります」

「那覇空港からの火星便は週一回じゃないの? 間に合うの?」

「ヌフフ……拙者は、サンパチでござるよ。話が決まったときから、手は打ってござるよ……」

「そ、そうなんだ(^o^;)」

 

「え……国内線のロビーだよ?」

 那覇空港に着くと、そのまま滑走路に行って、秘密の格納庫とかから出てきた宇宙船に乗っていくんだと思っていた。

 それが、ツアー客のみなさんと並んで国内線のカウンター……どうなってるの?

 あっという間に、搭乗手続きが終わると、一番端っこのゲートへ向かう。

「これって、格安の貨客便ゲートだよね」

「いかにも、二十世紀から続いた青春格安旅行でござるよ(^▽^)」

 な、なんなんだ? 秘密とか言いながら、めちゃくちゃ緩いよ。

 

 機体は旧式のパルス貨物機。貨物室を改造して中二階を100席余りの客室にしてある。天井が低くて、シートの間隔が狭くって、短距離の国内線でなければエコノミー症候群間違いなしってしろもの。

 搭乗口が、特設の二階席には届かないものだから、貨物室を通って、螺旋階段を上っていく。

 貨物室では、空港のスタッフが貨物や荷物の整理と縛着に忙しそう。

 人やロボットが有機的に働いているのを見るのは好き。

 島に来てからも、北東区の建築現場や作業現場で、メグミさんとお昼を食べながら、みんなの仕事っぷりを観ていた。

 途中、手荷物を旅客用ブースに入れるために右舷の通路に入る。

「こっち」

 サンパチさんが呟いて、貨物の陰へ。

「これに着替えるでござる」

「え?」

 目の前の貨物の上には、貨物スタッフの作業服。手に取ると、まだ暖かい。で、貨物の向こうには人の気配。

「着替えたら、もとの服は、そのままにでござる」

「う、うん」

 三十秒で着替えると、別の貨物の陰から、たった今までわたしが着ていた服を着た女の子が螺旋階段を上がっていく。

「あ、あれ?」

 視線を戻すと、いつの間にかサンパチさんも作業服になっている。

 そのまま作業を終えたスタッフに紛れて、小型機の整備スペースに向かって、一機の小型機に。

 管制塔との短いやり取りがあって、わたし達の小型機はマリンブルーの海を見下ろしながら成層圏軌道に載って行った。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  •  

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・065『大出井老人』

2022-07-24 06:48:45 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

065『大出井老人』 

 

 

 
 人の家に潜り込むのは150年ぶりニャ。

 
 明治維新までは佐賀県にあった鍋島ってお大名のお城に居たニャ。

 何を隠そう鍋島の猫騒動の猫は、このねね子なのニャ。

 あんまり干渉されたくないので、あのおどろおどろしい化け猫の怪談話をでっち上げ、お城の中で平和に暮らしていたニャ。むろん、本宅は豪徳寺なんだけどニャ、鍋島さんとこが気に入って、豪徳寺には殿様の参勤交代とかに紛れてたま~に顔出す程度だったニャ。

 それが、今度は門脇さんちの娘という設定で潜り込んだのはひるでと仲良くなったからニャ。

 門脇さんちは、ひるでの武笠家とは向かい同士ニャんで、とっても便利ニャ。

 門脇さんちには、あたし以上にネコみたいな啓介というのが居て、たいてい昼過ぎまで寝てるニャ。

 いちおう兄貴ってことになるんで、ときどき妹らしくいたぶってやるニャ。

 
「さっさとやらニャきゃ、アイスはおあずけだからニャ!」

 
 冷房の効いたリビングのサッシ越しに啓介をいたぶる。

 あ、リビングというのは武笠家のリビングなのニャ。

 ひるでは玉代を連れてコロナ退治に行ってるニャ。

 うちの家から見ても武笠家の庭は草ぼうぼうになっていたのでニャ、啓介をいたぶるネタにもなると一石二鳥でかって出たニャ。

 ひるでのお祖母ちゃんが「ショコラモナカをオーブントースターで焼いたの」を気に入ってくれたので、それを伝授するって名目もあるんだけどニャ。

 お向かい同士なんだから、気楽に「手伝ってえ」とか「ちょっとおいでよ」くらいのノリでいいと思うんだけどニャ、武笠の老夫婦にはこだわりがあって、こういうドラマのプロローグみたいな状況を演出するのがお気になのニャ。

「チョコモナカは五つでよかったかしら?」

 重そうなマイバッグをぶら下げてお祖母ちゃんが帰ってきた。

「じゅうぶんニャ、てか、一つ多いようニャ?」

「ねねちゃんと啓介くんが二つづつで四つ。わたしと旦那は一個を半分こに、ショコラモナカって年寄りには大きすぎるから」

「そ、そうなのかニャ、ねね子は嬉しいニャ(^▽^)/」

「アイスをオーブントースターで焼くなんて、お話では分かるんだけどね、年寄りはビビっちゃうのよ。ねね子ちゃんに付いていてもらって二三回は練習しないと不安だしね」

「じゃ、とりあえず、冷凍庫に仕舞って置くニャ。あたし、持つニャ(^▽^)/」

「あ、おねがい」

「あれ、他のアイスも入ってるニャ?」

「あ、ついね。懐かしかったり面白かったりで、いろいろ買っちゃった。そうだ、啓介く~ん、一つ食べない、暑いでしょ」

「あ、いただきます!」

 これ幸いに草刈りを中断して、タオルで汗を拭きながらリビングに寄って来る啓介。

「啓介は庭で食べるニャ! 草刈りがノルマなんだからニャ、クリアしてシャワー浴びるまでは入って来ちゃダメニャ!」

「わ、わーってるよ」

 アイスを受け取ると、大人しく日陰に行ってしゃがみ込む啓介。これでいいのニャ。

「ねねちゃん、啓介くんには厳しいのね」

「愛情なのニャ、このまま引きこもりのニートになってもらっちゃ困るからニャ」

「おお、スパルタ妹だ」

 
『ただいまあ。お客さんがいらっしゃるよ!』

 
 玄関でお爺ちゃんの弾んだ声。お婆ちゃんがスリッパをパタパタいわせて玄関に迎えに行くと「アッラー!」とムスリムみたいな歓声をあげるニャ。

「わ!?」

 ねね子も驚いたニャ! お爺ちゃんがクーラーボックスに一杯のアイスを持って帰ってきたニャ!

「どうしたんです、このアイスは!?」

「だから、そのお客さんに頂いたんだよ、アイスがあるから一足さきに帰ってきたんだけど、ほら、新婚時代にお世話になった大出井の叔父さんだよ。あ、見えた見えた!」

 お爺ちゃんは少年のように表に戻ると、身長180センチはあろうかというお年寄りを連れて戻ってきたニャ。

「いやあ、お久しぶり! 民子さん! いやあ、こっちが孫のひるでちゃんか!」

「あはは、向かいの門脇の子なんニャ、ねね子って言うニャ(n*´ω`*n)」

 とっさに合わせておいたけど、このお年寄りは二人の叔父さんではないニャ……それどころか人間でさえないのニャ……。

 正直ビビってしまっているのニャ……(;'∀')。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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漆黒のブリュンヒルデQ・064『アイスの美味しい食べ方』

2022-07-24 06:33:58 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

064『アイスの美味しい食べ方』 

 

 

 

『猛犬に注意』と『セールスお断り』の間、大昔の『赤十字社員章』のステッカーの上にアスクレピオスのお札を貼る。

 ほら、豪徳寺駅前の明日暮医院でもらった役病退散のお札さ。

 効果はてきめんで祖母のマイバッグだけでなく敷地内に根を生やし始めたコ□ナウィルスが絶滅した。

「だけじゃなくって、お祖母(うんぼ)ちゃんが配ったマイバッグにも効き目が出始(ではい)めてるよ!」

 玉代が安堵の悲鳴を上げた。

 玉代は、祖母から情報を聞いて、人にあげたマイバッグを調べて回っていたのだ。根が鹿児島の荒田神社の神さまなのでわたしには無い能力があるのだ。

 お札そのものも対人ステルスになっていて、人には古びた赤十字社員章しか見えていない。

 
「なんで、WHOのマークが貼ってあるのかニャ?」

 
 ねね子が掃除の手を休めて首をかしげているのが部屋の窓から見えた。

 どうやらねね子に見えているようだ。

「ほっとくと、喋ってしまうかもしれないよ」

 玉代が心配する。

 たしかに、あのお喋り半妖には注意しておかなければならない。

「ねね子ぉ! アイスあるから食べにおいでよ!」

 窓を開けて声をかける。

「おー、今行くニャ!」

 箒を仕舞うと、あっという間にわたしの部屋に上がってきた。

 玉代がアイス三本を持ってきて女子会になる。

「おー、さすがは武笠家! ショコモナカなのニャ!」

「ねね子も好きなの?」

「もちのろんニャ! そーだ、ねね子がウラワザ見せてやるニャ! ひるで、オーブントースターを借りるニャ!」

「オーブントースター?」

「そうなのニャ!」

「ちょ、アイスを焼いてどうする!?」

 ねね子は、むき出しにしたショコモナカをオーブントースターにぶち込んだ。

「まあ、見てニャ(^▽^)/」

 三十秒焼いて出てきたショコモナカにビックリした。

 外側のモナカは香ばしく焼けて、中は冷え冷えのままのチョコアイス!

「う、うまか!」

「お、美味しい!」

 玉代と二人で感動してしまう。

「で、あのWHOのマークはなんなのニャ?」

「あ、あれはな……まあ、食べてからだ」

 女子を黙らせるのには美味しいものを食べさせるのが一番! これは漆黒の姫騎士でも神さまでも半妖でも変わりはない。

「ああ、おいしい、もっと食べる?」

 玉代の提案で冷凍庫から、もう三つ取り出して、裏ワザショコモナをオーブントースターにぶち込む。

「あ、そうだ! お母さんが『こんどは、わたしが歌舞伎にご招待』って言っていたニャ」

「え、なんだそれ?」

「こないだ、武笠のお婆ちゃんにお芝居連れて行ってもらって嬉しかったから、今度はうちでご招待したいって言ってたニャ」

「あ、そう言えば先週芝居を観に行くって……」

「それって、ノーマーク。世田谷区内しかトレースしてないニャ!」

 
 その劇場でクラスターが発生したのは、慌ててスマホで検索した十分前だった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・13『祖父ちゃんのフライドポテト』

2022-07-24 06:20:55 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

13『祖父ちゃんのフライドポテト


 勉強し終わった後の飯が、こんなに美味いとは思わなかった。

 祖父ちゃんが特製のサンドイッチとミックスジュースを作ってくれたのだ。
 
 食べているのは、俺と松ネエ、それにシグマ。

 小菊はいない。

 

「こんなサンドイッチ初めてです」

「パブやってたからね、お店の看板メニューだったのよね」

「うん、店を畳んでからは初めてだけど、こんなに美味いとは思わなかった」

 三人ともニコニコ笑顔だ。

「ハハ、それは三人の時間が充実していたからさ」

 そう言いながら祖父ちゃんが入って来た、手には短冊に切られたジャガイモいっぱいのザルを持っている。

「フライドポテトつくるんだ!」

 松ネエはピョンと立ち上がりカウンターの中に。

 昨日は女っぽくなった松ネエを眩しく思ったが、あの弾み方はオチャッピーのまんまだ。

「どうだ、小松も憶えてみるか?」

「うん、このレシピ覚えたら、大学行ってもアドバンテージ高い」

 セミロングをポニテにまとめ、腕まくりすると、祖父ちゃんと並んで調理にかかる。

 やっぱ、松ネエはオチャッピーがデフォルトだ。

「美子(よしこ)ちゃん、これ食べてくつろいだら、一気呵成に練習問題するからね!」

「あ、はい!」

 シグマも感化されて気を付けの返事をしている。

 

 松ネエは、先月静岡の高校を卒業し、この四月から東京の大学に通う。

 

 そのために、母親の実家である我が家に下宿することになった。

 引っ越してくるのは入学の直前かと思っていたら、気の早いオチャッピーは三月早々に家にやってきたのだ。

 で、俺は閃いたのだ。松ネエにシグマの勉強を見てもらおうって。

 ジュッバーー!

 油にジャガイモの短冊が投入される。

 俺にとっては久しぶり、シグマは初めての豪快で陽気で美味しそうな音と匂いに引きつけられる。

「来てよかった……」

「そうだろ、勉強ってのは環境が大事なんだぜ」

 我ながら聞いた風なことを言う。

 松ネエがクスッと笑って俺の顔を見る。おたついて目が泳ぐのが情けない。

「正直、先輩は言葉の勢いで『任せておけ』って言ったんだと思ってたんです。だから、あの電話にはびっくりして」

「シグマにはメールじゃ温いと思ったんだ、直接電話で言わなきゃ断ってくると思った」

「はい、メールだったら反射的にお断りのメール返してましたね」

「だろ!」

「フフ、ゆう君、とっても楽しそうに電話してたもんね」

「ひ、人助けができるんだから嬉しくもなるよ(#'∀'#)」

「そうだよね、そういうのは江戸っ子の性(さが)だもんね」

 松ネエは追及はしてこない、以前なら白旗を揚げるまで突っ込んできたんだけど、やっぱ大人になったんだろうか。

 揚げたてのフライドポテトを食べながらの午後の部になった。

「すごい、練習問題全問正解よ!」

 松ネエが感動した。

「そ、そですか」

 シグマの反応は控えめだ。

「う~ん、美子ちゃんの数学苦手は先生が嫌いだからじゃないかな、これだけ出来るというのは素養はあるってことよ」

「あ、きっと松乃さんの教え方がいいんです!」

 俺は両方だと思う。

「じゃ、英語の方も見とこうか」

「あ、はい」

 シグマはリュックから英語の教科書とノートを出した。

「どれどれ……」

 松ネエの手が止まった。

「ん……?」

「miko momochi……あ、ごめん、ずっとよしこって呼んでた。美しい子と書いてミコって読むんだね」

「いいんです、よしこって読み方、なんだか新鮮で。普段はシグマでいいです、先輩もオメガだし」

「ゆう君のは苗字の妻鹿のもじりだけど、シグマってのは?」

「えと、おもに口がギリシャ文字のΣみたいだからです、昔から言われてるから、デフォルトなんです」

「いいの?」

「もちろん、意味なんて後付けでどんどん変わります。へたに嫌だなんて言ったら、呼ぶ方も呼ばれる方も暗いイメージになりますから」

「そっか、あたしは好きだわよミコちゃんの顔」

「俺も同感」

「う、嬉しいです(^▽^)!」

 花が咲いたようにシグマの顔がほころんだ。

 こんな表情をするシグマは初めてだ、一瞬シグマと小菊を取り換えられればと思ったぞ。

 すると、カウンターの中でお祖父ちゃん以外の気配がした。

 いつのまにか小菊が居て、揚げたてのフライドポテトをホチクリホチクリ食べていたのだった(^_^;)。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)    高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)    高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任


 

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魔法少女マヂカ・284『魔法少女はくたびれている』

2022-07-23 09:57:51 | 小説

魔法少女マヂカ・284

『魔法少女はくたびれている語り手:マヂカ 

 

 

 くたびれているのは綾香ネエのケルベロスだけではなかった。

 

 ゴホゴホ……

 遅刻して学校に行くと、咳き込みながら階段を下りてくる安倍先生に出会った。

「真智香は来れたんだ」

「風邪ですか?」

「ああ、ちょっとね。調理研のみんなも具合悪いみたい、友里も清美も休んでるし、ノンコはさっき早引きしたよ。サムは異世界人だから来てるけど、真智香は休みだと思ってたよ」

「うちの姉も倒れてます」

「ケルベロ……綾香さんも?」

「ええ、昨日、魔王が治療の為に引き取っていきました」

「ああ、あいつは頭が三つで胴体一つだもんな。姿そのものから無理してるって感じよね」

「魔王が引き取った時は、普通の黒い子犬でした。あれが元々だとしたら、ちょっと不憫です……」

「詰子ちゃんは?」

「あの子は元気です。今朝も、朝ごはん作ってくれて、先に行きました」

「やっぱり、並みの女子高生が魔法少女やってるのは無理があるのかもね」

「先生は大丈夫なんですか?」

「あたしは、アキバのメイドクィーン、バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世だ。セントメイドの称号は伊達じゃないぞ」

「ああ、でしたよね……」

「こら、人の体の線を観察するんじゃない(;'∀')!」

「あ、いえいえ、とてもアラフォーとは思えない外形ですよ。ゴホゴホ……」

「これ飲むか、アキバのミケニャンが届けてくれたんだ」

「なんですか?」

「メイドリンクだ。アキバのメイドは、少々の風邪やら体調不良でも、いつも元気な笑顔で『ご主人さま~(^^♪』をかまさなきゃならないからな。密かに出回っている秘薬だ」

「効くんですか?」

「あたしも、さっき飲んで、とりあえず熱は下がった」

「いただきます……」

 グビグビと、黄色いドリンクを一気飲みする。

「ゲフ……なんだか、力が湧いてきますね……成分は……」

「見ない方がいい」

「それって……」

「「アハハハハハ」」

 大しておかしくもないのに笑えてしまうのは、やっぱり、お互いに疲れているからだろう。

 ブルブルブル……

 二人の笑い声が共振したのか、おたがい、なんだか笑いながら振動している……じゃなくて、二人ともMSスマホ(魔法少女スマホ)が振動している。

「「出動命令だ!」」

 こんな時に……と思ったが、体の方は反射的に動いて、本館一階の倉庫を目指した。

 

 一階の倉庫は基地への転送室になっていて、いそいで飛び込むと、すでにサムと詰子が待機していた。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・12『あ、松ネエ!』

2022-07-23 06:35:58 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

12『あ、松ネエ!』

 

 後悔はしねえが困ってしまった。

 シグマに「俺に任しとけよ、堂本先生の数学は経験済みだから」なんて言ってしまったけど、俺自身、数学はからっきしだ。

 ノリスケと並んでの下校中、なにかアテはないかと聞いてみたくなったが、こいつも勉強は俺とおっつかっつ。二人とも知り合いに優等生はいない。思わずため息をついたら「月曜からテストだもんなー」と大局的には外れていない相槌が帰ってくる。まさかシグマの心配をしているとは言えない。

「くそ」

「ハハ、新作エロゲやりたくって仕方ねえんだろ」

「バ、バカ言ってんじゃねーよ」

「俺もテスト中に督促したりしねーからよ」

 ノリスケに罪はないんだけど、無性にムカついてしまう。

 

 なんで、こんなに秘密や心配事を抱え込まなくっちゃいけないんだ!

 

 家に帰ると人の気配が無かった。

 廊下を茶の間に向かっていると、ジャーゴボゴボと水の音。

 とっさに首を巡らせると、トイレのドアが開いて小菊と至近距離で目が合ってしまう。

「ト、トイレの前に立ってんじゃないわよ!」

「いま帰ったとこだ、いちいちつっかかんなよ」

「ふん!」

「小菊の他には誰もいねーのか?」

「店の方よ、あたしが受験前だから気を使ってくれてんの。あんただけだよ無神経なのは!」

「すまんな、気が利かなくて」

「ハアアアアアアアアアアア」

 こんな時間に受験勉強なんかしてるわけないんだけど、いっぱしの受験生みたいに盛大なため息ついて、小菊は茶の間に向かった。

 小菊に触発されて尿意を催す。

 トイレの便座を開けると、とり残されたトイレットペーパーが水の中でクルクル回っている。節水型トイレもいいけど、こういうとり残しはなんとかなんねーんだろうか。盛大に水を流してから用を足す。

『男のくせに二回も見ず流すんじゃないわよ、せっかく休憩に下りてきてんのに、気分悪いんですけどー』

 お前の使用済みが残ってたんだ!

 ま、それを言っちゃおしまいなので、台所で水を飲む。他にも飲み物は有るんだけど、俺は、つい水を飲んでしまう。

 まあ、東京の水道水は世界有数の飲める水道水なんだけどな。緑が似合う都知事に、ちょっとだけ感謝。

 ……店の方から微かに笑い声が聞こえる。

 うちは祖父ちゃんの代までパブをやっていたので、店がそのまま残っている。店の入り口と住居部分の間は防音構造になっているんだけど微かに音が漏れるんだ。

 しかし、小菊の勉強のためだとしたら、ちょっと気を遣いすぎてねーか。だいたい俺んときは……。

 ただいまー……。

 ドアを開けると、楽し気な家族の語らいがマックスになっていた。

 そして、その語らいの中心にいたのは……。

「あら、ゆう君!」

「あ、松ネエ!」

 それは、親父の妹の娘。俺には一つ年上の従姉である柊木小松(ひいらぎこまつ)であった。

 三年ぶりの従姉は、なんだか、とても眩しかった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)    高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)    高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
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くノ一その一今のうち・14『忍冬十五代目』

2022-07-22 09:34:53 | 小説3

くノ一その一今のうち

14『忍冬十五代目』 

 

 

 う~~~~ん

 

『吠えよ剣!』の仕事から帰って来ると、金持ちさんが唸っている。

 チラ見すると、パソコンの画面がチラついたかと思うとツアー旅行のあれこれが出ている。

「あ、見られちゃった(^_^;)?」

「旅行でもいくんですか?」

「あ、まあね、三十路の独身女、たまの旅行くらいしか楽しみないからね」

「わたしも、はやく就職して、そういうの悩んでみたいです」

「アハハハ」

 

 それで、仕事の報告をしようと社長室にいくと、また回覧板を頼まれた。

 

「すまんな、金持ちから『仕事してくれ』って、外出禁止なんだ」

 見ると、机の上には書類や手紙がいっぱい。

 まあ、社長が忙しくって経理がツアー旅行の情報をググっているのは、会社が順調で平和な証拠。

「了解!」

 元気よく返事して忍冬堂へ。

 

「順調なもんかい……」

 回覧板に目を落としながら忍冬堂は不穏なことを言う。

「なんかあるんですか?」

「チラ見したら、パソコンの画面がチラついたんだろ?」

「はい、で、ツアー旅行のアレコレがダダ―って出ていて」

「そりゃ、瞬間で画面を切り替えたのさ。キーボードの左上はエスケープ」

「え、そうなんですか!?」

 ズズズズ

 渋茶をすすると、しみじみとした口調で忍冬堂が続ける。

「おまいさんが近づいてきたのにも気づかないくらい、金持ちは仕事に集中していたのさ」

「そうなんですか!?」

「社長は、仕事をためて外出禁止なんだろ」

「はい、だから、あたしが回覧板……」

「左前なんだろなあ……」

「左前って……経営が苦しいってことですか?」

「ちょっと前に、鈴木まあやのスタントやっただろ」

「あ、うん、はい」

 あれから、まあやの専属みたいになって、あたし的にはけっこう忙しい。

「スタントてえのは畑が違う。その後も、おまいさんが専属みたいにやってるから、他の仕事を干されてるんだ」

「え、事務所がですか!?」

「事務所のだれかが言ってなかったかい?」

「あ……」

 こういうのって、縄張りがあってね……

 そうだ、最初に話があった時、金持ちさんが言ってた。

 でも、その後も、あたし的には仕事が続いているんで気にもしていなかった。

「まあやは特別だからな、まあやが気に入ってしまった以上、おまいさんを外すわけにはいかねえ……で、おまいさん以外の仕事で意趣返しってわけさね」

「え、そんな……(;'∀')」

「おっと、おまいさんが苦に病むことじゃねえ。風魔そのは立派にやったんだからな……おーい、婆さん!」

「はい、ちょうど用意もできたとこですよ」

「あれ?」

 忍冬堂のおばちゃんは、リクルートみたいなカッチリしたスーツで現れた。

「さすがは、忍冬の嫁だ。ちーっと早いが、御大にナシをつけてきてくれ」

「承知」

 小さく応えると、おばちゃんは外に出て、ちょうどやってきたタクシーに乗って出かけて行った。

「おばちゃん、どこへ……」

 振り返ると、忍冬堂は固定電話の受話器を取って話している。

「おう、というわけだから、百地、おまいも腹くくりな。おうよ、伊達に忍冬十五代目を張っちゃいねえぜ……いつかは動かさなきゃならねえ山なんだからよ」

 え、なに?

 胸のあたりが、ポッと暖かくなる。

 なに感動してんだろう……と、思ったら、胸ポケットにいれていた風魔の魔石が熱くなっていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁もち・お金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋
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