大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

漆黒のブリュンヒルデQ・063『アスクレーピオス・2』

2022-07-22 06:42:04 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

063『アスクレーピオス・2』 

 

 

 
 駅前に来ている……と言っても通学途中にある宮の坂駅ではなくて反対方向の豪徳寺駅の駅前。

 
 豪徳寺に直近の駅が宮の坂駅なのに、北に外れたところが豪徳寺駅と言うのはおかいしんだけど。

 そのことは、またいずれ。

 アスクレーピオスが「駅前で開業医をやっている」というので『明日暮医院』の看板を探しているのだ。

「あれ、ここ……?」

 玉代が見つけたそこは流行らない薬屋があったところだ。

「あれ?」

 ギシギシギシィ……………………ポン!

 不思議に思っているとギシギシと音がして薬屋の横に『明日暮医院』が現れた。薬屋の隣は不動産屋だったはずだが、不動産屋は『明日暮医院』の隣だ。つまり、一瞬で『明日暮医院』が薬屋と不動産屋の間に割り込んできたのだ。

 
「いや、前々からここにあるんだがな、患者たちがヒルデに気づかれるのを嫌がってな、豪徳寺にヒルデが現れてからは見えないようになっている」

「アハ、それってヒルデが嫌われちょんっちゅうこと?」

「ヒルデは、見つけると直ぐに名前を付けるだろ」

「それはわたしの使命だからな」

「その通りだ、でもな、中には名前を付けられるのが嫌な奴もおってな。わしは、そういう奴の病気を診てやっておる」

「それだと、わたしが悪いことをやってるみたいだぞ」

「神も人も妖もいろいろあるということさ。で、用件はなんだ?」

 祖母の事情を説明すると、アスクレーピオスは神さまのような顔になって考えた……って、もともと神さまなのだが、開業医のアスクレーピオスは、どこにでもいる無精ひげのオヤジだ。

「たしかにこの界隈じゃ増える傾向にある。マイバッグはレジ袋に比べると不潔でもある。でもな、そこに付け込んでいる不良の妖どもがおってな。そいつらを倒さんとうまくはいかんぞ」

「妖のせいだと言うのか?」

「いまも言ったが、ヒルデを嫌がってうちに来る妖もおれば、儂のところにさえ来たがらん妖もおる。そいつらが、東京のあちこちに集まり始めておる。主に人が多く集まる場所だ。時々ヒル電話するから引き受けてはくれないか」

 うまく誘導されはじめている気がしたが、取りあえず引き受けることにする。

「そうか、それはありがたい。お祖母ちゃんにはこれを使っておくといい」

「WHOんマークやねえか?」

「わしのトレードマークじゃ! テドロスのお蔭でヤブ医者マーク扱いだがな。まあ、家一軒分なら、これで間に合う。ま、よろしく頼むわ」

 お札をもらって医院を後にする。

 ギシ!

 音がして振り返ると、薬屋と不動産屋がくっついて『明日暮医院』のが消えてしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・11『裏閻魔帳じゃねーか』

2022-07-22 06:20:39 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

11『裏閻魔帳じゃねーか』

 


 情報教室を少し行ったところでノートを見つけた。

 学校なんだから、ノートの一つや二つ落ちていても不思議じゃないんだけど、それはあきらかに教師のノートだ。

 使用感がハンパではなく、綴じの部分がリングのパッチンになっていて、表紙は厚手の黒いビニールで少し反り返っている。

 これはルーズリーフとかいうやつだ。親父のデスクにも似たようなのがあった。
 

 手に取ると、耳の部分がチョークと手垢で変色している。

 名前が書いていないので、パラパラと開いて見る。

 一ページごとに生徒の名前と顔写真、住所やら指導記録がこまめに書かれている。

 それが38人分あって、後ろの方は出席やら成績の一覧表になっている。

――ヤバいぜ、裏閻魔帳じゃねーか――

 そうビビっていると、一人の生徒のところで手と目が停まってしまった。

 28番 百地美子……シグマだ。

 閉じようと思った瞬間に全てを見てしまった。

 時間にしたら一秒の半分もない、それでも分かってしまった。

 シグマは数学以外の成績には、何の問題もない。

 教科ごとの二桁の数字はみんな70点以上だ、80台や90台もいくつかある。

 どうなってるんだ……悪いとは思いながら、もう一度開いて見た。

 ……やっぱいい成績だ。

 数学だけが24点、二学期や一学期の数学も10点台と20点台の欠点だ。

 よく見なおすと体育もカツカツ、だけど40点はキープしているので、よっぽどのことがなければ落とすことはないだろう。

 学年末で40点に満たなければ数学は落第だ。

 数英の落第はシビアで春休みいっぱい午前中缶詰の補習になる。特に堂本の補習は、その熱心さ、生徒的にはネチコさに定評がある。シグマは、その数学だけが極端に悪い。こないだの食堂前の指導ぶりから見ても、かなり辛い目に遭わされそうだ。

――なにやってんだ、俺(ーー゛)?――

 こんなものをマジマジ見ていていいわけがない。

 このノートの持ち主は担任の堂本だ。とにかく返しに行こう。

 むき出しじゃまずいと思い、ゴミ箱から覗いていた紙袋に入れて職員室を目指す。

「堂本先生いらっしゃいますか?」

 テスト前なのでことわってから入室する。

「いま外してらっしゃるわよ」

 隣の先生が教えてくれる。

 この先生に言づけても、正面奥に座っている教頭先生に預けてもいいんだけど、人を介してしまえば物が物だけに、堂本は咎められてしまうだろう。自分のことにしろ人のことにしろ、もめ事はごめんだ。そっと机の上に置いて職員室をあとにした。

「どうもありがとう」

 堂本に礼を言われたわけじゃない。

 昼休みの中庭にシグマを呼び出しハンカチを渡したところだ。

 むろん新品。祖父ちゃんに傷を聞きとがめられ、訳を言ったら(怪我して女の子からハンカチを借りたとだけ言った)くれた新品だ。

「あ、ども……」

 照れくさいのか、受け取ったハンカチはすぐにポケットの中だ。

「えと、あ、じゃ」

「え、あ、うん」

 人の目がある中庭なので、お互い次の言葉が無くて、そのまま反対方向に歩き出した。

「あ、あの」

「あれだったら、まだコンプリートしてないから」

 シグマは、あのゲームのことだと思ったようだ。

「ちが……数学だよ」

「え、あ、ああ……」

「職員室で小耳にはさんだんだ、数学かなりあぶないんだろ」

 少し嘘をついた。堂本のノートで知ったとは言えない。

「あ、なんとかなります」

「数学落とすと春休み中補習になるぜ」

 これはほんとだ。さっき思ったように、去年ネチネチ補習されて音をあげていた奴が何人も居る。

「あ、えと……」

 こういう時にシグマはいい加減な返事をしないようだ。真面目とも不器用とも言える。

 といって、おれも有効な手立てがあるわけじゃない。俺も数学は大の苦手だ。

「お、俺に任しとけよ、堂本の数学は経験済みだから」

「あ、はい」

 俺は、勢いであてもない約束をしてしまった(;'∀')。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)    高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)    高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任


 

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ピボット高校アーカイ部・18『螺子先輩のメンテナンス・3』

2022-07-21 10:13:04 | 小説6

高校部     

18『螺子先輩のメンテナンス・3』 

 

 

 これでも食べて待っていよう。

 

 マスターは焼き立てのラウゲンプレッツェルと自分のコーヒーカップを持ってきて、ボクの横に腰を下ろした。

「売れ筋じゃないけど、このプレーンなのが本来のラウゲンプレッツェル。焼き立ては、こっちの方が美味しいと思うよ」

「いただきます」

 知恵の輪がくっ付いたようなラウゲンプレッツェルは、バリエーションが多くて、僕もお八つ用に買っていく。

 プレーンも買ったことがあるけど、僕も祖父もバニラとかシュガーとか日本人用にアレンジした方が口に合っているようで、数回買っただけだ。

「……あ、別物ですね!」

 香ばしさと、ほのかな甘さが新鮮だ。

「うん、熱いうちは、これが一番。工夫次第では、冷めても変わらない味にはできるんだけどね。ちょっと柔らかくなりすぎて、逆に焼き立ての風味は損なわれるんだ」

「奥が深いんですね……あ思い出した。焼く前にラウゲンプレッツェルに塗っているの、ラウゲンて言いませんでした?   あ、さっき先輩に塗ったのも?」

「うん、そうだよ」

「螺子先輩ってラウゲンプレッツェルと同じなんですか?」

「ハハ、別物だよ。ラウゲン液は、ただの苛性ソーダ液だからね。使い方が似てるんで、昔から、そう言ってるんだ」

「ここの本業は、どっちなんですか?」

 マスターは、少し考えてから別の話をし始めた。

「要の街に捕虜収容所があったのは知っているかい?」

「え、まあ……」

 要の街には、第二次大戦中に捕虜収容所があって、そこで捕虜虐待があったとかで、戦後B・C級の戦犯になった人が居る。小学校でも中学校でも習った要市の黒歴史だ。

「その顔は、第二次大戦の方しか習ってない?」

「え?」

「百年ちょっと前に、第一次大戦があって、捕虜収容所はそのころからのものなんだ」

「そうなんですか?」

「第一次大戦はドイツとの戦争でね、収容されていたのはドイツ人ばかり。捕虜の扱いは、国際法に則った模範的なものでね、街の中を散歩も出来たし、ドイツ語やドイツ音楽や油絵とかを市民に教えていた捕虜もいた」

「え、そうなんですか」

「日本がちゃんとやったことは、あまり教えないからね。中には、この街が気に入って、終戦と同時に除隊したり帰国してから日本に戻ってきて、街に住み着いたドイツ兵も居たんだ。ボクのご先祖とか、螺子くんを作ったロベルト・グナイ・ゼーエン博士とかね」

「ええ、そうだったんですか!」

「二人とも日本人のお嫁さんをもらって、それから百年以上たってしまって今に至っているというわけさ」

「いやあ、知らなかったです!」

「僕は、もう五代目だから、ドイツの血は……1/32かな。もう完全に日本人だけどね、カミさんはハーフだから、ちょっとドイツが戻って来るかなあ。要の大晦日に駅前で第九の大合唱やるでしょ、あれって、ドイツ人捕虜が……」

 マスターは、僕の知らない要と、ドイツの関係と昔話をたくさんしてくれた。

 

「そんなに話されたんじゃ、螺子の楽しみが無くなってしまうわ」

 

 ビックリして振り返ると、螺子先輩が元気な笑顔で立っている。

「あ、直ったんですね!?」

「うん、ギュンター先生のメンテもよかったし、新しいラウゲン液も合ってたみたいだし、当分、大丈夫よ」

「よかったよかった!」

「イルネさんも、マスターもありがとうございました」

「体温計見せて」

 イルネさんが手を出すと、先輩は腋の下から古い水銀体温計を取り出した。

「う~ん、まだ42度ある。やっぱり、平熱に戻るまでは服着ない方がよかったわね」

「裸でもよかったんだけど、それじゃ、鋲くんに嫌われそうだったから……もうちょっと冷ましてから出ます」

「そうした方がいいわね、いま、ジンジャエール作ってあげるから」

「すみません、ジョッキでください」

「うん、大ジョッキにしとくわ」

「あ、イルネ、僕たちも」

「あら、ジンジャエールでいいの?」

「むろん、ビールで」

 マスターとイルネさんはビール、僕たちはジンジャエールで、ドイツのビール祭りのようになってきた。

「螺子ちゃん、鋲くんには、きちんと話しておいた方がいいよ」

「そうですね、リフレッシュもしたことだし、明日からは『螺子を裸にするツアー』とかやりましょうか」

「なんか、ネーミングが(^_^;)」

「アハ、ごめんなさいね、こういう性分なものなんで」

 学校の(現在の)制服を着ている時は清楚で言葉遣いもお嬢様風なのに、根っこのところはちっとも変わらない。

「でも、先輩。言葉遣いとか仕草とかは、ぜんぜん変わるんですね」

「そうねぇ、わたしってお人形だから、着るものや持ち物とかで変わるのよ。まあ、見た目で分かると思うから、鋲くん、よろしくお願いします(>◡<)」

 か、可愛い……

 やっぱり、この人の笑顔は反則だ(#*´o`*#)。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 
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漆黒のブリュンヒルデQ・062『アスクレーピオス・1』

2022-07-21 06:15:12 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

062『アスクレーピオス・1』 

 

 

 
 どうかした?

 置きっぱなしされたバッグを見てため息をつく玉代。

 バッグは祖母のもので、ご近所の友だちから電話があって、いそいそと出かけて、バッグが取り残されているのだ。

 いわゆるマイバッグという奴で、祖母のお手製、お友だちにも評判がいいようで「武笠さん、すてき!」と褒められるものだから、作っては、あちこちに配っている。

 玉代もわたしももらっている。

「傘に武漢ウイルスが付いちょっ」

「え!?」

「人に貸したのが返ってきたみてなんじゃばっ、あちこちに付いちょって、バッグん中にも広がっちょっ」

「あ……なるほど」

 わたしは意識して見ないと見えないが、玉代は普通に見えるみたいだ。

「二日もあればウィルスは死滅すっどん、中んもんを触ったりしたや伝染っ」

「除菌すればいいじゃない」

 目力除菌、姫騎士や神さまならば容易いことだ。

「昨日もやったんじゃ、もう、あちこちに広まっちょっごたって、ちょっとキリが無か感じ」

 東京は連日、新規感染者が百人を超えている。テレビでは第二波の感染ピークがやってくるとか言っている。

 武漢ウイルスは琥珀浄瓶の置き土産だ。

 本体はオキナガさんと艱難辛苦の末に倒したが、眷属である武漢ウイルスは再び猛威を振るいつつある。

「レジ袋が有料になって増えちょっ」

「そうなのか?」

「エコバッグは洗わんしが半分以上なんじゃ、洗うしでも週に一回とかで、意外に汚染されちょっと。お祖おっかんごつ、ち他ん物を入るっしもおっしね」

「この辺りは年寄りも多いし、ちょっと手を打ったほうがいいなあ」

「じゃっどん、どうすっ? わたしは身ん回りん除菌ぐれしかできんじゃ」

「ちょっと調べてみる……」

 めったに使わない携帯端末を取り出す。

「ごっつかスマホ!?」

「ヴァルキリアの主将として戦う時に使うものだ。部下たちは『ヒル電話』と呼んでいた」

「昼にしか使えんの?」

「あ……そういう意味では無くて、ヒルデの電話ということらしい」

「ああ、なんか部下んしたちん愛情を感ずっど」

「ヒポクラテスじゃなくて……ナイチンゲールじゃなくて……こいつだ」

「あ、こん杖見覚えがあっ」

「え、そうなのか?」

 杖は、そいつの看板みたいなものなのだが、あまり人には知られてはいないはずだ。まして日本の神さまである玉代が知っているとは……あ!?

 思い出した、いや、思い当たった。

「「WHOのマーク!」」

 WHOと言えば、あのテドロス。

「でじょうぶ?」

「あ、いや、テドロスとは無関係だ。名前もアスクレーピオスって言うしな」

 そう、名前こそは違うのだが、見てくれは……まあ、次回と言うことで。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・10『あたしのトリップが始まる……』

2022-07-21 05:57:58 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

10『あたしのトリップが始まる……』


 嫌われているはずだ。少なくとも変な女子だと思われている。

 普通に考えてあり得ないよ、エロゲ大好きな女子高生なんて。


 階段を駆け下りるあたしを呼び止めたのは、先輩の優しさだ。

 ハンカチを買って返すというのは……ま、常識だよね。あたしは返してほしくなんかないけど。

 エロゲ趣味だということを知られてしまった先輩には会いたくないから。

 先輩は、あたしのΣ顔をあまり気にはしていないようだ。だからアキバのマックまでは普通にしていられた。

 でも、祖母ちゃんのことがあったとはいえ、エロゲの受け取りを頼んでしまって、それからは、あたしの評価は変わっているはずだ。

「コンプリートしたら、貸してもらえないかな!」

 先輩の言葉は額面通りには受け取れない。

 ハンカチのことで素直な返事ができない。チョー尖がったΣ顔だった。

 そんなΣ顔と、そのまま別れたら寝覚めが悪い。

 人間というのは、堂本先生みたいな例外はいるけど、人とのかかわりは円満で円滑にしたいもんだ。知り合いやご近所さんに出会ったら、とりあえず笑顔で「こんにちは」とか「おはようございます」とかの社交辞令。けして相手に好意を持っているからじゃないんだ。

 旅行に行ったとする。「まあ、どちらに行ってらしたの?」「ちょっと○○まで」「まあ、それはよかったですね、わたしも行ってみたいわ」「じゃ、今度ごいっしょに」「そーですね、機会がありましたらぜひ」という会話。

 いいところだとも思っていないし、わたしも行ってみたいとも思っていなければ、今度ごいっしょにとも機会があればとも思っていない。

 引っ越しの葉書が来たとする――近所にお越しの節は是非お立ち寄りください――と書いてある。

 真に受けて本当に行ったらヒンシュクものだ。

 トランプ大統領の当選が確実になった時、ヒラリー・クリントンはお祝いの電話をトランプにかけた。

 ヒラリー・クリントンが本気でお祝いしてると思っている人間は世界中に一人もいない。

 だから「コンプリートしたら、貸してもらえないかな」も「番号の交換とか……」もクリントンのお祝い電話なんだ。

 先輩の番号消してしまおうとか思うけど、昨日の今日で消したら失礼だよね。

 お風呂に入っているうちに、これだけのことを思いめぐらす。

 

 歯ブラシ咥えて映った顔は、嫌になるくらいのブスΣ

――テスト近いんだから、夜更かししないで寝るのよ――

 お母さんの言葉に「はーい」と、声だけは素直に返事。

 部屋に戻ると、ベッドに潜り込み、イヤホンを装着。

 イヤホンは枕もとのパソコンに繋がっている。

 お風呂の前にクリックしておいたゲームは長いインストールを完了している。

 メーカーのロゴ、18禁と著作権の注意書き、映像倫理機構の審査済、そしてテーマ曲とともにメニュー画面。

 設定をクリック、難易度はノーマル、サウンドは音声を除いてレベルを60%に。

 あ……

 小さく叫んでしまった。

 主人公の名前は、いつもデフォルトのままにしておくんだけど、今回は、なんと字幕だけじゃなくって、キャラがほんとうに呼んでくれるらしい。人工音声なんだろうけど、これは嬉しい。

 名前を百地美子(ももちみこ)と打ち込んで、あたしのトリップが始まる……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)    高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)    高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
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せやさかい・322『こら、さくら!』

2022-07-20 20:20:03 | ノベル

・322

『こら、さくら!』さくら   

 

 

 ヤッター!!

 こら、さくら!

 

 思わず出た声とガッツポーズしたら、即怒られて、教室中の注目を浴びてしもた(#^_^#)。

 メグリンは、大きな背中を振るわせて笑いをこらえてるし、留美ちゃんは自分の事のように恥ずかしがって赤くなるし。

「あはは、すんませ~ん(#^▽^#)」

 頭掻いて謝るんやけど、緩んだ顔は直ぐには直りません。

 

 なにをヤッターのかと言うと、中間テストの欠点を挽回したんです!

 

 今日は、終業式で、体育館での暑苦しい式が終わって、教室で成績表をもらったとこ。

 中間テストでは成績伝票だけやったんで、カッチリした成績表は、これが初めて。

 初めての成績表を二色にせんで、ほんまに良かった!

 なにごとも最初が肝心やさかいね。

 もうちょっと詳しく言うと、みんなの笑いには二つの山があった。

 最初は、うちの「ヤッター!!」やねんけど、それに被せてペコちゃん先生が「こら、さくら!」と反射的に怒ったこと。

 真理愛学院は、お行儀のええミッションスクールで、先生も礼儀正しい(体育の長瀬先生は例外、ほら、学校の玄関で怒られた先生(297回)、こわいオバハンや思たけど、めぐりんが発作起こした時(318回」)は、じつに頼りになる先生やった!。

 生徒を呼ぶときは、必ず「~さん」と呼んでくれはる。もちろんペコちゃん先生もそうで、生徒を下の名前で、それも、頭に「こら!」を付けて呼ぶことは無い。

 それが、瞬間カチンと来て、思わず口に出た「こら、さくら!」は、怒られた方も懐かしい中学の時の怒られ方。

 怒る方も起こられる方も、漫才のボケとツッコミみたいに呼吸が合うてる。

「い、いや、だからね、もう中学生じゃないんだからね……」

 先生も気まずそうにブツブツ。

「先生、聞いていいですか?」

 伊達さんが手ぇ挙げた。

「え、なにかしら?」

 一瞬で、みんなの担任月島さやかに戻って質問を受ける。

「先生と酒井さんは、中学でも担任と生徒だったって本当ですか?」

「え、あ、それは……」

 さっきのボケとツッコミと呼び捨ての「さくら!」を聞いてしもた生徒らに嘘は言えません。

「ええ、そうです。さくら……酒井さんは中二から二年間担任で、わたしも、ここに来て受け持ちの生徒の名簿見てビックリしたわ」

「ええ!?」「やっぱり!?」「アハハ!」「おもしろ~い!」と、教室中からリアクションをいただく。

 で、すかさず返した。

「先生、それは二人だけの秘密だったのに……」

 我ながら、サスペンスドラマみたいにお返しする。

 アハハハハハハ!

 教室中が大笑い。

「はい、次配ります、榊原さん」

 先生に呼ばれて、うちの次の留美ちゃんが成績表をもらいに行く。

 すれ違いざまにアイコンタクト。

 留美ちゃんも、おんなじペコちゃん先生の生徒やったんやけど、真面目な留美ちゃんは、そういうの苦手やさかいね。

 ――留美ちゃんの秘密は守ったよ!――

 アホは、うちだけでええんです。

 とっさに、そういう気配りができるようになったんですわ。

 いや、子どっぽいはしゃぎ方せんほうが大事やろて?

 はい、そのとうりです。

 今年も、無事に夏休みが迎えられました。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

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やくもあやかし物語・149『チカコを捜す・江戸城』

2022-07-20 15:13:23 | ライトノベルセレクト

やく物語・149

『チカコを捜す・江戸城』   

 

 

 電波通信事業法が壁になっているらしい。

 難しい法律なんで、中学生のわたしにはよく分からないんだけどね。

 勝手に放送局作ったり、携帯電話の会社を作ってはいけないという法律。

 昭和59年に公衆電気通信法というのが改正されてできた法律らしい。

 通信事業の自由化のために改正されて作られた法律らしいんだけど、自由化のための法律が、なんで規制するのかよく分からない。

 自分の日常生活に関係なかったら、どうでもいいんだけどね。

 力のある法律は、時間がたつとオバケになって、オタクやファンタジーの世界まで影響を及ぼすんだって。

 いつも優しくシャキッとしている交換手さんが、ちょっとだけ悔しそうに言っていた。

 まあ、法律妖怪というか妖怪法律というか、そういうもんらしいです。

 

 そいつがね、神保城にやってきたんです。

 

「神保城と、その領内での携帯電話の普及は電波通信事業法によって、認められません!」と偉そうに言う。

「ここは、アキバのメイド王から小泉やくもがもらった異世界の領地です。リアル世界の法律の支配は受けません!」

 逓信大臣の交換手さんは、きっぱり断ったんだけど電波通信事業法は、グイッと顔を近づけてきて、交換手さんに言った。

「わがままを言ったら、道交法やら風営法に言って宗主国のアキバを締め上げるぞぉ!」

 アキバに迷惑をかけられないので、交換手さんは、やむなく固定電話の普及で妥協せざるを得なかった。

 

「それで、ご案内できるところは、電話線が通っているところに限られてしまうんです、申し訳ありません」

 

 自分の責任ではないのに、交換手さんはマンホールの上で深々と頭を下げる。

 なんで、マンホールの上かというと、千代田区の皇居前は電気や通信のケーブルは地下の共同溝に設置されていて、マンホールが、その出入り口だから。

「だいじょうぶですよ、千代田区は神田明神の膝元、わたしに任せてください」

 微笑んで胸を叩くのはアカミコさん。

 二人にガードされながら、神保城からやってきたところだよ。

 ジャリ ジャリ ジャリ……

「江戸城って、いまは皇居でしょ、中に入れるの?」

 皇居前広場の清らかな砂利を踏みながら、わたしはビビってる。

「大丈夫です。皇居や宮内庁があるのは西の丸です。天守閣や大奥があったのは本丸で、一般に公開されているから問題ありません」

「そ、そうなんだ」

 江戸城って言えば皇居で、お正月の一般参賀とかでなきゃ、一般国民は中に入れないと思っていた。

 

 チカコは十四代将軍家茂さんの正室で、家茂さんが亡くなるまでは江戸城の大奥に住んでいたはず。

 だから、うちの家から飛び出したチカコは、江戸城に戻ってるんじゃないかと、アカミコさんは推理する。

「チカコって、お城は嫌いだったと思うよ」

 そう言うと、アカミコさんは指を立てて、こう言った。

「大奥というのは、お城ってイメージは全然ないところだから可能性は高いです。お輿入れまでは、不安で嫌がっていたみたいですけど、十四代さまは、とてもお優しく、和宮さんのお心を解(ほぐ)しておあげになって、良いご夫婦になられたようですよ。行ってみれば、なにかヒントがあるかもしれません」

 桔梗門から窺える本丸は、木々が茂った大きな公園という感じだったけど、入ってビックリ!

「え、あ、うわ……お屋敷街だ!」

 お濠を渡って、門をくぐると、白壁が続くお屋敷の屋根が幾重にも重なって山岳地帯みたい。

「実際はこうですけどね……」

 アカミコさんが指を振ると、屋根の山岳地帯は半透明になって、現在の公園の姿とダブって見える。

「ちょっと目が疲れるかも(^_^;)」

 アカミコさんが指を下ろすと、またお屋敷街に戻った。

「本丸は平屋ばかりですからね、ザっと位置関係を掴んでおかないと迷子になりますからね」

「あ、昔の江戸城だから、天守閣とか?」

「三百年前に焼けてからは石垣だけですから、目標になりません。天守台って言うんですけど、ほら、屋根の隙間から、ちょっとだけ見えるでしょ?」

「あ、うん、分かりにくいね」

「では、参ります。幻の江戸城ですが、一応靴は脱いで上がりましょう」

 大きな玄関みたいなところで、靴を脱ぐと、靴を持ったまま奥へと進んでいった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・061『永津彦の訪い』

2022-07-20 08:35:12 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

061『永津彦の訪い』 

 

 

 ピンポ~~ン 

 ドアホンに反応しようとしたら、一呼吸早く玉代が出てくれた。

 
 祖父母共に出かけているので、玉代と二人の日曜日だ。

 この一週間、延べ五百匹ほどのカエルに名前を付けてやった。

 ゲコ○号とかケロ○号とか、いい加減なものがほとんどだが、カエルたちは喜んで、瞬間だけ出現する側溝に飛び込んで消えていく。

 ゲコとかケロの〇号なんだが、名付ける瞬間は、大げさに言うと緊張する。

 瞬間、頭の中には数千の名前がフラッシュするんだが「これだ!」と強く輝くのがゲコとかケロの○号なのだ。

 だから、七日目の今日はくたびれて、リビングのソファーで横になっているのだ。

 
「永津彦(ながつひこ)ちゅう老人がお礼を述べに来ちょらるっど」

 
 玉代がドアから半身をのぞかせて言う。

「永津彦?」

「人じゃなかが、礼儀は心得ちょっごたる」

「分かった、お通ししてくれ」

 ニュアンスから和風の方がいいと判断して、リビングを十二畳の和室に変え、女子高生の正装であるセーラー服に変えて待った。

「お初に御目にかかります、わたくしは世田谷の蛙の長を務めております永津彦と申します」

 老人は慇懃に小笠原式礼法に則った挨拶をする。出で立ちも、地味目ではあるが先代平の袴に小倉の羽織だ。

「蛙の長殿が、どのようなことで礼を言われるのですか?」

「成仏できない蛙たちに名前を付けていただきました」

 恐縮だ、その瞬間は迷ったとは言えゲコ〇号という符丁のような名前しか付けていないのだから。

「それでよかったのでございます」

「粗茶でごわす……」

 玉代も正装のセーラー服に着替えお茶を出してくれる。

 玉代に一礼して、永津彦は続けた。

「あの者たちは、すぐる大戦で子どもたちの遊び相手になっていた者たちでございます。もとより蛙たちに名前などはございません。名前など付けられぬままに一生を終えます。子どもたちは、学校に通うこともままならない時に、蛙たちに名前を付けて、日がな一日遊んでおったのです。子どもたちの多くは戦災や戦後の混乱の中で命を落として行ってしまいました。わたしども世田谷の蛙よりも儚い人生であります」

「そうだったのか」

「子どもたちは、そのまま長ずれば人の親となって自分の子どもに名前を付けたことでございましょう。それゆえ、蛙たちに付けられた名前は貴重なものでございました……」

 永津彦は、わたしが、この世界で妖たちに名前を付け続けていることを知っている様子だ。

 しかし、深く立ちいることはせずに、子どもたちが、いかに蛙たちと遊んだかと言うことを楽しく語ってくれた。

「鳥獣戯画という絵巻がございましょう」

「ああ、獣たちが楽し気に人の真似をしている絵巻物だな」

「あの中に、蛙が相撲をとっているものがございます」

「ああ、兎どんが行司をしちょっ」

「あれは、蛙が子どもたちと相撲をとっている図なのでございます。興が高まりますと、蛙は人に、人は蛙に変じて共に遊んだものでございます……」

 永津彦は、子どもと蛙たちがいかに楽しく遊んだかということを話しを重ねて帰って行った。

 帰り際に、これからも、蛙にとどまらずお世話になるがよろしくと頭を下げた。

 
 永津彦を見送って見上げた空は、そろそろ梅雨明け近い文月の空であった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・9『コクコク頷くシグマ』

2022-07-20 07:08:13 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

9『コクコク頷くシグマ』




 だれかにハメられたか!?

 そう思いついた時、背後でカサリと人の気配がした。

 尻の穴がキュっとなって逃げ出したくなった。

 根性無しの俺は、瞬間の妄想で反射的に逃げ腰だ。

「あ、先輩!」

 グゥアーーーン!!

 声でシグマと知れたが、逃げ腰の勢いで階段室の鉄の扉に思いっきりぶつかってしまった。

「ツーーーーーーーッ」

「大丈夫ですか!」

 顔からぶつかったようで、オデコと鼻がめっぽう痛い。

 反射的に押えた手には、ヌルッと生暖かい感触がした。

「あ、先輩!」

 シグマは、すぐにハンカチを出して俺の顔にあてがってくれる。

 オデコと鼻は痛いんだけど、至近距離に寄って来たシグマからは、ソープだかシャンプーだかのいい匂いがする。

 こういう匂いは妹の小菊もするんだけど、絶対的に違う。

 うまく言えないけど、小菊のは臭いで、シグマは匂いだ。
 

 堂本からは不評のΣ口も間近で見ると、心配からだろう小さく開いてなかなか可愛い。なまじ媚びて作った表情じゃないので(なんたって、俺のω口といっしょで、本人にはウィークポイントなんだから)ナチュラルな可愛さを感じてしまう。

 分類の仕方によってはアヒル口だな……アルファベット三文字のアイドルグループに、こういうのが居たが評価は極端に分かれていたっけ……なにより本人が嫌いっていうか、表情の活かし方を知らない。

 知っていたら、このΣ口は武器になるぞ。最終兵器Σ!とかな……それにシグマの肌は潤いがあって雪のように白く、白の内側からポッと赤みがさしていて、祖父ちゃん言うところの羽二重肌(はぶたえはだ)だ。

 先輩?

 気づくと、じっくり観察なんかしてしまって、目と鼻の先のシグマの顔にうろたえる。

「あ、すまん(;'∀')」

「ごめんなさい、ビックリさせてしまって……」

「いや、勝手に驚いたのは俺だから」

「あの、こっち来てもらっていいですか? ここだと本館の四階から丸見えなもんで」

 アッ!?

 そうなんだ、別館は敷地の端っこで、あまり人の目は刺さないが、中庭挟んだ本館からは見えてしまう。

 それを考えて、シグマは人目が刺さない階段室の向こう側で待っていたんだ。

「あ、あの……これ、ハワイのお土産です」

 シグマは通学カバンからマカダミアナッツチョコの箱を出して差し出した。

「あ、いいのに、観光じゃないんだし。あ、お祖母ちゃんどうだった?」

「着いたら、もうピンピンしてました。心臓の発作で、周囲の人たちがビックリして日本まで電話してきたみたいで、でも、お祖母ちゃん喜んでたし、お祖母ちゃん孝行できて結果オーライだったと……いや、先輩にはつまんない用事頼んでしまって、すみませんでした」

 ペコリと頭を下げるシグマ。

「そうだ、これ約束の……」

 気を使って単に「これ」とだけ言ったが、シグマは一瞬で顔が真っ赤になった。

「あ、ありがとうございました(*≧o≦*)!」

 それだけ言うと、ふんだくるようにしてゲームの入った袋をとって階段室に飛び込んだ。

「あ、あの!」

 呼び止めると、俺は階段の上、シグマは踊り場という構図になった。

「は、はひ(;'∀')

 まるで警察の職質にあったみたいに、シグマは振り返った。

「えと、ハンカチ」

 差し出したハンカチは鼻血で染まっていた。

「あ、洗ってから……いや、新しいの買って返すよ」

「あ、いいんです、そんなハンカチ(#'∀'#)」

 クルリと向き直って階段を下りようとする。

「じゃ、なくって! えと……そのゲームコンプリートしたら、貸してもらえないかな!」

 シグマに恥ずかしい思いをさせちゃいけないのとノリスケの言葉がごっちゃになって口走ってしまった。

「え!? え、え、えと、えと……」

 突然の申し出に頭も口も付いてこないシグマ。

「連絡とかしたいから、番号の交換とか……」

 そう言うと、目を白黒させながらコクコクと頷くシグマだった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一(オメガ)     高校二年  
  • 百地 (シグマ)      高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任


 

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鳴かぬなら 信長転生記 82『敵襲!』

2022-07-19 10:44:03 | ノベル2

ら 信長転生記

82『敵襲!』信長 

 

 

 敵襲!

 

 見張りの叫びに河原の兵たちは色めき立つ!

 茶姫も水着の上から甲冑を身に着け、太刀を佩いて、検品長が差し出した銃を構えた。

 その間、たったの10秒。

 緩むのも早いが、締まって戦闘態勢に入るのも早い。

 

「鎧脱いで逃げるのなら、あんたの勝ちだけどね」

 

 一瞬で分かる。シイ(市)は、越前金ケ崎のことを言っているんだ。

 浅井の裏切りにあって、越前で朝倉との挟み撃ちになると、妹の市は両口を縛った小豆袋で知らせてきた。

 瞬間で――袋のネズミ――と悟った俺は、5秒で甲冑を脱いで単騎で金ケ崎を逃げ出した。

 浅井朝倉の包囲が完成する前に、琵琶湖の西を都目指して駆けだした。

 我ながら見事な逃げっぷりで、浅井朝倉の連合軍が陣形を整えた時には、金ケ崎に残ったのは殿軍のサルの部隊だけだ。

 サルも空城の計(金ケ崎城に赤々と灯をともして籠城と見せかけて、さっさと逃げ出す。元は孔明のアイデアだけどな)によって、一晩朝倉軍を釘づけにして、からくも脱出に成功した。

 戦国史上最高、100点満点の退却戦を成功させたんだが、市は気に入らない。

 市は自分の知らせで、辛うじて60点ぐらいで間に合うというシュチエーションを期待していたんだ。織田軍の半分くらいは擦り減って、俺も逃げる途中にヘゲヘゲになって、恐怖でヨダレやらウンコ漏らして、みっともなく逃げ戻ることを期待していたんだ。

 浅井を滅ぼして、娘三人と共に救出してやったとき、市は、こう言いやがった。

「サルは嫌いだけど、金ケ崎の時のサルだけは同情したわよ。成功したからいいようなもんだけど、あの状況じゃ、サルは普通討ち死にして首取られてるわよ! あんた、サルを使い捨てにするつもりだった!」

 市でなきゃあ、その場で切ってたぞ。

 いや、本当は、一発張り倒そうかとは思った。

 だけどな、お前にしがみ付いて震えていた三人の姫、茶々・お初・お江の姿、特に茶々は小さいころの市に似ていてた。サルも「まずは、御休息のほどを!」って、俺が手を挙げる寸前にかましやがる。そんな、サルの気の利きようにも、おまえ、ムカってしていたよな。

 

 で「敵襲」だが、馬蹄の響きはたかだか十数騎だ。威力偵察というのにも心もとない。

 対岸に砂煙があがる様子もない、地元の地侍級が挨拶にでも来たか?

 違った。

 従者の持つ旗印に、さすがの俺も、ちょっと驚いたぞ。

 

 それは、酉盃や豊盃の街で傍若無人に振舞い、茶姫の命令で、とっくに洛陽に帰っているはずの曹素だったのだ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  •  

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・060『梅雨と東京アラート』

2022-07-19 08:05:01 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

060『梅雨と東京アラート』 

 

 

 
 ……東京アラートって終わったよニャー?

 豪徳寺のわき道に入ったところで、声を潜めてねね子が聞く。玉代は初めての日直で一足早く家を出ている。

「ああ、十一日で終わったはずだぞ」

「夕べ、点いていたニャ」

「え?」

「寝苦しかったんで、豪徳寺の大屋根に上って涼んでいたニャ……すると、点いていたニャ。都庁もレインボーブリッジも」

「夜間照明を見誤ったんじゃないのか? 昼白色なら、普通の夜間照明だぞ」

「真っ赤っかだったニャ。今朝のニュースで五十五人も罹患者が出たって言ってたしぃ」

「夢でも見たんじゃないか、おまえ、猫又のくせに怖がりだからな」

「こ、怖がりじゃないニャ!」

「そうかそうか、なにかの兆しかもしれない、気を付けなければな」

 茶化してやろうかと思ったが、目の色が真剣なので、当たり障りも面白みもない返事をする。

 さっきまで止んでいた雨が、ポツリポツリと降りだした。
 ねね子は気づかないようなので、傘を広げて差しかけてやる。

「あっさり認めたら、次の言葉が出てこないニャ!」

 傘の礼は言わずに突きかかってきた。

「次の角を曲がったら気を付けろ、妖がいるかもしれないぞ」

「ニャ!?」

 気配を感じたわけではない、黙っていると、神経が張り詰めて暴走しそうな気がしたから、張り詰める気持ちに目標を与えただけだ。角を曲がって何もなければ、いったん気が抜けて、学校まではもつだろうと思ったのだ。

 居たニャ!

 角を曲がる……え?

 意表を突かれた。なんと、電柱三本分ほどの前を、わたしとねね子が背中を見せて歩いている。

 妖が化けているのだ。

 歩調を落としてやり過ごそうかと思ったが、どうも、そうはいかない。

 後ろ向きでありながら、わたし達の方に近づいてくるのだ。

「おまえは、塀の上に駆けあがって、奴らの前を塞げ」

「ヒルデは?」

「一撃で倒す!」

「ラジャー!」

 スイッチが入ったようで、ねね子は塀の上に駆けあがって走り出した。

 オリハルコンを具現化すると同時に駆けだし、一気に間を詰め、空中に×印を描くように薙ぎ払った!

 
 ック!

 
 手ごたえが無く、振り払ったオリハルコンに振り回され、意に反してタタラを踏む。

「危ないニャ!」

 小癪にも、ねね子の真剣白刃取りに助けられる。ねね子の助けが無ければ、泥濘の路上を制服のまま転がっていただろう。

 振り返ると、二匹のアマガエルがケタケタと笑っている。

「おまえらか!?」

『カエルに怯えているようじゃ、もたないぞ、ゲコ』

『ひるでをひっかけてやった、ゲコ』

 にくったらしくゲコゲコ言うと、二匹のアマガエルはポチャンと側溝に飛び込んで流れて行ってしまった。

「アマガエルにコケにされたニャ」

「行くぞ」

 忌々しいが、ねね子を急き立てて学校への道を急いだ。

 こんなところに側溝などは無い。これ以上かかずらっては、面倒なことになると思ったからだ。

 
 あとで調べると、昭和三十年代までは側溝があったらしい。

 遅ればせながら、カエルに名前を付けてやる。

『ゲコ一号』『ゲコ二号』

 それから、カエルも側溝も現れることは無かった。


 ただ、東京アラートは、相変わらずねね子には見えている。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・8『下足ロッカーにピンクの封筒』

2022-07-19 06:59:18 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

8『下足ロッカーにピンクの封筒』



 あやうくバレるところだった。

 昇降口に着いてロッカーを開けると、半分開けたところで上履きの上に乙女チックなピンクの封筒が載っているのに気づいた。

「すまん、ちょっとここで待っててくれ」

 先に行ってくれと言ってしまいそうなんだけど、そんなことをすればノリスケに勘ぐられてしまう。

 この場合は「待っててくれ」というのが自然だ。

 食堂の自販機でホットの缶コーヒーを買いハンカチに包んで昇降口に戻る。

「すまん、小菊のお詫び、とりあえずな」

「おーアッタケー」

 缶コーヒーを渡すと、両手で転がしたり頬っぺたにスリスリするところなど、ガキの頃から変わらないノリスケではある。

 教科書に紛らせてピンクの封筒を取り出す。

「でも、お詫びの本編は、あのエロゲな!」

「あ、ああ」

「あれはな『君の名を』って、なんだかヒットしたアニメ映画みたいなタイトルなんだけどよ(このタイトルのお蔭で、受け取ってしばらくは『なんだ、脅かしやがって、アニメのゲームじゃねえか(^_^;)』と思った。アキバの駅に戻る途中、オタクどもに気づかされる)十年に一本出るかでないかのエロゲの名作なんだってよっ!」

「そ、そーか(☆∀☆)!」

 手紙は、少し幼さの残る女子の字だ。

――めんどうかけました、放課後、別館の屋上で待ってます――

 シグマからの手紙だ、封筒見た時にピンときたけどさ。

 下足ロッカーにピンクの封筒、で、屋上で待ってます……この二点だけ取り上げれば、ラブコメの鉄板フラグだ。

 でも、リアルってのは違うんだよなーーー。

 アキバでの勢い、それにお祖母ちゃん危篤の電話にうろたえた姿、おれも、つい「俺に任せとけ!」なんて言ったけど、なんせエロゲだ。気楽に廊下なんかでは受け取れないんだろう。

 ふつう学校の屋上ってのは、事故の防止やら生徒のワルサ防止のために二重三重にロックされているもんで、その屋上に呼び出すと言うのが尋常じゃない。

 それに、これは俺も悪いんだけど、ゲームソフトの受け渡しの約束をした割には、お互いに番号の交換もしていない。スマホの番号を知っていれば、もっと簡単に済んだはずだ。

 屋上に通ずる四階の階段は、踊り場から上は鉄格子がハマっている。

 南京錠が……かけたフリになっていた。錠の部分が下りきっていないで、半回転ひねればば簡単に開く。

 屋上のドアはノブを回せば開いた。

 あれ?

 屋上にシグマの姿は無かった。

 鍵が二つとも開いていたから、絶対屋上に居るはずなのに……。
 

 あ!?

 考えたら、あの手紙には用件だけが書いてあって、名前が書いていなかった。

 状況から完全にシグマだと思っていた……。

 これは、だれか第三者にハメられたか!?

 そう思いついた時、背後でカサリと音がした……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一(オメガ)     高校二年  
  • 百地 (シグマ)      高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
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せやさかい・321『海の日 お祖父ちゃんと』

2022-07-18 14:14:02 | ノベル

・321

『海の日 お祖父ちゃんと』さくら   

 

 

 え、海の日ぃやったんか!?

 

 たまたま、お祖父ちゃんと二人だけのリビング、新聞読んでたお祖父ちゃんが声を上げる。

 時々、こういうことがある。

 お祖父ちゃんは、二年前に住職の仕事をおっちゃんに譲った。

 テイ兄ちゃんが、なんとか務まるようになってきたし、他所よりは檀家の多いお寺やけど、さすがに三人でやるほどやない。

 膝とかもガタがきて、長時間の正座がきついことも理由の一つ。

 正座は、坊主には必須条件。

「親鸞さんは胡座でお経唱えてたんやけどなあ……」

 と膝をさすりながら言うてた。

「そら、お父さん、親鸞さんの時代は正座の習慣なかったからなあ」

 おっちゃんが笑って、中坊やったうちはビックリした。

「昔は正座せえへんかったん?」

「うん、正座が習慣づいたのは江戸時代やなあ」

「「「え、ほんま!?」」」

 従兄妹同士三人でびっくりしたのも懐かしい思い出。

 昔は、天皇さんや将軍さんの前では、みんな胡座かいてたそうです。

 

 ま、それはおいといて、お祖父ちゃんのスカタン。

 

 やっぱり、檀家周りもせんと、うちで隠居生活してたら曜日感覚とかなくしてしまう。

 ひょっとしたら、ボケのはじまり!?

「まだ、ボケてへんわ!」

「え、なんも言うてへんけど」

「そんな顔してた」

「アハハ……」

「海の日て、ちょっと前までは20日やったやろ」

「え、せやった?」

「そうや、七月は、他に祝日あれへんやろ」

「えと……ほんまや」

 柱のカレンダーを見る。

「ちょっと前やと思うねんけど、七月にも祝日欲しいいうことで祝日になったんや」

「国も、たまにはええことするねえ(^▽^)」

「元々は、祝日やないけど海の記念日いうて昔からあったんや」

「そうなん?」

「明治天皇がな、地方巡行を終えて、初めて船で東京に帰ってきはったんを記念して、戦前につくられた記念日や」

「え、え、せやったらせやったら、天皇さんが初めて飛行機に乗らはった日を『空の日』とか、初めて自動車に乗らはった日ぃを『陸の日』とか増やしたらええのに!」

「天皇さんは祝日請負人とちゃうでえ」

「子どもは賛成すると思うよ」

「たしか、明治天皇は灯台の見回り船に乗って帰って来はったんや。明治の……9年ごろやったかなあ、日本でも主だったとこには灯台ができてな、その灯台を点検したり灯台守の生活必要品とかを届けるための船や。そういう海洋日本を支えてる仕事や人に思いをいたさはったんやなあ」

「へえ、そうなんや」

 あらためてカレンダーを見る。ほんまに、七月で一回だけの祝日が神々しく見えてくる。

 カレンダーの上半分を見ると『アミダさまのお救いは年中無休』と書いてある。

 

「ああ、あっついあっつい~~~~」

 

 檀家さんが見たら「お布施返せえ!」ていいそうなアホな顔、衣の裾をたくし上げてテイ兄ちゃんが返って来る。

 なるほど、うちの仏弟子も年中無休ではありました。

「おつかれさん!」

 キンキンに冷えた麦茶をビールジョッキに入れて持って行ってやるさくらでありした(^_^;)。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
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銀河太平記・119『最初の衝突』

2022-07-18 10:32:15 | 小説4

・119

『最初の衝突』心子内親王    

 

 

 え、2グロスですか!?

 

 国際通りを取引のお店に向かっている途中で「2グロス買ってきてぇ(^▽^)/」とメグミさんの連絡。

 グロスというのは12ダースのことで、一箱10個、1ダース120個だから、24ダースで2880個!?

「今日中には帰れないでござる」

 サンパチさんがポーカーフェイスで呟く。

 チルル空港の免税店がメグミさんにお願いしてきたらしい。洛陽号たち巡洋艦を応援するために数千人の漢明国の人たちがやってきて、免税店は急きょ仕入れを増やしているらしい。

「うち、民宿もやってるから一晩泊って行ってください(^▽^)」

 お店のおばさんが親切に行ってくださって「まあ、一泊の沖縄観光と思えば良いではござらんか」と、サンパチさんもノンビリ言うので、おばさんのご厚意に甘えることにした。

 いちばんいいお部屋で、晩御飯もコース料理を出してくださる。

「内親王様だからじゃないですよ。お得意様の大量注文。これくらいは当たり前ですよ」

「あのう、作るところ見学してもいいですか?」

 2880個ものサーターアンダギーが油で揚げられてるのは壮観で美味しそうなので、ついお願いしちゃった。

「そうですか、でも、生地と油の匂いすごいですから、まあ、辛くなったら言ってくださいね」

 人が食べるものなら、なんでもレプリケーターで出来てしまう23世紀。手作りというだけでもすごいのに、何千個という数だから見ごたえがある。

 ジュワ~~!!

 さすがに、人がフライパンで揚げてるわけじゃない。

 戦車の無限軌道を思わせるようなコンベアの上を白いボール状の生地が行進して行って、煮えたぎる油のプールに突撃していく。

 ジュワ~!! ジュワジュワ~!

「ここで二分間揚げます」

 工場長のロボットさんが、おばさんを、ちょっと若くしたような声で説明してくれる。

「合成オイルをスプレーして、パルス波を照射しても同じものが出来るんですけど、見た目が違います。見た目も味の内と、わが社は考えています」

 二分で揚がったサーターアンダギーは再びコンベアに載せられて、送風機のトンネルをくぐっていく。

「ここで、粗熱をとって、あとは自然に常温に戻るのを待って、包装のラインに載せられます」

「トライアスロンのようでござるなあ」

 サンパチさんが感動する。

 付喪神というわけじゃないけど、モノには作った人の念が籠ると思う。

 科学では証明できない、そういうものがあるから、今でも、伝統食品はこういうアナログな作り方をしているし、人気があるんだと思う。

「じつは、この冷却に時間がいちばん長いんです。完全にマシンで冷却すると味が変わってしまいます。本来なら自然冷却なんですが、時間がかかり過ぎて場所も取りますので、半分は送風機に頼ります」

 最後まで見ようと思ったけど、さすがに暑いので、防護服を脱いで休憩室に避難する。

『西之島沖で修理中の洛陽号など五隻を応援するために来島中の漢明人と島民の間で衝突があったもようです……』

 休憩室のモニターが不穏なことを喋り始めた。

「ええ!?」

 モニターは波止場で睨み合う漢明の人たちとカンパニーの人たちが映っている。

 間に入って、身振り手振りを交えながら双方をなだめているのは食堂のお岩さん。奥の方で心配げに氷室社長が背伸びしている。

 いきなり社長が出て行って、まとまらなければ後がないから、みんなが止めてるんだ。

 ブルル

 その時、マナーモードにしていたハンベが着信のシグナル。

 開いてみると、沈痛な面持ちのメグミさんが現れた。

『ココちゃん、すぐに火星に飛んで、島はちょっとヤバいから』

「あ、でも、サーターアンダギーは……」

『そっちの連絡事務所に市役所の人がいるから、PC(パーソナルカー)ごと持ってかえってもらう』

「だったら、わたしでも」

『ココちゃんもモニター見てるんでしょ、ここまで熱くなった人たち、サーターアンダギーみたいには冷めないわ』

「は、はい」

『ココちゃんは内親王なんだから、大事にして!』

「はい、でも……」

『サンパチ、あんたは、このままココちゃんに付いてって! 仔細は順次送るから、頼んだわよ!』

「承知でござる」

「あ、メグミさん……」

 

 プツン

 

 あとはコールしても返ってこない、顔を上げると、サンパチさんがキッパリと言った。

 

「行くしかありません、火星に」

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  •  

 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・059『だるまを転がす少年』

2022-07-18 07:03:27 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

059『だるまを転がす少年』 

 

 

 
 ズシーーーーン(((°д°)))!

 
 突き上げるような地響きで飛び起きた。

 廊下に飛び出ると、お揃いのパジャマを着た玉代も廊下に出ている。

「「地震!?」」

 同時に声をあげたけど、それに応えるように、もう一度きた。

 
 ズシーーーーン(((°皿°)))!

 
「地震じゃなかね」

 衝撃は一回だけで、地震なら続いて来るはずの揺れがやってこない。

 階下で休んでいる祖父母が慌てている様子もない。

「外に出てみよ」

「うん」

 一階に降りると、さらに何事もなく、薄くドアを開けて祖父母の寝室を窺うと、二人とも穏やかに寝息を立てている。

 
 ズシーーーーーン!

 
 三度目を聞いたのは、武笠家のささやかな門扉を開けたところだ。

 ねね子もカーディガンをひっかけて出てきている。

「ねね子も聞こえているんだな!?」

「うん、昔もあったニャ、人には聞こえない地響きが!」

「裏次元か?」

「分からニャイ、ねね子は、自分では裏次元は覗けないニャ。でも、関東大震災の直前とかだったから、よく覚えているニャ!」

「おいは、裏次元に行けっじゃ」

「わたしらも行ける?」

「うん、行ってみっか?」

「「うん」」

 玉代が印を結ぶと、風景がコラ画像のようになった。

 豪徳寺近辺の景色が裏次元の風景と重なって二重写しのようになっている。

 

 ズシーーーーーン!

 

「ウニャーー(⌯˃̶᷄ 0˂̶᷄⌯)!」

 ねね子が尻餅をついた。

 裏次元ではまともに揺れるのだ。

「あいを見っ!」

 玉代が指差す。べつに愛を見つけたわけではない、『あれ』を『あい』というんだ。わたしにも、それくらいの鹿児島弁は分かるようになった。

「ああ、豪徳寺があ!」

 巨大なだるまさんが、ヒョイと飛び上がったかと思うと、盛大に転んで、そのたびに無数の招き猫が灰神楽のように舞い上がるのだ。

 一見、おとぎ話のようにな風景なのだが、とんでもないことが起こりつつあることが感覚的に分かる。

「あれ、止めた方がいいような気がする」

「あいは『地獄だるま』じゃっで」

「地獄のだるま?」

「あいが、七回転んで八回目に起きっと、災いが起こっとじゃ」

「止めなきゃ」

「だるまん足元で転がしちょっ者がおっはず、せつを……見えた!」

 ビュン!

「消えたニャ!?」

「行くよ、早くて見えないだけだから」

「ニャーー!」

 玉代のような韋駄天走りは出来ないが、それでも自動車ならスピード違反をとられそうなくらいの勢いで豪徳寺の向こう側に回った。

 

「ひっで(ひるで)! 回り込んで、こいつの退路を断って! ねね子はまとわりついて、そいつの邪魔をして!」

 到着すると同時に玉代が指示を飛ばす。

 玉代が睨みつけているのは小三くらいの男の子だ、スフのくたびれた小学生服と学帽、背中にはお人形を括り付けている。

 パッと見には大柄な女子高生が小学生をイジメているように見えるが、小学生の目は真っ赤に燃えて、狂犬のように目頭と鼻の根元にしわを寄せて牙をむいている。なにより、そいつの背後には大仏の倍ほどはあろうかというだるまがブルブルとアイドリングを掛けているように身震いしている。

「妖魔ニャ!」

 チェストー!!

 玉代が大上段の姿勢で疾駆する、そいつの間近まで寄ると気が高じて炎の剣が現出し、ためらいもなく振りかぶる!

 そいつは一瞬早く跳躍して打ち込みを躱すが、太ももを浅く切られ、そいつの軌跡にそって赤い筋を引く。

 赤い筋は、虚空で稲妻のように空気を切り裂いて、その欠片が玉代に突き刺さる。

「させるかあ!」

 わたしも跳躍し、エクスカリバーを構えようとするが、そいつの見た目に躊躇われる、こいつはまるで『蛍の墓』の主人公だ。

 バシ!

 パンチを食らわすに留める。

 浅く入ったパンチは攻めきれずに掠るだけになってタタラを踏んでしまう。

「ねね子も居るニャ!」

 二回転半して猫パンチを食らわせるねね子。

 有効打にはなっているが、なんせ猫パンチ。勢いの割には力がない。

 しかし、ねね子の猫パンチを含め三人の八度に及ぶ攻撃を喰らって、そいつはねね子にねじ伏せられた。

「は、放してくれよ、おいら、おいら、だるまを転ばせなきゃならないんだ。あと一回、あと一回転ばしたら、弟が生き返るんだ。おいらはいいから、弟を生き返らせておくれよ、弟を!」

「おとうと?」

「背中に背負ってる、火の中を逃げ回って、背中の弟が先に死んでしまったんだろう。哀れだが、もう鬼になり果てている。成敗するしかないだろう」

「二人とも待ってくれ、試してみたい事がある……おまえ、弟の名前は?」

「弟は……あれ………………?」

「じゃ、おまえの名前は?」

「おいら、おいらは…………」

「おまえは三田村一(はじめ)だ」

「…………そうだ、おいらは一だ! 一ってのがおいらの名前だ! みんなはイチとしか呼ばなかったけど」

「弟は三田村健一だ」

「そうだ、そうだよ三田村健一だ! 健一だよ! ケンボウだよ!」

 名前に納得したのか、そいつは、三田村一は弟を背負ったまま虚空に滲むようにして消えて行ってしまった。

 
「兄貴と弟じゃ、名前のニュアンスが違わニャいか?」

 こちらに戻ってから、ねね子が質問した。

「弟とは血の繋がりは無いんだ」

「だって、弟ニャ?」

「親が亡くなったんで一の親が引き取ったんだ」

「じゃ……」

「空襲の中、あいつは弟の命救いたさに逃げ回っていたんだよ」

「もう二十年も早かれば、名無しん鬼になっ前に助けられたかもしれもはんなあ」

「玉代、あんた、戦いの最中は標準語になってなかった?」

「え、そうだったのニャ?」

「あ、そうやったと?」

「あ……ま……戦いの真っ最中だったしな。もう一寝入りするか、学校も平常にもどったことだしな」

「おやっとさあ、ねね子」

 ねね子と別れ玄関に入ると、祖父母を起こさないように二階への階段を上がる。

 玉代は、薩摩の力を凝集して戦うんだ。

 だから、全力を出している時は言葉にまわる薩摩力まで無くなって標準語になるんじゃ……確証はない。

 とにかく、もう一寝入りしよう。

 あのだるま、地獄だるまと言ったっけ……また現れそうな気がする。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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