大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・7『あーーなんでこうなるんだ!?』

2022-07-18 06:36:22 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

7『あーーなんでこうなるんだ!?』



 けっきょく菊乃に口止め料をくれてやった。

 後ろめたいことは何もないんだが、手っ取り早いことと諸般の事情を鑑みたからだ。

 諸般の事情というのは、むろんシグマの事情だ。

 それと、我が家の事情な。

 俺の家は、その昔このあたりでは名の通った置屋(芸者さんを置いてマネジメントをやる)をやっていた。

 むろん俺が生まれるずっと前、親父でさえ生まれていない昔。祖父ちゃんが、子ども時代の微かな記憶として覚えているくらいの昔だ。

 祖父ちゃんの代には店を畳んでイギリス風のパブになった。今は、そのパブも畳んで、親父がせっせと中間管理職を務めるサラリーマンの家庭だ。

 だけど、粋筋(いきすじ)の伝統ってのが気風として残っていて、粋でない異性への興味とか感心の持ち方というのは軽蔑の対象になる。

 俺は今時の高校二年生だ。いや、だからこそ、身内やご近所から妙な目で見られるのは勘弁だ。

――え、妻鹿屋の倅が、そんな無粋なことを!?――
――この街の粋もすたれたもんだねえ――

 なんぞと言われてはたまらない。

 そーなんだよな、リアルな彼女の一人も居ないでエロゲをやってるなんて、このあたりじゃ腐れ外道なんだ。


 それと、小菊の事情だ。

 

 小菊は、十日先に高校受験を控えている。

 たいていの中三は二月に入試を受けて、さっさと進路を決めている。

 ところが、小菊は分割後期募集とかいうやつで、今はバリバリの受験前なんだ。

 憎たらしい妹だけど、兄として、そこんところは気を使ってやらなきゃならない。

 むろん、受験前にアキバに行ってゲームを買ってくるなんて誉められたことじゃないんだけど、気が強いように見えて小心者の妹には、やっぱ配慮してやんなきゃならない。

 口止め料は、小菊が買ってきたゲーム代を肩代わりしてやることで手を打った。

 妙なもんで、ゲーム代を払ってやると、なんだかエロゲはシグマにじゃなくて俺のものみたいに感じるから不思議だ。

 今朝は珍しくノリスケとは別行動だった。

――わりー、先に行ってくれ――

 メール一本確認して、学校への坂道を上った。

――シグマもいないなあ……ま、ハワイじゃ、まだ帰ってこれないか――

 一人で登校すると、いつもよりも早く着く。

 昇降口で上履きに履き替えているとヨッチャン(ほら、うちの担任)に声を掛けられた。

「妻鹿君、ちょっと手伝ってくれる」

 おはようの挨拶も省略して君付で手招きされる。ヨッチャンが君付してくるとろくなことが無い。

「うい、なんすか?」

 気のいいωの口で応える。

「これ運ぶの手伝って」

 見ると、段ボール箱三つの荷物。はみ出た口から見えるのは、どうやら組合のビラの束。

 生徒に組合の荷物を運ばせるのは問題ありだと思うんだけど、ヨッチャンも学校じゃ若手のペーペー。手伝ってあげるのが順当だ。

 ヨッチャンの用事が終わって教室に行くと、今度はノリスケがオイデオイデをしている。

「なんだよ、今朝の『先に行ってくれ』と関係ありか?」

「あー、小菊に呼び出されたんよ。オメガ、俺をエロゲの共同正犯にすんじゃねーよ」

「え、あ……」

 小菊のバカヤローと思ったけど、やっぱ、事実は言えない。

「んなんじゃねーー!」

 そう言って自分の席に行こうとしたら、ノリスケが袖を引っ張る。

「えへへ」

「んだよ、気持ち悪いなあ」

共犯にされっちまったんだから、俺にも、そのエロゲ回せよな」

「あん?」

「な、あいぼう(^_^;)」

「…………」

 あーーなんでこうなるんだ!? 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一(オメガ)     高校二年  
  • 百地 (シグマ)      高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
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魔法少女マヂカ・283『自然体・2』

2022-07-17 15:17:39 | 小説

魔法少女マヂカ・283

『自然体・2語り手:マヂカ 

 

 

 自然体が一番

 

 オブジェクトには、そっけない文字が、仄かに光って浮かんでいる。

「「「なんだ、これは?」」」

「あ、もう綾香ネエに戻ったほうがいい、リアルみたいだから」

「「「あ、そうか」

 言い始めの「「「あ」」」は三つ頭のケルベロスだったけど、「そうか」のところでは、こっちのリアル世界の綾香ネエに戻っているケルベロス。

「でも、なんだろうね『工事中』とか書いてあると納得なんだけど『自然体が一番』てのはイミフよね」

「さっきの、自然体がどうのこうのって、二人の話……聞かれてた?」

「だれに?」

 

 …………!?

 

 同時に危険を感じて、飛び退る! 

 魔法少女の反射神経なので、お互い二十メートルも後ろの向かい合ったビルとマンションの屋上まで飛んだ。

 オブジェクトがホワホワ点滅して――ゲ、爆発するか!?――と身構えたけど、点滅の末に現れたのはフォントサイズを二つほど上げた、二文字の固有名詞だ。

 魔王

「ん? どこかのキャバクラの看板?」

「クラブ『魔王』?」

 

『馬鹿者めが!』

 

 骨伝導イヤホンめいた声が響いたかと思うと、二つのビルの間、道路の上20メートルのところに腕組みした魔王が現れた。

「「魔王!?」」

 同じ「魔王!?」だけども、綾香ネエの方は微妙にトゲがある。わたしにとっては制度上の上司に過ぎないが、綾香ネエのケルベロスには直属の、言ってみれば『ご主人と飼い犬』、親しい分だけ、感情が剥き出し。いや、日ごろからカチンとくることが多いのかもしれない。

『いささか苦労しておるようだから、儂の方から出向いてやったぞ』

「たった今、魔王府に向かっておりました」」」

 綾香ネエは、再びケルベロスの姿に戻って返答するが、頭の方は綾香ネエの声だ。

『落ち着いて話せ、ケルベロスよ』

「はい、では、これで」」「いかがでしょう」」」「「「いや、こっちか?」

『ちょっと、気持ち悪いぞ』

 胴体が綾香ネエで、首がケルベロス……胴体がケルベロスで、首二つが綾香ネエ一つがケルベロス……ちょっと混乱して来ている。

「あ、あれえ(;'∀')」」」

『どうも重症であるなあ……地獄城に入れなくてよかったぞ。そのように混乱した状態では、地獄の獄卒どもに示しがつかん』

「こないだも、位相変換して部屋を大きくしたり、無理してましたからね。しばらく、地獄病院で療養した方がいいかもしれませんねえ」

『本当は、今回の敵と戦ううえで、肝要なのは自然体がもっとも大事と思ってな。それを伝えようと思ったのだ。マジカにとっての自然体、ケルベロスの自然体、そして敵の自然体』

「敵の自然体?」

『ああ、敵もバルチック艦隊、北洋艦隊、魔法少女、怪人ファントム、と、様々に姿を変え、さらに、明治・大正・令和と無理な時間移動もしておる。中身はケルベロス以上に混乱し始めておるだろう。自分にとっての自然体も踏まえつつ、敵に当れば勝機もつかめよう。ケルベロス、おまえにも無理をさせた。しばし、はじまりの姿に戻って療養いたせ』

 魔王が指を振ると、ケルベロスは始まりの姿になって、魔王の腕の中に収まった。

 ケルベロスの始まりは、黒い子犬。首は、当然のごとく一つしかない。

 三つの首というのは、歴代の魔王が、さまざまに無理な任務を負わせたための過剰適応であったのかもしれない。

 

 そういえば、わたしは、自分のことにばかりかまけて、こちらの世界での渡辺綾香としての働きには少しも気を向けていなかった。

 ファントムを撃滅しクマさんの救出が済んだら、すこし気にかけてみよう。

 まずは、敵にとっての自然体……どう受け止めて攻めてやるかだな。

 そう思い定めた時、魔王もケルベロスの姿も、明け始めた東の空の星々と共に消えていた。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・058『だるまさんがころんだ』

2022-07-17 08:08:31 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

058『だるまさんがころんだ』 

 

 

 
 玉代の言葉はコテコテの鹿児島弁だ。

 
 化学の先生が鹿児島の出身なんだけど、職員室に提出物を持って行った時に、この化学の先生が「いやあ、君のは鹿児島弁じゃなくて薩摩弁だわ!」と感動した。

 鹿児島から出てきて二十年になる先生は、アクセントに癖がある程度で、文字に起こすとほとんど標準語。

「直そうて思うちょるんじゃじゃっどん、意識しちょっち言葉にならんで困っちょっ。こん頃は、逆にクラスんしたちが慣れてくれて、なんとか以心伝心じゃっで」

「それはいいことだ、お互いに慣れてバイリンガルになっとよかよね」

「あ、先生、鹿児島弁に戻ってるニャ!」

 ねね子が指摘すると「ほんなこつね!」と、先生の周囲が暖かな笑いに満ちた。

 

「だけどね、ねね子は思うニャ、玉ちゃんは思いっきりの美人じゃん。美人がコテコテの方言喋ってるってギャップが可愛いとかカッコいいとか思ってもらえるニャ」

 玉代がジャンケンに負けてジュースを買いに行っている間にねね子がこぼす。

「ねね子がこぼすなんてめずらしいなあ」

「何百年も猫又やってると、いろんなことがあったニャ。玉ちゃんは、そういうこと思い出させてくれるニャ」

 ねね子は、自分から身の上を語ることはめったにない。自分の事を猫又と言うのも初めてで、突っ込んでもいい話なのだが、突っ込めば真っ赤になってゲシュタルト崩壊しそうなのでやめておく。

「ねえ、あっちで『だるまさんがころんだ』やっじゃ! ひっでもねね子もおいでじゃ!」

 ジュースを投げてよこしながら玉代が上機嫌。鹿児島弁で『ひるで』は『ひっで』になるようだ。

「いこう、ねね子!」

「よし来たニャ!」

 
 ジュースを買いに行くと、ピロティーで退屈そうにしているクラスメートに出会ったので、急きょ『だるまさんがころんだ』をやることになったらしい。

 お嬢さんが多い学校で、子どもがやるような遊びをやる気にさせるのは、やっぱり才能だと思う。わたしたちがピロティーに付いた時には参加者は男女込みで三十人ほどになった。

 尻込みする子が二三人出た。

「ああ、男ん子てっしょは抵抗があっどね……よし、こげしよう!」

 なんと、男だけのチームを作り、玉代は男組のリーダーになった。鬼はねね子だ。

 だーーーーーるまさーーーーーんがーーーーーこーーーーろーーーーーんーーーーーだ!

 ねね子は、とてもゆっくりとカウントをとる。

 かと思うと、急に早くなったりして、緩急の付け方がなかなかに面白い。

「なんか、夜這(よべ)をかけちょっみて」

 この時代、訛らずに言っても『夜這い』は意味が通じないだろうけど、玉代が夜這いの気分で息を潜め腰をかがめて鬼に近づくと、純情な高校生たちにも、なんとなく分かってしまい、あちこちで忍び笑いが漏れてきてしまう。

 ねね子も吹き出しそうになるのを必死でこらえて、なんとか、そのターンを終わった。

 ちょっとイタズラ心に火が点いた。

「ねえ、なんとなく分かるんだけど、実際の夜這いって、どんなの?」

 玉代に振ると、みんなも興味津々な顔になる。

「むかしん事なんじゃじゃっどん、娘が年頃になっとね、まあ十五六歳。庭に面した一人部屋で寝っごつ親はゆとじゃ。すっと、ないごてか近隣近在に噂が広まって、男どもが夜に、そんおなごん子ん部屋に忍び寄っ。何人も通っちょっうちに娘は妊娠してしまうわけど」

「うわあ」と「アハハ」が湧きおこる。

「え、とゆうと、だれが父親か分からなくならない!?」

 興味津々のK子が手を挙げる。

「アハハ、そうすっとね、親は娘に聞っんよ『可能性んあっ男はだれだ?』ってね。すっと娘へたしてしもた男たちん名前を挙ぐっわけじゃ。時に十人前後になっこともあっ!」

 あっけらかんと玉代。

 アハハハハハハハ(^O^)(≧▽≦)(^Д^)

 もう、みんなお腹を抱えて笑い転げる。笑い転げながらも「それから?」という顔をしている。

「DNA鑑定もなか時代じゃっで、娘は、男ん中でいっばん好きな男ん名前を挙ぐっわけじゃ」

 ええーーーーー!?

 ビックリはするけれど、みんな完全に面白がっている。

「そいで、そん男は、そん娘ん家に入り婿してめでたしめでたしになっとじゃ。生まれた子が、そん男ん子に似ちょらんで、他ん男に似ちょってん、文句をゆたり言われたりちゅうこっににはならん。まあ、こいが母系制社会ん婚姻んかたちじゃなあ」

 ピロティーは朗らかな笑いに満ちて、尻込みしていた女子たちも加わって楽しく『だるまさんがころんだ』を三回やって昼休みが終わった。

 たまには、こんな昼休みもいいもんだ。

 

彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・6『それぞれの後悔 小菊の登場』

2022-07-17 06:50:46 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

6『それぞれの後悔 小菊の登場』

 

 

 後悔が沸き上がってきた。

 湧き上がるじゃない、沸き上がるんだ。
 胸のあたりで沸騰するものがあって、それが体中を駆け巡って、身体を熱くする。

「あら、暖房がきついのかな?」
「ううん、そじゃない、機内食食べたから」
「ミコは食べたら熱くなるんだったわね、いーな、そういう子は太らないんだよね」

 夏子叔母さんは、そう言うと詰まらなさそうにアイマスクして寝る体勢になった。

「ミコも寝ときな、ひょっとしたら、そのままお葬式ってこともあるからね」
「う、うん……」

 お母さんとお父さんは、電話をくれた直ぐ後に羽田から一足先にたった。
 あたしは埼玉から遅れてくる夏子叔母ちゃんを待って飛行機に乗ったんだ。

 食べて体が熱くなるのは小学校までだ、後悔だなんて、楽天家の叔母ちゃんには言えない。

 オメガ先輩に頼んだのが新発売のエロゲだったなんて!

 オメガ先輩は独特だ。

 なんというのか、フニっとしたオーラが独特で、あのフニフニはくせ者だ。

 堂本先生とトラブってるところを助けられたこともあるけど、初対面の男の人といっしょにお昼を食べるなんてありえない。
 あたしは、こんな Σ
口のツッケンドンだから、面と向かって冷やかされるようなことはないけど、陰じゃいろいろ言われてるんじゃないかと思う。

 アキバではビックリした。

 人ごみの中とは言え、逃げもしないで「学校休んで予約のエロゲを受け取りに来ました」なんて。なんで言ってしまったんだろう(#-_-#)。

 えと……お祖母ちゃんが倒れたって電話もらって、動揺してしまって、そいで心配な顔で見つめられて、つい言ってしまったんだ……

 あーーーー!

 むろん露骨にエロゲだなんて言ってない。ゲームのタイトル言って予約券を渡しただけ。「よし、俺に任せとけ!」って胸叩かれて、その場はチョ-安心してしまった。

 オメガ先輩は営業職に向いていると思う、道を踏み外せば名うての詐欺師になるかも……

 あー何考えてんだ!

 ゲーム受け取って、それがバリバリのエロゲだって分かったら……あーー大ヒンシュクだーー!!

 
 グホッ!

 いつもなら簡単に避けられるキックをまともに食らってしまった。

「この、腐れ童貞がああああああああ!」

 調子に乗った二発目は、からくもかわした。
 空振りになったケリにバランスを崩し、鬼の妹はドウっとひっくり返って縞パンが丸見えになる。

「見たなあー変態!」
「オメーが悪いんだろ」
「おまえが悪い! 同じゲーム屋の袋に、こんなエロゲ入れてほっぽらかしてるおまえがああああ!」

 受け取ったゲームがエロゲであると分かってからは生きた心地がしなかった、ソフマックの売り場には長蛇の列ができていてよ、とうぜん大型店だから、他の客もいっぱいいるわけで、そいつらが――わ、エロゲの予約!? こいつら変態? キモ!? エンガチョ!――とか思っていて、そのうちの何十人かは、帰りの駅までいっしょなわけで、そのうちの何人かは同じ電車で――え、あのエロゲ野郎と同じ方向!?――とかキモがられ、ひょっとしたら、同じ駅で降りて、同じ町内で……あり得ねえ(;'∀')。
こんなのもある、同じエロゲ買った奴なら――おお、同好の士よ! 我らが友よ! エロゲの友よ!――とかな。

 なんとか家にたどり着いた俺は緊張のあまり忘れていた尿意を思い出してトイレに直行した。

 で、妹の小菊が同じゲーム屋の袋をリビングにオキッパにしているとは夢にも思わなかった。

 俺は、玄関ホールの棚の上に置いていたんだけど、アホな小菊は自分が置いたものと思い込んで開けてしまったというわけだ。

「ち、ちが、これは……!」

 さすがにシグマに頼まれたとは言えない。

「と、友だちに頼まれて受け取りにいっただけだ!」

「見え透いた言い訳を……あ……いや、ありえるか。あんたの友だちってノリスケ一人だもんな、ノリスケならありえるか。とりあえずあんたの分、口止め料ちょ-だい」

 小悪魔は、ヒラヒラと俺の前にパーにした手をひらめかせたのだった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一(オメガ)     高校二年  
  • 百地 (シグマ)      高校一年
  • 妻鹿小菊          中三 オメガの妹 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
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せやさかい・320『古紙回収の朝』

2022-07-16 10:12:19 | ノベル

・320

『古紙回収の朝』さくら   

 

 

 ミーンミンミン ミイ……ミーンミンミン ミイ

 二週に一回の古紙回収、留美ちゃんと二人で古新聞と段ボールを蝉の声かまびすしい中、回収場所に持っていく。

 今日はテイ兄ちゃんの当番やねんけど、「すまん、寺の用事で、ちょっと出るさかい!」言うて、ついさっき原チャで出て行きよった。

 

 回収場所は、うちのお寺の角。

 うちの角やから、めっちゃ近い印象かもしれへんけど、けっこうある。

 廊下の隅にまとめてある古新聞と段ボールを玄関に持っていくのに10メートル、玄関から山門まで25メートル、山門から角まで15メートル、合計50メートル! 

 曇り空やから、まだええねんけどね、これが日ぃ照っててたら、この50メートルは、ちょっときつい。

 

 新聞はサンケイと朝日。なんや両極端の新聞やねんけど、これはお寺の事情。

 意外かもしれへんけど、お寺は、あんがい左翼が多い。

 うちはやってへんけど『安倍政治を許さない!』いう習字の見本みたいな標語を貼ってるお寺もけっこうある。過去帳とかの日付は西暦が多いしね。檀家さんもお年寄りが多くて、年寄りの半分以上は左っぽい。

 むろん、そうでない人も居てるし、せやから、バランスとるために朝日とサンケイ。

 坊主というのは、法事とか月々の檀家周りで法話、まあ、仏さんに絡めた話をせんとあかんのです。世間話もあるしね。それで、檀家さんやら世間にあわせた話がでけんとあかんのです。

 せやさかいに、朝日とサンケイ。

 

 やっぱりねえ……

 

 古新聞を置きながら留美ちゃん。

「え、なにがやっぱり?」

「新聞の一面、みんな安倍さんのことだよ」

「あ、ああ……」

 安倍さんが暗殺されて一週間、どこの新聞も一面は安倍さん関連。

「きっと時代の境目にいるんだよ、わたしたち」

「せやねえ……」

 思わず、ふたりで古新聞の山に手を合わせてしまいました。

 気配を感じて振り返ると、ビックリ。

 

「「頼子さん!?」」

 

「おはよう」

「「おはようございます」」

 頼子さんの後ろには見覚えのある青色ナンバーがバックで境内に入って行く。

 運転席で片手振ってるのはソフィー。

「きのう、現場に献花してきたんだけどね。きちんとお参りしたくて、芝の増上寺って阿弥陀様でしょ。如来寺もご本尊阿弥陀様だし、思い立って来ちゃった」

 たしかに、増上寺は浄土宗、うちは浄土真宗。開祖の法然さんと親鸞さんは師弟の間柄。

 

「お花を供えたいんですけど」

 ソフィーから花束を受けとる。花屋さんで売ってる仏花とちごて、領事館の庭で見たことのある花。

 頼子さん、自分で摘んできたんやねえ。

 

 ドロロロ……

 

 花瓶を持って本堂の階段を上がると、山門に入って来る原チャの音。

「あ、頼子さ~ん(^▽^)!」

 テイ兄ちゃんが、花束とケーキの箱をぶら下げて走って来よる。

 わが従兄ながら、ちょっとキショイ。武士の情け、思てても言わへんけどね。

 せやけど、腹立つ。

「ちょ、お寺の用事て、これやったん!?」

「まあ、いいじゃないの、さくら」

 留美ちゃんは人格者です。

 手回しのええ従兄は、写真たてに入った安倍さんの写真も用意して、用意周到。

「さっき、お電話したばかりなのに、ありがとうございます!」

 頼子さんも感激やし、まあ良しとしとこう。

 

 テイ兄ちゃんが五分ほどお経をあげてるうちにお焼香。

 気が付いた詩(ことは)ちゃんもやってきて、ささやかやけど、きちんとした法要になった。

「で、こっちはついでなんだけどね」

 頼子さんが出したタブレットには、この夏休みに行く三年ぶりのヤマセンブルグ旅行の日程が出てた。

 そして、頼子さんと詩ちゃんが互いに触発されて、なんと、詩ちゃんもいっしょにヤマセンブルグに行くことになった!

 テイ兄ちゃんも行きたそうな顔してたけど、却下されたのは言うまでもありません(^_^;)。

 ミーンミンミン ミイ……ミーンミンミン ミイ……

 蝉の声が、いっそうかまびすしい如来寺の朝でした……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・057『宮の坂の夕陽』

2022-07-16 06:31:34 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

057『宮の坂の夕陽』 

 

 

 
 ハアアア……ちょっと衰えてるのよ……。

 
 スクネ老人に腰を揉ませながらため息交じりにオキナガさんはこぼす。

 世田谷八幡の奥は別次元の神域で、清浄な竹林の中に檜の床どこがあるきりである。

 ここに招かれた者の分だけの円座があり、照れ隠しのような几帳の前に紫式部の居所のような畳が二畳。

 そこに仰臥して、スクネ老人に腰を揉ませているのだ。

 
「琥珀浄瓶をやっつければ、元に戻ると思っていたんだけどね……」

 琥珀浄瓶は大陸からやってきた不定形な妖怪の総元締めみたいなやつだ。スマホを通じて人の名前を奪っていく。スクネ老人が真っ先に気づき、わたしも久々に漆黒の甲冑を身にまといオリハルコンの大剣をふるったが、互角に戦えたのはほんのつかの間。オキナガさんが本地である神功皇后の姿で自ら琥珀浄瓶の中に飛び込み、円周率の出現で、なんとか勝利したのが、やっと桜の花が綻ぶ頃だった。

「ひるでを日本中の八幡宮へ送り出したのは、ほとんど『お疲れさん』のつもりだったのよ……ずいぶん役に立ってもらったから、ちょっと青春してもらったんだけどね……」

「うん、八幡巡りは楽しかったけど、あれって、わたしへの慰労だけじゃないわよね」

「ご明察……日本中の神さまが元気なくてね。ひるでみたいな北欧系の人に行ってもらえば、いい刺激になると思ったのよ」

「実際、先々の八幡さまには好評で……」

 マッサージの手を緩めず目配すると、正面に画面が現れ、日本中の八幡宮から来た『ひるで派遣要請』がスクロールされる。

「あ、ハワイ八幡宮があるニャ!」

「ここは、最後にみんなで行こうってとってあるの」

「それは、楽しみにとってあるのかニャ? いっとうしんどい任務なのかニャ?」

「その時にならなきゃ分からないねえ……玉代さん」

「へ、こけおっ(はい、ここにおります)」

「あなたに来てもらったのは、ぶっちゃけ、ひるでと一緒に戦ってもらいたいからなの」

「よかよ、うすうす、そげんこっじゃろうて思うちょった(o^―^o)」

「むろん玉代さん自身のためでもあるのよ。鹿児島のころのままじゃ、力が制御できなくて壊しまくってたでしょ」

「はい……」

「世の中、持ちつ持たれつ。ひるでなら信頼も置けるし、まあ、仲良くやってちょうだい」

「姫、あまり喋ると、解れませんぞ!」

 ボキ!

「グ! あとちょっとね。スクネ、腰を重点的にやってくれる?」

「承知!」

 グキ!

「グゴ!」

「もう少し、力をお抜きなされませ」

「うん……ひるで……ひるでさん」

「はい?」

「あんたにとっては異世界の日本は病んでいるのよ……ずっと先延ばしにしてきたツケが回ってきたのね……先の大戦じゃ、アイデンテティーや名前まで焼き尽くされた人たちが、妖や物の怪になり始めてる」

「分かってる。名前を取り戻してあげるのね……」

「あんたにはブァルハラでラグナロクに備える任務がある……ここでの仕事は、きっと、その時の役に立つわよ」

「あー、なんだかとってつけたみたいだけど、まあ、がんばるわ」

「玉代さん」

「はい?」

「ちょっと、耳を?」

 玉代が耳を寄せると、ヒソヒソ話にしては長い話を耳打ちした。

 え、なんで顔が赤くなるんだ?

「ま、そういうことだから、よろしくやってね。しばらく役には立ってあげられないけど、出来る限り助っ人は送るように頼んでおいたから……連絡係はスクネ……よろしく頼んだわよ……」

「「「あ……」」」

 玉代とねね子と三人――もうちょっと話が聞きたい――状態のまま、オキナガさんは姿が薄くなる。

 消える瞬間、いっしょに消えながらスクネ老人はため息をついた。

 安心したようにも仕方がないともとれるようなため息だった。

 

「さ、家に帰って晩御飯にしもんそか!? お爺どんとお婆どんてっしょん夕食、わっぜ楽しみじゃ! いきましょ、ひるで!」

 とりあえず、玉代は元気。

 宮の坂を染め上げる夕陽を背に受けて、家路につく俄か又従姉妹の二人だった。

「あ、ねね子も居るニャ!」

 二人と一匹だった(^_^;)。

「い、一匹は無いのニャ! 一人なのニャ」

 振り向くと、悔しそうにねね子が二人の影を踏んづけていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・5『よし、俺に任せとけ!』

2022-07-16 06:09:08 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
『よし、俺に任せとけ!』




 土曜日だと言うのに電車の中は高校生が多い。

 ほとんどの公立高校は休みのはずだ。むろん私学はやっているから、制服の高校生が乗っていたって不思議じゃないんだけど、あきらかに公立高校と知れるやつらが多いので不思議だ。

 それに、スマホじゃなくて参考書っぽいのを開いてるやつが多い。俺は電車通学じゃないので、いつもの様子は分からないんだけど、なんだか違う。

 で、OLさんが広げてる新聞(Olさんが新聞広げてるのも新鮮なんだけど)をチラ見して合点がいった。センター試験の記事が目についたんだ。

 この高校生たちは国公立の二次試験を受けに行くんだ。

 俺も四月からは三年生なんで他人事ではない。

 と言って、国公立を受ける予定も能力もないんだけど、ザックリ進路決定が迫っているということを思い出して身が引き締まるわけだ。

 で、そんな俺は今日も朝からアキバ目指して中央線に乗っている。

 理由は、昨日、アキバの広場でシグマに出くわしたことにある。

「先輩、なんでアキバにいるんですか!?」

 見ようによっては非難しているようなΣの口を、さらに尖らせて聞きとがめる。

「えと、プラ……なんとかフライデーってからさ、フラッとな」
「プラ……ああ、プライムフライデー。学校三時までだったんですか?」
「アハハ、先生の一部がな。で、その空気が伝染しちまったってところ。俺って流されやすいんだよな~」
「ハハ、そうなんだ」

 笑ってもΣ口だけど、学校で見かけるよりは、うんと可愛い。

 てか……。

「なんでキミは私服なわけ?」

 シグマの出で立ちは、ポニーテールの首の下にサンダース大学付属高校のジャケット+縞タートル+黒ミニ+ニーソという完全装備。

「あ、えと……あ……あ……」

 押してはいけないスイッチに手を掛けたようで、俺は両手をパーにしてハタハタと振った。

「いや、いいんだいいんだ、人には事情とか都合とか……いや、学校なんてキチンと行かなくても……」
「あ、あの、学校は……」

 シグマは俯いて顔が赤くなってくる。

 あーーなんだか、シグマどころか自分自身を追い詰めてるみたいになってきた。

「せっかくだからさ、マックでも行こうぜ。俺、ラジ館の前でマックに行くつもりしてたんだけどさ、こっちの方でガルパンのライブが聞こえてきたんで、ついな」
「え!? 先輩もガルパン好きなんですか!?」

 クイっと顔を上げた、その顔は、まるで、そこだけ日が当たったみたいだ。

「おうよ、低血圧の冷泉麻子がオシメンよ!」

 ガルパンについては並のファンなんだけど、シグマの顔を見ていたら、とっさに冷泉麻子の名前が浮かんじまった。
 そういや、シグマはどこなく、無愛想低血圧の名操縦手に似ている。

「あたしは低血圧でも……ないし、あんなに頭も……よっく……ない……ですけど……ねっ!」

 その流れでマックの二階でプレステのガルパンゲームをやっているのを思い出した。

 アニメのガルパンの話の流れで戦車戦をやるゲームなんだけど、シグマのやり込みはハンパなかった。黒森峰のドイツ戦車軍団を三分余りでせん滅してしまった。

「大したもんだなあ……」
「いや、ヒットアンドランを的確にやってれば、だれでもSランクでコンプリートできますよ」

 Σの口元が不敵に微笑む。

「本来のあたしは、けっこうドジで間抜けなんです」
「え、そう?」
「今日だって、予約したゲームの発売日……」
「そうなんだ、好きなゲームの発売は見逃せないよな!」

 シグマが、俺の中の女子ゲームファンというカテゴリーに収まったので安心した。

「で、発売日は明日だったんですよね……」
「ハハハハ」

 こういうドジっ子のところは可愛い。

「で、このままアキバに居続けして朝を迎えると言うわけか」
「アハハ、まさか! 適当に切り上げて、明日の朝出直しますよ!」

 マックシェイクをすするのとスマホの着メロが鳴るのが同時だった。

「あ、なにお母さん?」

 どうやら家からの電話のようだ。返答の仕方がスレていないので、案外いいやつなんだと再認識した。

「え……いや、そ、そんな……」

 話の途中で、シグマはドンヨリしてしまった。

「家でなにかあったのか?」
「明日アキバに来れなくなって……」

 そこまで言うと、シグマはホロホロと涙を流した。

「お祖母ちゃんの具合が悪くなって……今から帰らなくちゃならない……」
「帰るって、東京の近く?」
「えと……ハワイ」
「え……」

 ぜったい日帰りは無理だ(^_^;)。

「発売日に受け取りに行かなきゃ予約取り消しに……」

「よし、俺に任せとけ!」

 というわけで、シグマに代って予約ゲームを受け取りに行くために、土曜の朝にアキバ行きの電車に乗っているわけなんだ。

 ま、この程度の親切は、モブの許容範囲だ。

 シグマの輝いた笑顔はモブには眩しかったが、ま、たまに良いことをするのも悪くはないもんだ。

 だけど……

 18禁のエロゲだとは思わなかったぜえええええ!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一(オメガ)     高校二年  
  • 百地 (シグマ)      高校一年 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
     
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くノ一その一今のうち・13『太閤記のスジ』

2022-07-15 14:03:29 | 小説3

くノ一その一今のうち

13『太閤記のスジ』 

 

 

 忍者にはスジってもんがあるんだ……

 

 忍冬堂の目を細めた顔が浮かんでくる。

 今日も殺陣の仕事を終えて事務所に帰る車の中。

 まあやは二度ほどで憶えてくれたんだけど、ゲストのアイドル俳優のニイチャンが腰が引けて、なかなかOKが出なかった。理由は分かってる、殺気がありすぎるんだ、わたし。

 お芝居なんだけど、ジュラルミンの刀だと分かっていても、刀を構えるとどうしてもその気になってしまう。

 だから、アイドル俳優ビビらせて、撮り直しばかりだった。

 で、気疲れから、ついウトウトして忍冬堂の問わず語りを思い出してしまう。

 

「忍者にはスジってもんがあってね、Aという大名に仕えるとしくじりばかりだが、Bに乗り換えたとたんにうまく行くことがある。忍者のしくじりは命に係わるから、まとめ役の上忍は気を配ったもんさ。映画や小説とかじゃ、忍者はバタバタ死んじゃうんだけど、じっさいは、本人も死にたくねえし、使う方も死なせたかねえ。忍者一人使えるように育てるには、べらぼうな金と時間がかかってる。だいたい忍者の里ってのは、有名な伊賀にしろ甲賀にしろ山がちで米なんか作れねえところだ。忍者の稼ぎは、まんま、里の女子供を食わせるための命綱だしな、みんな命は惜しんだもんさ。だから、どこの仕事を引き受けるかは、とっても大事なことだったのさ。それを見極めるために目利きの上忍は気を飛ばして、その適性を見るんだ……内緒なんだろうが、百地は分かってるんだろうねえ……わざわざメモを回覧板に挟んでくるんだもんなあ……こりゃ、太閤記のスジで協力してくれろってなぞなんだろうけどなあ」

「太閤記って、豊臣秀吉の一代記なんですよね?」

「そうだよ、古くは太田牛一、小瀬甫安、明治からこっちの決定版なら吉川英治に司馬遼太郎ってとこだが……おれっちみたいな昭和のテレビ世代は、古本屋が言うのもなんだけど、大河ドラマの『太閤記』だね。緒形拳の秀吉はピカイチだったけど、高橋浩二の信長も良かったねぇ。ご婦人方の人気がすごくってさ、信長の助命嘆願の手紙がNHKにいっぱい来ちまって、本能寺の変は、シリーズも半ば過ぎの六月まで放送できなかったって伝説さ。そうだ、ちょうど頂き物の太鼓焼きが……あったあった、婆さん、お茶淹れとくれ、百地の若い子と話しすんだからよ。まあ、遠慮なんかいらねえ、そうだ、今日は、もうアイドルタイムにしちまおう」

「すみません、回覧板持ってきただけなのに(^_^;)」

「いいさいいさ、百地んとこは腐っても芸能プロなんだしよ、ひょっとしたら、久々の太閤記でブレイクすんのかもな。いや、これはなかなかの辻占にちげえねえ」

「まさか、アハハハ」

 

 忍冬堂とのやりとりは、ついこないだのこと……そんな感じなんだけど、もう三月も経っていて、三年生の風間しのとしては進路を決めなくちゃならない。

 大学とか短大にいく余裕なんてうちにはないし、最近安定してきたバイトのギャラで行けるようなものでもない。

 いっそ、百地芸能に就職? いや、太閤記の話ってかけらもないし。

 まあ、あれは年寄りの夢とかゲン担ぎなんだろうね。

 最近では、鈴木まあやに気に入られて、レギュラーの時代劇だけじゃなくて、ドラマでは専属の代役をやったりしている。むろん後姿とかスタントばっかなんだけど、このギャラが、けっこういい。

 二三年も、まあやの代役やったら、短大くらいいけるお金が貯まるかもしれない。

 でも、そうすると二十歳超えてしまって……ニ十二くらいで短大卒……ありえない。

 でもでも、忍冬堂が言うように、忍者にはスジ……って言うのも頭をよぎるしねえ。

 なんなんだろうね、太閤記のスジっていうのは……

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁もち・お金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・056『煙が立たない(;゜Д゜)』

2022-07-15 06:57:21 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

056『煙が立たない(;゜Д゜)』 

     

 

 
 学校を出て二三分もすると世田谷八幡と豪徳寺の緑が重なって見えてくる。一見一つの森のように見えるのだが、東急世田谷線を挟んで別々の緑だ。

 下校時間に通ると、たいてい二つの緑の間にのどかな煙が立ち上っている。

 オキナガさんかスクネ老人が落ち葉を焼いている。たいてい芋が仕込まれていて「おひとつどう?」と勧められて立ち話になる。この「おひとつどう?」に付き合って話し込むと、いつのまにか陽が西に傾き果てている。

 もう少しで鳥居というところまで来ても、その煙が見えない。

「お休みなのかニャ?」

 トテトテとねね子は駆けだして鳥居の内に消えた。

 玉代と二人で鳥居前までさしかかると、いつもの所でスクネ老人とねね子が、しゃがんで焚火の火を起こしている。

「ひるで、火が点かないのニャ」

「おう、ひるで殿、そちらは荒田神社の玉依姫さまでございますな」

「初めまして、ここじゃ、どうぞ『玉代』て呼びたもんせ」

「これはこれは、わたしは世田谷八幡の守をいたしておりますスクネでございます、よろしくお見知りおきのほどを」

「火が点かんな煙がたちもはんねえ」

「はい、煙が立たなければ、八幡の煙回廊ができません。全国の八幡と連絡がとれなくなってしまいます」

「オキナガさんは、朝のうちに煙街道で出かけて行ってしまったらしいニャ」

「これでは帰ってこれなくなるなあ」

「おいがやってみましょうか、桜島ん力を被うちょっで、火起こしは得意じゃっで」

「おう、そうだ、荒田八幡は鹿児島でしたなあ」

「そいでは……」

 玉代は忍者のような印を結ぶと、なにやら祝詞めいたものを口ずさみ、枯葉の山に気を放った。

「チェスト―!」

 ボン!!

 一瞬で爆発的に火が点いたが、枯葉の山は一瞬で燃え尽きてしまった。

「煙が出る暇もなかったわよ……」

「チェスト―はやりすぎだニャ」

「すみもはん、もう一度枯葉を集めてもれもはんか?」

「枯葉ならいくらでも……」

 瞬くうちに枯葉が集められ、玉代は控え目に印を結んだ。

「チェ……」

 ボシュ!

 派手さは無いが、フラッシュを焚いたくらいの光を発して燃え尽きた。

「完全燃焼しているニャア」

「もう一度(^_^;)」

 三度枯葉が集められる。

 今度は印も結ばず、目を細めて息を凝らす。

「スクネさん、じつは、今朝から名前を忘れそうになっている者が増えているんだけど、ここの火が点きにくくなっていることと、関りがあるのではないだろうか? それをオキナガさんに相談したくてきたんだが」

「それは姫も感じておられました、じつは、そのことを調べに煙街道に上っていかれたのですよ」

「それなら、なんとしても火を起こさなければ」

「あ、点いたニャ!」

 点くには点いたが、ともすると完全燃焼気味で煙が立たない。玉代は、さらに目を細め息を潜めて力を調節する。

「こいでどうだ……」

「「「おおーー」」」

 いささか不安定だが、ブツブツとまとまった量の煙が立ち始めた。

 ボボボボ……プスン……ボボボボ……プスン……ボボボボ……

「あ、なにか降りてくるニャ!」

「おお、姫が!」

 手ごたえはあった。

 トン トン トトン トン…………

 飛び石を飛ぶような音が頭上に聞こえた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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漆黒のブリュンヒルデQ・055『玉代の自己紹介』

2022-07-15 06:53:03 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

055『玉代の自己紹介』 

    

 

  かごんまから参ってめった荒田玉代じゃ、武笠どんとは従姉妹同士で、住めも武笠どんの家で下宿じゃ。東京どころか豪徳寺周辺ん事もさっぱりじゃっで。こんあたりを頼りなか顔でウロウロしちょったら、道に迷うちょっ証拠じゃで教えてもれると嬉しか(^▽^)/。かごんまは、どけ行ってん桜島が見ゆっで、道に迷うたや桜島を見っ。桜島ん微妙な形や距離感で居場所が分かっんじゃ。東京には桜島は無かで、東京に来て、桜島んごつわたしを導いてくるったぁ、先生方を始め、こん学校のみなさんじゃて思っで。何卒宜しゅうたのみあげもす。

 
 先生に紹介されて教壇に立ったときは、大柄で目の覚めるような美しさに圧倒されたクラスメートたちだが、玉代が転校の挨拶をすると、コテコテの鹿児島弁と持ち前の明るさと温もりに、みんなファンになってしまった。

「よろしく荒田さん、掃除当番とかで同じ班になるから、仲良くしてね!」

「こちらこそよろしゅう、住江どん」

「お昼とか、いっしょにできると嬉しいかも!」

「そんたよかど、門野どん」

「好きな食べ物とかは?」

「かごんまラーメンじゃろうか、坂東どん」

「部活とか入るの?」

「よかクラブとかあったやて思うとどん、時間がねえ、まあ、よろしゅう三好どん」

 朝礼が終わると、女子たちが集まってきて質問攻めにする。もうソーシャルディスタンスもへったくれもない。

 男子も興味有り気なんだけど、圧倒されて近寄ることも出来ないみたい。

 コロナウィルスのため部分登校なので授業は二コマしかないんだけど、休み時間になると、噂を聞いた他の学年や。よそのクラスの子までやってきて、もう、玉代は時の人という感じになってしまった。

「でも、玉ちゃん偉いよね、いちいち相手の名前確認してるんだ」

 柱の陰から様子を見ていたねね子が、ピョンと出てきて感心する。

「そうじゃないよね、玉ちゃん」

「ひっでも気ぢちょった?」

「うん、五人くらいで変だと思った」

「え、なにがあ?」

「みんな、自分からは名乗らんのじゃ。ちょっとあり得らんやろ」

「あ、そう言えばそうか!」

「みんな、自分ん名前を忘れかけちょっごたっ」

「名前を忘れるのって、古い妖だけだったじゃない?」

「わたしがこけ来たんな、わたしん休養んためだけじゃなかみてね」

 それは頷ける、今朝登校途中で見かけたランニングの学生たちも、わたしひとりの手には負えなかったものな。

「玉ちゃん、ねね子、オキナガさんとこに行くよ!」

「え? お昼ご飯食べたいニャ!」

「メシは後だ」

「そんニャー!」

「ねね子どん、苗字をゆてごらん」

「え、苗字……えと……」

 ねね子は、呆然と立ち尽くしてしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・4『プレミアムフライデー』

2022-07-15 06:27:28 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
『プレミアムフライデー』


 

 ―― 世間様とは付かず離れずのモブ人間 ――

 十七年の人生で打ちたてた俺のモットー。

 人様の先頭に立つのもごめんだし、ケツに回ってハブられるのもいやだ。

 なんとなく世間に混じって、つつがなく人生を送れれば上等なんだ。

 だから、自分から進んで人や事件に関わることはやらない。

 

 クラスメートの顔ぐらいは分かるけど、口もきいたことが無いのが十人ほどいる。ケリを入れたり入れられたりという、ちょっとばかし肌感覚で付き合っているのは、保育所からの付き合いのノリスケ(鈴木典亮)一人だけ。

 人が困っていても――気の毒だなあ――と同情の顔はするけど、率先して助ける人がいなければ傍観している。天変地異の大災害があってもボランティアなんかには行かない。

 駅前とかで募金とかをやっていたら殊勝な顔して50円くらいを入れておく、逆に言うと、真面目に募金活動してる前を素通りしちまう根性が無い。

 で、いっかい募金しちまうと――俺はちゃんと募金したんだ――と歩けてしまう。そういうモブ根性の高校生なんだ。

 それが人を助けてしまった。

 昼休みの食堂前で、堂本って数学教師にネチネチ絡まれてる女子を助けちまった。

 堂本には、一年の時、同じようにいたぶられたことがあったので、つい口を出してしまったんだ。

 いつものようにノリスケといっしょなら、ちょっと眉をしかめるだけでランチをかっこんでいただろう。

 おかげで、俺も女子も数量限定のランチを食いっぱぐれ、南のおばちゃんに頼んで裏メニューのスペメンを作ってもらったよ。

 よせばいいのに、女子と並んで食ったものだから、面白がったクラス仲間に写真撮られ、あくる朝には復活したノリスケに冷やかされる。

 で、たまたま十字路に現れた女子……シグマこと百地(そーいや、下の名前は聞いてない)に聞かれっちまってソッポを向かれる。

 やっぱ、モブ人間の境界は超えちゃいけないんだ、チクショーめ!!

 オメガが粉かけた女子にソデにされた!

 案の定、教室に入るとクラスの女子たちがクスクス笑ってやがる。

 こいつら、人の不幸は何十倍にも盛って退屈しのぎにしやがる。でも、写真をネットで流すとこまではいかない。

 なんたって、俺はモブなんだからな。

「俺じゃねーって」

 休み時間に、ノリスケを捕まえて聞きただす。

「おまえがデカい声出して、当てずっぽのスリーサイズ言ったりすっからだ!」
「わりー、でも、今度のも目撃してたオーディエンスなんだろうぜ」
「ま、いい。ラーメン一杯で勘弁してやるよ」

 そう言って、俺はノリスケの襟首を離した。

「……以上の者は放課後補習ね!」

 昼休みの予鈴が鳴ると担任のヨッチャン(田島芳子)が教室にやってきて、情け無用の宣告をしていった。

「すまん、ラーメンは、また今度な」

 ノリスケが補習にかかってしまう、ノリスケも成績はヘボだ。

「でも、なんで昼休みに宣告してくんだろ?」
「終礼の宣告じゃショック大きいからじゃない?」

 女子が疑問を呈する。すると、ヨッチャンが戻って来た。

「今日は終礼なしだから」
「えー、なんでですかー?」
「ほら、今日はプレミアムフライデーなの。先生全員は無理だけど、順番であたし当たっちゃったから、そーゆーこと」

「「「「「えーーーー、先生だけ!?」」」」」

 非難の声があちこちで起こる。

「こういうことは段階的にやらなきゃ広まっていかないの! ね?」

 なぜかヨッチャンは、俺の顔を見て「ね?」をくっ付けた。

「おまえのω口は人に安心を与えるんだよ、ヨッチャンも、どこか後ろめたいんだろーな」
「そ、そっか」

 こういう呑み込みのいいところも、俺たちがモブ属性である証拠だろう。

 放課後は足を延ばしてアキバに行った。

 ノリスケの補習で一人になったせいか、ヨッチャンのプレミアムフライデーに触発されたのかは分からない。

 ボーっと放電するのにアキバはいい。

 そう、放電だ、充電じゃねえ。

 充電はオタクがやることだ。流行りのアニメとかフィギュアとかの情報掴んで、同類の姿や目の色に触発されて――自分も頑張らなくちゃ!――と奮い立って、なけなしの財産でグッズを買いまくって、メイド喫茶で萌キュンとかいって頬染めてるやつらだ。俺は、たまにネトフリでアニメ観るくらい。それもワンクール12回観るのは年に三本くれえって、オタクのカテゴリーではニワカとかライトの範疇にも入らねえ。アキバのなんちゃら通りとかをぞめき歩いて日ごろの憂さを放電しておしまいってわけだ。

 昭和通り口から出て、アキバを大回りで回る。特にあてはない、雑踏の中が心地いいんだ。

 ラジオ会館の前まで行くと楽し気なアニソンが聞こえてくる。プレミアムフライデーとあって、広場に特設ステージを組んでイベントをやっているようだ。

 アニソンと言うと大人たちはバカにするかもしれないけど、俺は大したもんだと思っている。いまかかってるガルパンの曲なんて、テレビのBGなんかにしょっちゅう使われてる。そうと知らないでファンになった祖父ちゃんに「これだよ」とポスターを見せたら目を白黒させていた。

「お、中部方面音楽隊だ」

 グレードが高いと思ったら、自衛隊の音楽隊だ。自衛隊の音楽隊はハンパじゃない、一流の音楽大学を出てないと実技で受からないと言われていて、定年は将官並の60歳だ。日々その技量を磨くことに専念できる楽団はここくらいのもんだろう。YouTubeで発見して以来、もう六年くらいのファンなのだ。

 メドレーも終盤になって『それゆけ!乙女の戦車道!』で御ひいきの声優さんが出てきた。

 ネットでは時々観るけど、リアルに観るのは初めてだ。

 思わず踏み出すと、後ろから割り込んできた奴と接触してしまった。

「ちょっ!」
「あんたこそ!」

「「あーーー!」」

 声が揃った。

「シグマ!?」
「オメガ先輩!?」

 その時のシグマの目には昨日の険しさはなかった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一(オメガ)     高校二年  
  • 百地 (シグマ)      高校一年 
  • ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち
  • ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任
     
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ピボット高校アーカイ部・17『螺子先輩のメンテナンス・2』

2022-07-14 10:03:56 | 小説6

高校部     

17『螺子先輩のメンテナンス・2』 

 

 

 一石軍太です

 

 どこから見てもゲルマン民族という感じの先生は、まるでアフレコが入ってるようなきれいな日本語で名乗った。

「あ、はあ……田中鋲です」

「帰化してつけた名前なのでね、もともとはギュンター・アインシュタインと云います。鋲くんは螺子さんの助手なんですね。わたしも、三年前までは父の助手でした。いずれ、ゆっくりお話しできるといいですね」

「は、はい、よろしくお願いします(;'∀')」

 そんなに大柄ではないんだけど、そのままディズニー映画の王子役が務まりそうな姿とアインシュタインという有名すぎる苗字に圧倒されてしまった。

「さっそくメンテナンスにかかりましょう」

 先生は慣れた無造作、でも、けしてぞんざいではないやり方、例えて言うと母親がうつ伏せのまま寝てしまった子供をそうするように、先輩の体を仰向けにした。

 あ(#'∀'#)!?

「すまない、ちょっと無神経だったね」

 先生は、先輩のおへその下をシーツで隠した。

「でも、目を背けないで見ていてください。鋲くんにも必要なことですから……ラウゲンの塗布はよくできていますよ……でも、関節や神経系の摩損がひどいですね。胸骨は寿命です、取り換えましょう。鋲くん、見ていてくださいね」

「は、はい」

 先生が右手の人差し指で、喉元から肋骨の合わせ目のところをなぞると、まるでファスナーを開いたように皮膚が開いて、中身が露わになった。

 血が出るようなことななく、まるで、シリコンかなにかで出来た人体模型を開いているようだ。

 10センチ幅ほど開いたそこには、ネクタイみたいな骨が肋骨の脚を伸ばして収まっている。

「ここはね、全身のエネルギーをコントロールするコンデンサみたいな働きをするんだ。百メートルもジャンプするにも、指先や目蓋を微かに動かす時も、ここで制御されたエネルギーが必要なだけ必要な駆動系に送られる。臨時にバリアーを張る時は、電力換算すると、小さな発電所並のエネルギーが放散されたりしてね、無理をしなければ50年は持つんだけどね、これは、まだ5年しかたっていないのにね……無理をさせてしまったね」

 カシャ

 かそけき音をさせて胸骨が外される。

 外された胸骨は、それまでの骨の質感を失って、腐食したアルミのような白っちゃけた質感に変わってしまった。

 カチッ

 しっかりした音がして新しい胸骨が取り付けられる。

「介添え願います」

「はい」

 イルネさんは、左右に開いた胸を掴んで真ん中の方に寄せ、先生は再び右手の人差し指でなぞって閉じていく。

 フウウウ

 これで終わったと思って、大きなため息みたいに息が漏れてしまった。

「これからですよ、鋲くん」

「なにをするんですか?」

「焼くんです」

「え、ええ!?」

 寝かされていた台の天板部分だけが先輩を載せたまま浮き上がり、イルネさんが開いた据え付けの窯の中に収まっていく。

「これは精霊窯と言ってね、精霊の力で、霊力を焼き付けるんです。霊力を均一に焼き付けるためには、ラウゲンの丁寧な塗布が必要なんですよ」

「先生、あとは焼くだけですから、もうけっこうですよ」

「すまない、イルネ。明日はドイツに飛ばなきゃならないんで、これで失礼するよ」

「先生も大変ですねぇ」

「ここのところ、世界情勢はダイナミックですからねえ。それでは、鋲くん、またいずれね」

 きれいな笑顔を残して、先生は一階への階段を上がっていき、少ししてドアが開いて閉まる音がした。

「窯も安定してるね……さ、鋲くんには後で螺子ちゃん送ってもらわなきゃならないから、上で休んでて、焼き上がったら知らせるから」

「はい」

 階段を上がると、すでにマスターは店を閉めていて、イートインスペースのところにお茶が用意されていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・3『ノリスケの復活』

2022-07-14 06:17:14 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
3
『ノリスケの復活』

 

 

 死んだんじゃねーのかよっ!?

 ボス!

 信号でいっしょになったノリスケにケリを入れる。

「イッテーなあ! 病み上がりにする挨拶かよっ!」

 バス!

 そう返しながらノリスケもケリを返す、これでコミニケーションのスイッチが入る。

「蹴んなよ、インフルエンザが伝染んじゃねーか!」
「伝染んねーよ! だいいちインフルエンザじゃねーし!」
「バカが伝染る~!」
「ウッセー、だれがバカだ!」

 バス! ボス!

 ふたたび蹴りあいになったところで信号は青だ。

「食堂で女子とスペメン食ってたってろ?」

「ノワッ!」

 歩道の段差でつまづいてタタラを踏む。

「なに動揺してんだよ」
「してねー、つまづいただけだっつーの!」
「で、ラブラブになった女子ってだれなんだあ(。¬д¬。)?」
「んな目で見んな!」
「堂本にいたぶられてるとこを、おめえがレスキューしたって話じゃねーか」
「ゲ!? なんで知ってんだよ?」
「唯我独尊のオメガがツーショットで昼飯、それもスペメンなんて親密さが噂にならねーわけねーじゃねーか。ほらよ」

「ゲーーーー!!」

 ノリスケが示したスマホには、俺とシグマが仲良くスペメン食ってるところが映っていた。

 俺のモットーは――世間様とは付かず離れずのモブ人間――なんだ、こんな写真撮られることは、だんぜん俺らしくない。

「らしくねーことするから撮られるんじゃねーか。ま、親友の俺としては、おめーのヘタレモブ根性は心配のタネだったから嬉しいんだけど、女子の方は向かいの奴が目隠しになって顔がよく分かんねーからさ」

「ノリスケがいたら、こういう展開にはなってねーよ」

 撮られたことで鈍い後悔が湧いてきて、つい子どもみたいなことを口走ってしまう。

「あ、ちょっと、そういうのはキモイんですけどぉ……」

 女みたいに鞄を胸に抱えて引きやがる。

「おめーの方がキモイわ!」

 そのとき視線を感じた。

 一つ向こうの十字路にシグマが現れたのだ。

 なんてこった、この十字路から先は通学路が重なっていたんだ。

 二年間、いや、シグマは一年生だから一年間同じ道歩いてて見覚えが無かったんだ(;'∀')。

 ま、モブの注意力ってこんなもんだけど、で、なんで動揺してんだ、俺!?

「え……ひょっとして、あの子か!?」

「ちょ、声でかい!」

 ノリスケの声が災いしたんだろ、一瞬目が合ったシグマは怒ったような顔になり、プイとそっぽ向いて、学校への坂道をスタスタ上って行った。

「あ………」

「身長150、上から70、51、77……ってとこ、小柄な小悪魔風、可愛いんだけど、お口が、なんの不足か尖がっちゃって、ちょっち残念賞……ま、朝に弱いタイプかもしんねーな……ゲフッ!」

 俺は本気でケリを入れていたのだった。
 

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やくもあやかし物語・148『再びの神保城』

2022-07-13 12:44:20 | ライトノベルセレクト

やく物語・148

『再びの神保城』   

 

 

 霞の真ん中がぼんやり滲むように開けていって、神保城の坂道が明らかになっていく。

 坂道は、神保城の東側。ぼんやりとしながらもフワフワと明るいので、日が昇って三時間くらいの初々しい朝だ。

 

 おお……

 

 思わず、都に着いた勇者みたいな声が出た。

 お城の周りは、四季折々の花がいっぺんに咲いていて、ミックスジュースを思わせるようないい香りがしている。

 見上げたファサード(城門を含む、正面のしつらえ)は、ゴブラン織りかなにかの幕やら旗やらが、垂れたり掲げられたり、なんともゴージャスで華やかで、勇者がミッションコンプリートで大団円に臨むって感じ。このまま、王様に出迎えられて「勇者殿、我が姫を妃として、末永くこの国を治めてくだされ」とか言われて、経験値マックス、トロコンして、経験値引き継いで『強くてニューゲーム』のフラグが立っていたり。

 でも、わたしは勇者じゃなくて男でもなくて、この城の女主なのよ。

「お、これは女王さま!」

 櫓の上から声がしたかと思うと、いつのまにか城門は開いていて、ガシャガシャと鎧の音をさせながらアノマロカリス将軍が駆けてくる。

「城も城下も、九分どうり整いまして、明日にでも女王陛下をお迎えしようと思っていたところです」

「あなたも、すっかり偉い将軍になっちゃったわね」

「はい、この神保城の安寧を保つべく、鋭意努力する所存にございます」

「それはそれは」

「本来なら、儀仗隊を並べファンファーレと花吹雪でお迎えしなければならんのですが、なにぶん、みな、陛下のおなりは、もう少し後であろうと思っております。今日の所はお忍びということで」

「うん、いいわよ、それで。で、御息所か黒電話さんに会いたいんだけど」

「はい、それでは……」

 髭を振り回してアノマロカリスがキョロキョロすると、後ろから声がかかった。

「わたくしがご案内いたします」

「あ、アカミコさん!」

 アカミコさんは、神田明神からの出向で、神保城でのわたしの身の回りの世話をしてくれる。

 わたしのフィギュアたちは舞い上がってしまっているので、仕方がない。

 

「三回目だけど、まだ慣れないなあ……」

 

 お城の中はラビリンス。アカミコさんが居なければ御息所たちに会うどころか、自分が迷子になってしまう。

 いや、それも無理っぽい。

 お城の中では、いっぱい気配がするんだけど、わたしが近づいていくと消えてしまう。

「みんな遠慮しているのです、やくもさんを煩わせてはいけないと思って。でも、みんな新しいお城が嬉しくって、子どもみたいに夢中で……」

 ドタドタドタ

 突き当りの回廊をフィギュアたちが大工道具や資材を持って走っている。

「こらあ、廊下は走っちゃダメでしょ!」

 メイドのフィギュアが拳を振り上げ、自分も走りながら叱っている。

「なんだか保育所の休憩時間みたい(^_^;)」

「フィギュアたちは、持ち主の心が反映されます。ちょっと騒々しいですが、みんな素直に嬉しくって無中なんです……いつか、やってくるご自分の姿だと大目に見てやっては、いかがでしょう」

「う、うん。これはこれでいいんだよ。でも、だからこそ……」

「チカコさんですね」

「うん、でも、わたし一人じゃ、どこをどう探していいか……」

「そうですね……こちらのお部屋です」

 

 黒書院

 

 なんだか、時代劇っぽい名前の部屋……入ってみると……あれ、うちの居間みたい。

 普段、食事の後は、リビングでお爺ちゃんお婆ちゃんと寛いでるんだけど、廊下を挟んだ向こうには十二畳の居間がある。居間の隣にはお茶室とかがあるんだけど、普段は使うことが無い。むかし、お婆ちゃんが小さいころは、大勢の家族で食事をしたり寛いだりする部屋だったそうだ。そこに似ている。

「もうひとつ向こうのお部屋になります」

 襖が開いて通されると、部屋は右側に一段下がって広がっている感じ。

 座布団が布いてあるところまで行くと、一段下がったところに逓信大臣の制服姿で交換手さんが畏まっていたよ。

 

「逓信大臣、面をお上げください」

 

 アカメイドさんが声を掛けると、やっと、顔を上げる交換手さん。

「交換手の制服に着替える間がありませんでしたので、こんなナリで申し訳ありません」

「ううん、急に来たのはわたしの方だし。気にしないで……えと、御息所は?」

「御息所は、総理大臣と建設大臣を引き受けまして、手が離せない状況です。申し訳ありません」

「あ、いいよいいよ。みんな楽しんでるというか、イキイキしていて、やくもは嬉しいよ(^_^;)」

「もったいないお言葉」

「あ、えと……もっと普通に喋ろうよ。なんか、殿様と家来みたい」

「総理大臣の指示で、このようなしきたりになっております」

「最初は、王朝風にやろうっておっしゃって、そこには御簾がかかっていました。直答が許されるのは三位以上の公卿に限るって、大変でした」

 アカミコさんも苦笑い。

「アカミコさんが間に入ってくださって、こういうお大名風に落ち着いたところなんです」

「あはは、目覚めちゃったって感じなんだね……まあ、ここは普通に話そうよ」

 わたしは、上段の間を下りて交換手さんの前に座りなおした。

「ウフフ、そうですね。わたしも、この方が断然楽ですから……ご用件はチカコさんのことですね」

「うん……」

「承知しました。わたしも豊原以来の交換手、電話線を使えばたいていのところには行けます。行先さへ教えていただければ、多少のお手伝いはできるでしょう」

「こっちの仕事はいいの?」

「基地局を建てる仕事が残っていますが、いいですよ。アナログ電話の回線は繋ぎ終えましたから」

「連絡はどうしたらいいんだろ、いちいち、こっちに来なくちゃいけないのかな?」

「いいえ、あっちの黒電話からお話しいただければ。スマホはダメですよ。まだ基地局できてませんからね」

「ありがとう、交換手さん!」

 ちょっとだけ光が見えてきた……気がしないでもない。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・2『それぞれのあだ名』

2022-07-13 06:19:25 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
2『それぞれのあだ名』   




 例のやつとはスペメン、スペシャル麺類の略だ。

 食堂の麺類は、うどん・そば・中華そばの三種類。
 日によって残っている麺類はまちまちで、その麺類に、ありったけのトッピングを全部のせしたものをいう。


 今日のスペメンはうどんだ。   
 

 天かす、オボロ昆布、きざみあげ、わかめ、玉子が乗っかって300円。早めに頼むと、数量限定の肉が入ることもある(肉が入ると350円)

 券売機のメニューには無い特別メニューだ。

 元々は、余った食材で作ったまかないなんだけど、ずっと昔の先輩が発見して裏メニューになっている。

 で、目の前には大盛りと並のスペメンが並んでいる。

 食堂のおばちゃんは南さんといって俺んちの近所のおばちゃん。

 おばちゃんは状況を察して、大盛りと並に振り分けてくれた。

「こんなの初めてです!」

 シグマは弾みのいい子で、うどん一杯で気持ちが切り替わったようだ。

 口元は堂本が言う通りのΣだけど、全体で見ると、年相応に驚き六分ワクワク二分に緊張二分ってとこだ。

 根っこの所では弾みがいいようで、うどんをすするΣ口も悪くはない……どっちかっていうと可愛いやつだぞ。

「あ、いっしょに食べててよかったっけ?」

「あ、え、えと、かまいませんよ。先輩は?」

「俺は気にしないから」

「そ、そですか……(^_^;)

 ひとしきりスペメンに集中する。

 妹以外の女の子と食べるのは緊張する。

 ノリスケといっしょならズルズルかっ込んで、うどん一杯なんてあっと言う間なんだけど、なにか喋らなきゃいけないんじゃないのか、ずるずるすすってはヒンシュクなんじゃないかとか思っているとペースがあがらず、シグマに先を越される。

「あ、あ、そだそだ、立て替えてもらったお代です(#'∀'#)」

 テキパキと財布を出して300円を差し出した。

「あ、いいよ、俺のおごりで」
「でもでも……そだ!」

 クルリと目を回すと、シグマは自販機に向かって駆け出した。

「リンゴジュースとカフェオレとどっちがいいですか( #
>o<#)!?」
 
 自販機の前から叫ばれて、ちょっとハズイ。

「あ、カフェオレ!」

 口の形を大きくして意思表示。

「男なんだから二つ飲んでください」

 ドドン

 カフェオレのパック二つが置かれた。シグマはリンゴジュースだ。

 チュルチュル……  ズズズズー!

「せ、先輩も堂本先生だったんですか?」
「ああ、俺は授業だけだったけどな」
「先輩も呼び出されたんですよね」
「ああ、いっしょいっしょ、数学欠点だったんでテスト前に呼び出された。で、入室禁止の札に通せんぼされた」
「で、ブッチしたんですよね」
「うん、指示が札と矛盾してるってこともあるんだけど、テスト前に説教しておしまいってのは、先生のアリバイっぽく思えてさ。昼飯と天秤にかけたら、やっぱ昼飯になるよ」
「い、いっしょです……あたしも、そういうの嫌い」
「でも『先生の指導はアリバイだ!』なんてことは……言わない方がいいような気がしてな」
「で……ですよね」

 発展しそうな話題だったけど、初対面で踏み込んでいいような内容じゃないと思って口をつぐむ。

「俺、二年一組の妻鹿雄一、いちおう名乗っとくな」
「あ、あたし、一年七組の百地です。今日は本当にありがとうございました」
「俺、オメガで通ってるから」
「え、先生のあだ名通りですか?」
「町内にオメガ時計店てのがあって。そこのトレードマークが似ていてな、別に堂本先生の独創じゃないよ」
「あたしのΣもそうです、先生は自分の命名だと思ってますけど」

 お互いのあだ名が堂本のオリジナルではないことに小さく驚いて、それぞれの五時間目に戻っていく。

 食堂の外は日差しの割には冷たい風、ブルッと震えてトイレ経由で教室に戻ることにした。

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