大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:002『グシャ!』

2023-02-07 07:35:25 | 時かける少女

RE・

002『グシャ!』   

 

 

 

 キャーーーーーーーーーー!!

 
 昇降口が悲鳴に満ちてドアや壁や窓ガラス、さらに階段を伝って校舎全てを震わせた! 

 標本箱の昆虫のように傘に貫かれて四つん這いの冴子。

 だけど、すぐに横倒しになって胸と口からおびただしい血を溢れさせた。それは、瞬くうちに床に広がって、近くに居た生徒たちをのけ反らせた。騒ぎは上層階や昇降口の外にまで広がり、異変に気付いた先生や警備員の気配が迫ってくる!

 どきなさい! 外へ出ろ! うっ! これは! 見るんじゃない! 救急車!

 怒声が背後で弾ける。

「ち、違う! 違うんです!」

 そこを動くな! 凶器は!?

「ち、ちが! 違うんです!」

 来んな! 動くな!

「だから、ちが……!」

 あとが続かず、腰を浮かせたかと思うと、勝手に足が動き、動いた先の人波が開いて、わたしは逃げる。

 逃げたって、起きてしまった惨事が戻るわけでもなく逃げ切れるわけでもない、逃げてもなにも解決しない、そうなんだけども目の前の恐怖から逃げようという慄きが、突き飛ばすように、わたしを前に押しやる。

 待ちなさい寺井! 

 冷静さを取り戻した先生の叫び。停まるわけがない、足はもつれながらも速度を増す。

 正門方向に走るが、恐怖と憎悪の混ざった視線が突き刺さって方向転換、植え込みを超えて中庭へ。

 逃げるな! 停まれ! 停まりなさい!

 中庭に面する校舎の廊下と、正門の方角から先生たちの怒声。

 まっすぐ行けば外界と分かつ三メートルあまりの塀、左は獄卒と化した先生や警備員たちが植え込みや花壇を乗り越えて迫りつつある。

 どこへ、どこへ逃げたら!?

 
 右手の旧館に飛び込む。

 
 なんの考えもない。追い詰められた動物が、ただただ逃げ場を求めているだけだ。

 跳び込んだまま廊下を突き進む。

 入学して間もなく冴子と探検に来た。異世界系ラノベやアニメ大好きのわたしたちには、大正時代からそのままという旧館は絶好のロケーションだった。

 設備上教室として使えない旧館は倉庫の他、わずかに部室として使われている。数年前に部室棟が出来てからは、多くのクラブがそっちに移り、今はほとんど残っていない。数年先には取り壊しの予定になっている。照明がきれて、人気のない廊下は北欧神話のグニパヘリルの洞窟のよう、記紀神話が好きな冴子はイザナギが妻のイザナミを訪ねた黄泉の国の洞窟のようだと面白がっていた。

 だめだ、廊下の先は行きどまり!

 探検した時の記憶が弾け、身を翻して階段を駆け上がる。

 むろん上がった先には屋上があるきりで逃げ場はない。

 
 バーーーン!

 
 階段室のドアに体当たりして開ける。

 三歩も進めば屋上の淵だ。

 足許に古いケーブルがわだかまっている。

 解体の準備作業にでも使うんだろうか、そいつを拾うと観音開きのドアノブをグルグルに巻く。

 何秒か、何分かは時間が稼げる。

 
 開けろ! そこに居るのは分かってる! 寺井! 開けろ! 開けなさい!

 
 稼いだ分、心がさいなまれるだけ。体どころか思考までブルブルと震え出す。

 もう、永遠に逃げるしかない。

 屋上の淵に立ち、飛び降りて十六年の人生と共に、この状況を終わらせるしかないと思う。

 わたしはプールでも飛び込みが出来ない。

 でも、足から飛び降りればスカートがお猪口になった傘のように翻り、みっともないことこの上ない。

 
 できるかなあ、頭からの飛び込み……。

 
 中学で水泳部だった冴子、その冴子の美しい飛び込みのフォームを思い浮かべる。

 息を整えて三つ数えるんだよ。

 そう教えてもらったけど、一度も出来なかった。

 

 1……2……3……GO!

 

 フワリ

 

 一瞬、イカロスになったような浮遊感。次に、ムスカの飛行船から墜ちていくシータのイメージ。

 できた! 

 頭が下になってるよ、冴子……あ、わたしが殺したんだ。でも、殺すつもりじゃなかったんだよ。

 十六年の人生が動画の百倍速みたいに流れて行くよ……

 

 グシャ!

 

 頭蓋骨が砕ける音がした……。

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パペッティア・005『アクト地雷』

2023-02-06 09:20:23 | トモコパラドクス

ペッティア    

005『アクト地雷』晋三 

 

 

 そのRVは百メートルほど走ったところで大爆発した。

 一秒でも遅れたら夏子の命は無かっただろう。

 呆けていると、さっきすれ違った方のRVが戻ってきて、夏子の目の前でドリフトしながら停車した。

 

 キキーーーーー!


「早く乗って!」


 車から飛び出してきたのは本物のみなみ大尉。やっぱりさっきのは特殊戦用のアクト地雷だ!
 

 そんな事情の分からないマリアは目を丸くして金魚みたいにパクパクしている。


「まだローンも終わってないダンディーが、ダンディーってのはこの車の名前ね。ダンディーが調子悪くって、やっと調子がもどってカットビで来たら、ダンディーと同じのとすれ違うじゃない。運転してるのはあたしソックリだし、助手席にはあなたが乗ってるし、あ、挨拶まだね、陸軍特任大尉の高安みなみ(懐からIDを出した)どう、制服姿のあたしもイケてるっしょ? ハハ、自分で言ってりゃ世話ないか。本当だったら首都のあれこれ案内しながらと思ってたんだけどね、あたしソックリなアクト地雷が現れるようじゃウカウカしてらんないわぁ。でも、決心してくれてありがとう、舵司令は何にも言わないけど、あなたのことを頼りにしていたのはビンビン伝わってきてたからね。あたし以心伝心てのは苦手でさあ、夏子の決心がもう一日遅れてたら司令とケンカしてたところよ。あ、夏子って呼んでいいわよね? あたしのことは『みなみ』でいいから。あ、ごめんね、あたしばっか喋っちゃって。なんか聞きたい事あったら、別になくってもいいんだけどね……」

「あ、いろいろあり過ぎて……呼び方は『ナッツ』でいいです。学校じゃそう呼ばれてたから。で……えと、高安大尉?」

「ハハ、ただのみなみでいいわよ」

「いきなりは、その……」

「あ、そだよね。あたしってば一方的に距離縮めちゃって。じゃ、みなみ大尉、いやみなみさんだ」

「みなみさん。あたし、さっきまであの車に乗っていたと思ったら、いきなり歩道にいて、で、乗ってた車が大爆発で……なんか訳わからないんですけど」

「あれはアクト地雷って人型の地雷。一見人間そっくりだけど、AIじゃないからまばたきとか心拍とかが微妙に違うし、プログラムされた言葉しか喋らないし、なんたって基本は地雷だからね。えと、車から歩道に移動したのは夏子の能力でしょうね、ベースに着いたらテストしてみよ。しかし、いちばん驚いたのは、危機に直面したらとっさの判断で能力が使えることでしょうね。司令も……もとい、お父さんもお喜びになると思うわ」

「いろいろ覚悟はしてきたんですけど、えと、あたしは首都でなにをするのかなあ?」

「いろいろ」

「いろいろ?」

「う~ん、あんまし予備知識はね……直接お父さんから聞くことになるわ、その方がいい」

「そうなんだ」

「ハハ、その方がワクワクしていいじゃないの」

 ズズーン!! 

 そのとき直下型地震のようなショックがきた。

「わ、地震!?」

「ちがうわ、いまのは……クソ! こんなに早く来るなんて反則よ!」

 キキーーーーー!!

 ふたたびショックがあって、ダンディーは急停車した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 舵  夏子       高校一年生 自他ともにナッツと呼ぶ。
  • 舵  晋三       夏子の兄
  • 井上 幸子       夏子のバイトともだち
  • 高安みなみ       特務旅団大尉
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・かの世界この世界:001『昇降口の惨劇!』

2023-02-06 07:27:19 | 時かける少女

RE

001『昇降口の惨劇!』     

 

 

 寺井さっ…………

 
 声を掛けられた時にヤバイと思った。

 寺井さんと声をかけるつもりが、ほとばしる怒りの為に「ん」が消えて息を呑み込んでいる。寺井さんの「ん」まで続けてしまえば、その時点で動物的な叫びになって掴みかかってきただろう。

 美しい冴子の顔が嫉妬と憎しみで歪む原因はわたしにある。

「なにかしら、二宮さん」

 昨日まで「冴子」「光子」とフランクに呼びあっていたのだから、改まった苗字では他人行儀を通り越し、互いに針の先を突き付けたように剣呑だ。

 階段を下りてきた二年生が「ヒッ」っと声をあげ、二階へ戻っていってしまった。

 斜陽気味であるとはいえ、有数のお嬢様学校であるループ学園。こんな剥き出しの憎悪がぶつかり合ってるところなど見たことがないんだ。

「昨日の事だったら二宮さ……冴子の誤解だから、ね……」

 だめだ、階段の下から言うと、どうしても上目遣い。上目遣いは、それだけで挑戦的になってしまう。

 それに、夕べろくに寝ていないので目の縁にはクマが出来ている、いっそう恨みがましく見えているに違いない。

 ああ……冴子がキレる。

 そうだ、階段を上がって冴子と並行になろう。並んで正対すれば話ができるかも……。

 
 冴子は、そうは取らなかった。

 

 キーーーーーーーーーー!!

 

 猿のような叫びをあげると、爪を剥き出しにして飛びかかってきた!

 わ、わたしのわずかに取り戻した冷静さは吹き飛んでしまった。

 ドタドタドタドタ!

 踊り場までの五段余りを、組み合ったまま落ちるように駆け下りる。

 キャーーー!!!

 周囲の生徒たちが悲鳴を上げて散っていく。

「ちょ、冴子ッ!」

「いつもいつもいつも、いつも盗っていくんだ、わたしの大事なものは、いっつも盗っていくんだ、ヤックンはヤックンは、わたしが! わたしが!」

「離して! そっちこそ勝手に嫉妬してっ! 離せ! 離せぇ!!」

「返せ! 返せ! わたしのヤックン返せえええええええ!!」

 日ごろお嬢様然と抑えていた毒が爆発したんだ、ブレーキが効かない。

 
 バリッ!

 
 ブラウスのボタンが飛んで、顎に痛みが走る。どこか血管が切れたんだろう、冴子の頬に返り血がとんだ。

 冴子、目の焦点が合わなくなってきている。

 なんとかしなければ、次の瞬間には、冴子の指はわたしの喉に食い込んでしまう。

 
 パシッ!!

 
 思い切り張り倒した。

 もう言葉ではどうにもならない、とっさの判断、いや、わたしも切れていたのかもしれない、冴子の頬には三本の爪痕が走ってしまった。

 
 ウオーーーーーー!!

 
 さっきの数倍の殺気を放ちながら跳びかかって来た! 

 ドタドタドタドタドタ!

 今度は踊り場からも転げ落ち、もつれ合ったまま昇降口の床に叩きつけられる。

 
 グフ……………………

 
 天気予報が悪いんだ……午後の降水確率80%なんて予報するから、帰り支度の生徒たちは、みんな傘を持っていて、それでわたしも冴子も持っていた。

 わたしは自分を庇おうとしただけなのに、傘の先は深々と冴子の胸に突き刺さり、冴子の重みに耐えきれずにくの字に曲がってしまい、リノリウムの床に血だまりが広がっていく。

 刺さったのは冴子自身の傘。でも、オソロで買った『漆黒のブリュンヒルデ現世編』の傘。シリアル番号の違いなんて、わたしと冴子にしか分からない。みんな、わたしが殺したんだと思う、思っている。

 
 キャーーーーーーーーーーーーーー!!!

 
 ほんの十秒前まではクラスメートであり、同学年であり、上級生であった生徒たちが、猛獣を見るような目でわたしを見る、いや、恐怖している。

「ち、違うんだって、こ、これは……」

 
 ギャーーーーーーーーーーーーーー!!!

 
 わたしは、そのまま逃げることしかできなかった。

  

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・386『頼子さんロスとこけし』

2023-02-05 16:18:44 | ノベル

・386

『頼子さんロスとこけし』さくら   

 

 

 ゴトン

 

 ちょっと大き目のものがコケる音がした。

 小さなもんやったら、コトリ。

 中くらいやったら、ゴト。あるいは、コトン。

 それが、ゴトン。5トンはないやろけど、ゴトン。

 

 寝返り打って確かめたらええねんやろけど、気力が湧かへん。

 

 目ぇ開けると壁。

 うっすらとシミの痕……なんのシミやろ?

 思い出した。中二で留美ちゃんといっしょに暮らすようになって、留美ちゃん、めっちゃ気ぃ遣てた。

 どっちかというと神経質な部類に入ると子ぉやと思う。

 出席番号一番違いで席が前と後ろやったさかい、クラスでは、いちばん早う友だちになった。

 そういう縁で……まあ、いろいろあって一人暮らしになったとき、ほとんど拉致するようにしてうちに引き取って、お父さんも、毎月仕送りしてくれはることになって、うちに来てもろた。

 友だちやし、うちはお寺で広いさかい、すぐに馴染むと思たけど、最初はストレスやったみたい。

 もともと大人しい子ぉで、それが、ますます無口になって、ちょっと心配した。

 えと……あれ、なんて云うねんやったっけ……ジュースが双子になったやつ。

 冷凍庫でキンキンに冷やしたやつを、ポキンと二つにワケワケして、飲もうと思たら口のとこが凍ってて、留美ちゃんは手でくるんで融かしてた。まあ、そないやってたら間ぁ持つしね。

 こらえ性の無いうちは、前歯で口のとこを嚙みちぎる。

 プシュっと音がして中身が飛び散って、慌てて口で受けたけど、飛び散ってしもて、その名残り。

 あの時は、留美ちゃん「プッ( ´艸`)」っていっしゅん笑って、うちも爆笑になって、解れるきっかけになった。

 その時のシミや。

 

 あれ……こういう時は思い出し笑いになるんやけど、笑われへん。

 

 詩(ことは)ちゃんがヤマセンブルグに行って寂しいねんけど、事前に言うてくれたから、なんとか収まってる。

 せやけど、頼子さんまで消えてしまうとは思えへんかった。

 分かってんねん。事前に言われたら、送別会とか、せめて見送りとか大騒ぎして、たぶん、縋りついて大泣きしたやろと思う。

 そんなん分かってるさかい、せやさかい、詩ちゃんも頼子さんも、なんにも言わんと行ってしもたんや。

 ソフィーもいっしょに行ってしもた。

 頼子さんは王女さまやさかい、しゃあないねん。

 なんとか一週間は学校行けたけど、来週は行けるやろか。

 

 せや、さっきのゴトンは何がこけたんやろ。

 

 死にかけの芋虫みたいに寝返り打ってゴトンの正体を見極める。

 ああ……こけしか。

 お祖父ちゃんが高校の修学旅行で買うてきたという白樺の木のこけし。ゴミでほられるとこをうちが引き取った。40センチもあって、高いとこに置いといたら危ないのんで、コースターを下に敷いて床に立たせたった。それがこけて……こけるからこけし?

 いつもやったら、自分で笑てるとこやねんけどね。

 襖開けたらすぐのとこやし、だれか入ってきたらけ躓く。

 なおしとかなら……けど、体が動かへん。ちょっと眠たいし……。

 

 そのまま寝てしまう……。

 

 次に目が覚めて、トイレに行こと思った。

 

 ズデン!

 

 こけしが転がってるのん忘れてこけてしまう。

 そうか、こけしは、人をこかすからこけして言うんか。

 プッ( ´艸`)。

 ちょっとだけ笑えた。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  •   

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・106『エピロ-グに代えて』

2023-02-05 10:40:44 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

106『エピロ-グに代えて』 

 

 

 この作品は、横浜の出版社の依頼で書いた『はるか ワケあり転校生の7カ月』の姉妹本です。

『はるか』は、高校演劇の基礎練習や部活運営の入門書を書いてほしいという出版社の依頼で書き始めたラノベ形式のハウツー本でした。
 部活、特に文化部は技術的なことよりも人間関係で揺れることが多いので、技術面よりも人間関係の機微を軸に書き始め、書き終わってみると、ハウツー本というよりは、ほとんど小説になってしまいました。この変節を暖かく見守ってくださった編集さんには、ただただ感謝です。

 親の離婚で東京の南千住から大阪に越してきた坂東はるかは、東京でも演劇部だったこともあり、真田山学院高校に転校して演劇部に入ります。

 東西の文化の違い、演劇部の在り様の違いに、戸惑ったり人とぶつかったり、時には演劇部なんて辞めてしまおうと思いつめるはるかですが、7か月後のコンクールで様々な経験をして自分の居場所を見つけます。

 その『はるか』の話の中で、はるかが両親の仲を取り戻そうと南千住の家に戻るところがあります。

 その実家の二軒隣が幼なじみの仲まどかの家です。

 まどかは、一つ年下で、小さいころからはるかは憧れでありライバルでもありました。

 粗々のプロットが仕上がって、学校の名前を決めようとネットで東京のあちこちをロケハンして乃木坂にたどり着きました。

 乃木坂は、坂の途中に乃木神社があります。神社は乃木大将を祀って乃木邸に隣接して作られています。神社があるから乃木坂ではなく、生前乃木大将が馬に乗って院長を務めていた学習院に通っていたことから付いた名称です。
 実際に行ったことはありませんが、司馬遼太郎さんの小説等でお馴染みの場所でした。
 東京の中心からは離れたところで、緑の豊かな、ちょっと寂しいぐらいの静かな街というイメージです。乃木大将が亡くなる前までは幽霊坂と呼ばれていたくらいです。

 キャラクターの名前や学校名を決める時はネットで調べてみます。同名のものがあれば、なるべく避けます。以前、別の作品で希望が丘高校と付けようとしたら実在するので回避したことがあります。

 乃木坂学院高校で検索すると、音乃木坂学院高校が出てきました。調べてみるとアニメに出てくる架空の高校で、地名としての乃木坂を付けるのには問題はないと思いました。あとで、念のために音乃木坂学院のアニメ『ラブライブ』を観てハマってしまいましたが(笑)

 書き進めながらも時々は乃木坂を調べます。そのうちに、秋元康氏が、乃木坂を冠したアイドルグループを作るという記事が出るようになりました。

 これは、パクリとか便乗とか思われてしまう……むろん私の方がです(^_^;)

 でも、もう半ばあたりまで書き進め、乃木坂の佇まいで話が出来あがってしまっています。

 で、あえて、そのままに『乃木坂学院高校演劇部物語』を名乗り続けました。

 有名な方の乃木坂は、昨年目出度く十周年を迎えられました。

 あやかるわけではありませんが、こちらも十周年半を機会に大改訂を行おうと、昨年の秋に決心。
 これまでにも細かな書き直しはやってきましたが、今回は、ずっと気にかけていた大きな改稿をいたしました。

 主人公はるかのモチベーションの源流になる人物は三人です。

 姉妹作の主人公坂東はるか、男友達の大久保忠友、そして顧問の貴崎マリ。

 貴崎マリは、才色兼備のカリスマ的演劇部顧問ですが、芹沢絢香に怪我をさせ、倉庫を全焼させてしまった責任をとって教師を辞めることになります。

 どこまでも明るく話を進めたかったので、マリ先生は、退職後大学の先輩で新進俳優である高橋誠司の働きで上野百合として役者としてデビューすることにしました。

 十一年間、折に付け読み返して、ちょっと彼女の転身はウザイかもしれない(-_-;)と思うようになり、今回は根本的に書き換えました。

 大幅な改稿は、もうこれで終わりにしようと、タイトルにはREを冠しました。

 エピローグはハルサイの公演で幕が下りて、新しい乃木坂演劇部がスタートする話でしたが、乃木坂さんの昇天で幕を下ろします。作者が大団円を語るよりは、みなさんの思いの中で想像していただければと思いました。

 最後まで読んでいただいて、本当にありがとうございました。

 
          令和5年2月5日   武者走走九郎 or 大橋むつお

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

くノ一その一今のうち・39『おたまがいけ』

2023-02-04 12:04:46 | 小説3

くノ一その一今のうち

39『おたまがいけ』 

 

 

 甲斐善光寺を出て、三村紘一(課長代理が化けてる)の車で甲府市内のホテルに戻ってロケチームと合流する。

 

「なにか面白いことあったぁ?」

 顔を見るなりまあやが聞いてくる。

 ロケチームで借り切っている喫茶室なので、遠慮も警戒も無い。

「信玄の心を覗いてしまったかも……」

「え、信玄の心!?」

 反射のいいまあやは、鼻がくっ付きそうなところまで顔を寄せて話を聞きたがる。

「実はね……」

 まあやの好奇心に応えるべく、ことさら、秘密っぽく善光寺でのあれこれを話してやる。

 むろん裏稼業のことは秘密にしてね。

「わたしも行ってみたいなあ、心の字の形の地下迷路って、そそられるよね!」

「三村先生は、大いにインスピレーション掻き立てられたみたいだけどね」

「うん、三村先生って、結末で九個謎解きしても一個は謎のままにしてるでしょ。それって視聴者にも人気だけど、やっててもワクワクするのよねぇ。ほら、第二十回の『お玉が池由来』で、千葉道場ができたころの話があるでしょ?」

「ああ、龍馬たちが無茶ばっかりやるんで、師範が昔話して意見するとこだね」

「うん、建築費まけてもらうために神田祭の警備係りやったり、お化け退治やったり」

「うん、立ち回りやったら『その、すごみ過ぎ!』って怒られた(^_^;)」

「いっぱい、仕掛けのある回だったけど、肝心の――なぜ、お玉が池に道場を開いたのか!?――って謎解きは無かった」

「あ、そう言えば」

「でね、撮影が終わって先生が見えた時に聞いてみたの『なんで、お玉が池だったんですか?』って……ふふ、そしたらね(〃艸〃)」

「そしたら?」

「こっそり教えてくれたの」

「なんてなんて!?」

「江戸に来た時に、周作は、宿の飼い猫に『お玉が池がいいよ』って勧められるの」

「猫に?」

「うん、その猫の名前がね『お玉』って云ってね『お玉が行けと申したからだ』ってオチになるんだって! あ、これは最終回まで秘密だから、ノッチも人に言っちゃダメだよ」

「う、うん」

 それって、絶対に咄嗟の言い訳だよ(^_^;)。なんせ三村紘一の本業は徳川物産の課長代理、徳川忍者部隊の元締めだからね。

 寂しがり屋のまあやは、その後も話を聞いたり話したりで喜んでくれたんだけど、肝心の事を忘れていた。

「あ、いっけない!」

「どうしたの?」

 ちょっと待ってと、打合せから戻ってきた監督になにやら相談。

「ノッチが戻ってきたら、さな子さんのお墓に行こうと思ってたんだけどね、もう日が落ちて天気も悪くなってきたから今度にしなさいって」

「あ、ごめん、わたしも話し込んじゃったから!」

「ううん、めっちゃ楽しかったし、また今度。アハハ、『お玉が行け』といっしょ!」

 

 いい子だ、まあやは。

 

 けっきょく、その日は、お天気も崩れてきたので、撮影も無くなって、二人でお風呂入って晩ご飯。

 明日からは、遅れた分を取り返す。

 がんばろう。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・105『仰げば尊し』

2023-02-04 07:09:06 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

105『仰げば尊し』 

 


 話しは戻るけど、三月十日は乃木坂さんがいなかった。

 三月十日は東京大空襲の日。

 乃木坂さんの命日でもあるし、大事なあの人、マサカドさんと言おうか、三水偏の彼女と言おうか、その大切な人の命日でもあったんだもんね。

 乃木坂さん自身の平気な顔は――それには触れないでほしい――という意思表示。わたしたちも、聞かないことにした。

 潤香先輩はロケの疲れで二日ほど寝込んでいたけど、梅の花が満開になったころから、徐々に稽古を覗きにきてくれるようになっていた。


 そして……それは起こった。


 桜の蕾が膨らみ始め、新入生たちの教科書や制服やらの引き渡しの日。

 稽古場の同窓会館にいても、新入生たちの初々しいさんざめきが聞こえてくる。

 その日は、理事長先生と潤香先輩がピアノの傍で、乃木坂さんはバルコニー近くで、静かに稽古を見てくれていた。


 それはクライマックスのシーンで起こった。


 都ばあちゃんが、地上げ屋の三太にも三人の子供たちにも見放され、一人お茶をすする中、突然脚と腰に走る痛み。遠く聞こえる若き日のなつかしの歌。
 
 埴生の宿も わ~が宿 玉の装い羨まじ……♪

 都ばあちゃんの最後が迫る。登場人物みんなで「埴生の宿」の合唱になる。都ばあちゃんは最後の力をふりしぼって最後の一節を唄う。

「……楽しともぉ……頼もしや……♪」

 そこで見えてしまった。乃木坂さんの体が透けてきているのを……。

「乃木坂さん!」

 おきてを破って叫んでしまった。一瞬乃木坂さんは「だめじゃないか」という顔になり、そして……気がついた。

 自分にその時がやってきたことを……。

「あ、あなたは……」

 潤香先輩にも見えてしまったみたい。

「水島君……」

 理事長先生は、驚きもせずに、静かに、そして淋しそうに乃木坂さんの本名を呼んだ。

「……先生、ご存じだったんですか」

「三月の頭ごろからね……この歳になるととぼけることだけは上手くなるよ。本当は、イキイキとした君の姿を見られて、とても嬉しかったんだ」

「……僕の役目は、もう終わっていたんですよ……それが、この子達と居ることが楽しくて、嬉しくて……ちょっと長居をしすぎたようです」

「わたしを助けてくれたの……あなた……あなた、なんでしょ?」

 潤香先輩が、ささやくように言った。

「君は、こんなことで死んじゃいけない人だもの……僕は、昔、助けたくても助けられなかった人がいる。自分の命と引き替えにすることさえ出来なかった……みんな、最後は願ったんだ。自分は死んでも構わない。その代わり、他の誰かを生かして欲しい……親を、子を、孫を、妻を、夫を、教え子を、愛しい人を一人だけでも……みんな、そう思って、身も心も焼き尽くされて死んでいったんだ」

 わたしは、カバンから、あの写真を取りだした。

「この人だったんでしょ。乃木坂さ……水島さんが守りたかったのは、苗字の上の字が三水偏の女学生」

「……そうだよ。あの時は仲間に申し訳なくて言えなかった。今、ここに居る仲間は喜んで許してくれる。その子は、十二高女の池島潤子さん。潤子の潤は……」

「わたしと同じ……?」

「そう……不思議な縁だね」

「水島さん。下のお名前も教えてください。わたし一生、あなたのことを忘れません」

「それは、勘弁してくれたまえ。僕たちは『戦没者の霊』で一括りにされているんだ。こうやって、君達と話が出来ることも、とても贅沢で恵まれたことなんだよ。苗字を知ってもらったことだけで十分過ぎる。高山先生、こんな何十年も前の生徒の苗字、覚えていただいていて有難うございました」

「もう歳なんで下の名前は……忘れてしまった。でもね、僕は時々思うんだよ……この歳まで生かされてきたのは、君達の人生を頂いたからじゃないかと」

「先生……」

「だとしたら、そうだとしたら、僕はそれに相応しい……相応しい仕事ができたんだろうか」

 水島さんは、仲間の承諾を得るようにまわりを見渡し、ニッコリとした笑顔で大きくうなづいた。

「ありがとう、水島君。ありがとう、みなさん」

 空気が暖かくなってきたような気がした。水島さんの体がいっそう透けてきた。

「それじゃ……」

 と、水島さんが言いかけたとき、バルコニーの外の桜がいっせいに満開になった。

 最初、水島さんに会ったときの何倍も、花吹雪は壁やガラスも素通しで談話室に入ってくる。

 気づくと、壁に紅白の幕。理事長先生の後ろには金屏風、日の丸と校旗も下がっている。

「これは……」

 と言ったのは、水島さん。わたしは思った、ここにいる大勢の水島さんの仲間がはなむけにやった演出だ。

「ありがとう、みんな……先生、最後に一つだけお願いがあります」

「なんだろう、僕に出来ることなら……」

「『仰げば尊し』を唄わせてください。僕は唄えずに死んでしまいましたから、最後にこれを……」

「では、僕たちは『蛍の光』で送らせてくれたまえ」

「僕には、もう、そこまで時間が残っていません」

 水島さんの手足は、消え始めていた。

「じゃ、じゃあ、みんなで唄おう!」

 理事長先生はピアノに向かった。  

―― 仰げば尊し我が師の恩 教えの庭にも早幾年(はやいくとせ) 思えば いと疾し この年月 今こそ別れめ……いざ さらぁば ♪ ――

「さらば」のところでは、もう水島さんの声は聞こえなかった。そして、桜も金屏風も紅白幕も、日の丸も消えてしまった。

 でも、校旗だけがくすんで残っていた。

 いえ……最初からあったんだけど、だれも気がつかなかった。何ヶ月もここを使っていながら。

 そして……悔しかった。わたしたちだれも『仰げば尊し』を完全には唄えなかった。ちゃんと水島さんを送ってあげられなかった……わたし達は、この歌を教えてもらったことがない。

 でも歌の心は分かった。

 それを忘れるところまでわたし達のDNAは壊れてはいなかった。その心が少しでも水島さんに届いていればと願った。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鳴かぬなら 信長転生記 106『皿鉢料理』

2023-02-03 16:20:37 | ノベル2

ら 信長転生記

106『皿鉢料理』茶姫 

 

 

「さあ、行くよ!」

 

 踵を踏み潰したローファーをつっかけると、さっさと昇降口を出ていく孫市。

 ちゃんと履いた分、遅れたが、校門を出る時には横に並んだ。

「元康も来れば良かったのにね」

「慎重だからね、元康は」

「慎重?」

「…………」

 しまったかな。オウム返しに言ったまでだが、ニュアンスが『臆病?』になってしまった。

 仮にも戦国の英雄たちが転生してきているんだ、いわば民族の英雄。それを臆病はまずかったか。

「いや、慎重なのよ『鳴かぬなら 鳴くまで待とう時鳥』だからね。こっちに転生するときも『いきなり家康で転生しては驕りが出る。竹千代からやり直す』って言ったんだけどね、学院は高校だから、小学生は入学できませんと言われて元康から始めてるのよ」

「そうか、真面目なのね」

「ふふ、あれで抜け目も無い。だって、うちの生徒会長は今川義元で、元康ってのは義元が付けた諱(いみな)だしね」

「媚びたのか?」

「ふふ、棘があるわよ」

「あ、ごめん。男には、つい厳しくなってしまう」

「おかげで、苦労もしている。まあ、大目に見てやって」

「うん、すまない」

「もう、そんなに硬くならないでよ。あたしは100%楽しいんだからさ、大っぴらに学園に行けて!」

「フフ、そうだったね」

 学院と学園は行き来が禁じられているわけではないが、さすがに授業中に足を踏み入れるのは憚られる。授業中に行ったからといって、どうということもないと思うのだが、他の学園生はやったことが無いという特別感が嬉しいのだろう。こういう子どもっぽさは好ましい。

 

 言ってるうちにバス通りに出て、ちょうどタイミングよくやってきた巡回バスに乗って、転生学園を目指す。

 今日は、午後から転生学園に初登校の日なんだけれど、生徒会の配慮で、孫市といっしょに行くことになったんだ。

 

「いやあ、よう来たぁ! 今川生徒会長からも電話をもろうて『宜しゅう』と言われたぜよ。学校言うがは不便なもので、受け入れるとなると教師か生徒の二択しかないきね、生徒の扱いだけんど、自由にやって、心身ともに癒してちょうだい」

「はい、ありがとうございます。あ、福田校長の紹介状です」

「あはは、こりゃご丁寧に。うちから従三位さまに渡いちょくわ」

「従三位さま?」

「ああ、うちらは、そう呼んじゅー。気さくな方で、学校の事は、生徒会に任せてくださっちゅー。学園の方もそうろう?」

「いや、まだ転生に来て日が浅いので、紹介状も今川会長から伝達されました」

「そうろうそうろう、それから、うちには敬語使わいでええきね」

「しかし……」

「うちは土佐は高知の郷士の子やき、丁寧な言葉遣いというのには慣れいでねえ。海近くの育ちは、まあ、こがなんなのよ。ねえ、孫市」

「そうだそうだ」

「うちも、リュドミラが三国志の方に行っちゅーんで、射撃部の指導ができる者がおらんでさ。良かったら、孫市も時どきでええき指導に来ちゃってよ」

「ほんと!?」

「本当じゃあ! 謝礼は学食ランチ回数券一か月分やし! どうぜよ?」

「オッケーオッケー!」

「そうか、それなら、まずは歓迎会や。あ、クラスは市と同じ七組や、そうや、市も呼んじゃろう!」

 乙女生徒会長は、授業中であるにも関わらず、校内放送で市を呼び出すと学食……と思いきや、駅前の『皿鉢料理』の店に連れて行ってくれる。

「さらはち料理?」

「皿鉢と書いて『さわち』と読むがよ。学食でも出すけんど、やっぱり生きの良さでは専門店だしね」

 見ると、孫市は、きちんとローファーを履いている。むろん、踏み潰した踵には痕がしっかり見えている。TPOは心得ているようだが、こういうところが孫市らしい自己演出なんだろう。

 遅れてやってきた市は、三国志に居た時、家で信長といっしょに居る時とは、また違う、キリッとした女学生ぶりが、結んだリボンの端にまで現れていて好ましかった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・104『感情の記憶』

2023-02-03 06:43:19 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

104『感情の記憶』 

 

 


 柚木先生が慌てて稽古場にやってきた。


「たいへんよ、ハルサイの公演が早くなっちゃった!」

「「「「えーー、どういうことですか( ゚Д゚)!?」」」」」

 四人は声をそろえて驚いた(むろん乃木坂さんの声は、柚木先生には聞こえない)

「会場のフェリペがね、設備の故障で五月には工事に入るんで一ヶ月前倒しだって!」

「ええ、そんなあ……」

「間に合うかなあ……?」

「……なんとかしょう!」

 乃木坂さんが言った。

「なんとかなる?」

「だれと、しゃべってんの?」

 うかつに乃木坂さんに返した言葉を先生に聞きとがめられた。

「あ、二人に言ったんです! 里沙と夏鈴に。で、間をとって二人の真ん中に……はい(^_^;)」


 その日から稽古は百二十パーセントの力が入って、乃木坂さんの演出にも熱がこもってきた。


「君たちの演技は形にはなっているけど、真情がない。地上げの仕事への熱意が偽物だ。都婆ちゃんの子ども三人は、狡猾だけど、そうなってしまった人生の背景が感じられない。悪役は、ただ凄めばいいというものじゃないんだ。それに都婆ちゃんの孤独感というのはそんなものじゃない。他に迎合せず、孤高のうちにも孤独を貫き通す覚悟、そして、その覚悟をも超えてやってくる真の孤独の淵の深さ、それが出なくっちゃ(;`O´)!」

 はい……(-_-;)

 乃木坂さんの指摘は的確だけどキビシイ。だてに何十年も幽霊やっていない。

「君達の人生は、まだ浅い。理解しろと言う方が無理なのかもしれないなあ」

「だって、無理だよ。分かんないものは、分かんないもの」

 夏鈴が正直に弱音を吐く。

「馬鹿、そんなことを言っていたら、殺される演技や殺す演技は誰も出来ないことになるじゃないか!」

「それは……そうなんだけどね」

「……ごめん、つい感情的になってしまった。もっと分かり易く言わなくっちゃね」

 それから乃木坂さんは根気強く、かみ砕いて教えてくれた。

 たとえば、寂しさというのは、目の下の上顎洞という骨の空間から、暖かい液体が口、喉、胸、腹、脚を伝って地面に吸い込まれるイメージを持つこと。老人の腰は曲がるんじゃなくて、落ちる(後ろに傾く)ものなんだということ。で、そのバランスをとるために上半身が前傾し、膝が曲がる。そして、そのいくつかは、はるかちゃんがビデオチャットで教えてくれたことと同じだった。

 分からないことがもどかしかった。孤独を淋しさと置き換えてみた。

 ひいじいちゃんとのお別れ。これはガキンチョ過ぎて、分からない。

 中学の卒業……卒業してからもたびたび行ってたので、このイメージも希薄。

 忠クンとの空白の一年。いつでも、その気になれば会えるという、開き直ったお気楽さがあった。

 はるかちゃんの突然の引っ越し……これは心の底に残っているけど、去年のクリスマスで、再会。この傷は、完全に治ってしまった。

 感情の記憶は、その時の物理的な記憶を残しておかないともたないらしい。何を見て何を触って、なにが聞こえたか、その他モロモロ。

 マリ先生が学校を辞めて、乃木坂の演劇部がつぶれたのは記憶に新しいけど、これは、演劇部再建のバネになってしまって、思い出すと活力さえ湧いてくる(`0´)。

 人間の感情って複雑だってことが分かる程度には成長しました……はい。

 潤香先輩……これも奇跡の復活で、痛みは遠くなってしまっているし……。

 われながら、痛いことはすぐに忘れるお気楽人間だ(^_^;)。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀河太平記・144『ニッパチ豊胸手術を受ける』

2023-02-02 15:25:35 | 小説4

・144

『ニッパチ豊胸手術を受ける』お岩  

 

 

 ロボットの最大の武器は並列化だよ。

 

 並列っていうのは、ネットを通して個体の情報や経験が全体で共有されるってことさ。

 例えば、宅配をしているロボットが、道路の穴ぼこに気が付いたとする。

 ロボットは、穴ぼこは本格的な修理をしないと通れないと判断して、自治体の道路課に通報。同時に、その情報は、会社のコンピューターにも送られ、全部の宅配ロボットは、その道を避けて配達するという具合。

 戦闘員のロボットなら、個体の戦闘経験や情報が瞬時に共有されて、メインコンピューターが最適な戦闘方法や戦術を編み出し戦闘態勢が常時最適化されるという寸法さ。

 逆に、敵のネットに入り込めれば、一瞬で敵の情報を上書きできる。極端な例えだけど、全員に自爆を上書きできたら、何万と言うロボット兵を一瞬で破壊できる。

 むろん、現実には、情報は高度に暗号化されているし、侵入してきた者を逆に書き換えたり破壊したりすることもできる。

 200年前の第五次産業革命でネットが実用化された時から、ファイヤーウォールとかCAB(counterattack barrier=反撃防壁)とか呼ばれて、ロボット最大の特徴、あるいは武器と言われている。

 これを捨てるということは、ロボットは孤立して、いっさいの連携がとれなくなる。

 宅配ロボットなら、他のロボットも、その穴ぼこを見つけてからでしか回避できないことになるし、戦闘ロボットなら、同じ手に引っかかって破壊されるということになる。23世紀的な感覚では、考えられないほど間抜けな状況に陥る。

 

 エッヘン!

 

 ニッパチが昨日よりもワンサイズ豊かになった胸を張った。

「ひょっとして胸に?」

「アハハ、本人の希望でね」

 担当医的存在のメグミが目をしばたたかせながら説明してくれる。

「ロボット一万人分の情報は莫大な量でしょ、それにCABも二重に掛けたし、ハードも合わせると、今までのボディーじゃ収まらなくて。合理的に収めようとしたら、元の作業機械か、ぜんぜん別のボディーってことになるから」

「これが、いちばん合理的なんですよ、お岩さん」

「ニッパチ、ちょっと起き上がってくれる?」

「うん、いいですよ」

「身長も高くなった?」

「8センチ伸ばしたわ、手足も、それに合わせて伸ばしたから、不自然さは無いと思う」

「よく一晩でやったねえ」

「最初から、ほとんどの骨格を伸ばせる仕様にしたあったから」

「メグミさん、ちょっと、あちこち突っ張らかるんだけど……」

「10センチ伸ばしたからねぇ、バイオ組織が追いつかないんだ。促進剤打っといたから、半月ほどで馴染むわよ」

「ああ、それなら納得でーす(^▽^)/ とりあえず銀行業務に戻りますね」

「うん、じゃ、イッパチに来るように言っといて」

「ラジャ('◇')ゞ」

「イッパチにも移植するのかい?」

「うん、一万人分のロ生(ロボットの人生)が掛かってるから、念には念をです」

「そうかい……でも、あんたは生身の体なんだから気をつけなよ」

「生身の体かあ……そうね、がんばります!」

「そうだ、肝心のお土産。ほら」

「ひょっとして、サーターアンダギー!?」

「うん、沖縄のじゃないけどね」

「お岩さんが?」

「うん……と言いたいけど、ハナがね神社がひけてから作ったんだ」

「あ、そういや、この黒糖の、ハナのイメージ!」

「あの子のお祖母ちゃんは沖縄の出身」

「そうだったの?」

「誰かが言ったんだろ、見かけはそんな感じだから。ヨタと分かってても信じたいものなんだ、自分のルーツってのはさ」

「そうだよね……」

「わたしも、お相伴しようかねえ」

「じゃ、お茶淹れるね」

「昼過ぎには敵の攻撃があるかもって言ってたから……」

 

 ドオオオオオオオオオオオン!

 

 数年ぶりの大噴火が起こったような衝撃が、空港の方から轟いてきた。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・103『素顔のキャストとスタッフ』

2023-02-02 07:37:50 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

103『素顔のキャストとスタッフ』 

 

 

「自衛隊の体験入隊で、なんか変わった?」

「変わったってか……分かったよな」

「なにが……?」

「それは……」

「自分は、まだまだなんだけど、希望の持てる場所はここだ……かな?」

「先回りすんなよ、言葉が無くなっちまうじゃないか……」

「ごめん」

「い、いや、ありがとう……」

 ゆりかもめの一群が川面をなでるように飛んでいった、二人はそれを目で追う。ゆりかもめは、少し上流までいくと、さっと集団で舞い上がり。それにつれて二人の顔は上を向き、遠く彼方を見つめる目……少しはサマになる。

 すかさずレフ板の位置が変わって、カメラが切り替わる。


 ちょっと説明。


 これは、ちゃんとしたテレビの撮影なんだ。『春の足音』のね……って、別にわたしが主役になったわけじゃない。

 プロデューサーの白羽さんのアイデアで、毎回番組の最後に『素顔のキャストとスタッフ』というコーナーができて、二分間、毎回一人ずつ紹介していくわけ。


 やり方は基本その人の自由。この荒川の下町が舞台だから、町の紹介をしてもいいし、他のキャストやスタッフさんとのト-クもOK。順番はジャンケンで決める。そのジャンケン風景も撮って流すんだから、この業界の人のやることにムダはありません。


 で、わたしが大久保流ジャンケン術で勝利し、その栄えある第一回に選ばれた。

 むろん、ただのエキストラなんで、あらかじめ、はるかちゃんが紹介してくれて、わたしが映っている何秒間かが流れて、このシーンになるのね。

 わたしは、無理を言って忠クンを引っぱり出した。

 忠クンの体験入隊は、忠クンの中ではまだ未整理になっている。わたしへの気持ちもね。だから、こうやをって引っぱり出してやれば、いやでも考えるだろうって、わたしの高等戦術。いちおうわたしのカレだから、しっかりしてもらいたいわけ。


 え……「いちおう」……それはね、乙女心よ乙女心。最終章まできて、のらりくらりのカレを持った崖っぷちのオトメゴコロ!!

 分かんない人は、第一章から読み直して。序章には忠クン出てこないから。

 でも、わたし的には序章から読んでほしいかな。

 監督も、高校生の自衛隊の体験入隊がおもしろいらしく、A駐屯地まで行って取材もしてきた。教官ドノをはじめみなさん大張り切りだったみたいだけど、流れるのは、ほんの何十秒。それも大空さんがほとんど。テレビのクルーも絵になるものは心得ていらっしゃる。

 で、ゆりかもめを見つめて、なんとかサマになった忠クンは、こう締めくくった。

「大変なことを、自然にやってのける力……そういう心になれるまで……その、軽はずみな気持ちだけでフライングしちゃいけないんだなって、そう思った」

「ほんと?」

「うん。前さえ向いていたら……今はそれでいい」

「今度、火事になったら、また助けてくれる?」

「それは、もう勘弁してくれよ」

「それって、もう助けないってこと?」

「助けるよ。目の前で起こったら……そういうことも含めて、まず目の前にあることを一つずつやっていこうって。あのゆりかもめだって、最初から、あんなに自由に飛べるわけじゃないだろう」

「で、助けてどうすんの?」

「分かんねえよ」

「……そう」

「?」

 わたしは、立ち上がると、グイッと重心を前に移す。

「あぶねえ!」

 ドッポーーン!

「あ、ちょ、なんでこうなるの!?」

 助けようとした忠くんひとり川に落ちてしまう。わたしは、腰のところに落下傘のハーネスみたいなのが付いていて、その先をスタッフが持ってくれている。
 ちょっとしたドッキリカメラで、ふたりとも川には落ちない仕掛けになっている。

 それを、勢いの付いた忠くんは、抱きとめたわたしを軸にクルリンと回って、そのまま川に落ちてしまった!


 カットぉ! オッケー!

 
 監督の声がして、スタッフが駆け寄って来て、水面にロープを投げる。

 まあ、やっと三月の荒川。誰も飛び込もうとは思わないよね(^_^;)

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・005『1970年のこんにちは』

2023-02-01 17:08:51 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

005『1970年のこんにちは』   

 

 

 ガックン……ガックン……ガックン、もひとつオマケにガックン。

 

 ガックンを数回やって電車は宮之森駅についた。

 運転手がヘタッピーなのか、電車がポンコツなのか、はたまた、その両方なのか、ガックンガックンしながら停車した。

 二回目の停車なので慣れたって言えば慣れたけど、ちょっと不愉快。微妙に足を突っ張ってショックをいなす。

 ほかの乗客は平気な顔してるから、まあ、1970年代の電車って、みんなこうなんだろうね。

 

 降りた宮之森駅は、やっぱり平場の駅。

 電車を降りて、すぐに改札が見えるって、なんだか田舎っぽい。

 改札の駅員は、やっぱ不愛想で「ご乗車ありがとうございました」の一言もない。

 ちょっと(ꐦ°᷄д°᷅)! ビク(◎o◎)!

 駅員が呼び止めた……と思ったら、後ろの男子。

 料金が10円足りないとかで糾弾されてる……「うい」……男子は、他の人の邪魔にならないようにして、10円玉を出すと、改札のステンレスの縁のとこにピシャンと置いて、わたしのことをジャマ!って感じで避けながら行ってしまう。

 おっかねえ。

 自動改札に通せんぼされるのもムカつくけど、あんな風に糾弾されたら、一か月は立ち直れないかも(-_-;)。

 

 チャンチャンチャッチャラチャンチャン♪ チャチャチャチャ~ン♪

 

 陽気な軍艦マーチ! ここへきて右翼の街宣車かと思ったらパチンコ屋!

 ドアが開いて、不景気そうなオッサンが店から出てくるところ。軍艦マーチの裏にはチーンジャラジャラと分かりやすいエフェクトも入っていてパチンコ屋丸出し。

 ネオンサインとかノボリだとかのディスプレーも、エレクトリカルパレードかっちゅうくらいにド派手!

 こんなとこにパチンコ屋あったけ?

 願書持ってく時と、今朝の合格発表と、さっきの合格者説明会の時に、ここを通ったけど……スーパーだったんじゃ……ワ、自転車だらけ!

 駅前は放置自転車でいっぱい!

 四車線の道路が二車線しか通れないんですけど……交通監視員のオジサンも居なければ、お巡りさんも居ない。

 え、信号機のとこにゴミ箱と灰皿!? それも、どっちも満杯だし!

 たばこクサ~イ……街の中で鼻をつまむわけもいかず、ちょうど青になったのを幸いに横断歩道を渡る。

 渡ったところに交番、令和の時代と違って『KOBAN』の文字は無い。あれは普通に読んだら『小判』だもんね。なんか子どもじみてるし。木の看板に『宮之森駅前派出所』とあって、わたし的にはグッド。

 でも、中にお巡りさんの姿はない。貼ってある警察官募集のポスターのお巡りさんは、ドラマとかでしか見たことない制服。自衛隊の制服を紺色にしてベルト締めましたっ!的。

 学校に着くまでは、まず商店街を抜ける……さっきよりもお店が多い。

 お祖母ちゃんと来たときも同じ商店街なんだけど、こんなにお店は開いて無かった。

 

 こんにちは~こんにちは~西ぃの国から~♪ こんにちは~こんにちは~東のぉ国から~(^^♪

 

 ちょっとダサイけど、ご陽気な演歌っぽい歌がアーケードの中から聞こえてくる。

 なんだ、このこんにちはの大安売りは?

 1970年のこんにちは~(^^♪

 

 あ、あああああ、そうだ! そうだよ!! 1970てば、万博があった年だ!!

 そうだよ、あの伝説の日本万国博がリアルで見られる年だよ!

 細々と凹むこと見てきたけど、こいつはラッキーかも!

 

 こんにちは~こんにちは~ 握手をしよ~お(^^♪

 

 気が付いたら、何年かぶりでスキップなんかしてしまって、ちょっと恥ずかしかった(^_^;)

 

 ちょうどお昼時なので商店街を出るまで、あちこちから美味しそうな匂い。

 食べ物屋さんも、さっきよりずっと多い。でも、マックもケンタも吉牛も無い。

 おお、今川焼のいい匂い! ちかごろ今川焼は大きなショッピングモールとかに行かなきゃお目に掛かれない。

 

 で、一個20円(⊙ꇴ⊙)!

 

 この時代は消費税とかも無いから、100円で五個買える! 帰りに買って帰ろう!

 一個だけでも買って食べたかったけど、合格者説明会なんだ。がまんがまん。

 ここで曲がって学校への道というところに、なんと映画館!

 昔は、商店街に映画館は付き物だったらしいけど、リアル『街の映画館』だよ。

『ブラボー若大将』と『男はつらいよ フーテンの寅』の二本立てだって……加山雄三も寅さんも、めっちゃ若い!

 路地を挟んで、もう一つ映画館……『おさな妻』……Z指定?

 

 映画館を尻目にアーケードを出る。ちょっとお日様が眩しい。

 

 あれ?

 電線がおかしい……なんかサッパリしてる……あ、光ファイバーの線が無いんだ。

 電線に並んで、グルグルの螺旋のところに何本も通ってる黒いケーブル。

 そうか、ここは完全無欠のデジタル世界なんだ。

 見れば、タバコ屋の公衆電話も伝説の赤電話! 郵便ポストもトトロの世界かっていうような円筒形!

 ここから学校までは、おおむね住宅街。

 ム……家の前にゴミ箱がある。

 水色のバケツに蓋が付いたようなのが多いんだけど、中には、木製やらコンクリートのもチラホラ。

 まあ、みんな蓋があるしゴミ袋よりはうんと頑丈そうだから、ハトやカラスにやられることはないんだろうけど、清掃局の人は大変じゃない?

 いちいち、ゴミ箱開けるの? それとも回収の日に出すのかなあ?

 

 学校が見えてきた。

 

 体育館は古い一階建てだけど、他の校舎は、さっき見たのといっしょ。ソテツや桜とか、植栽は大きくなってない。

 梅は、まだほんの蕾。やっぱ、令和は、ちょっと温暖化?

 さて。

 しまった! 合格者説明会って保護者同伴だよ!

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・102『二つのサプライズ』

2023-02-01 07:24:32 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

102『二つのサプライズ』 

 


 それは、ラストシーンの撮影が終わった直後におこった。

 監督さんがOKを出したあと、ディレクターとおぼしき(あとでNOZOMIプロの白羽さんだって分かる)人が、ADさんに軽くうなづく。

 ドドーン

 バサリ

 ロケバスの上から花火があがって、カメラ載っけたクレーンから垂れ幕!

――『春の足音』ロケ開始! 主演坂東はるか!――

「え、ええ……ちょっと、これってCMのロケじゃないんですか!?」

 驚きと、喜びのあまり、はるかちゃんはその場に泣き崩れてしまった。

「おどかしちゃって申し訳ない。むろんCMのロケだよ。でもカメラテストも兼ねていんだ。僕はせっかちでね、早くはるかちゃんのことを出したくって、スポンサーの了解を得て、CMそのものがドラマの冒頭になるようにしてもらったんだ。監督以下、スポンサーの方も文句なし、で、こういう次第。ほんと、おどかしてごめんねぇ(^_^;)」

 白羽さんの言葉の間に高橋さんが優しく抱き起こしていた。さすが名優、おいしいとこはご存じでありました。

「月に三回ほど東京に通ってもらわなきゃならないけど、学校を休むようなスケジュ-ルはたてないからね。それに相手役は堀西くんだ、きちんとサポートしてくれるよ」

「わたしも、この手で、この世界に入ったの。大丈夫よ。わたしも、きちんとプロになったのは高校出てからだったんだから」

 と、堀西さんから花束。うまいもんです、この業界は……と、思ったら、ほんとうに大した気配り。とてもこの物語には書ききれないけど。

 で、まだ、サプライズがある。

「ハイ、分かりました! ありがとうございました! わたしみたいなハンチクな者を、そこまでかっていただいて。あの……」

「なんですか?」

 このプロデューサーさんは、とことん優しい人なのだ。

「周り中偉い人だらけで、わたし見かけよりずっと気が小さいんです。人生で一等賞なんかとったことなんかありませんし。よかったら、交代でもいいですから、そこの仲間と先輩に、ロケのときなんか付いててもらっちゃいけませんか……?」

「いいよ……そうだ、そうだよ! ほんとうの仲間なんだからクラスメートの役で出てもらおう。きみたち、かまわないかな?」

 え……(*°∀°)!?

 というわけで、その場でカメラテスト。

 笑ったり、振り返ったり、反っくり返ったり……はなかったけど。歩いたり、走って振り返ったり。最後は音声さんが持っていたアイドルグループの音源で盛り上がったり。

「監督、変なものが写ってます!」

 編集のスタッフさんが叫んだ。みんなが小さなモニターに集中した。

 それは、わたしたちが一番盛り上がっているところに写りこんでいた。

「兵隊ですかね……」

「兵隊に黒い服はないよ……これは、学生だな……たぶん旧制中学だ」

 と、衣装さん。

「この顔色は、メイクじゃ出ませんよ」

 と、メイクさん。

「今年も、そろそろ大空襲の日が近くなってきたからなあ……」

 と、白羽ディレクター。

「これ、夏の怪奇特集に使えるなあ」

 と、監督。

 わたしたちはカメラの反対方向を向いてゴメンナサイをしている乃木坂さんを睨みつけておりました。

「「どうかした?」」

 潤香先輩と、堀西さんが同時に聞くので、ごまかすのにアセアセの三人でした(^_^;)。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする