地下のデイジー・・・地下に花は咲くだろうか、土を圧して花びらが開くことなど考えられない。絶対に有りえない物理的には実在しない幻の花である。
『不思議の国のアリス』のように木の根の下深く(地下)にまぼろしの空間(世界)が存在するということだろうか。
精神界の扉を開く鍵としてのデイジーである。デイジーの放射状に拡散する花びらは太陽を暗示させる。
足下に引きずり込むような謎めくタイトルは、一時的にせよデイジーの花を想起させるが、現実的な解釈からすれば否定されるべきものでしかない。しかし、この正方形の板は明らかに人為であり、自然を離れたものである。人為、つまり人の心理を触発させる関係性を問うものである。
地下に眠る世界を感じよ!という指令でもある。
《無いもの》を見る。物理的に存在する世界、視覚に入るものを疑似的に描写することは学習されているが、《無》についての決定的な立証はない。
しかし、若林奮はその胸の扉を叩いている、「見えないものを注視せよ」と。
非存在こそが、精神の支柱たる《神の領域》としての実在であると。
写真は『若林奮 飛葉と振動』展・図録より 神奈川県立近代美術館