『ボトル・ラック』
ボトル・ラックのカタログから選んだというボトル・ラック。
空のボトルの収納である。多分、再利用のために洗浄したボトルの乾燥と他のボトルとの接触を避けるために考案されたレディ・メイドの品だと思う。
結論から言えば、不衛生である。熱消毒されたものをここに掛けては細菌の汚染を免れないのではないか。ボトルラック自体も殺菌されていれば別であるが…。家庭用であれば50本は多すぎるし、衛生管理は行き届かないと思われる。
しかし、デュシャンはこの形態を見て他のひらめきを感じたのではないか。用途としては不完全なものが形態には完全な美があると。
《宝塔》である!
どう眺め尽しても完結の威風堂々とした趣を見逃せない。ボトル・ラックだと思うから(言い過ぎになるかもしれないが)噴飯物にすぎない。
中途半端なアイデア製品、いずれ不要になり、廃棄の運命をたどると思われる新製品である。
この物は、しかしデュシャンの心を揺さぶった精神性を秘めている。
《祈り》を彷彿とさせる高揚がある。まさに宝塔であると。
しかし、あえて『ボトル・ラック』と命名したことで、デュシャンは「物は観念と私的解釈の時空を所有する」と言っている。
写真は『DUCHAMP』(ジャニス・ミンク) www.taschen.comより