続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

マグリット『冒険の衣服』

2016-02-23 06:52:59 | 美術ノート

 『冒険の衣服』
 亀(オサガメ)がいる。
 地の底に横たわる若い女は眼をつむり両手をあげている。そして衣服を身に着けていない裸体である。長い髪があたかも衣服のように身を包んでいるように見える。
 地(床)は、地層を暗示しているのではないか。
 空は蒼く、下方にいくにしたがって白くなっている。

 以上の条件を踏まえて考えてみると、ここは海底、億年の眠りをかくした地の底である。(亀は三億年の歴史を持つと言われており、人類の登場する遥か以前からの生物である)

 女が両手をあげているということは助けを求めているというよりは無防備を意味している。裸婦である前に自然の姿、あるがままということかもしれない。

 この世界
 空気の代りに水よみて
 人もゆらゆら泡をはくべく(宮澤賢治『歌稿』より)

 異相(位相)、相を違えた原初への夢想。
 『冒険の衣服』、衣服を身に着けていないにもかかわらず、衣服と題する。衣服をイメージするから裸体であるにもかかわらず、衣服をイメージしてしまう。

 言葉とイメージにある一致と差異、そのズレを最大に引き延ばしてみる大胆な企て(冒険)の衣服なのではないか。
 亀は浮遊しているのか、泳いでいるのか。
 当たり前だと思っている空気は、果たして水であるかもしれない。
 地層を暗示することで億年の幻想空間に仕立てた異相のイメージ。

 それらの概念を覆す条件の暗示・・・言葉とイメージは相克の関係にあるかもしれない。『冒険の衣服』は衣服の存在しないことによって衣服を想起させ、存在の原初へと引きずり込む冒険である。


(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)


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