続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

デュシャン『九つの雄の鋳型』 

2016-09-18 06:30:27 | 美術ノート

 『九つの雄の鋳型』

 九つは一応人間の職業を名付けられているらしい。
 しかし人として、足を想起させるものもあるが、手はなく頭部もない。つまり人間に結びつけるには困惑がある。
 そして鋳型というからには、同型のものが大量に生産、増殖される起型ということである。それぞれの異種業種、任意の鋳型は限りなく同じタイプを増殖させていく。その幻の大群(群衆)を『雄』という判別で括っている。

 確かに人間を大別すると、雄(男)と雌(女)である。しかし、この鋳型から明らかに『雄』であるという根拠を示すものは無い。鋳型という硬質なイメージが多少それに加担しているかもしれない。
 描かれたものであるから立っているが、非常に不安定な形態であり直立は常態ではないと思われる。
 この『九つの雄の鋳型』を縫うように『停止原基の綱目』の線条が被さっている。原基とはそのものの基であり、このものの原初、始まりを暗示している。
 《九つの職業⇔不定の鋳型⇔存在の原初》は《現在⇔不定⇔過去》というように時空を分散あるいは粉砕している。

 この九つの雄の鋳型は見えるように克明に描写されているが、《見えない混沌の無空》を意味している。無意味に帰していると言ってもいいかもしれない。

 つまり存在を露わにしているが、非存在の無空を描いたものであり、見えているが見えない深淵である。


(写真は『DUCHAMP』ジャニス・ミンク/TASCHENより)


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