続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

マグリット『臨床医』

2016-03-25 07:21:45 | 美術ノート

 『臨床医』
 奇妙な姿であるが、一人の男を想定させるに足る位置関係である。
 帽子の下の鳥かごには二羽の小鳥がおり、一羽はかごの中、もう一羽はかごの外に設えた台の上に止まっている。
 鳥かごの出入り口は開放されているので、出入りは自由である。
 男の両手は、右は杖、左はバックを各持っている。つまり、小鳥を捕らえることはしないという証でもある。
 霞んだ空と海の背景、座している場所は砂地か岩場であり、豊穣の地ではない。

 これらの条件が『臨床医』であるという。
 ということはこの男が臨床医ではなく、この男を見る鑑賞者が臨床医ということらしい。
 男は任意の男と言うより、作家自身であり、(わたしを診断してくれ)という関係である。

 世界は開放されているのに、自分は居住の囲いから出ようともしない。夫婦二人、自由は約束されているのに、この空間の平穏な生活を甘受している。
 カバーに暗示される外部との隔絶、すべてを閉ざしているわけではないが、すべてを明け透けに曝すのも苦痛である。
 小鳥の白さに象徴されるように、わたしたちに後ろめたい隠し事はない。
 また、飛び出そうという野心もなく、鳥かごのような小さな空間に平和を感じ満足している。

 臨床医を委ねられた鑑賞者としては、肯くより術はない。

(写真は『マグリット』より/西村書店)


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