続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

マグリット『臨床医』

2016-06-17 06:42:03 | 美術ノート

 『臨床医』
 手足のほかは空洞であり、帽子や着衣が人を模っている男は、右手に杖、左手には革袋(かばん)をもち、土を盛った場所(岩場)に腰かけている。その空洞には鳥かごが位置し、二羽の小鳥が出入り口の内外にそれぞれ止まっている。
 けじめも定かでない海と空の背景、腰かけている少し草の生えた場所は土砂か岩場か分からないが不毛(荒地)である。

 この男が臨床医なのだろうか、鑑賞者が臨床医としてこの男を診断するということかもしれない。

 扉は開いている、中にいる鳥には何かを危惧しているような少しの動きがあるが、外の鳥は安心しきって休んでいる態である。扉は開いているがいつ閉まるともわからない、むしろ閉めていることが常態ともいえる扉の機能。
 つまり不安定な状況であり、一見自由に見える空間は拘束の不自由さが明白である。
 にもかかわらず、ここを安住の棲家としているように見える景色を有している男(人)。

 貧弱とも思える質素なつくりの杖が支えであるが、他方には革袋に収めた財宝があるやもしれない。財宝は杖ほどの支えでしかないという暗示だろうか。
 自由に見えるが、噴飯物の自由である。外に飛び出せば危険は免れず、中に入れば即ち拘束である。
 自由と不自由の間にある扉は開いているが、閉まる可能性は大きい。しかし、閉まるその瞬間まで気づかない場合が多いのではないか。しかも、腰かけているその場所は決して豊穣の地でない。

《さあ、このわたくしを、あなたはどう診断なさいますか》マグリットの問いである。


(写真は『マグリット』西村書店刊より)


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