『彼は語らない』
白い石膏像、仮面、唇だけ赤い彩色が施されている。
画面はどのような空間(時空)なのか、遠近は不確かで白い石膏の仮面だけは前面に浮いているように見えるが後ろの円形の板についているのかもしれない。光は左上から射しているが、背後とつながっているのか、異空間なのかがはっきりしない。はっきり描いているのにはっきりしないのである。
あたかもつながっているかのパイプも不明である。画面左半分の均等に並んだ点描は何を示唆しているのだろう。時間だろうか、朝がきて夜になり朝を迎えるという一日と名付けられた時間の間隔。
長い時間を夢想する男(仮面)、背後の女の眼差しはしっかり前の仮面を凝視しているように見える。唯一生命を感じる眼差し、しかし、時間の背後ではある。
仮面はもちろん生きたものではない。
錯誤(事実と認識との不一致)、画面全体の不条理は明確である。しかし、あえてこのバランスで構成を決定した真意がある。
不条理そのものの認識、この静かな錯乱、心の迷走を『彼は語らない』断固として語れない。説明のつかない深層心理の展開である。
写真は『マグリット』展・図録より
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