開口から見える光景と室内の時空は継続するものなのだろうか。たとえばとんでもない距離、現世と来世であるような決してつながることのない時空、つまり行き来の不自由な(通行不可)異世界かもしれない。
しかし、ポールにある目は荒れた海の難破船を見ている。落雷・暴風・高波、死を覚悟せざるを得ないような恐怖、まさに困難な航海である。
にもかかわらず室内は明るい彩色であり、光が射し込んでいる。しかし室内は明らかに歪み、人の眼を有したポールも直立ではなく、傾いている。逆に言えば、傾いていても立っていられる不思議な空間であり、重力に影響を受けない時空である。
ここもまた天国(冥府)の桟敷席かもしれない。死者たちは現世を心痛の思いで凝視している。肉体の質を木質に変換させるのはマグリットの常套手段であり、なびくカーテンは隠蔽と覗き見るためのツールである。
困難多き現世を、カーテンを除け開口を大きくし、ひたすら見つめるしかない冥界の眼差し。現世と冥府を強引に結びつけた心象の世界である。
(写真は新国立美術館『マグリット』展/図録より)
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