
『軽業師の休息』
野積模様の石壁(パネル)に、女性の裸身が胸・胴体・頭部・手足など部分に切断された部位がはめ込まれた図である。しかも不明な状態に変容した肉体の部位もあり、それらは繋がっているが規則性はなく、女性のみであるかも不明であり、肩など男性と思われる。
『軽業師の休憩』とある、しかしこの空間は現世とは思えない節があり、背後の空など、海と見まがうような不思議な設定である。フラットな壁や床のこの部屋の大きさを確定できないが、通常の部屋ならば、この切断された人物は巨大である。
大きさも量感も人体としての存在感を著しく欠き、いくら軽業師であっても、あり得ない状態なのである。
軽業師というのは常識を超えた(ありえない)身体機能を発揮する。鑑賞者に(ありえない)という距離感を条件づけ見せたこの作品。
手足・男女・身体機能から自由に解放された死者の本当の冥府までの休息。肉体の約束が溶解していくプロセス・・・日本人が思い描く三途の川などの話に類したマグリットの空想絵図だと思う。
(足先が欠けているのは自由な歩行ができないことの証か・・・)
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)
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