続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

デュシャン『櫛』②

2016-10-08 06:51:02 | 美術ノート

 『櫛』

 必携と言えるかもしれない小さな櫛である。
 櫛の形態から浮上する一種の思考は、《平等と矯正》であり《均一と強制》である。平等と矯正は人権の基本であるが、均一の強制は人権の剥奪ともなり得る権力志向を暗示する。

 これら相反する意味の浮上、すなわち《矛盾》というものを、この小さな櫛の形態に見出すことができる。

 デュシャンは何気なく使用している日用品の中に、使用目的とは違う視覚からくる感慨に出会ったのではないか。

 髪を並べておさめるという使用目的を持つ櫛の、全く異なる側面を感じることは殆どの場合有り得ない。そのような目的で作られていないからである。
 故に目的を外した《場》をもって、櫛を提示したのではないか。
 櫛という形態に内在する、あるいは付着した意味の提示である。

 矛盾もまたデュシャンのテーマを支える礎である。


(写真は『マルセル・デュシャン』美術出版社刊)


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