『櫛』
必携と言えるかもしれない小さな櫛である。
櫛の形態から浮上する一種の思考は、《平等と矯正》であり《均一と強制》である。平等と矯正は人権の基本であるが、均一の強制は人権の剥奪ともなり得る権力志向を暗示する。
これら相反する意味の浮上、すなわち《矛盾》というものを、この小さな櫛の形態に見出すことができる。
デュシャンは何気なく使用している日用品の中に、使用目的とは違う視覚からくる感慨に出会ったのではないか。
髪を並べておさめるという使用目的を持つ櫛の、全く異なる側面を感じることは殆どの場合有り得ない。そのような目的で作られていないからである。
故に目的を外した《場》をもって、櫛を提示したのではないか。
櫛という形態に内在する、あるいは付着した意味の提示である。
矛盾もまたデュシャンのテーマを支える礎である。
(写真は『マルセル・デュシャン』美術出版社刊)
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