
『自転車の車輪』
車輪、地に着くべきものが空を向いている。
車輪を回すべき動力の欠如。
車輪ではあるがタイヤがない。
黒と白、正円は確かに美しいかもしれないが、装飾というには足らない。
危ういものの倒立、バランスを保ってはいるが少しの圧で倒壊は免れない。
この取るに足らない無用の長物の眺望。この物における主張の内在。
部品は部品のみでは機能は発揮されず、時間の中でただ存在するというだけの物に留まる。停止・・・意味の消失。
手の力を加えれば回転するが、その回転のエネルギーは無に帰してしまう。
空転の奇妙な寒々しさ、空虚、空漠の景色が浮上する。
物体には自覚がない、何かをしようとする自動的な働きは皆無であり、他動・・・人力により初めて稼働する。
単なる円形は圧によりその形を崩すが、多数のスポークはそれを拒む。基本的な力学の応用、ここには人知の結晶があるが、総合的に機能を駆使できない部品(パーツ)に過ぎない悲哀。
機能性という前向きなエネルギーの欠如、存在意義の霧消。
《空虚の景色》を表象する『自転車の車輪』、何もないことの空漠は絵画には描けない。
写真は『DUCHAMP』ジャニス・ミンク(www.taschenより)
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