切ない作品である。
レディ・メイドの花束、花束というものは愛する人に燃えるような想いを告げるためのものである。
それは生死を問わず、対象は恋人であったり墓前への追慕であったりする。
男の視線は林に向けられているらしいが鑑賞者はそれを断定できない、隠されているからである。
『複製禁止』という作品があったが、男が見つめる鏡には男の後ろ姿が映っている、過去ばかり見つめる自分への戒めであり、自分への警告でもある。
男の沈黙、決して語ることのない秘密の感情を悟られることなく吐露している。
『レディ・メイドの花束』、心からの愛の表現、しかし男は任意の女性に背を向けている。永遠の美の女神である女も男に背を向けているが、男の想念を隠し庇護しているともいえる。
《何故?》何故母は死んだのか、問いに向かって沈思黙考を繰り返しているに違いないが、男の顔(表情)は永遠に伏せられたままである。
男と林を隔てている遮断のブロック、越えようとすれば超えられない高さではないが、不帰の一線である。彼はその接線である最前線へ進み出て林(冥府)を見つめるしか術を持たない。
『レディ・メイドの花束』常に心の中に用意されている花束である。
(写真は国立新美術館『マグリット』展/図録より)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます