『風景の魅惑』
淡いが彩度の低い深緑の床面と血の色(彩度の低い赤)をした壁。背後の漆黒はこの床面と壁の作る空間に密着したものなのか、はるかに離れているのかは不明である。
陰翳を見る限り、床面と壁は繋がっているが、背後の漆黒は影そのものである故、その位置関係は隠蔽されている。
ずっと遠く…異次元でさえあるような不穏を内包した背後の空間は、しかしこのフレームの中に収められている。
不条理にも床面に垂直に立つフレームには(PAYSAGE)と書かれたプレートが張られている。しかし描かれてあるべき、通常わたしたちが風景と読んでいるものは存在しない。《無》であるが、虚空のような背景が透けて見えている。
壁に立てかけられた猟銃は、至近を狙うものでなく、見えるか見えないような遠方、揺れ動くようなものに焦点をあてるという特質がある。
『風景の魅惑』は、ずっと遠く、見えるとも見えないともつかず対象も定められない不可視の世界への抑えがたい誘惑による、凝視の風景である。(見えない世界、それは冥府かもしれない)
(写真は新国立美術館『マグリット』展/図録より)
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