続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

マグリット『透視』

2016-12-22 09:55:37 | 美術ノート

 『透視』

 被写体の見え方が正常ではない。卵の乗ったテーブルの側面に影が出来るとしたら正面の上下の線は平行にはならず、平行になるとすれば、影の出来る側面は見えないはずである。つまりこのテーブルの面は平らではなく傾いているということであり、乗っている卵は落下してしかるべきものである。
 卵を見て、成鳥を描くこともあり得ないが、その前にキャンバス自体が前面に傾いており画家はさりげなく指で押さえているのかもしれない。

 左側からと右側からの視線が交錯している奇妙な空間設定である。

 この絵画空間自体が奇妙な幻想空間であって、静止状態は仮想の域を出ない。
 時間の循環、落下すべき物や倒壊すべき物が、そうはならない瞬間を捉えるという有り得ない状況を描いている。
 卵が落下すれば、すなわち破損であり、《死》の予兆を孕んでいる。描いている鳥は飛んでいるように見えるがこんな飛び方をするだろうか。

 卵から鳥になり鳥が卵を生むというサイクルは普遍の真理であり、画家(男)の真摯な眼差しによって、この絵の中にある不条理も正当化されるような幻想を抱く。

 しかし、この絵に隠された真実は《死滅を通した親和性/物質の変化》であり、空間の交錯《あり得ない状況/企み》への実験的な透視である。


(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)


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