イスラエルの本気度…「芝刈り」から「根絶やし」へ 高橋和夫・放送大学名誉教授
中東情勢に詳しい放送大学の高橋和夫名誉教授が産経新聞との電話インタビューに応じた。パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスへのイスラエル軍の地上作戦は今後も苛烈を極めると語るとともに、ハマス掃討は長期戦を強いられると指摘した。主な一問一答は以下の通り。
〝芝が絶対に伸びないように〟 --今後、地上作戦を本格化させるイスラエル軍とハマスとの激闘が予想される 「イスラエルのネタニヤフ首相がいう『ハマスの軍事力壊滅』なら、全面介入でガザ全体を制圧しないとできない。イスラエル軍はハマス掃討終了まで1~3カ月かかると言ってきた。イスラエルは今回、50万人も動員し、『息の根を止めないと』というのが公式発言だ。
これまでは、イスラエル人がよく言う『芝刈り』程度だった。つまり〝芝が延びてきたので、その分を刈る〟というものだ。だが今回は『根絶やし』と言っている。〝芝が絶対に伸びないように〟という意味だ。ただ実際にそれが可能なのか、3カ月で終わるのか。米国ではそれほど甘いものではないとの議論が出ている」
--ハマスはどう戦っていくか 「基本的にハマスはゲリラ戦で戦うほかない。戦車や大きな大砲を持っていないためだ。米国がウクライナに供与した携行式対戦車ミサイル『ジャベリン』などを持っていない。闇市場で調達した、1980年代の北朝鮮製の古い武器などで戦わざるを得ない」 --ガザでハマスへの住民の支持はどれぐらいか 「ガザの生活環境は良くないため、ハマスへの不満の声があるのは事実だ。ただ、イスラエル軍による虐殺があると、ハマスに対する支持は上がる」
■最悪は過激派ISの台頭 --ハマスの戦士を殺害しても、その父母や子、兄弟たちを殺された家族は、イスラエルへの復讐心を半永久的に持つ
「誰もがそう思っている。ハマスを潰した後、一体、どう対応するんだ、と。イスラエルとしては『ハマスを潰した後、考える』というノリであり、議論が煮詰まっていない。
ハマスをほぼ掃討したとしても、良くてハマスと同程度、悪ければハマスより過激なイスラム教スンニ派過激組織『イスラム国(IS)』などが台頭しかねない」 --「ハマス後」のイスラエルのガザ統治・管理は困難を極める 「ガザの中でパレスチナの代弁者を選んでイスラエルの『下請け』をさせるのか、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治政府をガザに連れて行って統治をさせるのか。だが、現時点で〝引き取り手〟はいない。
誰もが下請けなどして住民から嫌われたくないからだ。イスラエルがガザ住民をシナイ半島に追い出し、定住させるとの観測がある。ガザ南部ラファ検問所を開き、シナイ半島に逃れさせた後、検問所を再び締めて『帰ってこなくていい』と。1948年、イスラエルが建国されたとき、難民になったのと同じになるのでは、と懸念するパレスチナ人は多い」
■金を出すカタールの言うこと聞く --サウジ、ヨルダンは難民を引き受けるか 「それはない。ヨルダンの人口の6割以上がすでにパレスチナ人だからだ。国内でヨルダン人の人口比率が低くなるという事態はあり得ない。また、サウジはこれまで、パレスチナ人を引き受けたことがない。イスラエルは『豊かな国が引き受ければ済む問題じゃないか』と言うが、サウジ人は『パレスチナ人は自分たちの土地に住んで当然。どうして引き受けなければならないのか』と抵抗してきた」
--ハマスとイスラエルをカタールが仲介する可能性は 「カタールが働きかけるからイスラエルが妥協する、というわけではない。イスラエルとハマスが妥協するなら、カタール経由でやるということだ。米国が直接出ていくよりは、受け入れられやすい。
ハマスはもともと、エジプトのムスリム同胞団の中から出てきた。ムスリム同胞団は今、カタールでの影響力が強い。カタールはムスリム同胞団のつながりで、ハマスの指導者を引き受けている。ハマスにカネを出さないサウジよりも、カネを出すカタールの言うことをハマスはよく聞くと思う」
■たかはし・かずお 福岡県北九州市生まれ。大阪外国語大学ペルシア語科卒。米コロンビア大学国際関係論修士。クウェート大学客員研究員、放送大学教員などを経てフリーに。『パレスチナ問題の展開』(左右社)など著書多数。