あれは、昭和48年、私が高二の春の頃だった。
都内某区の北東の端、「依古田」という地に、巷間の話で「お化け病院」として知られる一角が有り、共に好奇心旺盛な友人と二人で探検に出向いたのだった。
そこは、まだ結核が不治の病と言われていた頃、結核患者ばかりを扱う治療、療養施設として建てられたもので、そこに入れられたら最後、もう生きては帰れない、と周囲には囁かれていたという。
その敷地の回りは「依古田川」という小さめの川が大きく半円を描くように流れていて、その箇所には全く橋が無く、如何にも周囲から隔離されているように設えられているのだった。
その頃は、役目は終え廃墟と化しており、それがその呼び名の通りの不気味な雰囲気を漂わせていたのだった。
その廃墟内には勿論立ち入ることは出来ないのだが、その恐るべき中の様子の一部は伺うことが出来た。というよりあまりにも(ウッカリ...いやイケナイと知りつつ足を踏み入れちゃったとはいえ)、外部からの目に対し配慮が欠けているようにしか思えないのだ。一体、これが現代社会で見られる光景なのかと思ったくらいだ。
我が目を疑ってしまったのだが、沢山の手術の後だかの人間の臓器がビーカーやら何かに収められている様がそのまま見えるようになっているのだ。
それが模型の類でない証拠は、割れたビーカーと共にぐちゃぐちゃになった臓器がカビにまみれて床に散乱していたのを見れば明らかだった。要するにこれは管理もヘッタクレもない、放置と言ってもいい状態なのだ。
我々は恐る恐る好奇心に駆られ、もっと背筋の凍る"ネタ"を求めて、その建物同様、雑草やら枯れ木やらで荒れ果てた周囲を探し歩いていたのだが...もっと別の、下半身が熱くなるようなネタを見つけて、好奇心はその一点へと注がれてしまったのだった。
それは数冊のエロ本であった。
"おお...ここでこんな頭の中のことを一変させてしまうバケモノにお目にかかるとはi...あは...そ、そんなあられもないことをi...何かの霊ならぬ普段は見えないものが見えたぞi...いや、その一歩手前だったが..."
友人は目を釘付けにし、唾を飲み込みながら見入っていたかと思うと、「もう、オレは我慢出来んi」とか言って、"オカズ"を持って少し離れた繁みの中へと消えて行った。
私はと言うと..."我慢出来ん"衝動には駆られたものの、やはり場所が場所だけにどうしてもそんな気分には...どうも何ものかに見られているような気もしてくるし...そして、さっきのおぞましい場所にある気配を感じ、そっちを振り返ると..."あっi"
それは人間の全身の骨格であった。全く骨であってもその部分は空のはずなのだが、"骨まで透視するような"目ん玉のように見えるではないかi
しかし、私はすぐ骨よりも肉体の方に頭が切り替わって、こういうのはジックリと観賞せねばなるまいと、適当なところに腰を下ろすことにした。
だが、どうもケツの辺りがゴツゴツするので、その固い何かを拾い上げてみると..."あっi"
それは一片の骨であったi
私は思わず腰を抜かすところだった。遠くで見ていることと、実際にこの手で掴んでしまうこととは、全然感触が違うのは当たり前の話で、私は改めてこの「お化け病院」というところがとんでもない場所であることを認識し、大分精神が揺さぶられて、友人のところへ駆けて行って「早く、ここから逃げようi」と告げたのだったが...友人は"手を揺さぶる行為"に夢中なのだった。
私は日も落ちかけて来るし、もうスッカリ興奮も覚めて、何だか居ても立っても居られなくなり、友人はほっといて先に脱出し、帰ることにしたのだった...。
(続)
都内某区の北東の端、「依古田」という地に、巷間の話で「お化け病院」として知られる一角が有り、共に好奇心旺盛な友人と二人で探検に出向いたのだった。
そこは、まだ結核が不治の病と言われていた頃、結核患者ばかりを扱う治療、療養施設として建てられたもので、そこに入れられたら最後、もう生きては帰れない、と周囲には囁かれていたという。
その敷地の回りは「依古田川」という小さめの川が大きく半円を描くように流れていて、その箇所には全く橋が無く、如何にも周囲から隔離されているように設えられているのだった。
その頃は、役目は終え廃墟と化しており、それがその呼び名の通りの不気味な雰囲気を漂わせていたのだった。
その廃墟内には勿論立ち入ることは出来ないのだが、その恐るべき中の様子の一部は伺うことが出来た。というよりあまりにも(ウッカリ...いやイケナイと知りつつ足を踏み入れちゃったとはいえ)、外部からの目に対し配慮が欠けているようにしか思えないのだ。一体、これが現代社会で見られる光景なのかと思ったくらいだ。
我が目を疑ってしまったのだが、沢山の手術の後だかの人間の臓器がビーカーやら何かに収められている様がそのまま見えるようになっているのだ。
それが模型の類でない証拠は、割れたビーカーと共にぐちゃぐちゃになった臓器がカビにまみれて床に散乱していたのを見れば明らかだった。要するにこれは管理もヘッタクレもない、放置と言ってもいい状態なのだ。
我々は恐る恐る好奇心に駆られ、もっと背筋の凍る"ネタ"を求めて、その建物同様、雑草やら枯れ木やらで荒れ果てた周囲を探し歩いていたのだが...もっと別の、下半身が熱くなるようなネタを見つけて、好奇心はその一点へと注がれてしまったのだった。
それは数冊のエロ本であった。
"おお...ここでこんな頭の中のことを一変させてしまうバケモノにお目にかかるとはi...あは...そ、そんなあられもないことをi...何かの霊ならぬ普段は見えないものが見えたぞi...いや、その一歩手前だったが..."
友人は目を釘付けにし、唾を飲み込みながら見入っていたかと思うと、「もう、オレは我慢出来んi」とか言って、"オカズ"を持って少し離れた繁みの中へと消えて行った。
私はと言うと..."我慢出来ん"衝動には駆られたものの、やはり場所が場所だけにどうしてもそんな気分には...どうも何ものかに見られているような気もしてくるし...そして、さっきのおぞましい場所にある気配を感じ、そっちを振り返ると..."あっi"
それは人間の全身の骨格であった。全く骨であってもその部分は空のはずなのだが、"骨まで透視するような"目ん玉のように見えるではないかi
しかし、私はすぐ骨よりも肉体の方に頭が切り替わって、こういうのはジックリと観賞せねばなるまいと、適当なところに腰を下ろすことにした。
だが、どうもケツの辺りがゴツゴツするので、その固い何かを拾い上げてみると..."あっi"
それは一片の骨であったi
私は思わず腰を抜かすところだった。遠くで見ていることと、実際にこの手で掴んでしまうこととは、全然感触が違うのは当たり前の話で、私は改めてこの「お化け病院」というところがとんでもない場所であることを認識し、大分精神が揺さぶられて、友人のところへ駆けて行って「早く、ここから逃げようi」と告げたのだったが...友人は"手を揺さぶる行為"に夢中なのだった。
私は日も落ちかけて来るし、もうスッカリ興奮も覚めて、何だか居ても立っても居られなくなり、友人はほっといて先に脱出し、帰ることにしたのだった...。
(続)