本屋で蒸気機関車というタイトルを見ると一度は手にするものの、殆どの場合はそのまま棚に戻してしまいます。と云うのも蒸気機関車を擬人化した著作が多く情緒的すぎるのです。 確かにあの排気音や汽笛にはノスタルジックを感じますが、活字や写真にはさほど興味が湧きません。その結果ウチの本棚には意外や実物蒸気機関車の書籍は並んでおりません。
並んでいると云えば、模型やメカニズム関係はズラリ。 おそらく機械としての仕掛けを理解することにのめり込んだ結果と思います。特に数年前に再発したライブスチームへの興味から蒸気機関車のメカニズムには捨てがたい魅力を感じています。複雑に動作する弁装置のリンク一本一本には意味があり、先人の創意工夫が盛り込まれていると考えると蒸気機関車は工業製品の極致であると考えています。
こんなことからこのブログの書評で紹介している斉藤晃著 蒸気機関車200年 等の三部作にもっとも魅力を感じるわけです。 先日吉祥寺の書店でこの斉藤晃さんの手になるタイトルとした「蒸気機関車の技術史」(成山堂書店)を見つけました。 一連の分厚い前著作とは違ってハンディなA5判、簡略化されているとは云え蒸気機関車の歴史を技術的観点からまとめてあるので大いに参考になります。日本の蒸気機関車は何故あのような型式になったのかを世界的視野というか客観的に考えることが出来るのも興味深いと思います。 そしてまた技術の果実を利用するだけでは新しいものは生まれないものであると考えさせられます。 どうして日本の蒸気機関車は機械的に面白くないのかとズーッと思っていたことが斉藤さんの一連の著作で納得いきました。と云うことで蒸気機関車ファンが一読される本としてお薦めします。
コンピュータの世界、特に通信の世界においてもあちらの技術を理屈を究めずそのまま使うという蒸気機関車的な技術移転が起きているのですが、こんな具合では結果的に次世代技術は生まれないのではないかと危惧しています。日本人のDNAでしょうかねぇ-
ついでで恐縮ですが、ふと思い出して追加しました。
この機械は四気筒エンジンを持つ英国LMS社Duchessの45mmゲージ模型です。外側の見慣れたエンジンの他に主台枠の中に二気筒持っています。 模型では本物に忠実に再現されており四気筒のパワーで走行します。 実機は1937年に登場し、試乗会でいきなり時速183.4kmで走ったようです。 英国の機関車は標準軌道ながら一見すると国鉄の機関車クラスの小振りな車体ですが、その内側にはこのようなメカニズムを持っているものも多かったのです。
余談ですが、破られることないだろう蒸気機関車の最高記録は英国のA4型マラードという青い三気筒機関車が出した時速126マイル(202.7km)です。それに戦前においても日本の倍以上の運行速度だったのは路盤を含めて素晴らしい総合技術と思います。
車体はこのように優美な姿をしています。この機関車が上のような複雑なメカニズムを持っているとは事情を知らない限り気が付きません。よく車の性格をあらわすことで使われるのですが、「羊の皮を被った狼」とはこの機関車のことのようでもあります。ライブスチームに親しんでいなければ知らないままでした。
Duchessは我が鐡道のヒロインといえる一台なのでお気に入りのショットをもう一枚追加しておきます。