プーラン・デヴィと言う女性がいた。
(1958年8月10日~2001年7月15日)
戸籍のいい加減なインドなので1963年生誕説もあり。
プーラン・デヴィを初めて知ったのは1997年頃である。
1995年頃からインドマニアであった私は、
インド関係の本はほとんど読んだし、東京近郊で行われる、
映画や芸能、イベントにはほとんど通った。
女盗賊プーランと言うインド映画を観て、原作本を読んだ。
原作を読んだのが先だったかもしれないが・・・。
インドの田舎に生まれたプーランと言う名前の女児が、
不運な生い立ちや時代背景もあり虐げられていたが、
巡り合わせもあり生きるために盗賊となり、
そして政治家にまで登り詰めていく、壮絶な人生・・・・。
日本ではありえない・・・・。
そしてこの映画から7年後に政治家になったプーランは暗殺されてしまった。
これも日本ではありえない・・・・。
私の記憶は大筋ではこうだった。
文庫 女盗賊プーラン 上 (草思社文庫) | |
武者圭子 | |
草思社 |
文庫 女盗賊プーラン 下 (草思社文庫) | |
武者圭子 | |
草思社 |
ガンディーのイベントで講演を聞いた竹中千春先生の著書で、
プーラン・デヴィについて書いた物があったので読んでみた。
先生はプーランの生家を尋ね家族にも会っているし、
本人からも話を聞いており、細かい正確な事まで理解できた。
家族背景、幼児婚、結婚後の生活、盗賊になるまでの状況、
盗賊になってからの人生、投降と引き換えに政治家になっていく様子、
政治家になってからの人生、環境の変化、家族の変化、暗殺の背景。
盗賊のインド史 帝国・国家・無法者(アウトロー) | |
竹中 千春 | |
有志舎 |
プーランが生まれ育ったのは、
ウッタル・プラデシュ州とマディア・プラデッシュ州の州境の村、
近隣のチャンバル峠と聞けば誰でも知ってる山賊の宝庫である。
そもそもプーランはアウトカーストではなく、
シュードラの漁師階級であった。
11歳で30代の男性の4回目の結婚相手となったプーランは、
虐待され家に戻ってくるが出戻りは許されず家に入れてもらえなかったため、
放浪しながら時々家に戻ると言う生活を余儀なくされる。
更に父親を庇ったせいで村長や警官たちにも辱めを受ける。
ある日、村を襲った盗賊にさらわれ、そこでも辱めを受けるが、
ナンバー2が同じカーストだったためトップを殺し、
一緒にその盗賊を率いるようになる
更にその夫が殺害されると自らが盗賊を率いて、
かつて辱められた相手を襲ってリベンジを果たす。
11歳と言うまだ子供と言ってもいい歳から性的虐待を受け続けたら、
精神に異常をきたしてしまうんじゃないだろうか。
そうでないとしたら・・・
死んだ方がまし、死んで楽になりたいと考えてしまうかもしれない。
プーランと言う女性は自分が生まれ育った状況や環境に疑問を持ち、
本来弱い立場にありながら生きるために盗賊になり、
もがいても抜け出せない、どうしようもない状況で、
弱い立場の人々の為に戦い続けた義賊であった。と言われている。
お尋ね者となったがなかなか捕まらず、
死刑にはしないと言う司法取引で投降し11年間牢獄に入る。
もっとも投降するところを見に来た大勢の人々はただの好奇心で、
彼女を義賊だとは思っていなかったと言う説もあるが。
獄中でヒンディー語やカーストなど勉強し、
カーストや性差別の撤廃を求めて政治活動を開始し、
1996年インド社会党から立候補し国会議員となった。
ところが2001年7月15日、
昼休みのためデリーの国会議事堂から自宅に戻った所を、
3人の男により銃撃され暗殺されてしまった。
プーランに殺された上位カーストによる報復と言われているが、
どうも怪しいらしい。暗殺されていなかったら、
その後どうなっていただろうか?
この本を読んでいろんな事が解った。
まず、盗賊団はアウトカーストの人間だけではなく、
様々なカーストが入り交り盗賊団の中でもカーストが存在している。
これはスラムの住人も同じである。
盗賊にはパートタイマーがいて普段は農業をしているが、
農業の閑散期になると盗賊になる者がいる。
その昔、低カーストに対して上位カーストはやりたい放題であった。
都市部では少しずつ変わってきてはいるが、
田舎では今でも同じであると私は思っている。
現にプーランの生まれたチャンバル峠付近では、
今でも昔と変わらぬ山賊が出没しているし、
他の州境の山間部でも山賊が出没する場所がある
地方都市でもショッピングモールやマンションが建設され、
中間所得層がお金を持つようになってきてはいるが、
インドには国際貧困ラインである1日2ドルで生活する人が3億人以上いて、
スラムの人口も1億人以上いるらしい。
スラムの人はちゃんと仕事をしているのでいいけれど、
路上生活者は何とかならないものだろうか。
交差点で車が止まる度に手を出してお金を乞う人々、
マーケットで買い物に来る人に手を出す人々、
寺院の前で座り込んでいる人々の数は多い。
この様に底辺で暮らす人々の暮らしに変化はないと思う。
この底上げを二期目を迎えるモディ政権がどう考えているのか、
であるが・・・・格差が広がるだけであろうと思う。
話はそれてしまったが「盗賊のインド史 帝国・国家・無法者(アウトロー)」は、
インドのカースト差別や性差別を知る上で、とてもいい一冊だと思う。
これだとパートタイマーではなく季節労働者ですね。
盗賊が仕事になっているとは!
”女盗賊プーラン”は日本語訳が出た当時ベストセラーになりましたね。ビックリ情報の連続で話題になりました。(私は読んでいませんが)
その通り、まさに季節労働者です。
この本に限らず歴史とか、
インドの事を少し理解した今となって、
あぁそうだったのか・・・と合点がいく事が多い
今日この頃です。