私はインドに12年住んでいたので、
帰国後もインドの事を聞かれる事が多いのだが、
TV等で報道されている情報を確認される事がほとんどである。
「3桁の掛け算できるんですよね。」
「女性はレイプされるんですよね。」
「毎日カレー食べるんですよね。」
などなど・・・。3番目だけは本当だが、
3桁の掛け算できるのは、全人口の数%だろう。
世間の女性が全員襲われるわけではない。
報道されている事が全てではないので、
インドに行った事がある人であれば否定するだろうし、
インドに住んだ事がある人であれば正しい情報を提供するだろう。
さて、この「インド残酷物語・世界一たくましい民」、
著者はカルナータカ州バンガロールに住み、
インドを研究した人である。
インドの実情を知りたい人は読んだほうがいい。
2022年でもまだこのような状況である事を、
インドが日本といかに違うのか、
インド人の心の奥底にある考え方や習慣を考え、
インドの現実を知った方がいい。
1章は名誉殺人とアフターピルについて。
カーストの違う結婚は親族の反対にあう。縁を切って駆け落ちしても
良くて連れ戻される、悪ければ(こちらが大部分)殺されるのである。
つまり家系を汚した不届者は名誉を守るために殺してしまうのだ。
違うカーストの結婚は許されない。結婚は親が決めた相手とするのが、
未だ一般的である。婚前交渉は許されないのであるが、
今時の都会や上位カーストでは結婚までの恋愛は多めに見られている。
しかし避妊については女性は弱者であるために、
望まない妊娠をさけるためにアフターピルを服用するらしい。
緊急時だけではなく安易に服用するために身体に異常をきたす
若い女性も多いらしい。
<ダリト>
私たちが社会科で習ったカーストは便宜上4階級である。
実際のところこの4つの中にも職業別に数千に分かれている。
またカーストに入れない人々もいる。それをダリトと呼ぶ。
穢れ、汚れの職業に就く人たちの事である。
掃除、ゴミ収集、屠殺、皮を扱う職業、床屋などがある。
第2章は、洗濯屋カーストの話。
汚れ物に携わる人々のカーストは低い。低カースト向けに
政府が団地を建てたのだが器はできたものの・・・
水が来ないと言う話。あとインドでは部屋の内装は購入者の負担。
壁を塗るのも、電灯を設置するのも・・・。。
第3章は、低カーストの指導者(グル)の話。
裁判を起こすのにはお金もかかるし、判決までに時間がかかる。
地獄の沙汰も金次第なので、お金で勝訴を買う事も可能である。
昔から農村には長老議会のような物があり、グルを裁判長に見立て、
話を聞いてもらい決着をつけてもらう。
まだあるのか・・・と思った。
第4章は、水牛を屠殺するカーストの話。
ダリト出身でダリトの生活や身分を向上させるための指導者と
その組織などの話である。
第5章は、ウーバーとOBC。
ウーバーはインドではタクシーが有名で私も利用した事がある。
車さえ運転できればカースト関係なく誰でも仕事ができる。
<優遇政策>
インドではダリトのような指定カースト、SC(指定部族)、
OBC(その他後進諸階級:Other Backward Class)のために
公立校の入学や政治の議席に優遇枠を設けている。
優遇されるOBCに入ろうと一般カーストの人たちが、
デモや運動を起こす事も珍しくない。
TVや報道で見えないインドの現状を知るために、
非常に良い一冊である。この機会にインドを知りたいと思った人、
インドに住んでいたけど現実を知らずにいた人、
インドが諸外国に見せたくない一面を知りたい人はぜひ一読されたし。