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ニュース 社会 「誰でもなり得る」ギャンブル依存症、勝ち組だった人生暗転「昨日の後悔と明日の不安で…今日が存在しなかった」2024/03/26 14:19読売新聞
開所予定の岩手サポートセンターのミーティングルームで、依存症から回復した経験を語る田村さん(25日、岩手県矢巾町で) 【読売新聞社】
(読売新聞)
ギャンブル依存症の回復支援を行う一般社団法人「グレイス・ロード」(山梨県)は、東北で初となる支援施設「岩手サポートセンター」を岩手県矢巾町に開所する。アルコールや薬物など他の依存症も含め、専門の支援施設は岩手県内で初めて。依存症の経験者や県警の元刑事らが職員としてサポートし、ボランティア活動などの回復プログラムを提供する。(広瀬航太郎)
自立支援
同センターは同法人として全国で3拠点目。矢巾町藤沢の国道4号沿いに開設予定で、ほかの施設と同様、ボランティア活動やスポーツを通じた自立支援を行う方針。入所者25〜30人を受け入れるという。
現在は5月頃の開所を見据え、県から障害福祉サービスとしての指定を受けるための申請を進めている。先月には、施設の運営元となる一般社団法人「東北グレイス・ロード」を新たに設立。県精神保健福祉センターによると、県内では依存症者を対象とした自助グループなどの集会はあるものの、専門の支援施設が開所すれば初めてとなる。
借金で暗転
センター長を務める田村仁さん(36)は、ギャンブル依存症から回復した当事者だ。大学時代に友人からパチンコに誘われ、初めて賭け事に手を出した。卒業後、東京都内の大手電機メーカーに就職。給料を手にすると、パチンコにのめり込んだ。クレジットカードの請求が月100万円単位で届き、借金は多い時で約400万円に上った。
同居の両親に口座を管理されるようになってからは、自社の製品500万円相当を横領し、売却して得た資金でパチンコに興じた。「昨日やってしまった後悔と明日への不安に押しつぶされ、『今日』が存在しなかった」。約1年後に会社に発覚し、自主退職を求められた。「勝ち組だ」と思っていた人生は暗転した。
2017年、両親から「施設に入らないなら縁を切ってくれ」と言われ、山梨にあるグレイス・ロードの施設に入所。日々のグループミーティングで自身の体験を赤裸々に語り、正直に語る他の入所者には拍手を送った。プログラムの一環でゴミ拾いや警備員などの仕事をボランティアで行い、手伝った農家からは「頑張れよ」と激励された。
「人とのつながり」を取り戻したことが、回復への第一歩になった。19年に退所し、同法人の職員に。昨年には精神保健福祉士の資格も取得した。今度は支える側として、「自分が楽しそうに生きている姿を見てもらうのが一番」と語る。
元刑事も
岩手県警の生活安全部門で薬物犯罪の捜査を担当し、同年に退職した菅原和弘さん(64)も生活支援員としてバックアップする。「県内ではこれまで依存症に悩む人の受け皿がなく、理解も進んでいない。自分が地域とのパイプ役になれれば」と語る。
ギャンブル依存症への関心は高まっている。米大リーグ・ドジャースで大谷翔平選手の通訳を20日に解雇された水原一平氏の違法賭博疑惑を巡り、水原氏はチームに「自分はギャンブル依存症だ」と説明したと米国で報じられている。
田村さんは「依存症は誰でもなり得る『病気』で、適切なケアが必要。当事者の社会復帰が進むよう、施設を通じて理解を広げたい」と話している。