ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ミルト・ジャクソン/ステイトメンツ

2024-10-13 09:23:53 | ジャズ(ハードバップ)

ミルト・ジャクソンについては、本ブログでもたびたび取り上げてきました。モダン・ジャズ・カルテット(MJQ)のヴァイブ奏者として長年活動するとともに、ソロでも多くのリーダー作を発表しています。MJQとソロでは音楽性がかなり違い、ジョン・ルイスの影響が濃い室内楽的サウンドのMJQに対し、自身名義の作品ではファンキー&ブルージーな要素を前面に出しており、編成もホーン入りが多いです。

ただ、例外的にMJQと同じカルテット編成の作品もいくつかあり、有名なのはジョン・ルイスの代わりにホレス・シルヴァーがピアノを務めた1955年のプレスティッジ盤「ミルト・ジャクソン・カルテット」ですが、今日ご紹介する1961年のインパルス盤「ステイトメンツ」も忘れてはいけません。メンバーはハンク・ジョーンズ(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、コニー・ケイ(ドラム)と言った面々。いずれも名手揃いですが、ハンク・ジョーンズは良くも悪くも個性を前面に出さない職人肌タイプですし、全編においてMJQとは異なるミルトならではのソウルフルなサウンドが繰り広げられています。

全8曲。注目すべきはやはり4曲のミルトのオリジナルでしょう。オープニングトラックの”Statement”、3曲目の”A Thrill From The Blues”、5曲目”Put Off”とどの曲もミルトが縦横無尽のマレット捌きを見せつけるファンキーチューンです。ミルトのヴァイブは技術的に卓越しているのはもちろんですが、音の選び方が独特なんですよね。黒人特有のソウルフィーリングが体中から溢れ出てくるような感じと言いますか。ちょっと他のヴァイブ奏者では真似のできない領域です。

一方でミルトはバラードも得意中の得意で、スタンダード曲の”Slowly””The Bad And The Beautiful”、そして自作の”A Beautiful Romance”とうっとりするようなロマンチックな演奏を聴かせてくれます。ソニー・ロリンズの”Sonnymoon For Two”やデューク・エリントン”Paris Blues”と他のジャズマンのカバーも悪くないです。リズムセクションは決して目立つわけではありませんが、いつもながら良い仕事をするベテランのハンク・ジョーンズに、安定のポール・チェンバース、そしてMJQの時と変わらず息の合ったプレイを聴かせるコニー・ケイがミルトをがっちりサポートしています。

コメント

ソニー・ロリンズ/ザ・サウンド・オヴ・ソニー

2024-10-11 19:30:47 | ジャズ(ハードバップ)

1950年代後半に全盛期を迎えたソニー・ロリンズはさまざまなレーベルに怒涛の勢いでリーダー作を発表しますが、1957年頃から演奏にも実験的な要素が加わり始めます。当時は異例だったピアノ抜きのトリオ演奏がまさにそれで、「ウェイ・アウト・ウェスト」「ヴィレッジ・ヴァンガードの夜」「フリーダム・スイート」と次々とピアノレス作品を発表します。当時のロリンズはテナーの第一人者としての評価を確立していましたが、現状維持を潔しとしない求道者的な性格が、新たなスタイルの開拓に駆り立てたのでしょう。この後、1959年からロリンズは3年間の充電期間に入りますが、ニューヨークの橋の下でひたすら練習を繰り返したのは有名なエピソードです。

一方で、この頃のロリンズは上記のピアノレス作品群とほぼ並行してオーソドックスなスタイルの作品も次々と発表しています。ブルーノート盤「ニュークス・タイム」や西海岸のオールスターを集めた「コンテンポラリー・リーダーズ」に加え、今日ご紹介するリヴァーサイド盤「ザ・サウンド・オヴ・ソニー」もそうですね。それらの作品は総じてスタンダード曲多めで、ロリンズも朗々とテナーを吹いており、ジャズ初心者でも十分に楽しめる内容です。

本作「ザ・サウンド・オヴ・ソニー」の録音年月日は1957年6月。タイトルにあるように、もう1人のソニーことソニー・クラーク(ピアノ)が加わっているのが最大の売りですね。2人の共演はこれが最初で最後ではないかと思います。ベースは曲によってパーシー・ヒースとポール・チェンバースが交代で務めており、ドラムはロイ・ヘインズです。

全10曲。2曲を除いて後は全てスタンダードです。基本的にはオーソドックスなピアノ入りのカルテット演奏ですが、1曲目の”The Last Time I Saw Paris"はピアノレストリオ、8曲目の”It Could Happen To You"はドラムもベースも抜きの無伴奏テナーソロでこの頃のロリンズのチャレンジングな姿勢が垣間見えます。”Just In Time"”What Is There To Say"”Dearly Beloved"”Ev'ry Time We Say Goodbye”あたりは有名スタンダードをシンプルに演奏しており、中でもバラードの”What Is There To Say"が秀逸ですね。

ただ、個人的イチ押しは3曲目の"Toot, Toot, Tootsie, Goodbye"。1920年代にアル・ジョルソンが歌った曲のようですが、インストゥルメンタルで演奏されることはほぼありません。youtubeで聴いたジョルソンの歌も他愛のないポップソングとしか思えませんが、これが見事なジャズになっています。ソニー・クラーク率いるリズム・セクションをバックに力強いテナーソロを繰り広げるロリンズが最高ですね。9曲目”Mangoes"も前年にローズマリー・クルーニーがヒットさせたラテンソングですが、こちらも出色の出来です。自作曲では7曲目”Cutie”がおススメ。可愛らしいタイトルどおり歌詞を付けたくなるような親しみやすいメロディを持った曲です。ラストの”Funky Hotel Blues"はCD用のボーナストラックだけあってまずまずの出来です。

 

コメント

ルー・ドナルドソン/スイング・アンド・ソウル

2024-10-10 19:51:09 | ジャズ(ハードバップ)

ルー・トナルドソンのブルーノート作品と言えば名盤特集にはなぜか昔から1958年発表の「ブルース・ウォーク」が挙げられることが多いですね。そのこと自体に異論はありませんが、他の作品ももっと取り上げられるべきと思います。以前に紹介した「ウェイリング・ウィズ・ルー」等は個人的には大名盤と思いますし、スリー・サウンズと組んだ「LD+3」、そして今日ご紹介する「スイング・アンド・ソウル」あたりも名盤と呼ばれるにふさわしいと思います。

録音年月日は1957年6月9日。順番的には同年1月録音の「ウェイリング・ウィズ・ルー」と12月録音の「ルー・テイクス・オフ」の間に位置します。メンバーは盲目のピアニストとして有名なハーマン・フォスターに、ペック・モリソン(ベース)、デイヴ・ベイリー(ドラム)、レイ・バレト(コンガ)。翌年の「ブルース・ウォーク」と全く同じメンバーです。

アルバムはバラードの"Dorothy"で幕を開けます。スタンダード曲のような美しい曲ですが、ルディ・ニコルズと言うドラマーが書いたオリジナル曲とのこと。このニコルズと言う人について調べてみましたが、チャールズ・ミンガスや歌手のジミー・スコットの作品に参加しているそうですが、あまり詳しいことはわかりません。この”Dorothy"と言う曲自体もあまり他のジャズメンに取り上げられている形跡はありませんが、胸を焦がすような切ないメロディの名曲と思います。ルーの官能的とでも言うべきアルトの音色が絶品ですね。2曲目”I Won't Cry Anymore"はトニー・ベネット等が歌ったスタンダード曲ですが、インストゥルメンタルでは珍しいですね。ミディアムテンポの軽快なナンバーで、ドナルドソンの歌心溢れるアルト、独特のブロックコードを弾くハーマン・フォスターのソロ、とこれまた素晴らしい演奏です。

以上、最初の2曲だけで名盤認定しても良いぐらいの満足度ですが、他の曲も水準以上です。"Herman's Mambo"はタイトルから想像がつくようにハーマン・フォスター作のラテン・ナンバー。”There Will Never Be Another You"は通常ミディアムテンポ以上で演奏されることが多いスタンダードですが、ここではスローバラードでじっくり演奏されています。ドナルドソンの自作曲も3曲あり、”Peck Time"は典型的ビバップ、”Groove Junction"はミディアムテンポの快適なハードバップ、”Grits And Gravy"はこってりしたスローブルースです。以上、最初から最後まで中だるみすることなく楽しめる充実の名盤です。

コメント

カーティス・カウンス/ユー・ゲット・モア・バウンス

2024-10-08 21:09:14 | ジャズ(ハードバップ)

ジャズのジャケットには色々ヘンテコなものがありますが、その中でもお色気系の代表格が今日ご紹介する1枚です。白衣を着た女医らしき金髪美女が胸に聴診器を当ててアッハ〜ンと声を出しているのでしょうか?まるで成人向け漫画のカバーみたいで、ハレンチ極まりないですね。

ただ、内容はいたって正統派のジャズです。リーダーはカーティス・カウンス。西海岸で活躍した黒人ベーシストでチェット・ベイカー「ピクチャー・オヴ・ヒース」、ショーティ・ロジャース「スウィンギング・ミスター・ロジャース」はじめ数々のウェストコースト・ジャズの名盤に参加しています。リーダー作も何作かあり、本作は1956年から1957年にかけて名門コンテンポラリー・レコードに吹き込まれた作品。メンバーはジャック・シェルドン(トランペット)、ハロルド・ランド(テナー)、カール・パーキンス(ピアノ)、フランク・バトラー(ドラム)。シェルドンだけが白人で、それ以外は西海岸で活躍する黒人ジャズマン達です。従ってウェストコースト・ジャズとは少し違う西海岸ハードバップとでも言うべきジャズが繰り広げられています。

全8曲。オリジナル2曲、歌モノスタンダード4曲、バップスタンダード2曲と言う構成です。オープニングはカウンス作のレイジーな雰囲気のブルース"Complete"で、カウンスのウォーキングベースをバックに、まずシェルドンのミュートトランペットが絡み、ランド、パーキンスがソロを取って行きます。2曲目以降は歌モノで、ランドのワンホーンによるバラード"How Deep Is The Ocean?"、メル・トーメやアート・ペッパーで有名な"Too Close For Comfort"、ドライブ感満点のハードバピッシュな"Mean To Me"と続きますが、イチ押しは5曲目の"Stranger In Paradise"。原曲はボロディンの「だったん人の踊り」で、それを「キスメット」というミュージカルのために編曲したものです。元々のクラシック曲が名曲ですが、本作での演奏も素晴らしく、ランドの歌心溢れるテナー、ややくすんだ音色のシェルドンのトランペット、パーキンスのエレガントなピアノソロがさらに曲の魅力を引き立てています。

6曲目"Counceltation"はモードジャズを先取りしたかのようなやや不思議な旋律のバラード。ラストの2曲はチャーリー・パーカーの"Big Foot"とディジー・ガレスピーの"Woody'n You"とビバップの2大巨人の名曲を軽快に演奏して終わります。前者ではカウンスの長めのベースソロもフィーチャーされています。結局、カウンスはコンテンポラリーに4枚、ドゥートーンに1枚「エクスプローリング・ザ・フューチャー」を残しますが、1963年に37歳の若さで心臓発作で亡くなります。本作の翌年に事故死するカール・パーキンスと言い、この頃のジャズマンは本当に早死にが多いですね。

コメント

ジャッキー・マクリーン&カンパニー

2024-10-06 09:27:44 | ジャズ(ハードバップ)

本日はジャッキー・マクリーンのプレスティッジ盤「ジャッキー・マクリーン&カンパニー」をご紹介します。カンパニーは会社という意味で使われることが多いですが、仲間と言う意味もあり、ここでは後者でしょうね。録音年月日は1957年2月4日。メンバーはジャケット写真下から順番にビル・ハードマン(トランペット)、マクリーン、アート・テイラー(ドラム)、マル・ウォルドロン(ピアノ)、レイ・ドレイパー(チューバ)です。ジャケ写にはなぜか写っていませんが、ベースのタグ・ワトキンスも参加しています。

ジャケットで目を引くのが何と言っても巨大なチューバを抱えるレイ・ドレイパーですね。チューバは重低音担当として、オーケストラやビッグバンドでは欠かせない楽器ですが、スモールコンボでは非常に珍しく、おそらくソロ奏者として活躍したのはこのドレイパーくらいではないでしょうか?チューバ奏者には他にビル・バーバーやドン・バターフィールド等がいますが、彼らは基本ソロは取りませんし、リーダー作もありません。このドレイパーはプレスティッジに2枚、ジュビリーに1枚リーダー作を残しており、うち2枚はジョン・コルトレーンも参加していることもあってCDでも再発売されています。

全5曲、うち最初の3曲がチューバ入りで、残りの2曲は2管のクインテットです。曲は全てメンバーのオリジナルで、マイナーキーの曲がずらりと並んでいます。1曲目”Flickers”はマル・ウォルドロン作で前年にマルが参加したプレスティッジ・オールスターズの「オール・ナイト・ロング」収録曲です。やや哀調を感じさせる魅力的な旋律でマクリーン→ハードマンがソロを取った後、チューバが登場し♪ブォ~ボッボボとゾウの鳴き声のような独特の音でソロを奏でます。このチューバ演奏がテクニック的にどうなのかそもそも比較対象がないのでよくわかりませんが、お世辞にも耳に心地良い音とは言えず、結局ドレイパーに続くソロチューバ奏者が現れなかったのも納得です。続くダグ・ワトキンス作”Help”も地の底から湧き上がるようなドレイパーのチューバに導かれるように始まる曲ですが、ちとマイナーを通り越して暗すぎですね。3曲目”Minor Dream”はドレイパー作のハードバップで、ソロ1番手で張り切ってチューバソロを披露しますが、やはりちょっとヘンですよね。曲自体は良く、ドレイパーの後はハードマン→マクリーン→マルが快適にソロをリレーします。

4曲目以降はチューバなしの普通のハードバップです。”Beau Jack”はマクリーン作のマイナーキーのハードバップで、この時代のマクリーンにしか出せないB級感溢れるマクリーン節が堪能できます。続くハードマンの一音一音区切っていくような独特のトランペットソロも曲風に良くマッチしています。この頃のマクリーンとハードマンはジャズ・メッセンジャーズでも同僚でしたし、「ジャッキーズ・パル」等マクリーンのリーダー作でも共演していますので息もピッタリですね。ラストの”Mirage”はマル・ウォルドロン作の美しいバラードですが、どこかで聴いたことがある曲。いろいろ記憶の引き出しを探ってみるとセロニアス・モンクの”Ruby, My Dear”と出だしがそっくりです。全体的な雰囲気はマルの名曲”Soul Eyes”にも似ていますね。この曲はマクリーンとハードマンが参加したジャズ・メッセンジャーズ「ミッドナイト・セッション」にも収録されています。以上、レイ・ドレイパーのチューバをどう評価するかは難しいところですが、作品自体は愛すべきB級ハードバップと思います。

コメント