ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ルー・ドナルドソン/スイング・アンド・ソウル

2024-10-10 19:51:09 | ジャズ(ハードバップ)

ルー・トナルドソンのブルーノート作品と言えば名盤特集にはなぜか昔から1958年発表の「ブルース・ウォーク」が挙げられることが多いですね。そのこと自体に異論はありませんが、他の作品ももっと取り上げられるべきと思います。以前に紹介した「ウェイリング・ウィズ・ルー」等は個人的には大名盤と思いますし、スリー・サウンズと組んだ「LD+3」、そして今日ご紹介する「スイング・アンド・ソウル」あたりも名盤と呼ばれるにふさわしいと思います。

録音年月日は1957年6月9日。順番的には同年1月録音の「ウェイリング・ウィズ・ルー」と12月録音の「ルー・テイクス・オフ」の間に位置します。メンバーは盲目のピアニストとして有名なハーマン・フォスターに、ペック・モリソン(ベース)、デイヴ・ベイリー(ドラム)、レイ・バレト(コンガ)。翌年の「ブルース・ウォーク」と全く同じメンバーです。

アルバムはバラードの"Dorothy"で幕を開けます。スタンダード曲のような美しい曲ですが、ルディ・ニコルズと言うドラマーが書いたオリジナル曲とのこと。このニコルズと言う人について調べてみましたが、チャールズ・ミンガスや歌手のジミー・スコットの作品に参加しているそうですが、あまり詳しいことはわかりません。この”Dorothy"と言う曲自体もあまり他のジャズメンに取り上げられている形跡はありませんが、胸を焦がすような切ないメロディの名曲と思います。ルーの官能的とでも言うべきアルトの音色が絶品ですね。2曲目”I Won't Cry Anymore"はトニー・ベネット等が歌ったスタンダード曲ですが、インストゥルメンタルでは珍しいですね。ミディアムテンポの軽快なナンバーで、ドナルドソンの歌心溢れるアルト、独特のブロックコードを弾くハーマン・フォスターのソロ、とこれまた素晴らしい演奏です。

以上、最初の2曲だけで名盤認定しても良いぐらいの満足度ですが、他の曲も水準以上です。"Herman's Mambo"はタイトルから想像がつくようにハーマン・フォスター作のラテン・ナンバー。”There Will Never Be Another You"は通常ミディアムテンポ以上で演奏されることが多いスタンダードですが、ここではスローバラードでじっくり演奏されています。ドナルドソンの自作曲も3曲あり、”Peck Time"は典型的ビバップ、”Groove Junction"はミディアムテンポの快適なハードバップ、”Grits And Gravy"はこってりしたスローブルースです。以上、最初から最後まで中だるみすることなく楽しめる充実の名盤です。

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カーティス・カウンス/ユー・ゲット・モア・バウンス

2024-10-08 21:09:14 | ジャズ(ハードバップ)

ジャズのジャケットには色々ヘンテコなものがありますが、その中でもお色気系の代表格が今日ご紹介する1枚です。白衣を着た女医らしき金髪美女が胸に聴診器を当ててアッハ〜ンと声を出しているのでしょうか?まるで成人向け漫画のカバーみたいで、ハレンチ極まりないですね。

ただ、内容はいたって正統派のジャズです。リーダーはカーティス・カウンス。西海岸で活躍した黒人ベーシストでチェット・ベイカー「ピクチャー・オヴ・ヒース」、ショーティ・ロジャース「スウィンギング・ミスター・ロジャース」はじめ数々のウェストコースト・ジャズの名盤に参加しています。リーダー作も何作かあり、本作は1956年から1957年にかけて名門コンテンポラリー・レコードに吹き込まれた作品。メンバーはジャック・シェルドン(トランペット)、ハロルド・ランド(テナー)、カール・パーキンス(ピアノ)、フランク・バトラー(ドラム)。シェルドンだけが白人で、それ以外は西海岸で活躍する黒人ジャズマン達です。従ってウェストコースト・ジャズとは少し違う西海岸ハードバップとでも言うべきジャズが繰り広げられています。

全8曲。オリジナル2曲、歌モノスタンダード4曲、バップスタンダード2曲と言う構成です。オープニングはカウンス作のレイジーな雰囲気のブルース"Complete"で、カウンスのウォーキングベースをバックに、まずシェルドンのミュートトランペットが絡み、ランド、パーキンスがソロを取って行きます。2曲目以降は歌モノで、ランドのワンホーンによるバラード"How Deep Is The Ocean?"、メル・トーメやアート・ペッパーで有名な"Too Close For Comfort"、ドライブ感満点のハードバピッシュな"Mean To Me"と続きますが、イチ押しは5曲目の"Stranger In Paradise"。原曲はボロディンの「だったん人の踊り」で、それを「キスメット」というミュージカルのために編曲したものです。元々のクラシック曲が名曲ですが、本作での演奏も素晴らしく、ランドの歌心溢れるテナー、ややくすんだ音色のシェルドンのトランペット、パーキンスのエレガントなピアノソロがさらに曲の魅力を引き立てています。

6曲目"Counceltation"はモードジャズを先取りしたかのようなやや不思議な旋律のバラード。ラストの2曲はチャーリー・パーカーの"Big Foot"とディジー・ガレスピーの"Woody'n You"とビバップの2大巨人の名曲を軽快に演奏して終わります。前者ではカウンスの長めのベースソロもフィーチャーされています。結局、カウンスはコンテンポラリーに4枚、ドゥートーンに1枚「エクスプローリング・ザ・フューチャー」を残しますが、1963年に37歳の若さで心臓発作で亡くなります。本作の翌年に事故死するカール・パーキンスと言い、この頃のジャズマンは本当に早死にが多いですね。

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ジャッキー・マクリーン&カンパニー

2024-10-06 09:27:44 | ジャズ(ハードバップ)

本日はジャッキー・マクリーンのプレスティッジ盤「ジャッキー・マクリーン&カンパニー」をご紹介します。カンパニーは会社という意味で使われることが多いですが、仲間と言う意味もあり、ここでは後者でしょうね。録音年月日は1957年2月4日。メンバーはジャケット写真下から順番にビル・ハードマン(トランペット)、マクリーン、アート・テイラー(ドラム)、マル・ウォルドロン(ピアノ)、レイ・ドレイパー(チューバ)です。ジャケ写にはなぜか写っていませんが、ベースのタグ・ワトキンスも参加しています。

ジャケットで目を引くのが何と言っても巨大なチューバを抱えるレイ・ドレイパーですね。チューバは重低音担当として、オーケストラやビッグバンドでは欠かせない楽器ですが、スモールコンボでは非常に珍しく、おそらくソロ奏者として活躍したのはこのドレイパーくらいではないでしょうか?チューバ奏者には他にビル・バーバーやドン・バターフィールド等がいますが、彼らは基本ソロは取りませんし、リーダー作もありません。このドレイパーはプレスティッジに2枚、ジュビリーに1枚リーダー作を残しており、うち2枚はジョン・コルトレーンも参加していることもあってCDでも再発売されています。

全5曲、うち最初の3曲がチューバ入りで、残りの2曲は2管のクインテットです。曲は全てメンバーのオリジナルで、マイナーキーの曲がずらりと並んでいます。1曲目”Flickers”はマル・ウォルドロン作で前年にマルが参加したプレスティッジ・オールスターズの「オール・ナイト・ロング」収録曲です。やや哀調を感じさせる魅力的な旋律でマクリーン→ハードマンがソロを取った後、チューバが登場し♪ブォ~ボッボボとゾウの鳴き声のような独特の音でソロを奏でます。このチューバ演奏がテクニック的にどうなのかそもそも比較対象がないのでよくわかりませんが、お世辞にも耳に心地良い音とは言えず、結局ドレイパーに続くソロチューバ奏者が現れなかったのも納得です。続くダグ・ワトキンス作”Help”も地の底から湧き上がるようなドレイパーのチューバに導かれるように始まる曲ですが、ちとマイナーを通り越して暗すぎですね。3曲目”Minor Dream”はドレイパー作のハードバップで、ソロ1番手で張り切ってチューバソロを披露しますが、やはりちょっとヘンですよね。曲自体は良く、ドレイパーの後はハードマン→マクリーン→マルが快適にソロをリレーします。

4曲目以降はチューバなしの普通のハードバップです。”Beau Jack”はマクリーン作のマイナーキーのハードバップで、この時代のマクリーンにしか出せないB級感溢れるマクリーン節が堪能できます。続くハードマンの一音一音区切っていくような独特のトランペットソロも曲風に良くマッチしています。この頃のマクリーンとハードマンはジャズ・メッセンジャーズでも同僚でしたし、「ジャッキーズ・パル」等マクリーンのリーダー作でも共演していますので息もピッタリですね。ラストの”Mirage”はマル・ウォルドロン作の美しいバラードですが、どこかで聴いたことがある曲。いろいろ記憶の引き出しを探ってみるとセロニアス・モンクの”Ruby, My Dear”と出だしがそっくりです。全体的な雰囲気はマルの名曲”Soul Eyes”にも似ていますね。この曲はマクリーンとハードマンが参加したジャズ・メッセンジャーズ「ミッドナイト・セッション」にも収録されています。以上、レイ・ドレイパーのチューバをどう評価するかは難しいところですが、作品自体は愛すべきB級ハードバップと思います。

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ザ・マグニフィセント・サド・ジョーンズ

2024-10-02 18:53:30 | ジャズ(ハードバップ)

前回の「レイ・ブライアント・トリオ」に引き続き、本日もド定番でサド・ジョーンズのブルーノート盤、通称”鳩のジョーンズ”を取り上げたいと思います。ジャケットに鳩がたくさん写っているという他愛ない理由でそう呼ばれているのですが、それだけ昔からジャズファンに親しまれていた証左でもあります。サドはブルーノートに合計3枚のアルバムを残しており、1作目がデトロイト出身者を中心にした「デトロイト・ニューヨーク・ジャンクション」、2作目が1956年7月録音の本作です。

メンバーはビリー・ミッチェル(テナー)、バリー・ハリス(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)、マックス・ローチ(ドラム)からなるクインテット。ミッチェルとは上述「デトロイト・ニューヨーク・ジャンクション」に続く共演で、後にカウント・ベイシー楽団でも同僚となるなどサドとは長年の盟友のような関係です。バリー・ハリスもデトロイト出身ですが、実は彼が本格的にニューヨークに出て来て活躍し始めるのは1960年になってからで、この頃は一時的にデトロイトを離れていただけのようです。ただ、その数ヶ月の間に本作はじめアート・ファーマー、ハンク・モブレーの作品に呼ばれていますので当時から評価は高かったのでしょう。

全5曲、スタンダードが3曲、サドのオリジナルが2曲と言う構成です。オープニングは前年にベイシー楽団が大ヒットさせ、サドもソロを吹いている"April In Paris"。ビッグバンドのような迫力はありませんが、スモールコンボならではのほのぼのした雰囲気が良いですね。2曲目"Billie-Doo"はサド自作のブルース。Billieとはビリー・ミッチェルのことでしょうか?乾いた感じのサドのトランペットに続き、ミッチェルがブルージーなテナーソロを聴かせます。3曲目”If I Love Again"はクリフォード・ブラウン=マックス・ローチ・クインテット「スタディ・イン・ブラウン」のバージョンがあまりにも有名なスタンダード曲ですが、ここでの演奏も双璧をなすぐらい素晴らしいですね。ソロ1番手はハリスでコロコロと玉を転がすようなタッチの軽やかなソロを聴かせ、ミッチェル→サドとそれぞれ持ち味を出し、他の曲では比較的おとなしめなマックス・ローチが見事なドラムソロを披露します。

4曲目”If Someone Had Told Me"はあまり聴いたことのないスタンダード曲。ここではミッチェルはお休みで、サドがワンホーンで情熱的なバラードプレイを聴かせます。5曲目”Thedia"は再びサドのオリジナル曲。本作は全体的に中間派風の演奏が多いですが、この曲は典型的ハードバップですね。10分超の長尺ということもあり、各自のソロがたっぷりフィーチャーされており、ミッチェルのよく歌うテナー→ハリスの玉転がしタッチ→パーシー・ヒースのベース→サドのブリリアントなトランペット→サドとローチのドラムのソロ交換とリレーして行きます。以上、リーダーのサドはもちろんのこと、過小評価されている名手ビリー・ミッチェルや若きバリー・ハリスの演奏も楽しめる評判通りの名作です。

 

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ソニー・ロリンズ&ザ・コンテンポラリー・リーダーズ

2024-09-25 18:34:56 | ジャズ(ハードバップ)

1950年代のソニー・ロリンズは最初はプレスティッジ、ついでブルーノートに傑作群を残しますが、一方でリヴァーサイドに2枚、西海岸のコンテンポラリーにも2枚と様々なレーベルに足跡を残しています。コンテンポラリー・レコードのうち1枚はロリンズがカウボーイの格好をしたジャケットで有名な「ウェイ・アウト・ウェスト」で、レイ・ブラウン(ベース)とシェリー・マン(ドラム)と組んだピアノレス・トリオの先駆け的作品として名盤特集にもよく取り上げられています。ただ、私はこの作品はそんなに好きではないのです。と言うより基本ピアノのないジャズはあまり好んで聴きませんね。何と言うか、どこか物足りないんですよね。たとえソロを取らずともバックのリズムセクションでもピアノがあるかないかで音がだいぶ変わります。ロリンズはこの後ブルーノートに「ヴィレッジ・ヴァンガードの夜」、リヴァーサイドに「フリーダム・スイート」と立て続けにピアノレス・トリオを発表し、評論家筋からは名盤と称されていますが、私は率直に言ってあまり良さがわかりません。

その点、今日ご紹介する「コンテンポラリー・リーダーズ」はピアノはもちろんギターも加わって大変賑やかです。タイトルは”現代のリーダー達”と言う意味と、レーベル名のコンテンポラリーとをかけており、ハンプトン・ホーズ(ピアノ)、バーニー・ケッセル(ギター)、リロイ・ヴィネガー(ベース)、シェリー・マン(ドラム)と同レーベル所属の売れっ子ジャズマン達が勢揃いしています。全員が普段はウェストコースト・サウンドのくくりで語られることが多く、東海岸ハードバップを代表する大物であるロリンズとの共演は貴重です。録音年月日は1958年10月です。

ボーナストラックの別テイクを除くと全8曲。ロリンズは作曲家としても名高いですが、この作品は自作曲はなく全て歌モノスタンダードです。ただ、いわゆる定番スタンダードは多くありません。"How High The Moon"”Alone Together””The Song Is You"の3曲ぐらいでしょうか?ただ、これらも演奏はひねりが加えられていて、"How High The Moon"はギターとベースのみの変則的ピアノレス・トリオ、”The Song Is You"もかなりアグレッシブな演奏です。バーニー・ケッセルのギターソロが印象的な”Alone Together"が比較的聴きやすいですかね。

他はインストゥルメンタル・ジャズではあまり取り上げられない曲ばかりです。オープニングトラックの”I've Told Ev'ry Little Star"はジェローム・カーン作曲ですが、後の1961年にリンダ・スコットという歌手がカバーして全米3位のヒットになっています。このバージョンは「マツコの知らない世界」のテーマ曲になっているのでそちらを聴けば「あー、あの曲ね!」となること請け合いです。ただ、ロリンズのプレイは事前知識がなければ同じ曲とは全然気づきませんが・・・ウォルター・ドナルドソンが書いた”You"と言う曲では1曲だけヴィクター・フェルドマンがヴァイブで加わり、ロリンズのテナーソロと見事な掛け合いを聴かせてくれます。CDにはLP発売当時(1960年)の解説が付いており、”偉大なるロリンズのソロを下手な英国人のヴァイブが邪魔をしている”と散々に酷評されていますが、個人的には楽しい曲調で好きですけどね。

他は”Rock-A-Bye Your Baby With A Dixie Melody""I've Found A New Baby""In The Chapel In The Moonlight"と言ったあまり知らない曲をロリンズが朗々とブロウして行きます。バーニー・ケッセルやハンプトン・ホーズは基本的に脇役に回っており、主役のロリンズより目立つことはありませんが、随所でキラリと光るソロを披露してくれます。ロリンズのプレイはバップの伝統を踏襲しながらも、時おりフレージングにトンがったところも見られ、新しいスタイルを模索していた時期だったことがうかがえます。結局、この作品を最後にロリンズは活動を停止し、3年近い充電期間に入ります。ニューヨークの橋の下でひたすら練習を繰り返したロリンズが次に発表するのが歴史的名盤「橋(The Bridge)」です。

 

 

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