ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

プレゼンティング・レッド・ミッチェル

2024-08-30 18:14:00 | ジャズ(ウェストコースト)

本日は西海岸で活躍したベーシスト、レッド・ミッチェルをご紹介します。ハンプトン・ホーズ、バーニー・ケッセル、ビル・パーキンスらの諸作品にサイドマンとして参加し、ウェストコーストジャズの屋台骨を支えると同時に自身でもリーダー作をいくつか残しています。本ブログでも先月にハロルド・ランドとの共同リーダー作「ヒア・イェ!」を取り上げました。今日ご紹介する「プレゼンティング・レッド・ミッチェル」はその4年前の1957年3月にコンテンポラリー・レコードに吹き込んだ作品です。

この作品、サイドマンに注目です。まずはジェイムズ・クレイ。テキサス出身の黒人テナーで、曲によってはフルートも吹きます。コアなジャズファンにはローレンス・マラブルの名盤「テナーマン」のジャケットにリーダーのマラブルを差し置いてデカデカと写っている人物として知られています。60年代に入るとリヴァーサイドにも2作リーダー作を残していますね。ピアノが女性ピアニストのロレイン・ゲラー。アルトのハーブ・ゲラーの奥さんです。今では珍しくないですが、当時はまだまだ女性の器楽プレイヤーが少なく、パット・モーランやパティ・ボウン、秋吉敏子らと並んで貴重な存在でしたが、翌1958年に30歳の若さで病死してしまいました。夫のハーブとはエマーシー盤「ザ・ゲラーズ」等で共演していますが、それ以外のジャズマンとの共演は少なく、貴重な録音です。ドラムのビリー・ヒギンズは60年代になるとリー・モーガン、ドナルド・バード、デクスター・ゴードンはじめブルーノートの大量の作品群に参加し、同レーベルのハウス・ドラマー的存在となりますが、生まれはロサンゼルスで50年代までは西海岸でプレイしていました。本作参加時は弱冠20歳でおそらく初のレコーディングではないかと思われます。

全7曲。うち2曲がミッチェルのオリジナル、1曲がスタンダードですが、残りの4曲は黒人バッパー達の名曲を取り上げており、ミッチェルが強いハードバップ志向を持っていたことが如実にわかります。チャーリー・パーカーの"Scrapple From The Apple"、マイルス・デイヴィスの”Out Of The Blue"、ソニー・ロリンズの"Paul's Pal"、クリフォード・ブラウンの”Sandu"がそれで、いずれのナンバーもジェイムズ・クレイのテキサステナーの流れを組むソウルフルなプレイ("Paul's Pal"だけはフルートですが)を大きくフィーチャーしています。ロレイン・ゲラーのスインギーなピアノソロ、ミッチェル自身のベースソロも良い味を出しています。

一方、ミッチェルの自作曲の"Rainy Night"と"I Thought Of You"はどちらもクレイがフルートを吹いており、ウェストコーストらしい小洒落た演奏ですが、少しパンチ不足な面も。本作中唯一の歌モノスタンダードである"Cheek To Cheek"も可もなく不可もなくと言ったところでしょうか。聴きどころは上述のバップナンバー、特に"Scrapple From The Apple"と”Sandu"ですね。

 

 

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スタン・リーヴィ/ジス・タイム・ザ・ドラムズ・オン・ミー

2024-07-22 18:52:01 | ジャズ(ウェストコースト)

本日はウェストコースト3大ドラマーの1人、スタン・リーヴィを取り上げたいと思います。スタンについては先月にも「グランド・スタン」をご紹介しましたが、本日UPする「ジス・タイム・ザ・ドラムズ・オン・ミー」は同じベツレヘム・レコードに1955年9月に吹き込まれた作品です。この作品、CDでは「今こそドラムを叩く時」と言う邦題がついていますが、ちょっと直訳過ぎますよね。勘の良い方ならおわかりと思いますが、ハロルド・アーレンの有名スタンダード"This Time The Dream's On Me"にひっかけているのは明らかです。

この作品、メンバーに注目です。トランペットのコンテ・カンドリ、トロンボーンのフランク・ロソリーノの2人はスタン・ケントン楽団時代からの盟友で、「グランド・スタン」にも参加しているので順当なチョイスですが、テナーがデクスター・ゴードンというのが面白い。ジャズファンならご存じとは思いますが、50年代のゴードンは重度の麻薬中毒のため、ほとんどを塀の中で過ごします。1955年に一時的に出所し、ベツレヘム盤「ダディ・プレイズ・ザ・ホーン」、ドゥートーン盤「デクスター・ブロウズ・ホット・アンド・クール」、そして本作の3枚を録音するのですが、結局クスリを断ち切れず今度は1960年まで活動を停止します。本作にゴードンが参加した経緯はよくわかりませんが、久々にシャバに出てきた名テナーにスタンが声をかけたのでしょうか?なお、リズムセクションにはルー・レヴィ(ピアノ)、リロイ・ヴィネガー(ベース)が名を連ねています。

アルバムはジョージ・ハンディ作のバップ曲"Diggin' For Diz"で幕を開けます。チャーリー・パーカーの伝説のダイヤル・セッションの収録曲ですが、実はこのセッションでドラムを叩いていたのはスタンなんですよね。約10年ぶりの再演というわけです。演奏の方はコンテ・カンドリ→ゴードン→フランク・ロソリーノが各々実力十分のソロを披露します。続く”Ruby My Dear"はセロニアス・モンク作の名バラードで、コンテ・カンドリのトランペットが全面的にフィーチャーされます。3曲目”Tune Up"はご存じマイルス・デイヴィスの名曲。前半3曲の選曲を見ると当時の西海岸のジャズメン達が東海岸のバップシーンを熱心に追っていたことがよくわかります。4曲目"La Chaloupée"はオッフェンバックのオペラ「ホフマン物語」の旋律をボブ・クーパーがアレンジしたものらしいです。この曲はいかにもウェストコーストジャズって感じの明るい曲です。

続いて後半(レコードだとB面)ですが、5曲目"Day In, Day Out"はビリー・ホリデイも「アラバマに星落ちて」で歌っていたスタンダード曲。ウェストコーストらしい軽妙なアレンジに乗ってメンバー全員が軽快にソロをリレーします。6曲目”Stanley The Steamer"はゴードンのオリジナル。曲名はリーダーのスタンに捧げられたものですが、ソロ自体は全編にわたってゴードンが担っており、彼のショウケースとでも言うべきナンバーです。ラストの"This Time The Drum's On Me"はオスカー・ペティフォードの"Max Is Making Wax"の焼き直しだそうです。各メンバーのソロの後、リーダーのスタンが”今こそドラムを叩く時!”とばかりに怒涛のドラムソロを聴かせます。

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フランク・ロソリーノ/アイ・プレイ・トロンボーン

2024-07-16 19:07:10 | ジャズ(ウェストコースト)

モダンジャズにおいてトロンボーン奏者と言えば、J・J・ジョンソンとカーティス・フラーが2トップであることに異論を唱える人はいないでしょう。では、3番手となると人によって意見が分かれるところです。黒人ならベニー・グリーン、ジュリアン・プリ―スター、白人ならカイ・ウィンディング、ボブ・ブルックマイヤー(彼の場合はヴァルヴ・トロンボーンですが)あたりの名前が浮かびますが、個人的には今日ご紹介するフランク・ロソリーノを推したいと思います。西海岸を中心に活動していたため、ウェストコースト軽視の日本のジャズファンの間では無視されがちですが、彼のトロンボーンは素晴らしいですよ。特に高音の伸びが素晴らしく♪パパパプァ~と高らかに鳴る音色は、ビッグバンドにいても一際目立ちます。50年代前半に在籍していたスタン・ケントン楽団では常時4~5人のトロンボーン奏者が演奏しているのですが、ロソリーノだけソロの機会も多く、別格の存在ということがわかります。

本日ご紹介する「アイ・プレイ・トロンボーン」はそんなロソリーノが1956年5月にベツレヘムに吹き込んだ1枚で、彼がいくつか残したリーダー作の中でも最良の作品です。ワンホーン・カルテットで、メンバーはソニー・クラーク(ピアノ)、ウィルフレッド・ミドルブルックス(ベース)、スタン・リーヴィ(ドラム)です。注目はソニー・クラークの参加でしょう。クラークは50年代前半から中盤にかけて西海岸でセッション・ピアニストとして活躍しており、本作はバディ・デフランコ「スウィート・アンド・ラヴリー」やスタン・リーヴィ「グランド・スタン」と並ぶ西海岸時代の代表的名演です。

フランク・ロソリーノのトロンボーンといえば高音フレーズを多用したパワフルなプレイが持ち味ですが、本作では6曲中4曲をミュートでプレイしており、どちらかと言うと落ち着いた雰囲気が漂います。特にスタンダード曲にその傾向が顕著で、1曲目"I May Be Wrong"と2曲目"The Things We Did Last Summer"ともに、ほのぼのしたムードの中、ロソリーノがミュートで歌心溢れるソロを吹き、クラークも軽快なソロを取るという展開。ラストの"Flamingo"もミュートによるしっとりしたバラード演奏です。4曲目ソニー・ロリンズの名曲"Doxy"も、ロソリーノのバップ志向がうかがえる選曲ですが、演奏自体はミュートでリラックスした感じです。クラークのピアノソロはバップスピリッツ溢れまくりですが・・・

一方、ロソリーノのオリジナルによる2曲はいかにも彼らしいオープン奏法による力強いソロを聴くことができます。特に3曲目"Frieda"は個人的に本作のベストトラックに押したい快演で、ソロ先発のクラークが1分半にわたる鮮やかなピアノソロを聴かせた後、ロソリーノがパワフルにトロンボーンを吹き鳴らします。5曲目"My Delux"も同様ですが、こちらはソニー・クラークが3分間にわたって長尺のソロを繰り広げ、存在感を見せつけます。骨太なウォーキングベースをかき鳴らすウィルフレッド・ミドルブルックスにも注目ですね。個人的な好みで行けば、ロソリーノの豪快なオープン奏法によるトロンボーンソロがもっと聞きたかった気もしますが(特に"Doxy"あたり)、全体的に曲・演奏とも良くまとまっていると思います。ソニー・クラークのピアノがたっぷり聴けるという点でも、ハードバップ好きにも是非聴いてほしい1枚です。

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チェット・ベイカー/ピクチャー・オヴ・ヒース

2024-06-27 21:12:47 | ジャズ(ウェストコースト)

前回のジャズ・メッセンジャーズ「ハード・ドライヴ」でチェット・ベイカーの「ピクチャー・オヴ・ヒース」について取り上げましたので、ついでに深掘りしてみたいと思います。この作品、当時のウェストコーストを代表する2大スター、チェット・ベイカーとアート・ペッパーの共演作として1956年にパシフィック・ジャズから鳴り物入りで発売されましたが、発売当時は「プレイボーイズ」のタイトルでお色気たっぷりの白人女性のジャケットでした。ヌードグラビアで有名な青年誌プレイボーイと当時イケメン白人トランぺッターとして女性に大人気だったチェットをかけたのでしょうが(一応Playboysなのでアート・ペッパーも含まれるのかな?個人的に彼をハンサムとは思いませんが・・・)、1961年に再発売された際にタイトルも改変、ジャケットも差し替えられたようです。どうやらプレイボーイ誌から訴えられそうになったらしいですね。

(左)ピクチャー・オヴ・ヒース (右)プレイボーイズ

 

内容的にはタイトル通りジミー・ヒースの曲を中心に構成されています。実はこの時期ヒースはヘロイン売買の罪でペンシルヴァニア州の刑務所で服役中でした(「ザ・クオータ」参照)。その彼がどうして西海岸のチェットのために曲を書き下ろしたのか経緯は不明ですが、何らかの親交があったのでしょうね。メンバーはチェット、ペッパーの2人にこの頃チェット作品の常連だったフィル・アーソ(テナー)が加わった3管編成です。リズムセクションはカール・パーキンス(ピアノ)、カーティス・カウンス(ベース)、ローレンス・マラブル(ドラム)と西海岸で活躍していた黒人トリオが努めています。解説本によるとフロントの白人3人とリズムセクションの黒人3人は仲が悪く、セッション中は人種間の対立があったようなことが書かれていますが、聴いている限りはそんなことは全く感じさせない非常にまとまった演奏です。

全7曲。うちヒースのオリジナルが5曲収録されていますが、中でも前半4曲が素晴らしいですね。オープニングはタイトルトラックの”Picture Of Heath"。ヒースがこの作品のために書き下ろした軽快なハードバップで、3管による魅惑的なテーマ演奏の後、メンバー全員が快調にソロをリレーして行きます。続く”For Miles And Miles”はゆったりしたテンポの優しいメロディ。この辺りヒースがウェストコーストサウンドを意識して書いたのか上品な曲です。3曲目”C.T.A."はマイルス・デイヴィスのブルーノート盤で有名なヒースの既存作。後にリー・モーガンも「キャンディ」で取り上げましたが、マイルス、チェット、モーガンと各トランぺッターの聴き比べもまた楽しいですね。”For Minors Only"は後にヒース自身も「ザ・サンパー」でセルフカバーしましたが、初出は本作です。文字通りマイナーキーの熱いハードバップです。後半はアート・ペッパーのオリジナルが2曲”Minor Yours"”Tynan Time”とヒース作品が1曲”Resonant Emotions"ですが、出来はまずまずと言ったところ。演奏面では主役のチェットとペッパーの素晴らしさは言うまでもないですが、フィル・アーソやカール・パーキンスらもクオリティの高い演奏を聴かせてくれます。

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スタン・リーヴィ/グランド・スタン

2024-06-08 21:46:20 | ジャズ(ウェストコースト)

本日は白人ドラマー、スタン・リーヴィをご紹介したいと思います。シェリー・マン、メル・ルイスと並ぶ西海岸3大ドラマーの1人で、50年代のウエストコーストジャズ全盛期を縁の下の力持ちとして支えました。ただ、もともとは東部フィラデルフィアの出身で、40年代にはディジー・ガレスピーやチャーリー・パーカーのバンドでもプレイしていたようです。50年代半ば以降は西海岸に定住し、ドラマーとして数々のセッションで活躍するとともに、ベツレヘムやモードにリーダー作をいくつか残しています。本作「グランド・スタン」はベツレヘムに残された彼の代表作の一つ。メンバーはコンテ・カンドリ(トランペット)、リッチー・カミューカ(テナー)、フランク・ロソリーノ(トロンボーン)、ソニー・クラーク(ピアノ)、リロイ・ヴィネガー(ベース)、そしてスタンからなるセクステットです。フロントの3人はいずれもウェストコースト随一の名手ですが、ジャズファン的には西海岸時代のソニー・クラークの参加も目を引くところです。

全8曲、スタンダード3曲、オリジナル5曲と言う構成です。ユニークなのは1曲目から3曲目まではそれぞれ1人のプレイヤーにスポットライトが当たることで、冒頭のスタンダード"Yesterdays"はフランク・ロソリーノのパワフルなトロンボーン、続く"Angel Cakes"はソニー・クラーク作曲ながらリッチー・カミューカのクールなテナープレイが全面的にフィーチャーされます。一方、クラークは次のスタンダード"Why Do I Love You?"で3管をバックに2分半に及ぶ圧巻のピアノソロを披露します。4曲目”Grand Stan”と5曲目”Hit That Thing”は3管+クラークがソロをリレーしていく展開で、どちらも典型的なウェストコーストサウンド。後者にはリーダーのスタンによる2分間のドラムソロも付いています。6曲目”Blues At Sunrise”はソニー・クラーク作のブルースでクラークは後に名盤「ソニー・クラーク・トリオ(タイム盤)」でも"Blues Blue"のタイトルで再演しています。ただ、本作ではクラークはソロを取らず、コンテ・カンドリがマイルス・デイヴィスばりのミュートプレイを聴かせてくれます。7曲目”A Gal In Calico”はマイルスの「ザ・ミュージングス・オヴ・マイルス」のバージョンが有名ですが、3管+クラークの洗練されたソロが聴ける本作の演奏も最高です。ラストの”Tiny’s Tune"はクラークがバピッシュなソロで先陣を切り、3管の小気味良いソロリレーで締めくくります。以上、基本はウェストコーストジャズなのですが、ソニー・クラークを中心にハードバップの香りもどことなく感じられるなかなかの良作です。

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