本日は幻のアルト奏者ジョン・ジェンキンスのリーダー作「ジャズ・アイズ」をご紹介します。録音は1957年9月、サヴォイ傘下のリージェントというマイナーレーベルの作品です。金髪美女の頭部だけがデーンとアップになったジャケットがシュールですが、これはサヴォイ特有のセンスです。(他にもアート・ペッパーの「サーフ・ライド」はじめ変テコなデザインのジャケットが多い)。メンバーは何気にすごいメンツですよ。おそらく一番マイナーなのがリーダーのジェンキンスで、後はドナルド・バード(トランペット)、カーティス・フラー(トロンボーン)、トミー・フラナガン(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・テイラー(ドラム)とビッグネーム揃い。とは言え、録音当時はまだ全員20代だったので“有望な若手”くらいの扱いだったのでしょうが・・・
さて、なぜジェンキンスが“幻のアルト”と呼ばれるかですが、それは活動期間の短さにあります。もともとジェンキンスはシカゴで演奏活動をしていたのですが、1957年にニューヨークに進出。4月にプレスティッジ・オール・スターズ名義の「クーリン」というアルバムに参加し、その後半年の間に同じアルトのジャッキー・マクリーンと組んだ「アルト・マッドネス」、クリフ・ジョーダン&ボビー・ティモンズとの「ジェンキンス、ジョーダン&ティモンズ」、そしてブルーノート盤「ジョン・ジェンキンス・ウィズ・ケニー・バレル」、そして本作「ジャズ・アイズ」と4枚のリーダー作を発表。サイドメンとしてもハンク・モブレー、クリフ・ジョーダンのブルーノート作品に顔を出しています。まさに一躍ハードバップ・シーンの寵児となったわけですが、なぜか翌年以降プッツリと姿を消すのです。別にクリフォード・ブラウンのように急死したわけでも、デクスター・ゴードンのように麻薬で服役したわけでもなく、ただ単に録音から遠ざかったと言うのが実情のようですが、残された作品群はどれも良質なハードバップ作品ばかりなので、突然のフェイドアウトが謎です。
本作は全5曲。うち“Darn That Dream”は後からCD化の際に付け加えられたようですが、なかなか秀逸なバラード演奏です。オリジナル盤は全4曲で、ハイライトは何と言っても1曲目の“Star Eyes”。チャーリー・パーカーはじめ多くのジャズメンに演奏された有名スタンダードですが、個人的には代表的名演として挙げさせてもらいます。冒頭ドナルド・バードのブリリアントなトランペットに導かれ、その後ジェンキンス、フラー、フラナガンらが順番に卓越したソロを取っていきます。2曲目以降はジェンキンスの自作曲。“Orpheus”はマイナー調のメロディがややベタ過ぎますが、続く熱血ハードバップ“Honeylike”、ミドルテンポのブルース“Rock-A-Way”と好演が続きます。ジェンキンスのアルトはパーカーの影響を強く受けたと思しきものですが、スタイル的には至って正統派です。他のメンバー、特に当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったドナルド・バードのトランペットも素晴らしく、ハードバップ好きなら持っておいて間違いはない1枚です。