ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

スタン・ゲッツ/ザ・ソフト・スウィング

2015-12-11 12:20:49 | ジャズ(クールジャズ)

先日はスタン・ゲッツの70年代の傑作「ザ・マスター」を取り上げましたが、彼のキャリアの絶頂が50年代にあったことは衆目の一致するところでしょう。特に50年代後半のヴァーヴの作品群はどれもハズレなしの名作ばかりです。この頃のゲッツはレギュラーバンドを持たず、LAに渡ってウェストコーストのミュージシャンと共演したり、オスカー・ピーターソン・トリオと組んだり、はたまたスウェーデンで現地ジャズメンと吹き込んだりと実にさまざまな組み合わせで演奏していますが、どの作品も一貫して高いクオリティを保っています。本作「ザ・ソフト・スウィング」も1957年の録音で、メンバーが地味なこともあってあまり取り上げられることはありませんが、聴いてみればなかなかどうして素晴らしい内容でした。ちなみにメンバーはピアノがアル&ズートとも共演したモーズ・アリソン、ベースがアート・ファーマーの双子の弟アディソン・ファーマー、ドラムがジェリー・シーガルです。



曲は全5曲。うち2曲がゲッツのオリジナルで、ややとぼけた味わいのあるスローチューン“Pocono Mac”と出だしからゲッツのアドリブが冴え渡る“Down Beat”で、特に後者が秀逸です。残り3曲は歌モノですが、有名スタンダードは“All The Things You Are”だけで残りはあまり聴いたことのない曲です。“To The Ends Of The Earth”はナット・キング・コールが前年にヒットさせた曲だそうですが、ややエキゾチックな冒頭部分の後、ゲッツ特有のメロディアスなアドリブが繰り広げられる名曲・名演です。ラストトラックの“Bye Bye Blues”は30年代のポップ曲だそうですが、ここでのゲッツのプレイが凄いの一言。出だしにテーマを吹くだけで後は3分半にわたってアドリブを繰り広げるのですが、全く破綻することも中だるみすることもなく、まるで譜面に書かれたようなメロディがとめどなく溢れ出てくる様は圧巻です。しかも、ゲッツの真に偉大な所はインプロビゼーションの極致とでも言うべき高度なプレイを繰り広げているにもかかわらず、耳触りはあくまで軽いこと。まさにタイトルどおりソフトにスイングする演奏です。なお、リズムセクションはあくまでゲッツの引き立て役に徹していますが、短いながらもキラリと光るアリソンのピアノソロも捨てがたいです。

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