ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ドン・バイアス&バド・パウエル/キャノンボールに捧ぐ

2015-12-23 22:52:17 | ジャズ(ヨーロッパ)
本ブログでは「ジャズ(ヨーロッパ)」というカテゴリーを設けて、50~60年代の欧州ジャズの名盤をたくさん取り上げてきました。当時のヨーロッパには多くの優れたジャズメンがいたわけですが、一方でアメリカから移住してきたいわゆる“亡命組”がシーンに与えた影響を忘れるわけにはいきません。特に黒人ジャズメン達は当時のアメリカでまだまだ根強く残っていた人種差別を嫌って、かなりの数がヨーロッパに移住しました。今日取り上げるアルバムも1961年にパリで録音されたものですが、それら亡命組が作り上げた作品です。まず、ジャケ写のリーダー、ドン・バイアスはスイング時代からビバップ黎明期に名を馳せたテナー奏者だそうですが、早くも1946年にパリに移住しています。キャリアが長い割にあまり録音を耳にする機会がないのも早々にアメリカのシーンから姿を消したためでしょう。コ・リーダーを務めるバド・パウエルについては今さら語る必要もないですよね。ビバップ期を代表する超大物ピアニストですが、彼も1959年にパリに活動の拠点を移しました。その他、ドラムのケニー・クラークも1956年からパリ住まい。ちょうどベルギー人のフランシー・ボランとクラーク=ボラン・ビッグバンドを結成したばかりです。後半の4曲のみに参加するイドリース・スリーマンもハードバップ初期にそれなりに活躍したトランペッターですが(プレスティッジ盤「ルーツ」「スリー・トランペッツ」参照)、1959年から北欧に居を定めました。5人中ベースのピエール・ミシュロだけがフランス人という構成です。



さて、そんなメンバーによるアルバムのタイトルがなぜ「キャノンボールに捧ぐ」なのかと言うと、ちょうどパリにいたキャノンボール・アダレイがこのセッションをプロデュースしたからだそうな。いっそのこと一緒に演奏に加わってくれたらもっと盛り上がったのにと思いますが、ボーナストラックの“Cherokee”でちょろっと参加するだけで後は監修に徹しています。肝心の演奏ですが、バイアスのテナーはコールマン・ホーキンスを彷彿とさせるややオールドファッションなスタイルです。パウエル、クラーク、スリーマンも年齢高めとあって、落ち着いた内容かと思いきや、演奏の方は意外とエネルギッシュです。“Just One Of Those Things”“Cherokee”等古くからのスタンダード曲も取り上げていますが、前年に発表されたばかりのデューク・ピアソン作“Jeannine”を取り上げるなど進取の気性も感じられます。定番スタンダード“All The Things You Are”もハードバピッシュな熱い演奏ですね。2曲あるオリジナルは唯一のフランス人ミシュロが書いたものですが、渋めのバラード“Jackie My Little Cat”、熱きバップチューン“Myth”とどちらもなかなかの佳曲です。ヨーロッパに移住したからと言って決して楽隠居してるわけではないんだぞ!とメンバー達が主張してるかのような拾いモノの好盤でした。
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