本日は久々に「ジャズの100枚」シリーズからエラ・フィッツジェラルドのライブ盤を取り上げます。エラと言えばサラ・ヴォーンと並ぶ女性ヴォーカルの第一人者で、ジャズの世界にとどまらず20世紀最高の女性歌手の一人と言って良いと思います。1940年代から80年代まで半世紀近いキャリアを誇る彼女ですが、全盛期はヴァーヴ・レコードに所属していた1950年代後半から60年代前半にかけてで、ルイ・アームストロングと共演した「エラ&ルイ」、カウント・ベイシー楽団と共演した「エラ&ベイシー」、そしてロジャース&ハートやガーシュウィン、コール・ポーター等の曲を取り上げたいわゆる「ソングブック」シリーズと多くの名盤を残しています。ただ、エラの真骨頂はやはりライブにあるのではないでしょうか?ストリングオーケストラをバックにしっとり歌うエラも十分魅力的ですが、ライヴでスモールコンボをバックにスキャット等もまじえながらノリノリで歌う姿は最高です。中でも有名なのは伝説の“Mack The Knife”“How High The Moon”を含む「エラ・イン・ベルリン」ですが、今日取り上げる「アット・ジ・オペラ・ハウス」もそれに次ぐ名盤と評価されているようです。録音は1957年9月29日、シカゴのオペラハウスで行われたものです。
全9曲、どれもよく知られたスタンダード曲ばかりですが、エラが抜群の歌唱力でバラードはしっとりと、アップテンポではパワフルなヴォーカルでぐいぐい引っ張っていきます。サポートを務めるのはオスカー・ピーターソン(ピアノ)、ハーブ・エリス(ギター)、レイ・ブラウン(ドラム)、ジョー・ジョーンズ(ドラム)のカルテットです。ジョーンズを除く3人は当時オスカー・ピーターソン・トリオ(60年代のエド・シグペンが入ったトリオとは違い、50年代はハーブ・エリスのギターを入れたドラムレス・トリオだった)として活躍しており、息もピッタリです。とは言え、名手ピーターソンもピアノ・ソロは封印し、ひたすらエラのボーカルの引き立て役に回っていますが。最後の“Stompin' At The Savoy”だけは、さらに8人もの管楽器奏者が加わりますが、このメンバーがまた豪華で、トランペットがロイ・エルドリッジ、トロンボーンがJ・J・ジョンソン、テナーがレスター・ヤング、イリノイ・ジャケー、コールマン・ホーキンス、フリップ・フィリップス、スタン・ゲッツ、アルトがソニー・スティットと凄まじいメンバーです。とは言え、彼らはただ単にバックで伴奏しているだけで、誰もソロを取りません。どうやらこの日はエラ単独のライブではなくヴァーヴの主催するオールスター・メンバーのコンサートの一部で、集まっていた大物ミュージシャン達がゲスト出演したようですね。この曲の聴き所は彼ら8人の演奏ではなく、エラの変幻自在のスキャット。冒頭はしっとりバラード風ですが、1分半頃からスキャットが始まりそこから4分近く♪ドゥビドゥビバッバとと言う声だけを武器に、まるでトランペットやサックスがソロを取るようなアドリブを次々と連発します。声を楽器の代わりにした圧巻のパフォーマンスで、これには豪華ホーン陣も真っ青ですね。