ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

メトネル/ピアノ協奏曲集

2020-02-11 20:38:15 | クラシック(協奏曲)
本日も引き続き20世紀のロマン派シリーズと言うことで、ロシアの作曲家ニコライ・メトネルをご紹介します。と言われてもよく知らないと言う方も多いと思います。1880年生まれの1951年没で、ラフマニノフとほぼ同世代。作曲家であると同時にピアノの名手であったこと、作風としてはモダニズムに染まらずロマン派を貫いたこと、さらにはロシア革命後に西側に亡命し終生祖国に帰らなかったことも含めてラフマニノフと共通点が多いです。実際に2人は親交も深かったらしく、お互いに曲を献呈し合ったりしています。ただ、「ビアノ協奏曲第2番」と言うクラシックの枠を超えた超有名曲を持っているラフマニノフに対し、メトネルの作品は名盤紹介に掲載されることも稀で、一部マニアが愛好しているに過ぎません。同時代に同じようなキャリアを辿りながら後世の評価は天地の差があるのが現実です。

ただ、3曲あるピアノ協奏曲はどれも後期ロマン派特有の美しい旋律とロシア音楽ならではの叙情性が散りばめられた逸品揃いで、ラフマニノフが好きな人なら気に入ること間違いなしです。本日はナクソスから発売されている2枚のCDをもとにメトネルの魅力を紹介したいと思います。1枚目は第1番と第3番がセットになっており、ピアノがコンスタンチン・シチェルバコフでウラジーミル・ジーヴァ指揮モスクワ交響楽団の演奏。2枚目が第2番とピアノ五重奏曲のセットで、ピアノが同じくシチェルバコフ、オケがイーゴリ・ゴロフスチン指揮モスクワ交響楽団です。

 

まずはピアノ協奏曲第1番から。ロシア在住時の1918年に書かれた作品で哀調を帯びたロマンチックな旋律とドラマチックなオーケストレーション、そして技巧を凝らしたピアノとが融合した名曲です。とは言え、ラフマニノフの2番が全編美メロのオンパレードと言って良いぐらい聴き所たっぷりなのに対し、メトネルの作品はそこまでの分かりやすさはない。なので何回か聴いたぐらいでは良さはわかりません。繰り返し聴くうちにだんだんハマってきます。全曲途切れることなく演奏される単一楽章形式ですが、実際は4つのパートに分かれており、とりわけ印象的な主題は第1部7分過ぎ、第2部10分過ぎ、そして第4部4分半過ぎに表れます。どれも胸を熱くするようなロマンチックな旋律ばかりです。フィナーレのピアノの盛り上げ方も感動的です。

第2番はその10年後の1928年に初演された作品。この間にメトネルは祖国ロシアを離れ、パリを拠点に活動していたようですが、作風的には第1番と似ており、ロシアの大地の匂いが濃厚に感じられる作品です。曲は伝統的な3楽章形式で、中でも第1楽章が最も素晴らしく、悲劇的な色彩を帯びた冒頭部から、中間部での情熱的な盛り上がりと聴き所たっぷりです。美しい緩徐楽章の第2楽章ロマンツァ、華やかなロンド形式の第3楽章も捨て難い魅力があります。

第3番は作曲年もぐっと下って1943年、イギリス在住時に書かれた作品です。依然としてロマン派の作風を維持していますが、第1番や第2番のような分かりやすい旋律は少ないです。特に第1楽章は16分と長尺なわりに明確な盛り上がりポイントもなくやや取っつきにくいですかね。本作のハイライトは第3楽章。情熱的な展開の冒頭部を経て、6分過ぎに満を持してロマンチックな主題が現れます。その後再び冒頭の主題に戻った後、フィナーレへと突き進みます。前2曲のような傑作とまでは言えませんが、それでも良作とは言えるでしょう。

メトネルが生涯で残したオーケストラ作品はこの3曲のみ。後はほとんどがピアノ曲ばかりで、交響曲や交響詩にも傑作を残したラフマニノフと違い、あくまでピアニストの視点から曲作りをしていたことがわかります。ただ、この3曲のピアノ協奏曲は決してピアノの技巧一辺倒と言うこともなく、オーケストラも充実した優れたコンチェルトですのでピアノ協奏曲好きなら一聴の価値はあると思います。
コメント