先日はスタン・ゲッツの70年代の傑作「ザ・マスター」を取り上げましたが、彼のキャリアの絶頂が50年代にあったことは衆目の一致するところでしょう。特に50年代後半のヴァーヴの作品群はどれもハズレなしの名作ばかりです。この頃のゲッツはレギュラーバンドを持たず、LAに渡ってウェストコーストのミュージシャンと共演したり、オスカー・ピーターソン・トリオと組んだり、はたまたスウェーデンで現地ジャズメンと吹き込んだりと実にさまざまな組み合わせで演奏していますが、どの作品も一貫して高いクオリティを保っています。本作「ザ・ソフト・スウィング」も1957年の録音で、メンバーが地味なこともあってあまり取り上げられることはありませんが、聴いてみればなかなかどうして素晴らしい内容でした。ちなみにメンバーはピアノがアル&ズートとも共演したモーズ・アリソン、ベースがアート・ファーマーの双子の弟アディソン・ファーマー、ドラムがジェリー・シーガルです。
曲は全5曲。うち2曲がゲッツのオリジナルで、ややとぼけた味わいのあるスローチューン“Pocono Mac”と出だしからゲッツのアドリブが冴え渡る“Down Beat”で、特に後者が秀逸です。残り3曲は歌モノですが、有名スタンダードは“All The Things You Are”だけで残りはあまり聴いたことのない曲です。“To The Ends Of The Earth”はナット・キング・コールが前年にヒットさせた曲だそうですが、ややエキゾチックな冒頭部分の後、ゲッツ特有のメロディアスなアドリブが繰り広げられる名曲・名演です。ラストトラックの“Bye Bye Blues”は30年代のポップ曲だそうですが、ここでのゲッツのプレイが凄いの一言。出だしにテーマを吹くだけで後は3分半にわたってアドリブを繰り広げるのですが、全く破綻することも中だるみすることもなく、まるで譜面に書かれたようなメロディがとめどなく溢れ出てくる様は圧巻です。しかも、ゲッツの真に偉大な所はインプロビゼーションの極致とでも言うべき高度なプレイを繰り広げているにもかかわらず、耳触りはあくまで軽いこと。まさにタイトルどおりソフトにスイングする演奏です。なお、リズムセクションはあくまでゲッツの引き立て役に徹していますが、短いながらもキラリと光るアリソンのピアノソロも捨てがたいです。
モダンジャズ全盛期には数多くのジャムセッションが吹き込まれました。ハードバップ・ファン御用達なのはプレスティッジの一連のジャムセッションでコルトレーン、ドナルド・バード、ケニー・バレルら当時の若き黒人ハードバッパー達の熱い演奏が楽しめます。一方、ヴァーヴ・レコードは社長のノーマン・グランツの好みを反映してか、それより一世代上のジャズメン達の作品が多いですね。本作「ジャズ・ジャイアンツ’58」も中間派またはクール世代の大物達が一堂に会した豪華セッションで、即席の顔合わせながらも落ち着いた大人のジャズを聴かせてくれます。このシリーズではもう1枚「ジャズ・ジャイアンツ’56」という作品もあるのですが、そちらはレスター・ヤング、ロイ・エルドリッジ、テディ・ウィルソンと言ったさらに上のスイング世代の大御所ばかりで、さすがにややオールドファッション過ぎます。私は本盤の方が好きですね。
メンバーは総勢7人ですが、すごいメンツですよ。トランペットがハリー・“スイーツ”・エディソン、テナーがスタン・ゲッツ、バリトンがジェリー・マリガン、ピアノがオスカー・ピーターソン、ギターがハーブ・エリス、ベースがレイ・ブラウン、ドラムがルイ・ベルソンと誰がリーダーでもおかしくない大物ばかりです。曲は全5曲。1曲目の“Chocolate Sundae”だけがオリジナルのブルース曲(オスカーのピアノソロが素晴らしい!)で、後は歌モノスタンダード中心。軽快な“When Your Lover Has Gone”“Candy”と続き、4曲目はバラード・メドレーでマリガンの“Lush Life”、スイーツの“Lullaby Of The Leaves”、ブラウンの“Makin' Whoopee”、ゲッツの“It Never Entered My Mind”とソロが受け渡されていきます。ラストはディジー・ガレスピーの“Woody'n' You”を全員がノリノリで演奏して締めくくります。個人的にはスイーツのミュート一辺倒のトランペット・ソロはやや苦手ですが、ゲッツのまろやかなテナーはいつも通りの見事さですし、何よりオスカー・ピーターソンのピアノが全編に渡って素晴らしいですね。リーダー作はトリオ演奏ばかりですが、管楽器入りのコンボ編成で見せる絶妙なバッキングとキラリと光るソロは演奏全体の質を高めています。