先日のOHPの続き、「トラペンアップ」のこと。
本題の前に【「投影」と「投映」について】
前回の記事では、プロジェクターの画像をスクリーンに映し出すことを「投“影”」と表記した。「投影」が最初に変換されたし、それしか思い浮かばなかった。その後、OHPメーカーのホームページに「投“映”」表記があり、そちらのほうが適切かもと思って、調べてみた。
毎日新聞 校閲センターのサイト「毎日ことば」で、2020年6月19日に「映す場合でも「投影」が多数派(https://mainichi-kotoba.jp/enq-249)」がアップされていた。
まとめると、「投映」は1960年代以降に出てきた言葉であり、スクリーンに映すのが「投影」でも間違いでない。現在は「投影」が多数派だが、使い分ける新聞社も出てきている。といったところ。今回の記事も引用部分以外は「投影」とします。
本題。
前回、OHPに投影する原稿であるシート・フイルムのことを、「transparent(=透明な)」から「トラペンシート」「トラペン」「トラペ」などと呼ぶこともあったとした。「TP」と呼ぶ場合もあったらしい。僕はそうした呼び名に触れたことはこれまでなかった。
今回の「トラペンアップ」は、シートのことではなく、機器の名称で商品名。
OHPを知っていても、トラペンアップを知らない人はとても多いはず。ネット上では昔の思い出として、主に学校でトラペンアップを使ったような話はいくらかある程度。
僕がトラペンアップに接したのは1度だけ。1985年度、小学校3年生の時。
学級担任は、当時40歳前後の女性。教材研究に熱心だったようだ。
教室のOHPのそばに、ある時から、黒くて、平べったいボディの機械が置かれた。天面にちょうつがいがあって開く、後のフラッドヘッドスキャナ(もしくは複合機など小型コピー機)のような姿。
そばには細長い紙箱も。用途は見当がつかなかった。
なかなか使わなかったが、ある理科の時間。OHPとともに、その機械を使う時が来た。その時初めて、先生が「トラペンアップ」と口にしたと思う。
その授業では、児童各自にノートをまとめさせ、机間を回って何人かのノートを選び出した。
細長い紙箱の中には、筒に巻かれた透明なビニールっぽいもの。箱には刃も付いていた。つまり食品包装用ラップフィルムみたいなので、それを少し大きくした感じ。
その透明なのをラップのごとく切り取って、(以下の手順はうろ覚え)ノートとともにトラペンアップの蓋を開いてはさむと、ピカッと光って、透明なものにノートの内容が転写された!
それをOHPのステージに載せると、ノートと同じものがそのまま投影された。
トラペンアップとは「紙の原稿から、OHPシートを作成する装置」なのだった。
先生は僕のノートも取り上げてくださり、紹介してくれた。
そして、投影が終わったシートをくれた! 紹介してくれたこともうれしかったが、もらえたのもうれしかった。
そのこともあって「トラペンアップ」の意味不明な独特な響きが、記憶に刻まれた。
当時も意外に感じたのが、ラップ式シートの材質と印刷の色。【最後に写真があります】
一般的なカット済みOHPシートは、ぺらぺらした硬いもので、折りづらいが折ると折り目が付いてしまう。
ロールのシートは、ふにゃっとした柔らかい材質だった。食品包装ラップよりは厚く、引っ張っても伸びたり裂けたりはしにくい。
インクのようなものがあったかは忘れたが、転写された色は、銀色に見えた。投影すると黒く映ったので、光を通さないインク(?)だったことになる。
その先生には次年度まで2年間お世話になったのだが、その後、トラペンアップを使った記憶はない。機械もいつの間にか教室からなくなった。
学校の備品を長期間教室に独占するとは考えにくいから、もしかしたら先生の私物(ご夫婦で小学校教員だったから共有してたかも)だったのか。
以上の思い出を基に、ネットで調べた。
トラペンアップは上記の通り、特定メーカーの商品名。「トラペン(=OHPシート)をアップ」する機械という意味なのだろう。
製造販売元は「理想科学工業」。
前回、OHPのプロジェクターのメーカーの1つに挙げた。公式サイトによれば、OHPもトラペンアップも1972年5月に発売開始。トラペンアップは「OHP用フィルム製版機」としている。
企業名のなじみは薄いかもしれないが、世代によっては知らない人はいないであろう家庭用印刷機(主に年賀状用、1977~2008年頃)「プリントゴッコ」、今は「リソグラフ」などオフィス用印刷機(コピー機ではない)のメーカー。
※印刷技術については詳しくないし、実はプリントゴッコを使ったこともないので、ネットの受け売りです。
リソグラフもトラペンアップもプリントゴッコも、「孔版印刷(シルクスクリーン)」の原理を使っている。
ネットには、トラペンアップでプリントゴッコの代用ができるとか、一部部品や消耗品を共用できるとかいう話もあった。
孔版印刷は紙以外にも印刷できるそうだから、普及しつつあるOHPに目を付けて、トラペンアップを製品化したのだろうか。【7日補足・2021年時点のリソグラフやリコーの同種オフィス用印刷機では、紙類のみ印刷可能とされている。】
1972年の初代トラペンアップの型番は「TU-230」。その後「TU-250」「TU-265」も存在したようだ。
ネットに画像はとても少ないが、オレンジ色がかった赤い蓋の写真はあった(プリントゴッコの古い機種も同じ色だったようだ)。担任の先生が使っていたのとは違いそう。
「TPロール」「トラペンロール」という言葉も見かけた。ネットに1つだけ箱の写真があり、RISOロゴと「トラペンアップ専用OHP投映用フィルム」とあった。箱のデザインの記憶はないが、あのラップ式のフイルムだ。
孔版印刷は何にでも印刷できるというからには、通常の硬いカット済みシートにも印刷できそうなものだが、何か制約があったのか、それともロールのほうが安価だったのか。
ネットで見つかる役所や学校の資料では、競合商品がないためか、商品名の「トラペンアップ」をそのまま記載することも多かったようだ。
秋田県大館市立有浦小学校は、1971年末に火災で全焼。その見舞いの金品が寄せられたことが、1977年2月1日の「広報おおだてNo.235」で紹介されていた。その1つに、市内の教材会社から「トラペンアップ一式(135,000円相当)」を贈られていた。
一方、1978年11月15日愛知県「岡崎市AVL(岡崎市視聴覚ライブラリー)」発行「月報視聴覚教育NO47」には、「TP作成機、市内1/3の学校に設置」として、市立小中学校に「TP作成機(ゼノファックス180型)」が3年計画で導入されることを紹介。
「この機器は、従来から普及しているトラペンアップの最高級機にあたるもの」「単色カラーシートを使えば」「コピーなどもでき」とある。
印刷機と兼用するものを導入したのか。
プリントゴッコも版を分けてカラー印刷できたとかいうから、OHPもカラー化できたということか? でもインクが光を通さないと、OHPではカラーにならない。よく分からない。
さらに1980年12月1日の同NO68では、ゼノファックスを「教室に持ち込み」授業で使った事例が報告されている。ゼノファックスとは、今のリソグラフの前身かと思ったが、小ぶりな機械だったのだろうか。
前回のコメント欄で話が出たが、OHPの欠点の1つは、シートの修正が困難なこと。【7日補足・あとは細かいグラフなどを投影したい時、シートに直接書くと、ツルツル滑って描きづらかったり、インクが乾かなかったり、難儀することも欠点か。】
書き上げた紙を転写すれば、特にシートに直接手書きしてうっかり字を間違えるような不安はなくなる。でも、それは(前回の通り平成初期頃以降は)コピー機でもできる。
両者のランニングコストは分からないが、OHPにしか使えないトラペンアップは導入費用や置き場所では不利だろう。
コピー機よりトラペンアップのほうが優れているのは、大きくない機械なので、電源がある場所ならどこでも持ち運べ、紙に書いたその場で転写して、その場でOHPに載せて投影することが可能。
だから、経験したように教室で書かせたものをすぐに見せられ、授業の“ライブ感”が出るので、学校現場で好まれたのではないだろうか。
そんなことも、今では、書画カメラや、最初からパソコンで作成して大画面に出力できてしまうが。個人的には、その場でなく、先生がじっくり選んでくれて、紙に印刷して配ってじっくり見て参考にするというようなことも悪くなく、そもそもライブ感がそんなに必要なのかとも思う。
宮崎県高崎町立(現・都城市立)高崎小学校では、1992(平成4)年度の卒業記念品としてトラペンアップが贈られており、平成初期にはまだ販売されている。
全国的にいつ頃まで使われていたかは分からないが、OHPといっしょか少し先に、その役目を終えたのだろう。
ネットで、とても珍しいトラペンアップの学校教育での使用法を見つけた。
公益財団法人 東レ科学振興会「東レ理科教育賞(https://www.toray-sf.or.jp/awards/education/winners.html)」の1988年度受賞作に「TPシートを用いたプレパラートの作製と活用」があった。当時の埼玉県浦和市立教育研究所の指導主事の研究。
ガラスを使わず安価で扱いやすい、中学校理科で使うプレパラートをトラペンアップで作るというもの。
最後に、36年前に作ってもらったトラペンロール。今も保存している。
広げるのは何年ぶりだろう。
経年で黄ばんでしまった。折って保管していたので、その折り目が付いたほか、細かい傷もある。
上のヘタクソな黒い文字は、もらった後に油性ペンで書いたもの。もらったうれしさと、「トラペンアップ」の語を忘れるのが惜しくて書いた。どうせなら日付も書けばいいのに…
油性ペン文字の下が、トラペンアップの印刷だが、上の写真ではほぼ見えない。上記の通り銀色っぽい印字で、36年前より薄れてしまったような気がしなくもないが、さほどでないかもしれない。
手で触った程度で剥離するような状態でなく、しっかりくっついている。指先で触ると若干凹凸があって、裏面に鏡像で印刷されているのかな?
原稿となったノートは、ジャポニカ学習帳のたぐいでなく、教科書の内容に連動した「理科学習ノート」みたいなワークブック的なもの(副教材として買わされていた)。その枠線だけ印刷されたフリーページに書いたようだ。
うっすらと縦長長方形の枠が見えると思うが、それがほぼノート1ページ(B5判)のサイズ。
「日なたと日かげ」みたいな単元で、校庭と中庭で温度を計測したことをまとめている。中身は大したことないし、我ながら字がとても汚い。
と思いながら見ていたら、思い出した。先生が選んでくれた時「字の濃さがいいね」みたいなことをおっしゃった。前後で、ノートの字がくっきりと転写・投影されないことを悩んでいた(トラペンアップを調整していた?)ような気もした。選出理由は中身じゃなく筆圧か…
シート(トラペンロール)を細かく見てみる。
厚さ、柔らかさ
刃による切れ目
シートの下に白い紙を置いて、上から直射日光を当てた状況
同上拡大
OHPステージを想定して、下からLEDライトを照射
↑36年前とあまり変わらず、銀色に見える。
OHP投影を想定して、正面からライトを当て、少し離れた白い紙に投影すると、
油性ペンの文字さえ薄く映ってしまった。それを踏まえて比較すれば、トラペンアップの文字でも充分判読できる濃度だと思う。
だけど、本当にOHP投影を目的として紙原稿を作るのなら、普通よりは少し太めの筆記具で書いたほうが見やすかったのかもしれない。
以上、昭和末期のOHPとトラペンアップの思い出でした。
シートといっしょに、教科書に関する資料も出てきたので、いずれまた。
本題の前に【「投影」と「投映」について】
前回の記事では、プロジェクターの画像をスクリーンに映し出すことを「投“影”」と表記した。「投影」が最初に変換されたし、それしか思い浮かばなかった。その後、OHPメーカーのホームページに「投“映”」表記があり、そちらのほうが適切かもと思って、調べてみた。
毎日新聞 校閲センターのサイト「毎日ことば」で、2020年6月19日に「映す場合でも「投影」が多数派(https://mainichi-kotoba.jp/enq-249)」がアップされていた。
まとめると、「投映」は1960年代以降に出てきた言葉であり、スクリーンに映すのが「投影」でも間違いでない。現在は「投影」が多数派だが、使い分ける新聞社も出てきている。といったところ。今回の記事も引用部分以外は「投影」とします。
本題。
前回、OHPに投影する原稿であるシート・フイルムのことを、「transparent(=透明な)」から「トラペンシート」「トラペン」「トラペ」などと呼ぶこともあったとした。「TP」と呼ぶ場合もあったらしい。僕はそうした呼び名に触れたことはこれまでなかった。
今回の「トラペンアップ」は、シートのことではなく、機器の名称で商品名。
OHPを知っていても、トラペンアップを知らない人はとても多いはず。ネット上では昔の思い出として、主に学校でトラペンアップを使ったような話はいくらかある程度。
僕がトラペンアップに接したのは1度だけ。1985年度、小学校3年生の時。
学級担任は、当時40歳前後の女性。教材研究に熱心だったようだ。
教室のOHPのそばに、ある時から、黒くて、平べったいボディの機械が置かれた。天面にちょうつがいがあって開く、後のフラッドヘッドスキャナ(もしくは複合機など小型コピー機)のような姿。
そばには細長い紙箱も。用途は見当がつかなかった。
なかなか使わなかったが、ある理科の時間。OHPとともに、その機械を使う時が来た。その時初めて、先生が「トラペンアップ」と口にしたと思う。
その授業では、児童各自にノートをまとめさせ、机間を回って何人かのノートを選び出した。
細長い紙箱の中には、筒に巻かれた透明なビニールっぽいもの。箱には刃も付いていた。つまり食品包装用ラップフィルムみたいなので、それを少し大きくした感じ。
その透明なのをラップのごとく切り取って、(以下の手順はうろ覚え)ノートとともにトラペンアップの蓋を開いてはさむと、ピカッと光って、透明なものにノートの内容が転写された!
それをOHPのステージに載せると、ノートと同じものがそのまま投影された。
トラペンアップとは「紙の原稿から、OHPシートを作成する装置」なのだった。
先生は僕のノートも取り上げてくださり、紹介してくれた。
そして、投影が終わったシートをくれた! 紹介してくれたこともうれしかったが、もらえたのもうれしかった。
そのこともあって「トラペンアップ」の意味不明な独特な響きが、記憶に刻まれた。
当時も意外に感じたのが、ラップ式シートの材質と印刷の色。【最後に写真があります】
一般的なカット済みOHPシートは、ぺらぺらした硬いもので、折りづらいが折ると折り目が付いてしまう。
ロールのシートは、ふにゃっとした柔らかい材質だった。食品包装ラップよりは厚く、引っ張っても伸びたり裂けたりはしにくい。
インクのようなものがあったかは忘れたが、転写された色は、銀色に見えた。投影すると黒く映ったので、光を通さないインク(?)だったことになる。
その先生には次年度まで2年間お世話になったのだが、その後、トラペンアップを使った記憶はない。機械もいつの間にか教室からなくなった。
学校の備品を長期間教室に独占するとは考えにくいから、もしかしたら先生の私物(ご夫婦で小学校教員だったから共有してたかも)だったのか。
以上の思い出を基に、ネットで調べた。
トラペンアップは上記の通り、特定メーカーの商品名。「トラペン(=OHPシート)をアップ」する機械という意味なのだろう。
製造販売元は「理想科学工業」。
前回、OHPのプロジェクターのメーカーの1つに挙げた。公式サイトによれば、OHPもトラペンアップも1972年5月に発売開始。トラペンアップは「OHP用フィルム製版機」としている。
企業名のなじみは薄いかもしれないが、世代によっては知らない人はいないであろう家庭用印刷機(主に年賀状用、1977~2008年頃)「プリントゴッコ」、今は「リソグラフ」などオフィス用印刷機(コピー機ではない)のメーカー。
※印刷技術については詳しくないし、実はプリントゴッコを使ったこともないので、ネットの受け売りです。
リソグラフもトラペンアップもプリントゴッコも、「孔版印刷(シルクスクリーン)」の原理を使っている。
ネットには、トラペンアップでプリントゴッコの代用ができるとか、一部部品や消耗品を共用できるとかいう話もあった。
孔版印刷は紙以外にも印刷できるそうだから、普及しつつあるOHPに目を付けて、トラペンアップを製品化したのだろうか。【7日補足・2021年時点のリソグラフやリコーの同種オフィス用印刷機では、紙類のみ印刷可能とされている。】
1972年の初代トラペンアップの型番は「TU-230」。その後「TU-250」「TU-265」も存在したようだ。
ネットに画像はとても少ないが、オレンジ色がかった赤い蓋の写真はあった(プリントゴッコの古い機種も同じ色だったようだ)。担任の先生が使っていたのとは違いそう。
「TPロール」「トラペンロール」という言葉も見かけた。ネットに1つだけ箱の写真があり、RISOロゴと「トラペンアップ専用OHP投映用フィルム」とあった。箱のデザインの記憶はないが、あのラップ式のフイルムだ。
孔版印刷は何にでも印刷できるというからには、通常の硬いカット済みシートにも印刷できそうなものだが、何か制約があったのか、それともロールのほうが安価だったのか。
ネットで見つかる役所や学校の資料では、競合商品がないためか、商品名の「トラペンアップ」をそのまま記載することも多かったようだ。
秋田県大館市立有浦小学校は、1971年末に火災で全焼。その見舞いの金品が寄せられたことが、1977年2月1日の「広報おおだてNo.235」で紹介されていた。その1つに、市内の教材会社から「トラペンアップ一式(135,000円相当)」を贈られていた。
一方、1978年11月15日愛知県「岡崎市AVL(岡崎市視聴覚ライブラリー)」発行「月報視聴覚教育NO47」には、「TP作成機、市内1/3の学校に設置」として、市立小中学校に「TP作成機(ゼノファックス180型)」が3年計画で導入されることを紹介。
「この機器は、従来から普及しているトラペンアップの最高級機にあたるもの」「単色カラーシートを使えば」「コピーなどもでき」とある。
印刷機と兼用するものを導入したのか。
プリントゴッコも版を分けてカラー印刷できたとかいうから、OHPもカラー化できたということか? でもインクが光を通さないと、OHPではカラーにならない。よく分からない。
さらに1980年12月1日の同NO68では、ゼノファックスを「教室に持ち込み」授業で使った事例が報告されている。ゼノファックスとは、今のリソグラフの前身かと思ったが、小ぶりな機械だったのだろうか。
前回のコメント欄で話が出たが、OHPの欠点の1つは、シートの修正が困難なこと。【7日補足・あとは細かいグラフなどを投影したい時、シートに直接書くと、ツルツル滑って描きづらかったり、インクが乾かなかったり、難儀することも欠点か。】
書き上げた紙を転写すれば、特にシートに直接手書きしてうっかり字を間違えるような不安はなくなる。でも、それは(前回の通り平成初期頃以降は)コピー機でもできる。
両者のランニングコストは分からないが、OHPにしか使えないトラペンアップは導入費用や置き場所では不利だろう。
コピー機よりトラペンアップのほうが優れているのは、大きくない機械なので、電源がある場所ならどこでも持ち運べ、紙に書いたその場で転写して、その場でOHPに載せて投影することが可能。
だから、経験したように教室で書かせたものをすぐに見せられ、授業の“ライブ感”が出るので、学校現場で好まれたのではないだろうか。
そんなことも、今では、書画カメラや、最初からパソコンで作成して大画面に出力できてしまうが。個人的には、その場でなく、先生がじっくり選んでくれて、紙に印刷して配ってじっくり見て参考にするというようなことも悪くなく、そもそもライブ感がそんなに必要なのかとも思う。
宮崎県高崎町立(現・都城市立)高崎小学校では、1992(平成4)年度の卒業記念品としてトラペンアップが贈られており、平成初期にはまだ販売されている。
全国的にいつ頃まで使われていたかは分からないが、OHPといっしょか少し先に、その役目を終えたのだろう。
ネットで、とても珍しいトラペンアップの学校教育での使用法を見つけた。
公益財団法人 東レ科学振興会「東レ理科教育賞(https://www.toray-sf.or.jp/awards/education/winners.html)」の1988年度受賞作に「TPシートを用いたプレパラートの作製と活用」があった。当時の埼玉県浦和市立教育研究所の指導主事の研究。
ガラスを使わず安価で扱いやすい、中学校理科で使うプレパラートをトラペンアップで作るというもの。
最後に、36年前に作ってもらったトラペンロール。今も保存している。
広げるのは何年ぶりだろう。
経年で黄ばんでしまった。折って保管していたので、その折り目が付いたほか、細かい傷もある。
上のヘタクソな黒い文字は、もらった後に油性ペンで書いたもの。もらったうれしさと、「トラペンアップ」の語を忘れるのが惜しくて書いた。どうせなら日付も書けばいいのに…
油性ペン文字の下が、トラペンアップの印刷だが、上の写真ではほぼ見えない。上記の通り銀色っぽい印字で、36年前より薄れてしまったような気がしなくもないが、さほどでないかもしれない。
手で触った程度で剥離するような状態でなく、しっかりくっついている。指先で触ると若干凹凸があって、裏面に鏡像で印刷されているのかな?
原稿となったノートは、ジャポニカ学習帳のたぐいでなく、教科書の内容に連動した「理科学習ノート」みたいなワークブック的なもの(副教材として買わされていた)。その枠線だけ印刷されたフリーページに書いたようだ。
うっすらと縦長長方形の枠が見えると思うが、それがほぼノート1ページ(B5判)のサイズ。
「日なたと日かげ」みたいな単元で、校庭と中庭で温度を計測したことをまとめている。中身は大したことないし、我ながら字がとても汚い。
と思いながら見ていたら、思い出した。先生が選んでくれた時「字の濃さがいいね」みたいなことをおっしゃった。前後で、ノートの字がくっきりと転写・投影されないことを悩んでいた(トラペンアップを調整していた?)ような気もした。選出理由は中身じゃなく筆圧か…
シート(トラペンロール)を細かく見てみる。
厚さ、柔らかさ
刃による切れ目
シートの下に白い紙を置いて、上から直射日光を当てた状況
同上拡大
OHPステージを想定して、下からLEDライトを照射
↑36年前とあまり変わらず、銀色に見える。
OHP投影を想定して、正面からライトを当て、少し離れた白い紙に投影すると、
油性ペンの文字さえ薄く映ってしまった。それを踏まえて比較すれば、トラペンアップの文字でも充分判読できる濃度だと思う。
だけど、本当にOHP投影を目的として紙原稿を作るのなら、普通よりは少し太めの筆記具で書いたほうが見やすかったのかもしれない。
以上、昭和末期のOHPとトラペンアップの思い出でした。
シートといっしょに、教科書に関する資料も出てきたので、いずれまた。
画期的な装置だったようですが、追随する企業(例えばリコーなら技術的に可能だったかも)が現れず、そこまで普及しなかったところを見ると、限られた「ニッチ商品」だったのでしょうか。
たまに、プリントを丸焼きしたやつが出てきたんですが、あれはこれを職員室で作ったのでしょうか。