映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「死はすぐそばに」アンソニー・ホロヴィッツ

2024年12月04日 | 本(ミステリ)

ホーソーンがかかわった過去の事件 

 

 

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テムズ川沿いの高級住宅地リヴァービュー・クロースで、
金融業界のやり手がクロスボウの矢を喉に突き立てられて殺された。
昔の英国の村を思わせる敷地で住人たちが穏やかに暮らす
――この理想的な環境を乱す新参者の被害者に、
住人全員が我慢を重ねてきていた。
誰もが動機を持っているといえる難事件を前にして、
警察は探偵ホーソーンを招聘するが……。
あらゆる期待を超えつづける〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズ最新刊!

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アンソニー・ホロヴィッツの〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズ最新刊!
著者の本は心地よくポンポンと続きが出ますね。


もうすっかりおなじみのホーソーンとホロヴィッツのコンビです。
もと刑事のホーソーンが警察の捜査協力という形で、事件解決に乗り出しますが、
著者と同名のアンソニー・ホロヴィッツがその助手役となり捜査に同行。
そしてその記録を小説として発表するのです。

ホロヴィッツは、こういう場合の探偵役と助手役は
気心の知れたコンビであるべきと思うのですが、
いまだにホーソーンはよそよそしく、親しく自分のことを語ろうとしない。
それでついイラついてしまうホロヴィッツですが、
それでもこれまでのシリーズ4作の中で、
徐々にホーソーンの人となりが解き明かされては来ています。


さて、本作。
これまでは事件と同時進行で物語が語られてきたのですが、
本作はホーソーンの過去の事件。
ホロヴィッツは当時の資料やらメモをどっさり渡されただけで、
結局犯人は誰だったのか教えてもらえないまま、原稿を書き始めます。

そして、その当時(すでにホーソーンは警察を辞めていた)、
ホーソーンがダドリーという男とコンビを組んでいたと知って、
ホロヴィッツはショックを受けます。
そんな話は今まで聞いたこともないし、
ホーソーンみたいな男とコンビを組めるのは自分くらいしかいない・・・
という思いがあったのでしょうね。

 

ともあれ、その過去の事件というのは、
テムズ川沿いの高級住宅地リヴァービュー・クロースで、
金融業界のやり手がクロスボウの矢を喉に突き立てられて殺された、というもの。
容疑者は同じ敷地に住む住人たち。
彼らにはそれぞれ殺人の動機がある・・・。

ということで、ここのパーツはこのシリーズ初の三人称形式。
これまではすべてホロヴィッツ自身が語り手でしたが、
この過去の事件では、ホロヴィッツは現場に立ち会ってはいないわけで、
そういうことになります。

 

そして、現在進行中の出来事、
ホロヴィッツが資料をもらって原稿を書き始め、
真相を語ろうとしないホーソーンにイラつく・・・というようなパーツは、
いつものホロヴィッツ視点の一人称となって、
交互に本作の内容が語られて行きます。

終盤、煮詰まったホロヴィッツが現在のリヴァービュー・クロースを訪れるというシーンがあって、
そこで初めて彼は、当時のそこに住んでいた人々の生活を身近なものとして感じるのですが、
それは読み手の私も同様。
なんだかとても感慨深いシーンでした。

思いがけない結末もまた、ナイスです。

 

「死はすぐそばに」アンソニー・ホロヴィッツ 山田蘭訳 創元推理文庫

満足度★★★★★


正体

2024年12月02日 | 映画(さ行)

逃亡を続ける真の目的

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本作は私、WOWOWのドラマを見て、原作も読んでいるので、
とてもなじみ深い作品です。
でもやっぱり、横浜流星版も見てみたくて・・・。

 

一家3人を殺害した凶悪犯で、死刑判決を受けている鏑木慶一(横浜流星)が脱走します。

鏑木は様々な場所で潜伏生活を送り、
様々な人と知り合い、交流を持っていくのですが、
やがて警察の手が迫り間一髪の逃走を繰り返します。

最初の逮捕時から鏑木に向き合っている刑事・又貫(山田孝之)は、
鏑木がそれぞれの場所で出会った人々を取り調べますが・・・。
やがて、彼が必死に逃亡を繰り返す真の目的が明らかになっていきます。

内容を知っているので、いまさら驚きはない・・・と思っていたのですが、
意外にも(?)感動させられてしまいました。

潜伏生活、できるだけめだたないようにしていたいはずの鏑木ですが、
つい人の良さがでてしまい、余計なお世話までしてしまう・・・。
そう、どう見ても彼が殺人犯であるわけがないと、私たちも納得していきます。
逃走先のエピソードは本当はもっと多くて、
その全貌を知りたい方はぜひ原作の方を読んでください。
でも、原作のラストは映画とはちょっと違いますね。
映画の方が好きです!

鏑木が事件で誤認逮捕されたのは17歳のとき。
本作の冒頭では21歳になっています。
そんな彼が終盤でこんな風に言う。

「逃亡生活の中で、初めてお酒を飲んで、友達ができて、好きな人ができて・・・」

通常ならば、青春を謳歌しているはずの年代。
逃亡生活という過酷な状況にありながら、
ごくごくささやかな人らしい幸せを手にできたことを喜んでいるのです。
ちなみに彼は親がいなくて、施設で育ったのですね。

あまりにも幸薄いこれまでの人生が思いやられて、実に切ない。
そして、こんなささやかな体験すらも、
その機会を失わせてしまう「冤罪」というものの恐ろしさ。
あってはならないことです。

WOWOWドラマの亀梨和也さんももちろんよかったのですが、
本作の横浜流星さんも文句なしによかったです。

原作はこちら→「正体」染井為人

 

<シネマフロンティアにて>

「正体」

2024年/日本/120分

監督:藤井道人

原作:染井為人

出演:横浜流星、吉岡里帆、森本慎太郎、山田杏奈、田中哲司、松重豊、山田孝之

冤罪の残酷さ★★★★☆

満足度★★★★.5


バジーノイズ

2024年11月30日 | 映画(は行)

孤独の扉をこじ開けて

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マンションの住み込みの管理人をしている海野清澄(川西拓実)。
自分の頭の中に流れる音楽をPCで形にし、部屋で1人で奏でていました。
人付き合いは苦手で、自分の音楽を人に聴かせようとも思っていません。

ところが、清澄の上階に住む女性・潮(桜田ひより)が、
漏れ聞こえるその音楽を気に入ってしまったのでした。
清澄の拒否もものともせず、清澄の心の扉をこじ開けてやって来た潮。
潮は清澄の演奏動画を何気なくSNSに投稿。
清澄の世界が大きく変わりはじめます。

PCで作り上げる音楽をDTM(デスクトップミュージック)というのですね。
本作で清澄が作り出す音楽、確かに良い感じです。
知らず、体が揺れてくるような。

清澄も以前はとあるバンドに属してはいたのですが、あるできごとがあって、
それ以来ますます自分の世界に閉じこもってしまっていたのでした。

そんな彼の扉をこじ開けたのが潮。
そして、さらなる音楽の仲間もできはじめます。
でも潮自身は音楽を作ることはできない。
潮の前だけでなく、他の人々の前でも笑顔になる清澄を見て、
潮はもう清澄に自分は必要ないと思ってしまうわけで・・・。

あんなに強引に近づいてきたくせに、いざとなると尻込みしてしまう、
乙女チックな潮さんが愛おしい・・・。

軽いノリで見られる音楽青春ストーリー。
川西拓実さんは、JO1のメンバー。
・・・勉強になります。

<Amazon prime videoにて>

「バジーノイズ」

2024年/日本/119分

監督:風間太樹

原作:むつき潤

出演:川西拓実、桜田ひより、井之脇海、柳俊太郎、円井わん、奥野瑛太、佐津川愛美

音楽愛度★★★★☆

満足度★★★☆☆


蝶の眠り

2024年11月29日 | 映画(た行)

最後の愛の行方

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フランスの女流作家マルグリッド・デュラス晩年の恋を描いた、
ジャンヌ・モロー主演の映画「デュラス 愛の最終章」をモチーフにしています。

50代の人気作家松村涼子(中山美穂)は、
自身が遺伝性のアルツハイマーに冒されていることを知ります。
魂の死を迎える前に、小説以外の何かをやり遂げようと、
大学で講師として働き始めることに。
学校近くの居酒屋でバイトをしている韓国人留学生の青年、チャネと出会い、
なりゆきで犬の散歩を頼み、
そしてまた、執筆活動を手伝ってもらうことにします。

そんな中で、次第に惹かれ合っていく2人。
そして、涼子の症状も徐々に進行していきます・・・。

50代といっても、中山美穂さんですものねえ・・・。
恋愛もぜんぜんムリじゃない。
というか、恋しない方がおかしいくらい。

離婚歴のある涼子は、アルツハイマーの診断を受け、
自らの遠くない将来を淡々と受け止めているのです。
まだ、己としての意識がしっかりとあるうちにできることをしよう・・・。
そして、新たな仕事を始めたのと同時に、
予期せぬこととして恋をすることになるのですね。

年下の、異国の青年。
自分の将来を考えれば、今、この刹那の恋でかまわないと彼女は思うでしょう。
でも、青年にとっては・・・?

美しい物語。
大人の恋ですな。

原点がフランスの物語。
そして、日韓合作、ということで、どこか軽く乾いた雰囲気。

これが純国産であれば、もっと情念がこもってドロドロした感じになりそうです。
そうじゃなくてよかった・・・。

<Amazon prime videoにて>

「蝶の眠り」

2017年/日本・韓国/112分

監督・原案・脚本:チョン・ジェウン

出演:中山美穂、キム・ジェウク、石橋杏奈、勝村政信、永瀬正敏

大人の恋愛度★★★★☆

満足度★★★☆☆


「夏のカレー 現代の短編小説ベストコレクション2024」

2024年11月27日 | 本(その他)

それぞれの作家らしい力作揃い

 

 

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浮気を繰り返す男の前世とは?
未来の夢を見る少年とその一家、
インストールされたAI探偵の存在意義は、
貝殻から自分そっくりの人間が生まれたら?
トー横カップルの哀しい道行き、
村の忖度博物館をどうする?
8年前のガラケーに届いたメッセージ
――2023年に発表された短篇から、日本文藝家協会の選考委員が独自にセレクト。
今読まなければもったいない、人気作家たちによるベスト短編集最新版です。

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人気作家による短編集。

著者は・・・・(敬称略)

江國香織、三浦しをん、乙一、澤西祐典、山田詠美、小川哲、
中島京子、荻原浩、原田ひ香り、宮島未奈、武石勝義

それぞれの著者らしさの滲む力作揃いです。

 

三浦しをん「夢見る家族」

特に変わったところもない普通の家族のようでいて・・・
夜音次(よねじ)は、自分の家族は少しヘンだと思うようになる。
母がいつも自分と兄・千夜太の見た夢の内容を聞くのです。
夜音次はよく恐い夢を見るのですが、面倒なので兄にその内容を伝え、
兄から母に兄の見た夢としてその内容を伝える。
母はその夢を予知夢として重要視しており、
兄を夢見の力があると思い込む。
でも、本当にその力があるのは弟の方で・・・

 

萩原浩「ああ美しき忖度の村」

ある村は20年前に「忖度」村という名前になったのですが、
今や「忖度」という言葉に悪いイメージがつくようになってしまった。
そこで、「忖度村イメージ向上委員会」が結成されたが、
村の有力者の意向に従おうという空気感に満ちていて、
会議は一向に進まない・・・。
「忖度」にまつわる皮肉な物語。

まあ確かに、元々「忖度」というのはそう悪い意味ではなかったはずではありますね・・・。

 

宮島未奈「ガラケーレクイエム」

解約したつもりで忘れていたガラケーに、
もと同級生から2年前のメッセージが届いていた・・・。
「渡したいものがあります」と。
さて、今さら2年も前のメールにどう反応すべきなのか・・・? 
特別親しい間柄でもなかったのだけれど・・・。
不思議に過去が立ち上ってきますね。

 

「夏のカレー」現代の短編小説ベストコレクション2024 日本文藝家協会・編 文藝春秋

満足度★★★.5