映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

海の沈黙

2024年11月25日 | 映画(あ行)

本当の美とは

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倉本聰氏が長年にわたり構想したという物語の映画化です。

 

世界的に著名な画家、田村修三(石坂浩二)の展覧会で、
作品の一つが贋作と判明します。
関係者の誰もが本物と信じて疑いすら抱いていなかったものを、
作者である本人がこれは自分が描いたものではない、と表明したのです。

また、北海道小樽では全身に入墨を施した女性の死体が発見されます。

 

この二つの出来事に関係する人物、それが津山竜次(本木雅弘)。

彼は若い頃、新進気鋭の天才画家と称されながら、
ある事件をきっかけに人々の前から姿を消しました。

かつて津山の恋人で、現在は田村の妻である安奈(小泉今日子)は、小樽へ向かい、
2度と会うことはないと思っていた津山と再会を果たします。

画壇を追われるようにして、姿を消していた津山。
彼は画壇に向けた思いをたたきつけるように、これまで絵を描き続けていたのです

すなわち彼が描き続けていたのは、「名画」とされているものの贋作。
それが、贋作とバレないどころが本物を凌駕する「美」を放っている・・・。

絵画における「本物」とはいったい何なのか。
描いた人物なのか、それとも、作品それ自体なのか。
贋作という判定を受けた途端にその絵が放っていた「美」は損なわれてしまうのか・・・? 
そうであれば絵の価値とは一体・・・?

私たちがいかに「権威」とか「金銭的価値」を基準に物事の判断をしているのか、
考えさせられます。

しかしまた、津山はここに至ってようやく、
自分自身の「美」を追求しはじめる。

というのが、テーマの一つ。
そしてもう一つ、サブストーリー的にあるのが大人の愛ですな。

安奈は田村の妻ではありますが、とうに愛情は薄れ現在別居中。
ただ田村が安奈を「妻」の座に縛り付けておきたいが為だけに、
離婚もできないでいるのです。
そんな中、安奈は過去の男、津山が忘れられない・・・。
けれど長く案じていた津山の居所が知れたとしても、
その胸にまっすぐに飛び込んでいけるほどの若さはない。

分別がありすぎる大人というのも、やっかいなものです。

一方、津山の方も彼女への思いを胸底に秘めたまま・・・。
けれど、世捨て人のようなこれまでの彼の人生、
女体への入墨を施すことなども仕事のひとつで、
何やらなまめかしい事情(情事?)もないわけではない。
ふむ。
やはり大人の愛ですな。

倉本聰人気でしょうか、映画館はご年配の方でいっぱいでした。

 

<シネマフロンティアにて>

「海の沈黙」

2024年/日本/112分

監督:若松節朗

原作・脚本:倉本聰

出演:本木雅弘、小泉今日子、清水美砂、仲村トオル、菅野惠、石坂浩二、中井貴一

 

美を考える度★★★★☆

大人の愛度★★★★☆

満足度★★★.5


ゴールドボーイ

2024年11月23日 | 映画(か行)

人間のどこか大切な部分が欠落

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沖縄が舞台でありながら、薄ら寒い殺人ドラマ・・・。
原作はズー・ジンチェン「悪童たち」。

 

財閥の婿養子となった東昇(岡田将生)。
ある時、義理の両親(妻の両親)を断崖から突き落として殺害します。
本作はそれが冒頭シーン。
いきなりの岡田将生さんの悪人役にちょっと焦ります。

さてところが、偶然その現場を3人の少年少女がカメラでとらえてしまいます。
それぞれ複雑な家庭環境にある少年たち。
中でも頭脳明晰な安室朝陽(羽村仁成)が、
東を脅迫して大金を手に入れようと提案します。

少年たちは皆中学生。
中でも朝陽は成績優秀。
素行もよくて周囲の評判もよい。
ところが実は、人間性のどこか大切な部分が欠落しているようなのです。
少し前に、クラスメイトの自殺があったということなのですが・・・。

もうひとりは朝陽の幼馴染みの友人・上間浩。
そして浩の父の後妻の連れ子・上間夏月。
浩はいかにも悪ぶっている少年。
しかし、朝陽と比べると、ほんの不良でしかありません。
義理の妹である夏月とわけあって家出中。

この2人はつまり、朝陽のたくらみの捨て駒なのですが、
当人たちは友情だと信じて疑わない。

・・・とまあ、恐ろしい物語なのですよ。
昇も、あまりにも短絡的な殺人鬼ではありますが、それより一枚上手なのが朝陽。

こういうのはおそらく年齢とは関係ないのだけれど、
何しろ中学生の少年がそんなことを・・・という意外性におののかされてしまうのです。
だから、昇も相手を見くびって油断してしまう・・・。

ヤダヤダ・・・。
後味悪し。

 

<Amazon prime videoにて>

「ゴールドボーイ」

2023年/日本/129分

監督:金子修介

原作:ズー・ジンチェン「悪童たち」

脚本:港岳彦

出演:岡田将生、黒木華、羽村仁成、星乃あんな、前出燿志、北村一輝、江口洋介、松井玲奈

 

ワル度★★★★★

満足度★★★☆☆


ルックバック

2024年11月22日 | 映画(ら行)

京本が本当に目指していた未来

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話題となったアニメですが、劇場では見逃してしまっていました。
この度早くもAmazon prime videoで見られるようになったのには感謝。

小学校の学校新聞に4コマ漫画を連載し、
クラスメイトらから賞賛される4年生の藤野。

先生から同学年、不登校の京本の描いた4コマ漫画を
新聞に載せたいと告げられます。

それまで、自分の絵に自信満々だった藤野は、
京本の画力に打ちのめされ、本気で絵を描くことを学びはじめます。

やがて、正反対の2人の少女は、漫画へのひたむきな思いでつながっていき、
ついに、合作での漫画雑誌デビューを果たします。
けれど、めざす道は異なっていって・・・。

 

道が異なっていくことの先に待ち受けていた運命が、
あまりにもショッキングで、言葉を失います。

はじめちょっと上から目線だった藤野。
ひたすら藤野を敬愛し、彼女についていくことを目指していた引きこもりの京本。
でも京本は、もっと先の未来を見据えて
自分の道を選んでいたということですよね。
彼女にとっては渾身の勇気を振り絞る行為だったはず。

でも、自分がそういう未来を信じれば、
そんなこともできる、ということなのかもしれません。
それなのに・・・。

京本がいたからここまでやって来ることができた・・・。
そう思う藤野が書き換えたかった過去。
本当に、そうだったらよかったですね・・・。

切ない。


<Amazon prime videoにて>

「ルックバック」

2024年/日本/58分

監督・脚本:押山清高

原作:藤本タツキ

出演(声):河合優実、吉田美月喜、斉藤陽一郎

青春度★★★★☆

コンビネーション度★★★★★

満足度★★★★★


「文学キョーダイ!!」奈倉有里 逢坂冬馬

2024年11月20日 | 本(その他)

どういう家庭に育てば、こんな風になれるのか・・・

 

 

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ロシア文学者・奈倉有里と、小説家・逢坂冬馬。

文学界の今をときめく二人は、じつはきょうだいだった!
姉が10代で単身ロシア留学に向かった時、弟は何を思ったか。
その後交差することのなかった二人の人生が、
2021年に不思議な邂逅を果たしたのはなぜか。
予期せぬ戦争、厳しい社会の中で、我々はどう生きるか?

縦横無尽に広がる、知性と理性、やさしさに満ちた対話が一冊の本になりました。

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私、敬愛する奈倉有里さんと、大ヒット作「同志少女よ敵を撃て」の著者・逢坂冬馬さんが
姉弟であると知った時には驚きました。
そして、一体どう育てればこんな立派な子どもたちができあがるのか、
と、つい思ってしまいました。

本巻、そんな下世話な疑問にも答えの出る本となっています。

 

お二人のお父様は、日本史の先生なのですね。
ただ教える人というよりも、現役の研究者。
そして、子どもたちには「好きなことを好きなようにやりなさい」という主義。
出世しなさいみたいなことはまったく言わない。

よく、周りの人からお父さんは「となりのトトロ」の
さつき・メイ姉妹のお父さんに雰囲気がよく似ていると言われたそうで。
なるほど、そういわれると、すごく想像しやすいですね、その感じ。
で、ジブリついでで、このお二人は「耳をすませば」の天沢聖司と月島雫であるという。
つまり、好きなことのために外国へ留学してしまった天沢聖司が奈倉有里さん。
文を書くことが好きで作家になった月島雫が逢坂冬馬さん。
男女逆転しているところがまた、この姉弟っぽい。
お二人の子どもの頃や、その家族、お祖父さまの話など、大変興味深く拝読しました。
・・・まあ、なんにしてもやはり、そこらの家庭とは違うな、とは思います。

 

そして、お二人は特別親しく連絡を取り合うということもなく、
互いの近況は人づてに聞く程度であったにもかかわらず、
2021年、有里さんは初の単著「夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く」を上梓し、
その一ヶ月ほど後に逢坂冬馬さんのデビュー作「同志少女よ、敵を撃て」が出版されたとのこと。

しかも「夕暮れに」は紫式部賞受賞。
「同志少女」はアガサ・クリスティー賞および本屋大賞受賞。
なんというタイミング! 
スバラシイですね。

 

そして、最終章ではうんと話は深まって「戦争」についてが語られて行きます。
ロシア文学を研究する有里さんにとっては、戦争は避けては通れないし、
逢坂さんの「同志少女」も、そのものズバリ、戦争の話ですものね。

この日本もまた、ある種の国民の思想統制的な流れが現在進行形である
・・・というあたりも一読に値するのではないでしょうか。

 

対談中、有里さんが弟を逢坂さん、逢坂さんは姉を「有里先生」と呼んでいるのが、
いかにも互いを尊重していることがうかがわれて、ステキでした。

 

<図書館蔵書にて>

「文学キョーダイ!!」奈倉有里 逢坂冬馬 文藝春秋

満足度★★★★★


グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声

2024年11月18日 | 映画(か行)

年月を経たからこその

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大ヒット作「グラディエーター」の、24年ぶりとなる続編。
私、つい最近「グラディエーター」は見直していて、予習はバッチリでした。

冒頭、舞台は北アフリカ。
将軍アカシウス(ペドロ・パスカル)率いるローマ帝国軍の侵攻により
敗れ、愛する妻を殺され、奴隷の身となったルシアス(ポール・メスカル)。
すべてを失った今、アカシウスへの復習を心に誓っています。

そんな時彼は、奴隷商人アクリヌス(デンゼル・ワシントン)と出会う。
アクリヌスは、ルシアスの中で燃えさかる怒りに目を付け、
彼を有望株の剣闘士(グラディエーター)として、ローマへ移送します。
そしてルシアスは、コロセウムでの戦いに挑んでいく。

さて、ルシアスは作中の半ばほどまでルシアスとは名乗らず、
別の名を名乗っています。

ネタばらしとなってしまいますが、これは本作の解説サイトなどでも言ってしまっているので、
ここでも、お許しを・・・。

つまりルシアスというのは、先々代の皇帝の娘にして、先代の皇帝の姉である
ルッシラの息子なのです。
今の皇帝は狂気の独裁者である双子の兄弟。
ルッシラは、この2人に必ずや命を狙われることになるであろう息子を逃し、
以後、行方も分らなくなっていたのでした。

ところが、なんとなんと、このルシアスは、
前作のヒーローであるマキシマスの息子であるというのです。
うそ~、と思いますが、前作でマキシマスとルッシラが
以前ただならぬ関係だったらしいとは誰もが感じるような作りになっていましたし、
一度だけ獄中にあるマキシマスと少年ルシアスの対面シーンは
妙に意味ありげで印象的な場面となっていました・・・。
実は親子であると、そうした含みがあったことを24年後の今知るなんて・・・。
恐るべし。

というように、本作、単に二番煎じではなくて、
年月の流れを経たことにこそ意義があるのです。
ルシアスは、他のいかにも筋骨隆々の戦士たちに比べるとやや小柄ではあるけれど、
あのマキシマスの血を引いているとなればその剣闘センスに納得なのです。
実の母との対面とか・・・エモい、エモすぎます。

そして、前作でもそうだったけれど、「独裁政治」の恐ろしさは、さらにスケールアップ。
トップがどれだけ横暴でバカであっても、
周囲の重鎮は我が身のかわいさで異論を挟むことをしない。
すべてが皇帝の意のまま・・・。

本作はこうした独裁政治の恐ろしさも強く訴えていると思います。
現在、大国のトップがいつこんな風に豹変するとも限らない恐怖・・・。
(いえ、豹変ではなくて、すでにそうなのでは? R国だけでなくA国も)

 

そして戦闘シーンの迫力も、スケールアップしています。
殺人ヒヒとか、巨大なサイとか・・・。
コワイコワイ。
あげくに、コロセウム内に水をたたえての、海戦シーン。
周囲には巨大なサメがうようよって、きゃー、しんどい。

結果、マキシマムがいてこその本作。
もちろん本作だけでも十分に楽しめるのですが、
前作と引き続き見たほうが、感慨もひとしおです。
ぜひ、「グラディエーター」を見てからこちらをご覧ください。

 

<シネマフロンティアにて>

「グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声」

2024年/アメリカ/148分

監督:リドリー・スコット

出演:ポール・メスカル、ペドロ・パスカル、ジョセフ・クイン、
   フレッド・ヘッキンジャー、コニー・ニールセン、デンゼル・ワシントン

迫力度★★★★★

残酷度★★★★☆

満足度★★★★★